ヘルステック関連規制の比較: 日本

    By 西垣建剛, Andrew Trost Griffin そして 山本祐司, GI&T法律事務所
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    本稿では、日本で事業を行う医薬品企業や医療機器メーカー用に不正調査を実施してきた経験を踏まえ、ヘルスケア企業で生じることが多い特有の法的問題を明らかにし、慎重な配慮を要する調査を行うにあたって検討するべき点について概説しています。

    事前注意事項

    企業の電子メールの調査には、従業員の同意を必要としません。日本で実施される不正調査には、多くの場合、従業員の電子メールなどを対象とするフォレンジック調査が含まれます。不正調査が合理的な疑いに基づいており、正当だと考えられる場合、企業の調査チームは、従業員の同意を得ることなく、自社の電子メールアカウントや、貸与するコンピューターや携帯電話などの電子媒体に保存されている情報にアクセスすることができます。

    ただし、従業員が所有する電子媒体および従業員の私用電子メールにアクセスする場合は、同意が必要です。

    Kengo Nishigaki
    西垣建剛
    代表社員/パートナー
    GI&T法律事務所(東京)
    電話番号: +81 3 6206 3285
    Eメール: kengo.nishigaki@giandt-law.com

    弁護士と依頼人の間の秘匿特権。 日本の訴訟制度には、法廷で提出される証拠について当事者が情報交換する公判前開示制度がないため、弁護士と依頼人の間の秘匿特権という概念が存在しません。弁護士と依頼人の間の秘匿特権とは、弁護士とその依頼人の間の秘密の通信を保護する法的原則を指します。しかし、米国企業の日本法人で贈収賄事件を調査する場合、米国で海外腐敗行為防止法の適用の可否が問題となるため、日本での不正調査の結果は米国法の弁護士と依頼人の間の秘匿特権の対象になります。

    弁護士と依頼人の間の秘匿特権を確保するため、近年では、米国企業の日本法人の従業員に聞き取り調査を実施する際に、「アップジョン警告」(弁護士は会社を代表しているが、従業員個人を代表していない旨の告知)を行うことが一般的になっています。この場合、弁護士と依頼人の間の秘匿特権の帰属という従業員には馴染みのない事項について、無用な警戒心を抱かせることなく、関係者にわかりやすく説明することが必要です。

    従業員の解雇は難しい。日本の労働法は長期雇用を前提としているため、過去の判例に照らすと、解雇が可能な事例は極めて限られています。そのため、欧米企業の日本法人の従業員が何らかの不正を行ったことが調査で判明したとしても、日本の法令の下では、多くの場合、解雇は困難です。

    医薬品医療機器等法や業界ルールに対する軽微な違反があったとしても、解雇事由に該当しない場合が多いでしょう。その場合の対応として、就業規則に基づき、解雇や降格などの懲戒処分を行う必要があります。

    適応外使用の販売促進

    Andrew Trost Griffin
    Andrew Trost Griffin
    弁護士
    GI&T法律事務所(東京)
    電話番号: +81 3 6206 3283
    Eメール: andrew.griffin@giandt-law.com

    適応外使用の販売促進は、医薬品医療機器等法による規制の対象です。誇大広告、または法律で認められていない製品の効能や効果についての広告を行った場合、違反者は違法広告の取り消しを命じられるとともに、違反期間中の製品の売上に対して4.5%の課徴金の支払いが銘じられます。

    適応外使用の販売促進に対する規制は、従来、それほど厳格ではありませんでした。2013年、ノバルティスは、日本の5つの大学病院において医師の主導により血圧降下剤ディオバンの大規模臨床試験を行い、自社の社員を研究員として派遣しました。この社員がデータを改ざんし、この薬剤が高血圧だけでなく心血管合併症にも効果があるという旨の同社に有利な研究論文を発表したとして告発されました。この研究論文の影響もあり、公表によると、ディオバンは2000年に日本で発売されて以来、累計で1兆円の売上を記録しました。

    この事件は刑事事件になりましたが、2021年、最高裁判所は、社員とノバルティスにデータ改ざんの罪はなく、研究論文も医薬品医療機器等法の広告に該当しないという判決を下しました。

    この事件を受け、厚生労働省は、医薬品医療機器等法の改正(2021年8月1日施行)により、適応外使用の販売促進に対する規制を強化し、上記の課徴金制度を導入しました。また、「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン(販売情報提供ガイドライン)」を公表するとともに、医薬品企業による適応外使用の販売促進の防止に向けて制度を整備しました。

    また、「広告活動監視モニター事業」を開始し、医薬品企業の疑わしい広告活動について、医療機関から情報を入手する制度を設けました。

    ある製品が適応外使用に該当するか否かを判断するには、広告活動が規制上承認されている範囲で行われたかを検証しなければなりません。しかし、そのためには医学的・科学的検討が必要であり、また、規制上の承認の内容自体が不明確であることも多いのです。

    さらに、販売情報提供ガイドラインでは、営業担当者が医療関係者の要請に応じて適応外使用に関する情報を提供することは禁止していませんが、要請がない場合の情報提供は禁止しています。そのため、場合によっては、医療関係者から情報提供の要請があったかどうかを調査する必要があります。

    データ保護

    Yuji Yamamoto
    山本祐司
    アソシエイト
    GI&T法律事務所(東京)
    電話番号: +81 3 6206 3927
    Eメール: yuji.yamamoto@giandt-law.com

    日本は、EUの一般データ保護規則(GDPR)により、EU域外のデータ保護が十分な水準にあることを示す「十分制認定」を受けています。また、個人情報保護法(APPI)に基づき、個人情報を厳格に保護しています。

    患者情報は個人の機密情報とみなされており、その取得や第三者への提供は厳しく規制されています。ヘルスケア企業が、臨床試験や臨床研究、医療機関へのサービス提供のために、患者データを受け取ることは考えられることです。APPIで規定されているとおり、データ主体の同意に基づく個人データの取得や第三者への提供は、比較的広く認められています。

    GDPRとは異なり、APPIにおける同意は明示的な同意に限定されておらず、黙示の同意も含まれます。しかし、ヘルスケア企業が販売促進の目的で医療機関から患者の個人情報を取得する場合、患者が販売促進を目的とする情報提供に「黙示的に同意している」とは考えられないでしょう。

    したがって、医療機関やヘルスケア企業が明示的な同意を得ていない場合、そのような情報の取得や移転はAPPI違反となる可能性が高いとみられます。そのため、ヘルスケア企業が商業目的で市販後調査を実施する場合は注意する必要があります。

    一方、2022年のAPPIの直近の改正では、仮名加工情報という概念が導入されました。仮名加工情報とは、他の情報と照合しない限り特定の個人を特定できないように識別子の全部または一部を置き換えて加工した個人に関する情報を指します。これにより、医療機関が患者の個人情報から個人を特定できる情報を取り除き、ヘルスケア企業との共同研究目的で利用できるようになりましたす。

    ただし、このような利用は、政府が制定した「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」に抵触する可能性があることに留意する必要があります。

    独占禁止法

    日本の独禁法は、EU、英国、米国と同様に、垂直的制限行為(再販売価格維持や抱き合わせ販売を含む)と水平的制限行為(カルテルを含む)を広範に規制しています。ヘルスケア業界は、独自性の高い処方薬や医療機器を製造・販売しているため、水平的制限行為が問題となる事例はわずかですが、2021年には、医薬品の卸売取引に関する大規模カルテルが発覚しています。

    垂直的制限行為については、医薬品・医療機器メーカーは再販売価格維持行為の防止に向け、営業担当者が卸売業者に対して再販売価格維持行為を行わないよう社内教育を実施してきました。特に、医薬品企業が卸売業者に支払うリベートは、再販売価格を維持する手段として利用される場合があるので注意を要します。

    医療機器メーカーが医療機器と消耗品を販売する場合、消耗品の継続販売により利益を挙げることが一般的なビジネスモデルになっています。この点に関して、医療機器が著しく低い価格で販売された場合、略奪的価格設定の問題が生じます。また、公正な市場価格を下回る価格で医療機器を提供した場合、公正競争規約への違反になる可能性があります。

    本稿の執筆者は、Asia Business Law Journal2022年9月/10月号において、日本のヘルスケア業界に適用される贈収賄防止法令と業界自主規制について解説しています。

    GI&T LAW OFFICE
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    www.giandt-law.com/english

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