ESG規制の地域比較:タイ

    By Peerapan Tungsuwan, Varutt Kittichungchit, Muanjit Chamsilpa そして Dhiranantha Rithmanee, Baker McKenzie
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    過去数年にわたり、ESG(環境・社会・ガバナンス)は世界中の企業の役員会議室における最重要テーマになっており、タイもその例外ではありません。気候変動への関心が高まる中、気候関連規制の状況に大きな変化が生じ、特にESG規制の動向にそれが顕著です。本稿では、タイにおける最近の環境関連規制の動向に焦点を当てます。

    気候へのコミットメント

    タイの気候へのコミットメントには、いくつかの重要な進展が見られ、中でも2022年11月に国連気候変動枠組条約(UNFCC)事務局に提出された国別決定拠出金(NDC)の第二次更新が、目を惹きます。NDCの更新により、タイは温室効果ガス排出量を削減する意欲をさらに高め、20-25%としていた目標を、2030年の通常業務ベースでの予測に基づいて30%に引き上げました。十分な技術的および財政的な支援があれば、この貢献度は40%まで引き上げることも可能でしょう。NDCセクター別行動計画は、エネルギー、運輸、工業、廃棄物、農業の五つの主要セクターにおける温室効果ガス排出削減について、その目標、対策、および関連機関の責任を明らかにしています。

    主要プレーヤー

    Peerapan Tungsuwan
    パートナー兼サステイナビリティ・グループおよびヘルスケア・ライフサイエンス業界グループ長
    Baker McKenzie (バンコク)
    Eメール: peerapan.tungsuwan@bakermckenzie.com

    NDCの各目標を達成するには、温室効果ガス排出削減に向けたコラボレーションによる努力と、包括的な対策が必要です。またこれらの目標は、天然資源環境省(MONRE)、工業省(MOI)、エネルギー省(MOE)、運輸省(MOT)など、さまざまな政府機関の関与を必要としています。その他の多くの公的機関や民間セクターも大きな役割を担っており、国を低炭素社会へと導く重要な歩みを進めてきました。タイにおける現在の気候変動関連活動を担当する、主な機関は次のとおりです。

    • 政策レベル。MONREの傘下にある天然資源・環境政策計画局(ONEP)は、気候変動政策の国家的な中心であり、国の気候変動問題に取り組むための政策や戦略を提案・策定し、気候変動に関する調査・研究・開発を実施する権限を有しています。さらに、MONREは環境品質促進局とONEPの一部の部門を統合し、「気候変動および環境局」という名称で、気候変動に特化した新しい部局を設立しようとしています。
    • 工業セクター。MOIは、工業活動を監督する主要機関です。具体的には、MOIの工業事業局が、排出ガス監視や廃棄物管理など、工場の活動を規制する主要機関となります。PM2.5などの公害の制御は、MONREの公害制御局の管轄下にあります。
    • エネルギーセクター。 MOEは、石油関連産業や発電所などのエネルギー関連事業を監督する主要機関です。MOEはまた、再生可能エネルギー生産を認証する権限を有するタイ発電公社など、主要な国営企業の活動を規制しています。
    • 運輸セクター。MOTは、運輸・交通政策企画室を通じて運輸セクターの排出削減計画策定に重要な役割を果たしていますが、財務省もまた、自動車の税制改正において決定的な役割を果たしています。内燃機関自動車の物品税は現在、CO2排出量に基づいていますが、将来はゼロ・エミッション車(ZEV)よりも高くなります。
    • 林業および農業セクター。現在、森林関連の活動はMONREの3つの機関、すなわち王立森林局、国立公園局、海洋沿岸資源局によって監督されています。土地の登記と、特定の農地区画の割り当ておよび管理は、それぞれ内務省と農地改革事務所が監督しています。
    • タイにおける国内炭素クレジット制度。タイ自主的排出削減プログラム(T-VER)は、公的機関であるタイ温室効果ガス管理機構(TGO)によって開発されたもので、その目的は、あらゆるセクターが自主的に温室効果ガス削減に参加し、炭素クレジットを自主的に国内市場で取引することの促進と支援です。TGOは、CDM(クリーン開発メカニズム)の経験に基づき、ISO14064-2およびISO14064-3に準拠してT-VERを開発しました。この点に関して、TGOはプロジェクト開発、温室効果ガス排出削減の方法、プロジェクト登録、炭素クレジット認証に関する規則と手続を定めています。

    最近の動向

    Varutt Kittichungchit
    Varutt Kittichungchit
    アソシエイト
    Baker McKenzie (バンコク)
    Eメール: varutt.kittichungchit@bakermckenzie.com

    タイ政府は、総合的なアプローチを採用し、排出削減に効果的に貢献できる分野に注力しています。気候変動目標を達成するための主な方法と規制の枠組に関する最近の動向には、次のようなものがあります。

    • 気候変動法案。ONEPは、より本格的で包括的な気候管理のために、気候変動法案の第二草案を強力に推進しています。この法案には、大規模な政府プロジェクトの気候変動への影響またはリスクの評価、温室効果ガス排出量と地域ベースの気候変動リスクに関する中央データベース、民間セクターに温室効果ガス削減の経済的インセンティブを与える適切なメカニズム、などに関する条項が盛り込まれています。さらに同法案は、政府機関、指定工場およびビル、工場法に定める工場経営者など、特定の事業体に対して、排出量を毎年報告する義務を課しています。
    • 植林。植林への土地利用を促すために、いくつかの法律が制定および改正されました。これには、官民の共同植林プロジェクトにおける炭素クレジット分配を促す林業当局による規制や、単位面積当たりの木本数の基準を緩和することで、2019年土地・建物税法に基づく土地利用が農業利用に分類されて最低税率を享受できるようにすること、などが含まれています。
    • 廃棄物管理。1992年工場法の廃棄物管理体制に、汚染者負担原則が間もなく導入されます。これにより、廃棄物を発生させる工場に対して、廃棄物管理のコントロールと報告義務について、より高い責任基準が課されることになります。
    • Muanjit Chamsilpa
      Muanjit Chamsilpa
      環境スペシャリスト
      Baker McKenzie (バンコク)
      Eメール: muanjit.chamsilpa@bakermckenzie.com

      電気自動車。電気自動車(EV)の国内での使用と生産を促進するため、2030年までにゼロ・エミッション車の割合を国内自動車生産台数の30%まで引き上げることを目指す、国のEVロードマップの主要政策「30@30」のもとで、数々の政府施策が承認されています。タイ政府はすでに、EVの輸入関税と物品税の免除・減税、および2024年または2025年に国内生産を開始できるEVメーカーに対する条件付き補助金などの、インセンティブ・パッケージを承認しました。

    • タイのタクソノミー。よりグリーンで環境に優しい経済活動を促進・支援して、気候変動を緩和するため、タイ銀行は、企業が自主的に環境影響を評価する際の標準的分類法として、国のタクソノミーの開発を進めています。その第1段階は、温室効果ガスの最大排出源であるエネルギーセクターと運輸セクターの活動に焦点を当てています。
    • 炭素取引の品質基準強化。TGOは、T-VERの基準を従来の「スタンダードT-VER」から、高品質な炭素クレジットのための「コア・カーボン原則」に基づいた「プレミアムT-VER」へとアップグレードしています。プレミアムT-VERは、パリ協定の第6条メカニズムや、非営利団体Verraが管理する検証済み炭素基準を適用したものです。プロジェクト開発者にとってプレミアムT-VERは、国際基準を満たし、国際的なオフセット・スキーム(国際航空業のカーボン・オフセットおよび削減スキーム等)の適格性を備えたプロジェクトを開発するための、もう一つの選択肢となります。
    • FTI-X取引所。タイ工業連盟(FTI)はTGOと共同で、再生可能エネルギーと炭素クレジットの取引所としてFTI-Xを今年の初めに開所しました。この取引所では、T-VER、Verra、ゴールドスタンダードの炭素クレジット、再生可能エネルギーで発電された電力ユニット、国際再生可能エネルギー証書(I-REC)など、三種の資産の取引ができます。

    ビジネスへの圧力

    Dhiranantha Rithmanee
    Dhiranantha Rithmanee
    環境スペシャリスト
    Baker McKenzie (バンコク)
    Eメール: dhiranantha.rithmanee@bakermckenzie.com

    現在、タイには直接的な炭素税制度が無いにもかかわらず、投資家、(現地法人の本国の)本社、顧客、消費者、特に、EUのようにESG法がより成熟しており、具体的なESG法を備えている国々に所在する企業等から、ビジネス上の圧力が高まっているため、多くの事業者は、もしまだESGを自主的に採用して企業競争力を高めようとしていない場合、ESGの要求事項への準拠を迫られることになります。タイのサプライヤーたちは、しっかりと今後の展開に備えることでしょう。

    民間セクターの役割

    現在、T-VERプロジェクトの炭素クレジットの需要は、国内オフセット・プログラムであるタイ・炭素オフセット・プログラム(T-COP)からのものがほとんどです。炭素クレジットは、組織、製品、イベント、および個人の温室効果ガス排出量を相殺するために使用されます。しかし、T-VERクレジットは、その目的や適格基準に応じて、組織や企業に対して国際的に販売することができます。

    民間セクターは、温室効果ガス削減プロジェクトを実施して市場で販売する炭素クレジットを創出するプロジェクト開発者として、あるいは自らの排出量を相殺するためのクレジット購入者として、大切な役割を果たしています。

    結論

    タイは、気候変動対策に全力で取り組んでおり、法的枠組の動きも従来になくダイナミックになってきています。これまで述べてきた展開とは別に、炭素の回収・利用・貯蔵プロジェクトの開発など、炭素管理のより効果的で持続可能なソリューションや、それらを促進する法的基盤などにおいて、官民の活発な協力が行われています。執筆者は、この分野が今後何年にも渡って進化し続けると予想しております。

    Baker & McKenzie

    Baker McKenzie

    25th/F, Abdulrahim Place, 990 Rama IV Road
    Bangkok 10500 Thailand

    電話: +66 2666 2824

    Eメール: bangkok.info@bakermckenzie.com

    www.bakermckenzie.com

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