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香港

2023年、香港はパンデミックがもたらした困難を乗り越え、世界有数の仲裁ハブとしての地位を保ちました。国際貿易の再開とグレーターベイエリア(粤港澳大湾区)内外へのアクセスの改善に加え、アジア太平洋地域における地域的・国際的紛争の解決サービスの中心として香港が発展していくために、地方・中央政府が提供している支援を背景に、香港では国内・地域的・国際的な紛争を仲裁によって解決するための環境の向上が続いています。

香港が仲裁の誘致に力を入れているという評判は、仲裁に親和的な司法、UNCITRALモデル法が適用される地域としての地位、ならびに法令や制度に関するさまざまな発展によって支えられています。

本稿では、結果と結び付いた手数料体系、多段階紛争解決条項の解釈に対するアプローチについての終審法院の説示、中国の裁判所の暫定措置の広範な利用可能性という3つの特徴と、これらが香港の仲裁実務に与える影響について考察します。

結果と結び付いた手数料

Samuel Wong
Samuel Wong
弁護士、公認仲裁人
18LC法律事務所(香港)
電話: +852 3795 5636
Eメール: wongchatchor@gmail.com

仲裁に関する結果と結び付いた手数料体系(Outcome Related Fee Structures)についての規則(ORFS規則)が、2022年12月に発効しました。これにより、弁護士とクライアントは、仲裁の結果を条件とする手数料の取り決ができるようになりました。

これは、第三者による訴訟資金の提供(champerty)や訴訟維持が依然として違法行為だとされていることが示すとおり、香港の伝統的で保守的な訴訟資金調達とはかけ離れています。

ORFS規則には、条件付き手数料契約、損害賠償額に基づく契約、ハイブリッド型の損害賠償額に基づく契約の3種類の手数料体系が規定されています。その役割と長所については、Asia Business Law Journalの2022年5・6月号に掲載された専門家による論説記事ですでに検討されているため、本稿で再び論じる必要はありません。

しかし、特に興味深いのは、ハイブリッド型の損害賠償額に基づく契約において、手数料の一部をクライアントの勝訴に依存するとの追加条件です。

ORFS規則では、ハイブリッド型契約において、顧客が金銭的利益を得る場合、または金銭的利益が得られない場合のそれぞれについて、支払い額を定めるよう求められています。クライアントが敗訴した場合には、クライアントが支払う必要があるのは、上限額と呼ばれる回収不能費用の最大50%に限られます。これは、ORFSについての合意がなされたか否かにかかわらず、請求されたであろう標準的な弁護士費用に相当します。

一方、クライアントが勝訴したものの、契約のうち損害賠償額に基づく部分から生じる手数料が回収不能費用を下回る場合には、弁護士は、代わりに上限額、すなわちクライアントが敗訴した場合に支払われるはずだった回収不能費用の額を取得することを選択できます。

OFRS規則、特にハイブリッド型の損害賠償額に基づく契約に関する規則は、待ち望まれていた追加条項です。これにより多様な規模の国内外の企業が仲裁を利用しやすくなるばかりか、柔軟でありながら体系的な手数料の取り決めが可能になります。クライアントが勝訴した場合、弁護士は上限額と損害賠償額に基づく契約による支払額のどちらかを選択できるため、発生した手数料の回収が容易になります。特に、複雑な請求が複数含まれる仲裁の場合、一方当事者が一部にのみ勝訴し、裁定額が当初の請求額を大幅に下回る可能性は十分にあります。

OFRS制度では、弁護士が上限額と損害賠償額に基づく契約による支払額のいずれかを選択して請求することができます。これにより、クライアントのニーズや要望と、業務に対する十分な報酬を確保する必要性との間での均衡を取りやすくなります。複数の請求事項が関わる複雑な仲裁では、上記の点が特に重要であることは明白です。

多段階条項

Edward Ng
Edward Ng
弁護士、仲裁人
18LC法律事務所(香港)
電話: +852 3795 5636
Eメール: edward.ng@18lc.com

香港の仲裁への協力的なアプローチには、裁判所も寄与しています。2023年のC対Dの裁判において待ち望まれていた終審法院の判決は、コモンローの最高裁判所が初めてこの種の事案で判断を示したものです。判決では、仲裁契約における多段階または連鎖的紛争解決条項の解釈と理解について、妥当なアプローチが示されました。

C対Dの事案では、仲裁条項に、紛争が「当事者による書面でのかかる交渉の要請から、60営業日以内に友好的に解決できない場合は」、紛争は仲裁に付されると規定されていました。仲裁裁判所は、当事者は交渉要件を満たしたとみなし、被申立人に有利な裁定を下しました。控訴人は、仲裁裁判所は管轄権を欠いているという理由により、裁定の取り消しを求めました。

終審法院における争点は、仲裁契約に多段階紛争解決条項が含まれる場合、その前提条件の充足に関する仲裁裁判所の判断が、UNCITRALモデル法第34条(2)(a)(iii)に基づく裁判所の管轄の対象なのか、という問題でした。

裁判所は、全員一致で控訴を棄却しました。その理由は、契約の適切な解釈として、両当事者は仲裁の前提条件の充足に関する紛争を、仲裁裁判所に付託して審議することを意図していたと判断できるというものでした。そのため、控訴人は34条(2)(a)(iii)を根拠として、裁定の取り消しを求めることはできませんでした。

Roberto Ribeiro裁判官は、裁判所が仲裁の前提条件を見直す管轄権を有するためには、裁判所がそのように結論付ける前に、仲裁契約において明確な文言で定められていなければならないと判示しました(Andrew Cheung裁判長、Joseph Fok裁判官、Johnson Lam裁判官も同意見)。仲裁の前提条件は、契約の目的と当事者の意図の解釈に従い、裁判所の管轄ではないと推定されます。

また、裁判官の過半数は、管轄権と受理可能性を区別することが、多段階紛争解決条項の解釈に役立つと判示しました。端的に言えば、この区別とは、裁判所に対する異議(管轄権の問題)と、請求に対する異議(受理可能性の問題)の違いに基づくものです。

問題となった異議は、単に、請求が仲裁に付託された時期が尚早だったという点についての異議であり、この問題について決定し裁定を下す権限が裁判所にあることに同意しないという異議ではありませんでした。とはいえ、このような条項は判所の管轄の対象ではないと推定されるとされている以上、当事者が明示的な同意によって、裁判所が管轄権を有しない事項(多段階条項など)を、裁判所が管轄権を有する事項に変更することは可能です。これは仲裁条例の第3条(2)により具体化されています。この規定では、当事者は紛争がどのように解決されるべきかについて自由に合意することができ、裁判所は明示的に規定された紛争の仲裁にのみ、関与するべきであるとされています。しかし、このような裁判所の審査範囲の拡大は「通常の商業的期待に反する」とされました。

この判決は、管轄権についての紛争と受理可能性についての紛争の区別を明確に維持しました。この見解は、仲裁当事者の意図の確認についての確立されたアプローチを根拠としています。裁判所が仲裁に関する紛争への関与を検討する前に、商業的確実性の重要性と意思表示の明示の必要性を強調しているのは正当なことです。さらに重要なのは、この判決が、商業関係の当事者が香港の裁判所に通常期待し得ることを明らかにしていることです。裁判所は仲裁手続きに協力する用意はありますが、仲裁に関する紛争には限定的にしか関与しません。

結果としてこの判決は、香港が、商業関係の当事者が最初に締結した契約に基づき、信頼できる確実性をもってビジネスや紛争解決を行える、世界有数の仲裁ハブであるという評価の形成に貢献し、その評価を確固たるものにしました。

暫定措置

Thomas Yeon
Thomas Yeon
弁護士
18LC法律事務所(香港)
電話: +852 3795 5636
Eメール: thomas.yeon@18lc.com

今年はまた、中国の裁判所が出す暫定措置の利用拡大について、進展がありました。この端緒となったのは2019年、中国本土および香港特別行政区の裁判所による仲裁手続きの援助のための、裁判所命令による暫定措置の相互支援に関する取り決め(暫定措置についての取り決め)の締結です。香港で仲裁を行う当事者に対する資産保全命令、行為保全命令、証拠保全命令の利用が、2023年には増加しています。

2023年5月、アジア・アフリカ法律諮問委員会(AALCO)の香港地域仲裁センターは、香港仲裁人協会を含む15の異なる組織と覚書を交わしました。これは、香港と世界の仲裁制度との協調と統合がさらに進むことを意味しています。

AALCOは香港司法省が暫定措置の取り決めに基づく適格機関として承認した機関であるため、AALCOの仲裁を利用する当事者は、中国の裁判所に直接、暫定措置を求める申し立てを行うことができます。

アジア太平洋地域とアフリカ諸国との経済関係の強化が進んでいることを踏まえると、AALCOが、一帯一路構想に起因するビジネスや投資に関する紛争を含め、アジアとアフリカの企業間に生じる商事紛争の解決に利用できる、利便性の高いプラットフォームとなることが期待されます。

結論

このような法令面・制度面の発展を受け、今後も香港の仲裁環境は向上していくと期待されます。

仲裁の利用増加に向けた政府の継続的な支援と、世界各地の新興経済国との商業関係の発展を背景に、香港特別行政区は、内外の多様な業界の商業関係の当事者にとって先進的で信頼性が高く、利便性の高い紛争解決センターとしての役割を十分に果たすことができる態勢にあります。

18LC

18LC

Rooms 1808–09, Tower One, Lippo Centre
89 Queensway, Admiralty, Hong Kong
電話: +852 3795 5636
Eメール: info@18LC.com
www.18lc.com

インド

インドは、紛争解決の代替的メカニズムとして仲裁を推奨する措置を講じてきており、1996年に仲裁調停法(以下「仲裁法」)を制定してからは、より効率的で安全な仲裁プロセスを促進しています。同法には、2015年と2019年に大幅な改正が行われました。

裁判所もまた、判決を通じてこの目標を推進する上で、重要な役割を果たしてきました。しかし、裁判所はほとんどの場合において、こうした主義を推進してきましたが、時折、相反する判決が下されて、仲裁法の改正を引き起こすという後退もありました。

本稿では、仲裁合意の印紙貼付に関する最高裁判決、仲裁人選任段階における裁判所の調査範囲の限定に関する最高裁判決、そして仲裁における第三者資金提供に関する高裁判決という、最近のインドにおける3件の司法判決に焦点を当てます。

印紙税契約

Ila Kapoor
パートナー
Shardul Amarchand Mangaldas & Co(ニューデリー)
電話: +91 11 4060 6060 (Ext. 4152)
Eメール: ila.kapoor@amsshardul.com

NN Global Mercantile対lndo Unique Flame & Anrの件では、仲裁合意を含む契約書に、インド印紙税法(1899年)に基づく印紙税が支払われていなかったため、最高裁判所が最近下した判決は、かかる契約書によって裁判所が仲裁人の選任について決定を行うことはできないとしました。

これにより裁判所には、仲裁合意について決定を行う前に、該当する書類に適切な印紙税が支払われていることを確認する必要が生じました。最高裁は、実体法(この場合はインド印紙税法)の運用によって強制力を持たない契約は、インド契約法(1872年)のもとでは有効な契約にはならないとしました。

この決定は、裁判所による審判機関の選任を遅らせるために利用されるのではないか、という不安感が広がるなど、その誤用の可能性と影響に関して、仲裁界に懸念を生じさせています。もう一つの懸念は、原契約に印紙が貼付されていなかった、あるいは印紙添付が不十分であったという理由で、裁定に対する当事者の異議申立てが助長されることです。

外国人投資家は通常、インドの実体法を知らず、契約の執行可能性をインド側の取引相手に委ねることが多いため、ここに危険信号がついたことになります。この不法性が是正されるまで、契約書に印紙が貼付されていないという事は、仲裁手続を開始する際のアキレス腱と言うべき弱点になります。これに関しては、印紙の事後貼付が罰金の対象となるばかりか、長く煩雑な手続を要する可能性があるのです。

この判決は、現在進行中の仲裁への影響について何ら見解を示していませんが、インド司法当局は、同判決が導く可能性のある幾つかの法的障害をいち早く認識し、それに対処しています。

直近では、7月4日にデリー高裁で開かれたArg Outlier Media Private対HT Mediaの裁判で、裁定債務者は、NN Globalの判決において、印紙添付が不十分または不適切であった契約が仲裁人による仲裁を受けるに至らなかったことを理由として、裁定の無効を求めました。

高裁は、この理由で裁定を無効とするという訴えを退けました。この判決では、仲裁合意を含む当該契約は、適切な印紙貼付がされていなかったため、証拠として認められるべきではなかったとしています。しかし、ひとたびそれが認められた以上、その結果である裁定を、かかる理由で非難することはできません。

この判決により、NN Global判決の実質的な影響によって、異議申立てが増加するという懸念が緩和されました。これは確かに正しい方向への一歩ではあるものの、高裁の判決は、この判決によって生ずる仲裁人選任の遅延の可能性には触れていないため、まだ先に道のりがあります。

また、最高裁が、印紙貼付不十分な仲裁合意の執行可能性に関わる別の判決において、救済申立ての審理に同意したことから、トンネルの終わりに光を見ることもできます。

これが明確になるまで、当事者らは契約書にインド印紙法に基づく印紙が貼付されていて執行可能であることを確認し、紛争が発生した場合の潜在的遅延を回避するよう、努力すべきです。

二段階調査

Shruti Sabharwal
Shruti Sabharwal
パートナー
Shardul Amarchand Mangaldas & Co(ニューデリー)
電話: +91 11 4060 6060 (Ext. 6010)
Eメール: shruti.sabharwal@amsshardul.com

今年4月、最高裁判所はNTPC Limited対SPML Infraの裁判において、仲裁法に基づく裁判所の事前照会管轄権の問題を取り扱い、仲裁人を選任する際の裁判所の調査範囲が限定的であることを強調しました。

この事件で争点となったのは、当事者間に紛争が存在しないという理由で、仲裁審判所の選定に対して相手方当事者が提起した異議でした。相手方当事者は、相手方当事者のすべての義務が充分に免除されたと述べた和解契約を、その根拠としていました。

最高裁では、この文脈における紛争の存在は、仲裁人を選任する付託裁判所が決定すべきか、それとも審判所の検討に委ねるべきか、という点が争われました。

過去においては、裁判所は当事者を仲裁に付託する前に、主張の信憑性を一応検討しなくてはならないという立場でした。それらの判例は、インドで行われる仲裁への司法の介入を最小限に抑えるという考え方と合致しなかったため、立法府は2015年の法改正によってこれに介入しました。これにより、仲裁人を選任する裁判所の権限は、仲裁合意が当事者間に存在するかどうかを検討することであり「それ以上でも、それ以下でもない」と限定されたのです(2017年、Duro Felguera対Gangavaram Portの件)。

NTPCの判決は、司法の介入を最小限に抑えるという立法の趣旨を反映したものです。それはさらに、裁判所は2つの限定的な調査を行う必要があることを明らかにしています。

第一に調査するのは、仲裁合意の存在と有効性です。それには、契約の当事者たちが誰であるのか、そしてそれらの当事者がこの裁判の当事者たちであるのかを審査する必要があります。

第二の調査は、紛争が仲裁可能であるかを審査することに限定されます。裁判所はまた、第二の調査とは「この請求が仲裁不可能であることには一抹の疑いもない」という結論に至る事実を、一応精査することであると明らかにしました。

最高裁が定めたこのルールは明確です。仲裁不可能との異議に対する一応の審査で、結論が出ないと判断された場合、紛争は仲裁に付託されます。第二の調査は、仲裁不可能であることが明白な場合に、仲裁を強制されることから、当事者を保護することに限定されているのが明らかであり、枯れ枝を切り払うのを目的にしているのです。

この決定は、仲裁不可能性に関するすべての問題については、仲裁審判所が優先的に決定するという原則を補強しています。これにより、仲裁を遅らせる目的で、選任段階で異議を申し立てようとする当事者らは、その前によくよく考えるようになるため、裁判所による仲裁審判所選任がより効率的、かつ迅速に行われるようになります。

第三者資金提供

Surabhi Lal
Surabhi Lal
シニア・アソシエイト
Shardul Amarchand Mangaldas & Co(ニューデリー)
電話: +91 11 4159 0700
Eメール: surabhi.lal@amsshardul.com

デリー高等裁判所が今年5月に下した、Tomorrow Sales Agency対SBS Holdingsの判決は、これまで法的に認められた原則ではなかった、仲裁への第三者資金提供の法的有効性を明確にしました。しかし、この慣行は裁判所の判決の中では暗黙のうちに認められてきました。

高裁は、裁定権者が申立人とその第三者資金提供者に対して、仲裁裁定を執行できるかどうかという問題を取り扱っていました。申立人は、裁定を充足させることができませんでした。その後、裁定権者は申立人の仲裁に資金を提供している第三者に対して、裁定額の支払いを要求しましたが、拒否されたのです。

裁定権者は、裁定額の担保命令、資産および保有資産の開示、裁定債務者および第三者資金提供者からの資産移転を規制する命令という形での、暫定的な救済を求めました。

この救済措置は、高裁の単一の判事によって認められました。しかし控訴審では、複数判事による法廷(division bench)においてこの命令が覆され、資金提供者は裁定執行の対象となる裁定債務者としては扱えないという理由で、資金提供者を相手取った暫定救済の要求が却下されました。

高裁は、第三者による資金提供の目的、すなわち司法へのアクセスを確保するためということを強調し、仲裁における資金提供に関して、透明性と情報開示のための規制を整備することは必要であるが、「第三者資金提供者に、その者が負担に同意していない債務を課すこと」を法律が認めるとすれば、それは逆効果であるとの見解を示しました。

この判決は、とりわけ強制執行の当事者となることから第三者資金提供者を保護することにより、第三者資金提供をさらに合法化する一歩です。

願わくは、立法府が裁判所の見解に耳を傾け、インドにおいてこれまで、不安と心配を抱えて行われていた第三者資金提供に関して、正式な規制を整備してほしいものです。

結論

インドにおける仲裁の状況は、速いペースで進展しています。概して、裁判所は一貫して商業的に健全で、仲裁に適した判決を下していると言ってよいでしょう。立法府もまた、既存の法的枠組みにおける、予期せぬ落とし穴を修正する措置を講じているところです。

6月14日、政府は仲裁法の改革を提言するための、15名から成る専門家委員会を設置しました。この委員会は、数ヵ月以内に報告書を提出する予定です。

仲裁界の著名人を含むこの協議プロセスによって、現行制度の明らかな痛点が改善され、インドが国内外のユーザーにとってより仲裁に適した法域となることを期待しています。

SHARDUL AMARCHAND MANGALDAS & CO

Amarchand Towers
216 Okhla Industrial Estate, Phase III,
New Delhi – 110 020, India
電話: +91 22 4933 5555
Eメール: connect@amsshardul.com

日本

「日本が仲裁地として選ばれることが少ないのは、仲裁手続で使用される言語は日本語が前提となっており、外国人弁護士や当事者にとって不利であることが主な理由である」、また、「英語に堪能な仲裁人はほとんどおらず、日本人弁護士のみが依頼人の代理人を務めることができる」と、広く信じられています。

しかし、日本全体に起こっているグローバル化により、こうした誤解は解消されてきました。

使用言語については、2018年から22年にかけて、主要な国際仲裁機関である日本商事仲裁協会(JCAA)における国際仲裁事件の41%が英語を使用しており、英語が主な使用言語の一つであることがわかります。

英語で仕事ができる日本人仲裁人も増加しており、また、2018年から22年に JCAA の国際仲裁事件に選任された仲裁人の38%は日本以外の国籍で、その出身国は12ヵ国に及びます。法改正により、外国人弁護士も国際仲裁事件の代理人として認められるようになりました。

明らかに、仲裁の場としての日本に影響していると思われていたデメリットは解消されたのです。

仲裁法改正

Norika Yuasa, Miura & Partners
湯浅 紀佳
パートナー
三浦法律事務所
東京とサンフランシスコ
電話: +81 3 6270 3509

日本の仲裁法(以下、「AAJ」)は、国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)の国際商事仲裁モデル法の規定に従い、2003年に制定されました。

しかしながら、2006年のモデル法改正を反映するAAJの改正は行われませんでした。本年4月、ついにそれが実現し、AAJはモデル法の最新版に沿って改正されました。

具体的には、2023年改正で、仲裁裁判所が権利や証拠を保全するために出す命令である、暫定措置の種類と執行要件が定められたのです。

この執行は、係争中の財産や権利に対する著しい損害や急迫の危険を回避するために必要な措置、および/またはそれを回復するための措置と、財産の処分、審理妨害、証拠隠滅、その他の行為を禁止する措置とに大別できます。

暫定措置の執行を得ようとする当事者は、裁判所に対して、その強制執行等を許可する決定を求める申立てをすることができ、執行拒否事由があると裁判所が認める場合を除き、当該申立ては承認されることになります。

また、2023年改正以前は、申立人が裁判所に対して執行命令を求める申立てをする場合において、仲裁判断書が日本語以外の言語で作成されているときは、日本語訳文を裁判所に提出する必要がありました。仲裁判断書はかなり長文になることが多いため、この翻訳要件は当事者らにとって実務的な負担を強いるものでした。

しかし2023年の改正により、一定の場合には日本語訳を提出しなくても、執行命令を求める申し立てができるようになります。

さらに、仲裁地が日本国内にあるときは、東京地方裁判所および大阪地方裁判所にも競合管轄権が認められることとなりました。両裁判所には、仲裁事件に精通した裁判官がいます。

2023年の改正は、2023年4月28日の公布日から1年以内に発効することになっています。遅くとも、2024年5月以降の運用は、このAAJ改正に基づいて行われます。

日本の仲裁のメリット

Daichi Ito, Miura & Partners
伊藤 大智
アソシエイト
三浦法律事務所
東京
電話: +81 3 6270 3562

2023年改正に加えて、仲裁地として日本を選ぶことには他にもユニークな利点があります。まず、日本は大陸法に基づく国家です。したがって、日本で大陸法仲裁人を任命することは容易です。

2010年以来、JCAAの仲裁判断が日本以外の裁判所で否定されたケースはなく、最高裁で仲裁廷の判断が覆ったケースもないことを考えると、日本の裁判所のみならず、日本以外の裁判所も仲裁廷の判断を尊重しており、その判断が安定していることは明白です。

アメリカ、ヨーロッパ、アジアの中間点に位置する日本は、地理的な観点からも、仲裁人、弁護士、当事者、証人にとってアクセスが便利です。そのため、第三者裁判管轄地として選ぶには好都合な場所です。日本で仲裁が行われる可能性が高い東京と大阪は、世界で最も治安環境が良い場所でもあります。

加えて、日本の弁護士数は、国民一人当たりで見るとかなり少ないのです。これは、研修制度と司法試験制度の難易度の高さを裏付けています。弁護士になることの難しさは、法廷弁護士と事務弁護士の間の違いがなく、すべての弁護士は法廷弁護士を目指して訓練されることに由来しています。それゆえ、仲裁手続に携わる弁護士の質は高いレベルに保たれているのです。

仲裁費用

JCAA 仲裁人に支払う報酬一覧

請求額/経済価値 仲裁人の数 事務手数料 仲裁人報酬
商事仲裁(タイムチャージ、上限) 対話型仲裁(固定報酬)
2000万円(13万6000米ドル) 1名 50万円 200万円 100万円
1億円 1名 130万円 400万円 300万円
1億円 1名

3名

100万円

400万円

1,200万円

3,360万円

300万円

900万円

出典:JCAA公式サイト(https:jcaa.or.jp/arbitration/costs.html)

仲裁費用

仲裁手続の期間と費用についても、見てみましょう。上に示したJCAAの仲裁人に支払う報酬の一覧表を見ると、その金額は他国の仲裁人に比べて明らかに低いことがわかります。

日本での仲裁手続に要する期間も、短い傾向にあります。2013年から22年までに、JCAAにおいて手続開始から完了までに要した期間の平均は、12.9ヵ月でした。

仲裁地として日本を選ぶことに大きなメリットがあるのは明らかです。原則として、簡易手続は書類のみによるものであり、3ヵ月から6ヵ月以内に仲裁判断を下すよう合理的な努力が払われます。

さらに、日本国籍の仲裁人または大陸法の仲裁人が選任された場合、早い段階で争点を特定するための手続が行われ、証拠開示や文書開示の手続は行わないため、手続全体を可能な限り簡潔にできます。

文書作成は、当事者双方が特定の文書または特定カテゴリーの文書の相互開示を要求するため、非常にコストが高く、時間もかかります。文書作成を限定するというアイデアは、仲裁の費用と時間を節約する場合に、よく提案されます。

結論

仲裁地として日本を選ぶことに大きなメリットがあるのは明らかです。

上記のように、日本は仲裁地としての魅力を益々高めています。しかしながら、この国が選ばれることはまだ限定的です。そのため国際仲裁に関する議論が加速しており、新たな国際ハブの開発についても検討が進められています。

将来的には、日本人が関与する仲裁手続の場所としてのみならず、日本が国際仲裁事件の第三者裁判管轄地となる日が来ると、執筆者は考えております。本稿がその一助となれば幸いです。

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フィリピン

最近の法学の発展を受け、フィリピンの仲裁実務はさらに充実してきました。このような発展は、仲裁手続きの完全性、有効性、合理性を確保するために不可欠な法的・政策的原則に基づいています。

フィリピンでは、立法府と裁判所が仲裁に対して、継続して明確に親和的な姿勢を取っており、仲裁は、成長の続く活発な法務分野になっています。このことは、フィリピンの現行の仲裁法および仲裁手続き規則からも明白です。これらはすべて、世界で策定され、実践されている主要原則に合致しています。

概括すると、フィリピンには、回復・成長を続ける経済によって支えられ、法理論により補完される法的・政策的枠組みが備わっており、これによりフィリピンは、当地域において、仲裁と裁判外紛争解決における競争力のあるハブとしての地位を確立しています。

当事者自治は依然として最も重要

Jose Martin R Tensuan
Jose Martin R Tensuan
シニアパートナー
ACCRALAW法律事務所(マニラ首都圏)
電話: +632 8830 8000 ext. 8071
Eメール: mrtensuan@accralaw.com

Colmenares対Duterteの裁判(2022年)において、フィリピン最高裁判所は、フィリピン政府が中国輸出入銀行と締結した、特定の融資契約を対象とする仲裁契約に規定された法および裁判地の選択条項の有効性を認めました。

この条項には、融資契約、ならびに当事者それぞれの契約上の権利および義務は中国法に準拠し、それに従って解釈されること、また、融資契約に起因するいかなる紛争も、中国国際経済貿易仲裁委員会または香港国際仲裁センターが所管する仲裁において、それぞれの規則に基づいて解決されると規定されていました。

一部の特別利益団体が、この条項はフィリピンにとって著しく不利な内容になっており、国家は独立した外交政策を追求しなければならないという憲法上の指針に反していると、激しく非難しました。この指針では、フィリピンは他国との関係において、特に国家主権と国益を重点的に考慮するよう求められています。

この問題の解決に当たり、最高裁判所は当事者自治という仲裁の基本原則に関する条項を支持しました。最高裁判所は、商事契約に関する紛争の仲裁は「私人によって進められる、純粋に私的な裁定システムであり、有効で拘束力があり、執行可能であると常に認識されてきた」ものであり、仲裁契約は自由に解釈されるべきであり、それらの効力を認める解釈を採用すべきである、と判示しました。

また、外国の要素を含む契約については、lex loci intentionis(当事者が意図した法)の原則に従い、契約当事者の法の選択が尊重されると付言しました。最終的に裁判所は、当該条項はフィリピンの法律、道徳、公序良俗に反するものではなく、特別利益団体が主張する憲法違反の発生は、融資契約に規定された準拠法と紛争解決メカニズムが、フィリピンに実際の不利益をもたらしたことを証明できない以上、推測の域を出ないと判断しました。

手続きへの参加の不適用

Antonio Eduardo S Nachura Jr
Antonio Eduardo S Nachura Jr
パートナー
ACCRALAW法律事務所(マニラ首都圏)
電話: +632 8830 8000, ext. 8073
Eメール: asnachurajr@accralaw.com

Lone Congressional District of Benguet ProvinceLepanto Consolidated Mining Company and Far Southeast Gold Resourcesの裁判(2022年)において、最高裁判所は、仲裁契約の当事者ではない者が仲裁手続きに参加できるか、あるいは仲裁手続きの結果である裁定の承認や取り消しに関する司法手続きに参加できるかという問題について判断を示しました。

1990年にフィリピン政府と、ある鉱山会社数社の間で、ベンゲット州で採掘事業を行うための鉱産物分配契約が締結されました。契約の満期到来に先立ち、鉱山会社は25年を契約期間とする契約更新に関心を示しました。

しかしフィリピン政府は、更新するためには、まず暫定的に制定された先住民族権利法(IPRA)に基づく手続きを実施する必要があると主張しました。鉱山会社は、この新たなプロセスの適用を非難し、仲裁手続きを開始しました。仲裁廷は鉱山会社を支持する裁定を下しました。しかし、フィリピン政府の申し立てにより、現地の裁判所によってこの裁定は最終的に取り消されました。

この事案がフィリピン控訴裁判所で審理されている間に、地方政府の構成単位の一つであるベンゲット州は、IPRAによって保護されている住民の代表であり、鉱産物分配契約の更新によって影響を受ける立場にあるとして、手続きに参加する許可を求めて申し立てを行いました。控訴裁判所は第一審裁判所の判決を破棄しましたが、ベンゲット州の手続きへの参加を認めませんでした。

手続きへの参加に関する問題の解決に当たり、最高裁判所は、フィリピンの仲裁法および手続規則、特に裁判外紛争解決に関するフィリピン裁判所特別規則(ADR特別規則)には、仲裁契約の当事者以外の者が参加する方法は規定されていないと判示しました。

ADR特別規則の特定の規定は、通常の裁判手続きに適用される参加に関する規則の仲裁への補充的適用、あるいは仲裁に関連する裁判手続きへの適用でさえも認めていません。

仲裁手続きに参加する方法が設けられていないことは、フィリピンの仲裁法および規則の目的、すなわち、紛争解決における当事者自治、または当事者が任意に取り決めを行う自由を尊重し、紛争を迅速かつ効率的に解決し、訴訟の濫用を抑制するという目的に合致しています。

相互に対等な機関

Maria Celia H Poblador
Maria Celia H Poblador
シニアアソシエイト
ACCRALAW法律事務所(マニラ首都圏)
電話: +632 8830 8000, ext. 8337
Eメール: chpoblador@accralaw.com

ASEC Development and Construction CorpToyota Alabangの裁判(2022年)では、1件の建設契約と仲裁契約に関する紛争が2カ所の仲裁裁判所で審理され、それぞれ別の建設仲裁手続きを経て、2つの相反する仲裁裁定が下されたという事案が審理されました。

この事案の当事者は、自動車販売店のショールームの建設契約を締結していました。所有者が請負業者の作業範囲から、特定の建築工事を除くよう求めましたが、これに伴い契約価格の減額が生じるため、請負業者がこれに異議を唱え、当事者間で紛争が生じるに至りました。

請負業者は、フィリピン建設業仲裁委員会(CIAC)において仲裁手続きを開始しました。CIACは、フィリピン法において、建設に関する仲裁・紛争に対して原管轄権および専属管轄権付与されています。

仲裁は第1仲裁裁判所で行われ、請負業者に有利な最終裁定が下されました。所有者はこの結果を受け入れず、控訴裁判所に司法審査を求めました。

この控訴の係属中に、所有者は遅延を理由として建設契約を解除しました。このため、請負業者は再びCIACで仲裁手続きを開始しました。今回は、未払いとなっている工事進行基準に基づく請求の支払いを受ける権利が主な争点になりました。

その結果、第2仲裁裁判所は所有者を支持する判決を下しました。そして、第2仲裁裁判所は、所有者が除いた作業の評価についての、第1仲裁裁判所の事実認定を実質的に覆しました。その結果、請負業者はこの事案を控訴裁判所に上訴しました。

これらの控訴は控訴裁判所で統合され、最終的に、除かれた作業の問題について、所有者に有利な判決が下されました。

請負業者はさらに上訴し、最高裁判所は、第2仲裁裁判所が下した最終裁定を、第1仲裁裁判所がすでに解決していた、除かれた作業の問題に対して第2仲裁裁判所が判断した部分について、取り消しました。

最高裁判所は、2つの仲裁裁判所は相互に対等な機関であり、どちらの仲裁裁判所も、他方の仲裁裁判所が以前に解決した問題について、覆したり、取り消したり、別の裁定を下したりすることはできないと判示しました。

したがって、第1仲裁裁判所の事実認定に関する上訴が係属中であったとしても、第2仲裁裁判所はその事実認定に拘束されることになります。そうでなければ、当事者は自身に有利な裁定を得られるまで、仲裁の申し立てを重ねるようになりかねません。

規定期間

Maynilad Water ServicesNational Water and Resources Boardの裁判(2023年)では、国内の仲裁裁定の確認を求める申し立てを実施する時期に関する規則についての問題点が解明されました。

この事案は、事業許可契約に起因する国内の別個の仲裁に関するもので、主な争点は、許可水道事業者は利益が規制価格上限の対象となる公益事業者であるか、また、法人所得税を事業支出として処理することを禁止されているかどうか、という点でした。仲裁手続きのうち1件では、許可水道事業者が勝訴しました。

許可水道事業者は、自らに有利な裁定の確認を求めるに当たり、ADR特別規則第11.2に基づく規定期間(すなわち、裁定の当事者の受領から30日経過後であればいつでも)の適用を主張しました。相手側はこれに異議を唱え、フィリピン国内の仲裁に適用される仲裁法第23条の期間(すなわち、裁定が下された後1カ月以内であればいつでも)を代わりに適用すべきであると主張しました。

最高裁判所は、ADR特別規則の第11.2は、仲裁に関するフィリピンの主要法である裁判外紛争解決法の明示規定によって、仲裁法第23条に優越する効果を持つと判示しました。しかし最終的に、許可水道事業者に有利な裁定は公序良俗を理由に取り消されました。

上述のような進展からも明らかなとおり、フィリピンの仲裁実務は基本原則にしっかりと根ざし、賢明な司法機関に巧みに導かれています。フィリピンは仲裁実務に関して独自性のある立場を占めており、今後の飛躍的な発展に向けて機が熟しています。

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シンガポール

シンガポールは、世界トップクラスの仲裁機関を擁する安定した法的環境や、ニューヨーク条約およびUNCITRAL国際商事仲裁モデル法に準拠した仲裁ルールを支持する一流の司法などの特性が評価され、香港を上回り、ロンドンと並んで、世界で最も好まれる仲裁地にランクされています。

本稿では、シンガポールの裁判所によって、今年これまでに下された仲裁判決の中から、興味深いものを厳選して詳しく紹介します。

認識と執行

Colin Seow
Colin Seow
マネージング・ディレクター
Colin Seow Chambers(シンガポール)
Eメール: cseow@colinseowchambers.com

シンガポールの裁判所は、国際仲裁法(1994年)に基づく仲裁を支持し、裁判手続きの強制的な停止を認める際には、強固なアプローチを取り続けています。Parastate Labs Inc対Wang Li他(2023年)の裁判において、高等裁判所一般部は、関連する仮仲裁の解決まで、裁判手続きの裁量的な事件管理の停止を命じることが適切であると、さらなる判断を下しました。

一般部は、Tomolugen Holdings他一社対Silica Investors及び他の上告(2016年)という重大な事件の控訴審判決を受け、仮仲裁における請求は、すべての被告に対する請求の基礎となるものであるため、この停止は適切であったとしています。

他の2件において、一般部は仲裁合意の範囲内の請求と、破産手続の中でなされた非仲裁の請求との区別を取り上げました。

Founder Group (Hong Kong)清算中Singapore JHC(2023年)においては、一般部はサルフォード原則を再確認しました。それは、会社の清算手続における請求者が、債務は仲裁合意に基づいたものであるという理由で、自らを債権者であると主張した場合、破産裁判所は、債務に対する異議を含むことができる有効な仲裁合意が存在すると一応納得できれば、通常は清算申請を停止または却下するというものです。ただし、会社が手続を濫用している場合は、この限りではありません。

Gulf International HoldingDelta Offshore Energy(2023年)の件では、会社による債務否認について、同社が以前に債務責任を認めていたことから、一般部はこれを手続の濫用であると判断しました。しかし裁判所は、「場合によって、仲裁よりも破産制度を優先することを正当化し得る、公共の利害に関わる」司法管理申請においては、サルフォード原則はそれほど厳格に適用されないこともある、との見解を示しました。

一般部の見解では、仲裁合意に該当する債務の請求を受けた破産裁判所が、司法管理申請の停止または却下を控えるのは、会社が手続を濫用した行為を行っている場合に限られるべきではないとしています。それよりも、裁判所は「事実をより総合的に評価し、とりわけ(会社の)他の利害関係者の利益と、より広範な公共の利益を考慮」すべきなのです。

審判所の管轄権

CYY対CYZ(2023年)において一般部は、審判所が積極的な管轄権裁定に対する異議に直面した際、審判所の管轄権に関わる事項と、単に請求の許容性に関わる事項とを区別することを、再び示しました。申請者(被申立人)は、申立人が当事者らのチャーター契約に規定された契約条項の領域外で提供されたサービスに関して請求を進めているため、審判所にはそれに対する管轄権がないと主張しました。

しかし一般部は、申請者が「当事者らの実質的義務に関する契約解釈の問題」と「審判所の管轄権に関する問題」を混同しているとして、この異議を棄却しました。前者は許容可能性の問題であり、後者は一般的に仲裁条項の解釈に関わるもので、管轄権に関する問題だったのです。

また、CNA対CNB他一社および他の事件(2023年)においても、委任の終了を申し立てられたことから生じる問題を決定する際の、審判所の管轄権が明確化されました。国際商業会議所(ICC)の仲裁における主たる被申立人は、当事者間で後から仲裁合意を締結し、同じ紛争を別の仲裁機関に提出することによって、審判所への委託を打ち切ろうとしました。被申立人側は、申立人が以前に主たる被申立人に対して、申立人の代理として契約する権限を付与していたため、この操作は有効で申立人を拘束するものであり、よってICC仲裁審判所は今後の問題を決定するための委任を失った、と主張したのです。彼らは、審判所が管轄権を持たずに行動したという理由で、2件の部分的裁定を無効とするよう申請しました。

シンガポール国際商事裁判所(SICC)は、審判所には、仲裁への有効な付託後に発生した事象が、審判所からその管轄権を適切に剥奪したかどうかを判断する完全な能力があるとして、この申請を棄却しました。さらにSICCは、新たな審査の結果として、後から締結した仲裁合意は、主たる被申立人が申立人に対して負っていたフィデューシャリー・デューティに違反していると判断しました。

適正手続に関する異議

裁判所は、シンガポールで行われた裁定に対する監督権限の慎重な行使への監視を、継続的に例証しています。CWP対CWQ(2023年)の件では、一般部は、審判所による自然的正義の違反を主張して裁定の取消しを求めた申請を却下する際に、申立人が審判所の調査結果に対する、許しがたい異議申立てを試みていると判断しました。

判決の中で、一般部はシンガポールの長年にわたる司法方針を強調し、「裁判所は、事実上は偽装である上訴を行おうとする不服当事者の試みを警戒しなくてはならない」と述べています。

最小限のキュリアル介入の原則は、再びCWP対CWQ(2023年)において同様に実証されました。審判所の事件管理において適正手続違反があると、それが「ほぼ必然的に」審判所の裁量範囲内にあるにもかかわらず申し立てた裁定の取消申請を、SICCは誤認されたケースの「好例」であると述べました。

さらにSICCは、審判所が自然的正義のルールに違反したとしても、キュリアル介入を正当化する前に、裁判所は追加的に、その違反が不服当事者に実際のまたは現実的な不利益をもたらしたと、納得できなくてはならないと強調しました。

SICCは、申立人が手続上の期限を遵守しなかった過去のいくつかの事例を考慮し、申立人の専門家報告書および証人陳述書に制限付きの期限延長を審判所が課したことによって、自然的正義が否定されることはないと判断しました。

CFJ他一社対CFL他一社、および他の数件(2023年)では、訴訟手続き中に、申立人の国の司法当局によって構成された専門家パネルへの任命を、(開示することなく)受諾した仲裁人議長に対して、明らかな偏向との申立てがなされました。

SICCは、被申立人による仲裁人議長解任の申請を棄却するにあたり、客観的で「公正な考えを持ち、十分な情報に基づいたオブザーバー」のテストを適用し、申立ての原因はないと判断しました。

SICCは、「偏向の主張は、外見上明白であろうと、現実であろうと、慎重に検討され、説得力のある事実的根拠がある場合にのみ、提起されるべきである」と力説しました。

また、英国のHalliburton Company対Chubb Bermuda Insurance(2020年)の判決を引用し、仲裁人が開示を必要とするのは、「(合理的なオブザーバーが)公平性を欠く現実的な可能性があると結論付けた」任命および事項のみである、としました。

仲裁の守秘義務

注目すべき判決が2件あります。第一の、インド共和国対Deutsche Telekom(2023年)の件は、当事者らが裁判所での裁定執行手続において、法的プライバシーを享受できなくなるなど、仲裁における主秘義務が失われた場合の問題を提起しました。

裁定債務者が、SICCによる確定判決の執行に対して上訴するまでの間の封印または改訂命令を求めて、仮申請を提出しましたが、控訴裁判所はこれを棄却するにあたり、次のような理由で仲裁の守秘義務はすでに失われているとしました。(1)審判所の中間判決と最終判決、仲裁に関するスイス連邦裁判所の前例判決、および複数の法域における強制執行手続に提出された訴訟書類が公開されていること、(2)仲裁の詳細が、Global Arbitration Review誌、および仲裁債務者の弁護士のソーシャルメディアに掲載されていること。

第二の、CZT対CZU(2023年)では、審判所の審議記録の守秘義務に焦点が絞られました。ICC審判所における本案の決定では、意見が2対1に分かれ、少数派のメンバーがその反対意見の中で、多数派メンバーの公平性に強い疑念を投げかけました。その後、ある裁定債務者がICC審判所に対して、審議記録を求める申請を行ったのです。裁定債務者は、この提出命令の申請と並行して、裁定の無効を求める申請も行いました。

SICCは、仲裁人の審議の守秘義務は「法律上の暗黙の義務」として存在し、それは「本質的な手続の問題」(共同仲裁人が審議から除外されたと申し立てられた場合など)には及ばないとしました。

しかしSICCは、すべての手続問題を守秘義務から切り離すという断定的な規定を認めることはせず、それに代えて「審議記録の提出を命ずる司法の利益が、審議の守秘義務を守る政策的理由を上回るという事実と状況であれば、その件は例外に該当する」として、守秘義務の例外についてより自由な表現のほうを選びました。

事実としては、SICCは例外を適用するほど説得力のある理由は無いと判断し、この提出命令を許可しませんでした。

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