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パンデミックや自然災害、さらには戦争によって多くの政府財源の枯渇が進む中、本稿では、バミューダとの比較の観点から、個人資産部門に最も関連のある国際課税の状況について考察します。

多国籍企業への国際課税

最も重要な国際課税改革は、世界最大の収益を上げる巨大多国籍企業に最低15%の税率を適用するとした、経済協力開発機構(OECD)の合意です。デジタル化・グローバル化が進む世界において、租税回避の対処を目的として、長年にわたり精力的な交渉が積み重ねられた末、2021年後半にこの画期的な制度の最終合意に達しました。今回の国際的な合意については、2023年の発効に向けて、すべてのOECDの加盟国とG20加盟国を含む、世界のGDPの90%以上を占める136カ国・地域が今年署名する予定です。

このOECDの取り組みによって、世界の主要多国籍企業約100社の1,250億米ドル以上の利益が、世界各国に効果的に再配分されることになり、全世界で7億5,000万ユーロ(7億8,800万米ドル)を超える収益に対して、主要多国籍企業は事業を展開し利益を生み出している国や地域で、公正な税負担を負うことになります。これは、多国籍企業に対する課税権を、本国から、物理的な拠点の有無にかかわらず、多国籍企業が事業を行い、利益を挙げている市場に再配分することで実現に至ります。

パンデミックコストの回収

国際通貨基金(IMF)は、今回の世界的パンデミックに対処する膨大なコストを賄うため、少なくとも一時的に、富裕層の所得や財産、特に不動産、キャピタルゲイン、相続に対して増税を課すことを検討するよう各国政府に勧告しました。

その一方で、バミューダを含む多くの政府は、特定の経済部門が著しく抑制されている状況で、新たな課税や増税が自国の経済に及ぼす恐れのある悪影響を考慮しているようです。バミューダでは、パンデミックが与える金融サービス部門への財務的影響は、観光部門や小売部門と比べるとかなり小さいものでした。IMFは、バミューダの経済は2022年末までに、2019年の水準まで回復すると予測しています。

バミューダの景気刺激策

Ashley Fife
Carey Olsen Bermuda弁護士、信託財産実務家協会(STEP)バミューダ支部会長
電話: +1 441 542 4514
Eメール: ashley.fife@careyolsen.com

多くの政府は、景気刺激策の継続的な成果、救済措置の必要性、および新たな課税や増税によってどの程度歳入を補う必要があるかを、慎重に見極めています。多くの国・地域では、新たな課税や増税の導入に注力するよりも、経済活性化に向けた施策を実施し、最も影響を受けた部門や個人に対して一時的な救済策を提供することを重視してきました。

今回の危機において種々の取り組みを行ってきたバミューダでは、幸いにも国民の関心を引くことができたため、結果的に、政府関係諸費用、関税、その他の歳入を生み出すことができました。例えば、バミューダ諸島以外の雇用主のもとで、1年間リモートで働くことができ、更新も可能な「デジタルノマドビザ」が導入されました。

また、バミューダの経済投資証明証(Economic Investment Certificate:EIC)制度では、事前に250万米ドルの「適格投資」(不動産やバミューダの登録慈善団体への寄付を含む)を行えば、バミューダでの居住と労働が5年間許可されます。EIC保有者の配偶者や扶養家族も、その間バミューダに居住することができ、さらに同保有者は、EICの満了時点で居住証明書(RC)を申請することができ、RC保有者、配偶者、および扶養家族はバミューダに永住することができます。

バミューダ政府は、不動産の印紙税や給与税を若干引き上げる一方で、特定の企業に対する給与税の軽減措置、観光産業救済のための交通インフラ税の引き下げ、退職前に規定された特定の年金制度からの個人の資金を許可するなどの措置も講じました。

富裕税

パンデミック下で超富裕層の資産が大幅に増加し、貧富の格差の深刻度が悪化しました。このように、ごく少数の人々に巨額の資本が集中することで、資本主義の効果的な機能にさえ疑問が投げかけられ、社会のさまざまな領域で、富裕税やその他の「ロビンフッド」税の導入を後押しする状態につながっている可能性があります。

賛否両論がある特殊な富裕税には、いくつかの形態があり、その最終的な効率性についての評価も千差万別です。2018年の「OECDにおける富裕税の役割と設計(The role and design of wealth taxes in the OECD)」と題するOECDの報告書では、富裕税がリスクテイクや起業家精神を妨げる可能性があることが認められました。英国の財政研究所(Institute of Fiscal Studies)が2011年に発表した「マーリーズ・レビュー(Mirrlees Review)」では、現実的な難しさと国際的な経験不足を理由に、「管理コストがかかり、歳入がほとんど増えない可能性があり、さらに不公平かつ非効率な運用の恐れがある」と述べ、富裕税を否定しました。

また、不意打ちで一回限り導入される富裕税と、継続的な富裕税には、本質的な違いがあります。特に、適切な目的を持つ資金調達としてその根拠が広く受け入れられ、1回限りの課税であるという政府の主張が信用できると判断された場合は、富裕層が、不意打ちの富裕税の回避を計画することは難しく、また、この税によって富裕層の行動が変わる可能性も低いでしょう。また、「一回限り」の税や「一時的」な税として導入されたものの、その後、政府にとって魅力的な財源となり、課税が継続されたことが過去にあったことにも注目すべきです。

一方、継続的に富裕税を課すことによって、税金を逃れるために、その国・地域から人材や資本が流出し、さらには事業の再構築につながる可能性があります。継続的に富裕税を導入した国もありましたが、期待された税収が得られなかったこと、徴税コストが増大したこと、また予期せぬ経済的な悪影響があったことを理由に、結局は富裕税を廃止しています。例えば、フランスのブリュノ・ルメール経済・財務相は、フランスにおける2018年の富裕税の一部廃止は、より多くの外国投資を呼び込むための改革の一環であると述べています。

最も好ましい税の追求

税制は、特定の経済や財源のニーズに合わせて発展してきたものであり、何らかの性質の「国際的な」課税が、国・地域によって異なる影響を与えることは肝に銘じておくべきです。同時に、富裕層の納税義務に対する考え方も変化していることがわかります。世界における相互関連性や相互依存性が高まるにつれ、社会、環境、およびその他の問題に対処するための企業経営や富裕層の投資方法など、資産の責任ある管理に関する考え方も変化しています。これまで、こうした問題は政府の責任であると考えられてきたかもしれません。

慈善活動に取り組む富裕層が、社会的なニーズに応えるために尽力している場合もあります。しかし、一般の個人は、多額の税金を納めて政府にそのような役割を委ねるのではなく、どの程度までその役割を担うべきでしょうか。

世界では、パンデミックの数年前から税法や報告要件が変更され、すでに確立している相続や継承の仕組みに影響を与えつつあります。例えば、受益所有権の登録制度により、確実に資産に課税するために、透明性を高める方向に進んでいることが分かります。

政府が税制に対して取る対策は非常に重要です。まず、政府は、富裕層が事業主として各国の経済に貢献していることを認識する必要があります。つまり、予測可能で経済活動を阻害しない税制を構築することが重要です。各国政府は、可能な限り、シンプルかつ公平で、確実であると広く認められている税制の導入に努めなければなりません。

各国政府が検討すべき重要な問題には、以下が含まれます。どのような種類の税金が徴収され、どのような層の人々が税金の大半を負担しているでしょうか。各種税金はどれほどの歳入を生み出しているでしょうか。特定の税金の導入、報告、徴収のプロセスはどの程度効率的でしょうか。

単に法定法人税率(headline tax rates)を上げるだけでは、公平な税率として歓迎されない可能性があります。公平な税制のあり方を考える上で、勤労所得と受動的所得を区別する必要があります。受動的所得(自分が築いたものではない財産)で生計を立てている個人が極めて低い税負担である一方で、懸命に働いて生計を立てている個人の勤労所得に対しては最高税率がかけられるのは公平でしょうか?

各国政府には次のような重要な問いが投げかけられるでしょう。こうした税金は1回限りとすべきですか、あるいは継続的に課すべきですか? また特定の資産にのみ適用されるべきですか? こうした税金は、超富裕層のみに課すべきでしょうか、それとも低所得者層にも適用すべきでしょうか? 例えば、スペイン、フランス、ノルウェー、コロンビアの富裕税の課税最低額は驚くほど低く、超富裕層だけでなく、中流とみなされる人々も多く取り込んでいる可能性があります。

また、政府は、追加的な税金を導入した場合に生じる可能性のある二重課税のリスクにも注意する必要があります。そうでなければ、そのような税が、公平または信頼に足ると広く認められる可能性は低くなるでしょう。

バミューダでは、いかなる形式の富裕税導入についても、計画はおろか、議論も行われていないようです。


本稿を執筆するにあたり、メリタス・トラスト・カンパニー(Meritus Trust Company)の共同経営責任者であるGina Pereira氏から貴重なご意見を頂いたことに感謝します。

guernseyCAREY OLSEN
Rosebank Centre
5/F, 11 Bermudiana Road
Pembroke HM 08
Bermuda
電話: +1 441 542 4500
Eメール: bermuda@careyolsen.com

www.careyolsen.com

 

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