シンガポールにおける仲裁の現状

    By Colin Seow, Colin Seow Chambers(シンガポール)
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    シンガポールは、世界トップクラスの仲裁機関を擁する安定した法的環境や、ニューヨーク条約およびUNCITRAL国際商事仲裁モデル法に準拠した仲裁ルールを支持する一流の司法などの特性が評価され、香港を上回り、ロンドンと並んで、世界で最も好まれる仲裁地にランクされています。

    本稿では、シンガポールの裁判所によって、今年これまでに下された仲裁判決の中から、興味深いものを厳選して詳しく紹介します。

    認識と執行

    Colin Seow
    Colin Seow
    マネージング・ディレクター
    Colin Seow Chambers(シンガポール)
    Eメール: cseow@colinseowchambers.com

    シンガポールの裁判所は、国際仲裁法(1994年)に基づく仲裁を支持し、裁判手続きの強制的な停止を認める際には、強固なアプローチを取り続けています。Parastate Labs Inc対Wang Li他(2023年)の裁判において、高等裁判所一般部は、関連する仮仲裁の解決まで、裁判手続きの裁量的な事件管理の停止を命じることが適切であると、さらなる判断を下しました。

    一般部は、Tomolugen Holdings他一社対Silica Investors及び他の上告(2016年)という重大な事件の控訴審判決を受け、仮仲裁における請求は、すべての被告に対する請求の基礎となるものであるため、この停止は適切であったとしています。

    他の2件において、一般部は仲裁合意の範囲内の請求と、破産手続の中でなされた非仲裁の請求との区別を取り上げました。

    Founder Group (Hong Kong)清算中Singapore JHC(2023年)においては、一般部はサルフォード原則を再確認しました。それは、会社の清算手続における請求者が、債務は仲裁合意に基づいたものであるという理由で、自らを債権者であると主張した場合、破産裁判所は、債務に対する異議を含むことができる有効な仲裁合意が存在すると一応納得できれば、通常は清算申請を停止または却下するというものです。ただし、会社が手続を濫用している場合は、この限りではありません。

    Gulf International HoldingDelta Offshore Energy(2023年)の件では、会社による債務否認について、同社が以前に債務責任を認めていたことから、一般部はこれを手続の濫用であると判断しました。しかし裁判所は、「場合によって、仲裁よりも破産制度を優先することを正当化し得る、公共の利害に関わる」司法管理申請においては、サルフォード原則はそれほど厳格に適用されないこともある、との見解を示しました。

    一般部の見解では、仲裁合意に該当する債務の請求を受けた破産裁判所が、司法管理申請の停止または却下を控えるのは、会社が手続を濫用した行為を行っている場合に限られるべきではないとしています。それよりも、裁判所は「事実をより総合的に評価し、とりわけ(会社の)他の利害関係者の利益と、より広範な公共の利益を考慮」すべきなのです。

    審判所の管轄権

    CYY対CYZ(2023年)において一般部は、審判所が積極的な管轄権裁定に対する異議に直面した際、審判所の管轄権に関わる事項と、単に請求の許容性に関わる事項とを区別することを、再び示しました。申請者(被申立人)は、申立人が当事者らのチャーター契約に規定された契約条項の領域外で提供されたサービスに関して請求を進めているため、審判所にはそれに対する管轄権がないと主張しました。

    しかし一般部は、申請者が「当事者らの実質的義務に関する契約解釈の問題」と「審判所の管轄権に関する問題」を混同しているとして、この異議を棄却しました。前者は許容可能性の問題であり、後者は一般的に仲裁条項の解釈に関わるもので、管轄権に関する問題だったのです。

    また、CNA対CNB他一社および他の事件(2023年)においても、委任の終了を申し立てられたことから生じる問題を決定する際の、審判所の管轄権が明確化されました。国際商業会議所(ICC)の仲裁における主たる被申立人は、当事者間で後から仲裁合意を締結し、同じ紛争を別の仲裁機関に提出することによって、審判所への委託を打ち切ろうとしました。被申立人側は、申立人が以前に主たる被申立人に対して、申立人の代理として契約する権限を付与していたため、この操作は有効で申立人を拘束するものであり、よってICC仲裁審判所は今後の問題を決定するための委任を失った、と主張したのです。彼らは、審判所が管轄権を持たずに行動したという理由で、2件の部分的裁定を無効とするよう申請しました。

    シンガポール国際商事裁判所(SICC)は、審判所には、仲裁への有効な付託後に発生した事象が、審判所からその管轄権を適切に剥奪したかどうかを判断する完全な能力があるとして、この申請を棄却しました。さらにSICCは、新たな審査の結果として、後から締結した仲裁合意は、主たる被申立人が申立人に対して負っていたフィデューシャリー・デューティに違反していると判断しました。

    適正手続に関する異議

    裁判所は、シンガポールで行われた裁定に対する監督権限の慎重な行使への監視を、継続的に例証しています。CWP対CWQ(2023年)の件では、一般部は、審判所による自然的正義の違反を主張して裁定の取消しを求めた申請を却下する際に、申立人が審判所の調査結果に対する、許しがたい異議申立てを試みていると判断しました。

    判決の中で、一般部はシンガポールの長年にわたる司法方針を強調し、「裁判所は、事実上は偽装である上訴を行おうとする不服当事者の試みを警戒しなくてはならない」と述べています。

    最小限のキュリアル介入の原則は、再びCWP対CWQ(2023年)において同様に実証されました。審判所の事件管理において適正手続違反があると、それが「ほぼ必然的に」審判所の裁量範囲内にあるにもかかわらず申し立てた裁定の取消申請を、SICCは誤認されたケースの「好例」であると述べました。

    さらにSICCは、審判所が自然的正義のルールに違反したとしても、キュリアル介入を正当化する前に、裁判所は追加的に、その違反が不服当事者に実際のまたは現実的な不利益をもたらしたと、納得できなくてはならないと強調しました。

    SICCは、申立人が手続上の期限を遵守しなかった過去のいくつかの事例を考慮し、申立人の専門家報告書および証人陳述書に制限付きの期限延長を審判所が課したことによって、自然的正義が否定されることはないと判断しました。

    CFJ他一社対CFL他一社、および他の数件(2023年)では、訴訟手続き中に、申立人の国の司法当局によって構成された専門家パネルへの任命を、(開示することなく)受諾した仲裁人議長に対して、明らかな偏向との申立てがなされました。

    SICCは、被申立人による仲裁人議長解任の申請を棄却するにあたり、客観的で「公正な考えを持ち、十分な情報に基づいたオブザーバー」のテストを適用し、申立ての原因はないと判断しました。

    SICCは、「偏向の主張は、外見上明白であろうと、現実であろうと、慎重に検討され、説得力のある事実的根拠がある場合にのみ、提起されるべきである」と力説しました。

    また、英国のHalliburton Company対Chubb Bermuda Insurance(2020年)の判決を引用し、仲裁人が開示を必要とするのは、「(合理的なオブザーバーが)公平性を欠く現実的な可能性があると結論付けた」任命および事項のみである、としました。

    仲裁の守秘義務

    注目すべき判決が2件あります。第一の、インド共和国対Deutsche Telekom(2023年)の件は、当事者らが裁判所での裁定執行手続において、法的プライバシーを享受できなくなるなど、仲裁における主秘義務が失われた場合の問題を提起しました。

    裁定債務者が、SICCによる確定判決の執行に対して上訴するまでの間の封印または改訂命令を求めて、仮申請を提出しましたが、控訴裁判所はこれを棄却するにあたり、次のような理由で仲裁の守秘義務はすでに失われているとしました。(1)審判所の中間判決と最終判決、仲裁に関するスイス連邦裁判所の前例判決、および複数の法域における強制執行手続に提出された訴訟書類が公開されていること、(2)仲裁の詳細が、Global Arbitration Review誌、および仲裁債務者の弁護士のソーシャルメディアに掲載されていること。

    第二の、CZT対CZU(2023年)では、審判所の審議記録の守秘義務に焦点が絞られました。ICC審判所における本案の決定では、意見が2対1に分かれ、少数派のメンバーがその反対意見の中で、多数派メンバーの公平性に強い疑念を投げかけました。その後、ある裁定債務者がICC審判所に対して、審議記録を求める申請を行ったのです。裁定債務者は、この提出命令の申請と並行して、裁定の無効を求める申請も行いました。

    SICCは、仲裁人の審議の守秘義務は「法律上の暗黙の義務」として存在し、それは「本質的な手続の問題」(共同仲裁人が審議から除外されたと申し立てられた場合など)には及ばないとしました。

    しかしSICCは、すべての手続問題を守秘義務から切り離すという断定的な規定を認めることはせず、それに代えて「審議記録の提出を命ずる司法の利益が、審議の守秘義務を守る政策的理由を上回るという事実と状況であれば、その件は例外に該当する」として、守秘義務の例外についてより自由な表現のほうを選びました。

    事実としては、SICCは例外を適用するほど説得力のある理由は無いと判断し、この提出命令を許可しませんでした。

    COLIN SEOW CHAMBERS
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    Eメール: enquiry@colinseowchambers.com

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