台湾における労働紛争事件の新展開

By Samrong Hwang、Albert Kao、Pang-Heng Hung/Formosa Transnational
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台湾は、法規制と実務上、雇主より労働者の方を比較的保護しているとよく言われている。実体法である労働基準法は、過去10年間に合計16回の改正が行われており、より労働者を保護する方向に改正されたと評価されている。また、手続法については、過去民事訴訟法を適用していたが、2020年1月1日から、労働紛争事件にしか適用しない労働事件法も施行された。

Samrong Hwang, 台湾における労働紛争事件の新展開
Samrong Hwang
シニアパートナー
Formosa Transnational in Taipei
Eメール: samrong.hwang@taiwanlaw. com

労働事件法の施行は、台湾の労働紛争事件の新紀元を開いたと言っても過言ではない。ADRである調停制度が原則として先行し、且つ調停委員会の構成も裁判官が当然の構成員となっており、当事者にとっても裁判官にとっても、より信頼のおける・効率的な調停手続が期待される。また、裁判官が構成員となった調停手続において、裁判官の指揮に基づいて、一定程度の証拠開示をしなければならないため、調停が不成立になったとしても、同一の裁判官が引き継いで審理手続を継続するため、調停手続後の訴訟手続についても早期結審が期待される。そして、訴訟手続において、給料及び労働時間について立証責任の転換という立法設計で労働者の立証が容易になり、これは企業の労務管理にも大きな影響を与えている。労働事件法は、労働紛争事件専用の保全制度も創設した。担保金は一般案件より少なく、労働者の保全手続の申立てにつき、裁判官が「勝訴の見込みがあり、雇主の雇用継続が明らかに困難ではない」(雇用関係存在確認の訴え)と認めた場合、申立てを認容できるという緩やかな基準を設けており、結果として比較的に認容されると考える。

労働事件法の全体は紙幅の関係上一回では紹介しきれないので、今回は調停手続を中心とする。

労働紛争事件において労働者は経済的弱者であり、国の経済を支える労働者世帯への影響がある、などの理由で、迅速、適切に紛争を解決することが期待される。それに応えて、労働事件に専門的知識・経験を有する者を積極的に参加させることで、この手続中で一定の事実認定及び法律効果の開示と判断を行い、当事者双方に争点及び裁判になった際の勝敗可能性を事前に理解してもらうことで、早期に調停合意に達することができるようなADR制度が創設された。労働事件法においては、一部の事件を除き、まず調停しなければならないという調停先行原則が採られる(法第16条)。この労働調停制度は、日本の労働審判法を参考にしたと言われるが、立法過程で台湾の事情・慣習・関連法規制を踏まえており、台湾の特色のある調停制度だと言えよう。その特色とは具体的には、(一)労働事件専門家の参加の強化。従来の調停制度と異なり、労働事件法の調停制度において、裁判官は当然の調停委員となり、その他の二名の委員と三人で調停委員会を構成する。裁判官以外の調停委員二名は、それぞれ各裁判所の【労働者組】と【雇主組】の調停委員名簿から選ぶ。各裁判所は、調停委員志望者から、専門知識・経験を有する方を厳選して前記の名簿に載せる(法第20条、第21条)。実務上では、裁判官と調停委員の交流が頻繁に行われており、各調停委員の得意分野を把握しておくことで、労働紛争事件の性質と当事者の特性を見極めて適切な調停委員を選ぶことで、当事者の得心の行く調停ができ、成功率もあげられると言われる。(二)調停手続の早期終了の取組み。原則として裁判官は調停申立てから30日以内に一回目の調停期日を指定しなければならない(法第23条)。

Albert Kao, 台湾における労働紛争事件の新展開
Albert Kao
パートナー
Formosa Transnational in Taipei
Eメール: albert.kao@taiwanlaw.com

これは一見簡単だそうが、裁判官、二名の調停委員、原告・被告の日程調整は容易ではない。従来の訴訟手続なら書面通知が一般的だが、調停においては裁判所が柔軟に電話等の方法で関係者の日程を調整している。また、調停手続は原則として3ヵ月以内に3回で終了しなければならない。このような短期間で効率的に終了させるには、調停委員の経験と知識を借りて、裁判官主導で指揮するほかに、当事者双方の協力も必要となる。従来の調停と異なり、労働事件法の調停手続においては、争点及び証拠の整理と証拠調べを行い、早期終了を目指すため、二回目の調停手続までに各当事者が証拠を提出しなければならないという原則を設けている(法第24条)。なお、証拠調べをしながら、適時に調停委員会の心証と訴訟でありうる結果を開示し、調停合意の勧告を行い、一定の事実調査の基礎と法見解に基づいて、調停委員会は当事者双方に調停案もしくは適切な案を提出することができる。(三)調停終了方法の多元化。調停合意で終了させることが望まれるが、当事者が合意に達することができない場合、多元的な終了方法が調停委員会に付与されている。当事者の合意のもとで、調停委員会は当事者の代わりに調停案を作成する(法第27条)。これは相当な信頼関係がないと成立できない。また、当事者が調停案の作成を調停委員会に頼まなくても、調停委員会はその心証に基づいて自主的に調停案(いわば適切な案)を提出することができ、この適切な案を当事者に提出して、10日間の不変期間内に当事者が異議を申し出ない場合も、調停が成立したとみなされる(法第28条)。上記の二種類の終了方法は、労働事件法の施行後一年目に約40件をこの方法で終了させており、二年目には約二倍の78件と成長が見られる。

統計の数値から見ると、労働事件法施行前後の数値を比較すれば、労働事件法施行後、信頼できる・効率的な調停手続がもたらした好影響は一目瞭然であろう。

地方裁判所労働調停データ

終了件数 (A) 調停成立 (B) 調停不成立(C) (B/(B+C)×100%) (B/A×100%)
2017年 2,237 527 1,159 31.26% 23.56%
2018年 2,116 514 1,258 29.01% 24,29%
2019年 2,005 537 1,160 31,64% 26.78%
2020年 2,595 999 913 52,25% 38.50%
2021年 3,337 1,171 1,236 48.65% 36.29%

出典:台湾司法院統計資料

Pang-Heng Hung, 台湾における労働紛争事件の新展開
Pang-Heng Hung
パートナー
Formosa Transnational in Taipei
Eメール: pang-heng.hung@taiwanlaw.com

まず、終了件数(A)と調停成立(B)の数値について、労働事件法施行の2020年を分水嶺として、終了件数が明らかに増加しており(2,005→2,595→3,227)、調停成立の件数も倍以上の増加が見られる(537→999→1,117)。調停成立と調停不成立を比較する調停成立率は、従来の30%程度から50%程度に改善されており、労働調停が調停成立という好結果で終了する比率も25%から35%超に改善されている。これらの数値を解析すると、法制度上の要因で労働調停件数が増加すると同時に、終了件数も必然的に増加するという見方もあるかもしれない。ただ、裁判所は別に増員しないまま労働法廷を組織し、裁判官を配置し、調停手続に積極的に参加することで、飛躍的な成長を見せたのであり、効率的に調停を終了させることができていると言えよう。また、調停成立率が50%前後に改善されていることは、調停委員会が実施する調停とその見解が大いに信頼されていると評価できよう。

労働事件法の施行後、従来に比べ早期に効率的な解決ができており、専門家・裁判官の参加による信頼できる解決も期待できると言えよう。企業法務の観点から見ると、労働紛争事件は未然に防ぐ必要があり、台湾の労働基準法に従った適正な内部制度の構築も同様に重要であろう。

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