機会とリスク:ロシアにおけるインフラ保険

By Leonid Zubarev・Alla Ryashentseva/SL Legal
0
8

日本の商社であれ中国の建設大手であれ、アジアの投資家にとってロシアは矛盾をはらんだ市場です。巨大な機会がある一方で、リスクも同様に大きいからです。ロシアのインフラ・プロジェクトは、多額の資本を要し、投資サイクルが長く、契約関係が複雑であるという特徴があります。

このような環境では、保険は単独で機能するリスク移転の手段にとどまらず、設計・調達・建設(EPC)契約、機器供給契約、プロジェクト・ファイナンスのコベナンツなどと並んで、全体的なリスク配分システムの一部となります。本稿では、投資家向けの主要な2つの保険商品、すなわち建設工事オールリスク(CAR)保険(建設据付工事保険ともいわれる)と、操業開始遅延(DSU)保険(運転開始の遅延リスクを補償する)を概説します。

CAR保険における2つの補償タイプ

Leonid Zubarev
Leonid Zubarev
パートナー
SL LEGAL
ロシア

CAR保険は、2種類の保険を組み合わせています。すなわち、財物保険と第三者賠償責任保険です。この保険は、建設中の施設だけでなく、第三者からの賠償責任請求からプロジェクト関係者も保護します。偶然の滅失のリスクを負担する当事者のみが当該財物に保険を付すことができるという原則はあるものの、実際は、完成施設の最終的な受領者として、発注者が真の被保険利益を有します。ロシア市場では、発注者が保険契約者となるのが一般的で、請負業者、下請業者、その他の関係者は追加被保険者となります。

保険期間は重要な論点です。大規模インフラ・プロジェクトでは、建設の完了が必ずしも高リスク期間の終了と一致するとは限りません。むしろ、最も難度の高いエンジニアリング作業は、総合試験、コミッショニング、商業運転開始の準備といった段階に含まれることが多いのです。

しかし、多くのCAR保険では、工事の初回引き渡しなど特定の事象が生じた時点で補償が終了すると定められています。約款の文言を慎重に取り決めておかなければ、プロジェクトの最も重要な局面が無保険となる可能性があります。当事者は、何をもって建設の終了とするのか、またその定義がプロジェクトの工程と整合しているかを明確にしなければなりません。

運転開始の遅延に対するDSU補償

Alla Ryashentseva
Alla Ryashentseva
シニア・アソシエイト
SL LEGAL
ロシア

DSU保険は、保険事故により施設の商業運転開始が遅延した場合に、プロジェクトの財務の安定性を維持するという、より広い目的に資するものです。このリスクは多くの場合、最も重大です。わずかな遅延であっても、キャッシュフロー、貸付人に対する義務の履行、財務実績に大きな影響を与える可能性があるためです。しかし、DSU保険には特有の性質があります。通常、補償が認められるのは、全面的な遅延、すなわち保険事故により施設の商業運転を開始できない場合に限られます。施設全体の稼働を妨げない事情は、保険金支払いの対象となりません。また、補償期間の定義にも注意が必要です。これを、保険事故による損害を復旧するのに要する期間のみに限定されると考えるのは、誤りです。大規模インフラ・プロジェクトでは、復旧完了後に生産目標に到達するために合理的に必要な期間まで、補償期間が及びます。これは、産業プラント、発電施設、その他の複雑な資産に当てはまります。こうした資産では、建設完了後に設備の順次コミッショニングと生産量の段階的な引き上げが行われるためです。立ち上げ期間は数カ月に及ぶことがあり、約款で手当てされていなければ、財務損失が支払保険金を大幅に上回る可能性があります。

補償期間の決定には、通常のプロジェクト進行の下で当該施設がいつ計画上の生産能力に到達していたはずかを分析する必要があります。ロシアでも国際的にも、実務では一般的に、類似プロジェクトが参照されます。しかし、ベンチマーキングは単なる形式にとどまってはなりません。それぞれのベンチマークは当該施設に合わせて調整される必要があります。この調整の質が、予測利益計算の精度と保険金の合理性を左右します。

CARとDSUを一体化した保険設計

ロシアのインフラ・プロジェクトの経験からすると、有効な保険による補償は、保険設計の質、契約の枠組みとの整合、プロジェクト・ライフサイクルを通じて全ての関係者を保護する能力に左右されます。

ロシアにおける複雑な保険紛争の多くは、補償の欠如ではなく、保険者の責任範囲、保険期間、損害の算定方法、保険金支払事由を定義する契約条項の解釈の相違に起因します。したがって、保険契約の締結は、プロジェクトの建設、資金調達、契約条件の整備と並行して進めるべきです。CAR保険とDSU保険は独立した解決策ではなく、統合されたリスク管理システムを構成する、相互に関連した要素です。前者は物的資産を保護し、後者は財務的な存続可能性を守ります。両者の有効性は、プロジェクト計画段階において契約条件がどれだけ綿密に調整されているかに左右されます。

Leonid Zubarev氏はロシアのSL LEGALのパートナー、Alla Ryashentseva氏はシニア・アソシエイトです。

SL LEGALSL LEGAL
10 Presnenskaya Nab.,
Block A 123112
Moscow, Russia
www.sl.legal
連絡先:
T: +7 495 134 22 00
E: info@sl.legal