企業を対象とする日本のAI規制

By 斎藤 創、佐藤有紀、William T Gillespie、齊藤千穂、水嶋 優 と 安 昌秀、創・佐藤法律事務所
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AIの開発は指数関数的に加速しています。AIに対する規制はまだ緒についたばかりですが、一方その開発においては、一つの劇的なイノベーションが驚異的な速さで次のイノベーションへとつながっているように見えます。芸術、文学、ニュース記事、翻訳、さらには学術論文までも創造する生成AI技術は、その驚くべき一例に過ぎません。

So Saito, So & Sato Law Offices
斎藤 創
赤坂オフィス代表
創・佐藤法律事務所
東京
電話番号:03-5545-1820
Eメール:s.saito@innovationlaw.jp

歴史的に見ても、画期的な技術の出現には社会的、政治的、法的な種々の問題が伴っています。新たな技術が社会に利益をもたらすには、十分な配慮を払う必要があります。AIはおそらく、人類にかつてないほど大きなインパクトを与える発明でしょう。企業はすでにインテリジェント・オートメーションからメリットを得ていますが、その一方で、AIは人権、倫理、プライバシー、バイアス、労働者の権利など、人間社会を決定付ける問題を無数に提示しているといっても過言ではありません。

AIを規制するグローバルな枠組みは存在しません。これまでのところ、自由民主主義諸国では、リスクと利益の均衡を目指すさまざまなアプローチが取られています。共通しているのは、過剰な規制はイノベーションを阻害しかねないという懸念です。

それにもかかわらず、EUは2023年12月、AI法による拘束力のある包括的な規制の導入を選択しました。これは特定のデジタル環境を対象とするスキームで、欧州AI事務局により統括される予定です。英国ではより緩やかな、ビジネスに親和的なアプローチが取られており、既存の規制当局が分担して監督を行っています。米国は英国のアプローチを踏襲していますが、連邦政府によるAI権利章典の制定が求められているほか、先般、連邦政府機関に対してAI規制に関する計画の策定を指示する大統領令が出されました。

日本はAI規制について独自のアプローチを開拓しようとしています。日本の法制度は大陸法の系譜に属するものですが、一部の法分野には英米のコモンローが取り入れられています。AIをめぐる新たな法的問題には、政府の管轄省庁が公表したガイドラインや現行法により対処されています。

業界ガイドライン

2023年5月のG7広島サミットを踏まえた「広島AIプロセス包括的政策枠組み」に続き、2024年1月には、総務省と経済産業省により、従前の原則やガイドラインを更新・統合した「AI事業者ガイドライン案」が公表されました。

Yuki Sato, So & Sato Law Offices
佐藤有紀
赤坂オフィス代表
創・佐藤法律事務所
東京
電話番号:080-7581-0215
Eメール:y.sato@innovationlaw.jp

これらのガイドラインは、企業や政府のAI開発者、AIプロバイダー、AI利用者を対象としており、事業以外の活動の利用者は対象から除外されます。また、データの取り扱いに関する責任は開発者やプロバイダーが負うべきであるため、データプロバイダーも対象外ですガイドラインでは、AI社会における基本理念として、「人間の尊厳」「多様性と包摂性」「持続可能な社会」という3つの価値が示されています。また、ガイドラインは、人間中心、安全性、公平性、プライバシー保護、セキュリティ確保、透明性、説明責任、教育・リテラシー、公正競争確保、イノベーションという10の共通指針を核として構成されています。ガイドラインは、AIの開発者、プロバイダー、事業目的の利用者に対し、共通指針に沿って以下のような措置を講ずることで人と環境に配慮するよう求めています。

  • データ収集・管理手順やアルゴリズムによる対策を通じて、AIの開発・利用におけるバイアスに対処する
  • セキュリティ対策(AI開発中の検証可能性の確保など)
  • プライバシー保護(不適切な入力や個人情報への対応策など)
  • 固定的なルールや手順ではなく、環境・リスク分析、目標設定、システム設計、運用、評価のサイクルを複数のステークホルダーが継続的かつ迅速に回転するアジャイル・ガバナンスの実践。ガイドライン案にはガバナンスの取り組み事項が記載され、付属資料では実践例が示されている。
William T Gillespie, So & Sato Law Offices
William T Gillespie
シニア・カウンセル
創・佐藤法律事務所
東京
電話番号:050-5539-4876
Eメール:w.gillespie@innovationlaw.jp

高度なAIに関与するすべての事業者には、「全てのAI関係者向けの広島 プロセス国際指針」および「高度なAIシステムを開発する組織向けの広島プロセス国際指針」の遵守が推奨されます。また、高度なAIシステムの開発者は、「高度な AI システムを開発する組織向けの広島プロセス国際行動規範」も遵守する必要があります。

また、教育や医療機関での生成AIの利用など、特定の業界を対象とするガイドラインも公表されています。これらの規則に拘束力はありませんが、日本のAI関係者には、これらのガイドラインや他の関連ガイドラインを理解し、遵守することが期待されています。

AIに関する問題と現行法

日本ではAIの規制について、ガイドラインに加え、業界固有の法令ではなく既存の法令が適用されてきました。AIの開発、導入、利用には、他の事業活動と同様、著作権法、個人情報保護法、不正競争防止法、独占禁止法、経済安全保障推進法、そして場合によっては弁護士法などが適用されます。以下でその一部について概説します。

著作権法 AIに関しては、学習・開発における侵害、生成・利用における侵害、AIによって生成された製品の著作物性が問題になります。たとえば、AIナレッジの構築には、著作権の対象かもしれない情報が利用されています。

Chiho Saito, So & Sato Law Offices
齊藤千穂
カウンセル
創・佐藤法律事務所
東京
電話番号:080-4920-2119
Eメール:chiho.saito@innovationlaw.jp

著作物の利用には、原則として著作権者の許諾が必要です。許諾を必要としない限られた例外として規定されているものに、「著作物に表現された思想または感情の享受やこれを他人に享受させること」を目的としない利用があります。ただし、利用者に享受の目的(過学習など)がある場合は、金銭的損害賠償や差止命令による救済措置(学習済みモデルの廃棄など)を含む、著作権侵害に基づく請求の対象となる可能性があります。

AIの生成・利用において侵害が生じたかどうかは、AIを利用せずに人間が創作した場合と同様に、従来の基準(既存著作物との類似性・依拠性)を用いて判断されます。生成・利用における侵害によって、AI利用者だけでなく、生成AIのプロバイダーにも責任が生じる可能性があります。AIが生成した作品の著作物性は、著作物に関する従来の解釈に従って判断されます。生成されたAIに与えられた指示が表現に至らない単なる思想であれば、創造性は認められず、著作物に該当しません。

個人情報保護法 AIによる個人情報の利用には、現行の個人情報保護法が適用されます。生成AIのプロバイダー(ChatGPTを提供するOpenAIなど)が、生成AI開発のために個人情報を取得しようとする場合、個人情報を取得する際に利用目的を正確に示したこと、実際の利用方法が利用目的から逸脱していないこと、人種や信条などの機微情報の取得ルールに抵触していないことを確認する必要があります。2023年6月、OpenAIに対して個人情報の利用目的の通知を日本語で行うこと、および機微情報の適切な取得を求める注意喚起が公表されました。

Yu Mizushima, So & Sato Law Offices
水嶋 優
アソシエイト
創・佐藤法律事務所
東京
電話番号:080-6379-5114
Eメール:y.mizushima@innovationlaw.jp

生成AIの利用者は、個人情報にも留意する必要があります。たとえば、従業員の個人情報を管理する企業が生成AIを利用して業務を効率化するため、個人情報を入力する可能性があります。このような場合は、法律に違反しないよう注意する必要があります。

生成AIの学習に個人情報が利用された場合、そのデータの入力者は、法令に違反して個人情報を第三者に提供した(海外の生成AIを利用した場合は、個人情報を外国に移転した)と見なされる可能性があります。

競争法 政府はAIによる独占禁止法違反を監視しています。2021年3月、公正取引委員会が「アルゴリズム/AIと競争政策」という報告書を公表しました。その報告書では、価格設定・価格調査アルゴリズムが価格競争の増大につながる可能性はあるものの、利用方法によっては、競合企業による価格調整、競合するユーザー間の取引への干渉、消費者に不利な価格設定、意図的なランキング操作などのためにAIが利用される可能性があると指摘されています。

Changsoo Ahn, So & Sato Law Offices
安 昌秀
アソシエイト
創・佐藤法律事務所
東京
電話番号:080-3303-6174 Eメール:c.ahn@innovationlaw.jp

経済安全保障推進法 2022年5月、AIは「特定重要技術」(国家安全保障を損なう外国企業・外国人による利用を含む)に指定されました。その結果、AIの研究開発の促

進を目的とする政府の支援措置が設けられました。同時に、技術の海外流出防止、企業秘密の保護、健全かつ公正な研究の確保のための対策も必要とされています。

日本のAI規制制度は、統合されていない、あるいは不十分だと考える人もいるかもしれません。しかし、政府と業界の慎重なガイドラインと、AI関連事案への現行法の適用によるこのような緩やかな規制アプローチには、AIのイノベーションを妨げたり国際競争力を損なったりすることなく、社会と個人の権利の保護を図るという意図が反映されています。

この方針はガイドラインにおいて積極的に推奨されており、法的拘束力はないものの、AIの開発者、プロバイダー、利用者は準拠することが望ましいでしょう。AIに関連する法的紛争が生じた場合、当事者がガイドラインに準拠していたか否かが結果に影響する可能性があります。日本社会においてAIの導入が進む中、このような「様子見」の戦略は受け身の対応に見えるかもしれませんが、柔軟性があるため、現実世界におけるAIの現実問題に対応することができます。

Kaizen Law

創・佐藤法律事務所

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