ESG規制の地域比較:インドネシア

    By Denny Rahmansyah, Aldilla Stephanie Suwana そして Albertus Jonathan Sukardi, SSEK Law Firm
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    インドネシアにおける環境・社会・ガバナンス (ESG) の開示要件は、主として上場企業や金融機関に適用され、インドネシア金融庁(Otoritas Jasa KeuanganまたはOJK)の監督下にあります。

    天然資源セクターの非上場企業のみが、企業の社会・環境計画の作成を義務付けられています。その他の非上場企業はすべて、企業の社会的・環境的責任プログラム実施に関する情報を、年次報告書に記載することのみ義務付けられています。

    上場企業および金融サービス機関

    Denny Rahmansyah
    Denny Rahmansyah
    パートナー
    SSEK Law Firm (ジャカルタ)
    Eメール: dennyrahmansyah@ssek.com

    上場企業と金融機関については、OJK規則第51号(2017年)およびOJK通達第16号(2021年)により、ESG開示義務が課されています。

    「金融サービス機関、株式発行体(インドネシア語でEmiten)および上場企業のためのサステイナブル・ファイナンスの実施」に関する OJK規則第51号(2017年)は、一般的に金融機関や上場企業にサステイナブルな金融を実施する義務を課しています。

    これは、企業の年次報告書の一部または独立した報告書として、OJKにサステイナビリティ報告書を毎年提出することを義務付けたものです。

    「株式発行体 (Emiten) および上場企業の年次報告書の様式と内容」に関する OJK通達第16号(2021年)は、上場企業の年次報告書におけるESG開示の形式と内容を、指令によって規定しています。

    年次報告書は、会社概要の章に、サステイナブル・ファイナンスに関連する業界団体(国内または国際的)の一覧が記載されていなくてはなりません。年次報告書にはまた、社会的・環境的責任の一環として会社がとった行動も開示する義務があります。

    この開示は、 OJK規則第51号(2017年)が規定するサステイナビリティ報告であり、少なくとも以下の情報を記載しなくてはなりません。

    • サステイナブルな戦略
    • サステイナビリティの努力(経済、社会および環境)の概要
    • 簡潔な会社概要
    • 取締役会によるメッセージ
    • サステイナブルな企業統治
    • サステイナブルな活動実績
    • 独立した第三者による当該報告書とその情報に関する書面による検証(もし有れば)
    • 読者からのフィードバック(もし有れば)
    • 前年度の報告書にあるフィードバックに対する会社の対応

    これらのサステイナビリティ報告要件を遵守しなかった場合、上場企業または金融機関はOJKからの叱責または書面による警告という行政処分を受けます。

    上記のOJK規則および通達に基づく要件は、国際基準に基づいたものではありません。しかし、実際には一部の企業がそのESG報告において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)のような国際基準を参照し、義務ではないにもかかわらず、インドネシア法の要求を超える報告を行っています。

    OJK通達第16号(2021年)は、当該通達で義務付けられている最低限の開示とは別に、企業は必要かつ望ましい場合には国際基準を参照することもできる、とのみ言及しています。しかしながら、今のところ特定の国際基準を導入する具体的計画はありません。

    非上場企業

    Aldilla Stephanie Suwana, SSEK Law Firm
    Aldilla Stephanie Suwana
    シニア・アソシエイト
    SSEK Law Firm (ジャカルタ)
    Eメール: aldillasuwana@ssek.com

    天然資源を利用する非上場企業は、「企業の社会的・環境的責任」に関する政府規則第47号(2012年)に基づいて、企業の社会的・環境的責任計画を作成しなくてはなりません。

    それ以外の非上場企業は、有限責任会社法第40号(2007年)〔法律第6号(2023年)により改正(会社法)〕に基づいて規制されています。それは、年次報告書の一部として、環境および社会的責任実施報告書を作成する一般的な義務を指示するものです。

    会社法および政府規則第47号(2012年)に基づく指令は非常に一般的なものであり、実施報告書の基準や書式、どのような情報を記載しなくてはならないかについて、詳しく説明されていません。

    インドネシアはサステイナブルな開発と責任あるビジネス慣行を促進させる措置を講じてはきましたが、ESGコンプライアンスに関する規制の枠組みはまだ発展途上です。具体的なガイドラインや基準が存在しないため、企業がESG報告書や実績に対する期待度や要件を判断することを、難しくしている可能性があります。

    規制の体制が発展途上であること以外に、企業には次のような課題があります。データの利用可能性とその質、人材の専門知識と能力(特に明確なESG実践基準がない場合)、そして金融へのアクセス、すなわちグリーン・プロジェクトには十分なバンカビリティの前例がないため、従来の金融機関からの支援を得ることが難しく、グリーン・プロジェクトの立ち上げと運営を全体的に難しくしています。

    最後に、ESG情報開示に関する明確な義務規定がないことも、非上場企業がESGコンプライアンスに関して直面する課題です。

    気候目標

    Albertus Jonathan Sukardi, SSEK Law Firm
    Albertus Jonathan Sukardi
    アソシエイト
    SSEK Law Firm (ジャカルタ)
    Eメール: albertussukardi@ssek.com

    上場企業も非上場企業も、排出量削減やエネルギー転換といった気候変動に関する目標を独自に設定し、達成する義務はありません。それにも関わらず、全企業がサステイナビリティ志向の戦略を、サステイナビリティ報告書で開示しなくてはならないのです。

    しかし独自に設定する目標とは別に、特定の業種の企業は、結局のところ政府が定めた排出量の上限を課せられることになります。これは、インドネシアが導入を計画している炭素排出量取引制度のキャップ・アンド・トレードおよび/またはキャップ・アンド・タックスという方式に関連しています。例えば、エネルギー・鉱物資源省は、石炭火力発電所に対して排出量上限技術承認を発行する計画です。この排出量上限の対象となる企業は、自社の温室効果ガス排出量が政府決定の上限を超えないことを確保しなくてはなりません。

    これを遵守しない企業は、炭素税(まだ導入されていない)に直面するか、過剰排出量を相殺するために他社から排出量削減クレジットを購入する必要に迫られます。

    排出量上限以外には、気候関連の目標の設定、達成、開示を企業に義務付けるものはありません。

    脱炭素

    インドネシアは、「通常通り」のCO2排出量に比べて、無条件で31.89%、条件付きで43.2%の削減を目標にしています。

    この目標は、同国が強化した「国家的決定貢献」(NDC) の一環です。それは、「低炭素・気候レジリエンスに向けた長期戦略2050」に沿った第2期NDCへの移行であり、2060年またはそれ以前にネットゼロ排出を達成するというビジョンです。

    温室効果ガス排出量目標を達成するため、政府は、炭素取引市場の設立を目指して規制とインフラ整備に取り組んでおり、コンプライアンス炭素市場と自主的炭素市場の双方を意図しています。コンプライアンス炭素市場は、当初は石炭火力発電所に限定され、2025年以降は他の種類の発電所にも拡大される予定です。

    予想される炭素取引所は、炭素取引を実施する上で必要な規則を作成する義務のあるOJKによって認可されます。要約すると、現在考えられている炭素取引所は、以下のようなシステムになります。

    • 炭素取引を規制
    • カーボンユニットの所有権を記録
    • 炭素取引のインフラを開発
    • 炭素取引から得られる国の歳入を規制
    • 炭素取引の管理と監督

    OJKが炭素取引所の実施のために、ロジスティクスとインフラを整備する中、石炭火力発電所に対する炭素税の賦課は、当初2022年4月1日までに発効する予定でしたが、現在は2025年に導入される予定となりました。他の排出セクターも炭素税の対象となりますが、政府はまだ具体的な対象業種を決定していません。

    インドネシア環境・林業省と、非国内の炭素クレジット認証機関との間の相互承認協定やそのメカニズムは、現在も最終調整中であり、非国内の認証機関が発行した炭素クレジットを使った国際炭素取引は、あらゆる意図と目的において、禁止されています。

    グリーンウォッシング

    グリーンウォッシングは、法的概念としてまだ認識されておらず、インドネシアにはこれに対処する法律はありません。せいぜいは、民事または刑事責任のもとで、グリーンウォッシングに相当する可能性のある行為を行っている当事者に、損害賠償を請求したり、調査を開始したりするための根拠となる程度でしょう。

    そうした根拠として考えられるのは、取締役の受託者責任違反、虚偽表示に対する不法行為による請求、および(資本市場法に基づく資本市場関連詐欺であれ、刑法に基づく一般的な詐欺規定であれ)詐欺に関する刑事規定などです。

    これまで、グリーンウォッシングに関する法的手続や措置の例はなく、重要なグリーンウォッシングのクレームもありません。いずれにせよ、報告要件がより厳格になり、サステイナビリティに対する危機感が高まるにつれ、社会的監視の目が厳しくなって、企業(特に上場企業や金融機関)に対する賠償請求のリスクは高まると予想されます。

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