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日本で名高い桜のように、日本企業の業況はコロナ禍の寒い冬の終わりとともに回復しつつあります。ただし、今回の状況は従来とは異なるようです。(レポート/John Church

スローダウンとロックダウンという2つの言葉を、ここ数年受けてきた影響に関連して、私たちは嫌というほど耳にしてきました。日本もその影響を受けてきましたが、他の多くの国々と類似しているのはここまでです。

過去数十年間、企業活動がこれほど文化から支配的な影響を受けてきた国は、他にほとんど例がありません。また、この2つのキーワードが世界経済に影響を及ぼすようになって以降、これほど急速に進化した国もないでしょう。

日本は、閉鎖的な文化的アイデンティティと外圧への抵抗でよく知られており、それは個人の行動からビジネス慣行、そして政治に至るまで、社会のあらゆる面に浸透しています。そのような国において、イデオロギーの急転換や再構築を提案することは無謀なように思われます。

しかし、日本は今、岐路に立っているという認識が広まっており、前に進むために、今後の成長の達成に向けて必要な変化や考え方を、迅速に受け入れています。さまざまな要因が重なり、かつてなく多くの海外投資家が日本の扉を叩いています。そしておそらく初めて、その扉がわずかながらも実際に開かれようとしています。

TMI「日本は自国の発展のあり方を国際化させています。対外的な影響のため、特にビジネス関係者は変化を余儀なくされています。日本は国際化する必要があり、変化しなければなりません。コロナ禍以前の状態にとどまっていることはできません」

最近、大企業が採用した人材の専門性を国際的な水準まで高めたり、海外に派遣された人材が昇任して東京本社の取締役になったりする傾向がみられます。かつては国際的な法律事務所に太刀打ちできなかった国内の法律事務所も、今ではクロスボーダー案件でも遜色ありません。

コロナ後の世界では、将来の成長を左右する条件が変化したことを日本が受け入れ、それにより、いくつかの点で日本の実業界と法曹界の考え方が変わっていくなか、インバウンドとアウトバウンドの活動が活発になっています。雇用の公正さと包括性を規定する法令は、急速に進化し続けています。では、何が日本を前に進めているのでしょうか。

インバウンド

「最近、外国企業による日本へのインバウンド投資が増えています」と西村あさひ法律事務所の執行パートナー、中山龍太郎弁護士は指摘しています。

「その一因は、他の通貨、特にドルに対して円が安くなっていることです。このため、外国企業による買収のコストが低下し、容易になっています。しかし、日本企業の事業売却が増加したことも原因の1つです。これは主に、日本企業のビジネス・ポートフォリオに対する考え方の変化によるものです」

中山弁護士は、このような変化を認めつつも、日本への進出に意欲的な外国投資家は、慎重さを忘れるべきではないと考えています。「他の国と同様に、外国直接投資(FDI)に関して通常の規制はあるものの、概して日本の法制度と事業環境は公正です」と彼は述べています。「言葉の壁など、文化面の障壁の方が高いでしょう。日本のビジネスパートナーやアドバイザーから、このような障壁を乗り越えるためのサポートが得られるはずです」

また、国際的な企業が日本に大きな関心を寄せ、対内投資が急増するなか、多くの支援が必要とされています。もっとも、驚くほど強い意欲をもっている投資家もあります。

「日本のテクノロジー企業は、以前から海外の投資家の関心の的であり、この傾向は弱まる気配がありません」と、サウスゲイト法律事務所の設立メンバー、飯谷武士弁護士は指摘します。2016年に設立された同事務所では、日本人と外国人の弁護士が、事務所の運営やプロジェクトの進め方について平等に発言権を持っています。

「海外投資家は従来から日本の技術力を評価しており、機械・技術部品メーカーに引き続き注目しています。最近では特に、海外のVC投資家がソフトウェア企業やIT企業に関心を示しています」と飯谷弁護士は述べています。

飯谷弁護士によると、欧米の投資家の日本に対する積極的な投資の一因は、当然ながら、ドルに対して円が安くなっていることです。しかし、彼は次のようにも指摘しています。「中国企業もテクノロジー分野を中心に日本での資産取得を進めており、最近ではインドや東南アジアの企業も、チャンスをうかがい始めています」

「インバウンドのM&A市場は比較的安定しているようですが、インバウンドのVC市場はここ2、3年でかなり活発になっています」と飯谷弁護士は述べています。「日本のVC市場は、米国はおろか中国やインドと比べても、非常に小さくて活気がありません。そのため長年、海外のVC投資家から見過ごされてきました」

「しかし、2018年から2021年にかけて、世界中でVC市場が過熱し、スタートアップ企業の評価の過大さが認識された結果、投資家は割安な資産を探すようになりました。多くの投資家が、ファンダメンタルズの強さにもかかわらず、一部の近隣諸国のような輝きに欠ける市場である日本に目を向けました」

サウスゲイト法律事務所は、ソフトバンク・ビジョン・ファンドが2021年と2022年に日本で初めて投資を行った際に、代理人を務めました。また飯谷弁護士は、法務AIスタートアップ企業のLegalForceが、2022年第3四半期に実施したシリーズDの137億円(1億560万米ドル)の資金調達が、こうしたインバウンド投資のトレンドの代表例であるとも述べています。

この案件では、投資シンジケートには、海外ではソフトバンク・ビジョン・ファンド2、セコイア・チャイナ、ゴールドマン・サックス、国内ではみずほキャピタル、三菱UFJキャピタル、World Innovation Lab(WiL)など、著名なVC投資家が名を連ねています。

「また、アジアに拠点を置くヘッジファンドやPEファンドの中には、おそらく未公開企業の評価が高過ぎると判断したためだと思われますが、日本のレイターステージのベンチャー企業に目を向けているものもあります」と飯谷弁護士は述べています。

シティユーワ法律事務所のパートナー、栗林康幸弁護士も、このトレンドを認め、次のように述べています。「近年、日本では、政府の新たな優遇措置もあって、スタートアップ企業の活動が非常に活発化しています。しかし、特に米国と比較すると、従来の障壁が依然としてスタートアップ企業全般の発展を抑制しています。成長が著しいのはテクノロジー分野で、特にTMTが注目されています」

渥美坂井法律事務所のシニアパートナー、野崎竜一弁護士によると、同事務所が支援したスタートアップの活動は、オンラインマーケティング、広告テクノロジー、資産担保金融、保険仲介、ファンド管理プラットフォームサービス、オンライン遠隔医療サービス、専門サービスのマッチングプラットフォーム、シェアリングエコノミーサービス、AI技術を用いた顧客プロファイリング、不動産管理のSaaS(サービスとしてのソフトウェア)など、多岐にわたります。

「日本では、あらゆる分野でスタートアップ企業が活動しています。サービスを効率化する技術、あるいはサービス提供者と顧客をつなぐ技術には可能性があります」と野崎弁護士は述べています。

同事務所では、統合チームが次の点に留意してスタートアップ企業の支援を行っています。(1)スタートアップ全般を専門とする弁護士が、スタートアップ企業の目標、ニーズと弁護士への期待、エコシステム、マインドセットを理解した上で担当する、 (2)スタートアップ企業によって異なる特定の法務分野(たとえば、金融サービス規制、医療サービス規制、知財法など)に精通した弁護士が担当する。

また、野崎弁護士は次のように述べています。「当事務所では、証券取引所の上場審査担当者が求める要件の実務について理解・習熟し、スタートアップ企業の会計・税務管理体制やコンプライアンス体制の構築に関する経験を備えた弁護士が、クライアントのIPO準備を支援するサービスを提供しています」

アウトバウンド

西村あさひ法律事務所の中山弁護士は、従来の中国への流通経路が、新型コロナウイルスによるロックダウンや地政学的な不確実性によって狭まるなか、欧州が日本の国際企業の注目の的になっていると指摘していますが、この両者を比較しようとはしていません。

「日本企業の欧州、特に東欧への投資は確実に増えています。また、日本企業が中国事業から撤退する事例もみられます。しかし、日本企業の欧州投資の活発化と、サプライチェーンの中国集中解消の動きとが、直接的に関係しているとは考えていません」

「日本企業は等しく、サプライチェーンの変化に対応しているようにみえるかもしれませんが、むしろ、製品主導で動いています。たとえば、欧州市場向けの電気自動車用バッテリーを製造する場合、バッテリーやその部品は非常に大きく重いため、製造する場所として最適なのは自動車メーカーの工場に近い欧州です」

「ハンガリーは、低賃金、魅力的な税制、政府の手厚い支援を背景に、電気自動車用バッテリーの製造拠点へと変貌を遂げつつあります。Tier1、Tier2の双方のサプライヤーは、事実上、大規模なバッテリー工場に近接した地域に、自社の製造施設を置くことを余儀なくされています。当然のことながら、そのようなサプライヤーの多くは日本企業です」

森・濱田松本法律事務所のパートナー、小山洋平弁護士は、日本企業は伝統的に、対面でのミーティングや現地でのデューディリジェンスを実施せずに取引関係に入ることを、ためらう傾向があると指摘しています。多くの日本企業は、コロナ禍の間、規制が解除され、移動が自由化される時に備えて資金を蓄え、事業を再編してきたと彼は考えており、次のように述べています。

「コロナ関連の規制が解除され、より多くの日本の経営幹部が実際に出張して、プロモーターに会い、企業を訪問できるようになったので、日本のビジネスパーソンはビジネスや投資の機会を求めて出張を再開すると思われます」

「さらに、コロナ禍、米中間の貿易摩擦、ロシアのウクライナ侵攻によるサプライチェーンの混乱の結果、(中略)日本企業はインド、ベトナムなど、他の南アジア、東南アジア諸国での生産拡大を検討する可能性があります」

「インドと日本は、政治的にも経済的にも、良好で強固な関係を築いています。今後、インドでは、日本企業のビジネスや投資の機会が増えると見込んでいます」

西村あさひ法律事務所は、投資増加に先んじて、ドイツにある2つの事務所を通じて欧州に進出しました。中山弁護士は次のように述べています。「クライアントが東欧、あるいは欧州のいずれかの国に投資するという決定を下す前に、複雑な許可、外国投資、課税、政府補助金に関する規制に対処するため、多くの場合、現地での助言が必要になります」

「2020年に欧州に事務所を開設したのは、主に、当事務所の調査により、欧州への投資を検討する日本企業からの需要増加が見込まれることがわかったからです。日本からの投資の流れが実際に動き始めている今、私たちは日本企業に対して的確で効果的なアドバイスと、欧州全域に関する有用な情報を提供できることを幸運に思っています」

TMI総合法律事務所の岩倉弁護士は、コロナ禍以降、中国が閉鎖的になり、日本は代替策を検討せざるを得なくなったと指摘し、次のように述べています。「私たちは中国に過度に依存していましたが、中国がコロナのために国境を閉鎖し、米国の対中戦略が強硬になったとき、日本は中国にこれほど依存するべきなのかを考えざるを得なくなりました」

「それでも、日本企業は再び門戸を開く中国での事業に目を向け、現在の地政学的状況下で、どのように事業を展開していくかを検討していくと予想しています。他国の企業は撤退しています。この潮流はコロナ禍から始まり、日本企業を劇的に変化させました。欧州、アジアの他の地域、そして米国(中南米を含む)の市場は今、魅力的です」

不動産が関心の的

Withers東京オフィスのマネージングパートナー、エリック・ルース(Eric Roose)氏は、円安の影響で海外投資家にとって不動産が非常に魅力的になったと述べ、次のように指摘しています。「しかし、大手ファンドや機関投資家は、円安になるかなり前から、市場で活発に活動していました」

また、「アジア(特にシンガポール、タイ、香港)の富裕層の投資家や、シンガポールや香港のファミリーオフィスは、円安のために日本の不動産投資が割安になっていることから、市場に魅力を感じています。これらの投資家・ファミリーオフィスの多くは、資産の取得のために日本で資金調達する必要はありません」と述べています。

ルース氏は、世界的に不況が懸念されているにもかかわらず、日本の不動産市場は円安、低金利、政治的安定性を背景に活況を呈しており、この状況は今後も続くだろうと述べています。ルース氏は、不動産セクターの土地・スペースに関するトレンドとして、以下の点を挙げています。

  • 商業オフィスは低調
  • 住宅用不動産に対する需要は高い
  • 物流センターとデータセンターが急成長しており、多くの大手企業が市場に参入している
  • ホスピタリティが回復している(「コロナ関連規制が緩和されれば、世界中の観光客が日本を訪れるのは確実なので、取引は増加するとみられる」)
  • 高齢者向け施設は堅調
  • 再生可能エネルギー施設は活況が続いている。世界中の機関投資家によるESG投資の推進が、今後も需要を牽引していくとみられる

また、ルース氏は、米国の投資家、年金基金、機関投資家が多額の投資を行うなど、米国を拠点とするファンドの関心の高さを指摘し、次のように述べています。「カナダ、欧州、中東からファンドに向かう投資資金も増加しています」

「日本の不動産は、継続的にローリスクで高いリターンを達成しており、投資対象として非常に魅力的な存在になっています。シンガポールの政府系ファンドは、日本の不動産セクターに投資するAPACファンドのスポンサーになるとともに、自ら直接不動産プロジェクトに投資するなど、積極的に投資を行っています。中国がコロナ関連規制を解除したので、中国の富裕層投資家も、きっとこの市場に注目するでしょう」

Withers東京オフィスは、日本の不動産に狙いを定めている海外投資ファンド、海外機関投資家、ファミリーオフィスへのサービス提供に特化する戦略をとっています。ルース氏によると、同事務所は不動産法(パートナー4名)、不動産金融(パートナー3名)、ファンド規制(パートナー2名)、国際税務・日本税務(パートナー2名)において、深い専門性と豊富な人材を備えています。

「企業法務の分野も充実させており(パートナー1名)、クライアントが企業のM&Aトランザクションという形で、大規模な不動産ポートフォリオを取得する案件にも対応しています。当事務所のチームは、日本と海外で資格を取得した法務・税務の専門家で構成されています」

水準を押し上げる

働き方改革関連法の施行に伴う雇用法の見直しは、日本の雇用主の事業に影響する法改正のなかでも、最も重要なものの1つです。

渥美坂井法律事務所のシニアパートナー、山島達夫弁護士が執筆したレポートによると、この改革法は以下のような重要な変化をもたらし、従業員に大きな影響を与えています。(1)労働時間制度の改正、(2)年次有給休暇取得の徹底、(3)労働時間の把握、(4)同一労働同一賃金。

特に、差別的行為やセクシャルハラスメントへの対策は、この国がこれまで進歩的で包括的な文化に対して保守的だったことを考えると特筆すべきことです。法曹界はその典型例であり、ジェンダーの構成比が顕著に男性に偏っています。

さらに同事務所の野崎弁護士は次のように述べています。「『同一労働同一賃金』や職場でのハラスメント防止に関する使用者義務が、2022年4月以降、『大企業』に分類されない企業にも適用されています。同様に、2023年4月以降、『大企業』に分類されない企業も、月60時間を超える時間外労働に対する報酬を25%以上から50%以上に引き上げる必要があります」

日本企業は内部通報制度に関しても、他国に遅れをとっています。法整備は進んでいるものの、外国人投資家が留意すべき注意点もあると、GIT法律事務所の創設者、西垣建剛弁護士は指摘しています。

「日本の公益通報者保護法では、従業員300人超の企業は内部通報制度の設置を義務付けられているため、日本の大手企業の大半は内部通報制度を設置しているといえるでしょう」と西垣弁護士は述べています。

「しかし、海外子会社を含むグループ会社全体で制度を整備する必要があるかについては、法律上、明確になっていません。そのため、統計上、日本の大手企業の大多数が、海外子会社を含めたグローバルな内部通報制度を設置していません」

「海外事業は会計不正、脱税、横領などのリスクが高くなる傾向があるため、少なくとも、ある程度の規模の海外事業を行っている上場企業にはグローバル・ホットライン制度の導入が義務付けられるよう、法令や証券取引所規則を改正する必要があります」

コロナの暗雲

2022年10月11日に、ビジネス目的の旅行を含め、外国人旅行者の日本入国のための短期ビザの発給が開始されたことが示すように、コロナの影響は遠ざかりつつあります。

これに先立つ数年間は厳しい状況でした。他の業界と同様に、法律事務所も必要に迫られて適応し、生き残るために需要の多い分野に資本を投下してきましたが、多くの場合、ベストプラクティスの改善につなげることができました。

サウスゲイト法律事務所の共同設立者、エリック・マークス(Eric Marcks)氏は、「コロナ禍のために、多くのM&A市場において、クロスボーダー取引にブレーキがかかりました。日本も例外ではありませんでした」と述べています。「実際、コロナ禍が日本のアウトバウンドM&A取引に及ぼした影響は、おそらく他の多くの市場よりも深刻でした。というのも、日本の買い手は現地でのデューディリジェンスを非常に重視するからです。彼らは『タイヤを蹴る(物を購入する前に実際に確かめる)』ことを望みます。コロナ禍の当初には、そのようなデューディリジェンスは不可能だったため、アウトバウンド取引はほぼ停滞状態でした」

しかし、買収に振り向けていた多額の資金が日本企業の手元にあったという状況が、コロナ禍のために変わったわけではありません。「そのような資金を海外で使えなくなった結果、日本企業は国内のターゲット企業に再び目を向けたため、国内の取引が活発化したのです」とマークス氏は述べています。

「国際的な法律事務所の東京拠点が、クロスボーダー案件の落ち込みのために苦戦した一方で、日本の法律事務所には国内案件の依頼が多数あり、過去、例をみないほど多忙な時期になりました。当事務所は主にクロスボーダー案件において定評があったのですが、インバウンド案件についても国内に強固な業務基盤をもっていたため、それまで主にアウトバウンド案件をご相談いただいていたクライアントから、インバウンド案件を多くご依頼いただくようになりました」

マークス氏によると、日本のクライアントはすぐにリモートワークに慣れたそうです。「多くの国際企業と同様に、当事務所もコロナ禍以前から、限定的ながらリモートワークを行っていました。ですから、コロナウイルス感染症拡大を受けて、完全なリモートワークに移行しても何の問題もありませんでした」と彼は述べています。「その結果、コロナ禍のために導入された就労に関する新しい規則の下で、すぐに全力で業務に取り組めるようになり、当初からクライアントにシームレスにサービスを提供することができました」

「コロナ禍以前は、M&A案件の大半がクロスボーダー案件で、インバウンドとアウトバウンドに均等に二分されていましたが、コロナ禍到来後は、トランザクションの約30%~40%が国内案件になりました。それが業務配分の健全化と、日本で資格を取得した弁護士を対象とする研修の機会向上につながり、インバウンド案件の処理能力がさらに強化されました」

シティユーワ法律事務所の栗林弁護士によると、コロナ禍にあっても同事務所の業況は比較的堅調でした。栗林弁護士は次のように述べています。「当事務所では、3密(密閉・密集・密接)の回避、コロナ感染事例の報告、感染者の隔離による感染管理を直ちに実施しました」

「また、リモートと対面のハイブリッドな勤務形態を、迅速に導入することができました。日本の大手事務所の多くと異なり、当事務所はサテライトオフィスを持たないため、東京のオフィスの効果的な使用を継続し、使用していない、あるいは利用度の低いオフィススペースが生じるという問題を回避することができました。雇用に関する業務に強みを持つ当事務所では、コロナ関連の雇用問題についてクライアントに助言することができました」

栗林弁護士によると、M&Aや不動産ファイナンスが好調だったのは、恐らく、円安による投資の流入と長期的な景気回復への期待によるものです。「当事務所の国内・国際紛争解決[業務]には大きな需要があります。これは当事務所が、仲裁業務の発展と普及に向けて取り組んできた成果であるとともに、訴訟業務における当事務所の取り扱い範囲の広さと経験に対する高い評価、および現在の全体的に不安定な状況を背景とする紛争の増加によるものだと思われます」と彼は述べています。

Vanguard Tokyo法律事務所のパートナー、山川亜紀子弁護士によると、コロナ禍の当初、従業員の健康やプライバシーの保護に向けた雇用者の義務(たとえば、従業員が陽性だった場合の対応、企業が従業員に出社を求めることができるかなど)に関する質問や、取引が突然縮減したことによる解雇や政府の支援に関する質問が殺到しました。

雇用法の専門家である山川弁護士は、「リモートワークの導入についてもアドバイスしました」と述べています。「やがて、クライアントのニーズは、職場復帰の方針に関するアドバイスや、従業員個人の権利の尊重と従業員の健康を守る義務(たとえば、職場復帰の際にワクチン接種を義務付けることができるかなど)との間で、雇用主がどのようにバランスの取るべきかという問題に移っていきました。もちろん、人員整理についてのアドバイスも求められました」

サウスゲイト法律事務所のマークス氏は、「コロナ下にあったここ数年、そしておそらくその少し前から、日本の法律事務所は急速に競争優位性を進化させています」と指摘し、次のように述べています。「日本の法律事務所は、国際的な法律事務所の採用減少と、国際弁護士の層の縮小に乗じて、東京で経験豊富な国際弁護士を積極的に採用しています」

「かつては、日本の法律事務所は国際弁護士に主に文書校正者の仕事をさせ、国際弁護士は日本の法律事務所ではガラスの天井に突き当たると考えられていましたが、もはやそうではありません。日本の法律事務所における国際弁護士は、質、量ともに大きく向上しており、クロスボーダーの特定の分野では、国際的な法律事務所に比肩できる競争相手になっている法律事務所もあります」

「国際的な法律事務所の東京拠点の弁護士料金は上昇し続けているのに対し、日本の法律事務所の料金は横ばい状態であるため、その差は広がる一方です。そのため、中小企業がクロスボーダー案件を検討する際には、日本の法律事務所の方が好ましくみえるでしょう」

2023年の展望

Vanguard Tokyo法律事務所の山川弁護士は、日本はまだコロナ禍からの回復の途上にあるものの、迅速な立ち直りが期待できると述べています。「すでに、日本へのインバウンド投資への関心が高まっているようです。特にテクノロジーとグリーンエネルギーの分野でこの傾向が顕著です」

「テクノロジーとグリーンエネルギーの成長の継続に伴い、企業の設立や拡大が増加し、規制当局の監督も強化されるでしょう。そのため、リーガルサービスに対する需要が安定的に増加すると見込まれます」

法律業界自体でも、コロナ禍に伴い、法律事務所も他の企業と同様にリモートワークを導入し始めました。しかし、リモートワークにメリットがあることは明らかですが、オフィス内で共に働くことのメリットに代わるものではありません。

「より柔軟な働き方を実現するための選択肢として、法律事務所はリモートワークを活用していくと思いますが、今後、法律事務所の勤務形態がリモートワーク中心になることはないでしょう」と山川弁護士は述べています。「また、日本の裁判制度では、電子申請の許可や遠隔審理の利用増加のための改革が進められており、それにより効率化が進むことが期待されます」

TMI総合法律事務所の岩倉弁護士によると、日本の今年の重要なテーマは、国家安全保障に関連する規制、特に米中との関係を踏まえた規制への対応です。

「たとえば、機微性の高いテクノロジー業界では、米国の規制があるため、中国などの配慮を要する地域への輸出は容易ではありません」と岩倉弁護士は述べています。「また、中国の企業が米国に輸出すれば、コンプライアンス上の問題に直面することになります。日本政府も経済産業省を通じて、貿易を厳しく規制してきました」

Withers東京オフィスのルース氏は、不動産と不動産会社の買収の分野では、今後も堅調なリーガルサービスの需要が見込めると述べています。また、次のように付言しています。「再生可能エネルギー分野のプロジェクトや、データセンターの開発に対する強い関心は、2023年にはさらに高まるでしょう。日本企業は、円安にもかかわらず、日本国外への戦略的投資を継続するでしょう。その案件を獲得できるグローバルな法律事務所が、利益を手中にすることになります」

シティユーワ法律事務所の栗林弁護士は、不動産、テクノロジー、グリーンエネルギーなどの分野の回復と、それに伴うインバウンド投資の増加や、ホテル業界の好転について楽観的にみていることを認め、次のように述べています。「日本企業は、事業方針の目標として、ESG(環境・社会・ガバナンス)やSDG(持続可能な開発目標)に引き続き重点的に取り組んでいます」

「育児や高齢者雇用に関連する雇用法、個人情報保護法、電気通信事業法の改正が2022年に施行されたことを受け、数多くの業界の企業が対応を迫られるでしょう」

「これらの理由により、当事務所では非常に明るい見通しを持っていますが、従来好調だった分野の中には、国内経済全般の成長の状況によっては、いくぶん鈍化するものもあるかもしれません」

森・濱田松本法律事務所の小山弁護士は、日本企業は今後も、国内外双方でM&Aの取り組みを進めると見込んでいます。「景気後退や米連邦準備制度理事会の政策金利引き上げなどのグローバルな要因が、案件の数や規模に影響するかもしれませんが、2023年はディールメイキングが活発化すると考えています」と彼は述べています。

「さらに、倒産・事業再生(コロナ禍の企業への影響と物価上昇・インフレのため)、コンプライアンスのアドバイザリー、サステナビリティとESGのアドバイザリー、事業の人権ディリジェンスとアドバイザリーなどの業務グループが、引き続き日本内外のクライアントの関心を集めると予想しています」

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