シンガポールにおける紛争マネジメント:日本企業向けガイド

    By Shem Khoo・Mimi Ahn/Focus Law Asia
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    アジア全域で投資を行う日本企業にとって、紛争および紛争解決は、国境を越えたビジネスにおいて避けることができない要素です。シンガポールはその中立性、執行制度、制度的な厚みにより、アジアにおける主要な紛争解決の拠点としての地位を築いています。

    シンガポールの強みは、各種の手段を単独でも、あるいは組み合わせてでも活用できる、統合された紛争解決エコシステムにあります。

    このエコシステムには、主としてシンガポール国際仲裁センター(SIAC)のもとで行われる仲裁、複雑なクロスボーダー訴訟を扱うシンガポール国際商事裁判所(SICC)を含む訴訟、シンガポール国際調停センター(SIMC)など専門的な調停機関による調停から構成されています。

    これらすべての基盤となっているのが、透明性、予測可能性、強固かつ独立した司法制度で知られるコモンロー体系です。シンガポールはまた、強力な執行制度を維持しており、紛争解決の結果が国境を越えて執行されることを支えています。

    本稿では、日本企業の代理人として、シンガポールの裁判所における手続きを含む、仲裁、調停、交渉などのクロスボーダー紛争において活動してきた経験をもとに、シンガポールでの紛争の効果的なマネジメントについて、実践的なガイダンスを展開していきます。

    シンガポールにおける紛争解決手段の選択

    Shem-Khoo
    Shem Khoo
    マネージング・ディレクター
    Focus Law Asia
    シンガポール
    Tel: +65 6950 0842
    Email: shemkhoo@focuslawasia.com

    シンガポールでは包括的な紛争解決手段が提供されており、適切な手段を最初の段階で選択することが極めて重要になります。どの手段を選択するかは、通常、執行可能性、暫定的救済へのアクセス、秘密保持といった点から決定されます。

    SICCを含むシンガポールの裁判所は、訴訟のための強固な選択肢を提供しています。SICCは、紛争が国際的かつ商業的性質を有することなど、管轄要件を満たすクロスボーダー商事紛争を扱うために特別に設立されました。

    裁判官には著名な国際的な法律家が含まれており、手続きは英語で行われます。

    暫定的救済の申立てなど、裁判所の強制力を必要とする紛争においては、シンガポールの裁判所は極めて有効です。とりわけ、紛争解決までの間に資産が散逸することを防止するために当事者の資産を凍結する「マリーバ・ インジャンクション」は、裁判所を通じて利用できる強力な手段です。

    相手方が資産を手の届かないところへ移転することを懸念する日本企業にとって、早期の段階でマリーバ・インジャンクションを申し立てることは、自身の立場を保全するうえで決定的な一手となり得ます。その他、財産権に基づく差止命令や証拠保全命令を含む暫定的救済も、訴訟と仲裁の両手続きを支援するために利用可能です。

    SIAC仲裁はクロスボーダー商事紛争において、依然として最も一般的な選択肢です。

    仲裁は、秘密保持とともに、当事者が関連分野の専門知識を有する仲裁人を選任できるという当事者自治を特徴としています。シンガポール国際仲裁法は、国際連合国際商取引法委員会(UNCITRAL)モデル法を採用しており、裁判所の介入を最小限に抑える政策を反映し、予見可能性を高めています。

    日本企業にとって、コモンローと大陸法の概念の双方を理解する仲裁人、または、特定の業界に関する知見を有する仲裁人を選任できることは大きな利点です。

    SIACはまた、緊急仲裁制度も設けており、これにより当事者は、仲裁廷が構成される前に緊急の暫定的救済を得ることができます。緊急仲裁人による命令はシンガポールにおいて執行可能であり、これは迅速な対応が求められる紛争において実質的な利点となります。

    SIMCを通じた調停は、特に商業関係を維持したい当事者に適したさらなる選択肢を提供しています。調停は、中立的な調停人が進行を担う促進型の交渉プロセスであり、調停人は、相互に受け入れが可能な和解に達するよう当事者を支援します。通常、調停は仲裁や訴訟よりも迅速かつ低コストです。

    SIMCは、調停による和解合意の国境を越えた執行可能性を強化しており、調停はますます魅力的な選択肢となっています。

    また、これらのメカニズムは、相互に排他的なものではないことにも留意すべきです。多段階の紛争解決条項により、当事者はこれらの選択肢を段階的に組み合わせることができます。

    日本企業が頻繁に直面する紛争

    Mimi Ahn
    Mimi Ahn
    ディレクター
    Focus Law Asia
    シンガポール
    Tel: +65 6950 0843
    Email: mimiahn@focuslawasia.com

    アジアで事業を展開する日本企業は、特定のタイプの紛争に繰り返し直面する傾向にあります。

    ジョイント・ベンチャーおよび株主間紛争は極めて一般的です。日本企業は東南アジア全域において現地企業とのジョイント・ベンチャーを設立することが多く、これにより、経営上の支配権、利益分配、経営上のデッドロックをめぐる紛争が生じることがあります。

    ジョイント・ベンチャーがシンガポール域外で設立されている場合であっても、当事者はシンガポールでの紛争解決を選択することが多く、これはシンガポールの中立性と手続的効率性への信頼を反映しています。このようなケースでは、契約は外国法を準拠法としつつ、手続地をシンガポールとすることが一般的です。

    サプライチェーン紛争も、特に東南アジア全域で頻繁に見られる類型です。相手方がシンガポールに所在する場合、シンガポールの裁判所で手続を開始することは一般的に容易です。これにより、申立人は早期の段階で、差止命令や資産凍結命令を含む有効な暫定的救済を得ることができます。

    建設およびインフラ紛争も多く見られます。当該地域の大規模インフラ・プロジェクトでは、日本の元請業者が、現地および外国の下請業者と協働するケースが頻繁にあります。

    筆者の実体験から言えば、シンガポールで行われた日本の元請業者と韓国の下請業者との間のトンネル建設に関する紛争が、調停によって無事に解決された例があります。これは、すべての紛争が全面的な仲裁審理に進む必要はないことを示しています。調停の活用に前向きであったことで、両当事者は相当な時間とコストの節約ができ、また、修復不能になりかねなかったビジネス関係も維持されました。

    デジタル資産に関するケースをはじめとする新たな紛争も、SICCを含むシンガポールの紛争解決・裁判機関においてますます見られるようになっています。

    企業内弁護士のための紛争の予防的プランニング

    効果的な紛争マネジメントは、紛争が発生する前から始まっています。以下の実務的なアドバイスは、特に日本企業の企業内弁護士にとって有用です。

      1. 契約書に明確に紛争解決条項が盛り込まれているか確認する:曖昧または不十分に起草された条項は、初期段階の紛争の原因となることが多くあります。仲裁地、適用される規則、仲裁人の人数、手続言語を明確に特定すること。
        1. SIAC仲裁については、SIACが推奨するモデル条項を使用することが、よくある起草上の落とし穴を回避するための最も一般的な方法です。
      2. 多段階の紛争解決条項の採用を検討すること:典型的な多段階条項としては、当事者同士でまず交渉を試み、次に調停(例えばSIMCを通じた調停)を、それでも解決しない場合に限り仲裁(SIAC を通じた仲裁)に進むことを求める内容となっています。
        1. SIACとSIMCが共同で運営するArb-Med-Arb(仲裁-調停-仲裁)プロトコルは、日本企業にとって検討に値する確立された枠組みです。
      3. 書面によるコミュニケーションには慎重を期すこと:日本のビジネス文化では、遺憾の意や謝罪の表明は一般的な礼儀であり、必ずしも過失を認めていることを意味するわけではありません。しかし、こうした表現が英訳され、法的手続で提出されると、「ご不便をおかけして申し訳ありません」とか「遅延についてお詫び申し上げます」といったフレーズが、責任の承認と解釈されたり、過失の証拠として用いられたりするおそれがあります。企業内弁護士は従業員に対して、書面によるやり取りでの適切な表現について指針を示すべきです。
      4. 文書管理を徹底すること:適切に整理された記録は法的立場を強化し、案件の正確な評価を可能にします。あわせて、文書がどのように作成され、どの範囲で共有されるかにも留意してください。秘匿特権に関する規則が、社内のコミュニケーションが開示対象となるかどうかを左右します。
      5. 契約解除のタイミングを慎重に検討すること:不適切なタイミングでの解除、または契約上の手続を遵守しない解除は、強固な法的立場を危うくしかねません。企業内弁護士は措置を講じる前に、解除が契約上の要件に適合していることを必ず確認する必要があります。少しでも不確かな点があれば、法的助言を求めるべきです。

    戦略的紛争対応プラットフォームとしてのシンガポール

    シンガポールは、紛争解決のための単なる便利な場だけにとどまりません。紛争マネジメントのための包括的な戦略的プラットフォームです。制度、法的枠組み、アジアの商取引の要衝としての地位は、アジア全域で事業を行う日本企業のニーズに極めて適しています。

    適切な事前準備を行えば、日本企業はクロスボーダー紛争に伴うリスクを低減し、調停や体系化された紛争解決プロセスを適切に活用することでリーガルコストをコントロールでき、実績のある管轄地を選択することで執行面での成果を高めることができます。

    鍵となるのが事前準備です。つまり、明確な契約条項を起草し、コミュニケーション上のリスクに関して従業員教育を行い、堅牢な文書管理を維持し、早期段階で経験豊富な法律専門家を起用することです。

    日本企業の企業内弁護士にとって、シンガポールの紛争解決エコシステムを理解し、活用するために時間を投じることは、リスク管理のためのビジネス上の賢明なアプローチです。

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