各国・地域の ESG 規制の比較: 日本

    By 北島隆次、戸田謙太郎 と 久保田修平、TMI総合法律事務所
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    近年、金融・投資の世界では、環境・社会・ガバナンス(ESG)に対する規制の重要性が高まっています。日本においても、政府や金融業界が持続可能性と社会的責任の推進に取り組むなか、このような規制の整備に向けて機運が高まっています。

    日本では、環境問題への対応、社会福祉の向上、コーポレート・ガバナンスの強化を目的として、種々の規制や取り組みが導入されてきました。本稿では日本のESG規制を概説します。

    気候変動

    Takatsugu Kitajima, TMI Associates in Tokyo
    北島隆次
    パートナー
    TMI総合法律事務所
    東京
    Eメール: takatsugu_kitajima@tmi.gr.jp

    「地球温暖化対策の推進に関する法律」は、一定量以上の温室効果ガスを排出する事業者(特定排出者)に対し、事業年度ごとに温室効果ガスの排出量を算定し、主務大臣に報告する義務を課しています(同法第26条)。

    特定排出者には、温室効果ガスプロトコルのスコープ1およびスコープ2の報告要件と同様の、直接・間接排出に関する報告が求められます。同法第29条には、報告された情報は環境省と経済産業省を通じて集計・公表され、企業とそのすべての事業所からの排出が対象になると規定されています。報告を怠った企業や虚偽の報告をした企業は罰金や過料を科されます(同法第75条、同法第73条)。

    特定排出者は、その事業所の排出量情報を公表することにより、自己の権利、競争上の地位またはその他の正当な利益が害されるおそれがあると考える場合には、公表を差し控えるよう要請することができます(同法第27条)。

    さらに、エネルギーの使用の合理化に関する法律第25条では、工場を有し、一定量のエネルギーを使用する事業者(特定事業者)に対し、エネルギー使用の合理化および非化石エネルギーへの転換の目標達成に向けて中長期計画の作成を義務付けています。また、同法第16条は、特定事業者に対して、当該事業の主務大臣にエネルギーの使用状況に関して定期的に報告するよう義務付けています。主務大臣は、特定事業者の取り組みが著しく不十分であると認めるときは、特定事業者に対し、助言または指示を行うことができます。特定事業者が指示に従わない場合、主務大臣はその事実を公表することができます(第17条、第18条)。

    政府は、自動車、家電製品、建材などの製造業者に対し、その製品のエネルギー消費効率目標を達成するよう求めることができ、効率改善が不十分な場合には勧告を行うことができます(第149条、第150条)。

    再生可能エネルギーの環境価値は証書の形で取引されており、日本には、J-クレジット(再生可能エネルギーに由来する場合)、グリーン電力証書、非化石証書の3種類の証書があります。これらの証書は、企業の電力購入契約において、また、再生可能エネルギー100%、カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト、前述の法定報告制度などのさまざまな報告制度で使用されています。また、2023年4月には、政府が主導するGX(グリーントランスフォーメーション)リーグにおいて、新たな排出量取引制度が始まりました。

    廃棄物管理

    Kentaro Toda
    戸田謙太郎
    パートナー
    TMI総合法律事務所
    東京
    Eメール: kentaro_toda@tmi.gr.jp

    廃棄物処理法第14条では、廃棄物の収集、運搬、処分を事業として行う企業に対し、都道府県知事の許可の取得を義務付けています。企業がこのような業務を許可なく行った場合、刑事責任を問われる可能性があります(第25条)。企業が自社の産業廃棄物を処分する場合、自社で処分するか、許可を受けた業者に委託しなければなりません(同法第12条)。

    企業が許可を取得していない業者に廃棄物管理業務を委託した場合、罰則が適用されます(同法第26条)。同法第12条には、廃棄物の処分に関する詳細な処理基準や委託基準、管理票制度による廃棄物の最終処分までのプロセス管理の方法なども規定されています。

    資源有効利用促進法では、特にリデュース・リユース・リサイクル(3R)に取り組む必要がある10業種・69品目が指定されており、製品の製造・設計・表示の各段階で事業者が自主的に取り組むべき3R対策の具体的内容が示されています。

    さらに、他にも、容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律、特定家庭用機器再商品化法、使用済小型電子機器等の再資源化の促進に関する法律、使用済自動車の再資源化等に関する法律、建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律、食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律などのリサイクル法が、個々の物品の性質に応じて適用されます。

    社会的側面

    ビジネスと人権の問題に関して、日本政府は2020年10月、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、ビジネスと人権に関する行動計画を策定しました。日本ではこれまでに、ビジネスと人権、あるいは人権デューデリジェンスに関する法律が制定されたことはありません。しかし、日本がG7サミットの議長国となることを受け、今年4月、政府が人権デューデリジェンスに関する法令の制定に向けて政府内で検討を始めると報じられました。議論が開始されてから間がないため、法案の内容の詳細はまだ明らかになっていません。

    Shuhei Kubota
    久保田修平
    アソシエイト
    TMI総合法律事務所
    東京
    Eメール: shuhei_kubota@tmi.gr.jp

    日本政府は、2021年11月に公表した「日本企業のサプライチェーンにおける人権に関する取組状況のアンケート調査」の結果を踏まえ、2022年9月に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定しました。本ガイドラインは、日本企業がサプライチェーンにおいて人権デューデリジェンスを実施する際に活用できる参考資料として策定されました。

    さらに、政府は今年4月、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」を公表しました。これには、ガイドラインに沿った取組みを行う企業が人権方針の策定する際や人権への負の影響の特定・評価を行うにあたって必要となる事項について、詳細な解説や事例が記載されています。

    企業が事業活動を行う際には、従業員、サプライヤー、顧客、地域社会の人々を含むステークホルダーの種々の権利に配慮する必要があります。伝統的に、日本企業は従業員の権利の保護に重点を置いてきました。しかし今日の企業は、自社の従業員にとどまらず、サプライチェーンに含まれる企業の従業員の権利についても考慮しなければなりません。

    日本では、労働基準法が雇用と労働関係について規制しています。また、労働基準法が労働者の労働条件について規制しており、なかでも児童労働や強制労働による問題の予防のための規定がおかれています。

    日本ではマイノリティの権利に関しても進展がみられます。性的少数者に対する差別を解消することを目的とする新法案が、直近の国会で可決されました。同法案は、LGBTへの理解を深め、LGBTコミュニティについての理解を社会に広めることを通じて差別を解消することを目的としています。

    ガバナンスと情報開示

    東京証券取引所が策定したコーポレートガバナンス・コード(CG コード)では、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則が示されています。CGコードでは、上場企業に、同コードの原則に関連した取組みや活動について説明するよう求めています。それには、持続可能性を巡る課題への適切な対応、持続可能性についての取組みの開示(特にプライム市場上場会社の場合は、「気候関連財務情報開示タスクフォース」またはそれと同等の枠組みに基づく開示)などが含まれます。

    また、「企業内容等の開示に関する内閣府令」が1月31日に施行され、2023年3月31日以後に終了する事業年度より、有価証券届出書または有価証券報告書の提出義務のある企業に対し、サステナビリティに関する考え方及び取組のうち、「ガバナンス」「リスク管理」及び多様性の確保を含む人材育成方針・社内環境整備方針、方針に関する指標内容等について有価証券報告書等の開示が義務付けられています。また、男女間賃金格差、女性管理職比率、男性の育児休業取得率に関する情報を含む人的資本や多様性についての情報を他の法令に基づき公表する場合には、これらの情報の開示も義務付けられています。

    TMI Associates

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