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日本の海外ファンド投資の3分の2が、ケイマン諸島に集中しているのはなぜなのか?

Q:オフショア・ビークルを利用するアジアの投資ファンドの最新動向と、その主な法的メリットはどのようなものでしょうか?

Ann Ng
Ann Ng
パートナー
Maples(香港)
電話番号: +852 3690 7475
Eメール: ann.ng@maples.com

ケイマン籍の投資ファンドが他の法域よりもよく選ばれる主な理由には、その柔軟性、投資家にとっての馴染みやすさ、そしてこの法域が高く評価されていることなどがあります。これは健全な法制度の確実性と相俟ったものです。さらに、ケイマン諸島はタックス・ニュートラルな法域であるため、ケイマン諸島のストラクチャーには適用される関連税制が存在しないという安心感を、利用者に与えているのです。

日本は、ケイマン諸島のファンドの大規模な利用者であり続けています。地域別ポートフォリオ投資に関する日本の財務省のデータ(2022年末)によると、海外投資ファンドに対する日本からの投資の3分の2以上(67.3%)が、ケイマン諸島に集中しています。国際通貨基金(IMF)に報告されたデータによると、ケイマン諸島に投資された資産が2022年6月時点で2兆5900米万ドルであった米国に次いで、日本は7790億米ドルの資産を有し、ケイマン諸島にとって2番目に重要なポートフォリオ投資の源泉となっています。

日本市場の主な動向としては、日本の投資家によるプライベートエクイティ、ベンチャーキャピタル、プライベートクレジット、その他のオルタナティブ投資への投資が増加していることがわかります。 この動向の主な原動力の一つは、より良い利回りの追求です。

歴史的に、日本の年金基金、生命保険会社、メガバンク、地方銀行は、主として日本円(JPY)の国債に投資する傾向にありました。しかし、「アベノミクス」(安倍晋三元首相の2期目の経済政策)や日本政府の継続的なイールドカーブ・コントロール・プログラムの結果、これらはもはや必要なリターンを提供していません。

このことは、ポートフォリオのリバランスをもたらしました。日本の年金積立金管理運用独立行政法人とゆうちょ銀行は、この傾向に追随した最も著名な機関投資家であり、市場全体の変化を象徴しています。

このようなオルタナティブ投資へのシフトは、プライベートエクイティ・ユニット・トラストという新しいタイプの投資ビークルの開発につながりました。

Sharon Yap
Sharon Yap
Partner
Asia Funds & Investment Management
Maples(香港)
電話番号: +852 2971 3079
Eメール: Sharon.yap@maples.com

また、伝統的なプライベートエクイティ・ハウスではない証券会社やメガバンクが、オルタナティブ・ファンドの分野に進出するきっかけにもなったのです。国内外での資金調達に注力するため、オルタナティブ投資部門を設立しているところもあります。

筆者はまた、日本国内のPEやVCのファンドマネジャーたちが、日本円の資金調達で大成功を収めたのち、海外の投資家からの資金調達に意欲を示すようになっていると見ています。そのような資金調達のためにも、ケイマン諸島とケイマン免税リミテッド・パートナーシップが、選ばれる法域とストラクチャーであることに変わりはありません。

最後に、急速な高齢化が進む中、日本のコングロマリットや企業の多くが後継者問題に直面しています。このため、多くの企業が、事業の買手を日本国外に求めざるを得なくなっているのです。大手コングロマリットが非中核事業の売却に乗り出しているのが見てとれます。近年の円安は、日本をバイアウトの魅力的なターゲットにしました。このような投資機会を利用しようとして調達される投資資金が増加し、その投資の資金集約のためにケイマン諸島のファンドが利用されるのを、筆者は目の当たりにしてきました。

韓国でも、プライベートエクイティ・ファンドの活動が活発化しています。 日本と同じく、韓国ウォン(KRW)建ての国内資金調達で大成功を収めるファンドマネジャーが増えているのです。成功実績を武器に、これら韓国のファンドマネジャーの多くは、現在、海外投資家からの資金調達に意欲的であり、ケイマン免税リミテッド・パートナーシップは、こうした米ドル建てファンドに選ばれるゴールドスタンダードの法域とストラクチャーとして定着しています。

Q:アジアの投資ファンドがオフショア・ビークルを利用する場合、租税や反マネーロンダリングの面で必要な法的留意点は、どのようなものでしょうか?

Nick Harrold
Nick Harrold
Partner
Japanese Funds Practice
Maples(香港)
電話番号: +65 6922 8424
Eメール: Nick.harrold@maples.com

ケイマン諸島は、包括的で厳格な反マネーロンダリング法、およびOECD加盟国と同等のKYC(本人確認)ルールと規制をいち早く導入した国です。金融活動作業部会(FATF)は、マネーロンダリングやテロ資金調達と闘うための世界基準を設定しています。ケイマンはFATFの勧告の40項目すべてを満たしており、「高度に遵守している」と評価されています。OECD加盟国よりも、コンプライアンスが高いのです。

また、外国口座税務コンプライアンス法とOECD共通報告基準(CRS)もいち早く導入したので、現在100カ国以上の国々と投資家の税務情報を交換しています。

2023年6月23日、FATFはまた、ケイマン諸島がマネーロンダリングおよびテロ資金調達対策として、強固で効果的な体制を整えていると確認しました。そのため、2023年10月のFATF総会において、ケイマン諸島はFATFの監視リストから外されるでしょう。さらに、このリスト解除が、EUのAML/CFTリストからもこの法域が解除される引き金になると予想されています。

Q:オフショア法人とアジアの投資ファンドとの間の紛争解決には、どのような法的枠組みが存在していますか?

ケイマン諸島の裁判所には、投資ファンド関連の訴訟に対応する体制が充分に整っています。これには、清算申請(およびその後の裁判所監督下でのファンドの縮小と再編)、元取締役や取引先が関与する請求、クローバック訴訟、不満を持つ投資家による訴訟など、様々な形態があります。

ケイマン諸島で設立された投資ファンドの数は突出して多いので、ケイマン諸島大法院の金融サービス部門では、ファンド関連の紛争が大きな割合を占めています。このことは、ケイマン諸島の裁判官が、ファンドの構造やそれに関連して生ずる問題に高度に精通していることを意味します。

上場企業の合併反対訴訟もまた、ケイマン諸島の訴訟状況の大きな特徴となっています。その一因は、ケイマン諸島法の下で反対権を行使する目的で、株式非公開化前の上場企業に投資する合併裁定戦略に乗り出した投資ファンドです。それらの上場企業の多くは、アジアを拠点とする事業や投資家を有しています。

筆者の経験では、ケイマン諸島法準拠のファンド関連文書では、仲裁よりも裁判手続のほうが頻繁に見られます。投資ファンド・ストラクチャーの当事者が仲裁に同意する場合でさえも、その仲裁地としてケイマン諸島が選ばれることは、あまりないのです。しかし、ケイマン諸島の裁判所は、仲裁手続を促進するための支援的役割を果たしており、一般的には、ニューヨーク条約の条項の下で、同条約の締結国のいずれかで行われた外国の仲裁判断を承認し、執行します。

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