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ビジネス慣行が環境・社会・ガバナンス(ESG)に与える影響に、より大きな関心が向けられるようになっています。これを受け、世界中で企業が負う説明責任の基準が厳格化しています。そしてアジアも徐々に、しかし着実に世界との差を縮めています。

インド

環境・社会・ガバナンス(ESG)は、責任ある行動と同義です。インドでは、かねてからESGのエッセンスと認識は存在したものの、規制は断片的で、さまざまな法律にまたがっていました。

ESG関連の報告義務ができ、ESGは現在、集中的で統一された規制の枠組みのもとにあります。ESGは、企業の成長、収益力、価値を測る上で、そのサステイナビリティ、倫理、責任指数との直接的な関係を正式に確立しました。

ESG のパフォーマンスを規制することによるすべての影響はまだ見えていませんが、そのインパクトは企業の価値と信頼性の評価において明白です。

規制の更新

Radhika M Dudhat, Shardul Amarchand Mangaldas & Co
Radhika M Dudhat
パートナー
Shardul Amarchand Mangaldas & Co
(ムンバイ)
電話: + 91 98 2012 3166
Eメール: radhika.dudhat@amsshardul.com

インド証券取引委員会 (SEBI) は2021年、従来の「事業責任報告」(BRR) に代わる新たな報告様式として、「事業責任とサステイナビリティ報告」(BRSR) を制定しました。

2015年SEBI規則第34(2)(f)(上場義務と開示要件)により、インドの上場企業上位1000社(時価総額ベース)には、BRSR の枠組みへの準拠が義務付けられています。それらの企業は、SEBIが随時発行するガイドラインに従って、要求された情報を所定の書式で提出しなくてはなりません。

またSEBIは最近、「事業責任とサステイナビリティ報告のコア」(BRSRコア)と題する斬新なESG報告の枠組みを導入し、BRSRの重要な要素を明らかにするとともに、ESG報告の具体的なパラメータを設定しました。情報開示は、時間の経過とともに透明性と説明責任を生み出し、規制当局、投資家、資金の貸手、利害関係者らに、企業に関するより深い洞察をもたらします。

その他の上場企業、すなわち中小企業(SME)向け取引所に特定の有価証券を上場している企業やSME取引所などは、場合によって自主的にBRSRを提出、または自主的に自社もしくは自社のバリューチェーンについてBRSRコアの枠組みに準拠しているという保証を得ることができます。

BRSRは現在、一般的な開示(必須)、マネジメントとプロセスの開示(必須)、原則ごとの実績開示の三つに分かれており、さらに必須(必須)の指標とリーダーシップ(任意)の指標に分別されています。

必須指標は、BRSRの提出を義務付けられているすべての企業が開示することになっていますが、リーダーシップ指標は、環境、社会、倫理に責任ある企業となることを目指し、より高いレベルへの進歩を目指す企業が自主的に開示することができます。

さらに、BRSRで求められる主な情報開示には、以下のようなものがあります。

  • 企業のESGに関する重要なリスクと機会、そのようなリスクを軽減またはそれらに適応するためのアプローチ、および財務的影響の概要
  • サステイナビリティに関するゴール、ターゲット、実績
  • 資源消費の使用量(エネルギーと水)、大気汚染物質排出量、温室効果ガス排出量、廃棄物発生量とその管理方法、循環型経済への移行、生物多様性など、さまざまな側面を含む環境関連開示
  • 障害のある従業員への対応を含む性別および社会的な多様性、離職率、出産および育児手当、正社員および契約社員または契約労働者に対する福利厚生、安全衛生研修など、従業員、地域社会および消費者を対象とする社会的開示。社会的影響の評価、社会復帰と再定住、企業の社会的責任に関する開示、製品表示、製品回収、データプライバシーとサイバーセキュリティに関する消費者からの苦情に関する開示

国際的に認められている報告の枠組み(the Global Reporting Initiative, the Sustainability Accounting Standards Board, the Task Force on Climate-related Financial Disclosures または the International Integrated Reporting Council など)に基づいてサステイナビリティ報告を作成・開示している上場企業は、それらの枠組みのもとで行う開示と、BRSR 報告の枠組みで求められる開示を相互参照することができます。

SEBIはESG諮問委員会を設置し、ESG関連事項の戦略的アドバイスを支援しており、また最近、1999年インド証券取引委員会(信用格付機関)規則(CRA規則)のもとで、ESG格付プロバイダー(ERP)に関する独立した章を設けて通達しました。

この CRA(信用格付機関)規則により、ERPにはSEBIへの登録が義務付けられるようになりました。既存の格付プロバイダーがESG分野の格付を提供している場合は、CRA規則の施行日から6カ月間またはSEBIが指定するその他の期間中、ESG分野の格付業務を継続することができます。

SEBIによる証明書の付与またはSEBIへの登録には、ERPが一定の厳しい基準を満たす必要があります。

実際のリストには以下の条件が含まれています。2013年会社法上の会社であること、ESG格付活動を主目的とすることを会社定款に明記していること、SEBIに登録された信用格付機関や他の仲介業者でないこと、SEBIが満足するコンプライアンス・オフィサーの任命および有能な技術専門家の雇用をしていること、CRA規則に規定された黒字の純資産を維持していること、登録申請から過去3年間にSEBIより証明書の発行を拒否されたり、適切でないと判断されたり、1992年インド証券取引委員会法の規則や規制に違反したとして強制措置の対象となったりしたことがなく、かつ証明書を付与することが投資家の利益になること。

すべてのERPは、SEBIが随時要求する可能性のあるすべての文書または情報を、少なくとも5年間保管し維持する必要があります。それらは、CRA規則に規定されている、顧客帳簿、記録、契約書、顧客との連絡記録、顧客のESGメモは、CRA規則およびESG監査報告書などを含みますが、それに限定されるものではありません。

さらに、ERPはCRA規則第7付則に定める行動規範を守り、十分なレベルの機密性と透明性を確保し、ERP格付の提供中の利益相反を防止することが求められます。

サステイナビリティ投資

サステイナビリティ投資への投資家の注目が高まっており、サステイナブル・ファンドの総資産や資金流入の増加は、それを反映している可能性があります。ESGをテーマにしたファンドも、インドにおいて急速に勢いを増しており、サステイナビリティ投資への集中と意欲が高まっていることを示しています。

また、インド準備銀行は2023年5月3日に、全面的にサステイナブルな成長と炭素排出量削減にフォーカスした、「よりクリーンで環境に優しいインドを目指して」と題する報告書を発表しました。この報告書は、気候変動の四つの重要な側面、すなわち気候変動の前例のない規模とペース、マクロ経済への影響、金融安定性への影響、そして気候変動リスクを軽減するための戦略を取り上げています。

現在、投資家はインパクト投資という選択肢を選ぼうとしており、これに呼応して規制当局も、グリーン・クレジット・プログラム実施規則案や、グリーン投資信託など、新しく革新的な戦略を策定・導入しています。

政府や規制当局はESGを活用するにあたって、ステークホルダーに富をもたらすだけではなく、野放図な成長によって影響を受ける非ステークホルダーの人々の利益を守ることにもフォーカスした、責任ある活動を積極的に実施しています。地球と人々と利益に対する企業の責任は、今やあらゆる企業の成長ストーリーにとって明確な要件なのです。

変化の波

成長の影響を監視し、説明責任を果たすことは、明らかにSEBIの命題です。そのため、ESGの枠組みは、サステイナビリティ報告を財務報告と同等にすることを目指しています。

ESGは急速に、組織の価値創造に不可欠な要素となりつつあるのです。しかし、それには特有の意思、努力、手段が必要です。それはESGの本質、適用される規制の枠組み、格付け基準、業界の動向について必要な理解を得るために、すべての利害関係者を教育することです。

ESGの実際のインパクトは、それが精神に植え付けられた時に見えるものです。それは財務諸表に表れるもの以上の価値を、組織にもたらします。ESGのニュアンスを、法律や財務の字面以上のレベルで理解することは、組織のサステイナビリティの側面について洞察を得る鍵になります。

BRSRとESG格付基準を設けたことを通して、SEBIはインド企業に対し、サステイナビリティ体制のもとでの要件を満たすための組織構造をつくり、組織内慣行を採用するよう促しました。今こそ、一歩引いて情報開示の重要性、内部基準、プロセス、リスク管理能力を理解する時です。予測し難い出来事、リスク、混乱に対応する組織の能力は、その逆境指数に依存します。組織のESG 指数は、逆境指数の本質的な一面を成しているのです。

したがって、ESG 指数はあらゆる組織の責任ある行動の重要な尺度であり、インドの規制当局は、ESG 指数を高めることだけではなく、ステークホルダーがESG 指数の高い企業やプロジェクトに投融資するよう奨励して、その重要性を高めようとしています。

やがて、私たちはESG体制の影響を目の当たりにすることになるでしょうが、すでにインド企業のDNAやその意識に変化の波が押し寄せていることがわかります。

Shardul Amarchand Mangaldas & Co

Express Towers, 23/F, Nariman Point

Mumbai, Maharashtra – 400 021, India

Executive Chairman:
Shardul Shroff

Managing Partners:
Pallavi Shroff and Akshay Chudasama

電話: +91 22 4933 5555
Eメール:Connect@AMSShardul.com

www.amsshardul.com


インドネシア

インドネシアにおける環境・社会・ガバナンス (ESG) の開示要件は、主として上場企業や金融機関に適用され、インドネシア金融庁 (Otoritas Jasa Keuangan, または OJK) の監督下にあります。

天然資源セクターの非上場企業のみが、企業の社会・環境計画の作成を義務付けられています。その他の非上場企業はすべて、企業の社会的・環境的責任プログラム実施に関する情報を、年次報告書に記載することのみ義務付けられています。

上場企業および金融サービス機関

Denny Rahmansyah
Denny Rahmansyah
パートナー
SSEK Law Firm (ジャカルタ)
Eメール: dennyrahmansyah@ssek.com

上場企業と金融機関については、OJK規則第51号(2017年)およびOJK通達第16号(2021年)により、ESG開示義務が課されています。

「金融サービス機関、株式発行体(インドネシア語でEmiten)および上場企業のためのサステイナブル・ファイナンスの実施」に関する OJK規則第51号(2017年)は、一般的に金融機関や上場企業にサステイナブルな金融を実施する義務を課しています。

これは、企業の年次報告書の一部または独立した報告書として、OJKにサステイナビリティ報告書を毎年提出することを義務付けたものです。

「株式発行体 (Emiten) および上場企業の年次報告書の様式と内容」に関する OJK通達第16号(2021年)は、上場企業の年次報告書におけるESG開示の形式と内容を、指令によって規定しています。

年次報告書は、会社概要の章に、サステイナブル・ファイナンスに関連する業界団体(国内または国際的)の一覧が記載されていなくてはなりません。年次報告書にはまた、社会的・環境的責任の一環として会社がとった行動も開示する義務があります。

この開示は、 OJK規則第51号(2017年)が規定するサステイナビリティ報告であり、少なくとも以下の情報を記載しなくてはなりません:

  • サステイナブルな戦略
  • サステイナビリティの努力(経済、社会および環境)の概要
  • 簡潔な会社概要
  • 取締役会によるメッセージ
  • サステイナブルな企業統治
  • サステイナブルな活動実績
  • 独立した第三者による当該報告書とその情報に関する書面による検証(もし有れば)
  • 読者からのフィードバック(もし有れば)
  • 前年度の報告書にあるフィードバックに対する会社の対応

これらのサステイナビリティ報告要件を遵守しなかった場合、上場企業または金融機関はOJKからの叱責または書面による警告という行政処分を受けます。

上記のOJK規則および通達に基づく要件は、国際基準に基づいたものではありません。しかし、実際には一部の企業がそのESG報告において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)のような国際基準を参照し、義務ではないにもかかわらず、インドネシア法の要求を超える報告を行っています。

OJK通達第16号(2021年)は、当該通達で義務付けられている最低限の開示とは別に、企業は必要かつ望ましい場合には国際基準を参照することもできる、とのみ言及しています。しかしながら、今のところ特定の国際基準を導入する具体的計画はありません。

非上場企業

Aldilla Stephanie Suwana, SSEK Law Firm
Aldilla Stephanie Suwana
シニア・アソシエイト
SSEK Law Firm (ジャカルタ)
Eメール: aldillasuwana@ssek.com

天然資源を利用する非上場企業は、「企業の社会的・環境的責任」に関する政府規則第47号(2012年)に基づいて、企業の社会的・環境的責任計画を作成しなくてはなりません。

それ以外の非上場企業は、有限責任会社法第40号(2007年)〔法律第6号(2023年)により改正(会社法)〕に基づいて規制されています。それは、年次報告書の一部として、環境および社会的責任実施報告書を作成する一般的な義務を指示するものです。

会社法および政府規則第47号(2012年)に基づく指令は非常に一般的なものであり、実施報告書の基準や書式、どのような情報を記載しなくてはならないかについて、詳しく説明されていません。

インドネシアはサステイナブルな開発と責任あるビジネス慣行を促進させる措置を講じてはきましたが、ESGコンプライアンスに関する規制の枠組みはまだ発展途上です。具体的なガイドラインや基準が存在しないため、企業がESG報告書や実績に対する期待度や要件を判断することを、難しくしている可能性があります。

規制の体制が発展途上であること以外に、企業には次のような課題があります。データの利用可能性とその質、人材の専門知識と能力(特に明確なESG実践基準がない場合)、そして金融へのアクセス、すなわちグリーン・プロジェクトには十分なバンカビリティの前例がないため、従来の金融機関からの支援を得ることが難しく、グリーン・プロジェクトの立ち上げと運営を全体的に難しくしています。

最後に、ESG情報開示に関する明確な義務規定がないことも、非上場企業がESGコンプライアンスに関して直面する課題です。

気候目標

Albertus Jonathan Sukardi, SSEK Law Firm
Albertus Jonathan Sukardi
アソシエイト
SSEK Law Firm (ジャカルタ)
Eメール: albertussukardi@ssek.com

上場企業も非上場企業も、排出量削減やエネルギー転換といった気候変動に関する目標を独自に設定し、達成する義務はありません。それにも関わらず、全企業がサステイナビリティ志向の戦略を、サステイナビリティ報告書で開示しなくてはならないのです。

しかし独自に設定する目標とは別に、特定の業種の企業は、結局のところ政府が定めた排出量の上限を課せられることになります。これは、インドネシアが導入を計画している炭素排出量取引制度のキャップ・アンド・トレードおよび/またはキャップ・アンド・タックスという方式に関連しています。例えば、エネルギー・鉱物資源省は、石炭火力発電所に対して排出量上限技術承認を発行する計画です。この排出量上限の対象となる企業は、自社の温室効果ガス排出量が政府決定の上限を超えないことを確保しなくてはなりません。

これを遵守しない企業は、炭素税(まだ導入されていない)に直面するか、過剰排出量を相殺するために他社から排出量削減クレジットを購入する必要に迫られます。

排出量上限以外には、気候関連の目標の設定、達成、開示を企業に義務付けるものはありません。

脱炭素

インドネシアは、「通常通り」のCO2排出量に比べて、無条件で31.89%、条件付きで43.2%の削減を目標にしています。

この目標は、同国が強化した「国家的決定貢献」(NDC) の一環です。それは、「低炭素・気候レジリエンスに向けた長期戦略2050」に沿った第2期NDCへの移行であり、2060年またはそれ以前にネットゼロ排出を達成するというビジョンです。

温室効果ガス排出量目標を達成するため、政府は、炭素取引市場の設立を目指して規制とインフラ整備に取り組んでおり、コンプライアンス炭素市場と自主的炭素市場の双方を意図しています。コンプライアンス炭素市場は、当初は石炭火力発電所に限定され、2025年以降は他の種類の発電所にも拡大される予定です。

予想される炭素取引所は、炭素取引を実施する上で必要な規則を作成する義務のあるOJKによって認可されます。要約すると、現在考えられている炭素取引所は、以下のようなシステムになります。

  • 炭素取引を規制
  • カーボンユニットの所有権を記録
  • 炭素取引のインフラを開発
  • 炭素取引から得られる国の歳入を規制
  • 炭素取引の管理と監督

OJKが炭素取引所の実施のために、ロジスティクスとインフラを整備する中、石炭火力発電所に対する炭素税の賦課は、当初2022年4月1日までに発効する予定でしたが、現在は2025年に導入される予定となりました。他の排出セクターも炭素税の対象となりますが、政府はまだ具体的な対象業種を決定していません。

インドネシア環境・林業省と、非国内の炭素クレジット認証機関との間の相互承認協定やそのメカニズムは、現在も最終調整中であり、非国内の認証機関が発行した炭素クレジットを使った国際炭素取引は、あらゆる意図と目的において、禁止されています。

グリーンウォッシング

グリーンウォッシングは、法的概念としてまだ認識されておらず、インドネシアにはこれに対処する法律はありません。せいぜいは、民事または刑事責任のもとで、グリーンウォッシングに相当する可能性のある行為を行っている当事者に、損害賠償を請求したり、調査を開始したりするための根拠となる程度でしょう。

そうした根拠として考えられるのは、取締役の受託者責任違反、虚偽表示に対する不法行為による請求、および(資本市場法に基づく資本市場関連詐欺であれ、刑法に基づく一般的な詐欺規定であれ)詐欺に関する刑事規定などです。

これまで、グリーンウォッシングに関する法的手続や措置の例はなく、重要なグリーンウォッシングのクレームもありません。いずれにせよ、報告要件がより厳格になり、サステイナビリティに対する危機感が高まるにつれ、社会的監視の目が厳しくなって、企業(特に上場企業や金融機関)に対する賠償請求のリスクは高まると予想されます。

SSEK Law Firm

SSEK Law Firm

14/F Mayapada Tower I

Jl. Jend. Sudirman Kav. 28

Jakarta, 12920 Indonesia

電話: +62 21 2953 2000, 521 2038
Eメール: ssek@ssek.com

www.ssek.com


日本

近年、金融・投資の世界では、環境・社会・ガバナンス(ESG)に対する規制の重要性が高まっています。日本においても、政府や金融業界が持続可能性と社会的責任の推進に取り組むなか、このような規制の整備に向けて機運が高まっています。

日本では、環境問題への対応、社会福祉の向上、コーポレート・ガバナンスの強化を目的として、種々の規制や取り組みが導入されてきました。本稿では日本のESG規制を概説します。

気候変動

Takatsugu Kitajima, TMI Associates in Tokyo
北島隆次
パートナー
TMI総合法律事務所
東京
Eメール: takatsugu_kitajima@tmi.gr.jp

「地球温暖化対策の推進に関する法律」では、一定量以上の温室効果ガスを排出する事業者(特定排出者)に対し、同法第26条に従い、事業年度ごとに温室効果ガスの排出量を算定し、主務大臣に報告する義務が課されています。

特定排出者には、温室効果ガスプロトコルのスコープ1およびスコープ2の報告要件と同様の、直接・間接排出に関する報告が求められます。同法第29条には、報告

された情報は環境省と経済産業省を通じて集計・公表され、企業とそのすべての事業所からの排出が対象になると規定されています。報告を怠った企業や虚偽の報告をした企業は罰金や過料を科されます(第75条、第73条)。

特定排出者は、その事業所の排出量情報を公表することにより、その権利、競争上の地位またはその他の正当な利益が害されるおそれがあると考える場合には、公表を差し控えるよう要請することができます(第27条)。

さらに、エネルギーの使用の合理化に関する法律第25条では、工場を有し、一定量のエネルギーを使用する事業者(特定事業者)に対し、エネルギー使用の合理化および非化石エネルギーへの転換の目標達成に向けて中長期計画の作成を義務付けています。また、同法第16条では、特定事業者に対して、当該事業の主務大臣にエネルギーの使用状況に関して定期的に報告するよう義務付けています。主務大臣は、特定事業者の取り組みが著しく不十分であると認めるときは、特定事業者に対し、助言または指示を行うことができます。特定事業者が指示に従わない場合、主務大臣はその事実を公表することができます(第17条、第18条)。

政府は、自動車、家電製品、建材などの製造業者に対し、その製品のエネルギー消費効率目標を達成するよう求めることができ、効率改善が不十分な場合には勧告を行うことができます(第149条、第150条)。

再生可能エネルギーの環境価値は証書の形で取引されており、日本には、J-クレジット(再生可能エネルギーに由来する場合)、グリーン電力証書、非化石証書の3種類の証書があります。これらの証書は、企業の電力購入契約において、また、再生可能エネルギー100%、カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト、前述の法定報告制度などのさまざまな報告制度で使用されています。また、2023年4月には、日本が主導するGX(グリーントランスフォーメーション)リーグにおいて、新たな排出量取引制度が始まりました。

廃棄物管理

Kentaro Toda
戸田謙太郎
パートナー
TMI総合法律事務所
東京
Eメール: kentaro_toda@tmi.gr.jp

廃棄物処理法第14条では、廃棄物の収集、運搬、処分を事業として行う企業に対し、都道府県知事の許可の取得を義務付けています。企業がこのような業務を許可なく行った場合、刑事責任を問われる可能性があります(第25条)。企業が自社の産業廃棄物を処分する場合、自社で処分するか、許可を受けた業者に委託しなければなりません(第12条)。

企業が許可を取得していない業者に廃棄物管理業務を委託した場合、罰則が適用されます(第26条)。同法第12条には、廃棄物の処分に関する詳細な処理基準や委託基準、管理票制度による廃棄物の最終処分までのプロセス管理の方法なども規定されています。

資源有効利用促進法では、特にリデュース・リユース・リサイクル(3R)に取り組む必要がある10業種・69品目が指定されており、製品の製造・設計・表示の各段階で事業者が自主的に取り組むべき3R対策の具体的内容が示されています。

さらに、他にも、容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律、特定家庭用機器再商品化法、使用済小型電子機器等の再資源化の促進に関する法律、使用済自動車の再資源化等に関する法律、建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律、食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律などのリサイクル法が、個々の物品の性質に応じて適用されます。

社会的側面

Shuhei Kubota
久保田修平
アソシエイト
TMI総合法律事務所
東京
Eメール: shuhei_kubota@tmi.gr.jp

ビジネスと人権の問題に関して、日本政府は2020年10月、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、ビジネスと人権に関して日本独自の行動計画を策定しました。日本ではこれまでに、ビジネスと人権、あるいは人権デューデリジェンスに関する法律が制定されたことはありません。しかし、日本がG7サミットの議長国となることを受け、今年4月、政府が人権デューデリジェンスに関する法令の制定に向けて政府内で検討を始めると報じられました。議論が開始されてからまだ間がないので、法案の内容の詳細はまだ明らかになっていません。

日本政府は、2021年11月に公表された「日本企業のサプライチェーンにおける人権に関する取組状況のアンケート調査」の結果を踏まえ、2022年9月に「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン」を策定しました。本ガイドラインは、日本企業がサプライチェーンにおいて人権デューデリジェンスを実施する際に活用できる参考資料として策定されました。

さらに、政府は今年4月、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」を公表しました。これには、ガイドラインに沿って取組みを行う企業が最初に検討する人権方針の策定や人権への負の影響の特定・評価について、詳細な解説や事例が記載されています。

企業が事業活動を行う際には、従業員、サプライヤー、顧客、地域社会の人々を含むステークホルダーの種々の権利に配慮する必要があります。伝統的に、日本企業は従業員の権利の保護に重点を置いてきました。しかし今日の企業は、自社の従業員にとどまらず、サプライチェーンに含まれる企業の従業員の権利についても考慮しなければなりません。

日本では、労働基準法が雇用と労働関係について規定しています。労働基準法は労働者の労働条件に関する規則を定めており、なかでも児童労働や強制労働による問題の予防のための規定がおかれています。

日本ではマイノリティの権利に関しても進展がみられます。性的少数者に対する差別を解消することを目的とする新法案が、直近の国会で可決されました。同法案は、LGBTへの理解を深め、LGBTコミュニティについての理解を社会に広めることを通じて差別を解消することを目的としています。

ガバナンスと情報開示

東京証券取引所が策定したコーポレートガバナンス・コード(CG コード)では、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則が示されています。CGコードでは、上場企業に、同コードの原則に関連した取組みや活動について説明するよう求めています。それには、持続可能性を巡る課題への適切な対応、持続可能性についての取組みの開示(特にプライム市場上場会社)、「気候関連財務情報開示タスクフォース」またはそれと同等の枠組みに基づく開示などが含まれます。

また、「企業内容等の開示に関する内閣府令」が1月31日に施行され、本年より、有価証券届出書または有価証券報告書の提出義務のある企業に対し、男女間賃金格差、女性管理職比率、男性の育児休業取得率に関する情報を含む人的資本や多様性についての情報を他の法令に基づき公表する場合には、これらの情報を有価証券報告書等で開示することが義務付けられています。

TMI Associates

TMI Associates
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6-10-1 Roppongi, Minato-ku
Tokyo 106 6123, Japan
電話: +81 3 6438 5511

Eメール: info@tmi.gr.jp
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シンガポール

環境・社会・ガバナンス(ESG)基準は、各国の規制当局がその目標達成と、グリーンウォッシングのような望ましくない慣行の増加を防ぐことを目指して、適切なガイドラインを自国に備えるにつれて、地域的にも国際的にも急速に重要視されてきています。

シンガポールでは、世界的なトレンドやベストプラクティスを踏まえて、近年さまざまな進展があり、今後もさらなる動きが予期されています。

開示要件とグリーン・ファイナンス

Tan Weiyi
Tan Weiyi
パートナー
Clyde & Co (シンガポール)
電話: +65 6544 6532
Eメール: weiyi.tan@clydeco.com

シンガポール証券取引所(SGX)は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言を受けて、すべての発行体に対して2022会計年度からサステイナビリティ報告に気候関連の報告を記載することを義務付けました。

初めは、気候関連報告は「遵守するか、説明するか」を基準としており、社会的・環境的影響や実績の開示を拒否する企業には説明を求めます。しかし、特定の業種の発行体に対しては、2023年度および2024年度から気候関連報告を義務付けることになります。

SGXは、TCFDの勧告に基づき、気候関連報告の義務化について、業種別の段階的アプローチを導入しました。気候関連リスクが最も高い特定のセクターの発行体には、気候関連報告を義務化する緊急性が高いことから、それを考慮して業種に優先順位が付けられています。

2023年度には、金融業界、農業・食品・林産物業界、およびエネルギー業界の発行体に気候関連報告が義務付けられます。2024年度には、報告義務が素材、建築、運輸業界に拡大されます。

昨年7月、シンガポール金融管理局(MAS)が「リテールESGファンドの開示・報告ガイドライン」に関する通達を発表しました。これにより、2023年1月1日以降、ESG 表示付きで販売されるリテールファンドについて、投資のESGフォーカス、関連する基準、方法または指標、およびサステイナブル投資戦略を明らかにすることが、ファンドマネージャーに義務付けられました。これは、企業が環境に適合していると顧客に納得させようとする欺瞞的行為、グリーンウォッシングに対処するものです。

このガイドラインは、ESGファンドの名称が誤解を招くようであってはならず、投資ポートフォリオや投資戦略がサステイナビリティへのフォーカスを反映していなくてはならないと定めています。ファンドは、純資産額の少なくとも3分の2がESG投資戦略に従って投資されることを確保しなければなりません。

これとは別に、MASが設立した「グリーン・ファイナンス業界タスクフォース」(GFIT)は、シンガポールを拠点とする金融機関に対して、グリーンまたはグリーンへの移行と考えられる活動を特定するための分類システム、または分類法を提案しています。移行活動も対象とすることによって、より高いサステイナビリティへと段階的に進むことができ、出発点を考慮して包括的な経済・社会の発展を支援することができます。

GFITは、2023年2月に第3回の諮問書を発表し、農林業または土地利用、資本財、廃棄物と水、情報・通信技術、および炭素の分離回収の5分野における、グリーン活動、並びにその移行活動の分類に関して、その具体的な基準値や要件について意見を募りました。

とりわけ、この諮問書は「Do No Significant Harm〔(環境目的のいずれにも)著しい害を与えない〕」という基準についてのフィードバックを求めました。その意味は、気候変動の緩和に大きく貢献する活動を行う場合でも、それが他の四つの環境目的、すなわち気候変動への適応、健全な生態系と生物多様性の保護、資源の回復力と循環型経済、そして汚染の防止・制御に対して、悪影響を与えるような方法で行うべきではないということです。

2023年6月28日、GFIT は第4回かつ最終の諮問書を発表しました。それは「シンガポール-アジア・タクソノミー」の分類による、石炭火力発電所の早期段階的廃止の基準値と基準に関するものです。この基準は、2023年7月28日の最終協議終了後に最終決定され、使用開始されます。

2022年5月に発表されたMASの「環境リスク管理インフォメーション・ペーパー」は、保険会社、銀行、資産運用会社が環境リスクを管理するために行っているベストプラクティスを紹介し、さらなる取組みが必要な分野を強調して示しています。この文書はまた、リスク評価手法の開発、サステイナブル・ファイナンスの人材発掘、金融機関がグループレベルでの方針や手続きの策定を親会社に依存している場合、特に金融機関の本社がシンガポール国外にある場合のリスク管理手法の確立など、金融機関が課題に直面している様々な分野を指摘しています。

グリーンウォッシング

シンガポールでは、消費者保護(公正取引)法(CPFTA)が、グリーンウォッシングに関連するものを含む欺瞞的な主張から消費者を保護しています。さらに、シンガポール広告基準局(ASAS)は、広告主がその主張に正確かつ十分な裏付けを取るよう、「シンガポール広告規範」(SCAP)に基づくガイドラインを発行しました。CPFTAに基づく保護の範囲は、MASが規制する金融商品や金融サービスにも及び、ESG関連の目的を満たすと称する様々な商品に同法の適用範囲が広がっています。

不実表示法は、消費者が不実表示の結果として商取引を行ったと考える場合、商業者に対して損害賠償を求めることができると定めています。しかし、同法が対象とするのは契約上の合意に起因する損害のみであり、グリーンウォッシングの事例は契約関係の中で発生したものに限定されません。

誤解を招くような、あるいはグリーンウォッシュとみなされるような主張をするサプライヤーに遭遇した消費者は、シンガポール消費者協会に支援を求めることができます。深刻な場合、サプライヤーはシンガポール競争・消費者委員会 (CCCS) に報告され、さらなる調査の対象となることもあります。

SCAP(シンガポール広告規範)に関しては、ASAS はSCAP に違反した広告に制裁を科すことができます。

基本的に、シンガポールの国家環境庁(NEA)が、クリーンでサステイナブルな環境を維持する第一の責任を有し、サステイナビリティと資源効率性を促進する責任を負っています。NEA は2019年1月に公布された、シンガポールの炭素税規制「カーボンプライシング法」の監督も行っています。同法に付随する規則は現在改正中であり、詳細は追って発表され、すべての改正は2024年1月から発効します。

他国における進展状況

英国では、金融行動監視機構(FCA)が2022年10月に、投資商品の持続可能性表示や、「ESG」「グリーン」「サステイナブル」といった用語の使用制限を含む、グリーンウォッシングを取り締まる新たな措置を提案しました。これらの措置は、消費者を保護し、サステイナブルな投資商品に対する信頼を確立し、誠実さを促進し、ESG表示付き商品とそれを支えるエコシステムに対する信頼を確立することを意図しています。

FCAは、企業がその主張を実証するための適格基準を設けました。それにより、企業が消費者に十分な情報を提供し、消費者が十分な情報に基づいた選択ができるようにするためです。FCAはまた、すべての規制対象企業に適用される一般的な「反グリーンウォッシング」規則の導入も計画しており、サステイナビリティに関連する主張が「明確、公正かつ誤解を招かない」ものであることを、求めることにしています。

カナダでは、グリーンウォッシングは違法であり、競争局はグリーンウォッシングの主張を調査し、競争法、消費者包装表示法、繊維表示法などの適用法の遵守を確保する責任を負っています。

グリーンウォッシングに対する罰則は厳しいものです。一例としては、2022年1月、飲料会社のキューリグ・カナダは、同社のコーヒーポッド、Kカップのリサイクルの可能性について、誤解を招くような主張をしたとして、競争委員会から300万カナダドル(220万米ドル)の罰金を科されました。グリーンウォッシングなどの欺瞞的行為に関与していると疑われる企業の従業員は、それを競争局に報告することができます。内部告発者の守秘義務と雇用は、競争法とカナダ刑法によって守られます。

EUでは2023年3月に、環境に優しいとする企業の主張を正当化する方法を規制し、グリーンウォッシングに対処するための「グリーン・クレーム指令」を、欧州委員会が提出しました。この指令は、欧州議会と欧州理事会の承認を必要としていますが、グリーンウォッシングに関与する企業に対する罰則を設定することになります。指令草案では、違反が広範囲に及んだ場合、罰金の上限を事業者の年間総売上高の少なくとも4%と定めています。

「世界自然保護基金シンガポール」のパイロット調査によると、ESG統合の取組みを改善するために、この島国(シンガポール)の民間銀行はリスク管理戦略を改善し、組織文化、ガバナンス、インセンティブを強化する必要があります。銀行はサステイナビリティに関する誓約を掲げてはいるが、プライベート・バンキングのシナリオでは、これらをカスタマイズし、効果的に統合する必要があると、この報告書は指摘しています。

2023年6月、オランダの資産運用会社ヴァン・ランスコット・ケンペンは、環境リスクを審査する最新のESGテストに、この島国(シンガポール)が不合格であったとして、シンガポールの国が運用を支援する資産をブラックリストに掲載しました。この件を受けてシンガポール政府は、2050年までに排出量ゼロを達成するという公約に示したとおり、気候変動と闘うという同国のコミットメントを改めて表明しました。

この分野ではさらに多くのことがなされる必要があり、近い将来、規制、サステイナブルな慣行、そして執行努力において、一層大きな進展があるものと期待しています。

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韓国

韓国では、環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する懸念に対処するための、包括的な規制枠組みが策定されています。気候危機の深刻な影響を軽減し、カーボンニュートラル社会への移行を促進するための法的基盤となるのが、気候変動危機に対処するためのカーボンニュートラルとグリーン成長に関する枠組み法です。社会法の主要な対象は労働者の権利、公正取引、消費者保護である一方、ガバナンスに関する法では透明性、説明責任、責任ある投資慣行に重点が置かれています。

ESG問題に対する関心が世界的に高まっていることを受け、韓国ではフレームワークやガイドラインの策定を通じて、ESGに関する企業責任が拡大されています。企業は、これらのフレームワークを通じて、ESGに関して考慮すべき事項を、事業運営や意思決定プロセスに組み込んでいくことができます。透明性を高め、ステークホルダーが必要な情報を入手できるようにするため、情報開示を義務付ける規制も導入されています。また、国内で事業を展開する企業がデューデリジェンスを徹底し、サプライチェーンにおける人権侵害や環境リスクへの対処を図るために、立法措置も検討されています。

環境法

Kim Hongkyun
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韓国の環境規制の枠組みは、憲法的性格を持つ基本法として機能する環境政策に関する枠組み法と、種々の汚染源を対象とする70超の個別環境法により構成されています。この広範な枠組みには、ESG原則と密接に連携する重要な個別法がいくつか含まれており、それらについては詳細に論じる価値があります。

大気、水、土壌。大気と水質は、大気汚染防止法、水管理に関する枠組み法、水環境保全法によって規制されています。土壌汚染防止法では土壌汚染に関する事項が規制されており、汚染物質の廃棄の禁止や土壌汚染についての責任の賦課が規定されています。

廃棄物と資源循環。固形廃棄物および有害廃棄物の収集、運搬、保管、リサイクル、処分は、廃棄物管理法、資源の保全およびリサイクルの促進に関する法律、資源循環に関する枠組み法に基づき管理されています。

化学物質。化学物質の上市は、化学物質の登録及び評価等に関する法律(K-REACH)により規制されています。化学物質管理法の規制対象は、国内市場で販売される化学物質の使用です。また、生活化学製品及び殺生物剤の安全管理に関する法律(K-BPR)により、特定の消費者向け化学製品に安全性基準と表示基準が課され、また、殺生物剤の製造業者と輸入業者に対し、その使用についての事前承認の取得が義務付けられています。

気候変動とエネルギー利用。韓国では、温室効果ガス排出許容量の割当及び取引に関する法律に基づき、排出量取引制度(K-ETS)が設けられており、温室効果ガス排出量の価格設定と排出許容量の取引を可能にする、市場ベースのアプローチが導入されています。エネルギー利用合理化法は、エネルギー効率の向上とエネルギー消費が環境に与える影響の軽減を目的としています。

その他。上記以外にも、生物多様性の保全及び利用に関する法律やグリーン製品購入促進に関する法律などの環境関連の法律が制定されています。

社会法

Kim Sangmin
Kim Sangmin
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競争保護。違法なカルテル行為や不公正な取引慣行を規制する主要な法律は、独占規制及び公正取引に関する法律です。これに加えて、公正な競争と健全な事業慣行の促進を目的として、表示及び広告の公正化に関する法律、下請取引公正化法、代理店取引の公正化に関する法律、大規模流通業における取引の公正化に関する法律が制定されています。

製品の安全性と消費者保護。製品の安全性に関する枠組み法、消費者に関する枠組み法、電気用品及び生活用品安全管理法、製造物責任法、食品衛生法が、製品の安全性と消費者保護の確保のための枠組みとなる主要な法律です。

労働。 労働関係の規制の基盤となるのは労働基準法です。他方、労働安全衛生法と重大災害処罰法には、職場における従業員の福利と安全を確保するための規制が定められています。

人権。韓国刑法、国家人権委員会法、児童福祉法が、人権の擁護と保護に寄与する重要な法律です。国家人権基本計画の法的基盤を強化し、国際基準を国内の政策に取り入れるため、政府は2021年、「人権政策に関する枠組法」の草案を公表し、現在立法手続きが進行中です。

データ保護。個人情報保護法は、個人情報の収集、利用、開示の規制を通じて個人のプライバシーと個人情報を保護することを目的とする法律です。「情報通信網利用促進及び情報保護に関する法律」では、情報通信ネットワークを通じて送信されるデータの保護に、焦点が当てられています。信用情報利用及び保護に関する法律は、信用情報の体系的な管理と不正利用の防止を通じてプライバシーを保護することを目的としています。

ガバナンスに関する法

Kim Yun Sung, Lee & Ko
Kim Yun Sung
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代理人の義務。商法は、企業における取締役と監査役の職務について規定しています。また、刑法では、職務の遂行中になされた業務上横領や背任などの違法行為が規制されています。

情報開示。財務報告その他の開示における透明性、説明責任、公正性について規定する主要な法規制は、金融投資サービス及び資本市場法、証券市場における開示に関する規則、株式会社の外部監査に関する法律などです。

企業集団。一般に財閥と呼ばれるコングロマリットや大規模企業グループの活動は、独占規制及び公正取引に関する法律と金融会社のコーポレート・ガバナンスに関する法律によって規制されています。

汚職防止。汚職防止ならびに汚職防止及び公民権委員会の設置及び運営に関する法律、不適切な勧誘及び接待に関する法律、国際商取引における外国公務員に対する贈収賄の防止に関する法律が、汚職を規制する主要な法律です。

ESGに関する責任の拡大

Kタクソノミーは、サステナブル投資の促進に向けて、環境技術及び環境産業支援法に基づいて策定された枠組みです。2021年12月の当初の草案公表に続き、2022年12月には原子力発電に関する追加事項を盛り込んだ改正案が公表されました。新たなグリーンボンド・ガイドラインは、グリーンウォッシュ債券の発行防止を通じて、グリーンボンド投資の信頼性を高め、グリーンボンド市場の活発な成長を促進することを目的として、2023年1月に導入されました。

企業のESGに関する実績を過大表示するグリーンウォッシュ行為は、表示及び広告の公正化に関する法律や、環境技術及び環境産業支援法によって規制されていますが、実務において具体的な基準を判断することが難しいため、実際に罰金や罰則が科される事例は限られています。この問題を認識した公正取引委員会と環境部は、グリーンウォッシュ行為特定のための明確な基準の確立に向けて、規制改正とガイドライン策定に取り組んでいます。

開示に関する規制

2021年、金融委員会は持続可能性報告に関する規則を導入しました。この規制は段階的に実施される予定です。2025年末までに、韓国総合株価指数(KOSPI)の対象企業のうち、資産が2兆ウォン(7,600億米ドル)を超える企業に適用され、2030年末までにはKOSPI企業すべてに適用が拡大される予定です。本年中にESG情報開示制度のロードマップが公表され、報告義務の対象となる企業の概要や開示基準の詳細が示される予定です。

環境技術及び環境産業支援法では、企業は2022年以降、資源・エネルギーの保全と環境汚染物質の削減に関する環境管理システム、目標、実績の開示を義務付けられています。また韓国取引所は、上場企業を対象とするコーポレート・ガバナンス報告書に関するガイドラインを公表しました。2022年以降、総資産1兆ウォン以上のKOSPI上場企業に対して、コーポレート・ガバナンス報告書の作成および開示が義務付けられています。

自主的開示

韓国コーポレート・ガバナンスサービスは2021年、ESGベストプラクティスガイドラインの改訂版を公表しました。このガイドラインはESG評価に活用されてきました。また、国内の上場企業のESG管理基準や政府の各種政策が策定される際に参考にされています。

EUの企業持続可能性デューデリジェンス指令などの、サプライチェーンの人権と環境のデューデリジェンスに関する法制定の進展を受け、韓国では2022年12月、サプライチェーン管理のためのK-ESGガイドラインが導入されました。サプライチェーンの持続可能性向上には、包括的システムの確立が重要であるという認識が広まっており、現在、これに関する立法案がさまざまなステークホルダーによって議論されています。

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台湾

このところ、台湾の気候アジェンダへの注目が高まっています。台湾における温室効果ガス排出規制の主要な枠組みである、温室効果ガス削減及び管理法は包括的に改正され、2023年1月10日、正式に気候変動対応法(CCRA)と改称されました。この改称は、台湾のアプローチが温室効果ガスの排出にとどまらず、気候変動対策のための総合的戦略も含むものへと、極めて重要な転換を遂げたことを象徴しています。

現在、特定の産業には、温室効果ガス排出量の詳細な計算、報告、検証が求められています。台湾の環境保護総局は、主要な温室効果ガス排出源(温室効果ガス排出源会計登録対象事業者)に分類される事業者の業種別リストを作成し、これらの事業者に温室効果ガス排出量の報告を義務付けています。温室効果ガス排出量が年間2万5000トンを超える企業は、前年度の排出量について詳細に記載した年次報告書も提出しなければなりません。

2050年に向けてのロードマップ

Tseng Ken-Ying, Lee and Li
Tseng Ken-Ying
パートナー
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台湾では、環境・社会・ガバナンス(ESG)要因とそれがもたらす重大な影響についての認識が高まっています。再生可能エネルギー、脱炭素化、グリーン・ファイナンスの推進と、2050年ネットゼロ排出ロードマップにおいて示されたネットゼロ目標の達成に向けて、台湾政府の取組みは勢いを増しています。これを明らかに示しているのがグリーン・ファイナンス行動計画です。この計画は2017年以降四半期ごとに見直され、定期的に更新されています。先般、同計画の第3版(グリーン・ファイナンス行動計画3.0)が開始され、2022年最終四半期の見直しが完了しました。

このような経緯を踏まえると、CCRAの刷新は、2050年までに温室効果ガス排出量ネットゼロを達成するという最終目標に向けて、脱炭素化を進める台湾の揺るぎないコミットメントを示すものであるといえます。

環境保護総局は、2023年下半期から2024年にかけて、CCRAに関連する12の下位規制を公布および公表する予定です。これらの規制は、炭素インベントリ、炭素料金の徴収、登録管理、認証・検査機関、温室効果ガス対策資金の管理などの重要な点に対処するものになるとみられます。政府の主要目標は、グリーンエネルギー、脱炭素化、グリーン・ファイナンスの推進と、2050年に向けたロードマップで示された目標の実現が中心となっています。

政策ガイダンス

Helen Huang Hai-Ning, Lee and Li
Helen Huang Hai-Ning
シニアアソシエイト
理律法律事務所(台北)
電話: +886 2 2763 8000 Ext. 2508
Eメール: helenhuang@leeandli.com

ネットゼロへの取組みの一環として、台湾金融監督管理委員会は、持続可能な経済活動に関するガイドラインの策定に力を注いでいます。これらのガイドラインの目的は、投資家やステークホルダーが持続可能な慣行を見極め、環境に大きな影響を与える活動を判断する際の指針となるとともに、グリーンウォッシュを防止することです。

台湾が輸出を重視しており、またグローバルなサプライチェーンに不可欠なプレーヤーとして、重要な役割を担っていることを踏まえると、ESG原則をビジネス慣行に組み込み、グローバルブランド企業が求める厳格な要件を満たすことが、さらに重要になっています。

その結果、この転換期において企業を導き、ESGを巡る期待の高まりに効果的に対応することを可能にする、強固な枠組みが求められるのは必然だといえます。ESGに関する問題への関心は今後も高まる一方であり、最終的にはあらゆる業界に関心が注がれることになるでしょう。

ESG関連情報の開示については、金融監督管理委員会が、上場会社による持続可能性報告の作成及び提出に関する台北取引所(TPEx)規則を策定しています。

この規制枠組みでは、上場企業は年次ESG報告の提出を義務付けられています。2022年9月には重要な進展がありました。TPExがESGパフォーマンス指標を導入し、ESG情報の開示を強化したのです。この措置により、ステークホルダーは、企業の事業、実績、持続可能性に関する進展について、包括的に理解できるようになったのです。

さらに、現在では、TPExに上場している企業には、グローバル・レポーティング・イニシアチブが定めたガイドラインに基づく、ESG報告の公表が義務付けられています。また、米国サステナビリティ会計基準審議会と気候関連財務情報開示タスクフォースが公表している基準を参照するよう求められています。

コーポレート・ガバナンス3.0-持続可能な発展のロードマップでは、機関投資家によるスチュワードシップに関する情報開示の促進が強調されており、上場企業におけるガバナンスの強化を促しています。

また、グリーン・ファイナンス行動計画3.0は、金融機関や企業に対し、持続可能な経済活動への認識を深めるためのガイドラインを、戦略的計画や投融資評価に組み込むことを奨励しています。

全般的にみて、金融監督管理委員会は持続可能な経済活動に関するガイドラインを積極的に策定しており、これが投資家やステークホルダーによる持続可能な慣行の特定を後押ししています。このガイドラインの目的は、グリーンウォッシュの防止、および環境にインパクトを与える活動を定義することです。

日々の事業運営におけるESG原則の重要性は高まる一方であり、こうした状況を受け、ESGと持続可能性の価値の正確な反映を徹底するため、協調した取組みが行われています。

ESGの透明性を高めるため、政府は2024年に上場企業向けの統合ESGプラットフォームを構築する計画です。台湾の企業や金融機関にとって、グローバル・レポーティング・イニシアティブのガイドラインに基づくESG情報の報告・開示義務の枠組みは、引き続き重要な焦点となっています。

持続可能性金融評価スキームの導入に伴い、より多くの金融機関が自主的に評価に参加し、ESG関連の情報開示制度が整備された、成熟した投資市場が形成されることが期待されています。

将来待ち受けているもの

台湾はすでに、ESG、サステナブル・ファイナンス、インパクト投資の各取組みを積極的に進めていますが、より包括的なガイドライン、特に報告や情報開示に関するガイドラインの策定が、金融当局にとって急務となっています。

持続可能性と社会的インパクトに資金を効果的に振り向けるためには、公的機関が金融セクターの民間プレーヤーを支援することが極めて重要です。環境や社会に関する目標についての報告に伴う責任とコストを、個々の企業だけに負担させるべきでありません。

公的機関は、社会・環境活動に関する適切なデータの収集に利用できる低価格のツールと併せて、明確な報告・開示ガイドラインを提供する必要があります。このようなツールが利用できれば、ESGパフォーマンス評価の標準化が進み、計算ツールや財務ツールの交換を円滑にする、利用しやすいプラットフォームを通じたアクセスが実現する可能性もあります。このようなアプローチにより、持続可能投資のインパクトや実現可能性に懸念を持つ人々に信頼感が根付くでしょう。

また、地域の社会的・環境的状況に沿った具体的なベンチマークの開発も重要です。これにより、金融商品のパフォーマンスや非財務的影響に対する評価の精度を高めるとともに、リスク・マージンの要因を減少させることができます。台湾市場では、ソーシャル・インパクト債や、困難な状況にあるコミュニティへの投資に対する財政的優遇措置などの革新的なプログラムについて、実行可能性や成功の見込みが依然として検証の途上にあります。

事業組織法により事業形態の柔軟性が高まり、創造性の発揮と、民間のインパクト投資への資金流入につながるでしょう。創業者や企業所有者は柔軟に事業運営やガバナンスの形を決定し、企業形態をとっていない組織の受託者義務を、創業者や投資家の選好に基づいて修正することができます。この柔軟性は今後も、持続可能性投資やインパクト投資の追い風になるでしょう。

現在、ソーシャル・ファイナンスやパーパス・ドリブン企業を対象とする個別規制は存在しないため、法的モデルに関して私たちが主に推奨するのは、創業者や投資家の意図に合致し、ステークホルダーとの持続可能な関係構築に寄与する、個々の状況に適した構造を採用することです。

会計監査の際や税務当局との間で問題が生じるのを避けるためには、この点が極めて重要です。また、現行の税法では、目的が収益創出だけではない寄付や投資に対する優遇措置は設けられていません。

結論として、台湾のグリーン経済への移行とESG原則の金融エコシステムへの統合において示されているのは、気候変動が突き付ける課題への対処に先進的アプローチが取られているということです。改称された法律により、台湾の脱炭素化と持続可能性へのコミットメントはさらに強化されました。

種々の規制措置、報告要件、情報開示の枠組みを通じて、台湾は国際基準に沿った透明で責任あるビジネス環境の醸成を目指しています。しかし、公的機関、民間セクター、金融機関の持続的な協働が不可欠です。

Lee and Li

Lee and Li

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タイ

過去数年にわたり、ESG(環境・社会・ガバナンス)は世界中の企業の役員会議室における最重要テーマになっており、タイもその例外ではありません。気候変動への関心が高まる中、気候関連規制の状況に大きな変化が生じ、特にESG規制の動向にそれが顕著です。本稿では、タイにおける最近の環境関連規制の動向に焦点を当てます。

気候へのコミットメント

タイの気候へのコミットメントには、いくつかの重要な進展が見られ、中でも2022年11月に国連気候変動枠組条約(UNFCC)事務局に提出された国別決定拠出金(NDC)の第二次更新が、目を惹きます。NDCの更新により、タイは温室効果ガス排出量を削減する意欲をさらに高め、20-25%としていた目標を、2030年の通常業務ベースでの予測に基づいて30%に引き上げました。十分な技術的および財政的な支援があれば、この貢献度は40%まで引き上げることも可能でしょう。NDCセクター別行動計画は、エネルギー、運輸、工業、廃棄物、農業の五つの主要セクターにおける温室効果ガス排出削減について、その目標、対策、および関連機関の責任を明らかにしています。

主要プレーヤー

Peerapan Tungsuwan
パートナー兼サステイナビリティ・グループおよびヘルスケア・ライフサイエンス業界グループ長
Baker McKenzie (バンコク)
Eメール: peerapan.tungsuwan@bakermckenzie.com

NDCの各目標を達成するには、温室効果ガス排出削減に向けたコラボレーションによる努力と、包括的な対策が必要です。またこれらの目標は、天然資源環境省(MONRE)、工業省(MOI)、エネルギー省(MOE)、運輸省(MOT)など、さまざまな政府機関の関与を必要としています。その他の多くの公的機関や民間セクターも大きな役割を担っており、国を低炭素社会へと導く重要な歩みを進めてきました。タイにおける現在の気候変動関連活動を担当する、主な機関は次のとおりです。

  • 政策レベル。MONREの傘下にある天然資源・環境政策計画局(ONEP)は、気候変動政策の国家的な中心であり、国の気候変動問題に取り組むための政策や戦略を提案・策定し、気候変動に関する調査・研究・開発を実施する権限を有しています。さらに、MONREは環境品質促進局とONEPの一部の部門を統合し、「気候変動および環境局」という名称で、気候変動に特化した新しい部局を設立しようとしています。
  • 工業セクター。MOIは、工業活動を監督する主要機関です。具体的には、MOIの工業事業局が、排出ガス監視や廃棄物管理など、工場の活動を規制する主要機関となります。PM2.5などの公害の制御は、MONREの公害制御局の管轄下にあります。
  • エネルギーセクター。 MOEは、石油関連産業や発電所などのエネルギー関連事業を監督する主要機関です。MOEはまた、再生可能エネルギー生産を認証する権限を有するタイ発電公社など、主要な国営企業の活動を規制しています。
  • 運輸セクター。MOTは、運輸・交通政策企画室を通じて運輸セクターの排出削減計画策定に重要な役割を果たしていますが、財務省もまた、自動車の税制改正において決定的な役割を果たしています。内燃機関自動車の物品税は現在、CO2排出量に基づいていますが、将来はゼロ・エミッション車(ZEV)よりも高くなります。
  • 林業および農業セクター。現在、森林関連の活動はMONREの3つの機関、すなわち王立森林局、国立公園局、海洋沿岸資源局によって監督されています。土地の登記と、特定の農地区画の割り当ておよび管理は、それぞれ内務省と農地改革事務所が監督しています。
  • タイにおける国内炭素クレジット制度。タイ自主的排出削減プログラム(T-VER)は、公的機関であるタイ温室効果ガス管理機構(TGO)によって開発されたもので、その目的は、あらゆるセクターが自主的に温室効果ガス削減に参加し、炭素クレジットを自主的に国内市場で取引することの促進と支援です。TGOは、CDM(クリーン開発メカニズム)の経験に基づき、ISO14064-2およびISO14064-3に準拠してT-VERを開発しました。この点に関して、TGOはプロジェクト開発、温室効果ガス排出削減の方法、プロジェクト登録、炭素クレジット認証に関する規則と手続を定めています。

最近の動向

Varutt Kittichungchit
Varutt Kittichungchit
アソシエイト
Baker McKenzie (バンコク)
Eメール: varutt.kittichungchit@bakermckenzie.com

タイ政府は、総合的なアプローチを採用し、排出削減に効果的に貢献できる分野に注力しています。気候変動目標を達成するための主な方法と規制の枠組に関する最近の動向には、次のようなものがあります。

  • 気候変動法案。ONEPは、より本格的で包括的な気候管理のために、気候変動法案の第二草案を強力に推進しています。この法案には、大規模な政府プロジェクトの気候変動への影響またはリスクの評価、温室効果ガス排出量と地域ベースの気候変動リスクに関する中央データベース、民間セクターに温室効果ガス削減の経済的インセンティブを与える適切なメカニズム、などに関する条項が盛り込まれています。さらに同法案は、政府機関、指定工場およびビル、工場法に定める工場経営者など、特定の事業体に対して、排出量を毎年報告する義務を課しています。
  • 植林。植林への土地利用を促すために、いくつかの法律が制定および改正されました。これには、官民の共同植林プロジェクトにおける炭素クレジット分配を促す林業当局による規制や、単位面積当たりの木本数の基準を緩和することで、2019年土地・建物税法に基づく土地利用が農業利用に分類されて最低税率を享受できるようにすること、などが含まれています。
  • 廃棄物管理。1992年工場法の廃棄物管理体制に、汚染者負担原則が間もなく導入されます。これにより、廃棄物を発生させる工場に対して、廃棄物管理のコントロールと報告義務について、より高い責任基準が課されることになります。
  • Muanjit Chamsilpa
    Muanjit Chamsilpa
    環境スペシャリスト
    Baker McKenzie (バンコク)
    Eメール: muanjit.chamsilpa@bakermckenzie.com

    電気自動車。電気自動車(EV)の国内での使用と生産を促進するため、2030年までにゼロ・エミッション車の割合を国内自動車生産台数の30%まで引き上げることを目指す、国のEVロードマップの主要政策「30@30」のもとで、数々の政府施策が承認されています。タイ政府はすでに、EVの輸入関税と物品税の免除・減税、および2024年または2025年に国内生産を開始できるEVメーカーに対する条件付き補助金などの、インセンティブ・パッケージを承認しました。

  • タイのタクソノミー。よりグリーンで環境に優しい経済活動を促進・支援して、気候変動を緩和するため、タイ銀行は、企業が自主的に環境影響を評価する際の標準的分類法として、国のタクソノミーの開発を進めています。その第1段階は、温室効果ガスの最大排出源であるエネルギーセクターと運輸セクターの活動に焦点を当てています。
  • 炭素取引の品質基準強化。TGOは、T-VERの基準を従来の「スタンダードT-VER」から、高品質な炭素クレジットのための「コア・カーボン原則」に基づいた「プレミアムT-VER」へとアップグレードしています。プレミアムT-VERは、パリ協定の第6条メカニズムや、非営利団体Verraが管理する検証済み炭素基準を適用したものです。プロジェクト開発者にとってプレミアムT-VERは、国際基準を満たし、国際的なオフセット・スキーム(国際航空業のカーボン・オフセットおよび削減スキーム等)の適格性を備えたプロジェクトを開発するための、もう一つの選択肢となります。
  • FTI-X取引所。タイ工業連盟(FTI)はTGOと共同で、再生可能エネルギーと炭素クレジットの取引所としてFTI-Xを今年の初めに開所しました。この取引所では、T-VER、Verra、ゴールドスタンダードの炭素クレジット、再生可能エネルギーで発電された電力ユニット、国際再生可能エネルギー証書(I-REC)など、三種の資産の取引ができます。

ビジネスへの圧力

Dhiranantha Rithmanee
Dhiranantha Rithmanee
環境スペシャリスト
Baker McKenzie (バンコク)
Eメール: dhiranantha.rithmanee@bakermckenzie.com

現在、タイには直接的な炭素税制度が無いにもかかわらず、投資家、(現地法人の本国の)本社、顧客、消費者、特に、EUのようにESG法がより成熟しており、具体的なESG法を備えている国々に所在する企業等から、ビジネス上の圧力が高まっているため、多くの事業者は、もしまだESGを自主的に採用して企業競争力を高めようとしていない場合、ESGの要求事項への準拠を迫られることになります。タイのサプライヤーたちは、しっかりと今後の展開に備えることでしょう。

民間セクターの役割

現在、T-VERプロジェクトの炭素クレジットの需要は、国内オフセット・プログラムであるタイ・炭素オフセット・プログラム(T-COP)からのものがほとんどです。炭素クレジットは、組織、製品、イベント、および個人の温室効果ガス排出量を相殺するために使用されます。しかし、T-VERクレジットは、その目的や適格基準に応じて、組織や企業に対して国際的に販売することができます。

民間セクターは、温室効果ガス削減プロジェクトを実施して市場で販売する炭素クレジットを創出するプロジェクト開発者として、あるいは自らの排出量を相殺するためのクレジット購入者として、大切な役割を果たしています。

結論

タイは、気候変動対策に全力で取り組んでおり、法的枠組の動きも従来になくダイナミックになってきています。これまで述べてきた展開とは別に、炭素の回収・利用・貯蔵プロジェクトの開発など、炭素管理のより効果的で持続可能なソリューションや、それらを促進する法的基盤などにおいて、官民の活発な協力が行われています。執筆者は、この分野が今後何年にも渡って進化し続けると予想しております。

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