特許制度の比較:日本

    By Hirofumi Tada、大野総合法律事務所
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    アメリカでは、Amicus Curiae Briefとして訴訟において第三者の意見が提出される制度が存在し、積極的に活用されてきた。これに対して、従前、日本は、訴訟において第三者の意見を募集する法令上の制度を有していなかった。しかし、法改正により、令和4年4月、特許侵害訴訟等における第三者意見募集制度が施行されることになった。

    特許侵害訴訟においては、特定の当事者間の紛争に関してなされた判決が、多くの第三者に影響を及ぼすことがある。例えば、近時はIoTやAIといった技術が急速に発展してきているが、これらの技術は、複数の産業分野にまたがって活用されている。そのような技術に関する裁判所の判断は、必然的に多くの産業に影響を与えることになる。また、標準必須特許に関する判断は他の国にも大きな影響を与えている。このような場合には、第三者から広く意見を募集し、それを踏まえて裁判所が判断を行うことが適切な場合がある。

    Hirofumi Tada Ohno & Partners
    Hirofumi Tada
    弁護士
    大野総合法律事務所(東京)電話: +81 3 5218 2339
    Eメール: tadah@oslaw.org

    そこで、2021年の特許法改正において、日本でも第三者意見募集制度が新設された。

    なお、日本でも、「当事者の合意」に基づいて、第三者からの意見募集が行われたケースがある。すなわち、Samsung対Apple事件(知財高判平成26年5月16日判決・平成25年(ネ)第10043号)において、FRAND宣言がなされた特許に基づく権利行使に関して、争点の重要性及びその影響の大きさから、当事者の合意に基づいて、第三者からの意見募集が行われた。しかし、両当事者の合意を得るのは容易でない場合が多く、合意に基づくアプローチが使える場面は限られていた。

    今回の改正は、一定の要件の下、一方当事者の申立てに基づいて、必ずしも合意がなくとも、裁判所が意見募集を行うことを可能にするものであり、この点が、従前との大きな違いである。

    第三者意見募集制度の要件

    改正後の特許法105条の2の11に基づく第三者意見募集制度は、訴訟における当事者主義の原則と、裁判所に十分な情報を提供する必要性とのバランスをとろうとしたものと見ることができよう。第三者意見募集制度の要件は、両者の折衷と捉えられる。

    対象事件

    この制度を用いることができるのは、基本的に、特許権又は専用実施権に基づく侵害訴訟の第一審及び控訴審の手続である(特許法65条6項及び実用新案法30条も参照)。今回の改正では、審決取消訴訟は対象とならなかったが、この制度の有用性が明らかになった場合には、将来的に対象が広がる可能性もあろう。

    当事者の申立て

    第三者から意見を募集するには、少なくとも一方当事者からの申立てが必要である。当事者の申立てなく、裁判所のみの判断でこれを開始することはできない。これは、訴訟における当事者主義の反映と見ることができる。

    必要性

    裁判所は、意見募集の必要性を判断する。その際には、当事者の意見を聴いた上で、当事者による証拠収集の困難性、判決の第三者に対する影響の程度等の諸事情を総合考慮するものとされている。

    意見募集事項としては、法律問題、経験則のみでなく、商慣行や事業実態等も挙げられている。これにより、裁判所は、紛争を取り巻く状況や、判決の影響について理解することができる。

    さらに、当事者にとってこのような情報を取得することは容易でない場合があるため、この制度の利用は、当事者にとっても有用である。一方、例えば、無効資料等を収集するために用いることは通常は認められない。当事者主義の下、このような証拠の収集は、当事者が行うべきものである。

    他の当事者の意見

    裁判所は、他の当事者の意見を聴かなければならない。実際の案件では、訴訟戦略上、一方当事者が意見募集を望む場合には、他方当事者はこれに反対する場面がしばしば生じるものと思われる。裁判所は、他方当事者の意見を聴く必要があるが、意見募集に他方当事者が同意することまでは求められていない。これは、当事者主義と、裁判所に十分な情報を提供する必要との折衷と見うる。

    これまでも、両当事者の合意があれば意見募集を行うことは可能とされ、前記のSamsung対Apple事件でも実際に当事者間の合意に基づいて意見募集がなされている。これに対して、この制度では、必ずしも他方当事者の同意を要しないとされており、第三者の意見を募集することが容易となっている。この点が、この法改正の大きな意義といえよう。

    意見募集の対象

    裁判所は、特定の第三者に限定せずに、広く一般の第三者から意見を募集する。したがって、意見書を提出できる者に限定はなく、外国人(外国法人等も含む)も意見を提出することができる。事案によっては、裁判所が国際的に第三者の意見を聴いて判断を行うことも想定されているといえよう。

    証拠提出

    募集された意見は、裁判所に提出されるが、ただちに証拠となるわけではなく、当事者が意見書を閲覧、謄写したうえで、証拠として提出する必要がある。このような制度設計の是非には立法過程で議論があったが、裁判所が全ての証拠を見るわけではなく、各当事者が、自らに有利な意見を選択して提出する責任を負うことになる。

    意見が裁判所に証拠として審理されなかった第三者にとっては酷な面があるが、これは、訴訟における当事者主義の帰結と考えられる。また、これにより、裁判所は、膨大な意見の全てを審理する負担から解放されることにもなる。なお、外国語の意見が提出され、これを証拠としたい場合には、通常の外国語の文献を書証とする場合と同じく、これを提出する当事者が翻訳を用意することになろう。そうすると、第三者は翻訳のコストを負担しなくてよいことになる。

    第三者として意見の提出

    意見募集の内容は、知的財産高等裁判所ウェブサイト(https://www.ip.courts.go.jp/index.html)に掲載されることが予定されている。事案によっては、英語の募集要項が掲載されることもありうる。したがって、積極的に意見を提出することを望む事件がある場合には、これらの情報をチェックする必要がある。

    なお、特許庁からは、当事者が意見書提出の働きかけを行うことは、意見書作成費等の対価の供与も含め、正当な訴訟活動の一環として認められるという立場が示されており、実際には、当事者からの働きかけを受けて意見を提出する場面が多いものと思われる。結果として、第三者の意見の多くは、一方当事者に有利なものとなると思われる。訴訟当事者は戦略的にこの制度を用いることになるであろうが、これは、訴訟は当事者が全力を尽くして争うものである以上、やむを得ないであろう。

    意見を提出する場合には、訴訟における特定の特許法上の争点の判断との関連で意見を求められることがほとんどであるから、裁判所の判断との関係で効果的な意見書とするために、弁護士又は弁理士(弁理士法4条2項4号)と相談したうえでこれを準備することが望ましい。これによって、裁判官にとって説得的な意見を準備することが可能となろう。裁判所の判断に広く第三者の立場も反映させるため、制度の積極的な活用が望まれる。

    結論

    日本の裁判所は知的財産関連事件に特化した知財専門部を有しており、質の高い判断がなされている。また、従来、日本の裁判所で特許権者が勝訴するのは難しいと言われてきたが、その状況は大きく変わり、ここ五年ほど、日本の裁判所はプロパテントの傾向を示している。

    さらに、今回、裁判所の判断が社会に与える影響についても適切に考慮しバランスの取れた判断を行うため、第三者意見募集制度が新設された。国際的にみても、日本の特許訴訟制度がより信頼でき、使いやすいものになっているものと考えられる。

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