フィリピンにおけるAIと法律

By Nilo T Divina と Jay-r C Ipac、DivinaLaw
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年、ChatGPTが急激に世界中に普及したことを受け、世界各地の政策立案者や、その他の関係者の間では、人工知能(AI)をイノベーションのために最大限に利用しつつ、それに伴う多様なリスクに対処するにはどうすればいいのかが議論の的になっています。フィリピンも例外ではありません。

AIが国家経済への寄与という点で大きな可能性を秘めていることを認識した貿易産業省は、2021年5月、AIに備えるための4つの重点領域を含むAIロードマップを公表しました。その4つとは、以下の通りです。

1. デジタル化とインフラ

2. 研究開発

3. 人材開発

4. 規制

デジタル化とインフラ
フィリピンは、信頼性が高く、安全で、安価なインターネットアクセスの確保に加え、信頼性と堅牢性を備えたデータインフラとデータ管理システムを持つ国家データセンターの構築も目指しています。法令面でこれに大きな影響を与えるものの一つに、公共サービス法の改正があります。この改正により、40%の外資規制が適用されるのは公益事業である公共サービスに限定されるようになり、電気通信事業者や付加価値サービス事業者は対象から外れることになります。データセンターが提供するサービスは公益事業に分類されないため、現時点では、データセンターが外資系企業に完全に所有される可能性があります。

研究開発
2019年、フィリピンは、AI分野を含む技術開発を推進するため2つの法律を制定しました。

Nilo T Divina, DivinaLaw
Nilo T Divina
マネージングパートナー
DivinaLaw
マニラ

共和国法第11293号、すなわちフィリピン・イノベーション法(PIA)では、国家の発展と持続可能な経済成長に不可欠な要素であるイノベーションの推進を国家政策とすることが宣言されました。また、同法は、効果的かつ効率的なイノベーションのエコシステムが重要であり、そのためには政府が「政府全体」で取り組み、政策の一貫性と優先事項の調整を図り、効果的に連携してプログラムを提供する必要があるとしています。

共和国法第11337号(革新的スタートアップ法)は、フィリピンの革新的な起業文化の発展を目的としており、スタートアップ企業とその支援者を対象とする助成や奨励策を含むフィリピン・スタートアップ発展プログラムについて定めています。

人材開発

フィリピンでは、AIによる大規模な自動化の脅威に対処するにあたり、教育へのデジタルトランスフォーメーションの導入に優先的に取り組み、いわゆる第4次産業革命に応じて教育改革を制度化するため、先般、共和国法第11927号(フィリピンデジタル人材競争力法)が制定されました。

また、人的技術およびデジタル技術と、イノベーションにおけるフィリピンの労働力のスキルや競争力の強化を目的として、共和国法第11899号(第2次議会教育委員会法 II )を制定しました。

規制
一般には認識されていないかもしれませんが、極めて限定的ではあるものの、フィリピンにはデータプライバシー/データ保護の観点からAIの利用を規制する法律があります。

データプライバシー法(DPA)の施行規則(IRR)は、EUのデータプライバシーに関する法令を踏襲し、データ主体の同意がない限り、「データ主体に関する法的効果を伴う決定は、自動化された処理のみ(に基づいて)行われてはならない」と定めています

Jay-r C Ipac, DivinaLaw
Jay-r C Ipac
パートナー
DivinaLaw
マニラ

自動化された意思決定システムに関連する権利に関して、DPAは、(そのような自動処理された)データが「データ主体に重大な影響を及ぼす、または及ぼす可能性のある意思決定の唯一の根拠として使用される、または使用される可能性がある」場合に、データ主体に自動化された処理に関する情報にアクセスする権利を認めています。

DPAのIRRには、情報主体が以下の情報を受領する権利が定められています。

1. 「データ主体にとっての当該処理の重要性および想定される結果、ならびに関連する論理についての意味のある情報」

2. 自動化された意思決定およびプロファイリングの存在

3. 「データ主体に重大な影響を及ぼす、または及ぼす可能性のある意思決定の唯一の根拠としてデータが使用される、または使用される可能性のある自動化された処理に関する情報」にアクセスする権利。

これに加えて、データ主体には、「個人データが、自己に重大な影響を及ぼす、または及ぼす可能性のある意思決定の唯一の根拠として使用される、または使用される可能性のある自動化された処理」に異議を申し立てる権利があります。

さらに、国家プライバシー委員会(NPC)は、「データ主体の権利と自由にリスクをもたらす可能性がある」データ処理システムの登録を義務付けています。NPCは当初、自動化された意思決定およびプロファイリングが使用されるのは、データ主体の権利および自由に対するリスクをもたらす可能性が高く、登録義務の対象となるような処理に限られると想定していました。

現在では、自動化された意思決定とプロファイリングは「リスクをもたらす可能性が高い」という包括的な定義には該当しておらず、それ自体について、管理者にデータ処理システムへの登録が義務付けられています。

最近のNPCの通達では、自動化された意思決定またはプロファイリングを実施する管理者に、そのような処理が「データ主体に重大な影響を与える意思決定の唯一の根拠となるか否か」に関わりなく、自動化された意思決定またはプロファイリングに関与するデータ処理システムを特定して登録記録に明記し、NPCに通知するよう求めています。

2022年、フィリピンでは共和国法第11390号(児童のオンライン性的虐待・搾取防止および児童の性的虐待・搾取に関わるコンテンツ禁止に関する法)も制定されました。同法では、AIの使用による「ディープフェイク」ポルノ動画の作成は画像を通じた性的虐待の一形態であり、その共有は、法による刑罰の対象である児童のオンライン性的虐待・搾取の一形態だと見なされます。

知的財産

知的財産法では、自然人のみが著作権の対象となるものを創作できると規定されています。したがって、「AIが生成した作品は著作権によって保護されない」ことになります。一部がAIによって生成され、一部が自然人によって創作された作品については、後者によって「創作された部分のみ」に著作権が認められます。

知的財産法の特許に関する規定では、コンピュータープログラム自体は特許の対象ではありません。特許性を有するためには、「コンピュータープログラムを対象とする請求項を、プログラム命令がプログラム可能な機器と共に機能するような形で作成する必要があります。つまり、コンピュータープログラムやソフトウェア自体には特許性は認められず、ハードウェアと共に存在し、機能するものでなければならない」のです。 したがって、AIについてこの要件を満たしており、特許性の他の要件を充足している請求項には特許性が認めあれる可能性があります。

政策形成

議会には、AIシステムの開発、応用、利用における包括的な原則の規定、AIシステムの誤用や過誤に対する個人の権利の制定、国内のAI開発を監督する新たな政府機関の創設を目的とする法案が、それぞれ提出されています。

国際的な取り組みへの参加

アジアの責任あるAI大国となるという目標に沿って、フィリピンもAI技術の利用の急速な拡大の抑制を目指す複数の国際協定を遵守しています。

2021年、フィリピンはユネスコのAI倫理に関する勧告の採択国の一つになりました。この勧告は加盟国に対し、人権を核としてAIの開発・利用に関する規制枠組みと法律を制定するよう求めています。

2023年には、EUおよび他の27カ国と共にブレッチリー宣言に加わりました。同宣言では、AIが特に「コンテンツの操作や虚偽のコンテンツの生成を行う能力」を持って進化する中、人権保護、透明性と説明可能性、公平性、説明責任、規制、安全性、適切な人的監視、倫理、バイアスの軽減、プライバシーとデータ保護の重要性が高まっていることが認識されています。

また、「AIがもたらす利益を最大化するとともにリスクを踏まえた、イノベーションの促進につながる適切なガバナンスと規制のアプローチ」を採用することの重要性についても言及されました。

政策立案者の一部は、著作権の領域におけるAI悪用の可能性の検討(ディープフェイクの拡散についての調査など)や、国内のビジネス・プロセス・アウトソーシングやOEM業界に迫るAIの脅威に関する議論を行っており、これらの取り組みはブレッチリー宣言と軌を一にするものです。

DivinaLaw

DIVINALAW
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