フィリピンにおける ESG コンプライアンスの推進

By Charity AurellanoとRaphael Pangalangan、Ocampo & Suralvo
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環境・社会・ガバナンスに焦点を当て、より明確に理解することが、グローバルな枠組みに沿った事業運営につながる。

アメリカの著名な経済学者、ミルトン・フリードマン氏はかつてこう言いました。「ビジネスの本分はビジネスだ」。 企業の唯一の社会的責任は利益を最大化することだと、この自由市場の提唱者は主張しました。

しかし、半世紀を経た今、規制措置の新たな波においては、株主価値とステークホルダーの利益の双方が、ビジネス上、検討するべき対象として適切なものだと考えられています。このようなビジネス哲学は、その進化の過程において、企業の社会的責任、ビジネスと人権、コーポレート・シチズンシップなど、さまざまな名称で呼ばれてきました。しかし、今日、株主とステークホルダーが共に関与する領域としてもっとも広く知られているのは、おそらく環境・社会・ガバナンス(ESG)の枠組みでしょう。

Charity Aurellano
パートナー
Ocampo & Suralvo
メトロ・マニラ
Eメール: caurellano@ocamposuralvo.com

ESGとは、3つの特定分野での、企業のパフォーマンスを測定するために用いられる一連の基準です。環境(Environmental)の分野では、二酸化炭素排出量、責任ある廃棄物処理、汚染防止などの事項を考慮し、企業のエコロジカル・フットプリントについて検討します。社会(Social)の分野では、従業員、顧客、地域社会など、会社と人々との関係が焦点になります。最後に、ガバナンス(Governance)の分野では、取締役の独立性、贈収賄・汚職防止対策、倫理に対する総合的な姿勢など、企業内部の仕組みを評価します。

本稿では、ESGの要素がフィリピンの法秩序にどのように組み込まれているのかについて考察します。しかし、単に該当する法規制について論じるのではなく、フィリピンのESGの進展をより広いグローバルな枠組みの中に置いて考え、フランス、オランダ、米国、英国、EUなど、世界各地の国・地域で見られるサプライチェーン・デューデリジェンス義務や、こうした海外の規制が現地企業に及ぼす、サプライチェーンの川上に対する影響についても取り上げます。

ESG基準

ESGに関する義務は、単一の法律により規定されているわけではなく、さまざまな法令や規制からなるメカニズムを通じて課されます。

たとえば、「E」に関する基準について規定する法律には、公害防止を目的とする1999年フィリピン大気汚染防止法や2004年フィリピン水質汚染防止法、固形廃棄物の適正処理の促進を目的とする2000年生態学的固形廃棄物管理法、危険・有害廃棄物の適正処理の促進を目的とする1990年危険物質及び有害・放射性廃棄物管理法などがあります。

Raphael Pangalangan
特別顧問
Ocampo & Suralvo
メトロ・マニラ
Eメール: rpangalangan@ocamposuralvo.com

2019年、フィリピンはエネルギー効率保全法を制定しました。同法に基づき、エネルギー効率化プロジェクトへの財政的・非財政的インセンティブが提供され、事業所に対して、再生可能エネルギー技術の導入などのエネルギー効率・保全・充足対策の開発・設計が義務付けられました。

炭素排出量を相殺するため、政府は民間部門に対し、環境天然資源省の国家緑化計画に基づく森林再生プログラムへの参加と投資を奨励しています。さらに、2022年拡大生産者責任法は、大企業に対し、プラスチック包装廃棄物の適切な管理に関する方針の策定と実施を求めています。

他方、「S」に関する基準は、労働基準、プライバシーおよびデータ保護措置、人権に関する基準などにより形作られています。たとえば、2022年拡大人身売買防止法には、強制労働、児童虐待、非自発的隷属に関与する企業に対する処罰が規定されています。

最後に、「G」に関する基準は改正会社法により裏付けられています。同法は、証券取引委員会(SEC)に対し、コーポレート・ガバナンスを促進し、接待や汚職に関与した企業を解散させたり制裁を科したりする権限を与えています。

また、フィリピンでは、企業の報告義務を通じてESG基準が徐々に普及しています。SECはMC19-16とMC24-19の2件の通達(Memorandum Circular)発行し、それぞれにより「上場会社向けコーポレート・ガバナンス・コード」と「公開会社・登録発行会社向けコーポレート・ガバナンス・コード」が策定されました。これらのコードは、企業に対し、コーポレート・ガバナンスに関する年次報告書において、ESGのパフォーマンスと実践状況を開示するよう求めています。

同様に、SECの通達MC 04-19では、上場企業のための持続可能性報告ガイドラインが規定されています。これは、グローバル・レポーティング・イニシアティブや、国連の持続可能な開発目標などの国際的に認知された基準を用いて、企業が自社のESGに関するインパクトや取組みを自主的に報告するための枠組みです。

今年初めに発行されたSECの通達MC 11-22では、持続可能で責任ある投資(SRI)ファンドに関する規則が制定され、SRI準拠ファンドに適用される最低限の資格条件と報告要件が定められました。

海外サプライチェーン

世界のさまざまな国・地域において、ESGコンプライアンスが義務付けられています。たとえばドイツでは、「サプライチェーンにおける企業のデューデリジェンス義務に関する法律」〔Lieferkettengesetz(LkSG)〕が2023年1月1日に施行されました。

LkSGは、ドイツに本社を置く、あるいはドイツで事業を行う企業(ドイツで事業を行う外国企業を含みます)に対して、人権と生態系に関する多くの義務を課しています。これには、児童労働、強制労働、奴隷制の禁止、労働者の権利と環境基準の遵守が含まれます。注目すべきなのは、これらの権利と義務がフィリピンの法律でも認められていることです。

しかし、LkSGの規制では、企業は単に社内システムにおいてESG基準を遵守するだけでは不十分です。また、直接的・間接的サプライヤーについても、その拠点がどこであろうと、人権や環境に関する権利の侵害や、侵害への加担に関与しないよう図る必要があります。したがってドイツでは、企業は、自社の事業領域にとどまらず、原材料の調達から最終製品の納品に至るまで、サプライチェーン全体を通じてサプライヤーのESGコンプライアンスについて考慮する義務を負います。

違反が発覚した場合、企業はその立場に基づいて違反を止めるか、最小限に食い止める必要があります。また、人権侵害が深刻な場合は、最後の手段として、違反したサプライヤーとの取引関係を完全に終了させなければなりません。

同様の義務は、オランダの児童労働デューデリジェンス法、フランスのLoi de Vigilance (フランス注意義務法)、米国の1930年関税法、英国の2015年現代奴隷法、EUの企業持続可能性デューデリジェンス指令など、他の国・地域でも規定されています。

これらの規則では、持続可能性基準において、民間企業がサプライチェーン全体のESGパフォーマンスを調査する法的義務を負うことが期待されています。したがって、たとえ川上のサプライヤーがこれらの法律の直接的な適用対象ではなかったとしても、サプライチェーンに属する海外企業と取引を継続することを望むのであれば、ESG基準を遵守する義務を間接的に負うことになります。

上流への影響

サプライチェーンについて海外で課されるデューデリジェンス義務に基づき、海外企業はサプライヤーのESGパフォーマンスを調査することになります。海外企業に適用されるサプライチェーンのデューデリジェンスに関する法令は、適用範囲が限定されているとはいえ、フィリピンのサプライヤーなど、他の国・地域の上流のサプライヤーにも必然的に影響を及ぼします。

2022年の時点で、フィリピンの対外輸出は総額で790億米ドルに達しました。そのうち対米輸出が125億米ドル、対オランダが28億米ドル、対ドイツが27億米ドル、対フランスが7億6500万米ドルを占めました。英国政府系開発金融機関、ブリティッシュ・インターナショナル・インベストメントは、フィリピンを東南アジアにおける気候変動金融の優先市場の一つと位置付け、6億2300万米ドルの資金枠を提供しています。

また、地域的な包括的経済連携(RCEP)が6月に発効することを受け、欧州からフィリピンに向けられる投資の増加が期待されています。

フィリピンはASEANで唯一、EUの一般特恵関税制度(GSP)の一つであるGSP+の受益国です。したがって、人権、労働、良好なガバナンス、環境に関する27の国際慣行、つまりESG要素の少なくとも一つに該当する慣行の実施に取り組むことで、GSP+の恩恵を受けられる可能性があります。つまり、企業は法的・経済的要因だけではなく、サプライチェーンのデューデリジェンスに関する海外の法令が、サプライチェーンの上流に及ぼす影響によっても制約を受けることになります。

たとえば、欧米にとってフィリピンは、ココナッツオイル、電子機器、点火配線セット、ニッケル鉱石の主要輸出国です。欧米企業のサプライヤーとして堅調に収益を計上し続けるためには、ESGコンプライアンスについて説明する準備を整えておく必要があります。

ESGを巡る状況に対処する

ESGを受け入れることは、企業が国内でもグローバルにも成功するために避けては通れません。今日、ESGはビジネスの本分であるだけではありません。それは良いビジネスでもあります。企業がグローバル市場で成功するためには、フィリピンと外国の双方の複雑な規制に対処していかなくてはなりません。各企業が同じ方向に向かっているようにみえますが、ESGコンプライアンスの道のりはそれぞれに異なります。

筆者のESGプラクティスグループでは、多様な問題に関する法律専門家の深い知識と、数多くの国際法律事務所との強固な協力関係を通じて、クライアントがこのような複雑な状況を乗り越えていけるようサポートしています。

OCAMPO AND SURALVO

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