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中国

中国は成文法の国であり、構造の完全性や論理の厳格性など、成文法に固有の利点を享受しています。しかし、これらの成文法にはそれぞれに限界があり、それは法の普遍的な執行力と個々の事案の多様性とのギャップに部分的に表れています。また、法律とは社会の変化の結果を反映するものであり、履歴効果を持つことは避けられません。

この点に関し、判例指導制度は、広範な法規則と個々の多岐にわたる事案との間隙を埋めるにあたって、ある程度の役割を果たすことができます。最高人民法院だけが指導性判例を選定し、公表することができるため、いかなる種類のものであれ、新たな社会的紛争に適時に、効果的に対応することができます。

特に、複雑な紛争を伴う、社会の新たな発展への対応において、法律の適用を全国的に統一する上で、判例指導が重要な役割を担えることは明らかです。

本稿では、執筆者が担当した実際の事案を例として、知的財産権(IP)訴訟における判例指導制度の活用について検討します。

法的根拠

Jin Xiao, CCPIT Patent and Trademark Law Office
Jin Xiao
アシスタント・ディレクター
CCPIT Patent and Trademark Law Office
北京市
電話: +86 10 6604 6247

最高人民法院は2005年に初めて、先例制度導入の可能性を検討し始めたと考えられています。その後10年間、最高人民法院はこの取り組みを続け、指導性判例に関し複数の規制を策定しました。

現在では、利害関係者によって引用される判例は、全国のあらゆるレベルの裁判所において考慮されるようになりました。これらの判例の一部については、最高人民法院が公表した指導性判例であるかどうかを検討する必要があります。裁判において指導性判例となる判例には、以下の4つの類型があります。

  1. 最高人民法院が公表した指導性判例
  2. 最高人民法院が公表した代表的な判例と、最高人民法院が下した有効な判決
  3. 管轄区域内の高級人民法院が公表した参考判例と、高級人民法院が下した有効な判決
  4. 当該裁判所または控訴審が下した有効な判決

最高人民法院が公表した指導性判例の優先度が最も高く、裁判ではこれらを考慮に入れる必要があります。裁判において利害関係者が第1類型の判例を引用した場合、裁判所は判決で指導性判例に同意するか否かについて理由を説明しなければなりません。他の類型の指導性判例については、裁判所は自身の判断で参照するか否かを決定でき、それに関する説明には何の制限もありません。

IP訴訟

中国では、比較的十分なIP制度が確立されているものの、大規模なIP訴訟が提起されるようになったのは、この10年のことに過ぎません。従来の民事・商事紛争と比べ、IP訴訟は出現してから間もない新しいタイプの訴訟です。そのため、IP訴訟では、新たな形態の紛争や物議を醸す問題を伴うことが多く、その結果、法律の適用に相違が生じる傾向があります。

さらに、テクノロジーが常に進歩していることもあり、IP訴訟には技術的案件が相当数含まれます。このような新しいテクノロジーが社会制度や法制度にもたらす課題は、ますます明瞭になりつつあります。

判例指導制度の利点は、先例を活用することで、広範な法規則と個々の事案において、常に変化する細部の間に橋を架けることが可能になる点にあります。指導性判例は、法律の全国的な適用の統一を進める一助となります。

IP事案では、明白かつ煩雑な事実を法的論点に抽出し、各論点について事実面・法律面で準備をするというプロセスが常に必要です。しかし、すべての事実的・法的側面について、判例を探す必要があるのでしょうか。本稿では、その答えは明らかに「必要はない」と考えています。

中国は制定法の国です。従って、既存の法規の中に正確かつ適切な法規則が存在する場合には、判例を探す必要はなく、該当する法規則に基づいて裁判を進めることができます。判例は、複雑で論争の的となるような事案において活用するべきです。

判例を探す必要性は明らかになりましたが、判例の検索は、依然として慎重に検討する価値のある問題です。実社会の紛争は複雑であり、言葉で表現することは難しく、さまざまな解釈が可能となることさえあります。一つや二つのキーワードでは、最善の結果は得られないかもしれません。

このため、特に法律や規制の数が膨大で、判例検索に慣れていない弁護士が多い国では、訴訟チームに高い理解力が求められます。

判例検索の核心は、常に変化する明白な事実に照らして、妥当な法的論点を正確に把握することにあります。たとえば、執筆者が担当したある事案では、クレームの数値的特徴に適用される場合の均等論を目的として、検索を実施しました。

執筆者のチームが最終的に特定した判例は、最高人民法院の判例でした。最高人民法院が公式に要約した指導的要点は、独立クレームの保護範囲と、従属クレームの保護範囲の部分的な重複を、裁判においてどのように解決するかに関するものであり、均等論とは何の関係もありませんでした。

この判例には、独立クレームにおける数値範囲の均等性についての言及と説明が含まれていたため、チームはこの判例を関連判例として引用しました。判例検索には、事実の本質に対する弁護士の高い理解力が求められることが、上記の事例から見て取れます。そして当然のことながら、最高人民法院が公表した指導性判例に精通していることも重要です。

判例の活用

適切な先例を検索することができたら、今度はそれを正確に利用する必要があります。いくつかの調査では、実際のIP訴訟において、出所不明の判例、判決が無効の判例、妥当性のない判例など、多数の判例提出に不備があるとされています。

この点について、本稿では、弁護士は詳細な説明に入る前に、まず判例の出所と有効性を示すべきであると考えています。

詳細な分析は、さまざまな手法を用いて実施することができます。たとえば、中国の弁護士はコモン・ロー制度を参照し、判例を通じて、事実の比較、適用法令の指摘、および段階的な結果の主張をすることができます。

弁護士はまた、事案の核心を把握し、判例の判断の要点と照らし合わせることで、目下の事案が望ましい結果に向かうようにすることも可能です。

他にも、類推論を用いることもできます。執筆者が担当した別の事案では、特許出願において、数値パラメータとして選択された範囲が予期せぬ技術的効果をもたらし得ることが、重要な事実とされていました。これに対し、ある引用文献には、予期せぬ効果を示すことなく、異なる数値範囲が開示されていました。

しかし、審査官は、先例の熟練者が同様の範囲を認識していた場合、数値範囲は慣例であり、発明的な努力を払うことなく変更することができると判断したため、特許出願は引用文献に関して進歩性を欠くとして拒絶されました。

執筆者のチームが検索した判例によれば、特許出願において選択されたパラメータ範囲が、先行文献によって開示された範囲内であっても、選択された数値範囲が予期せぬ技術的効果をもたらし得る場合には、その特許出願は特許性を有するとされていました。

上記の判例に基づき、チームは、その判例において特許出願のパラメータ範囲が先行技術文献のパラメータ範囲に含まれていても、予期せぬ技術的効果をもたらすことができる場合は、特許性を有すると判断されているのであれば、今回の特許出願も当然に特許性を有すると主張しました。

なぜならば、このような効果をもたらすパラメータ範囲はこれまで公開されていませんでしたが、それでも予期せぬ結果をもたらすことができるからです。これは、argumentum a maiore ad minus(大きな論点に該当することは小さな論点にも該当する)という論法です。チームが発見した判例を通じて、事実と結果が非常に明確になりました。その後、特許出願に対する不利な判断は取り消されました。

結論

判例指導制度が、一般的な法規則の精緻化、判断基準の統一、司法判断の蓄積、紛争解決の促進、不適切な判決の抑制に、重要な役割を果たしていることは実証されています。この制度はまた、実務において自らの権利や利益をより効果的に保護することを望む当事者や代理人にとって、大きな意義を持っています。

CCPIT Patent and Trademark Law Office

CCPIT PATENT AND TRADEMARK LAW OFFICE

10/F Ocean Plaza

158 Fuxingmennei Street

Beijing, 100031, China

電話: +86 10 6641 2345

Eメール: mail@ccpit-patent.com.cn

www.ccpit-patent.com.cn


インド

インドにおいて進化しているIP(知的財産)エコシステムは、世界的に大きな注目を集めています。本稿では、重要な特許規定を取り上げ、国内における特許関連の最新動向を提供します。

外国出願許可

インドの特許法には外国出願許可(FFL)の規定があり、事前の承認を必要とし、違反した場合には刑事罰が科されます。このような犯罪規定は外す必要があると、特許制度のさまざまな利害関係者の間で議論が続いているにもかかわらず、FFL要件は依然として有効なままです。

発明者がインドに居住している場合、国外に最初の出願をする前に、インド特許庁(IPO)に、その発明に関する簡単な開示書類を提出しなければなりません。IPOは、開示内容が防衛や原子力に関連するものでないかを精査し、3週間以内に発明者にFFLを発行して出願を進めることを許可します。あるいは、IPOからFFLを取得する代わりに、インドで最初の申請を行うこともできます。6週間以内にIPOからの異議がなければ、出願者はインド国外での出願を行うことができます。外国出願に懸念がある場合、IPOは出願者に秘密保持命令を出すことがありますが、これはまれなケースです。

特許出願と補正

Manisha Singh, Founder Partner at LexOrbis in New Delhi
Manisha Singh
創業者兼パートナー
LexOrbis
ニューデリー
電話: +91 98 1116 1518
Eメール: manisha@lexorbis.com

IPOは英語での出願を受理するため、現地語への翻訳が不要であり、翻訳を必要とする他の法域と比較して、全体的な特許出願コストの大幅な削減につながります。インドにおける特許出願の公式手数料は、世界の特許庁の中でも際立って低いものです。

インド特許法は、国内での出願に入る際に、出願者が特定の請求項を取り下げることも認めています。このような柔軟性により、インドでは特許対象とはならない事項に関する請求項を削除し、余分な特許請求料を節約するとともに、手続を迅速化することができます。ただし申請がなされた後は、いかなる補正も、権利の部分放棄、説明、または訂正によってのみ可能になるため、注意することが重要です。すべての補正は特許明細書で裏付けられていなくてはならず、一度出願した後は、請求項を当初の範囲より拡大することはできません。

審査手続

インドにおける特許審査手続は、審査請求から始まります。係属中の出願の滞留解消に大きな進展があった結果、審査が迅速化され、通常は申請から一年未満で完了するようになりました。

第1次審査報告書を受領した後、出願者には、提起された異議に回答するため6カ月の猶予が認められます。出願者がすべての異議への対応に成功すれば、特許はすぐに認められます。未解決の問題が残る場合、口頭審理が予定され、出願者に弁明の機会が与えられます。審問の後、決定が下されます。口頭審理後の決定が否定的であった場合、出願者には2つの救済手段があります。一つは、特許庁に審査請願を提出して、再考を求めることです。もう一つは、高等裁判所に控訴し、上位の司法当局に事案を提示して、さらなる審理を求める方法です。

分割出願

Joginder Singh, Partner at LexOrbis in New Delhi
Joginder Singh
パートナー
LexOrbis
ニューデリー
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Eメール: joginder@lexorbis.com

インドにおける分割出願は、親出願の特許付与または拒否の前であれば、いつでも提出できます。特許出願の処分に関する事前通知はないため、分割出願は、できるだけ早い時期に行うことを推奨します。有効とみなされるためには、その分割出願が複数の発明を開示した親出願から生じており、親出願の請求項と重複しない明確な請求項を有していなくてはなりません。

分割出願の独立した請求項は、親出願で請求されていない新規かつ進歩的な特徴を少なくとも一つは持っていることが望ましいです。さらに、これらの請求項は、親出願の記述の中で適切に裏付けられている必要があります。分割出願提出の決断は、任意である場合もあれば、IPOからの統一された異議がないことを受けて、行われる場合もあります。インドにおける任意分割出願の維持可能性に関する現況は、他の法域と比較して複雑に見えるかもしれません。最近の判例であるBoehringer対デリー高等裁判所特許審査管理官(2022年)は、分割出願を統制する法律の制限的解釈を確立し、分割出願の請求項は親出願の請求項から派生したものでなくてはならないことを示しました。

2023年7月、知的財産部の別の判事は、前述の法的見解が法規定によって支持されていないようだと判断し、自発的分割出願の提出に関する問題、および、必ずしも請求項からではなく、開示から切り出された分割請求の維持可能性に関する問題を検討するため、2名の判事から成る法廷を構成するよう、この問題を高裁の長官に委ねました。上述の問題はまだ検討中であり、願わくは、より大きな法廷が、インドにおける分割出願にまつわる霧を晴らしてくれることが期待されます。

出願者には、分割出願用の請求項を親出願に導入しておく、という選択肢もあるでしょう。最近のデリー高裁の判決である、Nippon A&L対特許審査管理官(2022年)、およびAllergan対特許審査管理官(2022年)によれば、発明が特許明細書で開示され、請求項がすでに開示された内容に限定されている限り、そのような場合の補正は、特に付与前の審査段階において、拒絶されるべきではないとされています。

そのような請求項が親出願で認められれば、出願者にとってはそれで十分なはずです。さもなければ、親出願は統一性の欠如または新たに追加された主題に対して異議を提起されることになります。このような異議は、出願者が分割出願を通じて、異議を提起された請求項を追求する際の正当な根拠となります。

外国出願の開示

インド特許法では、この法的要件は2つの異なる部分に分けられます。最初の部分は第8条(1)の要件として知られており、インド国外で出願されたすべての対応出願(インド特許庁への出願と同一、または実質的に同一の外国出願)の包括的なリストを自発的に、かつ要求があればいつでも開示することを義務付けるものです。

これらの対応出願は、共通優先権出願または特許協力条約(PCT)出願に由来する出願に加え、同一特許ファミリー内のすべてのPCT国内段階出願、継続出願、一部継続出願、分割出願を包含します。インド特許出願時または出願後6カ月以内に、様式3を用いて必要事項詳細を提出しなくてはなりません。インド国外で新たに対応出願がなされた場合も、6カ月以内にその詳細を様式3によって速やかにIPOに提出する義務があります。

第2の部分は、第8条(2)に準拠しており、調査報告書または審査報告書の写し、および対応出願で特許が付与された請求項の写しを、要求があった場合にのみIPOに提供することを求めています。

IPOは、世界知的所有権機関(WIPO)の調査・審査システムへの一元化されたアクセス提供機関となっているため、特許審査管理官はこのシステムを介して対応出願の報告書を閲覧することができます。

実施報告書

インド特許法のユニークな規定の一つとして、特許を取得した発明が、どのように使用されるのかの内容を概説する実施報告書の提出が要求されています。政府は、このプロセスの様式と手続を簡素化しました。新しい様式27では、特許を取得した製品について、インドで製造および/またはインドに輸入された「数量」を記入する必要がなくなりました。ある会計年度内に発行されたライセンスの詳細を実施報告書に記載したり、その特許製品によって、公衆の合理的要求が満たされたかどうかを確認したりすることも不要になりました。

年次実施報告書の提出期限は3月31日から9月30日に変更され、対象期間も暦年(1月~12月)から会計年度(4月~3月)へと変わりました。特許が付与された会計年度については、実施報告書を提出する必要はありません。

もう一つの注目すべき変更は、複数の関連特許について一つの実施報告書を提出できるようになったことです。これは、特定の特許発明から得られるおよその収益や価値を、関連する特許から個別に導き出すことが不可能で、かつそのような特許がすべて同じ特許権者に付与されている場合に適用されます。

特許の共同所有者には、一つまたは関連する複数の特許について、一つの実施報告書を共同で提出する選択肢があります。ただし、各ライセンス所有者(特許実施権者)は、特許発明をどのように利用しているかを示す実施報告書を、個別に提出する必要があります。最近、実施報告書の様式に、SEP(標準必須特許)の関連情報を組み込む必要性があるかどうかについて、利害関係者らが検討するための議論を行っています。特許権者は、これらの議論の進展を注視すべきです。

IP部門

インド政府は、かつてIPOの決定に起因する不服申立てを審理する上訴機関として機能していた「知的財産審判委員会(IPAB)」を廃止しました。これを受けて、デリー高等裁判所は、IPABから移管された事件を含む、すべての知的財産関連事件を独占的に取り扱うIP部門を初めて設置し、「IP部門規則」と「特許訴訟に関する規則」を導入しました。

マドラス高等裁判所もまた、IP部門を設置し、「IP部門規則」と「特許訴訟に関する規則」によって、それらの訴訟を管理することを通達しました。インド全国の他の高等裁判所も、同様のアプローチを採用すると予想されています。知的財産専門の部門を設立し、対応する規則を導入することで、より効率的で専門的なプラットフォームが提供され、知的財産問題の解決を大幅に強化することができます。

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