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日本組織内弁護士協会(JILA)の役割は、最近著しい変化を遂げていると、同会理事長の坂本英之氏は言います。

本の組織内弁護士は、もはや日常的な法務アドバイスに留まらず、日本企業の海外における進出や成長にとって中心的な役割を果たしているのです。この現象について、アジア・ビジネス・ロー・ジャーナルは、JILA理事長でジブラルタ生命保険(東京)の最高法務責任者である坂本英之氏と話し合いました。

当社も気づいたとおり、日本企業は昨今の熾烈な市場競争への適応を迫られており、組織内弁護士の役割はかつてないほど重要になっています。

Hideyuki Sakamoto
坂本英之

アジア・ビジネス・ロー・ジャーナル (ABLJ):日本における組織内弁護士の役割は、この数年でどのように変化したのでしょうか?

坂本英之:日本では、組織内弁護士の役割に変化が起きています。ビジネスのグローバル化や法規制の枠組の複雑化が進むのに伴って、日本の組織内弁護士は、組織の中で以前より戦略的な責任を負うようになり、経営上の意思決定にも関与するようになっています。

また法務部門以外に、コンプライアンス、リスク管理、経営企画、知的財産部門などの分野にも活躍の場を広げているのです。加えて、環境・社会・ガバナンス(ESG)、経済安全保障、サイバーセキュリティなどの新たな課題に対する支援の必要性が高まっているため、それらの課題にも積極的に取り組んでいます。さらに、リーガルテック・サービスが飛躍的に進化するにつれて、それを活用する組織内弁護士が増えています。

従来、組織内弁護士は会社を法的リスクから守るガーディアンとしての仕事に注力してきました。しかし現在では、パートナーとしてリスクテイクや戦略的意思決定に関与することを期待されています。法的リスクを評価し、解決策を考え、そしてビジネス目標を達成するために経営陣が法的リスクをとることを支援する。それが組織内弁護士の役割の最も重要な部分です。

ABLJ: 日本の組織内弁護士が直面している、現在のトレンドにはどのようなものがあるでしょうか、また、組織内弁護士はどのようにしてグローバルなリーガルトレンドを把握し、業務に取り入れているのでしょうか?

坂本:日本の組織内弁護士が直面している現在のトレンドには、規制の厳格化、ビジネスのグローバル化、テクノロジーの進歩、リスク管理強化の必要性などがあります。

グローバルなリーガルトレンドを常に把握し、業務に取り入れていくために、日本の組織内弁護士はいくつかの戦略を採用しています。彼らは積極的にリサーチに取り組み、出版物を読んで、常に世界の法整備に関する情報を取り入れています。また、国際的な法律や規制が自社に及ぼす影響を理解するために、外部の弁護士とも協力しています。そして、新しい知識を得るためにセミナーに参加します。こうした取り組みを支援するため、JILAは国際的な規制動向に精通した専門家によるセミナーを開催しています。

例えば、ChatGPTに関する先日のセミナーは、たいへん人気がありました。多くの参加者が集まりまして、・・・JILA始まって以来最多でした。ChatGPTによって自分たちの仕事がどう変わるのか、ChatGPTがそれほど良いものなら弁護士の仕事がなくなってしまうのかと、心配した人も多かったと思います。

私は、そうなるとは思いません。ChatGPTは、なかなか良いドラフトを作成できます。法律事務所の若手アソシエイトが作成するくらいのドラフトでも提供できますが、それでも弁護士がそのドラフトをチェックする必要があります。時々、ChatGPTはミスを犯します。

ChatGPTを利用することで、弁護士は調査やドラフト作成に費やす時間を低減することができ、そのかわりに、コミュニケーション、事実確認、問題の洗い出し、解決策発見などにより多くの時間を使うことができると、私は考えています。このツールは、弁護士の仕事の手助けができると思うのです。

ABLJ: 日本の組織内弁護士は、法務業界におけるテクノロジー活用の広がりに、どのように適応してきたのでしょうか?

坂本:組織内弁護士は、契約書のライフサイクル管理システム、人工知能(AI)による契約書レビュー、電子署名ツールなどのリーガル・テクノロジーを取り入れてきました。

これらのテクノロジーは、法務プロセスを合理化し、効率を高め、コストを低減するのに役立っています。組織内弁護士は、こうしたテクノロジーの導入や推進、そして組織内のプロセス構築に積極的に取り組んでいるのです。彼らはリーガルテックの進歩について常に最新情報を入手するようにしており、リーガルテック業者が提供する関連ワークショップやセミナーに参加します。

JILAは、リーガルテックに関する情報を、社内外で積極的に共有しております。JILA会員の中には、リーガルテックの専門家として認められ、政府の規制改革協議に関与している人もいます。

現在、政府は生成AIを含むAIの利用に関する包括的なガイドラインを作成中です。日本政府は、AI規制の国際的な動向を注視しています。

ABLJ: 組織内弁護士は、地域横断の法務チームを管理する際に、どのような課題に直面し、どのように対処できるのでしょうか?

坂本:ビジネスがグローバルに拡大している今日、より多くの組織内弁護士が地域横断の法務チームと仕事をしています。そうした多様性に富んだ法務チームを管理する際には、言葉の壁、時差、物理的な距離、文化の違いなど、さまざまな課題に直面します。彼らはまた、グローバルに標準化されたポリシーを実施することと、さまざまな商習慣や法制度を尊重することの、微妙なバランスをとる必要もあります。これらの課題に対処するには、いくつかの方法があります。

組織内弁護士は、オープンな対話を奨励し、定期的なチームミーティング開催を確実にし、テクノロジーを活用して地域間のシームレスなコミュニケーションを促進すると共に、各事業部が互いの法律の最新情報や文化について学ぶのを手助けします。また、地域横断で標準化されたプロセスやポリシーを導入し、一貫性の促進とワークフローの合理化を行います。それにより、各チームのアプローチが一致し、異なる法域にまたがる業務の管理と調整が容易になるのです。

さらに、各地域の現地弁護士の専門能力も活用します。組織内弁護士は、現地の法務状況を理解して規制遵守を促進するために、現地で組織内弁護士および/または現地の法律事務所のパートナーを雇用することができます。また、オンラインや対面のミーティングによって、現地の経営陣との信頼関係を築く努力もします。

ABLJ: 社外弁護士費用の管理については、日本の組織内弁護士はどのような戦略を用いてきたのでしょうか?

坂本:社外弁護士費用の管理は、組織内弁護士の仕事の重要な部分です。社内に強力な法務チームを構築すると、企業は広範囲な法務問題を社内で処理することができるようになり、外部の法務サービスやその関連コストの必要性が低減します。これは、日本の組織内弁護士の数がこの20年間で激増した理由のひとつです。

組織内弁護士は、それぞれの専門性に基づいて選択した外部弁護士と関係を構築し、プロジェクト管理のスキルを駆使して法務案件を効果的に管理し、コストをコントロールします。組織内弁護士は、リーガルテックの最新動向を常に把握しつつ、ビジネスニーズに基づいてリーガルテックのコストを最適化します。

ABLJ: 労働力人口が変化する中、日本の若手弁護士の育成を支援するために、JILAはどのような取り組みを行っているのでしょうか?

坂本:組織内弁護士の大半は、経験が15年未満です。そこでJILAは、若手および中堅の組織内弁護士の育成を支援するため、最新のリーガルトレンド、法律の新興分野、並びにリーガルテック、リーガル・オペレーションズ、環境・社会・ガバナンスを含む組織内法務の実務等に関するセミナー開催など、さまざまな取り組みを行っています。

また、JILA機関誌によってキャリアに関するヒントを提供したり、経験豊富な組織内弁護士が若手弁護士にキャリアのアドバイスを行うイベントを開催したりもしています。これは、彼らが自らのキャリアをナビゲートし、スキルを開発し、この職業についての洞察を得ることに役立ちます。若手の組織内弁護士を対象に、国際会議に参加するための資金援助も行っています。

加えて、JILAは世界各国の法曹協会や法務協会と連携し、JILA会員に国際的なイベント(参加)の機会を提供しています。

ABLJ: 新常態の後、法務チームはどのような体制で仕事をするのがベストだとお考えですか?

坂本:パンデミック以前には、多くの人が毎日オフィスに出勤する必要があると信じていましたが、パンデミックの最中に人々は毎日自宅で仕事ができることに気づきました。

最近では、週に二~三日はオフィスに出勤するハイブリッドなワークスタイルを従業員に求める企業が増えています。在宅勤務は、通勤の必要がなく、その時間を仕事やプライベートに使えるので便利だと思います。

しかし、オフィスでの仕事には、チームメンバーやビジネスパートナーと直接会ったり、会議の前後に何気ない会話をしたり、個人的な関係を築いたりできるなどのメリットがあります。ハイブリッド・ワークスタイルはその両方のメリットを提供できるので、多くの企業がこのワークスタイルを採用していると、私は思います。

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