今年、アジアにおける法務に変化をもたらした最も重要な出来事の総括し、それが企業内弁護士、政策立案者、規制当局、法律事務所にどのような影響を与えたのかを論じます。
技術の進化という観点から見ると、2024年は「危険な年」と表現できるでしょう。人工知能(AI)は、その利点と同様に危険性も認識されており、法曹界の領域に深く浸透した一方で、それに伴うデータ管理・保護についての大きな懸念が生じました。多くの国がこの変化のスピードに追い付こうと苦労しており、この一年を通じて繰り返し、適切な規制が議論されることとなりました。アジアにおける11の法域の上級弁護士による洞察に基づくと、2024年は法的措置の厳格化と革新への高まる需要との衝突が特徴的でした。
アジアの議員たちは長年の課題に取り組むために、また激しい技術変革を制御するために、的を絞った規制措置を講じてきました。私たちの調査によると、アジア地域全体の規制当局が前例のない動きを見せただけでなく、企業や法律事務所も従来の、あるいは数十年にわたる戦略から脱却しました。
インドネシアがローカルコンテント要件の不遵守を理由にAppleのiPhone 16の販売を禁止した衝撃的な出来事、中国からの米国法律事務所の大量撤退、そして鉄鋼業界での日本製鉄による画期的な141億米ドルの買収など、今年は従来の常識を覆すような驚くべき出来事が数多くありました。
アジア地域の上級弁護士による専門家としての見解をもとに、この驚くべき変革の年を形作った非常に大きな激変、最大規模の取引、そして最も重要な規制について振り返ってみましょう。
人工知能
アジアでは、特に韓国のような主要な地域経済圏において、過去1年間に数多くの法律事務所が、管理効率の向上から契約書のレビュー、法律の検索に至るまで、さまざまな理由でAIを導入してきました。
同時に、AIの急速な成長に伴うデータ・セキュリティや倫理など多岐にわたる懸念が高まり、一部のアジア諸国では技術を規制するための立法措置を求める声が強まりました。
特に韓国政府は、この技術を、規制管理下に収めるよう求める強い圧力にさらされていました。
当時の韓国大統領、尹錫悦氏による戒厳宣言とその後の弾劾という政治的不確実性を背景に、国会は12月26日に「人工知能の発展と信頼基盤の構築に関する基本法(AI基本法)」を可決しました。ソウルのOne Law Partnersのマネージング・パートナーであるYou Jung Lee氏は、AIを利用したディープフェイク犯罪の増加によってAI関連の課題が「顕著に明らか」になり、同国の既存の法的構造における「深刻な脆弱性」が露呈したと指摘しています。
「これらの憂慮すべき事件によって、AI関連の問題は世間の厳しい視線に晒されただけでなく、被害者保護を強化して、デジタル・プラットフォームの提供業者に、より多くの責任を負わせることを目的とした法改正を導入するよう、議員に促すことにもなりました」とLee氏は話しています。
韓国の上級弁護士たちは、とりわけ同国のAIシステムのデータ処理プロトコルや保護措置の強化のために、AI法を緊急に制定する必要性があったとAsia Business Law Journalに語りました。
「世界的なAIブームの中で、企業はAIベースのシステム構築やAI規制への対応について、ますます助言を求めるようになっています」と、ソウルのShin & Kimのマネージング・パートナーであるJong-Han Oh氏は話しました。
特定の法的枠組みがないままAIの利用が拡大することによるリスクへの懸念は、韓国に限られたものではありません。現時点ではAIに特化した法律がない香港でも、今年、法律事務所の中では、AIが急速に法的な業務に統合されていることが見てとれます。
2024年の大きなトレンドであり「諸刃の剣」であるとAIを評価する香港のOldham Li & Nieのシニア・パートナーGordon Oldham氏は、この技術が日常業務を大幅に効率化し、弁護士が複雑で高度な法的問題に集中できるようにする可能性があることに同意しています。
「しかし、甘く見ることはできません。この技術の進歩には、信頼性、データ・セキュリティ、倫理的な配慮に関する懸念など、現実的な課題が伴います。AIが我々の職業の核となる原則とどのように共存するかについて、厳しい疑問が投げかけられているのです」とOldham氏は語っています。
Oldham氏は、AIの導入が加速する中で、データ・セキュリティや人間の監視の必要性といった「厄介な」問題について懸念を示しているものの、2024年のAIの台頭によって、AIとデータ転送に焦点を当てたスタートアップへの投資が急増したことを指摘しました。
「スタートアップ企業の設立や投資促進のための文書作成と交渉に関して、例えば投資契約やその他の設立初期の各種文書について、またそれ以外についても、法的専門知識の需要が指数関数的に増加しました」と同氏は語りました。
現在、AIを規制する包括的な法的枠組みがない日本では、2023年8月に公表された法務省のガイドラインが、法務AI技術と日本の弁護士法との関係を解釈したものです。これが、2024年に日本で法務に特化したAIツールがさらに発展する上で大きく影響を与えたと、東京の創・佐藤法律事務所の創設者であり赤坂オフィスの代表・斎藤創氏は語っています。
M&Aのテンプレートなどの法務コンテンツ向けのAI活用に関して、日本の法律事務所とリーガルテック・サービス提供業者との連携が深まる中で、前述の法務省のガイドラインは、AIによる契約関連の業務支援サービスの提供において、弁護士法の下で何が非弁行為に該当するのかを明確にしました。
Web3、フィンテック、ベンチャー・ファイナンスに関する助言を専門とし、日本とニューヨーク州の弁護士資格を有する斎藤氏は、昨年8月のガイドラインが発表される以前から、法律事務所は、典型的な契約書のチェックを行う際に不利な条項や欠落した条項がないかを確認するために、リーガルテック・ソフトウェアをすでに使用していたと言います。また、クライアントもリーガルテック・ソフトウェアを使用していると聞いているとのことです。
「AIツールの提供が、ある程度までは、日本弁護士法の違反には該当しないと解釈されたことから、典型的な契約書のチェック以外にもAIが提供・使用されることが、さらに進む可能性は高いでしょう」と斎藤氏は話しています。
アジアの法制度においてAIの統合が急速に進むことによって、ガバナンス、倫理、規制における課題が浮き彫りになります。AIは業務を効率化し、投資を促進する一方で、セキュリティ、信頼性、監視に関する懸念も引き起こしています。この二面性は、革新と規制への高まる要請とが交錯するという、アジア全体の広範な変化を映し出しています。同様に、世界的に環境・社会・ガバナンス(ESG)が注目されることで、企業や法務環境は変革され、説明責任、持続可能な成長、政策改革が推進されています。
ESG
ESG問題に対する世界的な緊急性が高まる中で、アジアはこの変革の最前線に立っています。2024年はアジア全域で重要な進展が見られ、ESG原則の重要性が強調されただけでなく、説明責任、革新、法整備が進む時代の幕開けとなりました。法律の専門家たちは、この年は政策、金融、コーポレート・ガバナンスにおいて重要な進歩が見られ、ターニングポイントになったとして意見が一致しています。
ムンバイのShardul Amarchand Mangaldas & Coの共同マネージング・パートナーであるAkshay Chudasama氏は、気候ファイナンスがアジアにおけるESG導入の重要な推進力となっており、アジア地域ではグリーンボンドの発行が急増していると指摘しています。
「アジアにおける気候ファイナンスは、気候変動対策と持続可能な発展の必要性に後押しされて成長しています。アジア太平洋地域でも、持続可能なファイナンスとESGへの配慮に対して注目が高まっています」とChudasama氏は話しました。
同氏は、グリーンボンド発行の増加、気候変動へのレジリエンスへの注目、そして中小企業や低所得世帯への気候ファイナンスへのアクセスを促進するフィンテックの新たな役割など、重要なトレンドを挙げて、アジア開発銀行がこの地域で支援の役割を果たしていると語りました。
Chudasama氏は、2024年はアジアにおける気候法学にとっての転換点となる年であり、画期的な判決が下され、この地域の環境課題に対して世界的な注目が集まったことが特徴的だったと言います。インドの最高裁判所はMK Ranjitsinh対Union of Indiaにおいて、インド憲法第14条および第21条に基づいて「気候変動の悪影響から免れる権利」を基本的権利として位置付けました。
「2024年の国連気候変動会議(COP 29)は、アジアに多くの焦点を当てて、迅速なエネルギー転換、気候変動への適応とレジリエンス、早期警報システムの強化、気候変動に強いインフラ、気候スマート農業の必要性を強く打ち出しました」と同氏は語りました。
ムンバイのTT&Aの共同マネージング・パートナーであるKunal Thakore氏もこの立場を支持し、以下のように指摘します。「我々は政府の焦点が、持続可能な発展と技術統合に向けてシフトしていることを認識しています」
アジア諸国は、ESG原則を規制枠組みに組み込むために独自のアプローチを取っています。フィリピンでは、持続可能性報告の義務化や気候変動支出タグ付けといった規制イニシアチブに、政府の積極的な姿勢が反映されています。
マニラのQuisumbing Torresのパートナーで、企業法務、商業法務、M&Aプラクティス・グループの責任者であるMaria Christina Macasaet-Acaban氏は、これらの措置がいかに企業行動に影響を与え、同国の持続可能な発展目標に沿って外国投資を引き付けているのかを強く語っています。
「フィリピン企業はさまざまな取り組みを通じて、ESGや持続可能性の要件に積極的に適応しています。こうした努力は、外国投資にも影響を与え、国の持続可能な発展目標を支えているのです」とMacasaet-Acaban氏は話しました。
マレーシアでは、証券委員会がESG開示に関する強固なガイドラインを導入しており、ESGが中心的なテーマとなっています。クアラルンプールのLAW Partnershipのマネージング・パートナーであるBrian Law氏は、これらの要件によって、企業に透明性と説明責任を中核業務に統合するよう、促しているのだと言います。
「世界的にESG問題に対する認識が高まるにつれて、マレーシアを含む複数のアジア諸国の規制当局は、説明責任と透明性の強化を求めています」とLaw氏は語っています。
一方、インドネシアは、2060年までにネットゼロという野心的な目標に向けて、規制上の努力を進めています。インドネシア政府は、公益のための電力供給事業許可保有者の顧客による、民間の屋上太陽光パネルシステムの設置と運用を規制するとともに、企業による屋上太陽光発電の利用を奨励・促進しています。
ジャカルタのWalalangi & Partnersのマネージング・パートナーであるLuky Walalangi氏は、新たな規制は持続可能な投資を誘致すると同時に、ステークホルダーの懸念に対処することを目指していると語っています。
「明確な規制枠組みを確立することで、インドネシアは持続可能なプロジェクトへの国内外の投資を誘致し、環境義務を遵守するとともに経済成長を促進しようとしているのです」とWalalangi氏は言います。
バンコクのKudun and Partnersの創設パートナーであるKudun Sukhumananda氏は、2024年のESG遵守重視の高まりが、タイの企業戦略をいかに再構築したのかを強調しました。同氏は、企業は従来の慣行を見直し、包括的な持続可能性の枠組みを導入して、国際基準に適合するように強い圧力を受けていると語っています。
「上場企業に対する監視によって、企業統治や内部統制におけるシステム上の問題が露呈し、投資家の信頼を揺るがし、タイの資本市場にとって重大なレピュテーション・リスクが生じています」とSukhumananda氏は言います。
例えば、大気浄化法は、排出量削減や報告の透明性向上などの厳格な環境管理を企業に求めることで、大きな課題をもたらしました。これらの要求によって、企業は多大な投資と業務上の調整が必要になると同時に、信頼性の高いESGの取り組みに対する投資家の期待の高まりや、遵守違反に伴う法的リスクももたらします。
「法律事務所にとって、大気浄化法のような未検証の法律に対応するクライアントへの助言や、環境責任に関する紛争の管理は特に困難なものです」とSukhumananda氏は語ります。
ESG原則が企業戦略を再定義し、より高い透明性を要求する中で、ガバナンスへの重要性がより顕著になっています。説明責任を重要視することは規制変化を促進し、ステークホルダーに権限を与えることにつながります。
特に、投資家がガバナンス問題に取り組み、企業価値を向上させ、持続可能性への期待の高まりに歩調を合わせようとすることで、株主アクティビズムが活発化しています。アジア全域で株主の関与が勢いを増しており、ガバナンス改革はもはや選択肢ではなく、長期的な成功のためには不可欠であるという新たな時代を迎えています。
株主アクティビズム
株価の低迷とそれに伴う株主への低いリターンは、株主アクティビズムにつながりやすい状況を必然的に生み出しており、日本や韓国のマネージング・パートナーたちは、自国における株主アクティビズムの急増について以下のようにAsia Business Law Journalに語っています。
「私たちは、敵対的買収などのアクティビスト案件や防衛案件に数多く関与してきましたが、これらの案件数は今後も増加し続けると予想しています」と、東京の西村あさひ法律事務所の執行パートナーである中山龍太郎氏は語っています。「日本企業はこの種の取引を、企業価値を高める機会として前向きに捉えています」
中山氏によると、日本では、2023年8月に経済産業省が企業買収における行動指針を公表して以来、敵対的買収提案の形での株主アクティビズムが増加しているとのことです。
この新たなガイドラインは、企業は敵対的買収提案を拒絶するのではなく、企業価値を向上させ、株主の利益を確保するための潜在的な機会として検討することを奨励するために策定されました。「多くの日本企業はまだこのような取引には関与していませんが、この種の取引は顕著に増えています」と中山氏は言います。
その代表的な例として、日本のモーターメーカーであるニデックが公開買付を通じて工作機械メーカーのTAKISAWAを買収したケースが挙げられます。この取引で助言を提供したTMI総合法律事務所によると、ニデックは行動指針に記載されている概念を繰り返し参照して、買収を成功裏に完了させました。これは、「敵対的」買収が長らくタブーとされてきた日本で、企業がどのように自社の敵対的買収を正当化しているかを示すものです。
結果的に敵対的買収提案の増加は、株主や株式投資家がより積極的に発言するよう促し、企業価値を最大化するために、より透明性が高く、競争力があり、ダイナミックな環境をつくり出しています。
一方、韓国では、物言う株主たちが、会社の重要事項に関する意思決定プロセスで、少数株主の意見が排除される状況を是正するために商法改正を求めています。
韓国の最大野党である共に民主党(代表:李在明氏)は今年、年間を通して国会で商法改正案の可決を推進してきました。
「多くの人々が、韓国の時代遅れのガバナンス構造を改善し、バリューアップの取り組みを通じて企業価値を向上させるためには、商法の改正が必要であると考えています」と、ソウルのBarun Lawのマネージング・パートナーであるDong Hoon Lee氏は語ります。
しかし、先日の戒厳宣言に続く尹錫悦大統領の弾劾が注目される中、いかなる改正案も今年中に可決されることはないだろうというのが大方の見方です。
ソウルのShin & Kimのマネージング・パートナーであるJong-Han Oh氏は、物言う株主が、韓国において経営紛争を増加させる原動力になっていると言います。「コーポレート・ガバナンスに関連する株主紛争または株主アクティビズムは、韓国の資本市場でより活発化しており、経営紛争や関連するアドバイザリー・サービスが大幅に増加しています」とOh氏は語っています。
その顕著な例として、アジアを代表するソウル拠点のプライベートエクイティ・ファームであるMBK Partnersが、最近Korea Zincの最大株主であるYoung Poongと提携し、Korea Zincのガバナンス構造の改善を求めたことが挙げられます。MBK Partnersは、Korea Zincの会長であるYun B Choi氏の恣意的な経営が株主価値を損ねていると主張しました。この案件でShin & Kimは、Young Poongの法務顧問を務めました。
株主アクティビズムが企業内での透明性、公平な意見の反映、説明責任の向上を提唱する一方で、デジタル領域でも同様の監視の必要性が浮上しています。データ駆動型テクノロジーの台頭により、アジア全域でデータ保護とプライバシーが規制上の懸念の最優先事項となっています。
各国政府は、機密情報を保護し、国民からの信頼を維持することを目的とした、より厳格なデータ保護法によって、これらの課題への対応を始めています。株主が価値を保護するためにコーポレート・ガバナンスの改善を推進するのと同様に、規制当局は進化するデジタル経済を保護するために、強固なデータガバナンスの確保を目指しています。
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