規制やコンプライアンスが、金融分野の激論を引き起こす話題として急速に発展しつつある中、常に新しい動向を把握することは不可欠です。この特集では、日本と韓国における関連法規について専門家の見解を紹介します。
日本では、2000年10月に初の完全インターネットベースの銀行が開業しました。当時、それは一般的に「インターネット銀行」と呼ばれていました。その後、スマートフォンの普及に伴い、日本の伝統的な金融機関(メガバンクや地方銀行)が、完全にオンライン上で取引が完結する銀行サービスアプリを徐々に提供し始めました。
さらに最近では、一部の銀行が証券会社や保険会社と協力し、銀行サービスへのアクセスのみならず、証券取引や保険加入を可能にするスーパーアプリの提供を開始しています。
諸外国と同様に、日本でもパンデミック発生後の2020年以降、デジタルバンキングの普及が進みました。一部の銀行は、本業のバンキング業務に加え、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を介して、BaaS(バンキング・アズ・ア・サービス)のプラットフォームを企業に対して提供し始めています。
これまで、日本のインターネット銀行の多くは、主に個人を対象にしたサービスを提供してきました。しかし2023年、ある銀行グループがオンラインによる企業向け融資に特化したデジタルバンクの設立を発表し、2024年末までの開業を目指しています。
近頃では、日本におけるデジタルバンキングの担い手は銀行のみではありません。アンバンドリングが、最近の日本の金融規制の特徴の一つとなっており、政府は伝統的な銀行業務の一部を行う事業者に対して、異なるタイプのライセンスを用意しました。
免許制度
銀行法は、次のいずれかを行うことを銀行業務と定義しています。(1) 預金または定期積金の受け入れ、資金の貸付、手形割引、(2) 為替取引を行うこと。同法は、銀行業を営むには内閣総理大臣の免許を受けなければならないとしています。これは、デジタルバンキングでも、銀行業務を提供する場合は、首相から免許を取得する必要があることを意味しています。
銀行法では、銀行業免許の審査基準として、2つの項目を定めています。
(1)申請者は銀行業務を健全かつ効率的に遂行するのに十分な資力を有し、その業務に関する収支の見通しが良好であること
(2)人事に関しては、申請者は銀行業務を適切、公正かつ効率的に遂行できる知識と経験を有し、十分な社会的信用を有していること
加えて、銀行法および銀行法施行令は、銀行に最低20億円(1340万米ドル)の自己資本を持つことを要求しています。
(2)の「銀行業務を適切、公正かつ効率的に遂行できる知識と経験」とは、銀行法その他関係法令および監督指針に示された銀行業務の目的を理解し、これを遂行するのに十分な知識と経験、ならびに銀行業務の健全かつ適切な運営に必要なコンプライアンスやリスク管理に関する十分な知識と経験を意味することにご留意ください。
さらに、金融庁が発表した監督指針には、有人店舗を持たず、インターネット取引など非対面取引に特化した銀行に対する免許審査の、主な監督目的が述べられています。
その指針によると、免許審査において確認される事項は以下のとおりです。
(1)有人店舗がなくても、顧客からの苦情や相談への適切な対応、システム停止時の顧客対応、法令に基づく顧客への説明責任の履行、情報開示、ならびにマネーロンダリングを含む組織犯罪対策として疑わしい取引を取引時に確認し、その報告義務を履行する体制が整っているか
(2)今後の収支見通しについて、競合他社の参入やシステムの陳腐化など、事業環境が悪化した場合の不測事態対応計画を明確にしているか、また、一定水準の収益を見込んでいるか
(3)金利その他の状況に左右されやすい顧客層、ならびに解約や変更が容易な取引を考慮し、一時的かつ大量の顧客離反が発生した場合の強固な流動性確保策を講じているか
(4)銀行のシステムのセキュリティレベルが十分であり、システム運用(外部委託先の管理を含む)のセキュリティ管理体制や障害発生時の危機管理体制(外部機関からの評価文書の提出が必要となるもの)が適切に整備されているか
主要課題
デジタルバンクはオンラインでサービスを提供するため、通常とは異なる取引パターンを確認できないなどの固有リスクがあり、それらに備える対策に加えて、利用者保護の観点からの情報セキュリティ対策を講じる必要があります。
金融庁が発表した監督指針は、インターネットバンキングの免許審査における留意点を詳しく説明しています。犯罪行為対策のための内部統制環境の整備について、同指針は、銀行がそれらを最優先の経営課題に位置づけ、「セキュリティレベルの向上に向けた取締役会による必要なレビューを実施する」「インターネットバンキングを利用する際の留意点を顧客に説明する統制環境を整備する」「インターネットバンキングの健全かつ適正な運用を確保するため、各部門が現状を共有し、銀行全体で課題に取り組む環境を整備する」よう求めています。
同指針はまた、リスク分析の実施、計画の策定、セキュリティ対策の実践・評価・見直しというPDCAサイクルが円滑に機能することを求めています。さらに、セキュリティ確保のため、サイバーセキュリティ研究会での議論内容を踏まえ、ITシステムの構築時や利用フェーズごとに発生するリスクを洗い出しながら、顧客や業務の特性に応じた対策を講じることを銀行側に要求しています。
また、効果的な対策を複数組み合わせることにより、その場しのぎの個別対策ではなく、全体としてのセキュリティ向上を目指すこと、リスクの存在を十分に認識した上で必要性と対策を判断し、迅速に対策を講じること、様々な犯罪に対して検証可能なセキュリティプログラムを作成し、必要に応じて改訂できる統制環境を整備することを求めています。
フィンテックおよびステーブルコイン
(1)送金と決済 2010年に「資金決済に関する法律」(資金決済法)が制定されてから、銀行免許なしで一回あたり100万円までの送金(資金移動)を行える資金移動業免許制度が導入されました。資金移動よりも支払機能に重点を置いた、プリペイド式支払手段の発行者に関する制度も導入されました。
当時、電子的に発行されるプリペイド式支払手段は一般的ではありませんでしたが、近年になって、それらは払戻し不可の電子マネーとして広く認知されるようになりました。その後、2021年に制定された改正資金決済法により、資金移動には100万円超の取引、5万円超100万円未満の取引、5万円未満の取引の3種類の免許制度が導入されました。
これに伴い、送金額の上限がない第一種資金移動業を、登録のみではなく免許制にする、などの厳しい規制が課されました。
(2)ステーブルコイン 2017年に制定された日本の改正資金決済法では、暗号資産交換業の登録制度が導入されました。しかし、その後に登場したステーブルコインの規制上の取り扱いは不明確だったため、日本は世界に先駆けてステーブルコインに関する規制を導入し、金融規制におけるその位置づけを明確にしました。これらの規制は、日本における利用者保護に貢献するのみならず、ブロックチェーンを利用した革新的な金融サービスの活性化にもつながると期待されています。
2024年3月18日現在、電子決済手段等取引業の登録事業者が電子決済手段であるステーブルコインの売買を行っている例はありません。しかし、2024年末までには、いくつかの企業が免許を取得して日本でステーブルコインの流通を開始する見込みです。
(3)金融サービス仲介業 2021年に制定された「金融サービスの提供に関する法律」(金融サービス法)では、銀行、証券、保険、貸金などあらゆる分野の仲介業務を単一の登録書の提出で可能にする金融サービス仲介業が新設されました。
この免許は主として、ユーザーが単一のアプリを介してさまざまな金融サービスにアクセスできるようにする事業を展開するフィンテック企業や、非金融事業者が金融事業に参入するために使用されます。
弁護士法人中央総合法律事務所
〒100-0011
東京都千代田区内幸町2-2-3
日比谷国際ビル18階
電話: +81 3 3539 1877
メールアドレス: info@clo.gr.jp
www.clo.jp/english
韓国
韓国には、デジタルバンキングの正確な法的定義がありません。オンラインで提供される銀行業務という単純な捉え方では、この業務が国内でどのようにデジタル的に発展してきたかを完全に把握することはできないでしょう。
最近では、銀行サービスを機能別にモジュール化し、従来の銀行免許を持たないフィンテック企業でも利用できるようにするというシフトが見受けられます。バンキング・アズ・ア・サービス(BaaS)として知られるこのシフトは、主にフィンテックのアプリケーションにバンキング機能を統合することによって実現されるものです。
この枠組みでは、銀行は必要な金融インフラを提供しますが、必ずしも顧客との直接的なやり取りを行うわけではありません。その結果、この国のデジタルバンキングは、伝統的な銀行の排他的領域から、フィンテック企業のような新規参入者を歓迎する、より包括的な環境へと大きく移行するようになりました。
法規制システム
世界各国の銀行と同様に、韓国の銀行の中核業務は預金、融資、そして国内・外国為替取引です。韓国におけるデジタルバンキング規制の説明には、さまざまな形がありますが、ここでは、デジタル環境の中で伝統的なバンキング機能を提供する際に適用される法的・制度的ルールに焦点を当てます。
インターネット専業銀行
韓国においてデジタルバンキング・サービスを提供する最も確実な方法は、インターネット専業銀行免許を取得することです。これにより、法人向け融資を除く一般的な銀行
業務を行うことができます。韓国では3社がインターネット専業銀行免許を持ち、デジタルバンキング業務を行っています。インターネット専業銀行免許を取得するための法的要件は以下の通りです。
(1)免許取得には、最低250億ウォン(1860万米ドル)の資本金が必要です。この免許付与の審査において、金融当局は申請された資金調達案が実行可能かどうか、また追加資本の調達が可能かどうかを評価します。
(2)銀行は、業務遂行のための適切な人員、業務施設、コンピューター・システムを備えていなければなりません。
(3)特に、外国金融会社または外国金融会社の持株会社がインターネット専業銀行免許を申請する場合、それぞれの母国の監督当局による合法的な同意が必要です。財務および経営状態が健全で、国際的に認められた信頼性を有していなくてはなりません。韓国の金融監督当局に対して、銀行事業の経営および業務活動に関する十分な情報を提供しなくてはなりません。
(4)上記の条件をすべて満たしている場合でも、韓国の金融当局は認可時に「増資計画の誠実な実施」などの追加条件を課すことができます。
インターネット専業銀行免許の取得は、韓国においてデジタルバンキング業務に従事するための最も直接的かつ決定版的な方法です。しかしながら、高い参入規制を遵守し、金融監督当局の精査を通過する必要があります。認可取得には金融監督当局との緊密なコミュニケーションが必要であり、関連する法規制上の問題を事前に徹底的に検討する必要があるため、専門家の支援が事実上不可欠です。
送金と決済
かつて銀行の独占領域だった国内為替取引は、「単純送金」サービスの登場により、フィンテック企業がひしめく激戦市場へと変貌しました。これらのサービスを導入し、電子金融取引法で定義されている「プリペイド式電子決済手段」を活用し、オープンバンキングを実施することにより、国内の為替取引は銀行による独占から競争市場に移行したのです。
さらに、最近は外国為替取引法に基づく少額海外送金免許が創設されたことで、クロスボーダー送金に乗り出すフィンテック企業が急増しています。以下は、送金と決済に関する規制の入口要件の概要です。
(1)プリペイド式電子決済手段の発行および管理、ならびに決済ゲートウェイ・サービスは、韓国金融委員会(FSC)への登録の対象です。
(2)必要最低資本金は、プリペイド式電子決済手段の発行および管理に従事する者については20億ウォン、決済ゲートウェイ・サービスについては10億ウォンです。
(3)申請者は、負債比率など特定の財務健全性基準を満たし、電子金融事業を行うのに十分な専門知識と物理的設備を有していなければなりません。
(4)クロスボーダー送金に必要な少額海外送金業の免許は、FSCではなく、企画財政部に登録しなければなりません。小規模の海外送金事業を運営するために必要な最低資本金は10億ウォンであり、中央外国為替情報システムに接続されていなければなりません。
(5)同様に、クロスボーダー決済ゲートウェイ・サービスを行うには、企画財政部への外国為替業務の登録が必要です。クロスボーダー決済ゲートウェイ・サービスのために外国為替業務を登録する資格は、電子金融取引法に基づく決済ゲートウェイ・サービス免許を保有する事業者に限定されていますので、留意が重要です。
(6)韓国では、近年の電子金融取引法改正を受けて、「今すぐ買って、後で支払う」(BNPL)サービスを提供する法的基盤が確立されました。
預金
預金の受け入れ業務は、依然として銀行の独占的な領域です。従って、先に述べたように、インターネット専業銀行の免許を取得しないかぎり、預金商品を直接取り扱う手段はありません。しかし、FSC は最近、オンライン預金商品仲介サービスの試験運用を、参加企業を選定して行うと発表しました。
オンライン預金商品仲介サービスはまだ試験段階にあるため、既存の法的認可は存在しません。
韓国の金融革新支援特別法では、特定の基準を満たした企業は、「金融規制のサンドボックス」制度を介して、現行法では認められていない金融サービスの試験運用を申請することができます。このサンドボックスの対象となった企業は、2年間(最大4年間まで延長可能)にわたり、金融規制で認められていないさまざまなサービスを試すことができるのです。
サンドボックス指定を申請できるのは、韓国内の金融会社および韓国内に事務所を持つ企業に限定されています。FSCにサンドボックス指定申請書および同委員会所定の書式に従った裏付け書類を提出して、審査を通過すれば指定を受けることができます。
融資
銀行預金と同様に、融資は伝統的に銀行の中核的機能でした。しかし近年では、P2P方式でオンライン融資を仲介するプラットフォーム事業者の出現により、伝統的な融資市場にシフトが生じています。
さらに、さまざまな金融機関のローン商品を比較し、最適な商品を推薦する新しいオンライン・サービスも登場してきました。
(1)韓国は、「オンライン投資連動型金融および利用者保護に関する法律」を通じて、P2P融資事業を法的に規制しています。オンライン投資連動型金融事業を行うには、以下の条件を満たす必要があります。
(a)オンライン投資連動型金融事業にはFSCへの登録が必要
(b)融資の規模によりますが、最低5億ウォンの資本金が必要
(c)事業計画は実行可能で健全なものでなければならず、取締役は法律で定められた資格を満たしていなければなりません。大株主には、十分な投資能力、健全な財務状態、そして社会的信用が必須
(2)オンライン融資仲介サービスは、法的には金融消費者保護法に基づいたものです。オンライン融資仲介サービスを行うには、以下の法的条件を満たしていなくてはなりません。
(a)FSC への登録が必要
(b)法人の代表者または役員は、ローン商品に関する教育を修了していること
(c)標準作業を確立し、専門的な人材とコンピューター設備が提供されていること
(d)消費者被害補償のために、最低5,000万ウォンの保証金を預託するか、保険に加入すること
(e)アルゴリズムについて、利益相反防止証明書を取得すること
結論
デジタルバンキングは基本的に、従来の銀行業務プロセスを分離し、機能をモジュール化することを中心に展開しています。従って、それぞれの銀行業務の規制状況を十分に把握することは、法令遵守リスクを軽減する上で極めて重要です。韓国においてデジタルバンキング分野に進出しようとする企業は、各々の銀行業務や機能に適用される法的枠組みを理解し、慎重に戦略を練る必要があります。
SHIN & KIM
23F, D-Tower (D2), 17 Jongno 3-gil,
Jongno-gu, Seoul 03155, Korea
電話: +82 2 316 4114
Eメール: shinkim@shinkim.com
www.shinkim.com