ESG規制の地域比較:台湾

    By Tseng Ken-Ying と Helen Huang Hai-Ning, 理律法律事務所
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    このところ、台湾の気候アジェンダへの注目が高まっています。台湾における温室効果ガス排出規制の主要な枠組みである、温室効果ガス削減及び管理法は包括的に改正され、2023年1月10日、正式に気候変動対応法(CCRA)と改称されました。この改称は、台湾のアプローチが温室効果ガスの排出にとどまらず、気候変動対策のための総合的戦略も含むものへと、極めて重要な転換を遂げたことを象徴しています。

    現在、特定の産業には、温室効果ガス排出量の詳細な計算、報告、検証が求められています。台湾の環境保護総局は、主要な温室効果ガス排出源(温室効果ガス排出源会計登録対象事業者)に分類される事業者の業種別リストを作成し、これらの事業者に温室効果ガス排出量の報告を義務付けています。温室効果ガス排出量が年間2万5000トンを超える企業は、前年度の排出量について詳細に記載した年次報告書も提出しなければなりません。

    2050年に向けてのロードマップ

    Tseng Ken-Ying, Lee and Li
    Tseng Ken-Ying
    パートナー
    理律法律事務所(台北)
    電話: +886 2 2763 8000 Ext. 2179
    Eメール: kenying@leeandli.com

    台湾では、環境・社会・ガバナンス(ESG)要因とそれがもたらす重大な影響についての認識が高まっています。再生可能エネルギー、脱炭素化、グリーン・ファイナンスの推進と、2050年ネットゼロ排出ロードマップにおいて示されたネットゼロ目標の達成に向けて、台湾政府の取組みは勢いを増しています。これを明らかに示しているのがグリーン・ファイナンス行動計画です。この計画は2017年以降四半期ごとに見直され、定期的に更新されています。先般、同計画の第3版(グリーン・ファイナンス行動計画3.0)が開始され、2022年最終四半期の見直しが完了しました。

    このような経緯を踏まえると、CCRAの刷新は、2050年までに温室効果ガス排出量ネットゼロを達成するという最終目標に向けて、脱炭素化を進める台湾の揺るぎないコミットメントを示すものであるといえます。

    環境保護総局は、2023年下半期から2024年にかけて、CCRAに関連する12の下位規制を公布および公表する予定です。これらの規制は、炭素インベントリ、炭素料金の徴収、登録管理、認証・検査機関、温室効果ガス対策資金の管理などの重要な点に対処するものになるとみられます。政府の主要目標は、グリーンエネルギー、脱炭素化、グリーン・ファイナンスの推進と、2050年に向けたロードマップで示された目標の実現が中心となっています。

    政策ガイダンス

    Helen Huang Hai-Ning, Lee and Li
    Helen Huang Hai-Ning
    シニアアソシエイト
    理律法律事務所(台北)
    電話: +886 2 2763 8000 Ext. 2508
    Eメール: helenhuang@leeandli.com

    ネットゼロへの取組みの一環として、台湾金融監督管理委員会は、持続可能な経済活動に関するガイドラインの策定に力を注いでいます。これらのガイドラインの目的は、投資家やステークホルダーが持続可能な慣行を見極め、環境に大きな影響を与える活動を判断する際の指針となるとともに、グリーンウォッシュを防止することです。

    台湾が輸出を重視しており、またグローバルなサプライチェーンに不可欠なプレーヤーとして、重要な役割を担っていることを踏まえると、ESG原則をビジネス慣行に組み込み、グローバルブランド企業が求める厳格な要件を満たすことが、さらに重要になっています。

    その結果、この転換期において企業を導き、ESGを巡る期待の高まりに効果的に対応することを可能にする、強固な枠組みが求められるのは必然だといえます。ESGに関する問題への関心は今後も高まる一方であり、最終的にはあらゆる業界に関心が注がれることになるでしょう。

    ESG関連情報の開示については、金融監督管理委員会が、上場会社による持続可能性報告の作成及び提出に関する台北取引所(TPEx)規則を策定しています。

    この規制枠組みでは、上場企業は年次ESG報告の提出を義務付けられています。2022年9月には重要な進展がありました。TPExがESGパフォーマンス指標を導入し、ESG情報の開示を強化したのです。この措置により、ステークホルダーは、企業の事業、実績、持続可能性に関する進展について、包括的に理解できるようになったのです。

    さらに、現在では、TPExに上場している企業には、グローバル・レポーティング・イニシアチブが定めたガイドラインに基づく、ESG報告の公表が義務付けられています。また、米国サステナビリティ会計基準審議会と気候関連財務情報開示タスクフォースが公表している基準を参照するよう求められています。

    コーポレート・ガバナンス3.0-持続可能な発展のロードマップでは、機関投資家によるスチュワードシップに関する情報開示の促進が強調されており、上場企業におけるガバナンスの強化を促しています。

    また、グリーン・ファイナンス行動計画3.0は、金融機関や企業に対し、持続可能な経済活動への認識を深めるためのガイドラインを、戦略的計画や投融資評価に組み込むことを奨励しています。

    全般的にみて、金融監督管理委員会は持続可能な経済活動に関するガイドラインを積極的に策定しており、これが投資家やステークホルダーによる持続可能な慣行の特定を後押ししています。このガイドラインの目的は、グリーンウォッシュの防止、および環境にインパクトを与える活動を定義することです。

    日々の事業運営におけるESG原則の重要性は高まる一方であり、こうした状況を受け、ESGと持続可能性の価値の正確な反映を徹底するため、協調した取組みが行われています。

    ESGの透明性を高めるため、政府は2024年に上場企業向けの統合ESGプラットフォームを構築する計画です。台湾の企業や金融機関にとって、グローバル・レポーティング・イニシアティブのガイドラインに基づくESG情報の報告・開示義務の枠組みは、引き続き重要な焦点となっています。

    持続可能性金融評価スキームの導入に伴い、より多くの金融機関が自主的に評価に参加し、ESG関連の情報開示制度が整備された、成熟した投資市場が形成されることが期待されています。

    将来待ち受けているもの

    台湾はすでに、ESG、サステナブル・ファイナンス、インパクト投資の各取組みを積極的に進めていますが、より包括的なガイドライン、特に報告や情報開示に関するガイドラインの策定が、金融当局にとって急務となっています。

    持続可能性と社会的インパクトに資金を効果的に振り向けるためには、公的機関が金融セクターの民間プレーヤーを支援することが極めて重要です。環境や社会に関する目標についての報告に伴う責任とコストを、個々の企業だけに負担させるべきでありません。

    公的機関は、社会・環境活動に関する適切なデータの収集に利用できる低価格のツールと併せて、明確な報告・開示ガイドラインを提供する必要があります。このようなツールが利用できれば、ESGパフォーマンス評価の標準化が進み、計算ツールや財務ツールの交換を円滑にする、利用しやすいプラットフォームを通じたアクセスが実現する可能性もあります。このようなアプローチにより、持続可能投資のインパクトや実現可能性に懸念を持つ人々に信頼感が根付くでしょう。

    また、地域の社会的・環境的状況に沿った具体的なベンチマークの開発も重要です。これにより、金融商品のパフォーマンスや非財務的影響に対する評価の精度を高めるとともに、リスク・マージンの要因を減少させることができます。台湾市場では、ソーシャル・インパクト債や、困難な状況にあるコミュニティへの投資に対する財政的優遇措置などの革新的なプログラムについて、実行可能性や成功の見込みが依然として検証の途上にあります。

    事業組織法により事業形態の柔軟性が高まり、創造性の発揮と、民間のインパクト投資への資金流入につながるでしょう。創業者や企業所有者は柔軟に事業運営やガバナンスの形を決定し、企業形態をとっていない組織の受託者義務を、創業者や投資家の選好に基づいて修正することができます。この柔軟性は今後も、持続可能性投資やインパクト投資の追い風になるでしょう。

    現在、ソーシャル・ファイナンスやパーパス・ドリブン企業を対象とする個別規制は存在しないため、法的モデルに関して私たちが主に推奨するのは、創業者や投資家の意図に合致し、ステークホルダーとの持続可能な関係構築に寄与する、個々の状況に適した構造を採用することです。

    会計監査の際や税務当局との間で問題が生じるのを避けるためには、この点が極めて重要です。また、現行の税法では、目的が収益創出だけではない寄付や投資に対する優遇措置は設けられていません。

    結論として、台湾のグリーン経済への移行とESG原則の金融エコシステムへの統合において示されているのは、気候変動が突き付ける課題への対処に先進的アプローチが取られているということです。改称された法律により、台湾の脱炭素化と持続可能性へのコミットメントはさらに強化されました。

    種々の規制措置、報告要件、情報開示の枠組みを通じて、台湾は国際基準に沿った透明で責任あるビジネス環境の醸成を目指しています。しかし、公的機関、民間セクター、金融機関の持続的な協働が不可欠です。

    Lee and Li

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