商標の枠組み比較 – 日本

    By 廣瀬 崇史、大江橋法律事務所(東京)
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    仮想世界は現実の世界と衝突するため、商標の保護には実際の課題がありますが、適応が早い人には豊かなチャンスがあります。

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    日本で商標権を取得するには、日本特許庁(JPO)に商標登録出願をする必要があります。2020年の商標登録件数は135,313件で、平均登録期間は約11か月(こちらは2020年度の数値)でした。日本は先願主義を採用しています。また、1つの国際出願をして国際登録を得ることで、複数国に権利を取得することを可能にする国際制度であるマドリッド議定書の加盟国です。

    商標権は産業財産権の一種で、財産として、例えば、商品や役務に使われるマークや名前を保護します。文字商標、図形商標、記号商標、立体商標、結合商標が商標登録可能です。また、2015年4月以降、音商標、動き商標、ホログラム商標、色彩のみからなる商標、位置商標も商標登録が可能です。一方、現在、日本の商標法では、味の商標、におい商標、触覚の商標は登録できません。

    登録の要件

    Takashi Hirose
    廣瀬 崇史
    パートナー、大江橋法律事務所(東京)
    T: +81 3 5224 5566
    E: hirose@ohebashi.com

    登録申請書を提出した後、JPOによって方式審査及び実体審査が行われます。登録されるためには、登録を拒否するためのいかなる拒絶理由にも該当してはなりません。例えば、以下の商標は登録できないとされています。

    (1)自己の商品・役務と他人の商品・役務とを識別する力がない商標。例としては、商品または役務の普通名称、慣用されている商標、商品の産地または品質等の表示のみからなる商標、ありふれた名前または名称、きわめて簡単かつありふれた標章、および、その他需要者が何人かの業務に係る商品・役務であることを認識することができない商標(ただし、商標法3条2項に例外の定めも参照。)等。

    (2)公益的観点から登録できない商標。例としては、公益的な団体などが使用する表示と同一または類似の商標(赤十字など)、公序良俗を害するおそれがある商標(わいせつまたはきょう激な文字・図形など)、商品・役務の品質に関して誤認を生じるおそれのある商標等。

    (3)私的利益の観点から登録できない商標。例としては、他人の肖像や氏名を含む商標、他人の周知商標と同一または類似の商標、他人の先願登録商標と同一または類似の商標、他人の登録防護標章と同一の商標、他人の商品・役務と出所混同を生じるおそれがある商標、および他人の著名商標を不正な目的で使用している商標等。

    商標権の存続期間

    商標権の存続期間は登録日から10年ですが、更新登録の申請(存続期間の満了日までに申請をして通常の更新登録料を支払う、または、満了後6か月以内の申請をして割増登録料を支払う)をすることで、必要に応じて何度でも更新することができます。なお、存続期間満了後6か月を超えての申請(権利回復)は、現在、期間内に申請しなかったことについて「正当な理由」がある場合にのみ可能です。ただし、近年の商標法の改正により、この要件が緩和されました。 当該改正が施行された場合、更新を申請しなかったことに故意がなかったことが要件となります(2022年3月時点では施行されていません。)。

    基本効力と制限

    商標権の基本的な効果として、業として第三者が、登録商標と同一または類似の商標を、指定商品・役務と同一または類似の商品・役務に使用した場合、当該第三者は、商標権者から許可を得ない限り、原則として商標権を侵害することになります。

    しかし、円滑な経済活動とのバランスをとる観点から、商標権の行使にはいくつかの制限があります。商標法第26条は、以下の場合には、商標権の効力が制限される旨を定めています。

    • 自己の氏名・名称、著名なペンネーム等を普通に用いられる方法で表示する商標。
    • 指定商品・役務の普通名称、提供の場所、品質等を普通に用いられる方法で表示する商標。
    • 指定商品・役務または類似の商品・役務について慣用されている商標。
    • 商品等が当然に備える特徴のうち政令で定めるもののみからなる商標 。
    • 需要者が何人かの業務に係る商品・役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標。

    なお、(少し話は戻りますが)第三者による商標権の侵害を証明するためには、そのような第三者が「業として」商標を使用していることを示す必要があります。したがって、商標権者は、例えば、登録商標と同一または類似の商標が付いた模倣品を私的に(個人使用目的で)輸入する者に対してその権利を行使することはできません。また、商標権の行使により、外国企業が日本の個人顧客に模倣品を直接販売することを防止することは、例えば、輸入者が誰であるか(つまり、商標の使用者が誰であるか)に関する解釈上の問題等のために、難しいとされてきました。国境を越えた電子商取引の増加は、この問題がもはや見過ごすことができない状況を生じさせました。

    この問題に対処するために、2021年5月に公布された商標法の改正で、第2条に新しく第7項「輸入する行為には、外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為が含まれるものとする。」が追加されます。この改正により、税関職員は、外国企業から、たとえばパッケージの郵送等により、日本の個人顧客に直接販売される登録商標と同一または類似の商標が付された模倣品の差止めを行うことができるようになると考えられます。なお、この改正は、公布から1年半以内に施行されることになっています。

    不使用による取消し

    登録商標が(指定商品・役務に)3年以上使用されていない場合、第三者はJPOでの商標登録の不使用取消審判を請求することができます(商標法50条1項)。商標権者は、自らまたはライセンシーによる登録商標の使用の事実の立証責任を負います。なお、登録商標が、不使用取消審判請求の前の3か月間に使用されたものであって、その使用が審判請求がされることを知った後であることを、請求人が証明した場合、商標権者は当該使用を理由に取り消しを避けることはできません。

    侵害に対する救済

    商標権者は、侵害者に対して、侵害行為の差止めおよび損害賠償の請求をすることができます。商標法第38条は、侵害により生じた実際の損害額を立証することについての困難を軽減するのに役立つ損害額の推定を規定しています。
    当該推定には、次の3つの種類があります。(1)侵害行為がなかったならば商標権者が取得したであろう利益の額、(2)侵害行為から得られた侵害者の利益の額、および(3)商標がライセンスされていたとした場合に侵害者から受け取ったであろう、いわゆる「合理的なロイヤルティ」額(詳細は、商標法38条1項~3項を参照。)。

    2021年4月に商標法の改正法が施行され、商標権者が受け取る、侵害に起因する損害の推定額が増加されました。上記(1)に関しては、改正前は、利益額の計算に使用された製品数量は、商標権者の製造・販売能力の範囲に制限されていました。しかし、改正法により、商標権者は、そのような能力を超える部分については、合理的なロイヤルティ額の賠償を求めることができことになりました。さらに、上記(3)に関しては、改正法により、裁判所は、商標権が侵害されたという前提で得られるであろう金額を考慮に入れることができます。言い換えれば、裁判所は、商標権の侵害が明確になっていない状況下で当事者が合意したであろう額よりも、高いロイヤルティ額(ロイヤリティ料率)を認めることができます。

    ライセンス

    商標権に関するライセンスは、主に独占的ライセンス(専用使用権)と非独占的ライセンス(通常使用権)に分けられます。非独占的ライセンスは、契約上のアレンジとして、主に、独占的通常使用権と非独占的通常使用権に分けられます。

    専用使用権の効力を生じさせるためには特許庁への登録が必要です。専用使用権が設定されると、商標権者でさえ、専用使用権者(ライセンシー)への専用使用権の設定の範囲内で商標を使用するができなくなります。なお、専用使用権者は、専用使用権設定の範囲内の行為を無断で第三者が行う場合、自身の名で差止めおよび損害賠償を請求する権利を有します。

    一方、通常使用権の効力を発生させるのに、特許庁への登録は必要ありません。ただし、特許権、意匠権、著作権に関するライセンスとは異なり、商標権に関する通常使用権の登録は、(商標権が商標権者から第三者に譲渡される場合)通常使用権者が、新しい商標権者にその権利を対抗するための要件として必要とされていることに留意が必要です。

    なお、非独占的通常使用権者は、侵害者に対して、自身の名で差止めまたは損害賠償を請求することはできません。一方、独占的通常使用権者は、自身の名で損害賠償を請求する権利があると考えられています。ただし、独占的通常使用権者からの差止請求が認められるか否か、仮に認められるとしてどのような要件を満たす必要があるのかは実務上必ずしも明確になっていません。

    oh-ebashi

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