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仲裁人の公平性について疑いが生じた場合、判例法によって、偏見が存在するかを評価する選択肢が示されますが、いくらか曖昧さが残る可能性があります。

あらゆる法域において、仲裁人は公平で独立しているべきだという広く認識された義務を負っています。公平とは、仲裁人が偏見を持っていないことを意味します。偏見があれば、仲裁人は解任されるか、あるいは仲裁判断が取り消されます。

仲裁人側に、明らかな偏見があるかどうかを検討する場合、どのようなテストを適用すべきでしょうか? 具体的には、「偏見の現実的可能性」テスト、あるいは「合理的な疑い」テストのどちらを適用すべきなのでしょうか? まずは、この2つのテストの違いを分析する必要があります。

2つのテストのうちどちらを選択すべきか

有名なR v Sussex Justicesの訴訟(1924年)において、ゴードン・ヘワート卿が残したのは、「裁判は漫然と行われるべきではなく、明確かつ疑問の余地なく行われることが基本的に重要である」という名言だけではありません。彼はまた、「たとえ疑いであっても、裁判の過程で不適切な介入が存在したのであれば」、それは訴訟手続きを無効にするのに十分である、とする合理的な疑いテストの原点となる見解も示しました。

Sussex Justicesの訴訟後、裁判所は、わずかな偏見の疑いがあっただけでもテストを実施する傾向を示すようになりました。R v Barnsley County Borough Licensing Justices(1960年)において、パトリック・デヴリンは、「偏見の現実的可能性」という言葉は、Sussex Justicesの裁判における原則を持ち込むために用いられているのではないと考えました。

デヴリンは次のように述べています。「現在の申立人、あるいは広く一般の人々にどのような印象を残したのかを、尋ねる必要はありません。偏見の現実的可能性が存在したことを確かめなければならないのであって、単に合理的に伝わったであろうそうした印象だけを確認するのではありません」

「私の考えでは、『偏見の現実的可能性』という言葉は、サーモン裁判官が言及した、R v Sussex JJ, ex parte McCarthyにおける原則を持ち込むために用いられているのではないということです。この言葉は、実際に偏見があったかどうかを証明する必要はないことを示すために用いられています。各裁判官の心境を調査する必要はありません。むしろ、それは極めて望ましくないことでしょう。『現実的可能性』は、印象に左右されます。それは、裁判官が置かれていた状況から裁判所が受けた印象です」

R Govin
最高経営責任者
Gurbani & Co(シンガポール)
電話: +65 6336 7727
Eメール: govin@gurbaniandco.com

「そのような状況が、裁判官が偏見を持っていたかもしれないという現実的可能性につながるでしょうか? 裁判所は、事実上、偏見がないことを誓った裁判官の宣誓供述書に異議を唱えることなく、そのような可能性が存在するという結論に達する可能性があります。偏見とは、無意識なものであるか、あるいは無意識なものである可能性があります。実際に自分は偏見がなく、私情に流されることはなかったと、頑として主張する人がいるかもしれませんが、そうはいっても、無意識にそうした行動をとった可能性もあります。この問題は、裁判官が置かれている状況から類推される蓋然性に基づいて、判断されなければなりません」

こうしたデヴリンの言葉から、現実的可能性テストの定義を理解することができます。ロバート・ゴフ卿はR v Gough(1993年)における本テストについて触れ、以下のように詳しく説明しています。「デヴリンは、『合理的に伝わったであろうそうした印象』といった、単なる疑いに基づいて作成されたテストを避け、そうした状況において、偏見の現実的可能性があったかどうかを判断するために、訴訟での実際の状況に重点を置こうと努めました」

「『そのような状況が、裁判官が偏見を持っていたかもしれないという現実的可能性につながるでしょうか?』というデヴリンの問いかけは、彼がそれを、見込み(probability)ではなく、可能性(possibility)であると考えていたことを示しています。「probability(見込み)」という名詞は、「real(現実の)」という形容詞で修飾することが適切ではなく、助動詞「might(かもしれない)」が意味するのは、probability(見込み)ではなく、むしろpossibility(可能性)です」

「このような解釈をすれば、現実的可能性テストは、偏見の現実的な危険性を要件とするテストに非常に近いものになります。確かに、この問題は、『蓋然性(probabilities)に基づいて』判断されなければなりません。しかしながら、デヴリンは『蓋然性に基づく』ことを意味していたわけではなく、むしろ、この問題は、関連する状況に言及することによって解決されるべきであることを、強調していたと考えられます」

疑いか、可能性か?

言い換えれば、合理的な疑いテストとは、法廷に出席し、関連する事実をすべて把握している合理的で公正な人物に、公正な裁判が行えない合理的な疑いがあるかどうかを問うものです。その一方で、現実的可能性テストは、裁判官が偏見を持っていたかもしれないという現実的可能性があると、裁判所が考える状況があったかどうかということです。

この時点で、R v Sussex Justicesにおいて採用された合理的な疑いテストは、R v Barnsley County Borough Licensing Justicesにおいて定められた現実的可能性テストよりも基準が低くなります。合理的な疑いテストは、判決の過程に携わった人物に少しでも偏見の疑いがあれば、その判決を無効にすべき要件として十分であることを示唆しています。

一方、現実的可能性テストの必要性は、そうした状況が、争の当事者の訴訟において、有利または不利にかかわらず、裁判官が不当な判断となる意味合いの偏見を、持っていたかもしれないという現実的可能性につながるかどうか、裁判所が問わなければなりません。

同じテストを適用すべきか?

次に問題となるのは、仲裁人に関連する訴訟を含めて、明らかな偏見が見られるあらゆる事例に、同じテストを適用すべきかどうかということです。R v Goughは、陪審員に関連する訴訟であり、当訴訟で、ゴフ卿は、他の下級法廷の裁判官または職員、もしくは陪審員または仲裁人に関わるかどうかを問わず、明らかな偏見が存在するあらゆる事例に、現実的可能性テストを適用することが可能であり、また望ましいと述べています。

AT&T Corp v Saudi Cable Co(2000年)という別の訴訟は、仲裁人に関連しています。AT&Tの事務弁護士によると、R v Goughにおいて定められた現実的可能性テストは、法廷で拘束力がありますが、仲裁を行う仲裁人が、特に国際仲裁に携わっている場合、同テストは厳密な拘束力はありません。その代わりとして、合理的な疑いテストが適用される必要があります。

しかしながら、この訴訟において、ハリー・ウルフ卿は、以下の理由から、すべての事例に同じテストが適用されるべきであると考えました。

  • R v Goughにおいて、ゴフ卿は、仲裁人側の偏見には現実的可能性テストが適用されるべきであると明確に述べました。彼は、国際仲裁を別扱いしませんでしたが、当該仲裁が英国法に準拠している場合、国際仲裁とその他の事例とを区別する理由はありません。
  • 裁判所は公共の正義を提供する責任があります。ウルフ卿は、低い基準の、すなわち合理的な疑いテストが、裁判所よりもむしろ仲裁に適用されるようなことがあれば、驚くべきことだと考えていました。
  • 本訴訟では、仲裁費用として数百万ドルが発生しています。もし仲裁判断が取り消されるのであれば、それは不当な行為となるでしょう。
  • 被告であるSaudi Cable Coは、完全に無実であり、裁判所は、仲裁判断を無効にすべきかどうかを判断する際に、利害関係を検討する必要があります。

さまざまな意見

上記の理由については、さまざまな意見があります。まず、R v Goughにおいて、ゴフ卿がなぜこうした結論に至ったかというと、現実的可能性テストを採用した国内仲裁(その一つがR v Liverpool City Justices)に従事する、仲裁人側の偏見の疑いに関連する事例について調査したからです。

Ang Yong Tong
取締役
Gurbani & Co(シンガポール)
電話: +65 6336 7727
Eメール: yongtong@gurbaniandco.com

しかし、国内仲裁と国際仲裁には違いがあります。例えば、国内仲裁において当事者が任命した仲裁人に関して言えば、米国仲裁協会(AAA)には昔から、中立でなく、また公平で独立した立場を期待されていない、当事者が任命した仲裁人が存在しています。しかし、AAAの国際仲裁の規則では、当事者が任命した仲裁人を含めたすべての仲裁人に対して、公平性と独立性が求められています。

この事例の準拠法は英国法ですが、AAAの規則では、国内仲裁および国際仲裁に携わる仲裁人に適用される、偏見に関する要件や基準は異なる可能性があることが示されています。

次に、仲裁の当事者は、本案判決に対して控訴することができないため、裁判官よりもむしろ仲裁人に対して、偏見の厳格な基準、つまりより寛容なテストが適用される必要があります。

最後に、仲裁人の選任辞退については、国際法曹協会が作成した「国際仲裁における利益相反に関するIBAガイドライン」の第1章一般基準2に定められているように、仲裁手続がいかなる段階にあってもそれに左右されてはなりません。

この場合、仲裁判断を取り消すかどうかを判断する場合、現段階の手続きや、取消によって生じる結果ではなく、事実および状況のみが判断基準となります。オーストラリア、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、フランス、シンガポール、カナダ、スイス、および米国など、その他の法域においても、裁判官や仲裁人の偏見については、同じ基準が適用されます。つまり、国際仲裁に従事する仲裁人の明らかな偏見にどのテストを適用すべきかを判断する場合、法域が違えば、検討事項もさまざまであるため、それらに基づき、裁判所が採用するテストも異なります。

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