各国が電力網の変革に挑む中、本稿では2つの国とその変革を規制する取り組みに焦点を当てます
もつれたワイヤー:インドにおけるエネルギー法
インドには、すべてのエネルギー源に対応する単一の成文法がありません。その代わりに、インドのエネルギー法は電力、石油、ガス、石炭の各分野を管轄する連邦および州レベルの複数の法令、規則、規制、政府方針、指令で構成されており、これらを合わせて、広くエネルギーバスケットを構成しています。
すべてのエネルギー源に対する均質な法律や政策処方が存在しないことは、インドのエネルギー需要の急増と気候変動問題への取り組みと対を成しています。これは特異な状況であり、興味深い研究対象になります。
本稿では、インドのエネルギー分野における最近の法整備と政策展開について述べます。
電力と再生可能エネルギー
2003年電力法(EA03)は、インドの電力セクターの機能と管理に関する主要な法律です。EA03は、従来型エネルギー源と再生可能エネルギー源の両方を管理する法令です。
その主眼点のひとつは、再生可能エネルギーによる発電を奨励することです。EA03は、州レベルの電力規制委員会が随時目標を定め、配電会社がその電力需要の一部を再生可能エネルギーから調達することを義務付けています。これは一般に再生可能エネルギー購入義務(RPO)と呼ばれています。
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配電会社とは別に、再生可能エネルギーの一括調達は、規模の経済性を確保するために、インド太陽光エネルギー公社(SECI)のような事業体が、さまざまな州の公益事業体のために行っています。このような調達の競争入札プロセスを合理化するために、環境・森林・気候変動省と電力省から標準的な入札ガイドラインと文書が通達されています。
インド政府はまた、再生可能エネルギーを火力発電とセットにするためのガイドラインを発表し、火力発電所が再生可能エネルギー発電装置を設けるか、再生可能エネルギーを第三者から調達して火力発電の一部を相殺することを義務付けています。また、安定的でスムーズかつ効率的な発電プロファイルを提供する、風力と太陽光のハイブリッド・プロジェクトからの電力調達を奨励するガイドラインも発表されました。
再生可能エネルギーの販売とは別に、国のエネルギー規制機関である中央電力規制委員会(CERC)が発行した規則では、再生可能エネルギー発電に対する再生可能エネルギー証書(REC)について規定しており、これは再生可能エネルギー源に恵まれていない州のRPO要件を相殺するためのものです。RECは、二者間または電力取引所を通じて取引することができます。EA03に基づいて設立された電力取引所は、リアルタイム、日中、偶発的、および期間ベースの取引を提供し、買手と売手の間の電力需要の橋渡しをしています。
EA03はまた、自家発電を奨励するため、消費者が自家発電ではない電源から電力を購入する場合に、地元の配電会社に支払うべき各種料金を、自家発電利用者については免除しています。グリーンエネルギー・オープンアクセス(GEOA)規則は、連邦政府が発表し、ほとんどの州の規制委員会が採用しています。それにより、小規模需要者でも100kW超の需要があれば再生可能エネルギーを購入できるよう、オープンアクセスが認められています。さらに、さまざまな形態のエネルギー貯蔵システムの開発に拍車がかかっています。
送電網の効率的でシームレスな利用を促進するため、CERCは、全国送電網への接続プロセスを簡素化する一般ネットワークアクセス規則を発行しました。50MWまでの低容量で稼働する再生可能エネルギー・プロジェクトは、容量をプールするか、あるいは既存の発電所を経由して、高圧送電網に接続することが認められています。
需要側管理に関しては、2001年省エネルギー法に基づく取り組みとして、あらゆる電気機器や電化製品のプロセスやエネルギー消費基準や、省エネルギー建築基準を規定し、またエネルギー効率の高い機器や電化製品の使用に対する優遇措置を設けています。
廃棄物のエネルギー化
廃棄物をエネルギー化する(WtE)発電所を再生可能エネルギー発電所と同等にするため、オープンアクセスの優先扱いや、WtE発電所からの供給に対する各種料金の免除などの取り組みが、さまざまな州規制やGEOA規則のもとで行われてきました。これは、都市廃棄物や固形廃棄物の問題に対処するため、国内にこのようなプラントをさらに設置する動機付けとなるでしょう。圧縮バイオガス(CBG)プラントは、都市廃棄物をCBGに変換し、家庭用ガスセクターで使用するために推進されています。
石油とガス
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1990年代に導入された石油・ガス資源探査のための「新探査ライセンス政策」は、現在、あらゆる種類の炭化水素製品のライセンス規定を整理し、石油・ガス部門の探査と生産にインセンティブを与えるための「炭化水素探査及びライセンス政策」(HELP)に置き換わっています。
この政策は収益分配契約に基づくもので、以前の生産分配モデルに取って代わり、政府の干渉やマイクロマネジメントを抑制するものです。その他の優遇措置としては、段階的なロイヤルティ率、ガスの販売と価格設定の自由、原油の免税、探査・生産活動に必要な機器やサービスに適用される関税の免除などがあります。HELPの下でのオープン・エーカー・ライセンス・ポリシーにより、企業は政府提供ではないブロックを探鉱し、入札することができます。これにより、国内の炭化水素需要の増加に対応するためのガス生産量の増加が期待されています。
インドにおける天然ガスパイプラインの敷設、建設、操業を認可・監督しているのは、PNGRB法に基づいて設立された石油・天然ガス規制委員会(PNGR Board)です。家庭用および運輸部門で使用されるパイプライン方式の天然ガスや圧縮天然ガスへの注目度が高まっています。
デリーは、バスやタクシーを含む公共車両がCNG(圧縮天然ガス)ベースの車両に完全に移行した最初の州です。石油・天然ガス規制委員会は、都市ガス配給ネットワークの開発と運営について、競争入札による事業者選定の方法を定めた広範な規制を発表しました。
都市ガス配給(CGD)ネットワークの開発者が、計画的なネットワークの成長とリターンを確保できるよう、ネットワーク・インフラと販売権の両方について、一定期間の独占権が与えられるようになりました。CGDサービスに加え、液化天然ガスを供給するLNGステーションの設置も認められました。政府はLNGを、産業用とは別に、トラックや鉄道といった長距離輸送用の、より効率的な燃料として普及させることを検討しています。
インド初のガス取引所は、効率的なガス市場を促進・維持し、ガス取引を奨励するため、PNGRBの監督下で2020年に設立されました。この取引所では、複数の買手と売手が、さまざまなスポット契約や先物契約でガスを取引しています。取引所で取引される契約は、現物の受け渡しと取引の決済を目的としています。それはデリバティブの市場ではありません。
同取引所への参加は、参加者数、取引量ともに増加しており、インド全土で熱波が予想される夏季については、政府がすべてのガス系プラントの稼働準備を指示したため、活発な動きが予想されます。
国内で増大する天然ガスの需要を合理化し、為替費用を節約し、そしてネット・ゼロ・エミッションを達成するために、インド政府は2018年から「持続可能で安価な代替交通手段(SATAT)」と呼ばれる取り組みを開始しました。SATATの目的は、圧縮バイオガス(CBG)の生産と、天然ガスとの併用を促進することです。
インド政府は、運輸および家庭用についてCBGと家庭用ガスを混合するためのガイドラインを発表し、2025-26年度からCNG(運輸用)とPNG(家庭用)の分野で、CBGを5%まで段階的に混合する義務を導入しました。さらに、エタノール生産を促進し、公害に対処するため、中央政府は必須商品法に基づいて、各州でエタノール混合ガソリンを販売することを義務付けました。
石炭
2014年、インドの最高裁判所は、1993年以来、さまざまな政府や民間企業に割り当てられてきたすべての炭鉱/ブロックを、割り当てプロセスの不正を理由に取り消しました。2015年炭鉱(特別条項)法は、競争入札によって石炭鉱区を再配分するために制定されました。一般に炭鉱の割当てはMMDR法に基づいて行われており、同法はプロジェクトベースの採掘から商業採掘へと移行するために、随時改正されています。
インドは岐路に立っています。政府と産業界は、異種混合で強固かつ効率的なエネルギー源を開発して、国の野心的な経済成長を助けるエネルギーの安全保障を確保することにフォーカスしています。
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フィリピンにおける再生可能エネルギーの規制動向
温室効果ガス(GHG)排出量の削減と再生可能エネルギーの利用拡大を求める声が高まる中、フィリピンの現政権は最近、同分野に影響を与える重要な改革を実施しました。
外国資本制限の解除
Peralta-Loriega
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2022年9月、司法省(DOJ)は、DOJ意見書第21号を発表しました。これは、1987年フィリピン憲法第12条第2項に基づく外国資本40%制限は、無尽蔵の天然資源とみなされる太陽光、風力、水力、海洋・潮流エネルギー資源には適用されないとするものです。
司法省の見解が発表されてから間もなく、エネルギー省(DOE)は通達2022-11-0034号を発行し、司法省の見解に沿う形で再生可能エネルギー分野での外資規制を解除しました。
DOJ意見書第21号およびDOE通達第2022-11-0034号に従い、外国再生可能エネルギー開発業者は、1987年フィリピン憲法に規定された40%までの外国資本制限を超えて、再生可能エネルギーサービス(または運営)契約による再生可能エネルギー開発を行うことができるようになりました。
注目すべきは、これまでのところDOJ意見書第21号およびDOE通達第2022-11-0034号の有効性を争う訴訟は提起されていないことです。フィリピンの最高裁判所が、これらの行政通達の有効性や合憲性について実際の事件や論争裁定で判決を下さない限り、これらの政策は有効であり、外国人投資家はこれらに依拠することができます。
グリーンエネルギー競売プログラム
「グリーンエネルギー競売プログラム」(GEAP)は、フィリピンにおける再生可能エネルギーのシェアを拡大し、再生可能エネルギー発電への民間セクターの参加を増加させるという政府の取り組みを支援するため、DOEによって導入された市場開発支援プログラムです。
GEAPにより、政府は毎年限られたメガワットを、競売方式で再生可能エネルギー供給業者に売却することができます。
シニアパートナー
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GEAPに参加する資格のある再生可能エネルギー開発事業者は、配電事業者や最終ユーザーとの電力購入契約や購入供給契約を既に締結しているなどの、法的障害がないことが条件です。有資格サプライヤーはすべて、競売に参加する意思をグリーンエネルギー競売委員会(GEAC)に登録することができ、競売終了後、同委員会が落札者を発表します。
その後、いずれの配電事業者も、GEAPの落札者プールからエネルギーを調達する選択肢を有することになります。競売は、DOEが運営する電子入札プラットフォームを通じて行われます。グリーンエネルギー最低競売価格(GEAR価格)は、エネルギー規制委員会により設定され、フィリピン・ペソで提示される1kWhあたりの最高価格となります。GEAR価格は、再生可能エネルギー源の種類によって異なります。
DOEは2022年6月にGEAPの第1ラウンドを実施し、1,866.13MWの再生可能エネルギー(太陽光、バイオマス、風力、水力)が競売方式で売却されました。2023年7月には、3,440.756MWの再生可能エネルギー(太陽光と風力)が第2ラウンドの競売で売却されました。
第3ラウンド(GEA-3)の競売は、2024年8月21日に設定されており、再生可能エネルギーの利用拡大およびエネルギー安全保障と信頼性の達成を推進します。GEA-3は以下の双方に対応します。(1)非固定価格買取制度(Non-FIT)の対象となる再生可能エネルギー技術(地熱、取水式水力、揚水式水力)、(2)固定価格買取制度(FIT)の対象となる再生可能エネルギー技術(流水式水力)。
炭素クレジットの強化
近年、世界の炭素市場は大きな関心を集めています。アジア開発銀行(ADB)による「パリ協定下における炭素市場の国家戦略に関する報告書」は、炭素市場について、政府や民間企業などの参加主体が、温室効果ガス排出削減量や炭素クレジットを国際的または国内で取引することを可能にするメカニズムである、と説明しています。
炭素市場には、コンプライアンス市場とボランタリー市場があります。コンプライアンス市場は、国、地域、または国際的な削減制度によって規制されており、法律によって温室効果ガスの排出量を考慮する義務のある政府や企業によって利用されます。この市場は通常、エネルギー集約型の企業やセクターを対象としています。
例えばEUでは、石油やガスに関わるエネルギー集約型部門はEU排出量取引制度に参加しなければなりません。これとは対照的に、ボランタリー市場における炭素クレジットの交換には、法的義務も規制もありません。これは、民間企業が自主的に排出量を相殺しようとするもので、コンプライアンス市場の外で自主的に取引が行われています。
Cantre Jr
シニアパートナー
Eメール: rncantre@sl-lawoffice.com
現在のところ、フィリピンでは炭素市場を管理するための枠組みとなる法律が、まだ制定されていません。炭素取引強化の従前の取り組みは、国連気候変動枠組条約の京都議定書のクリーン開発メカニズムに基づいて開始されたものですが、こうした取り組みが国の法律を成立させるまでには至っていません。
法律はないものの、フィリピン環境天然資源省(DENR)は2021年に行政命令第43号を発行し、森林炭素プロジェクトのための炭素会計・検証・認証システムを確立し、炭素隔離活動への投資を奨励・支援しています。
しかし、このDENRの行政命令は、炭素クレジットの包括的なパラメーターを定めていないとして批判されています。2022年、DENRのMaria Antonia Yulo-Loyzaga長官は、既存の環境法を強化する取り組みの一環として、炭素クレジットシステムを制度化する立法構想を発表しました。
2023年3月、低炭素社会への公正な移行を奨励し、国の開発目標と優先事項を支援するため、下院法案第7705号(2022年低炭素経済法)が提出されました。この法案は、フィリピン温室効果ガスインベントリ管理・報告システムを導入するもので、その実施の全体的な主導権は気候変動委員会(CCC)にあります。
下院法案第7705号はまた、年間GHG排出上限量の影響を緩和するための、炭素クレジット取引を可能にするとしています。この法案では、年間GHG排出量上限は、「国が決定する貢献(NDC)」の運営委員会の勧告に基づき、DENRが産業部門と協議した上で、対象事業体に対して設定するとしています。法案が提案している排出権取引メカニズムでは、GHG排出量が過剰な事業体は排出枠を市場から購入でき、GHG排出量が少ない事業体は排出枠を市場に売却できるため、擬似的な金融市場が形成されることになります。
炭素クレジット制度の確立はまだ初期段階にありますが、すでにフィリピン官民パートナーシップ(PPP)法や再生可能エネルギー法(RE法)が炭素クレジットについて言及しています。PPP法の下では、PPPプロジェクトは、グリーンファイナンス(炭素クレジット)を含む代替金融手段で資金調達することができます。RE法では、炭素排出権の売却収入はすべて非課税となります。
フィリピン政府はまた、炭素クレジットシステム開発の基礎を築くため、民間団体と協定を結びました。2023年2月、DENRは丸紅、Dacon Corporation、フィリピン大学森林天然資源学部と、森林による炭素の吸収と固定に焦点を当てた炭素クレジットプログラムを開発するための覚書を締結しました。
2023年11月には、もう一つの覚書がCCCとMaharlika Carbon Technologies、LMC Consultancyとの間で締結されました。この覚書では、Maharlika CarbonとLMCがフィリピンの炭素登録機関の設立を支援し、同国がソブリン炭素クレジットやボランタリー炭素クレジットの取引に参加できるようにするとしています。
2024年、DENRはフィリピンの炭素政策の枠組みをさらに発展させ、国連開発計画(UNDP)、ADB、世界銀行などの機関と提携したプログラムを実施する計画です。特に、DENRは炭素クレジットの全国登録簿とそのプラットフォームを立ち上げる意向であり、ADBやUNDPと協力して、ボランタリー炭素市場への海外からの投資を奨励しています。これと並行して、財務省は世界銀行と協力し、カーボンプライシング手段と、価格設定および炭素税に関する政策の実現可能性を探っています。
より安定した規制の枠組みを提供する法律が制定されるまでの間、上記の取り組みは、炭素市場の枠組みの運用開始に向かう正しい方向への具体的な一歩です。適切な政策ガイダンスと制度的メカニズムを確立することは、炭素クレジットの取引、販売、購入方法の規制のために不可欠です。大きな成長の可能性を秘めたフィリピンの炭素クレジット分野の動向を、民間投資家は注視しています。
上記の議論はすべてを網羅しているものではありません。再生可能エネルギーに関連する取引の当事者は、規制遵守を徹底するために専門家の助言を求めるべきです。
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