香港における仲裁の現状

    By Samuel Wong, Edward NgとThomas Yeon, 18LC法律事務所(香港)
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    2023年、香港はパンデミックがもたらした困難を乗り越え、世界有数の仲裁ハブとしての地位を保ちました。国際貿易の再開とグレーターベイエリア(粤港澳大湾区)内外へのアクセスの改善に加え、アジア太平洋地域における地域的・国際的紛争の解決サービスの中心として香港が発展していくために、地方・中央政府が提供している支援を背景に、香港では国内・地域的・国際的な紛争を仲裁によって解決するための環境の向上が続いています。

    香港が仲裁の誘致に力を入れているという評判は、仲裁に親和的な司法、UNCITRALモデル法が適用される地域としての地位、ならびに法令や制度に関するさまざまな発展によって支えられています。

    本稿では、結果と結び付いた手数料体系、多段階紛争解決条項の解釈に対するアプローチについての終審法院の説示、中国の裁判所の暫定措置の広範な利用可能性という3つの特徴と、これらが香港の仲裁実務に与える影響について考察します。

    結果と結び付いた手数料

    Samuel Wong
    Samuel Wong
    弁護士、公認仲裁人
    18LC法律事務所(香港)
    電話: +852 3795 5636
    Eメール: wongchatchor@gmail.com

    仲裁に関する結果と結び付いた手数料体系(Outcome Related Fee Structures)についての規則(ORFS規則)が、2022年12月に発効しました。これにより、弁護士とクライアントは、仲裁の結果を条件とする手数料の取り決めができるようになりました。

    これは、第三者による訴訟資金の提供(champerty)や訴訟維持が依然として違法行為だとされていることが示すとおり、香港の伝統的で保守的な訴訟資金調達とはかけ離れています。

    ORFS規則には、条件付き手数料契約、損害賠償額に基づく契約、ハイブリッド型の損害賠償額に基づく契約の3種類の手数料体系が規定されています。その役割と長所については、Asia Business Law Journalの2022年5・6月号に掲載された専門家による論説記事ですでに検討されているため、本稿で再び論じる必要はありません。

    しかし、特に興味深いのは、ハイブリッド型の損害賠償額に基づく契約において、手数料の一部をクライアントの勝訴に依存するとの追加条件です。

    ORFS規則では、ハイブリッド型契約において、顧客が金銭的利益を得る場合、または金銭的利益が得られない場合のそれぞれについて、支払い額を定めるよう求められています。クライアントが敗訴した場合には、クライアントが支払う必要があるのは、上限額と呼ばれる回収不能費用の最大50%に限られます。これは、ORFSについての合意がなされたか否かにかかわらず、請求されたであろう標準的な弁護士費用に相当します。

    一方、クライアントが勝訴したものの、契約のうち損害賠償額に基づく部分から生じる手数料が回収不能費用を下回る場合には、弁護士は、代わりに上限額、すなわちクライアントが敗訴した場合に支払われるはずだった回収不能費用の額を取得することを選択できます。

    OFRS規則、特にハイブリッド型の損害賠償額に基づく契約に関する規則は、待ち望まれていた追加条項です。これにより多様な規模の国内外の企業が仲裁を利用しやすくなるばかりか、柔軟でありながら体系的な手数料の取り決めが可能になります。クライアントが勝訴した場合、弁護士は上限額と損害賠償額に基づく契約による支払額のどちらかを選択できるため、発生した手数料の回収が容易になります。特に、複雑な請求が複数含まれる仲裁の場合、一方当事者が一部にのみ勝訴し、裁定額が当初の請求額を大幅に下回る可能性は十分にあります。

    OFRS制度では、弁護士が上限額と損害賠償額に基づく契約による支払額のいずれかを選択して請求することができます。これにより、クライアントのニーズや要望と、業務に対する十分な報酬を確保する必要性との間での均衡を取りやすくなります。複数の請求事項が関わる複雑な仲裁では、上記の点が特に重要であることは明白です。

    多段階条項

    Edward Ng
    Edward Ng
    弁護士、仲裁人
    18LC法律事務所(香港)
    電話: +852 3795 5636
    Eメール: edward.ng@18lc.com

    香港の仲裁への協力的なアプローチには、裁判所も寄与しています。2023年のC対Dの裁判において待ち望まれていた終審法院の判決は、コモンローの最高裁判所が初めてこの種の事案で判断を示したものです。判決では、仲裁契約における多段階または連鎖的紛争解決条項の解釈と理解について、妥当なアプローチが示されました。

    C対Dの事案では、仲裁条項に、紛争が「当事者による書面でのかかる交渉の要請から、60営業日以内に友好的に解決できない場合は」、紛争は仲裁に付されると規定されていました。仲裁裁判所は、当事者は交渉要件を満たしたとみなし、被申立人に有利な裁定を下しました。控訴人は、仲裁裁判所は管轄権を欠いているという理由により、裁定の取り消しを求めました。

    終審法院における争点は、仲裁契約に多段階紛争解決条項が含まれる場合、その前提条件の充足に関する仲裁裁判所の判断が、UNCITRALモデル法第34条(2)(a)(iii)に基づく裁判所の管轄の対象なのか、という問題でした。

    裁判所は、全員一致で控訴を棄却しました。その理由は、契約の適切な解釈として、両当事者は仲裁の前提条件の充足に関する紛争を、仲裁裁判所に付託して審議することを意図していたと判断できるというものでした。そのため、控訴人は34条(2)(a)(iii)を根拠として、裁定の取り消しを求めることはできませんでした。

    Roberto Ribeiro裁判官は、裁判所が仲裁の前提条件を見直す管轄権を有するためには、裁判所がそのように結論付ける前に、仲裁契約において明確な文言で定められていなければならないと判示しました(Andrew Cheung裁判長、Joseph Fok裁判官、Johnson Lam裁判官も同意見)。仲裁の前提条件は、契約の目的と当事者の意図の解釈に従い、裁判所の管轄ではないと推定されます。

    また、裁判官の過半数は、管轄権と受理可能性を区別することが、多段階紛争解決条項の解釈に役立つと判示しました。端的に言えば、この区別とは、裁判所に対する異議(管轄権の問題)と、請求に対する異議(受理可能性の問題)の違いに基づくものです。

    問題となった異議は、単に、請求が仲裁に付託された時期が尚早だったという点についての異議であり、この問題について決定し裁定を下す権限が裁判所にあることに同意しないという異議ではありませんでした。とはいえ、このような条項は判所の管轄の対象ではないと推定されるとされている以上、当事者が明示的な同意によって、裁判所が管轄権を有しない事項(多段階条項など)を、裁判所が管轄権を有する事項に変更することは可能です。これは仲裁条例の第3条(2)により具体化されています。この規定では、当事者は紛争がどのように解決されるべきかについて自由に合意することができ、裁判所は明示的に規定された紛争の仲裁にのみ、関与するべきであるとされています。しかし、このような裁判所の審査範囲の拡大は「通常の商業的期待に反する」とされました。

    この判決は、管轄権についての紛争と受理可能性についての紛争の区別を明確に維持しました。この見解は、仲裁当事者の意図の確認についての確立されたアプローチを根拠としています。裁判所が仲裁に関する紛争への関与を検討する前に、商業的確実性の重要性と意思表示の明示の必要性を強調しているのは正当なことです。さらに重要なのは、この判決が、商業関係の当事者が香港の裁判所に通常期待し得ることを明らかにしていることです。裁判所は仲裁手続きに協力する用意はありますが、仲裁に関する紛争には限定的にしか関与しません。

    結果としてこの判決は、香港が、商業関係の当事者が最初に締結した契約に基づき、信頼できる確実性をもってビジネスや紛争解決を行える、世界有数の仲裁ハブであるという評価の形成に貢献し、その評価を確固たるものにしました。

    暫定措置

    Thomas Yeon
    Thomas Yeon
    弁護士
    18LC法律事務所(香港)
    電話: +852 3795 5636
    Eメール: thomas.yeon@18lc.com

    今年はまた、中国の裁判所が出す暫定措置の利用拡大について、進展がありました。この端緒となったのは2019年、中国本土および香港特別行政区の裁判所による仲裁手続きの援助のための、裁判所命令による暫定措置の相互支援に関する取り決め(暫定措置についての取り決め)の締結です。香港で仲裁を行う当事者に対する資産保全命令、行為保全命令、証拠保全命令の利用が、2023年には増加しています。

    2023年5月、アジア・アフリカ法律諮問委員会(AALCO)の香港地域仲裁センターは、香港仲裁人協会を含む15の異なる組織と覚書を交わしました。これは、香港と世界の仲裁制度との協調と統合がさらに進むことを意味しています。

    AALCOは香港司法省が暫定措置の取り決めに基づく適格機関として承認した機関であるため、AALCOの仲裁を利用する当事者は、中国の裁判所に直接、暫定措置を求める申し立てを行うことができます。

    アジア太平洋地域とアフリカ諸国との経済関係の強化が進んでいることを踏まえると、AALCOが、一帯一路構想に起因するビジネスや投資に関する紛争を含め、アジアとアフリカの企業間に生じる商事紛争の解決に利用できる、利便性の高いプラットフォームとなることが期待されます。

    結論

    このような法令面・制度面の発展を受け、今後も香港の仲裁環境は向上していくと期待されます。

    仲裁の利用増加に向けた政府の継続的な支援と、世界各地の新興経済国との商業関係の発展を背景に、香港特別行政区は、内外の多様な業界の商業関係の当事者にとって先進的で信頼性が高く、利便性の高い紛争解決センターとしての役割を十分に果たすことができる態勢にあります。

    18LC

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