ベトナムは現在、行政および司法改革の段階にあり、大胆な変革によって慎重ながらも楽観的な見方が生み出されています。政府が経済の透明性と効率性の向上を推し進める中で、企業は新たなチャンスと、システムの移行に伴って長引く予測不可能な状況の両方に備えなければなりません。Sheryl Ubanaが報告します。
ベトナムは、法律家たちが「この数十年で最も野心的」と評する行政改革を実行しています。Asia Business Law Journalは、ベトナムに拠点を置き、同国の法務および経済活動に深く関わるシニア弁護士たちに話を聞きました。これらの有識者たちは、ベトナムの改革がいかにして、慎重ながらも楽観的な見方で新時代の幕開けをもたらしているかを語っています。政府が経済の透明性向上や、手続きや規制の合理化を進める中で、企業は新たなチャンスへの期待と、依然として流動的なシステムに対応しなければならない現実とのバランスを取る必要があります。
休眠状態から決定的な変化へ
「ベトナムは長期にわたって休眠状態にありましたが、いま再び目覚めつつあります」と、LMP Lawyersのマネージング・パートナーであるLe Minh Phieu氏は自信を持って語っています。
Phieu氏はベトナムの法環境や経済状況の進化を振り返り、同国の現代的なビジネス環境の基礎を築いた、いくつかの重要な改革を挙げています。中でも特に重要なものは、1992年憲法の導入、民間事業の自由を保障し煩雑な許認可制度を撤廃した1999年企業法、長年続いた二重法制を廃止し、国内外の投資に関する法的枠組みを統一した2000年投資法であると指摘します。
Phieu氏によれば、これらの改革の後、当時のファン・ヴァン・カイ首相のリーダーシップの下で、ベトナムのビジネス環境の改善を推進する一連の決定的な行動が取られました。しかし、カイ首相の任期が2006年に終了した後、変革の勢いは次第に弱まっていきました。
このような背景の中、Phieu氏は、現在進行中の再編の波を「これらの重要な節目以来、ベトナムで最も大胆かつ野心的な改革への取り組み」と表現しています。
改革の渦中にあって、国内外の企業は不確実性の中を舵取りしつつ、将来的な効率化の実現を見据えています。
新しい政府の姿
地方政権組織に関する法律 第65号に基づくこの再編への取り組みは、官僚主義の削減と業務効率の向上によって政治体制の合理化を目指しています。
中央政治局と書記局が発表した主な改革には、地方行政単位の統合、県(districts)級の廃止、村(communes)級単位の継続的な合併が含まれます。ベトナムの行政単位は、省(provinces)、県、村などの正式な領域区分であり、それぞれが中央政府の指導の下で地方の国家行政機関として機能しています。
再編前のベトナムの地方行政システムは、以下のような構成でした。63の省級の行政単位(58の省と5つの中央直轄市)、713の県級の単位(546の県、49の郡、51の市、67の省直轄市)、1万1162の村級の単位(8978の村、1581の区、603の町)。
2025年3月1日には、省の数は18から14に、省相当機関の数は4から3に削減されました。主な統合は以下の通りです。
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- 計画投資省が財務省に統合
- 運輸省が建設省に統合
- 天然資源環境省が農業・農村開発省に統合され、名称が農業環境省に変更
- 科学技術省が、これまで情報通信省の管轄だった通信、IT応用、サイバーセキュリティ、電子取引を監督
- 文化スポーツ観光省が報道管理の責任を引き継ぐ
- 内務省が労働や雇用問題を監督
改革は省相当機関にとどまりません。2025年4月12日、第13期党中央委員会では、省級の行政単位を63から34(28の省と6つの中央直轄市)に統合することに合意したと発表されました。2025年4月12日の第11回総会での議論によると、進行中の再編により、基層レベルの行政単位も60~70%削減される見込みです。
約束と危機
ビジネス界にとって、これらの変化はチャンスと課題の両方を意味します。法務専門家の多くが、長期的なメリットは短期的な混乱を上回ると考えています。「これらの改革は、プラスの影響がマイナスを上回ると期待しています」とPhieu氏は語ります。
VILAFのハノイのマネージング・パートナーであるBui Ngoc Anh氏もこの見解に同意しています。「これらの政策により、ベトナムの政府の構造がより一層効率的になり、ビジネスや社会の発展が促進され、投資家にとって煩雑で時間のかかる手続きが削減されることが期待されます」
専門家は、手続きの簡素化、官僚主義の削減、効率的なガバナンス、そしてベトナムにおけるよりビジネスに優しい環境といった、明確な利点を指摘しています。
Duane MorrisのパートナーであるOliver Massmann氏によると、企業はこの移行期間中に課題に直面はするものの、最終的には、これまでにないほど投資に適した環境を享受できるようになるといいます。
Herman Henry & DominicのパートナーであるDinh Le氏も同様の見解を示し、長期的には「官僚的な階層が少ないスリムな行政システムが官僚主義を大幅に削減し、より透明で投資家に優しいビジネス環境を創出するでしょう」と述べています。
しかし、効率性向上への道のりに課題がないわけではありません。企業は、ベトナムの大規模な政府再編に対応する中で、その実施に伴う不確実さなどの重大な障害に直面しています。
「一般に、企業は行政構造の簡素化と官僚主義の削減という政府の取り組みを支持しています。しかし、短期的にはいくつかの実務上での懸念が生じています」とLe氏は言います。
Thanh氏によると、多くのクライアントが、最近の政府再編が自社のビジネス運営にどのような影響を及ぼすかについて懸念を表明しています。主な疑問点は、再編によって自社を管轄する省庁や政府機関に変更があるかどうかです。
これに対し、Thanh氏は2025年2月18日に第15回国会で可決されたベトナム政府の再編を定める決議 第176号に言及しています。例えば、これまで外国投資を監督し登録証明書の発行を担っていた計画投資省は、現在は財務省と統合されました。したがって、新たに統合された財務省が、再編前の両省が担っていた機能を引き続き担当することになります。
「変革中の政府機関は、新しい業務フローへの適応や人員の再配置に時間を要することがあり、その結果、手続きの遅延が生じる可能性があります」とThanh氏は言います。
Massmann氏は「この再編に起因する違反については、企業にコンプライアンス関連の罰則が科されるべきではありません。(しかし)企業は顧問弁護士と協力し、新旧両方の管理当局に積極的にアプローチする必要があります」と述べています。
一方、Le氏は3つの主要な懸念事項を挙げています。
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- 法的なギャップと権限の重複。「政府機関の統合や廃止は、法律、政令、通達など、現在は存在しない行政機関を明確に参照している既存の法令を、大幅に改正することが必要となります」とLe氏は言います。「これらの規定を速やかに改正しない場合、法的な空白や権限の競合が生じて、行政手続きや紛争解決を担当する権限当局に関して不確実性が生じる可能性があります」
顕著な例として、2020年企業法と2020年投資法の施行があります。Le氏によれば、これらの法律は会社設立や外国直接投資のライセンス発行の権限を、省級の計画投資局に付与していますが、同局が財務局に統合されたことで、これらの法律上の管轄先が新たな制度の枠組みと一致しなくなっています。
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- ライセンスや管理手続きにおける行政上の遅延。「政府再編はいずれも通常、業務手続きの変更を伴うため、行政上で遅延が生じる可能性があります」とLe氏は続けます。「機能が旧機関から新設機関に移管される過程で、企業はライセンスや承認の取得の手続きの中断や長期化を経験するかもしれません」
Anh氏は「現在発行されている事業ライセンスはいずれも、有効期限まで引き続き有効です。今後、許可やライセンスの修正申請をする場合は、新たな権限当局が記載されるだけで、特に変更や問題が生じることはありません」と語ります。
Venture North Lawのマネージング・パートナーであるVu氏は、より率直に、「最大の課題は再編による不確実性と、企業が提起する問題に対応するよりも、再編後の官僚組織内で有利な地位を確保することに政府職員の関心が向いてしまい、意思決定や注意力が行き届かなくなることです」と述べています。
DN Legalのコーポレート/M&A部門責任者であるQuan Nguyen氏は、企業は「移行期間中の遅延に備えた対応策を準備」して、「現行の契約やコンプライアンスの手順を再評価すべき」と助言しています。
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- 企業の法的権利や利益に対するリスク。移行期間中、政策や管理手法の調整が、既存の契約上・プロジェクト上の権利に意図せず影響を及ぼす可能性があります。Le氏によれば「企業は行政上の変更を踏まえ、現行の契約や業務における潜在的な法的リスクを積極的に再評価しなければなりません」
Le氏は、多層にわたる政府承認を必要とする大規模インフラ・プロジェクトでは、ライセンス当局が変更され、明確な移行手順が定められてない場合、深刻な混乱に直面する可能性があると指摘しています。
Vu氏は「外国投資家による大規模インフラ・プロジェクトは、数多くの許認可や、政府または国有企業による長期的な契約やコミットメントが必要なため、特に影響を受けやすいでしょう」と語っています。
分野別の影響
すべての分野が再編の影響を同じように受けるわけではありません。専門家は、特定の業界が固有の課題に直面すると指摘しています。Dinh Le氏によると、投資分野は「複雑な行政手続きや許認可手続きに密接に依存している」ため、大きな影響を受けるとのことです。マクロレベルの管理を担う省庁の統合によって、投資プロジェクトの承認プロセスが変更される可能性があります。
通信・情報技術分野も、その監督体制の再編に伴い、構造的な変化を経験することになります。Le氏はこれらの業界について「戦略的優先事項が変わる可能性がある」と指摘していますが、長期的には「通信政策を科学技術の発展と連携させることで、規制上の障壁が減少し、イノベーションが促進される可能性がある」としています。
労働分野は労働・傷病兵・社会問題省が廃止され、その機能が複数の政府機関に再配分されるため、大幅な変化に直面するでしょう。Le氏は、企業が「これまでのように単一の機関ではなく、複数の当局とやり取りしなければならなくなる可能性がある」と語っています。その結果、当局の管轄に関して混乱が生じ、労働紛争の解決に遅延が生じる可能性があるとしています。
Quan Nguyen氏は、不動産分野もまた「開発業者や投資家が、新たなプロセスや更新されたコンプライアンス要件に適応しなければならない」ため、重大な変化を経験することになるだろうと付け加えています。
裁判制度の改革
進行中の制度改革の一環として、県級の裁判所の廃止が進められており、これはベトナムの司法制度における根本的な変革を意味します。
「この変革によって生じる可能性のある主な影響の一つが、上級裁判所での審理期間の長期化です」とMassmann氏は指摘します。また同氏は、「すでに県の裁判所で扱われている事件も、他の(上級裁判所や専門裁判所)に移管される可能性があります」と言います。
ALV Lawyersのマネージング・パートナーであるDuong Quoc Thanh氏は、「公式文書 第52号TANDTC-KHTCによると、第一審裁判所は、解決すべき事件数、隣接し利便性の高い管轄区域を持つ県級の裁判所の統合、さらに各地域の経済的特徴、地理的な位置、人口密度、交通インフラ、文化的側面などの基準に基づいて組織されます」と語ります。
Thanh氏は、現在の県級の裁判所は「外国的要素」を含まない事件に限り、第一審を行う管轄権を有していると説明します。これらの裁判所が第一審裁判所へと再編されることで、新たに設立される裁判所は、従来の県級の裁判所と同じ機能と管轄権を維持することになります。
「この再配分により、少なくとも短期的には省級での事件数が大幅に増加し、遅延や滞留が発生する可能性が高い」とLe氏は述べています。
また、これは特に中小企業にとって、「自社の近くにある県級の裁判所で紛争を解決できるという利便性」を失うことを意味し、「それにより移動や宿泊、省都での法的代理人の手配などに追加コストが発生することになります」と同氏は語っています。
ADR(代替紛争解決)の台頭
裁判制度の課題を踏まえ、Le氏は代替紛争解決手段の利用が急増すると予測しています。「商事仲裁や調停などの代替紛争解決手段の利用は今後、大幅に増加する可能性が高いでしょう」と同氏は言います。
「公的裁判制度の再編に伴って、仲裁はこれまで以上に重要な役割を担い、司法の負担軽減につながることが期待されます」
Le氏は、「地元の県の裁判所が廃止されることにより不便を感じている中小企業は、紛争の迅速に解決するためにも、契約書に仲裁条項を積極的に盛り込むことを検討すべき」と助言しています。
新しい常態
ベトナムで事業を展開している、または進出を検討している企業に対して、法務専門家は移行期の対応について実用的なガイダンスを提供しています。
現在事業を展開している企業:Le氏によれば、企業は社内の法務チームやコンサルタントに公式発表を綿密に監視させることで、法改正について常に把握しておくべきだと助言しています。また、社内文書の見直しや調整の必要性も強調されています。既存の契約や合意についても、再編に伴う必要な修正を反映して更新すべきです。
Massmann氏は、想定される遅延を回避するために、「再構築の進捗を密接にフォローし、プロセスが遅れた場合には、権限のある他の当局からの支援を受けてプロセスを加速させること」を企業に推奨しています。
Le氏は、管轄や権限が不明確な場合には、詳細な記録を残して、上位当局に対して書面で明確な説明を求めることを勧めています。
投資を検討している企業:ベトナムへの進出を検討している企業に対して、専門家は現状の不確実性にもかかわらず、概ね楽観的な見方を示しています。
Duane MorrisのMassmann氏は「ベトナム国内の企業には、顧問と密に相談し、現在の業務を継続することを助言しています。また、ベトナムへの投資を検討している場合は、できるだけ早く実行することをお勧めします。私は今でもベトナムがチャンスにあふれた楽園だと信じています」と語っています。
しかしVenture North LawのVu氏は、特定の投資については、より慎重な姿勢を勧めています。「多数の許認可や政府の決定を要するプロジェクトの設立を検討している方は、再編が完了するまで最終決定を待つことをご検討ください」と言います。
一方、Quan Nguyen氏は、再編について「官僚主義の削減と透明性の向上に注力する市場におけるチャンス」と捉えつつ、「詳細なデューデリジェンスを行い、有能な弁護士と連携することの重要性」を指摘しています。
今後の展望
ベトナムが大胆な再編を進める中、今後の道のりには間違いなく課題とチャンスが待ち受けています。政府機関の合理化に対する同国の取り組みは、効率性と経済成長の向上を目指す戦略的なビジョンを示しています。
VILAFのNgoc Anh氏は、「現在、すべての政府当局において政策が真剣に検討されており、この第2四半期中に憲法を含む関連法令に盛り込まれ、数カ月以内に完了する見込みです」と述べています。
Quan Nguyen氏は「企業は、行政システムの合理化による変化に対応する必要があります。当初は煩雑に感じられるかもしれませんが、長期的には、こうした変化に適応することで、企業にとって利益になることが期待されています」と指摘しています。
Phieu氏は、ベトナムの改革の歩みは注目に値すると振り返ります。「ベトナムは1986年に包括的な改革(ドイモイ)を開始しました」。今回の再編は、その長く続く歴史の中で最も野心的な瞬間になるかもしれません。
Massmann氏は「この再編はベトナムの企業にとって、コンプライアンス関連のリスクをもたらす可能性はあるものの、再編の最終的な成果である有能な当局による効果的かつ効率的な運営が実現されることで、再編後はこれまでにないほど投資に適した環境が整うことになるでしょう」と結論付けています。
この変革期に対応する企業にとって、最新の情報を収集し、専門家に助言を求め、柔軟な姿勢を維持することが、目覚めつつあるベトナム経済で成功するための鍵となるでしょう。

























