不確実性の時代におけるFDI
日本貿易振興機構(JETRO)の最新データによれば、対外直接投資は2025年に32兆6000億円(2040億米ドル)に達し、3年連続の増加となりました。ただし、2025年を通じて円安が継続したため、外貨建て投資の円換算額が割高に見える傾向があった点には留意が必要です。
米国を中心とする地政学的なリスクや保護主義的な通商政策といった対外要因に加え、国内でコーポレートガバナンスがより深化するなかで、日本企業は単なる市場拡大ではなく、戦略的かつ持続可能な成長を目的とした投資へと軸足を移しつつあります。
日本製鉄の前代未聞の事例

日本組織内弁護士協会
理事長/
株式会社いつも
社外取締役(常勤監查等委員)
日本製鉄によるUSスチール買収完了は、日本企業によるFDIに関して現代では最も重要な先例となりました。同取引は前例のない政治的な逆風に直面したものの、最終的には法的・戦略的成功を収めました。
日本企業は、従来の輸出モデルが関税政策、その他の保護主義的措置に対して脆弱になりつつあることを認識しています。米国政府との関税交渉において、日本政府は多額のFDIを約束しました。日本企業の法務担当者にとって、これはM&A戦略の転換点となりました。言い換えれば、投資は貿易障壁を回避するためのローカライゼーションの主要手段となったのです。
コーポレートガバナンス改革の役割
アウトバウンドFDIの増加は、日本で進行中のコーポレートガバナンス改革と密接に結び付いています。東京証券取引所が継続して求めている資本効率(たとえば「PBR 1倍(株価純資産倍率1.0倍以上)」のガイドライン)により、取締役会が海外M&Aを評価する方法は根本から変化しました。
現在の日本のFDIは、戦略面で規律が強いものです。1980年代後半に見られた、熱狂的で往々にして焦点を欠く買収とは異なり、今日の投資は厳格なガバナンス枠組みの下で精査されます。取締役会は、海外買収がどのように株主価値を高め、加重平均資本コスト(WACC)を改善するのかを示す義務を負っています。
透明性と効率性に対するこうした圧力は、企業の取締役に対し、買収後の統合(PMI)局面においてより能動的な関与を迫る。その結果として、日本企業は海外子会社に対する監督を強化している。
二極化する世界におけるサステナビリティ
2026年において日本企業の法務担当者が直面する最も困難な課題のひとつは、欧州の厳格なESG規制と米国におけるトランプ政権の反ESG政策とのギャップをうまく乗り切ることになるでしょう。
日本企業の戦略的対応としては、経済合理性と国家安全保障の観点からサステナビリティを再定義することが考えられます。具体的には、欧州の規制当局およびグローバル機関投資家を満足させるために、具体的には高水準のESG開示に対応しつつ、米国のステークホルダーとの対話においては「エネルギー安全保障」や「雇用創出」を強調することになるでしょう。
しかし、これは口でいうほど簡単なことではなく、企業は米国の中間選挙の結果も注視しながら、困難な舵取りを迫られるでしょう。
地域の再編
統計データは、決定的な地理的シフトも示しています。インドへの投資は過去最高に達し、とりわけ金融・保険分野で顕著な伸びが見られます。世界最大の人口を背景にした成長市場であることに加え、ITやデジタルファイナンスといった成長産業への投資が急増しているようです。
一方で、中国への投資は4年連続で減少傾向にあります。中国の経済成長の鈍化も要因ですが、この傾向は「中国+1」戦略が成熟段階に入ったことを示しています。
日本企業は高い成長可能性を有する地域への投資を進めるだけでなく、地理的に強靭なサプライチェーンを構築するために再編も進めています。法務担当者には、複雑な海外コンプライアンス問題の管理に加え、人権デュー・ディリジェンスや「グローバル・サウス」における複雑な海外コンプライアンスという課題への対応が求められています。
JETROのデータによれば、製造業分野への対外直接投資は、輸送用機器産業と金属産業がけん引しています。この傾向は、日本の自動車メーカーや商社にとって、EVバッテリー革命に必要なリチウム、コバルト、ニッケルなどの重要鉱物を含む上流資源を確保するという戦略上の必要性に由来します。
しかし、こうした投資には、従来型の会社法の枠を超える固有の法的リスクが伴います。日本企業がグローバルサウスの鉱山プロジェクトに投資するにつれて、人権デューデリジェンスの要件はますます厳格化しています。企業は、自社の原材料が強制労働や先住民の立ち退きといった問題と無縁であることを立証しなければなりません。
企業法務は航海士となれるか
2026年の対外直接投資が過去最高となったことは、日本企業が引き続き積極的に海外投資を行っていることを示しています。しかし、法的環境はかつてないほど厳しさを増しています。これらの投資の成否は、企業法務が航海士としての役割を果たせるかどうかにかかっています。
具体的には、国内のコーポレートガバナンス要件を満たし、保護主義的な通商法制を巧みに乗りこなし、持続可能性に関する基準が国や地域によって異なるなかで自社の立場を明確に示す能力が問われます。日本企業が世界で数兆円規模の投資を継続するなか、企業法務は、変動性が高まるグローバル環境において、これらの投資から確かなリターンを確保するために必要な措置を講じる必要があります。


















