タイにおける合併・買収(M&A)の件数は2023年に大幅に増加し、2024年中も増加が続くと予想されています。上場企業も未上場企業も、ゼロからの新規事業の立ち上げよりも、目標達成と事業活動拡大の手法としてM&Aを活用してきました。現在、M&Aは未上場企業の間で特に活発に行われており、中でも未上場企業同士の比較的小規模な取引が盛んです。その理由は、ビジネスツールとしてのM&Aが以前よりも利用しやすくなったためです。しかしながら、タイのM&A活動の重要なプレーヤーは、引き続き上場企業です。
最近の動向
タイ政府が2018年末に合併規制規則を発表して以来、企業、弁護士、ビジネスコンサルタントはM&Aを行う際に、この新法を考慮することが必要となりました。加えて、「民商法」には、「合併(merger)」と呼ばれるM&A取引の新しいコンセプトがあります。これは、2社以上の企業が合併し、1社のみが存続するというものです。
2023年には、顕著な取引が数件ありました。注目された取引の一つは、Restaurants Development社がタイにおけるKFC事業を、40億バーツ(1億950万米ドル)超でインド系上場企業の子会社に売却した件です。
M&A活動の手法
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タイで最も一般的な買収の手法は、対象企業の株式の取得と、事業および資産の買収です。
株式取得 株式取得は、企業が対象企業を買収する最も一般的な方法です。株式取得の実施は比較的容易ですが、対象企業のリスクを特定するためにデューデリジェンスを実施し、免責と保証を株式売買契約に盛り込む必要があります。
株式の譲渡には、譲渡価額と額面価額のいずれか高い方の0.1%に相当するタイの印紙税が課されることに留意すべきです。
事業/資産の買収 資産の買収は、隠れた法的・税務負債を抱える対象会社のリスクを買収者が回避したい場合に検討されるべきです。この場合、通常はそうしたリスクが対象会社に残り、その事業または資産と共に譲渡されることはありません。
しかし、「外国人事業法」により、外国企業が事業および/またはその資産を直接保有することが制限される場合があります。その場合は、対象事業とその資産をタイで保有するためのタイ法人を設立しなければなりません。さらに、一定の法的要件を満たす必要も生じます。
タイでは通常、資産の譲渡には付加価値税が課され、また一部の取引書類に印紙税やその他の手数料がかかることにご注意ください。
合弁会社
合弁会社は、当事者双方の知識やノウハウが必要とされる可能性のある事業をタイで行うために、企業間(外国企業とタイ企業、2社以上の外国企業間、またはタイ企業間のみ)で設立することができます。場合によっては、外国企業がタイで通常制限されている事業を行うために、「外国人事業法」に準拠した合弁会社を設立することもあります。
関連法規
民商法(CCC) CCCは、タイで活発化する民間のM&A取引において重要な役割を果たしています。一部のケースで、特に取引ストラクチャ―が複雑な場合は、登記官と相談をすることが推奨されます。
CCCを管轄する政府機関は、事業開発局です。
外国人事業法(FBA)
FBAは、外国企業がタイでM&A取引を行う際に考慮すべき最も重要な規制法です。
FBAは、外国人や外国企業がタイで一部の事業活動を行うことを禁止または制限しており、そのほとんどがサービス業に関連するものです。
FBAの制限において、「外国人」とは、外国人個人、タイ国外で設立された会社、もしくはタイで設立されたが外国人個人または外国企業が過半数を保有する会社、と分類されています。
場合により、外国企業はタイ企業の株式の過半数を保有することができません。
FBAを管轄する政府機関は、商務省の外国企業局です。
取引競争法(TCA) TCAは、2018年の施行以来、タイのM&A取引において重要な役割を果たしています。TCAが定める要件を満たすM&A取引では、以下を行う必要があります。(1)取引の事前承認を得る、または、
(2)取引の事後通知を行う。すなわち、M&A取引によって独占状態が生じる場合には事前承認が、M&A取引によって市場の競争が低下する場合は事後通知が必要となります。
TCAを管轄する政府機関は、取引競争委員会事務局です。
労働者保護法(LPA)
株式取得取引においては、法的には雇用主が変わらないため、従業員から事前の同意を得る必要はありません。
ただし、従業員の移籍を伴う事業および/または資産の買収においては、LPAにより、従業員のすべての権利、義務および特権を新しい雇用主が引き受けることが要求され、雇用の移籍には従業員の同意を得なければなりません。従業員が新しい雇用主のもとで働くことに同意しない、または望まない場合で、既存の雇用主が業務を停止した場合、雇用契約は終了したとみなされ、従業員は既存の雇用主から退職金を受け取る権利を有することになります。
LPAを管轄する政府機関は、労働保護福祉局です。
その他の法令
M&Aの当事者が上場有限会社または上場会社である場合、「上場有限会社法」および「証券取引法」も考慮すべき重要な規制法となります。土地が対象会社の資産に含まれる場合は、「土地法」も(FBAと共に)考慮しなくてはなりません。
業種が異なれば、M&A活動に適用される規制も異なる可能性があることは、重要な留意事項です。
買収資金の選択
企業買収では、買手は買収資金を借入とエクイティ(株式発行)のどちらで調達するか、あるいは借入とエクイティの特徴を組み合わせたハイブリッドな手法で調達するかを、決定する必要があります。
借入 借入を利用する利点は、税務上、利息を損金算入できることと、元本の返済による投資の還流が容易なことです。一方で、配当金支払は損金算入の対象ではなく、資本の回収は煩雑で時間がかかる可能性があります。
タイには、過小資本税制はありません。
エクイティ 買手は、エクイティによって資金を調達することもできます。しかし、タイの税法上、配当金を損金に算入することはできず、また、会社が利益を挙げない限り配当を実施できないため、エクイティによる資金調達は魅力的ではないかもしれません。また、資本(エクイティ)の回収は、ローンの返済よりも難しいでしょう。
ただし、合弁事業、もしくはスタートアップ企業への投資の場合は、借入よりもエクイティによる資金調達のほうがより一般的です。
全事業譲渡、新設合併、合併
「タイ国歳入法」では、企業が全事業譲渡を行うことができます。これは、ある企業の事業と負債を株式交換によって別の企業に移転するものです。すべての条件を満たせば、全事業譲渡は非課税取引になります。
タイには、2つの企業が合併して新しい企業を設立する、新設合併という手法もあります。この取引では、タイの法人所得税が免除されますが、合併前の両社のいずれかに税務上の欠損金があった場合、それは消滅します(新会社には繰り越されません)。合併前の両社は、どちらも新設合併の過程で解散します。
合併(merger)は、CCCにおいては新しいコンセプトであり、企業買収に柔軟性を与えるものです。しかしながら、この新しい合併制度は、関連規則や規制についての知識不足や不確実性のために、まだ広く採用されるには至っていません。
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