ESG規制の地域比較:シンガポール

    By Tan Weiyi, Clyde & Co
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    環境・社会・ガバナンス(ESG)基準は、各国の規制当局がその目標達成と、グリーンウォッシングのような望ましくない慣行の増加を防ぐことを目指して、適切なガイドラインを自国に備えるにつれて、地域的にも国際的にも急速に重要視されてきています。

    シンガポールでは、世界的なトレンドやベストプラクティスを踏まえて、近年さまざまな進展があり、今後もさらなる動きが予期されています。

    開示要件とグリーン・ファイナンス

    Tan Weiyi
    Tan Weiyi
    パートナー
    Clyde & Co (シンガポール)
    電話: +65 6544 6532
    Eメール: weiyi.tan@clydeco.com

    シンガポール証券取引所(SGX)は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言を受けて、すべての発行体に対して2022会計年度からサステイナビリティ報告に気候関連の報告を記載することを義務付けました。

    初めは、気候関連報告は「遵守するか、説明するか」を基準としており、社会的・環境的影響や実績の開示を拒否する企業には説明を求めます。しかし、特定の業種の発行体に対しては、2023年度および2024年度から気候関連報告を義務付けることになります。

    SGXは、TCFDの勧告に基づき、気候関連報告の義務化について、業種別の段階的アプローチを導入しました。気候関連リスクが最も高い特定のセクターの発行体には、気候関連報告を義務化する緊急性が高いことから、それを考慮して業種に優先順位が付けられています。

    2023年度には、金融業界、農業・食品・林産物業界、およびエネルギー業界の発行体に気候関連報告が義務付けられます。2024年度には、報告義務が素材、建築、運輸業界に拡大されます。

    昨年7月、シンガポール金融管理局(MAS)が「リテールESGファンドの開示・報告ガイドライン」に関する通達を発表しました。これにより、2023年1月1日以降、ESG 表示付きで販売されるリテールファンドについて、投資のESGフォーカス、関連する基準、方法または指標、およびサステイナブル投資戦略を明らかにすることが、ファンドマネージャーに義務付けられました。これは、企業が環境に適合していると顧客に納得させようとする欺瞞的行為、グリーンウォッシングに対処するものです。

    このガイドラインは、ESGファンドの名称が誤解を招くようであってはならず、投資ポートフォリオや投資戦略がサステイナビリティへのフォーカスを反映していなくてはならないと定めています。ファンドは、純資産額の少なくとも3分の2がESG投資戦略に従って投資されることを確保しなければなりません。

    これとは別に、MASが設立した「グリーン・ファイナンス業界タスクフォース」(GFIT)は、シンガポールを拠点とする金融機関に対して、グリーンまたはグリーンへの移行と考えられる活動を特定するための分類システム、または分類法を提案しています。移行活動も対象とすることによって、より高いサステイナビリティへと段階的に進むことができ、出発点を考慮して包括的な経済・社会の発展を支援することができます。

    GFITは、2023年2月に第3回の諮問書を発表し、農林業または土地利用、資本財、廃棄物と水、情報・通信技術、および炭素の分離回収の5分野における、グリーン活動、並びにその移行活動の分類に関して、その具体的な基準値や要件について意見を募りました。

    とりわけ、この諮問書は「Do No Significant Harm〔(環境目的のいずれにも)著しい害を与えない〕」という基準についてのフィードバックを求めました。その意味は、気候変動の緩和に大きく貢献する活動を行う場合でも、それが他の四つの環境目的、すなわち気候変動への適応、健全な生態系と生物多様性の保護、資源の回復力と循環型経済、そして汚染の防止・制御に対して、悪影響を与えるような方法で行うべきではないということです。

    2023年6月28日、GFIT は第4回かつ最終の諮問書を発表しました。それは「シンガポール-アジア・タクソノミー」の分類による、石炭火力発電所の早期段階的廃止の基準値と基準に関するものです。この基準は、2023年7月28日の最終協議終了後に最終決定され、使用開始されます。

    2022年5月に発表されたMASの「環境リスク管理インフォメーション・ペーパー」は、保険会社、銀行、資産運用会社が環境リスクを管理するために行っているベストプラクティスを紹介し、さらなる取組みが必要な分野を強調して示しています。この文書はまた、リスク評価手法の開発、サステイナブル・ファイナンスの人材発掘、金融機関がグループレベルでの方針や手続きの策定を親会社に依存している場合、特に金融機関の本社がシンガポール国外にある場合のリスク管理手法の確立など、金融機関が課題に直面している様々な分野を指摘しています。

    グリーンウォッシング

    シンガポールでは、消費者保護(公正取引)法(CPFTA)が、グリーンウォッシングに関連するものを含む欺瞞的な主張から消費者を保護しています。さらに、シンガポール広告基準局(ASAS)は、広告主がその主張に正確かつ十分な裏付けを取るよう、「シンガポール広告規範」(SCAP)に基づくガイドラインを発行しました。CPFTAに基づく保護の範囲は、MASが規制する金融商品や金融サービスにも及び、ESG関連の目的を満たすと称する様々な商品に同法の適用範囲が広がっています。

    不実表示法は、消費者が不実表示の結果として商取引を行ったと考える場合、商業者に対して損害賠償を求めることができると定めています。しかし、同法が対象とするのは契約上の合意に起因する損害のみであり、グリーンウォッシングの事例は契約関係の中で発生したものに限定されません。

    誤解を招くような、あるいはグリーンウォッシュとみなされるような主張をするサプライヤーに遭遇した消費者は、シンガポール消費者協会に支援を求めることができます。深刻な場合、サプライヤーはシンガポール競争・消費者委員会 (CCCS) に報告され、さらなる調査の対象となることもあります。

    SCAP(シンガポール広告規範)に関しては、ASAS はSCAP に違反した広告に制裁を科すことができます。

    基本的に、シンガポールの国家環境庁(NEA)が、クリーンでサステイナブルな環境を維持する第一の責任を有し、サステイナビリティと資源効率性を促進する責任を負っています。NEA は2019年1月に公布された、シンガポールの炭素税規制「カーボンプライシング法」の監督も行っています。同法に付随する規則は現在改正中であり、詳細は追って発表され、すべての改正は2024年1月から発効します。

    他国における進展状況

    英国では、金融行動監視機構(FCA)が2022年10月に、投資商品の持続可能性表示や、「ESG」「グリーン」「サステイナブル」といった用語の使用制限を含む、グリーンウォッシングを取り締まる新たな措置を提案しました。これらの措置は、消費者を保護し、サステイナブルな投資商品に対する信頼を確立し、誠実さを促進し、ESG表示付き商品とそれを支えるエコシステムに対する信頼を確立することを意図しています。

    FCAは、企業がその主張を実証するための適格基準を設けました。それにより、企業が消費者に十分な情報を提供し、消費者が十分な情報に基づいた選択ができるようにするためです。FCAはまた、すべての規制対象企業に適用される一般的な「反グリーンウォッシング」規則の導入も計画しており、サステイナビリティに関連する主張が「明確、公正かつ誤解を招かない」ものであることを、求めることにしています。

    カナダでは、グリーンウォッシングは違法であり、競争局はグリーンウォッシングの主張を調査し、競争法、消費者包装表示法、繊維表示法などの適用法の遵守を確保する責任を負っています。

    グリーンウォッシングに対する罰則は厳しいものです。一例としては、2022年1月、飲料会社のキューリグ・カナダは、同社のコーヒーポッド、Kカップのリサイクルの可能性について、誤解を招くような主張をしたとして、競争委員会から300万カナダドル(220万米ドル)の罰金を科されました。グリーンウォッシングなどの欺瞞的行為に関与していると疑われる企業の従業員は、それを競争局に報告することができます。内部告発者の守秘義務と雇用は、競争法とカナダ刑法によって守られます。

    EUでは2023年3月に、環境に優しいとする企業の主張を正当化する方法を規制し、グリーンウォッシングに対処するための「グリーン・クレーム指令」を、欧州委員会が提出しました。この指令は、欧州議会と欧州理事会の承認を必要としていますが、グリーンウォッシングに関与する企業に対する罰則を設定することになります。指令草案では、違反が広範囲に及んだ場合、罰金の上限を事業者の年間総売上高の少なくとも4%と定めています。

    「世界自然保護基金シンガポール」のパイロット調査によると、ESG統合の取組みを改善するために、この島国(シンガポール)の民間銀行はリスク管理戦略を改善し、組織文化、ガバナンス、インセンティブを強化する必要があります。銀行はサステイナビリティに関する誓約を掲げてはいるが、プライベート・バンキングのシナリオでは、これらをカスタマイズし、効果的に統合する必要があると、この報告書は指摘しています。

    2023年6月、オランダの資産運用会社ヴァン・ランスコット・ケンペンは、環境リスクを審査する最新のESGテストに、この島国(シンガポール)が不合格であったとして、シンガポールの国が運用を支援する資産をブラックリストに掲載しました。この件を受けてシンガポール政府は、2050年までに排出量ゼロを達成するという公約に示したとおり、気候変動と闘うという同国のコミットメントを改めて表明しました。

    この分野ではさらに多くのことがなされる必要があり、近い将来、規制、サステイナブルな慣行、そして執行努力において、一層大きな進展があるものと期待しています。

    Clyde & Co in Singapore

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