2023年に経済産業省が発表した敵対的買収ガイドラインの公表を受け、日本のM&A実務家の間で最近注目を集めた買収提案が2つあります。それは、Alimentation Couche-Tard(ACT)によるセブン&アイ・ホールディングスへの買収提案と、ニデックによる牧野フライス製作所への公開買付けです。本稿では、後者のケースにおける牧野フライス製作所の買収防衛策に関する最近の裁判所の判断に焦点を当てます。なお、ACTは2025年7月16日付のリリースで「セブン&アイによる建設的な対応がなかった」として、提案を撤回しました。

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2024年12月、NIDECは事前協議なしに2025年4月初旬から牧野フライス製作所に対する公開買付けを実施する意向を発表しました(両社とも東京証券取引所プライム市場に上場)。発表後、両社は協議を行い、牧野は「ホワイトナイト」の可能性を探るため、公開買付け開始の延期を要請しましたが、ニデックは当初の予定通り公開買付けを実施しました。
これに対し、牧野は買収防衛策を発表しました。主な内容は、ニデックが公開買付けの開始を約1ヶ月延期(または買付期間の延長)しない場合、かつ6月に予定されている定時株主総会で株主が本計画を承認した場合、株主に新株予約権を割り当てるというものでした。ニデックおよびその関係者はこれらの権利を行使できなくなります。
牧野フライス製作所の発表を受け、ニデックは東京地方裁判所に対し本計画の執行停止の仮処分を申請しましたが、裁判所は申請を却下しました。裁判所は、牧野がニデックの公開買付け開始を株主が計画を検討する機会を得るまで延期するよう提案したこと、また計画が確定的なものではなく、株主が承認しなければ放棄されるものであることを重視したようです。
ニデックは5月7日の判断に対して控訴せず、5月9日に公開買付けを撤回しました。控訴しても裁判所の判断が変わる保証がなかったため、ニデックは牧野フライス製作所のような工作機械メーカーの買収機会の模索を優先したものとみられます。

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日本の公開買付け制度では、公開買付けの撤回事由は限定されていますが、その一つに対象会社による株式または新株予約権の無償割当てがあります。ニデックはこの事由に基づき公開買付けを撤回しました。その結果、これまで買収防衛策を放棄する傾向にあった上場企業が、敵対的買収に直面した際に方針を転換する可能性があります。また、買収会社側もこの撤回事由を利用するケースが増えるかもしれません。
上場会社の株主に対する新株予約権の割当ては、取締役会の承認があれば株主総会の承認なしに実施可能です。買収防衛策も取締役会決議のみで進めることができます。しかし、買収者が新株予約権を行使できないという差別的条件を含む発行は、単純な株主割当てとは言えません。
2007年、最高裁判所はこのような差別的条件が一定程度認められるとの判断を示しました。新株予約権は株式ではなく債権的権利であるため、一定の差別は許容されるという見解もあります。しかし、買収防衛の文脈では、特定の株主に対する実質的な差別となるため、単純な株主割当てで進められるか疑問が残ります。
牧野フライス製作所のケースでは、牧野フライス製作所がニデックに対し、買収防衛策の賛否を株主の意思で確認するために延期を要請し、明確な防衛策を導入しなかった点が重視されたようです。それでも、新株予約権の株主割当てにおける買収者の差別的取扱いは、関係する全てのステークホルダーの利益のバランスという問題を含み、特に日本ではこのような裁判例が少ないことから、裁判所ではなく国会で議論すべき政策課題とも言えます。
ニデックの買収提案を防衛した後、牧野フライス製作所はプライベート・エクイティ・ファンドによる買収提案と連携し、株式の非公開化を決定しました。2025年6月末までに、牧野フライス製作所は公開買付け関連費用として約23億円(1560万米ドル)を計上しており、連結売上高約2340億円の牧野にとっては大きな支出です(ニデックの売上高の約10分の1)。今後の敵対的買収提案でも、対象会社に同様のコストが発生する可能性があります。
川村彰志は渥美坂井法律事務所のシニアパートナー、CHRISTOPHER HODGENSは同事務所のパートナーです。
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