各国の M&A 関連法規の比較: 日本

By 飛岡 和明、佐橋 雄介と金子 涼一、アンダーソン・毛利・友常法律事務所
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パンデミックと地政学的緊張の高まりを契機として、世界各国のM&Aに関する法規制は大きく進展しており、日本も例外ではありません。日本への投資を検討している投資家にとって特に最近の規制動向に注意を払う必要がある主要な領域としては、対内直接投資規制(FDI)と買収防衛策が挙げられます。

対内直接投資規制

Kazuaki Tobioka, Anderson Mori & Tomotsune
飛岡 和明
パートナー
アンダーソン・毛利・友常法律事務所
東京
電話: +81 3 6775 1165
Eメール: kazuaki.tobioka@amt-law.com

日本における対内直接投資を規制する重要な法律である外国為替及び外国貿易法(外為法)は、国際的な規制動向に対応するために改正がされています。外為法が規制する対内直接投資には、以下の具体例のほか(「投資」と明確に表現されていないものも含め)幅広い行為がカバーされています。

  • 日本の上場会社の株式の1%以上を取得すること
  • 外国投資家以外の者から日本の非上場会社の株式を取得すること
  • 日本企業の特定の意思決定事項(事業の大幅な変更、取締役や監査役の選任など)について、所定の条件を充足する場合に、賛成票を投じること
  • 法定の基準を超えて日本企業に融資すること
  • 日本国内に支店、工場、その他の事業所を設立すること

外為法は、日本に投資する外国投資家に対し、原則として、日本銀行を通じて関係省庁に事後報告書を提出するよう義務付けています。ただし、対象企業(またはその子会社)が外為法および関連政令で定める一定の業種(指定業種)を営んでいる場合は事前届出が必要です。

なお、指定業種には、国家安全保障に関連する伝統的な業種(電気通信、原子力など)だけでなく、ソフトウェアの開発受託や情報処理などのテクノロジー関連業種も含まれます。また、指定業種のリストは、国家・経済安全保障を巡るグローバルな動向を踏まえて、継続的に更新されていることにも留意する必要があります。

指定業種のリストに最近追加された項目としては、2020年に医薬品・医療機器関連事業(世界的なパンデミックの影響を受けて追加)、2021年にレアアース関連事業(レアアースの安定供給確保のために追加)、2023年に半導体、産業用ロボットなどの重要物資・製品のサプライチェーンに関する事業(サプライチェーンを巡る懸念の拡大と民間技術の軍事目的への無許可転用等に対処するために追加)が挙げられます。

Yusuke Sahashi, Anderson Mori & Tomotsune
佐橋 雄介
パートナー
アンダーソン・毛利・友常法律事務所
東京
電話: +81 3 6775 1183
Eメール: yusuke.sahashi@amt-law.com

日本では、経済安全保障を強化することを目的として新たに経済安全保障推進法(経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律)が制定されました。経済安全保障推進法は、日本における対内直接投資を直接規制するものではないものの、直近の指定業種の追加は同法と対内直接投資規制を整合させるためのものであると一般に理解されています。

外為法は事前届出の免除制度についても規定していますが、免除制度が適用されるか否かを判断するには、相当に複雑で技術的な分析とプロセスが求められます。たとえば、特に重要かつ国の安全を損なうおそれが大きいコア業種への対内直接投資については、原則として事前届出は免除されません。また、コア業種については、関係省庁も通常よりも強い関心を持ち、より厳しく審査をする傾向にあるため、コア業種への投資に関しての見通しは不透明にならざるを得ません。

また、日本の規制当局は、仮に事前届出が免除されたとしても、国家の安全保障に影響し得る投資に対する監視を継続する可能性もあります。たとえば、テンセント・ホールディングスが携帯電話事業等を営む楽天グループに出資した際、外為法上の事前届出が免除される形で出資が実施されましたが、日本政府は当該出資を継続的に監視する意向を表明しています。

事前届出が必要な場合、該当する指定業種の所管大臣による法定の審査機関は、届出が正式に受理されてから30日間とされています。この法定期間の間は事前届出の対象となった取引を実行することはできません。国家安全保障、公序良俗や治安等の観点から問題があると判断された事案については、取引の中止や変更が勧告されることがあります。

直近数年間において、指定業種の拡大が続いていることも踏まえると、外国投資家が検討中の対内直接投資が事前届出の要件に該当するか否かを判断する際には、十分な助言を受ける必要があります。たとえば、テクノロジー関連のスタートアップへの投資の相当数が、外為法に基づく事前届出及び審査の対象になっています。また、事前届出の対象となる対内直接投資には、対象企業の外国人株主による同意の議決権行使が該当する可能性がある点も、見過ごされがちなため注意が必要です。

外国投資家が日本への対内直接投資に関する規制に対応し、不注意による事前届出義務の違反を防止し、また投資プロセスを合理化するためには、日本の経験豊富な弁護士と協力して事前に慎重な確認を行うとともに、体系的なアプローチを検討することが肝要と言えるでしょう。

買収防衛策

Ryoichi Kaneko, Anderson Mori & Tomotsune
金子 涼一
パートナー
アンダーソン・毛利・友常法律事務所
東京
電話: +81 3 6775 1249
Eメール: ryoichi.kaneko@amt-law.com

日本における買収防衛策は近年大きな変化を遂げています。2000年代半ば以降、数百もの上場会社がいわゆる「事前警告型」の買収防衛策を導入してきました。この買収防衛策では、多くの場合、敵対的買収を行おうとする買収者のみを差別的に扱う行使条件で、すべての株主に新株予約権を無償で割り当てる権限が対象企業の取締役会に事前に付与されます。

この買収防衛策は、将来起こり得る敵対的買収に備え、前もって株主の承認を取得するものです。しかし、機関投資家や、その議決権行使に求められるスチュワードシップ責任の厳格化も一因となって、このような買収防衛策を採用する上場企業は減少しつつあります。2023年4月現在、日本の全上場企業のうち、起こり得る買収に備えて事前警告型の買収防衛策を導入しているのはわずか269社、つまり6.8%にすぎません。

このような状況を背景として、新しい形態の買収防衛策が登場しました。これは「有事導入型」と呼ばれるもので、企業が予期せぬ敵対的買収に直面した場合にのみ実施されます。一部の敵対的買収では、このような買収防衛策に対して差止仮処分が申し立てられ、その結果、2021年と2022年には重要な司法判断が蓄積されました。現在までの裁判例によると、裁判所が認めた有事導入型買収防衛策はすべて株主の承認を得て実施されており、司法は一般的に株主の意思を尊重しているように見受けられます。しかし、有事導入型買収防衛策に対する裁判所の態度に関して、明確ではない点もいくつか残っています。これは最近の対照的な2件の事案から見て取れます。

1つ目は、2021年の東京機械製作所(TKS)の買収防衛策に関するものです。この事案では、市場取引を通じてTKSの株式の約40%を取得した買収側が、買収防衛策の差止仮処分を裁判所に申し立てました。東京高等裁判所は買収側の申立てを却下し、最高裁判所もその判断を支持しました。東京高裁は、かかる買収防衛策が「マジョリティー・オブ・マイノリティー」による決議(株主総会において、買収側と企業側経営陣を除く、買収に利害関係をもたない出席株主の過半数の賛成により決議すること)の方法がとられたにもかかわらず、TKSの株主によって承認されたことを重視しました。

2つ目は、2022年の三ッ星の買収防衛策に関するものです。この事案では、市場取引を通じて、同調者と合わせて同社の株式の約22%を取得した買収側が、買収防衛策の差止仮処分を裁判所に申し立てました。大阪高等裁判所は買収側の申立てを認め、最高裁判所もその判断を支持しました。三ッ星は、買収側と同調者だけでなく、以前の株主総会で三ッ星の取締役解任に賛成した株主に対しても対抗措置を行使するための議案を株主総会に提出し、承認を得ていました。

この2件の類似した事案について、裁判所は異なる判断を下したようにみえますが、三ッ星とTKSの事案には異なる点があることに留意するべきです。

具体的には、三ッ星事件に関して裁判所は以下の点を指摘しています。 すなわち、三ッ星は、以前の株主総会において取締役解任に賛成票を投じた株主にも対抗措置が適用されると宣言していたため、株主は今回の対抗措置に賛成するよう強要されたと感じた可能性があることから、対抗措置に対する株主の承認の有効性について疑義が生じたこと、買収側とその同調者が対抗措置の適用から免れるための三ッ星の提案は現実的なものではなく、また、株主の権利を過剰に制限するものであること、対抗措置は、三ッ星の現在の取締役の留任を可能にするものであり、経営支配権維持のためのものであることを指摘しています。

一般的な司法判断と同様に、各事案の具体的な事実関係と状況が、その結果に直接影響することになります。そのため、上述の2件の事案を含め、公表されている裁判例を踏まえても、敵対的買収に対する司法の態度には依然として不明確さが残ります。

日本の経済産業省は、2023年6月に「企業買収における行動指針(案)」を公表しました。2023年8月に終了するパブリックコメント手続を経て、最終化される予定です。本指針は、ベストプラクティスの提示と予見可能性の向上とともに、社会にとって経済的に望ましい買収の促進と公正で適切に機能するM&A市場の発展を目的としています。このような目的に向けた取組みの一環として、本指針には買収に対する対抗措置に関する章も含まれています。

Anderson Mori & Tomotsune

Anderson Mori & Tomotsune

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