ESG規制の地域比較:インド

    By Radhika M Dudhat, Shardul Amarchand Mangaldas & Co
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    環境・社会・ガバナンス(ESG)は、責任ある行動と同義です。インドでは、かねてからESGのエッセンスと認識は存在したものの、規制は断片的で、さまざまな法律にまたがっていました。

    ESG関連の報告義務ができ、ESGは現在、集中的で統一された規制の枠組みのもとにあります。ESGは、企業の成長、収益力、価値を測る上で、そのサステイナビリティ、倫理、責任指数との直接的な関係を正式に確立しました。

    ESGのパフォーマンスを規制することによるすべての影響はまだ見えていませんが、そのインパクトは企業の価値と信頼性の評価において明白です。

    規制の更新

    Radhika M Dudhat, Shardul Amarchand Mangaldas & Co
    Radhika M Dudhat
    パートナー
    Shardul Amarchand Mangaldas & Co
    (ムンバイ)
    電話: + 91 98 2012 3166
    Eメール: radhika.dudhat@amsshardul.com

    インド証券取引委員会 (SEBI) は2021年、従来の「事業責任報告」 (BRR) に代わる新たな報告様式として、「事業責任とサステイナビリティ報告」(BRSR) を制定しました。

    2015年SEBI規則第34(2)(f)(上場義務と開示要件)により、インドの上場企業上位1000社(時価総額ベース)には、BRSR の枠組みへの準拠が義務付けられています。それらの企業は、SEBIが随時発行するガイドラインに従って、要求された情報を所定の書式で提出しなくてはなりません。

    またSEBIは最近、「事業責任とサステイナビリティ報告のコア」(BRSRコア)と題する斬新なESG報告の枠組みを導入し、BRSRの重要な要素を明らかにするとともに、ESG報告の具体的なパラメータを設定しました。情報開示は、時間の経過とともに透明性と説明責任を生み出し、規制当局、投資家、資金の貸手、利害関係者らに、企業に関するより深い洞察をもたらします。

    その他の上場企業、すなわち中小企業(SME)向け取引所に特定の有価証券を上場している企業やSME取引所などは、場合によって自主的にBRSRを提出、または自主的に自社もしくは自社のバリューチェーンについてBRSRコアの枠組みに準拠しているという保証を得ることができます。

    BRSRは現在、一般的な開示(必須)、マネジメントとプロセスの開示(必須)、原則ごとの実績開示の三つに分かれており、さらに必須(必須)の指標とリーダーシップ(任意)の指標に分別されています。

    必須指標は、BRSRの提出を義務付けられているすべての企業が開示することになっていますが、リーダーシップ指標は、環境、社会、倫理に責任ある企業となることを目指し、より高いレベルへの進歩を目指す企業が自主的に開示することができます。

    さらに、BRSRで求められる主な情報開示には、以下のようなものがあります。

    • 企業のESGに関する重要なリスクと機会、そのようなリスクを軽減またはそれらに適応するためのアプローチ、および財務的影響の概要
    • サステイナビリティに関するゴール、ターゲット、実績
    • 資源消費の使用量(エネルギーと水)、大気汚染物質排出量、温室効果ガス排出量、廃棄物発生量とその管理方法、循環型経済への移行、生物多様性など、さまざまな側面を含む環境関連開示
    • 障害のある従業員への対応を含む性別および社会的な多様性、離職率、出産および育児手当、正社員および契約社員または契約労働者に対する福利厚生、安全衛生研修など、従業員、地域社会および消費者を対象とする社会的開示。社会的影響の評価、社会復帰と再定住、企業の社会的責任に関する開示、製品表示、製品回収、データプライバシーとサイバーセキュリティに関する消費者からの苦情に関する開示

    国際的に認められている報告の枠組み(the Global Reporting Initiative, the Sustainability Accounting Standards Board, the Task Force on Climate-related Financial Disclosures または the International Integrated Reporting Council など)に基づいてサステイナビリティ報告を作成・開示している上場企業は、それらの枠組みのもとで行う開示と、BRSR 報告の枠組みで求められる開示を相互参照することができます。

    SEBIはESG諮問委員会を設置し、ESG関連事項の戦略的アドバイスを支援しており、また最近、1999年インド証券取引委員会(信用格付機関)規則(CRA規則)のもとで、ESG格付プロバイダー(ERP)に関する独立した章を設けて通達しました。

    この CRA(信用格付機関)規則により、ERPにはSEBIへの登録が義務付けられるようになりました。既存の格付プロバイダーがESG分野の格付を提供している場合は、CRA規則の施行日から6カ月間またはSEBIが指定するその他の期間中、ESG分野の格付業務を継続することができます。

    SEBIによる証明書の付与またはSEBIへの登録には、ERPが一定の厳しい基準を満たす必要があります。

    実際のリストには以下の条件が含まれています。2013年会社法上の会社であること、ESG格付活動を主目的とすることを会社定款に明記していること、SEBIに登録された信用格付機関や他の仲介業者でないこと、SEBIが満足するコンプライアンス・オフィサーの任命および有能な技術専門家の雇用をしていること、CRA規則に規定された黒字の純資産を維持していること、登録申請から過去3年間にSEBIより証明書の発行を拒否されたり、適切でないと判断されたり、1992年インド証券取引委員会法の規則や規制に違反したとして強制措置の対象となったりしたことがなく、かつ証明書を付与することが投資家の利益になること。

    すべてのERPは、SEBIが随時要求する可能性のあるすべての文書または情報を、少なくとも5年間保管し維持する必要があります。それらは、CRA規則に規定されている、顧客帳簿、記録、契約書、顧客との連絡記録、顧客のESGメモは、CRA規則およびESG監査報告書などを含みますが、それに限定されるものではありません。

    さらに、ERPはCRA規則第7付則に定める行動規範を守り、十分なレベルの機密性と透明性を確保し、ERP格付の提供中の利益相反を防止することが求められます。

    サステイナビリティ投資

    サステイナビリティ投資への投資家の注目が高まっており、サステイナブル・ファンドの総資産や資金流入の増加は、それを反映している可能性があります。ESGをテーマにしたファンドも、インドにおいて急速に勢いを増しており、サステイナビリティ投資への集中と意欲が高まっていることを示しています。

    また、インド準備銀行は2023年5月3日に、全面的にサステイナブルな成長と炭素排出量削減にフォーカスした、「よりクリーンで環境に優しいインドを目指して」と題する報告書を発表しました。この報告書は、気候変動の四つの重要な側面、すなわち気候変動の前例のない規模とペース、マクロ経済への影響、金融安定性への影響、そして気候変動リスクを軽減するための戦略を取り上げています。

    現在、投資家はインパクト投資という選択肢を選ぼうとしており、これに呼応して規制当局も、グリーン・クレジット・プログラム実施規則案や、グリーン投資信託など、新しく革新的な戦略を策定・導入しています。

    政府や規制当局はESGを活用するにあたって、ステークホルダーに富をもたらすだけではなく、野放図な成長によって影響を受ける非ステークホルダーの人々の利益を守ることにもフォーカスした、責任ある活動を積極的に実施しています。地球と人々と利益に対する企業の責任は、今やあらゆる企業の成長ストーリーにとって明確な要件なのです。

    変化の波

    成長の影響を監視し、説明責任を果たすことは、明らかにSEBIの命題です。そのため、ESGの枠組みは、サステイナビリティ報告を財務報告と同等にすることを目指しています。

    ESGは急速に、組織の価値創造に不可欠な要素となりつつあるのです。しかし、それには特有の意思、努力、手段が必要です。それはESGの本質、適用される規制の枠組み、格付け基準、業界の動向について必要な理解を得るために、すべての利害関係者を教育することです。

    ESGの実際のインパクトは、それが精神に植え付けられた時に見えるものです。それは財務諸表に表れるもの以上の価値を、組織にもたらします。ESGのニュアンスを、法律や財務の字面以上のレベルで理解することは、組織のサステイナビリティの側面について洞察を得る鍵になります。

    BRSRとESG格付基準を設けたことを通して、SEBIはインド企業に対し、サステイナビリティ体制のもとでの要件を満たすための組織構造をつくり、組織内慣行を採用するよう促しました。今こそ、一歩引いて情報開示の重要性、内部基準、プロセス、リスク管理能力を理解する時です。予測し難い出来事、リスク、混乱に対応する組織の能力は、その逆境指数に依存します。組織のESG 指数は、逆境指数の本質的な一面を成しているのです。

    したがって、ESG 指数はあらゆる組織の責任ある行動の重要な尺度であり、インドの規制当局は、ESG 指数を高めることだけではなく、ステークホルダーがESG 指数の高い企業やプロジェクトに投融資するよう奨励して、その重要性を高めようとしています。

    やがて、私たちはESG体制の影響を目の当たりにすることになるでしょうが、すでにインド企業のDNAやその意識に変化の波が押し寄せていることがわかります。

    Shardul Amarchand Mangaldas & Co

    Express Towers, 23/F, Nariman Point

    Mumbai, Maharashtra – 400 021, India

    Executive Chairman:
    Shardul Shroff

    Managing Partners:
    Pallavi Shroff and Akshay Chudasama

    電話: +91 22 4933 5555
    Eメール:Connect@AMSShardul.com

    www.amsshardul.com

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