インドへの外国投資に伴う商事紛争の仕組み

By Harshit Anand、Kamaljeet SinghとHarshil Mehta、AP & Partners(ニューデリー)
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ンドの紛争対処の仕組みは制度として十分に確立されており、紛争解決のために複数の選択肢が存在する。係争当事者は、民事または商事裁判所での仲裁、調停、訴訟に加えて、会社法審判所(NCLT)、会社法上訴審判所(NCLAT)、知的財産審判委員会などの分野別に特化した場を含む選択肢を利用できる。当事者は、紛争の性格と複雑性に応じて、各自のニーズに最適な仕組みを選ぶことができる。

Harshit Anand
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インドにおいて、外国の企業や投資家が関わる紛争は基本的に商事的な性格のものであり、投資契約、株式割当契約、事業譲渡契約などの商取引の結果として生じることが多い。こうした商取引で紛争が生じた場合、投資家はインドにおいてビジネス上の利益を有するため、速やかな解決を求めがちである。商事裁判所での調停または訴訟手続きが、一般的に推奨される選択肢である。これらは一般に、従来型の訴訟と比べて迅速で融通が利くためだ。

インドは近年、投資家の信頼を高め外国投資を誘致すべく、意識的な努力を行ってきた。この努力の鍵を握る要素が、確実で迅速な紛争対処の仕組みの整備であった。外国投資家が直面する課題を踏まえて、インド議会は、特に商取引と法人に関する事項について改善を行ってきた。本稿は、より迅速で効果的な紛争対処の仕組みを保証するために整備された、重要な要素および法律を明らかにすることを目指す。

1996年調停仲裁法(Arbitration and Conciliation Act, 1996)や2015年商事裁判所法(Commercial Courts Act, 2015)などの、適宜改正される法律は、より効果的で速やかに法の裁きを行うことを目的とするものである。

枠組みとなる法律

仲裁は、特に商事契約を結ぶ投資家に推奨される商事紛争の解決の仕組みである。当事者はほとんどの場合において、契約に仲裁条項を盛り込むよう主張する。インドにおける仲裁には調停仲裁法が適用され、この法律が仲裁手続きの包括的な枠組みを定めている。同法は、国内における仲裁、および外国を仲裁地とする仲裁判断のインドにおける執行の枠組みを規定している。

Kamaljeet Singh
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この法律に基づくと、仲裁契約の当事者には、仲裁手続きの範囲と手続きの決定に関し、大きな裁量が認められる。第一に、当事者は仲裁人の数とその資格、仲裁地、仲裁に使用する言語を自由に決定できる。第二に、当事者は、インド法の一定の強行規定に従うことを条件として、紛争に適用される実体法を自由に決定できる。第三に、当事者は、仲裁人の任命、審問の場所と形式を含む、仲裁の実施時に従うべき手続きを決定できる。

調停仲裁法は基本的に、当事者自治を認め支持しており、当事者は各自に固有のニーズや好みに応じて、仲裁手続きを定めることができる。

仲裁契約は書面で交わさねばならず、紛争を仲裁に付託する当事者の意図を明記する必要がある。契約書の中に仲裁条項を含める場合、その仲裁条項は契約書の他の部分と分離できる。当事者が仲裁での紛争解決を望む意図を、主たる契約の解除後も有効に存続させるために、この点が重要となる。

インド最高裁判所は先日、NN Global Mercantile 対 Indo Unique Flame事件において、「印紙税が必要な法律文書に仲裁条項を含めることができるが、印紙が貼られていない場合、かかる文書は法的強制力を持つ契約とは言えない」との判決を下した。従って、仲裁契約が法的強制力を有するためには、適切な印紙の貼付が必要となる。

Harshil Mehta
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国内仲裁に関して、仲裁調停法は、請求事項の申立が終了し、両当事者が答弁書を提出してから12カ月以内(一定の延長を条件として)に、仲裁裁判所が仲裁判断を下すものとすると規定している。

例えば、ニューヨーク条約加盟国で下された外国仲裁判断は、インド法に基づき執行されることができる。仲裁判断が下された場合、その仲裁判断の原本と同一であることが証明された謄本を、仲裁契約書の写しとともにインドの裁判所に提出しなければならない。以下を含む、仲裁調停法第48条が定める極めて限定的な理由に基づく場合には、外国仲裁判断の執行を拒絶することができる。

  • 当事者の無能力 :契約書の当事者が、準拠法の下では何らかの無能力状態にあった。
  • 無効な合意 :契約書が準拠法の下で、または仲裁判断が下された国の法律に基づき無効であった。
  • 通知なし: 行使される側の当事者が、仲裁人の指名、あるいは仲裁手続きについて適切な通知を受けなかったか、または自身の主張を申し立てることができなかった。
  • 契約書の範囲を超えた事項: 仲裁判断が、仲裁付託の条項で検討されていない、または条項にない事項に関するものである、または仲裁付託の範囲を超えた事項に関する判断を含む。
  • 仲裁裁判所の構成 :仲裁における権限者、または仲裁手続きの構成が当事者間の合意に沿ったものではないか、かかる合意が存在しない、または仲裁が行われた国の法律を順守していない。
  • 仲裁判断に拘束力がない: 仲裁判断が当事者に対しまだ拘束力を持たない、または仲裁判断が下された国の当局により、仲裁判断が取消または保留とされている。
  • その他の事由 :紛争の主題がインド法の下では仲裁により解決できない、または仲裁判断の執行がインドの公序良俗に反する。

公序良俗違反に関する評価は狭義に解釈されており、紛争の本案の検討は含まない。例えばインドの裁判所は一貫して、インドの為替管理規制に抵触するか、これに反する仲裁判断であっても執行可能であるとの立場をとっている。

商事裁判所法

商事裁判所法は、商事紛争の迅速な解決の仕組みを作る目的で制定された。同法の目的と根拠に関する記述は、投資家に対応する独立した存在として、インドの司法制度に関する前向きなイメージを作り出したいという国家の意図が明確に反映されている。インド政府は、商事紛争の早期解決が、インドにおける魅力的な投資環境の醸成に欠かせないことを認識している。

同法に基づき指定される裁判所は、仲裁合意書から生じる手続きを含む、インド国内のあらゆる商事紛争に対し管轄権を有する。この裁判所は商事紛争とみなされる紛争を扱い、これは契約、株主・合弁事業協定、知的財産権、インフラ契約、天然資源など多様な商取引に関連する紛争を含むものと広く定義されてきた。この商事裁判所は、対象物が30万ルピー(3500ドル)を超える紛争を処理する権限を持つ。

商事裁判所法に基づきケースマネジメントという概念も導入され、この概念に基づき裁判所は、当事者間の面談を実施し、手続きの中で最も重要な各段階のスケジュールを設定するよう義務づけられる。この段階には、証拠の記録、弁論書の提出、口頭弁論の開始と終了が含まれる。

商事裁判所はさらに、円滑で効果的な紛争処理を確保するために、ケースマネジメント・ヒアリングで様々な命令を出す権限も付与されている。ケースマネジメント制度は、商事紛争の処理を迅速化するために導入された。

商事案件のより効果的な紛争解決の仕組みを実現するために、インド政府は、商事裁判所法の改正により第12A条を組み込んだ。第12A条は、緊急の救済を必要としない訴訟に対し、提訴前調停を義務づけている。当事者は、訴訟手続きを開始する前に、調停による和解の可能性を探らねばならない。この改正を通じて実現を目指す目標は、裁判制度の負担も減らしつつ、より現実的かつ効率的な紛争解決の手段を促進することである。

結論

紛争解決の仕組みを一層堅固で効率的なものにするために、インドは立法・司法へのアプローチを明確に変化させてきた。外国投資に対し経済のさらなる解放を進めるなか、紛争解決手続きの段階的な変更が制度に反映され、さらにビジネスがしやすくなるだろう。

またインドは、投資家に優しい司法管轄区域を実現するために積極的に取り組んでもいる。2021~2022年度のインドへの年間FDI流入額が過去最高の835億7000万ドルに達したことが示すように、こうした取り組みにより投資家の信頼が高まっている。世界の投資家が次第に魅力的な投資先としてインドを選ぶようになっていて、シンガポールが同期間の総投資流入額の27%、米国が18%を占めている。

活況に沸くインドの投資環境は、日本の投資家が、急成長する経済の可能性を活用して潤沢な利益を得る機会を生んでいる。日本の投資家がこの波に乗る好機であり、特に、外国投資家の利益と権利を守るためインド政府が策定した十分な保護措置を踏まえると、このチャンスを逃してはならない。

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