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最近、中国最高人民法院(SPC)が知的財産訴訟の管轄に関する新たな規定を発表し、こうした訴訟の管轄がさらに複雑になりました。この規定によって、あらゆる知的財産訴訟の管轄規定が包括的に整備されるわけではなく、これまでのその他の規定が改正されるにすぎません。従って、この規定を読むだけでは、各訴訟の具体的な管轄を明確に理解できない可能性があり、過去の規定と組み合わせて解釈する必要があります。

SPCは4月に「知的財産民事・行政訴訟の第一審の管轄に関する規定(Provision on the Jurisdiction of Intellectual Property Civil and Administrative Cases of First Instance)」および「知的財産民事・行政訴訟の第一審に係る基層人民法院の管轄に関する基準の印刷・配布に関する通知(Notice on Printing and Distributing the Standards for the Jurisdiction of Primary People’s Courts Over Intellectual Property Civil and Administrative Cases of First Instance)」を公布し、5月1日に施行しました。本稿では、特許訴訟の管轄の変更に焦点を当てます。

Yuan Yue
Yuan Yue
弁護士
中国国際貿易促進委員会特許商標事務所(北京)
電話:+86-10-66046479
Eメール: yuany@ccpit-patent.com.cn

本規定の第1条では、発明特許の所有権・侵害についての紛争、実用新案特許、植物新品種、集積回路配置設計、技術秘密、コンピュータ・ソフトウェア、独占権に関する紛争といった7種類の特殊な訴訟について定義しています。これら7種類の民事・行政訴訟の第一審は、知識産権法院、省・自治区・中央政府直轄市の政府所在地にある中級法院、およびSPCが指定する中級法院の管轄となります。法律に知識産権法院の管轄に関する規定がある場合は、その規定が優先されます。

実際、同規定の施行前は、いくつかの基層法院が短期間、特許紛争を管轄していたことを除けば、これら7種類の訴訟の管轄は、同規定に記載されているものと実質的に同じでした。同規定の施行前は、意匠特許の所有権・侵害についての紛争や知財契約紛争もこの7種類の訴訟と同じ管轄区分でした。同規定の施行後は、これらの紛争の管轄は、他の中級法院や基層法院に拡大されました。

これは、昨年9月にSPCが打ち出した「四審制審理レベル機能の位置づけ改善のための改革計画(Reform Plan on Improving the Positioning of Trial Level Functions of Four-Level Courts)」において、中級法院と基層法院の機能をさらに向上させるという中央政府の要求に応えたものです。

具体的には、同規定の第2条において、意匠特許の所有権・侵害についての紛争の民事・行政訴訟の第一審の管轄は、知識産権法院に加えて、すべての中級法院に拡大されることになりました。従って、将来的には、北京、上海、広東、海南など、すでに知識産権法院がある地域を除き、その他の地域では中級法院が、第一審の意匠特許民事・行政訴訟を管轄することができます。

また、同規定では、SPCの承認を得て、基層法院が、第一審の意匠特許民事訴訟を管轄できると定められています。どの基層法院が承認されるかについては不明ですが、最初に承認される基層法院には、北京の海淀区人民法院が含まれる可能性が高いと思われます。

北京知識産権法院は、知的財産権の再審査審決および無効審決に対する上訴に関する行政訴訟を多く引き受けており、その訴訟件数は他の知識産権法院や裁決機関よりはるかに多いため、一部の訴訟を基層法院に移管することが急務となっています。また、海淀区人民法院は、実用新案特許および意匠特許紛争を審理するパイロット裁判所として2011年にSPCに承認されましたが、これについては2014年の北京知識産権法院の設立に伴い終了しました。従って、海淀区人民法院は意匠特許民事訴訟を審理することができますが、実際に審理することになるかどうかはまだ不明です。

同規定の第3条には、第1条および第2条に定められている以外の知的財産民事・行政訴訟の第一審は、SPCが決定した基層法院が管轄すると記載されています。第1条および第2条で定められている以外の特許訴訟には、主に契約に関する紛争があります。これまでは、特許契約に関する紛争にも集中管轄が必要でしたが、今後は指定された基層法院が管轄することになります。本条に定められているように、SPCが決定する地方の基層法院については、付属通知書に詳細を記載します。

北京や上海だけでなく、他の地域の基層法院でも、こうした訴訟の管轄において訴訟対象件数の上限が設定されていることに注意すべきです。地域によって基準が異なるため、詳細については通知書をご参照ください。上限を超える訴訟、ならびに国務院の部局、県級以上の地方自治体、および税関の行政行為に関わる訴訟は、同規定の第2条2項に従い、中級法院が管轄するものとします。

各地の高級法院が知的財産訴訟の第一審を管轄する基準については、2017年に公布された関連規定で決定されているため、同規定では言及されていません。2017年の規定に準じ、また同規定に定められている発明特許に関する契約上の紛争事件やその他の契約上の紛争が基層法院の管轄であるという事実を考え合わせると、高級法院が知的財産民事・行政訴訟の第一審を管轄する具体的な基準は以下の通りです。

    1. それぞれの管轄に重大な影響を及ぼす知的財産民事訴訟、および主要かつ複雑な知的財産行政訴訟の第一審
    2. 「上述の7種類の訴訟」の第一審のうち、訴訟対象額が2億元(3000万米ドル)以上のもの、もしくは訴訟対象額が1億元以上で、外務、香港、マカオ、台湾、または管轄外の当事者に関わるもの
    3. 訴訟対象額が50億元以上のその他の一般的な知的財産民事訴訟

上記の分析から、特許訴訟に関して、以前の規定から最新の管轄規定への主な変更点は、意匠特許の所有権・侵害についての紛争を管轄する中級法院が追加されたこと、また契約上の紛争に関する訴訟が基層法院の管轄に移管されたことであると分かります。

詳細な検討

こうした変更は、これまで集中管轄権を持っていた裁判所にどのような影響を与えるでしょうか?訴訟数が減少すると、これらの裁判所の審理サイクルは大幅に短縮されるのでしょうか?

現状に関する限り、同規定は取扱件数を減少させるという点において中級法院にプラスの影響を与える可能性があります。しかし、意匠特許の所有権・侵害についての紛争は現在も知識産権法院の管轄であり、訴訟全体のごく一部にすぎない契約上の訴訟件数のみが減少するため、知識産権法院に与える影響は大きくありません。

上海知識産権法院が発行した「上海知識産権法院知識産権司法保護状況白書(the white paper on Judicial Protection of Intellectual Property in Shanghai Intellectual Property Court)(2021年)」によると、同年の訴訟受理件数は5432件で、そのうち契約上の訴訟は10.5%の572件でした。北京知識産権法院の場合、管轄変更が与える影響はさらに少なくなっています。

2021年の訴訟受理件数は約3万件で、そのうち契約上の訴訟が占める割合はわずか約1.7%の500件ほどにすぎません。よって、契約上の訴訟を基層法院に移管したとしても、各知識産権法院の取扱件数に大きな影響は与えないでしょう。

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中国国際貿易促進委員会特許商標事務所
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10/F, Ocean Plaza, 158 Fuxingmennei Street
北京 100031, China
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インド

インドは、進化するIPエコシステムで世界から注目されています。本稿では、インドにおける特許に関する重要な規定と、最近の特許関連の最新情報について説明します。

外国出願許可

Manisha Singh LexOrbis
Manisha Singh
創設パートナー
LexOrbis(ニューデリー)
電話: +91 98 1116 1518
Eメール: manisha@lexorbis.com

インドの特許法には外国出願許可(FFL)の規定があり、この許可を事前に取得する必要があります。同規定に従って外国出願を行うには2つの選択肢があり、違反した場合は刑事罰が科せられます。1つ目の選択肢では、インドに居住する発明者が国外で出願する前に、インド特許庁(IPO)に発明の簡単な開示情報を提出して外国出願許可を申請します。請求日から3週間以内に、IPOは、開示情報が防衛技術や原子力に関連していないことを精査した上で、インド居住の発明者にFFLを発行します。FFLを取得後初めて、インドに居住する発明者の名前で、国外での特許出願を行うことができます。

2つ目の選択肢では、IPOからFFLを取得せずに、出願人がインドに居住する発明者の名前で、先にインドで特許出願を行います。6週間以内にIPOからの異議がなければ、出願人はインド国外での出願が可能となります。IPOは、インド国外での出願に異議がある場合、出願人にその旨の秘密保持命令を発することができます。しかし、この権限がIPOによって行使されたことはほとんどありません。

特許出願および補正

IPOでは英語を受け付けており、インドでの特許出願や手続きを母国語に翻訳する必要ありません。これは、母国語での翻訳を必要とする法域と比較すると、特許取得にかかる総コストの大幅な削減につながります。特許出願の手数料も、世界中の大半の特許庁と比較してはるかに安価です。

インドはパリ条約に加盟しているため、1つ以上の外国出願から優先権を伴う出願を、最初の出願日から12カ月以内にインド国内で出願することができます。また、インド特許法では、国際特許協力条約(PCT)に基づく国内段階出願の期間が31カ月ありますが、ほとんどの法域では30カ月となっています。

また、出願人が国内段階への移行時に一部の請求項を削除することができるという規定がありますので、この規定を活用して、インドにおいて特許で保護できない対象に対する請求項を削除することで、超過請求項に関する料金を節約し、審査を迅速に進めることができます。出願後、補正は、免責、説明、訂正のみによって行われます。すべての補正は明細書で裏付けられていなければならず、一度出願すると請求項を拡張することはできません。

審査手続き

インドでの特許審査手続きは、審査請求から始まります。審査滞貨(バックログ)の大半が解消され、現在では請求から1年以内に審査が行われています。出願人は、一次審査報告書の対応に6カ月間与えられます。すべての拒絶理由に問題なく対処できれば、特許が直接付与されます。

それ以外の場合は、出願人が未解決の拒絶理由に対処できるように口頭審理が行われ、その後、審決が下されます。不利な審決が下された場合、出願人には2つの救済措置があります。1つは特許庁に再審理を求めること、もう1つは高等裁判所に上訴することです。

分割出願

Joginder Singh LexOrbis
Joginder Singh
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分割出願は、親出願の特許付与または拒絶前であれば、いつでも行うことができます。特許出願に関する審決は事前に通知されないため、分割出願はできるだけ早い機会に行わなければなりません。親出願で開示された発明が複数あり、分割出願の請求項が親出願の請求項と異なる場合にのみ、分割出願は有効であるとみなされます。

分割出願の独立請求項は、親出願で請求されていない新規性・進歩性を少なくとも1つ有することが望ましいとされています。また、請求の範囲も、親出願の明細書で裏付けられていなければなりません。分割出願は、自発的に行う場合もありますが、IPOからの単一性欠如の異議に応じて行うこともあります。なぜなら、発明は、相互に密接に関連し、1つの共通概念を形成するものでなくてはならないからです。

他の多くの法域と比較すると、インドにおける自主的な分割出願の維持可能性に関する現在の状況はいく分複雑です。最近のBoehringer対Controller of Patents DHC(2022)の訴訟によると、分割出願の請求項は親出願の請求項に由来したものでなければなりません。これは、分割出願に関する法律の制限的な解釈です。

ただし、出願人は、分割出願を目的とした請求項を親出願に追加することを検討できます。デリー高等裁判所は最近、Nippon A&L対the Controller of Patents(2022)において、発明が明細書に開示されており、請求項が明細書に既に開示されている範囲に限定されている限り、特に特許付与前の審査の段階では補正を却下すべきではない、と判示しました。

これらの請求項が親出願で認められれば、出願人にとってそれで十分満足でしょう。そうでない場合、親出願で、単一性の欠如、または新たに追加された対象に関して拒絶理由を受け取ることになります。このような拒絶理由は、Milliken & Company対Union of India(2016)の場合と同様に、出願人が分割出願によって拒絶された請求項について論議を進める際の正当な理由となります。

外国出願の開示

外国出願に関する法的要件は、2つに分かれています。1つ目は(インド特許法)第8条1項要件として知られており、この要件に基づき、出願人は、インド国外で提出した対応する出願すべてのリストを自発的に、また求められた場合に提出する必要があります。対応する出願には、同じ特許ファミリーの、共通の優先権またはPCT出願に由来するあらゆる出願、すべてのPCT国内段階出願、継続出願、一部継続出願、および分割出願が含まれます。対応する出願に関する必要明細事項は、インドでの特許出願時かその6カ月後に、様式3(Form 3)により提出しなければなりません。インド国外で新たに対応する出願を行う場合、その出願の明細事項を6カ月以内に様式3によりIPOに提出する必要があります。

法的要件の2つ目は、第8条2項に基づくもので、要求された場合にのみ、調査報告書または審査報告書、および対応する出願の特許付与された請求項の写しをIPOに提出しなければなりません。IPOは、世界知的所有権機関(WIPO)が提供するWIPO-CASE(Centralized Access to Search and Examination)システムに、提供者および取得庁(accessing office)として参加したため、審査管理官は現在、同システムを介して対応する出願の調査・審査報告書にアクセスすることができます。従って、審査管理官が当該文書を要求することは少なくなっています。

国内実施報告制度

インド特許法には、国内実施報告を義務付ける独自の規定があります。インド政府は、特許の国内実施報告書の提出に関わる様式と手続きをいくつか変更しました。新様式27では、インドで製造した特許取得製品およびインドに輸入した特許取得製品、またそのいずれかの「数量」を提出する要件が削除されました。任意の会計年度に発行されたライセンス(実施権)の詳細を国内実施報告書に記載する必要はありません。

また、特許取得製品によってインドにおける「公衆の合理的需要」が充足されているかどうかを確認・告知するという要件も、様式27から削除されました。

国内実施報告書の提出期限は、毎年3月31日から9月30日に変更されました。国内実施報告書の対象期間も、暦年(1月~12月)から会計年度(4月~3月)に変更されました。特許が付与された会計年度については、国内実施報告書を提出する必要はありません。

特定の特許発明から得られる概算収益または価値が、関連特許から発生した概算収益または価値と別々に算出することができない場合、また当該特許が同一特許権者に付与されている場合は、複数の関連特許について、1つの国内実施報告書にまとめて提出することができます。特許の共同所有者は、1つ、または関連する特許に関して1つの国内実施報告書を共同で提出することができますが、各実施権者は国内実施報告書を別々に提出する必要があります。

高等裁判所の知的財産部門

インド政府は昨年、特許庁、商標庁、著作権庁の審決および取消から生じる上訴、登録特許権の取消、または無効手続きを審理する上訴機関である知的財産審判委員会(IPAB)を廃止しました。IPABの廃止後、デリー高等裁判所は、すべての知的財産権案件(IPABから移管される案件を含む)を扱う知的財産部門の創設を発表し、知的財産部門規則および特許訴訟に関する規則改正案を通達しました。他の高等裁判所もこの取り組みに追随し、知財部門を設置し、必要な規則を通達する可能性があります。

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日本

アメリカでは、Amicus Curiae Briefとして訴訟において第三者の意見が提出される制度が存在し、積極的に活用されてきた。これに対して、従前、日本は、訴訟において第三者の意見を募集する法令上の制度を有していなかった。しかし、法改正により、令和4年4月、特許侵害訴訟等における第三者意見募集制度が施行されることになった。

Hirofumi Tada Ohno & Partners
Hirofumi Tada
弁護士
大野総合法律事務所(東京)電話: +81 3 5218 2339
Eメール: tadah@oslaw.org

特許侵害訴訟においては、特定の当事者間の紛争に関してなされた判決が、多くの第三者に影響を及ぼすことがある。例えば、近時はIoTやAIといった技術が急速に発展してきているが、これらの技術は、複数の産業分野にまたがって活用されている。そのような技術に関する裁判所の判断は、必然的に多くの産業に影響を与えることになる。また、標準必須特許に関する判断は他の国にも大きな影響を与えている。このような場合には、第三者から広く意見を募集し、それを踏まえて裁判所が判断を行うことが適切な場合がある。

そこで、2021年の特許法改正において、日本でも第三者意見募集制度が新設された。

なお、日本でも、「当事者の合意」に基づいて、第三者からの意見募集が行われたケースがある。すなわち、Samsung対Apple事件(知財高判平成26年5月16日判決・平成25年(ネ)第10043号)において、FRAND宣言がなされた特許に基づく権利行使に関して、争点の重要性及びその影響の大きさから、当事者の合意に基づいて、第三者からの意見募集が行われた。しかし、両当事者の合意を得るのは容易でない場合が多く、合意に基づくアプローチが使える場面は限られていた。

今回の改正は、一定の要件の下、一方当事者の申立てに基づいて、必ずしも合意がなくとも、裁判所が意見募集を行うことを可能にするものであり、この点が、従前との大きな違いである。

第三者意見募集制度の要件

改正後の特許法105条の2の11に基づく第三者意見募集制度は、訴訟における当事者主義の原則と、裁判所に十分な情報を提供する必要性とのバランスをとろうとしたものと見ることができよう。第三者意見募集制度の要件は、両者の折衷と捉えられる。

対象事件

この制度を用いることができるのは、基本的に、特許権又は専用実施権に基づく侵害訴訟の第一審及び控訴審の手続である(特許法65条6項及び実用新案法30条も参照)。今回の改正では、審決取消訴訟は対象とならなかったが、この制度の有用性が明らかになった場合には、将来的に対象が広がる可能性もあろう。

当事者の申立て

第三者から意見を募集するには、少なくとも一方当事者からの申立てが必要である。当事者の申立てなく、裁判所のみの判断でこれを開始することはできない。これは、訴訟における当事者主義の反映と見ることができる。

必要性

裁判所は、意見募集の必要性を判断する。その際には、当事者の意見を聴いた上で、当事者による証拠収集の困難性、判決の第三者に対する影響の程度等の諸事情を総合考慮するものとされている。

意見募集事項としては、法律問題、経験則のみでなく、商慣行や事業実態等も挙げられている。これにより、裁判所は、紛争を取り巻く状況や、判決の影響について理解することができる。

さらに、当事者にとってこのような情報を取得することは容易でない場合があるため、この制度の利用は、当事者にとっても有用である。一方、例えば、無効資料等を収集するために用いることは通常は認められない。当事者主義の下、このような証拠の収集は、当事者が行うべきものである。

他の当事者の意見

裁判所は、他の当事者の意見を聴かなければならない。実際の案件では、訴訟戦略上、一方当事者が意見募集を望む場合には、他方当事者はこれに反対する場面がしばしば生じるものと思われる。裁判所は、他方当事者の意見を聴く必要があるが、意見募集に他方当事者が同意することまでは求められていない。これは、当事者主義と、裁判所に十分な情報を提供する必要との折衷と見うる。

これまでも、両当事者の合意があれば意見募集を行うことは可能とされ、前記のSamsung対Apple事件でも実際に当事者間の合意に基づいて意見募集がなされている。これに対して、この制度では、必ずしも他方当事者の同意を要しないとされており、第三者の意見を募集することが容易となっている。この点が、この法改正の大きな意義といえよう。

意見募集の対象

裁判所は、特定の第三者に限定せずに、広く一般の第三者から意見を募集する。したがって、意見書を提出できる者に限定はなく、外国人(外国法人等も含む)も意見を提出することができる。事案によっては、裁判所が国際的に第三者の意見を聴いて判断を行うことも想定されているといえよう。

証拠提出

募集された意見は、裁判所に提出されるが、ただちに証拠となるわけではなく、当事者が意見書を閲覧、謄写したうえで、証拠として提出する必要がある。このような制度設計の是非には立法過程で議論があったが、裁判所が全ての証拠を見るわけではなく、各当事者が、自らに有利な意見を選択して提出する責任を負うことになる。

意見が裁判所に証拠として審理されなかった第三者にとっては酷な面があるが、これは、訴訟における当事者主義の帰結と考えられる。また、これにより、裁判所は、膨大な意見の全てを審理する負担から解放されることにもなる。なお、外国語の意見が提出され、これを証拠としたい場合には、通常の外国語の文献を書証とする場合と同じく、これを提出する当事者が翻訳を用意することになろう。そうすると、第三者は翻訳のコストを負担しなくてよいことになる。

第三者として意見の提出

意見募集の内容は、知的財産高等裁判所ウェブサイト(https://www.ip.courts.go.jp/index.html)に掲載されることが予定されている。事案によっては、英語の募集要項が掲載されることもありうる。したがって、積極的に意見を提出することを望む事件がある場合には、これらの情報をチェックする必要がある。

なお、特許庁からは、当事者が意見書提出の働きかけを行うことは、意見書作成費等の対価の供与も含め、正当な訴訟活動の一環として認められるという立場が示されており、実際には、当事者からの働きかけを受けて意見を提出する場面が多いものと思われる。結果として、第三者の意見の多くは、一方当事者に有利なものとなると思われる。訴訟当事者は戦略的にこの制度を用いることになるであろうが、これは、訴訟は当事者が全力を尽くして争うものである以上、やむを得ないであろう。

意見を提出する場合には、訴訟における特定の特許法上の争点の判断との関連で意見を求められることがほとんどであるから、裁判所の判断との関係で効果的な意見書とするために、弁護士又は弁理士(弁理士法4条2項4号)と相談したうえでこれを準備することが望ましい。これによって、裁判官にとって説得的な意見を準備することが可能となろう。裁判所の判断に広く第三者の立場も反映させるため、制度の積極的な活用が望まれる。

結論

日本の裁判所は知的財産関連事件に特化した知財専門部を有しており、質の高い判断がなされている。また、従来、日本の裁判所で特許権者が勝訴するのは難しいと言われてきたが、その状況は大きく変わり、ここ五年ほど、日本の裁判所はプロパテントの傾向を示している。

さらに、今回、裁判所の判断が社会に与える影響についても適切に考慮しバランスの取れた判断を行うため、第三者意見募集制度が新設された。国際的にみても、日本の特許訴訟制度がより信頼でき、使いやすいものになっているものと考えられる。

OHNO & PARTNERS
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1-6-5, Marunouchi, Chiyoda-ku
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台湾

現行の台湾特許法は、2013年版です。その後、何度か改正が行われましたが、審査制度の仕組みはほとんど変わっていません。しかし、改正案が国会に提出されれば、台湾知的財産局(TIPO)は大きく変わることになります。改正案では、40条項が改正、29条項が追加、7条項が削除されており、2013年以来の最大の特許制度の変更となります。

米国特許商標庁の特許審判部と商標審判部、および中国本土、韓国、日本、ドイツの同様の組織をモデルとして、TIPOは新たに特許審判・紛争審査委員会(patent appeal and dispute review committee:英語での正式名称は発表されていないため仮称)を設置する予定です。

同委員会は、主に出願審査および特許無効それぞれの一次審決の承継についての管轄権を与えられます。

委員会の機能と組織

特許出願の初審後の「再審査」は廃止され、「特許審判」手続きに変更されます。特許審判では、拒絶された出願の審査に加えて、特許期間の延長申請、特許付与後の補正、その他のTIPOの手続き上の決定などを扱います。

Kevin CW Feng Tsai Lee & Chen
Kevin CW Feng
アソシエイト弁理士
Tsai Lee & Chen(台湾)

特許審判の手続き期間中も、分割出願を提出することができます。出願人は、一次審査の期間中、および許可から3カ月間に加えて、拒絶審決が発行される前、あるいは許可審決の場合は3カ月以内であれば、審判期間中に分割出願の提出が認められています。

委員会のもう1つの役割である紛争解決では、特許無効と特許期間延長の無効の訴訟に対処します。特許無効とは、1つまたは複数の特許請求項を取り消すことであり、特許期間延長の無効とは、延長された特許期間において誤って付与された特定の期間を取り消すことです。

特許審査官や訴訟経験のある法律専門職員である3~5人の兼任委員で構成される委員会が、各訴訟を審査します。既存または潜在的な利害の対立がある場合、委員メンバーは審判から外されます。例えば、過去に一次審査で出願を拒絶した審査官は、当該訴訟が特許審判に移行する際に審判に参加することができません。

さらに、特許審判あるいは紛争訴訟では、第三者の介入が可能です。実施権者や譲受人など、訴訟の結果に法的な利害関係がある当事者は、必要に応じて、訴訟手続きに参加することを要求するか、あるいは委員会によって訴訟手続きに参加するよう命じられる可能性があります。

控訴、紛争解決

出願人は、特許拒絶後、当該審決から2カ月以内に特許審判を請求することができます。委員会による審査に進む前に、「予備審査」の段階があり、審判請求書と共に、補正された一連の請求項が提案されます。予備審査は、日本の特許庁、韓国の特許庁、中国国家知識産権局と同様のもので、効率化を図るために設けられています。

出願人が審査官の拒絶理由を受け入れ、それに基づき特許請求の範囲をさらに狭める場合、前回と同じ審査官が担当します。同じ審査官が出願の経緯すべてを一番よく理解しているため、合意に基づく譲歩の結果として、拒絶された出願がより迅速に許可されることが予想されます。

一方、請求項の補正を行わずに上訴された拒絶出願の場合は、既定の手順に従って委員会による審査が行われます。

特許無効に関する大きな変更点として、当事者主義が採用されます。これに基づくと、対立相手はもはや無効審判請求人とTIPOではありません。その代わりに、特許無効手続きは、無効審判請求人と特許権者との間の審判機関のような形で組織され、TIPOの委員会が中立的仲裁者としての役割を果たします。

無効となった場合は、現在の書類のみの審査とは大きく違い、原則として口頭審理が義務付けられます。当事者が正当な理由を示さずに口頭審理を欠席すると、一方的な主張に基づく審決につながる可能性があります。必要に応じて、委員会は、事実、法律、証拠、および議題予定に関する問題を含む案件審査のスケジュールを作成することができます。さらに、審査委員は審決前に暫定的な意見を伝えることができます。

特許権者は、無効訴訟における異議申立に対する防衛手段として特許権の範囲を狭めることが認められています。しかし、特許請求項に複数の変更がある場合、無効の証拠を審査すべき最新版がどれであるのか混乱する場合があります。改正案では、審査委員会はまず請求項補正を裁定する中間審決を出すことができます。請求項の妥当性についての最終審決は、後日行われます。中間審決後は、新規の証拠や証拠の組み合わせ、またはその他の請求項の補正は認められません。

特許救済措置

救済レベルを下げることは、改革の主な目的の1つです。特許審判あるいは紛争訴訟のいずれについても、当事者は、委員会の不利な審決に対して、知的財産及び商事裁判所(IPCC)に直接提訴することができます。台湾経済部における行政不服審査の中間段階が廃止される予定です。最終的には、特許救済制度は、TIPOの範囲を超えた、IPCCの第1段階と最高裁の第2段階のみで構成されることになります。

もう1つの大きな変更点は、裁判における準拠手続法です。IPCCは、特許審判や紛争訴訟に対して専属管轄権を有しています。これらの訴訟を審理するために、IPCCは行政訴訟手続きではなく、民事訴訟手続きの規則を導入し、運用しています。特許審判の審決では、TIPOが被告となる一方で、紛争解決の審理においては、相手方(通常は特許権者)が被告のままです。このような場合、弁護士や弁理士による弁護が義務付けられています。

特許権紛争

現在、特許または出願の実際の所有者または正当な所有者をめぐる紛争では、TIPOによる特許無効手続きまたは裁判所での民事訴訟に訴えることができます。

過去の複数の訴訟において、裁判所は、所有権の問題を解決する執行機関の役割を批判しました。TIPOは、知的財産関連の問題について専門知識を有する政府唯一の専門機関です。よって、特許の審査手続き、付与、有効性を判断するのに最も適した立場にあります。

しかし、付与された特許や発明の所有権に関して言えば、政府機関であるTIPOは、捜査権を与えられている裁判所とは全く違います。従って、TIPOは、所有権問題を解決するのに適した組織ではありません。改正案によれば、特許所有権紛争は今後、裁判所、または和解、仲裁、その他の裁判外紛争解決手続によってのみ解決されることになります。

所有権紛争が裁判で係争中である場合、当事者は(法的措置後の非貨幣資産の回復のために)暫定的差止命令、または(暫定的[当面の]法律関係の確立のために)現状維持命令を申請することができます。また、必要に応じてTIPOが行う関連手続を保留するために、差止命令および命令をTIPOに提出することができます。

所有権紛争が継続している場合、記録されている名義上の所有者は、裁判所の判決または裁判外紛争解決手続による決定が確定するまでは、当該特許を放棄しないものとします。

サンセット条項

新特許法の施行後も、係争中および確定済みの再審査案件は、特許付与後の補正、特許期間延長、特許無効、実用新案拒絶、その他の手続き上の決定などの決着済み案件と同じく、旧法に引き続き準拠するものとします。裁判所や経済部からTIPOに差し戻された未解決案件は、旧法に従って審査が再開されます。

記載されている以外の未解決案件は、新法の対象となります。

TSAI LEE & CHEN
11/F 148 Songjiang Rd
Taipei – 104492, Taiwan
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