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新たなテクノロジーの発達と画期的な商品への需要の増加が、台湾におけるインシュアテック部門の成長を支えてきましたが、規制当局もようやくこの状況に追いつきつつあります。

テクノロジーがもたらすイノベーションが追い風となり、台湾の金融部門のバリューチェーンは近年大きく変化しており、保険部門もこうした変革の影響を例外なく受けています。フィンテックの興隆に続いて登場したインシュアテックは、まだ競合が存在しない未開拓市場であると考えられています。

2020年頃、インシュアテックはまだ、業務効率を改善するために主に保険会社の社内で利用されていました。現在、パンデミック中のロックダウンがきっかけとなり、消費者の行動が変化しただけでなく、インシュアテック開発の主眼も、顧客への付加価値サービスの提供、ならびにリスクの特定、リスク軽減策へと移行しました。

次世代保険(Neo Insurance)

Eddie Hsiung, Lee and Li
Eddie Hsiung
パートナー
理律法律事務所(台北)
電話: +886227638000 ext. 2162
Eメール: eddiehsiung@leeandli.com

台湾の金融監督管理委員会(FSC)は、2019年にデジタル専用銀行免許を初めて3行に発行したのに続き、金融サービスのデジタル化に対応するために、デジタル専用保険の新たな規制制度を発表し、消費者の多様なニーズに対応できる革新的な保険商品の研究開発を促進しています。

2022年には、業界内の企業に対して、「次世代保険」事業への申請が正式に許可され、第1回の申請期間は8月1日から10月1日までとされました。これまでのところ、FSCは事業設立の申請に関する決定をまだ発表していません。規制が導入されたことで、新規企業が市場に参入することが期待される一方で、こうした企業が遵守しなければならない要件もいくつかあります。

例えば、申請資格に関して言えば、デジタル専用保険会社の発起人には、保険会社や保険会社の子会社を持つ金融持株会社などの金融業界の事業者が1社と、ビッグデータ解析、インターフェースデザイン、ソフトウェア開発、インターネット・オブ・シングス(IoT)、および無線通信事業に従事するフィンテック部門の事業者1社が含まれていなければなりません。

申請者は、ビジネスモデル案に関する実績も提出する必要があり、デジタル専用保険会社の取締役の半数以上は、保険業界やフィンテック業界の専門知識や資格を有していなければなりません。具体的には、適格な取締役のうち3分の2以上が保険業界における専門的な資格を有し、さらにそのうちの1名以上がフィンテック業界の資格と、豊富な実務経験を有していなければなりません。

デジタル専用損害保険会社は、保険金額、保険対象となるリスクの種類、あるいは保険期間を小口化した小口保険商品など、「革新的な保険商品」のみを販売することができます。なお、革新性がFSCの審査対象となるため、従来の保険会社が販売する既存の商品と差別化を図るために、どのような商品を設計できるのか、大半の企業が模索中です。

デジタル専用生命保険会社では、生存保険金や満期保険金を含まず、保険料が保険による保障のみに使用される保障性商品のみを販売することができます。保障性商品は、一般に、現地市場では収益性が低いと考えられているため、このような制限があることで、多くの企業が、デジタル専用ビジネスへの移行が持続可能か否かを決めかねています。

資本要件

資本要件については、デジタル専用保険会社の払込資本金額は、損害保険会社で10億新台湾ドル(3250万米ドル)以上、生命保険会社で20億新台湾ドル以上です。資本を提供できるのは発起人のみであり、株式公開によって資本を調達することはできません。

デジタル専用保険会社は、支店を設置することも、保険勧誘員を雇うこともできません。デジタル専用保険会社の資本要件は、従来の保険会社で発生する多くの運用コストがバーチャル事業では削減できるので、従来の保険会社を設立するほど厳しくありませんが、新たなテクノロジーを開発するための多額の投資や、事業勧誘に対応するための社内体制や手続きの確立が、今後もデジタル専用保険会社に求められると予想されます。

インシュアテック・エコシステム

Maggie Chang, Lee and Li
Maggie Chang
シニアアソシエイト
理律法律事務所(台北)
電話: +886227638000 ext. 2970
Eメール: maggiechang@leeandli.com

保険会社は、テクノロジーを活用して、異業種のパートナーと連携し、顧客に対して単なる保険以上のサービスを提供するようになってきました。その一例が利用ベース保険(UBI)です。現在、台湾では、走行距離や運転時間、運転習慣などのデータを収集できる車載装置やアプリを活用し、それに基づき自動車保険の保険料や割引をカスタマイズすることを基本とした、UBI自動車保険が提供されています。

しかし、台湾のUBI自動車保険は、一般市民が利用するにはインセンティブが不十分であるという課題をいまだ抱えたままです。主な理由は、従来の自動車保険の保険料が総じて比較的安いと考えられているためですが、運転行動の優良さに基づいて正確に価格が設定されるというUBI自動車保険の魅力が、一般市民が保険に加入するためのインセンティブにほとんどなっていません。

今後、車両と他の車両、歩行者、その他のインフラとの通信が可能になるV2X(Vehicle-to-Everything)技術が普及し、車両のエンジンなどの部品の稼働状態を検知して、事故リスクを最小限に抑えるなどのサービスが提供されるようになれば、UBI自動車保険市場のさらなる成長が予想されます。

健康波及保険(health spillover insurance)もその一例です。医療への一般市民の意識が高まる中、被保険者が積極的に健康を管理するインセンティブとして、保険料の割引を行う健康波及保険が台湾で人気を集めています。一部の保険会社は、被保険者に定期健康診断の結果報告書を自発的に提出するよう求めることに加えて、新たに健康管理アプリを開発し、ユーザーの生体情報を収集し、運動、食事、睡眠に関する健康維持の習慣を追跡調査しています。

小口保険

ビッグデータやインターネットによって、保険商品のカスタマイズが可能になりました。台湾の保険会社は、データの収集能力や分析能力を駆使し、マイクロ保険や小口保険など、オンデマンド商品や対象を限定した商品を提供することができます。保険は、個人の必要に応じて即時に加入できるようになりました。通信技術や情報技術をより革新的に活用することで、包摂的保険の未来が形作られることになるでしょう。

リモートによる保険業務

現行の規制のもとでは、オンラインのみで販売できる保険商品の種類は限定されているため、リモートによる保険業務は、全保険商品に適用できる、顧客への新たなサービス提供方法です。

2021年、FSCは、パンデミック下での非接触型金融サービスのニーズに適応するため、保険会社がリモートサービスを提供することを許可し、保険勧誘員が申請者と被保険者に直接会い、申請関連書類にインクペンによる自筆署名をもらうという、長年続いてきた要件を免除することにしました。パンデミックが沈静化する中でも、リモートによる新規保険契約の申込件数は増加し続けています。この状況から、パンデミック後の時代においても、一般市民はいまだに非接触型リモートサービスを支持していることが分かります。

リモートによる保険業務を支えているのは、主として、使い勝手の良いインターフェース、効率的な顔認証をはじめとする本人確認技術、スムーズな接続、徹底したサイバーセキュリティ対策などです。現在、こうしたテクノロジーは十分に発達しているため、リモートによる保険業務に必要なインフラを提供することができます。

地理的な制約がなくなったことで、移動時間が大幅に短縮され、幅広い層の顧客にアプローチできるようになったものの、これによって、直接会うことで伝わる自分たちの価値が失われることはないと、多くの保険勧誘員は考えています。しかし、若い世代は直接会うよりもリモートコミュニケーションを好む傾向があり、リモートによる保険業務は今後、重要なサービス提供方法となる可能性があると予想されます。

ブロックチェーン保険

不正行為、非効率、人為的ミス、そして最も懸念されるサイバー攻撃は、保険会社が日常的に直面している厄介な課題です。ブロックチェーン技術を利用すれば、保険会社は独力で、あるいは第三者のサービスプロバイダーの支援を受けて、スマートコントラクトを作成することで、保険金請求の追跡調査、従来の事務作業プロセスの自動化、機密情報の保護が可能になります。ブロックチェーン技術によって、保険会社間のデータ共有さえも可能になりました。

2020年には、台湾生命保険協会が中心となって、ブロックチェーンベースの保険技術利用共有プラットフォームが設立されました。このプラットフォームにより、カーボンフットプリントを削減するペーパーレスの保険証券、被保険者が単一のプラットフォームで、さまざまな保険会社に保険金請求を申請できるワンストップのオンライン請求、被保険者と保険会社の間で発生する可能性のある紛争を軽減する、オンライン契約の証明書および証拠の保存、被保険者が複数の保険会社にまたがって提供されている補償範囲を調べるのに便利な上に、紙の契約書を保存する手間も省けるパスブックなど、多くのサービスが実現しました。

今後の動向

ニュース報道によれば、台湾の保険普及率は世界でも上位3位に入っており、従来の保険会社による情報技術システムへの支出額は、かなり多くなっています。インシュアテックが拡大する中、統合的なデータ収集、人工知能、サイバーセキュリティへの要求はますます高まる一方でしょう。

ここ数十年で、インシュアテックの世界規模での進展が急速に進んでいますが、台湾の保険市場には解明すべきことや発展の余地がまだまだ多くあります。インシュアテックへの投資は今後ますます増え続けることが予想されます。

LEE AND LI
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