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香港は仲裁支持の方針を維持し、優れた法環境にある世界有数の仲裁拠点としての地位を確立した。

香港はアジアで発展を続ける仲裁拠点です。中国のグレーターベイエリア(粤港澳大湾区)に位置する、世界有数の仲裁拠点である香港では、裁判所は仲裁フレンドリーな姿勢を取っており、長年にわたって仲裁地としての地位を強化してきました。そして、それを支えるために導入されたのが、香港を仲裁地に選択した当事者に、より質の高い紛争解決を提供する画期的な取り決めです。

過去12か月間においてはこうした傾向が続いており、本稿では、以下の3つの最新の動向に焦点を当てます。(1)多段階紛争解決条項の性質を再検討する最近の3件の判決、(2)仲裁において結果と結びつく費用徴収構造を可能にする法律の将来的な導入、(3)中国本土と香港での仲裁判断の相互執行に関する追加手配の規定の発効。こうした動向によって、仲裁判断の相互執行がさらに強化されるだけでなく、両法域間の仲裁判断の同時執行が初めて可能になります。

多段階条項

Ng Jern-Fei QC、Temple Chambers
Ng Jern-Fei QC
仲裁人
Temple Chambers(香港)
電話: +852 2523 2003

多段階仲裁条項における仲裁前要件の不履行によって、裁判所から管轄権が奪われるのか、あるいはそうした不履行は単に請求の受理可能性の問題にかかわるものなのかという問題は、ここ数年間世界中の裁判所を悩ませてきました。

この問題は、C対D(2021年)で初めて香港の裁判所に提起されました。関連する仲裁条項には、「いかなる紛争も、当事者による書面でのかかる交渉の要請から60営業日以内に友好的に解決されない場合は」、紛争は仲裁に付されると規定されていました。必要な書面による要請が行われたかどうかをめぐっての紛争もありました。かかるコンプライアンスの存在が確認されたため、裁判所は仲裁に着手しました。

敗訴者は、仲裁条例の第81条に基づき、香港第一審裁判所に対して、裁判所に管轄権がないことを理由に、仲裁判断を無効にするよう申請しました。主な争点は、前提条件への遵守が、裁判所の管轄権の問題にかかわるものであるか(従って、裁判所が検討できる)、あるいは請求の受理可能性の問題にかかわるものであるか(これについては、裁判所が検討できない)、ということでした。

Godfrey Lam裁判官は、この問題は受理可能性の問題にかかわるものであるという判決を下し、よって、異議申し立ては棄却されました。以来、その判決は、2件の香港第一審の判決であるT対B(2021年)およびKiln Civil Engineering対GTECH Engineering(2021年)でも踏襲されました。

多段階仲裁条項に従って、調停を最初に求めなかったという理由で、仲裁判断を無効にする試みが失敗に終わったことに関連して、その後のイングランドとウェールズでのNWA対NVF(2021年)の判決においても、オーストラリアでのNuance Group対Shape Australia(2021年)の判決においても、このアプローチが取られました。

最近の法律は、例外なくスウェーデンの法律学者で国際仲裁人であるJan Paulsson氏が提唱した「裁判所対請求」の基準を拠り所にしています。それによると、(仲裁への同意の瑕疵または同意への不作為を理由に請求が調停に持ち込まれるべきではないという意味において)裁判所に向けられた異議は、管轄権に関するものであり、一方で、(請求自体に欠陥があり、提起されてはならないという)請求に向けられた異議は、受理可能性の問題です。受理可能性の問題の例としては、制限や既判事項の問題が挙げられます。

Danny Tang、Temple Chambers
Danny Tang
弁護士
Temple Chambers(香港)
電話: +852 2523 2003

一方で、International Research Corp対Lufthansa Systems Asia Pacific(2012年)では正反対の見解が述べられ、多段階紛争解決条項の仲裁前段階への不履行によって、当事者の仲裁への同意を無効にすることができ、従って、裁判所の管轄権を侵害することになるという判決が下されました。このアプローチは、長年英国の裁判所が採択してきたアプローチと一致していますが、英国の裁判所はこれ以降、現在香港の裁判所が支持する立場に方向転換しています。

2022年6月7日付けの判決によって、控訴裁判所は、Lam裁判官の判決を支持し、とりわけ、異議の内容が、仲裁への付託が時期尚早だというものであり、現実の請求を仲裁に付託することができないというものではない場合は、仲裁の前提条件の不履行は、「請求」の問題にかかわるとする判決を下しました。

C対Dが香港上告裁判所まで持ち込まれる可能性は十分あります。アジア有数の2つの仲裁拠点の裁判所が採択した正反対のアプローチの真偽については、今後間違いなく解明されるでしょう。そしてその結果を、仲裁界全体が注意深く見守っています。

費用徴収構造

2022年3月25日、香港政府は、仲裁及び弁護士法(Arbitration and Legal Practitioners Legislation:仲裁に関する結果と結びつく費用徴収構造)(改正案2022年)を官報に掲載し、年内には成立させる見込みです。

改正案が成立すれば、香港の弁護士は、暫定措置や仲裁判断の執行に関する仲裁や仲裁関連の審理において、クライアントと「結果と結びつく費用徴収構造(outcome related fee structures:ORFS)」に基づく契約を締結できるようになります。

John CK Chan、Temple Chambers
John CK Chan
弁護士
Temple Chambers(香港)
電話: +852 2523 2003
Eメール: jckchan@templechambers.com

この新たな体制の導入により、損害賠償額に基づく契約(DBA)、すなわち「完全成功報酬制」や、いわゆるハイブリッド型DBA、すなわち「条件付報酬(no win low fee)」が可能になります。最近可決されたシンガポール弁護士法改正案(Singapore Legal Profession (Amendment) Act)では、条件付報酬契約のみが認められ、クライアントが受け取った金銭的利益の一定割合を報酬に上乗せすることは禁止されています。従って、香港の改正案のほうが選択肢の幅が広くなります。

これまで香港の政府や法曹界は、弁護士が訴訟の金銭的な結果に関与できるようになれば、利益相反の可能性につながると永らく懸念していました。ですから、こうした動きは、香港において結果と結びつく費用徴収構造(ORFS)への姿勢が大きく変化したことを反映しています。

香港法律改革委員会(Hong Kong Law Reform Commssion)が、その2021年12月の報告書の中で認めたように(上記法案はこの報告書に基づいています)、このような懸念が仮にあったとしても、仲裁の分野に該当する可能性は高くありません。なぜなら、当事者は通常、料金モデルを理解し、担当弁護士と交渉できるだけの見識のある企業体であるからです。

とはいえ、このような懸念に対処するために、本法案とその補足立法では、損害賠償額に基づく契約(DBA)の支払いの上限を、クライアントが受け取った金銭的利益の50%に定めることや、クライアントが結果と結びつく費用徴収構造(ORFS)契約を解消できるクーリングオフの期間を最低7日間とすることなど、仲裁の完全性を維持するためのさまざまな保護条項を導入する予定です。

2017年の香港改正新仲裁条例では、調停の料金契約をさらに緩和し、資金提供の選択肢を広げるために、香港で実施される調停に対して第三者が資金提供することを認めていますが、本法案はこの香港改正新仲裁条例の内容と一致しています。よって、本法案は、確固たる言い分があるが、財源が限られている当事者だけでなく、訴訟費用を帳簿外としたい当事者や、個人的に関わることによって報酬やリスクを共有する担当弁護士にとっても、メリットがあります。

本法案の目的は、すでにORFSが認められている中国本土と、香港の仲裁制度の連携を促進することです。そうなれば、香港の弁護士は、中国本土の弁護士と仕事をする際に、さらに柔軟に対応することができます。特に、「粤港澳大湾区(広東・香港・マカオ・グレーターベイエリア、Guangdong-Hong Kong-Macau Greater Bay Area)で生じる仲裁サービスの機会が広がるという点を考えれば、これは歓迎すべき変化です。

追加手配

香港は仲裁拠点として世界屈指の魅力的な地位にあり、2021年5月19日に発効した追加手配の第2条、第3条によりさらに強化されました。その成果は主に2つあります。

1番目は、対象範囲を、中国仲裁法(PRC Arbitration Law)に基づき中国本土の裁判所が下したすべての仲裁判断に拡大することによって、中国本土と香港における仲裁判断の相互執行を強化できることです。

2番目は、仲裁判断請求者が、中国本土と香港の裁判所において、その仲裁判断の同時執行を申請する選択肢が追加されたことです。これは仲裁判断の執行において他にはない独自の魅力となります。

結論

香港には、世界有数の仲裁拠点としての地位をさらに強化し、中国国内で優れた法環境を提供する拠点としての地位を不動にする、多種多様な司法、立法、政策上の措置があります。本稿では、そのような措置に寄与する特筆すべき新たな動向の一部のみを紹介しています。

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