韓国の新たなAI基本法:特徴と意義

    By Suk-Ho Bang / LIN
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    李在明大統領は、AIを世界経済のパラダイムを転換させる「ゲームチェンジャー」と明確に位置づけ、自身の任期における韓国の技術主導型成長の中核エンジンとして提示しています。

    この国家戦略と目標に沿い、新たなAI基本法は2026年1月に施行されました。同法はEU AI法と同様に、人命、身体の安全および基本的人権に重大なリスクをもたらし得るAIシステムを「高影響AI」領域として規制する一方で、AI技術および関連産業の発展と国民の安全確保に関する政府のコミットメントも反映しています。

    罰則規定の適用は1年間延期されたものの、高影響AI事業者に対する義務的規制を実施する世界初の執行可能な法律として、世界的な注目を集めているところです。

    AI基本法の内容

      1. Suk Ho Bang
        Suk-Ho Bang
        Senior Adviser, Head of AI Industry Centre
        LIN
        Seoul
        Tel: +82 2 3477 8695
        Email: shbang@law-lin.com

        高影響AI領域の規制原則。AI基本法における「高影響AI」の定義は、EU AI法の「高リスクシステム」と同一であり、事業者規制の仕組みも非常に類似しています。他方でAI基本法は、事業者がまずAIの安全性・信頼性を確保するための自主的措置を講じ、その後に科学技術情報通信部(MSIT)長官による事後的監督が加わる制度設計を特徴としています。違反に対する制裁はありますが、行政罰(行政上の過料等)の上限は3000万ウォン(約2万300米ドル)である。

    AI基本法は、EU AI法ほど制裁を通じた強制執行が強いものではありません。AI事業者に対し、自らが高影響AIに該当するかを事前に自己点検することを求め、事業者義務および関連告示等を通じてリスク管理計画の策定を推奨しています。

    EU AI法では、高リスクAIモデルの開発者が市場流通前に適合性評価を受け、CEマーキングを付すことが求められるのに対し、AI基本法では、事業者が任意でMSIT長官に高影響AI該当性の確認を申請しない限り、高影響AIシステムに対する市場投入前の強制的な管理はされません。MSIT長官には、製品またはサービスが高影響AIに分類されるか否かを判断する法的権限が付与されています。

      1. AI技術開発と産業活性化

    AI基本法は、高影響AIに関する管理・監督体制を整備して規制により利用者を保護する一方で、AI活用に向けた政府の支援・促進も規定しています。具体的には、政府の役割を、AI技術開発、安全な利用および技術標準化の支援と位置づけているのです。

    また、AI産業支援策の実施にあたっては中小企業を優先することを義務づけ、スタートアップ促進および外国投資誘致に関する規定も含みます。さらに、関連企業・機関の機能的、物理的、地域的集積を図るAIクラスターの指定を可能とし、AIデータセンターに関する政策も重視しています。

      1. 汎用AI(GPAI)モデルに関する規制の空白。AI基本法は、モデルのライフサイクル全体に関わるリスクの特定、評価および緩和といった、高影響AI事業者の安全確保義務をEU AI法と同様に列挙しています。しかし、学習に係る累積計算量の閾値がEUの10倍に設定されており、結果として国内事業者がこれら規制の対象から外れやすくなっています。

    言い換えれば、AI基本法は、超大規模GPAIモデルについて意図的な規制の空白を設けることで、産業特化型(バーティカル)GPAIモデルの開発を促していると評価することができます。

      1. 高影響AI領域。AI基本法は高影響規制領域として10分野を列挙していますが、分野によっては、その範囲はEU AI法より狭い場合があります。例えば金融分野では、AI基本法は高影響AI領域として「融資審査における判断または評価」を挙げるにとどまっており、EU AI法が規制する「信用力」や「クレジット・スコアリング」に関するゲートウェイより、実務上の適用範囲が大幅に限定されることが考えられます。

    同様に、AI基本法は採用におけるAI利用のみを高影響と分類し、EU AI法と異なり、労働者の管理におけるAI利用は規制対象としていません。

      1. 事業者の義務
        1. 透明性の確保:AI基本法は、高影響AIまたは生成AIを用いた製品・サービスの提供に際し、AIが使用されている事実を通知または表示する透明性義務を課すことで最終利用者を保護ように設計されています。EU AI法が、運用者はAIによる結果を理解し、適切に使用できるようモデル提供者に透明性義務を課すのに対し、韓国のAI基本法は最終利用者への告知に関する透明性義務のみを義務づけています。
        2. 著作権の問題:AI基本法にはGPAIに関する特則がなく、EU AI法のような著作権法遵守への言及もありません。さらに、韓国の現行著作権法には、TDM(テキストおよびデータマイニング)のような例外規定がないため、AIモデルの学習・開発過程における著作権侵害紛争が重大な法的問題となる可能性があります。これを踏まえ、AI基本法はMSIT長官が学習データの生成、収集、管理、流通および活用に関する政策を推進する旨を定めています。
        3. 安全確保義務:事業者義務に係る技術的閾値をEU AI法の10倍に設定したことによって、これら義務の実質的な対象は、韓国市場で事業を行うグローバル大手テック企業のGPAI事業者となります。したがって、かかる外国事業者は、AI基本法に基づく国内代理人の指定を通じて間接的に規制されることになります。
        4. 基本人権影響評価:高影響AIモデルの導入者が、市場投入前に基本的人権への負の影響を体系的に特定・分析し、自主的な是正措置を講じられるようにするよう、任意に推奨されています。EU AI法では、導入者がAI出力を適切に解釈し利用できるようにモデル提供者に透明性義務が課されていますが、AI基本法の施行令は、当事者間のデータ提供要請および協力のみを規定しており、利用者に対して基本的人権影響評価に努めることを促しています。

    本法の評価

      1. AI基本法を所管する主務官庁はMSITですが、近年、一般的な行政事務を担う行政安全部(MOIS)が、AI基本法を制定しました。この結果、公共行政全般を支えるために公的データを中心として電子政府の行政システム内でAIを利用する場合には、個別の規制構造が設けられることとなりました。基本法を制定しました。この結果、公共行政全般を支えるために公的データを中心として電子政府の行政システム法は、公的データに基づいてAIを活用するための特別法である一方、AI基本法は、事業者によるAIの開発および利用について基本原則および指針を具体化する一般法です。象徴的に、AI基本法は、第3条において、AIは安全性および信頼性を通じて人々の生活の質を向上させるべきであることを基本原則として宣言し、技術開発および産業利用と並行して、AIがもたらす変化に全ての国民が安定的に適応できるよう措置を講じる国家の責務を定めています。
      2. AI基本法は、政府全体のAI振興計画を策定するに当たり、既存の知能情報化基本法に基づく総合計画および実行計画を考慮することを求めています。その一方で、AIの開発に関する主要政策を審議および決定し、信頼の基盤を構築するため、大統領を委員長とする国家AI戦略委員会を設置しています。これは、韓国がAI分野における世界トップ3に入るという国家目標を最優先とする李在明政権の強い意思を裏付けるものであり、韓国政府のAI関連政策および意思決定が最優先事項として位置付けられることを示しています。
      3. AI基本法は基本法であるため、MOISの公的AI法を含む各分野の個別法が、近い将来、政府機関により制定または改正される可能性があるとしても、政府内のAI関連組織のガバナンス、政府の役割、およびAI関連事業者の義務は、AI基本法の枠組みの中で維持されることが見込まれます。

    この過程において、国家AI戦略委員会は国家としての最終的な司令塔として機能し、近時その地位が副首相に格上げされたMSITの長官が行政府内での調整役を担うことが見込まれます。特に、MSITの長官は、データ産業に関する各種政策を実施するため、「データ産業の振興およびデータ利用促進に関する基本法」の裏付けも受けていることから、MSITの役割および存在感は、これまで以上に大きくなっています。

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