AIによるスクレイピングやクローリングといった活動が広がる中、アジアの出版社は、貴重な知的財産と将来を守るために闘っています。BRIAN YAP記者とBYUNG JIN PARK記者による報告です
ChatGPT、Microsoft CopilotからGoogle Geminiに至るまで人工知能(AI)技術は、世界中の多くの人々の日常生活の一部となっています。アジアもその例外ではありません。専門性の高い情報を制作・配信し、その対価を収益源とする企業にとって、AIがこうした「宝石」のような情報をスクレイピングし、形を変え、ときに強化された形で、再生産できることは、進化そのものと言えるでしょう。AIが、より速く、より完全な成果物を提供できるのなら、どうしてウェブサイトにアクセスする必要があるのでしょうか。
これは、「戦うか逃げるかという」ジレンマ、端的に言えば、自身の破滅を招きかねない技術を「受け入れるかどうかという」難しい問題を、私たちに突きつけているのです。
ニューヨーク本社のグローバルなリスク・金融アドバイザリー企業Krollで先端アナリティクス事業のマネージング・ディレクターを務めるロンドン拠点のNick Ellison氏は、AI技術が並外れた可能性と新たなリスクの2つを私たちにもたらしたと指摘しています。
「近年、差し迫った懸念というのは、知的財産の不正利用、オリジナルコンテンツの帰属の表示や、文脈の切り取り、そして不正確または誤解を招くAI出力に起因する歪められた情報に集中しています」とEllison氏は説明します。
Ellison氏は、AIによるIPの不正利用、データ・プライバシー、集団訴訟を含むソフトウェアおよびテクノロジー分野のIP案件を専門としており、こうした問題が、クリエイター、出版社、AI開発者の全てに影響し、所有権、著作者性、説明責任の境界線を曖昧にしているとEllison氏は付け加えています。
AIが自社の業務運営や収益に与える影響について、メディア、出版、コンテンツ制作という産業に属する企業が最も声高に語ってきたということは驚くことではありません。
「観察する限り、日本でこれらの問題(著作権侵害など)についての苦情の多くはメディア企業から出ています」と、ロボティクスやAI領域でAI、ビッグデータ、モノのインターネット(IoT)案件を手掛ける西村あさひ法律事務所・外国法共同事業の東京拠点パートナー、福岡真之介氏は話します。
過去1年の関連ニュース――AIではなく実際の記者が取材し執筆した報道――を簡単に検索してみても、こうした問題への不満がアジア各国で提起されていることが確認できます。
これらの不満の一部は裁判にまで発展しています。
2025年8月、日本の主要紙である日本経済新聞、朝日新聞、読売新聞は、米国拠点のAI検索エンジンPerplexity AI社に対して、著作権侵害および不正競争を事由に東京地方裁判所へ提訴を行いました。
韓国では、主要放送局3社――KBS、MBC、SBS――が2025年1月、国内インターネットポータル運営会社Naver社を相手取り、生成AI学習のために自社コンテンツが利用されたと著作権侵害、および不正競争の差止めと損害賠償を求めて、ソウル中央地裁に訴えを提起しました。
これらの訴訟は、インドの通信社Asian News International社(ANI)が2024年11月、ChatGPTの開発元である米国のAI研究・展開企業OpenAI社を相手取って、著作権侵害、虚偽の帰属表示、およびコンテンツの不適切な利用を理由にデリー高裁へ提訴した事案に続くものです。
この3件はいずれも係争中ですが、裁判で著作権侵害を立証するのは難しいと考えられています。「著作権者の観点からAI企業が先端技術を用いて、どのようにデータへアクセスし、データをコピーし、AI学習に組み込んだのかを明示することは、ほとんど不可能に近いですね」と、ソウルの法律事務所Barun LawでIP分野のパートナーであるMin Seon Shim氏は述べています。
企業は、このプロセスを立証して初めて自社の著作物が使用されたとして補償を求めることができるが、AIについて専門的な知識を持たない多くの企業には難しいだろうと、Shim氏は指摘します。
これは、専門的であったり、読者を絞るニッチな中小メディアにとって、より深刻な問題となっています。それは、大手メディアに比べて、できることが限られているからです。
「中小出版社へ助言した経験からすると、彼らの典型的な問題は、AI利用を監視したり、訴訟を追行したりする法務・技術面の能力が不足していることにあります。そしてデータがどのように取り込まれ、どのように使用されたかを追いかけて立証するのが難しいことです」と西村あさひ事務所の福岡氏は話します。
福岡氏は、中小企業の多くがAIスクレイピングのリスクを過小評価していたり、既存の著作権法が著作物に強力な保護を与えていると考える一方で、アクセス制限を強めすぎると存在感を失うのではないかという不安も抱えていると指摘します。
さらに福岡氏は、日本でAIによる著作権侵害を立証するのが難しい理由として、AI開発者が学習データのリソースをほとんど開示しないこと、そして米国訴訟のような広範な証拠開示手続が日本には存在しないため、AI学習の内部記録へアクセスしにくいことを挙げています。
「出力されたものが、オリジナルの著作物に似ていたとしても、その類似が依拠(偶然ではない)によるものだと証明するのは難しいのです。こうした証拠上の負担のため、中小メディアは侵害主張の要件を満たせないことが多いのです」と福岡氏は述べています。福岡氏は経済産業省のAI・データ契約ガイドライン検討会の委員も務めています。
権利の防衛
ここで問題となるのは、メディアが規模の大小を問わず、データスクレイピングのように広範に行われるAI活動から、自社の事業と収益を守れるのかという点です。
経済協力開発機構(OECD)の「AI政策に関するオブザーバトリー」は、人間中心の信頼できる AIを促進するために、2020年に同機構が立ち上げたオンライン・プラットフォームです。このオブザーバトリーは、2024年3月24日付の記事「AIによるデータ・スクレイピングの課題:責任ある対応策とは?」において、データ・スクレイピングを「ウェブクローラー等の手段によって、第三者のウェブサイトまたはソーシャルメディア上の資産からデータを取得すること」と定義しました。さらに、「今日の大規模言語モデル(LLM)は、学習のため、また潜在的にはその他の目的のためにも、スクレイピングされた膨大なデータに依存している」と付け加えました。
メディア複合企業Nine Entertainmentが所有するAustralian Financial Reviewは、2025年8月、Nine社が同社のウェブサイトにおけるボットおよび、クローラーの活動を追跡していたと報じています。報道によれば、2025年6月にはNine社のウェブサイトが、あらゆるAI企業によってほぼ毎秒10回の頻度でクロールされており、中でもOpenAIが最も大きく関わっていたとのことです。救われるのは、報道機関が自社の著作権コンテンツを保護するために取り得る技術的および法的措置は存在することです。しかし、盲点があり、アジアでは、対応を取ろうとしても、法域によって方針が変わるという点です。
KrollのNick Ellison氏は、各地域のAIに対する対応は大きく異なると述べています。
米国では、アプローチは法的色彩が強く、権利者は無許諾利用に対して迅速に裁判を通じて異議を唱えます。英国は予防措置に重点を置き、政策面および技術面のコントロールによってリスクを軽減しようとします。欧州は規制優先のアプローチを好み、司法判断の結果のみに依拠するのではなく、ルールを法律に直接組み込もうとします。
一方、アジアでは、状況はより慎重であり、バラバラです。「政策立案者は、一般的にはイノベーションと保護のバランスを取りつつ、包括的な規制を回避しながら、段階的で協議的な対応を取っています」とEllison氏は述べています。「その結果、それぞれ異なる速度で進化する国別のフレームワークの寄せ集めになっていると言えるでしょう」 このため、複数の法域にまたがって事業を行う出版社にとっては、基準の多様性、執行までのタイムラインの差異、ライセンシングをする上での慣行の不整合をすり合わせていかねばならず、より困難になるのです。
シンガポールは、アジアにおけるAIの独自の市場として存在感をはなっています。同国は、2004年以降、米国とシンガポール間の自由貿易協定の下で、米国に倣ったフェアユースの例外を認めています。
シンガポールの2021年著作権法 では、利用がフェアユースに当たるか否かは、利用の目的、および性質、利用が商業的性質を有するか、非営利の教育目的かといった点を含め、4つの要素に基づき判断されます。その要素は、限定列挙ではありません。
Bird & Birdのシンガポール・オフィスのIPパートナーであるPin-Ping Oh氏は次のように述べています。「米国裁判所の判断を参照しつつ、フェアユースの例外規定が適用されれば、ライセンスなしのAI学習を許容し得る可能性があります。ただし、当該点について当国の裁判所が判断する機会はまだありません」シンガポールの2021年著作権法 の下で、いわゆるテキストデータマイニング(TDM)の例外規定を導入しました。これは計算データ分析(CDA)の例外規定とも呼ばれます。 CDAは、「コンピュータプログラムを用いて、著作物または録音物から情報またはデータを識別し、抽出し、分析すること」、および「当該種類の情報またはデータに関してコンピュータプログラムの機能を改善するため、著作物または録音物を当該種類の情報、またはデータの例として使用すること」を含むものと定義されています。
Oh氏は、シンガポールのTDM例外規定は範囲が広すぎ、権利を十分に保護していないのではないかと懸念する著作権者がいると指摘しています。
「シンガポールのTDMは、研究目的に限るという目的の制限がなく、非商業目的と商業目的の双方に適用されるため、英国やEUの同種の例外規定よりも幅が広いのです」と彼女は述べています。「さらに、TDMの例外規定の適用からオプトアウトする権利にも制限がかかります。シンガポール法に基づく契約において、TDMの例外規定の運用を除外または制限しようとする条項は無効となります。一定の状況では、外国法準拠の契約にも同様に適用されます」 TDMの例外規定に対する主な保護措置 は、コンテンツへの「適法なアクセス」となります。この用語はシンガポール著作権法に見られるものの、定義はなく、その正確な意味があいまいな状態です。誰がそう言っているのでしょう? 同法は、例示しか示していません。例えばペイウォールを回避してアクセスする場合は「適法なアクセス」とはみなされないとしています。
「これは極めて重要な保護措置であり、著作権者が自らの素材に対して一定のコントロールを維持し、自身の素材がTDMの例外規定の対象になるのを防ぐことを可能にします」とOh氏は述べています。
シンガポール以外では、日本が現在、アジアで著作権法上におけるTDMの例外規定を有する唯一の法域ですが、フェアユース条項はありません。日本は2018年に著作権法を改正し、その際に第30条の4を導入して、企業がAI開発、その他の情報解析目的で著作物を利用することを認めました。
この規定の下で、企業は情報解析のために著作物を自由に利用できる。情報解析にはAI開発やAI技術の利用が含まれるため、企業はインターネット、その他のソースから素材を収集し、開発のためにAIシステムへ投入できることになります。
また、日本には、AIを開発する、または利用する企業に対して厳格な義務を課す特別なAI法は存在しません。現行のAI関連法は、主として政府に対しAI技術の調査および将来的に適切な法的枠組みを整備することを義務づけているにとどまっています。
著作権法はAI開発のための著作物利用を認める一方、企業は著作権者の利益を不当に害してはならないとも定めています。ベーカー&マッケンジー法律事務所東京オフィスのIPテック・グループのパートナーである達野大輔氏によれば、データを収集し利用すること自体は不当な侵害とは見なされないとのことです。
「ただAI開発者が、いつ著作権者の利益を不当に害したと判断されるのかは不明確です」と達野氏は述べています。彼はIP権の登録、保護、紛争、ライセンシングのエキスパートです。
日本において編集コンテンツの保護を図るメディア企業に対し、ベーカー&マッケンジー法律事務所東京オフィスのパートナーであり、IPテック・プラクティス・グループ長の高瀬健作氏は、サーバーに「robots.txt」ファイルを実装するなど、AI開発目的のデータ収集を禁止する旨の明確な表示を盛り込むことが一案であると述べています。
しかし、同事務所でグローバルIP責任者も務める高瀬氏は、これだけでは十分でない可能性があると指摘します。というのも、同法は、データの収集および利用が「著作権者の利益を不当に害する」ものでない限り、これを認めているためです。アクセス障壁を設けることは、データ収集と利用が、この「不当な害」の水準に達するとの主張を補強し、例外規定の適用を否定しやすくしているのです。
高瀬氏はさらに、コンテンツをペイウォールの背後に置く、またはユーザーIDとパスワードによる認証で保護することも提案しています。これにより、無許諾のデータ収集が不当な害をもたらすという主張をより強く裏付けられます。
オーストラリアの動き
日本やシンガポールの動向とは対照的に、オーストラリアは長年議論されてきたTDMの例外規定の導入について、異なる立場を取ってきました。
オーストラリアの Michelle Rowland 法務大臣は、2025年10月26日、政府は著作権法の下でTDMの例外規定を導入しないと発表しました。
これは、巨大テック企業が、ニュース記事を含む著作物を、著作権者の許諾なく利用することが認められないことを意味します。現在、オーストラリア著作権法には、著作権者の許諾なくAIモデルの学習に著作物を使用することを認める明確な例外規定は存在していません。
また、オーストラリアにはフェアユースの例外規定もありません。代わりに、より限定的な形で「フェアディーリング(公正な取扱い)」という概念が認められてして、これは、研究または学習、批評または評論、パロディ、または風刺、ニュース報道など、特定の目的にのみ適用されます。
シドニーの法律事務所Gilbert + TobinテクノロジーおよびIPグループのパートナーを務める Rebecca Dunn氏は、生成AIの運営者がTDMの正当化の理由として、これは研究・学習目的のフェアトレードだと主張する可能性が最も高いと考えています。
「しかし、当社の見解では、特に学習が商業的にリリースされる製品のためである場合、またはコンテンツ利用のライセンス市場が存在し、ライセンスが利用可能である場合、フェアディーリングの条件を満たすのは難しいでしょう」とDunn氏は述べています。
一般論として、AIの学習が、著作者からのライセンスなく著作物の実質的な複製を伴う場合、またはAI企業が当該素材を所有していない場合には、著作権法の下で著作権侵害に当たることになります。
ブリスベンの法律事務所Johnson Winter Slattery(JWS)でテクノロジー、データおよび商業IPのパートナーを務める Helen Clarke氏は、これにより著作物の権利者は、無許諾使用について損害賠償を求める権利を有し、これがオーストラリアにおける一般的な立場であると述べています。
「例えば、スクレイピングを含む形で自社コンテンツの無許諾使用を確認したメディア企業は、既存の著作権法に依拠せざるを得ません」と Clarke氏は言います。「現時点で、AI企業がそのようなコンテンツを許諾なく使用することを認める明確な例外規定はありません」と続けました。
Clarke氏はさらに、大規模言語モデルの開発に向けたデータ学習であっても、AIツールに投入される情報を保有する企業からの許諾が必要であると付け加えています。これは、学習プロセスが、著作権法の下で著作権者に留保された権利の一つ、または複数を行使する可能性が高いからです。これらの権利には、複製、公表、上演、公衆送信および/または翻案を行う権利が含まれています。
一方で Clarke氏は、オーストラリアにはウェブスクレイピングを一律に禁止する単一の法律は現時点で存在せず、特定の状況における適法性は、関連法令その他の要素によって左右されうのですと述べています。これらには、スクレイピング対象ウェブサイトの利用規約、著作権その他の知的財産法、消費者法、スクレイピングが個人情報を含む場合のプライバシー法、ならびにデータやコンピュータシステムへの無許諾アクセスを禁ずる刑事法が含まれます。
メルボルンの知的財産専門法律事務所Wraysでスペシャル・カウンセルを務める Kate Legge 氏は、オンラインコンテンツのコピーを単一の措置で防ぐことはできないが、潜在的な侵害者を抑止し得る法務上、技術上、および商業上の戦略はあると説明します。
「著作権者には、侵害訴訟に至る前の段階でも利用可能な選択肢が複数あります」と Legge 氏は話します。「ただし、着手前に法的助言を受けることが強く推奨されます。場合によっては、侵害の主張が不当と判断されたとき、主張の発信者が損害賠償責任を負う可能性があるためです」 Legge 氏は、オーストラリアの著作権法において、オンラインコンテンツへの侵害に対して特有の手続きがいくつか設けられている点を指摘します。「テイクダウン」手続きの下では、著作権者は、侵害であると合理的に信じる素材へのアクセスを削除するように、インターネットサービスプロバイダへ通知を行うことができます。「ウェブサイト遮断制度」により、著作権者は、侵害している特定のウェブサイトへのアクセスを遮断するようISP(インターネットサービスプロバイダ)に命じる連邦裁判所の命令を求めて申立てを行うことができます。
判例待ち
インドでは、2024年11月にANIがOpenAIに対する訴訟を開始したことを受け、メディア各社とAI企業の間の紛争の舞台として浮上しています。
係争中ではありますが、デリー高等裁判所は判断すべき主要な争点を4つに整理しています。これには、既存データセットを用いてAIモデルを学習させることやウェブをスクレイピングすることが著作権侵害に当たるかどうか、また、OpenAIが入手可能なデータセットをスクレイピングする文脈でフェアユースの法理が適用されるかが含まれています。
「バランスの取れたアプローチが必要です。すなわち、オリジナルコンテンツの著作者に対してライセンスのロイヤルティが支払われることを確保しつつ、一部の生成AIツールが一般利用のためにアクセス可能な状態にとどまることも認めるべきです」と、インドの法律事務所Cyril Amarchand MangaldasのデリーNCRオフィスでIP部門の責任者でパートナーのSwati Sharma氏は述べています。
インドの法律事務所CMS IndusLawのTMTプラクティスグループのベンガルール拠点のパートナーであるNamita Viswanath氏は、インドにおけるフェアディーリングの概念に言及しています。これはより具体的で、許容される目的の網羅的なリストを定めています。その一方フェアユースは、より柔軟で幅の広い解釈となっています。
「しかし(フェアディーリングの概念は)通常、教育や研究、または非営利目的といった場面に結び付いています」とViswanath氏は話します。「見てのとおり、AIツールの大半は最終的に利益創出や商業目的で使われています。利益動機があるのに、純粋に教育や研究目的と主張するのは難しいでしょう」 Viswanath氏はまた、TDM(テキスト・データマイニング)の例外規定が存在しない点を指摘し、現時点ではデータクローリングのいかなる形態もIP侵害として扱われていると説明します。
「中小規模の事業者にとって、実のところこれは有利なのです。規模や大きさを立証する必要がないからです」と彼女は述べています。「デフォルトで、AIモデルの学習に用いられるコンテンツが著作物であるなら、著作権保護を受ける権利があります」と付け加えていますそのような法的保護が存在する一方で、Viswanath氏はAsia Business Law Journalに対し、利用者データが大規模言語モデルの学習に使われ得ることへの懸念を示すメディア関係の顧客から相談を受けていると語ります。
「彼らにとっては、自社プラットフォームがそのような目的で使われた場合、顧客に対して責任を負うことになります」と彼女は言い、「そのため、顧客との契約違反になり得ることを恐れているのです」と続けました。
しかしViswanath氏は、メディアが法廷で著作権侵害を主張するのを困難にする2つの要因を挙げています。すなわち、判例の蓄積が乏しいこと、そして、侵害を明確なオリジナルの著作物の出所に帰属させられないことです。さらに、著作権法の改正がない限り、メディア企業は著作権侵害よりも契約違反に依拠せざるを得なくなると付け加えました。
「まずは、プラットフォームの利用規約を定めることから始まります」とViswanath氏は言います。「次に、多くの場合、同意なく特定のデータ利用を禁止する明確な免責文言があります。AI企業が必要な同意を得ていたことを示せない限り、契約違反があることは示しやすいでしょう」
不明確で不確実
他の法域と同様に、韓国はAIおよび、データ駆動型技術の急速な台頭に対して自国の法制度がどのように応答するかを定義する上で、重要な局面に立っています。AIモデルが学習のために膨大なオンラインコンテンツに依拠するようになるにつれ、著作物、特にニュース記事の利用をめぐる問題が前面に出てきているのです。
韓国の著作権法および競争法は、創作物に対して強固な保護を与えていますが、AI学習の文脈におけるフェアユースについて明確な司法判断の蓄積がないことが、AI企業とメディア企業の双方に不確実性を生んでいます。主要放送事業者と、同国最大手のインターネットポータルであるNaverとの係争中となっている訴訟は、生成AIの時代において韓国の裁判所がフェアユースをどのように解釈するかについて重要な指標を示すものになると見込まれています。
韓国では、ニュース記事は著作権法の下で著作物として保護される。「韓国ではニュース記事が創作物とみなされるため、原則として、学習データとして利用するには著作権者のライセンスが必要になることから著作権問題が生じます」と、データ保護、EC、ICTおよびフィンテックを専門とするソウルの法律事務所YulchonのパートナーSun Hee Kim氏は述べています。
Kim氏によれば、Naver社の訴訟における主要争点は、事案が韓国の著作権法上のフェアユースに該当するかどうかになる見込みです。「これまで、AI学習目的のフェアユースを明示的に認めた裁判例はなく、Naver社の訴訟はその最初の事例になると広く見込まれています」と彼女は付け加えました。
韓国の著作権制度はメディア企業に特別の保護を与えるものではなく、ニュース記事もオリジナルな著作物に該当する場合に限って保護されています。著作権法の下では、時事のニュース報道や社説は、メディア組織間で複製または配布され得ます。
しかし、ソウルの法律事務所One Law PartnersでAIおよびテックチームの責任者を務めるパートナー、Jeong-Ik Oh氏は、そのような場合であっても、記事に利用禁止の通知が含まれているときは複製が許されないと述べています。
「ニュース媒体は、利用規約やロボット排除方針を設けていることが多いのです」とOh氏は説明します。「これらが、例えば無断でコンテンツをスクレイピングし収集することによって侵害された場合、著作権侵害とは別に、不法行為責任が生じ得ます」ソウルの法律事務所Yoon & Yangで新規プロジェクトグループの副責任者を務めるパートナーKeun Woo Lee氏によれば、韓国のメディア企業は、契約なしに自社コンテンツを利用した事業者がどこかを精査しており、自社の素材を著作物として扱うか、不正競争防止法により保護される「相当な成果」として扱うかを分類しているとのことです。
「(メディア)企業は、契約を締結していない相手に対しては、通知を送付したり、過去の侵害に関する損害賠償や、将来の利用に向けたライセンスによる公正な補償を求めて訴訟を提起したりする予定です」とLee氏は述べています。
今後の展望
AI 技術の存在感が高まるなか、メディア企業、特に小規模事業者の将来はどうなるのでしょうか。
現在、アジアで進行中の裁判に注目が集まっています。メディア企業、その法務顧問、AI 企業はいずれも、著作権の抗弁の限界について、これからの判決が明確な指針を示すことを期待しています。
では裁判所の判断を待つ以外に、メディア企業に打つ手は何が考えられるでしょうか。著作権等管理事業者(CMO)に加入することは、より分かりやすい選択肢となり得るでしょう。
「米国と英国の CMO は、著作権者が AI 関連用途のためにコンテンツをライセンスできる集団的なソリューションを立ち上げており、域内の一部の CMO も同様の取組みを検討しています。こうしたソリューションを利用できる場合、メディア企業は自国の CMO に加入することで、自社の著作物を CMO が発行する包括ライセンスに含まれるレパートリーの一部として組み入れることができる」と、シンガポールの法律事務所Bird & Birdの Oh氏 は述べています。
Barun Law の Shim氏も、著作権信託管理制度に言及し、集団的ライセンスが著作権者の交渉力を強化し得ると指摘しています。
「特に、小規模のコンテンツ制作者にとって有益となるでしょう」と Shim氏は述べています。「こうした組織を通じて、アクセス可能なデータとアクセスできないデータを区別し、それに応じて管理し、制限データへのアクセス責任を定義する利用規約など、契約上、又はポリシーに基づく枠組みを構築することが可能になります」。
One Law Partners の Oh氏 は、長期的には、中小規模のメディア企業が、AI 企業によるコンテンツの学習データとしての利用を単に禁止するよりも、コンソーシアムを形成し、条件付きの有償利用モデルを確立する方が、現実的で持続可能でしょう主張しています。
Oh氏 は、CMO は一般に著作権法などの法的根拠に基づいて設立されるため、メディア企業自身が直接の運営主体ではなく、一定の法的要件を満たす必要があると指摘します。これに対し、コンソーシアムは、メディア企業が自ら直接に組成し主導する協同体として、当該事業活動を自分たちで行うことができます。
「当初から一定の条件の下で学習データとしてのコンテンツ利用が認められ、その仕組みが定着すれば、適法なチャネルを用いずに無断でクローリングを行う者は、より重大な違反をしていると見なされる可能性が高くなります」と Oh氏 は述べています。
さらに、実質的に、無断でクローリングを行う者は、より大きな責任やより厳しい制裁に直面し得るとOh氏は付け加えます。「正当で広く利用されている方法が既にあるのに、違法な方法を選ぶようなものです」。
オーストラリアでは、2023 年にMark Dreyfus法務大臣(当時) により設立された「Copyright and AI Reference Group」も存在します。これは、著作権と AI に関する現在及び新たに生じる課題について、政府部門と非政府部門の間での関与、情報共有、開かれた議論を支援することを目的としています。
直近では、2025 年 10 月 28 日、オーストラリア政府が、グループ参加者全員に開かれた会合を開催し、AI と著作権政策における 3 つの優先分野について議論しました。そこには、ライセンスの在り方の検討を通じて、AI における著作物利用の公正かつ適法なルートを促進すること、及び AI を用いて生成された素材にオーストラリアの著作権法がどのように適用されるかについての確実性を高めることが含まれています。
「中小出版社は、政府や著作権と AI 参照グループ、業界団体を通じて、これらの課題に関与する機会を探すべきです。集合的な声の一部になることです」と、JWS の Clarke氏 は述べています。
一方で Kroll の Ellison氏は、重要なのは防御的な姿勢から、AI との管理された商業的関係へ移行することだと主張します。彼は、メディア企業が AI を脅威と見るだけでなく、社内で活用して利益率を改善できる点を挙げています。
「小規模のメディアの多くは、翻訳、業務フローの自動化、オーディエンス分析、コンテンツの再活用で AI の恩恵を受けられます。AI がコスト削減とリーチ拡大に寄与すれば、外部者が同じコンテンツをどう利用できるかについて、強い姿勢を維持するという正当性も高まるでしょう」と Ellison氏は述べています。
彼はまた、零細出版社は、出力の一部を構造化フィードや API(application programing interfaces)に変換できるとも付け加えています。これは、システム間でデータを交換するための構造化されたルール、又はプロトコルであり、AI 開発者にとってはスクレイピングするよりもライセンスを受けやすいのです。
「小規模なニュースルームであっても、要約に魅力的な、トピック別、言語別、または業界別のデータセットを作ることができる」と Ellison氏は述べています。
さらに今後数年で出所(プロヴナンス)と信頼できる情報源の重視が強まると Ellison氏は見ています。誤情報や AI 生成コンテンツへの懸念が高まるにつれ、高品質で人間が作ったジャーナリズムはプレミアムな情報源となるはずです。「有力な出所を示せるアジアの出版社は、より有利な立場に立てるでしょう」と彼は付け加えました。
さらに Ellison氏は、テンプレート契約、国境を跨ぐ枠組み、分野別ライセンスといった形でのライセンスモデルの標準化が進み、特にニュースや金融情報では、その場限りの取引ではなく、より整備された仕組みになると見込んでいます。
「[メディア企業と AI、または AI 開発者の]関係は摩擦のないものにはならないでしょうが、規制当局や裁判所が基本ルールを明確にするにつれて、非公式なスクレイピングから、より透明で交渉に基づくアクセスへと徐々に移行していくと見ている」と Ellison氏は今後の展望を語りました。


























