アジアの資本市場の牙城で生じているトレンドとは? そして、それを後押しするのはどのような規制なのか?
中国証券監督管理委員会の国内企業の海外での証券発行・上場に関する試行管理弁法が、2023年3月31日に施行され、同時に関連ガイドラインも発表されました。
2023年11月27日の民間経済の成長を後押しするための金融支援強化に関する通知によると、「対象となる民間企業が国内外の市場および資源を最大限に活用できるよう、海外の証券取引所への上場を支援する」としています。この通知は、中国人民銀行(以下「PBOC」)、国家金融監督管理局(以下「NAFR」)、中国証券監督管理委員会(以下「CSRC」)を含む中国の8つの規制機関が共同で発表したものです。
2023年12月6日までに、200社近くの中国企業がCSRCに申請届出を行い、52社が海外への上場登録を完了し、登録通知を受領しました。そのうち21社が米国の証券取引所への上場を選択し、4社がニューヨーク証券取引所(以下「NYSE」)、17社がナスダックに上場しました。
米国の資本市場は多層構造になっています。NYSEとナスダックは、継続的な重層化と進化によって、成熟度を増しつつあります。ナスダックは、グローバル・セレクト・マーケット、グローバル・マーケット、キャピタル・マーケットの3つの階層に分かれています。ナスダック・グローバル・セレクト・マーケットは最も上場基準が高く、基準が最も低いのはナスダック・キャピタル・マーケットです。CSRCへの届出が完了し、ナスダック市場への上場を予定している中国企業のうち、12社が選択した市場の階層を公表しています。1社がナスダック・グローバル・マーケットを、残りの11社がナスダック・キャピタル・マーケットを選択しています。下表にナスダック・キャピタル・マーケットの上場基準を示します。
上場基準:上場基準が低いことは、中国企業にとって最も魅力的です。ナスダックに上場している中国企業の中では、新規上場時には通常「純利益基準」が採用されています。この基準により課される純利益要件は、中国本土での上場を目指す企業に課される財務要件よりもはるかに低いものです。
上場企業:ナスダック・キャピタル・マーケットへの上場は、主に小規模のテクノロジー企業および高成長の新興企業を対象としています。ナスダック・キャピタル・マーケットは、高成長、ハイテクおよび革新的事業に関心を持ち、テクノロジー革新企業や高成長企業への投資に極めて積極的な投資家基盤を形成してきました。したがって、中国を拠点とするテクノロジー企業や高成長の新興企業がナスダック・キャピタル・マーケットに上場すれば、投資家の支持を得てより高い評価を得られる可能性が高くなります。
上場形態:ナスダック・キャピタル・マーケットで利用可能な上場形態には、IPO、ADR、逆さ合併、特別買収目的会社(以下「SPAC」)が含まれます。企業は、自社の状況に最適な上場形態を選択することができます。SPAC形態を採用した場合、上場の成否にかかわらず、割当完了後に直ちに株式の売買が可能となり、上場までに必要な期間が実質的に短縮されます。この形態は、米国での上場を目指す中国の中小企業にとって非常に魅力的です。
さらに、ナスダック・キャピタル・マーケットの流動性水準の高さは、企業がより大きな資金調達の機会を比較的容易に獲得できることを意味しています。頻繁な取引は、価格発見機能にも弾みをつけることとなります。
公開情報によると、変動持分事業体(以下「VIE」)構造の遵守は、海外での上場を登録申請中の企業のコンプライアンス審査に関連して、CSRCが定めた優先事項リストに挙げられています。フィードバックでは通常、VIE設立や逆さ合併に関わる為替管理、海外投資、その他の規制上の手続き、および法律に従った税金や手数料の支払いに関する追加情報の提供を発行体に求めています。VIE構造は複雑であるため、CSRCはVIE構造の発行体を審査する際、国家発展改革委員会、工業・情報化部、商務部等の当局に意見を求めることがあり、その結果、登録期間が延長されることになります。
2023年8月、CSRCは中国企業の海外上場ルートを、引き続き利用可能にすることを明らかにしました。現在までにVIE登録に成功した企業には、J&T Express(香港レッドチップ上場)、Cheche Technology(米国SPAC上場)が挙げられます。この成功は、VIEを通じて海外で上場を目指す企業に自信をもたらしています。
VIE構造に加えて、CSRSは、従業員持株報奨プランの遵守(各プランが意思決定手続きや外国為替に関する国内規制手続きを経ているか否かを含む)、個人情報保護やデータ・セキュリティ(第三者への情報提供の有無、必要な情報保護の実施の有無を含みます)にも特に注意を払っています。
米国では、米国証券取引委員会(以下「SEC」)の「中国における最近の動向に関連する投資家保護および中国を拠点とする発行体に対する開示上の留意事項に関する声明」において、米国上場を目指す中国企業に関する以下の情報の正確性について、SECが懸念を抱いていることが明らかにされています。
- 財務諸表の信憑性
- 情報の取得および監督
- 発行体の組織構造
- 規制環境
- 株主の権利
- コーポレート・ガバナンス
- 仲介業者が提出する報告書の差異
関連する事実の説明は、より正確で詳細かつ包括的でなければならず、以下の対象に絞った方法で開示しなければなりません。
- ペーパーカンパニーと実際の事業者を区別するための発行体の事業内容
- 中国の政策変更に起因する、発行体の財政状態や主要契約の履行の不確実性
- 詳細な財務情報
- 運営主体および、該当する場合、発行体がCSRCへの届出を完了しているか否か
- 外国企業説明責任法で義務付けられている、発行体が契約している会計事務所による調査
チャンスがあるところには大抵、課題も存在しています。米国のような優れた資本市場への上場は、発行体にとってプラスのシグナル効果をもたらします。また、国内外の資本市場の厳格な規制制度は、投資家の間で広く認知されることにつながります。
発行体は、自らを正確に位置づけ、適切な上場市場を選択することが推奨されます。コンプライアンスに関するガイダンスを提供し、持分またはVIEの構造、国内外の株主を十分に理解し、情報セキュリティのような注意が必要となる業界が関わる事業活動について慎重な評価を行い、国内外の法令遵守のために海外への上場に向けた上場前手続きを適時に完了するには、適格な仲介業者に可能な限り早期に業務を依頼すべきです。
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スピンオフ成功事例の著しい増加
スピンオフとは通常、既存の上場会社から1つ以上の事業部門を分離し、その分離された部門を新規上場会社として、または既存の別の上場会社を通じて、独立した上場会社にすることをいいます。
スピンオフにより、以下のようないくつかの重要なビジネスや財務上の目的を達成することができます。
- その分離された上場会社の評価が高まれば、株主価値が高まる。
- それぞれの上場会社の明確に区分された事業およびリスク特性について、投資家が評価しやすくなり、目標とする投資の意思決定を促す。
- それぞれの上場会社の経営陣がそれぞれの中核事業に集中できるようにすることで、それぞれの上場会社の業績を向上させる。
- 分離された会社に対し、それぞれの事業ニーズや優先事項に適した資本配分戦略を追求する柔軟性を提供する。
既存の上場企業(親会社)から見れば、スピンオフは業務を合理化するだけでなく、スピンオフされる事業体(新会社)の営業コストを全額負担する必要がなくなる可能性があります。
スピンオフの構造によっては、親会社は、新会社に対する支配力を維持しつつ、スピンオフによる追加資本を得ることで、新会社の成長による経済的利益を享受することができ、その結果、強力なバランスシートと財務実績を得ることができます。
香港の規則
新会社は、新規上場を申請する際、香港証券取引所株式会社の証券上場管理規則の全要件を満たさなければなりません。さらに、上場規則プラクティス・ノート第15号(以下「PN15」)には、香港の上場会社が既存のグループ内の資産、または事業の全部あるいは一部を、香港証券取引所(以下「HKEX」といいます)もしくは他の場所に単独上場させるために提出する提案について、HKEXの方針が定められています。
IPOとの相違
以下の表は、一般的な状況におけるスピンオフ上場と、IPOの場合の上場規則の主な違いを示しています。
スピンオフに関する懸念事項
以下の項目では、新会社によるスピンオフ申請や上場申請において、規制当局の主要な懸念事項について考察します。
単一の資産に2社の上場不可:親会社は、個別に上場した状態を保つために十分な資産と事業を保持していなければなりません。通常、上場委員会は、事業が1つ(新会社)の場合は、2社分の上場を維持する状態(親会社と新会社)を認めていません。すなわち、親会社は、新会社の持分に加えて、上場規則の第8章の要件を独立して満たすために、新会社の持分を除いた親会社自身の資産と事業を十分に保持する必要があります。
独立性:上場規則は、新会社が業務、経営、財務の面で親会社から独立して事業を遂行できることを求めています。HKEXは、新会社と親会社の取締役や上級管理職が著しく重複していることを認めていません。新会社は、新会社の事業を運営する上で利益相反がなく、支配株主の利益以外も考慮する、十分な人数の業務執行取締役を置かなければなりません。さらに、新会社の独立性の証明は、スピンオフ後に企図される重要な継続的関連取引、または親会社による新会社への資金援助(株主貸付、保証、資産の質権設定等)によって、影響を受ける可能性があります。
競争:親会社は、新会社の事業と競合する、または競合する可能性のある事業の保持を避けるよう、最善を尽くす必要があります。HKEXは、親会社と新会社の事業の明確な分離を求めており、事業区分が明確であるかどうかを判断するために、事業の地理的地域、対象顧客、ビジネスモデルのほか、利益相反を管理するための強力なコーポレート・ガバナンス上の対策等の保護、または親会社による競業避止誓約書の提供等、様々な要因を考慮する可能性があります。
確約権利:PN15は、親会社がスピンオフした新会社の株式を確実に取得する権利を既存株主に付与することにより、既存株主の利益を十分に配慮するよう定めています。これは、新会社の既存株式の現物分配、新会社の既存株式または新株式の募集時の優先的な応募、いずれかの方法によって行うことができます。
典型的な現物分配の場合、新会社は親会社の既存株主に対し、直接または親会社を通じて持分割合に応じて新株を発行します。優先購入権の付与により確約された権利が提供される場合、新会社は親会社の既存株主に、IPO時に新会社の株式を優先的に購入する権利を付与します。親会社が株主に確約権利を提供しないことを決定した場合、または実務上の問題により確約権利を株主に提供できない場合、株主の承認を得るか、または上場委員会に適用免除を求めなければなりません。
その他の懸念事項:HKEXは通常、上場後3年以内のスピンオフの提案については検討しません。
現物分配を伴うスピンオフでは、上場スケジュールとの関連での分配条件、分配を承認する取締役会のタイミング、基準日、株主名簿の閉鎖、株券の発送等、分配の仕組みを慎重に設計しなければなりません。
最後に、スピンオフとIPOのいずれにおいても、上場予定会社の親会社/株主を法的に拘束する契約、関連する重要な資産または事業の処分に関する同意、制限または拒否権などを評価し、これらに対応する必要があります。
結論
香港株式市場では、スピンオフと上場は比較的成熟しており、スピンオフは上場企業が資本資源を管理し、自らの事業展開のために新たな資本を調達するための効果的な手段となっています。
近年、多くの香港上場企業が事業の一部をスピンオフさせ、個別の上場を成功させています。その中でも、不動産開発会社から不動産管理会社がスピンオフするケースがかなりの割合を占めています。
2023年、アリババとJD.comという2つの電子商取引(EC)の大手がスピンオフ計画を発表したことを受け、スピンオフはさらに多様な産業で関心を集めていると考えられます。2022年から2023年にかけて、テクノロジー、バイオ医薬品、金融、不動産、製造、消費財、エネルギー産業の40社超の香港上場企業がスピンオフし、香港または中国国内の証券市場に新規上場する意向を発表しています。
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