日本企業のためのドイツにおける知的財産(IP)保護

By Peter Reckenthäler、Gottfried Schüll/Cohausz & Florack
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2021年後半に、ドイツ特許商標庁(GPTO)で日独シンポジウムが開催され、世界各地から400人が参加しました。「日本とドイツにおける特許侵害訴訟手続き」と題されたシンポジウムでは、日本の知的財産高等裁判所の元所長とドイツ連邦最高裁判所の裁判長を講演者として招き、知的財産保護における日本とドイツの緊密な関係が示されました。

こうした協力関係はGPTOが公表した統計にも反映されています。この統計によると、外国出願人の中では日本人が最も多く、2020年の出願件数は7,247件に上ります(特許協力条約(PCT: Patent Cooperation Treaty)に基づく国際出願の国内段階が3,754件、直接国内出願が3,493件)。緊密な協力関係はさらに審査官協議にも反映されています。この協議では、20年近く、特許審査官たちが調査戦略、調査システムの使用、相互訪問に関する手続きの最適化について話し合っています。こうした緊密な協力関係によって、両国の企業が技術革新の特許保護をはじめとする知的財産を保護する確固たる基盤が構築されています。

Peter Reckenthäler, 日本企業のためのドイツにおける知的財産(IP)保護
Peter Reckenthäler
弁理士
Cohausz & Florack(デュッセルドルフ)
電話: +49 211 904 900
Eメール: preckenthaeler@cohauszflorack.de

特許保護は、技術革新の保護には不可欠です。ドイツでは、あらゆる技術分野の発明について、新規性、進歩性、産業上の利用可能性を有する場合、特許が付与されています(ドイツ特許法第1条1項)。現代の技術開発は、制御システムや通信システムに実装されているソフトウェアに依存しています。このようなソフトウェアベースの開発は、コンピュータ実装発明として特許を取得することが可能です。このように、特許保護は、現在多くの技術分野で不可欠な要素である自動化、デジタル化、人工知能をはじめとする有益な技術革新に関して取得することができます。

日本の出願人は、日本国内先行出願の優先権を主張するなどしてドイツの国内特許出願を申請するか、あるいは日本の特許庁(JPO)に以前提出した国際特許出願をドイツの国内段階へ移行するかのいずれかによって、ドイツで特許保護を受けることができます。PCT出願のためにGPTOあるいはJPOに特許出願を申請した後、出願日から7年以内に審査要求を申請することで、ドイツでの審査を開始することができます。

審査請求書を提出することを条件として、当該出願は、関連分野の資格を持つ技術審査官による実体審査を受けます。審査官が、形式的側面や特許性に関する拒絶理由が記載された拒絶理由通知を発行し、それに対して、出願人は当該特許出願に対する意見書、補正書とともに回答することができます。出願日から4カ月以内に審査請求書を提出した場合、GPTOは付与手続きの期間を30~36カ月と想定しています。 日本の出願人がドイツでの付与手続きを加速するための選択肢として、グローバル特許審査ハイウェイプログラムへの参加があります。GPTOに同じ内容で提出される出願に関して、特許請求範囲に特許性があることをJPOがすでに認めている場合は、早期審査を請求することができます。

日本の出願人は、日本での先行出願の優先権を主張するなどして欧州特許庁(EPO)に直接欧州特許出願を提出することによって、あるいはJPOに以前提出したPCT出願を欧州地域段階へ移行することによって、ドイツでの特許保護を受けることができます。欧州特許出願も、関連分野の資格を持つ技術審査官が実施する実体審査を受けます。EPOは付与手続きの期間を提出日から3~5年であると想定しています。そのため、日本の出願人は、JPOによってすでに請求項が特許可能であると決定されている出願については、EPOとJPOの間の特許審査ハイウェイ(PPH)プログラムに基づき出願の早期処理を請求することができます。

特許が付与された後、ドイツにおいて特許権を行使しようとする特許権者は、知的財産訴訟において1世紀以上の実績を積んだ非常に能力の高い侵害裁判所があることに気づくでしょう。ドイツの侵害裁判所は、中小企業にとっても手頃な訴訟ということもあり多くの訴訟の審理を継続して行ってきました。これは、最終審であるドイツ連邦最高裁判所の判決に非常に多く反映されており、過去数十年間にわたってさまざまな状況を網羅するドイツの判例法の詳細な体系が形成されています。特許侵害訴訟全体の約3割において、個々の特許権者に有利となる差止命令が出されています。

Gottfried Schüll, 日本企業のためのドイツにおける知的財産(IP)保護
Gottfried Schüll
パートナー弁理士
Cohausz & Florack(デュッセルドルフ)
電話: +49 211 904 900
Eメール: gschuell@cohausz-florack.de

ドイツの知的財産界における最大の変化の1つは、単一効特許(UP)制度と統一特許裁判所(UPC)の運用開始です。これは本稿の執筆時点では2022年の後半になると予想されています。UPは、欧州特許条約(EPC)に則り、EPOが付与する「通常の」欧州特許に基づいています。単一効は、特許権者によって申請することができ、最大24のEU加盟国での保護が可能になります。よって、UPは、通常の欧州およびドイツの特許以外の追加的な選択肢となります。現在、17カ国が統一特許裁判所協定(UPCA)を批准し、さらに7カ国のEU加盟国が今後UPCAを批准すると見込まれています。

UPCはUPおよび通常の欧州特許を管轄します。第一審では、UPCは加盟国の地方裁判所、2国以上に関しては地域裁判所、そして中央裁判所から構成されています。中央裁判所は、パリ、ミュンヘンに設置され、あと1カ所は当初はロンドンを予定していましたが、ブレグジット(英国のEU離脱)のためにまだ決まっていません。加盟国のうち、ドイツのみが地方裁判所をデュッセルドルフ、マンハイム、ミュンヘン、ハンブルクと複数カ所に設置する予定です。UPCは国内特許を管轄しません。

UPCは、実際の侵害または侵害の恐れに対する訴訟および関連する抗弁、非侵害宣言に関する訴訟、仮処分および保護措置、差止命令のための訴訟、取消訴訟、および特許無効の反訴に関する権限を有するものとします。

通常の欧州特許の付与後に単一効を請求しなかった特許権者は、7年間の移行期間中に、UPCの登録簿にいわゆる「オプトアウト(適用除外)」を通知することができます。この期間はさらに7年間の延長が可能です。早期オプトアウト宣言が可能な「サンライズ期間」は、UPCが発効される3カ月前に開始されます。オプトアウトを宣言した特許権者は、ドイツの民事裁判所に通常の欧州特許のドイツ部分を行使することができ、ドイツ連邦特許裁判所でも同じく欧州特許のドイツ部分を守ることができます。

UPCで訴訟が既に提起されていない限り、オプトアウトは付与された欧州通常特権に対して移行期間の最終日まで申請することができ、申請した欧州特許の全有効期間を通して適用されます。訴訟が国内裁判所ですでに提起されていない限り、UPCの登録簿に通知することで、オプトアウトの撤回が可能です。オプトアウトを宣言しない理由としては、最大24の加盟国内で国境を超えた行使が可能であることや、数カ国間では統一された言語が使用されていることなどが考えられます。

ドイツの裁判所の予測可能性および水準の高さが、オプトアウト宣言に有利になる可能性があります。オプトアウト宣言の有無については、新しい裁判制度を構築することを目的とするか、あるいは実績のある高度な裁判制度を用いてドイツで特許を行使することを目的とするかの違いによって、特許ごとに回答することができます。

こうしたことを考慮し、最初の数年間はドイツ国内特許と単一効特許、あるいはオプトアウトを宣言していない欧州特許を、同一内容の保護と平行して取得することも選択肢としては興味深い例であると言えます。ドイツ法に基づき、通常の欧州特許と同じ発明を保護する限りにおいては、本特許は無効となります。しかし、こうした二重特許はドイツ特許および単一効特許、あるいはオプトアウトを宣言していない欧州特許に関しては禁止されていません。よって、同一の特許権者がドイツで同じ内容について2つの特許を保有し、1つはUPCを管轄裁判所とし、もう1つはドイツの裁判所を管轄裁判所とすることが可能です。これによって、特許権者に新たな可能性が開かれます。

ドイツの裁判制度は今後も引き続き重要である可能性が高いですが、UPCのドイツ地方裁判所が多数あることを考えれば、ドイツ、あるいは少なくとも欧州大陸の司法文化が、法律適用の発展やのUPCにおける判例法に大きな影響を与えることが予想されます。従って、ドイツ国内で特許を行使しようと考えている外国出願人は、ドイツでの行使慣行に合わせた特許出願を作成することが推奨されますが、それはEPOやGPTOで推奨される作成スタイルとほぼ同様です。

一言でいえば、ドイツ国内で行使予定の出願は、技術革新を販売し、それに基づく技術的優位性を説明し、機能志向の請求項の解釈を理想的に裏付けることができる説得力のあるものでなければなりません。

Cohausz & Florack

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