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枢密院は、長らく待たれていた判決において、バミューダ信託の受託者の決定は無効であると判断し、受託者の権限行使の限界を明確にしました。

長らく待たれていた先般の英国枢密院の判決(Wen-Young Wong & Ors対Grand View Private Trust Company、2022年)では、バミューダにおける受託者の権限の限界が明確にされました。

英国国王の公的諮問機関である枢密院の判断が求められたこの問題の主な論点は、信託の受託者が、目的信託を対象として追加し、対象の全クラスを構成する親族を除外することにより、信託証書に含まれる、裁量対象を追加・除外する明示的な権限を「正当な目的のために行使」したのかどうかということでした。

経緯

Helen Wang, Carey Olsen
Helen Wang
パートナー
Carey Olsen
シンガポール
電話番号: +65 6911 8083
Eメール: helen.wang@careyolsen.com

信託設定者は、台湾最大の財閥の一つ、台湾プラスチックグループの創業者である2人の兄弟でした。

彼らは2001年に2つのバミューダ信託を設定しました。1つ目は、グローバル・リソース・トラスト1号(Global Resource Trust No 1、GRT)です。その主要な資産は、台湾プラスチックグループの株式を所有する投資持ち株会社であり、2019年時点の推定価値は約5億6000万米ドルでした。

受託者は、基金の資本金と収益の全部または一部を、創業者の子孫や親族のために、またはその利益のために用いる裁量権を有していました。この紛争で争点となった権限とは、GRT信託証書の第8条に基づいて受託者が有している「いかなる個人、またはいかなるクラス、もしくはいかなる記述の個人も」受益者として追加、または除外できるという権限でした。

同時に、創業者は慈善と慈善以外の目的を持つワン・ファミリー・トラスト(Wang Family Trust、WFT)を設定しました。しかし重要な点として、この信託はワン家の一族やその他のいかなる人物にも、利益を提供するものではありませんでした。

GRTとWFTの受託者は別個の事業体でしたが、ディレクターは共通しており、一方の創業者の2人の娘と、もう片方の創業者の2人の息子がディレクターに就任していました。

その後、2005年9月、GRTの受託者は、裁量対象の追加と除外の権限を行使し、基金全体をWFTの受託者に指定することを決議しました。その後、直ちに、受託者は裁量処分権を行使し、GRTの信託基金全体をWFTの受託者に指定し、これにより移転は完了しました。

GRTの受託者は、この決定の背景には、「創業者はその資産の大部分を、当時、十分な資産と特権を保有していた子供やその妻ではなく、社会に残すことを固く決意していた」ことがあると言及しました。

このGRT受託者による権限行使に対して、創業者の他の親族が、2018年にバミューダで開始された手続きにより異議を申し立てました。

当初バミューダ最高裁判所は、略式裁判の申請に対し、受託者の権限の行使は無効であると判示しました。バミューダ控訴裁判所はこの判決に対する上訴を認め、また、枢密院への上訴も許可しました。

枢密院の判断

Ryan Chong, Carey Olsen
Ryan Chong
アソシエイト
Carey Olsen
シンガポール
電話番号: +65 6911 8085
Eメール: ryan.chong@careyolsen.com

枢密院の委員会は全会一致で、GRT受託者は不当な目的のために権限を行使した、と判断しました。この判断を下すにあたり、委員会は以下を含む種々の主要な法原則を検討しました。

1. 受託者の信託に基づく権限に課される義務と制約。第8条に規定される権限が信託に基づく権限であり、その行使には衡平法により課される義務や制約が伴うことは、論争の対象になりませんでした。そのため、まず権力の行使の方法が、権限の明示または黙示の条件の範囲に収まっていなかったか、または反していなかったかについて、つまり権限の範囲に関するルールについて、検討する必要がありました。第2の検討事項は、GRT受託者による権限の行使(その範囲内だったとしても)の目的が不当であったのか、つまり適正目的ルールに関するものでした。

第8条に規定された権限は非常に広義に記述されていたため、委員会は、異議が申し立てられたGRT受託者の決定はその権限の範囲内だった、と比較的容易に結論付けることができました。

適正目的ルールの適用については、より詳細な議論を要しました。委員会は、権限行使の目的が、権限が付与された目的から外れているか、または目的の範疇外であるかが、検討するべき問題であると判断しました。

2. 「本質」ルールは存在するか? 原告側の主な主張は、受益者を追加・除外する受託者の権限を、信託の性質や性格、またはその本質を毀損するために行使することは認められない、というものでした。これは本質ルールと呼ばれています。

委員会は、関連する先例を詳しく調査した結果、絶対的な本質ルールは存在しないと判断しました。GRTの目的は、第8条に規定される権限の目的を決定する上で最も重要であるものの、既定の優先要素にはなりません。

3. 第8条に規定される権限の適正目的とは何か? GRTの信託証書全体を自然に読めば、この信託は創業者の直系卑属の利益のための家族信託であることがわかります。

委員会の見解では、創業者がGRTと同時にWFTを設定したことは極めて重要な意味を持っています。彼らは、台湾プラスチックグループの株式を2つに分け、価値のある株式の大半をWFTに保有させ、GRTには、創業者の子孫や親族のために、株式の価値全体の6分の1だけを保有させました。証拠からは、創業者が別個の目的のために2つの異なる信託を設定することについて、十分理解していたことが見て取れます。

GRTの信託証書が、創業者の子孫や親族を対象としていること、およびGRTが設定された状況を踏まえ、委員会は、第8条の目的は受益者、すなわち創業者の子孫や親族の利益の増進であると結論付けました。

4. GRT受託者は、指定された受益者の利益を増進させるのではなく毀損するために、その権限を有効に行使することができるか? 通常、受益者が指定されている信託の受託者に付与される信託に基づく権限は、受益者の利益の増進のために行使されなければなりません。この点は、投資に関する権限などの本質的な管理権限では明らかです。

しかし、委員会は、受益者を追加または除外する権限は、信託を根本的に変更することができるため、性格が異なる可能性があると判断しました。特定の信託証書にそのような権限が含まれている場合、問題となるのは、その権限がそのような能力を持つよう意図されているのか、または実際に、指定された受益者の利益を単に増進する以上の目的を持つのかということです。この点については、信託証書とそれを取り巻く状況に照らして、権限を検討するというアプローチが必要です。

この事例の場合、GRTには明確な目的があり、それが第8条に規定される権限の目的の特定に決定的に作用します。

結論

本判決は、光を当てられることの少ない、受益者を追加および除外する受託者の権限の性質と範囲について検討した、重要な判決となりました。枢密院の判断によると、この権限は受託者の管理権限とは異なる性質を持つ可能性があります。

枢密院はまた、適正目的ルールを適用するための法原則を見極めるため、関連する先例を詳細に分析しました。委員会は、第8条に規定される権限の目的を決定するにあたり、厳格な本質ルールを適用するのではなく、また受託者のすべての権限は、一部またはすべての受益者の利益のために行使されなければならない、という最優先原則に依拠することなく、信託証書の条項と信託が設定された状況に照らして判断することを選択しました。

これは、信託に関するあらゆる取り決めが、個別化されたソリューションであることを思い出させるものです。受託者の権限の目的を決定するルールや原則には、一律のものは存在しないのです。

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