フィリピン証券取引所(PSE)のゼネラル・カウンセルであるVeronica Del Rosario氏は、自身の記録的な実績をはるかに超える大きな志を抱いています。それは、取引所を主要な金融ハブへと変革することです。
Del Rosario氏は、Ocampo & Manaloの元弁護士であり、1992年にマニラ証券取引所とマカティ証券取引所の合併によって設立されたPSEの成長において重要な役割を果たしてきました。10年にわたる努力の末、2023年末に、Philippine Dealing and Exchange CorpおよびPhilippine Depository and Trust Corpの持株会社であるPhilippine Dealing System Holdings Corp(PDS)の完全買収について、規制当局の承認を得ることに成功しました。
PSEは規制当局であると同時に被規制主体でもあることから、Del Rosario氏は取引所の法的守護者として、また投資家に対する門番としての役割も担っています。一切の妥協なしに、確実に適格な企業のみが上場できるよう努めつつ、より多くの企業の上場を呼び込むべく尽力しています。
Asia Business Law Journalの取材に対して、同氏はいかにして、フィリピン唯一の証券取引所で初の女性かつ最長在任のゼネラル・カウンセルとなる道を歩んできたのか、また経済学と法学のバックグラウンドがいかにキャリアパスを形成してきたのかを語りました。
Asia Business Law Journal(以下、ABLJ):2010年に組織内弁護士としてPSEに入所された動機と、どのように法曹キャリアをスタートされたのかについてお聞かせください。
Veronica Del Rosario(以下、Del Rosario):私は2005年にフィリピン大学法学部を卒業し、2006年にフィリピンの弁護士資格を取得しました。その前に同大学で経済学の学士号も取得しています。キャリアのスタートはフィリピンの法律事務所Ocampo & Manaloで、主に企業法務を担当し、実務経験を積みました。その後、ニューヨーク州弁護士試験を受けて、短期間ですがニューヨークの法律事務所でも勤務しました。
その後、フィリピンに戻り、オーロラ経済特区庁で法務部長として勤務し、同時に総務・一般サービス部門のマネジャーも務めました。これらの経験を経て、PSEに入所しました。
2010年にPSEの法務担当官として勤務を始めた頃は、当時のロースクールのカリキュラムに資本市場が含まれていなかったことから、資本市場に関する知識が限られていたことは確かです。しかし、特に業界の専門家が示す洞察に満ちた議論や市場予測に触れるうちに、次第に金融市場に強い関心を抱くようになりました。
フィリピンではPSEは国内で唯一の証券取引所であり、しばしば国の経済状況を示す指標と見なされます。この業界で働くことにより、経済学のバックグラウンドと法学の学位の両方を有意義な形で活かすことができました。
ABLJ: 経済特区庁への転職は、法律事務所勤務から企業内弁護士への転身でした。そのきっかけと、転職の過程について教えてください。
Del Rosario: 法律事務所で約1年半勤務した後、私は企業内の環境で働く方が自分に合っており、他の業務分野よりも企業法務に興味があると感じました。業務量自体は似ていますが、民間から企業内弁護士に移行するには考え方の転換が求められます。
法律事務所では、クライアントに法的助言を提供しますが、その法的枠組みをどのように事業に適用するかはクライアント次第です。しかし、企業内弁護士であれば、会社の戦略的パートナーとしての役割を担います。法的知識に加え、会社の事業内容や属する業界を深く理解し、ビジネス感覚と戦略的スキルを磨く必要があります。
ABLJ: ゼネラル・カウンセル兼コンプライアンス・オフィサーとしての主な役割と責任、そして助言対象について教えてください。
Del Rosario: ゼネラル・カウンセルとして、私はPSEの取締役会、経営陣、各事業部門に助言を行っています。契約、税務、雇用問題、法的リスク管理といった一般的な企業内法務の業務に加え、PSEが新たに開始するプロジェクト、商品、サービスに関する規制当局の承認取得にも関与しています。また、新規上場、取引、決済に関するルールの策定にも携わっています。
PSEは自主規制機関として、証券取引委員会(SEC)の承認を得て独自のルールを制定し、上場企業や証券会社の遵守を監督することができます。法務チームは新商品やサービスのルールブックを作成し、発行体規制部門や事業開発チームと連携しています。
コンプライアンス・オフィサーとしては、コンプライアンス・チームとともに、PSEが上場企業として、また自主規制機関として、法令や規制を遵守しているかを監視しています。PSEは規制者であると同時に被規制者でもあります。
ABLJ: 現在のあなたの職務であるゼネラル・カウンセルとコンプライアンス・オフィサーには、共通点や違いはありますか。
Del Rosario: 私は2016年にゼネラル・カウンセルに任命され、2020年にコンプライアンス・オフィサーにも就任しました。ゼネラル・カウンセルとコンプライアンス・オフィサーはいずれも、リスク管理の機能を担っています。
ゼネラル・カウンセルとしては、PSEが直面する取引や法的リスクを精査し、問題が発生する前に積極的に管理・防止します。一方、コンプライアンス・オフィサーとしては、法令遵守を確保・監視し、コンプライアンス・リスクを管理します。
共通点はリスク管理にあります。双方の職務には共通点はありますが、その一方で、特に考え方やアプローチには重要な相違点もあります。コンプライアンス・オフィサーは非常に保守的で、すべての法規制を厳格に遵守することを重視する傾向にあります。これに対し、ゼネラル・カウンセルはより実務的な視点から、特定の管理措置がなぜ合理的か、必要かを検討する傾向にあります。私の役割は、これらの視点のバランスを取ることです。
ABLJ: PSE初の女性かつ最長在任のゼネラル・カウンセルとなるまで、どのようにキャリアを築いてこられたのか教えてください。
Del Rosario: 私は幸運にも、PSEでのキャリアの初期に会社の主要プロジェクトを任される機会に恵まれました。たとえば、証券保管機関の設立に際し、市場運営部門および当社の子会社であるSecurities Clearing Corporation of the Philippinesと協働する業務を担当しました。
また、取引規則の改訂にも携わり、その過程で業務の技術的側面についての理解をより深めることができました。さらに一時期、取引所の市場データ事業部門の責任者も務めました。これらはいずれも初期にマネジメントした重要なプロジェクトです。
2015年に当時のゼネラル・カウンセルが退任した際、私は暫定責任者に任命され、翌年に正式にゼネラル・カウンセルに就任しました。当初、責任と説明責任が大幅に増大したためにかなり不安を感じ、自分にはその役職はまだふさわしくないのではとも考えました。
ゼネラル・カウンセルとして私は法務チームの行動に責任を負い、取締役会の会議中、取締役会からの質問に対応するようになりました。この役割では、法務チームを統括することに加え、予算編成や人事関連事項など管理業務を監督する仕事も求められます。
最初は気の重くなる思いでしたが、事業計画に関する議論により深く関与し、会社の戦略目標についての理解を深め、これらすべてにおいて法務チームの役割がいかに重要であるかを認識するにつれて、自分の職務の価値をより理解するようになりました。
ABLJ: 過去9年間のゼネラル・カウンセルとしての、また過去4〜5年間のコンプライアンス・オフィサーとしてのご経験の中で、法的および規制の観点から最大の成果と課題は何でしたか?
Del Rosario: 最大の課題は規制面にありました。株式市場の運営者として、PSEは市場の需要に応じた規制の枠組みを維持しなければなりません。たとえば2019年にパンデミックが発生した際、電子ウォレットの利用が急拡大しました。私たちは、証券取引に電子ウォレットを利用できるようにするため、SECおよび電子ウォレット事業者と緊密に連携し、適切な規制環境を迅速に整備する必要がありました。
同様に、株式市場の変動が激しくなったことにより、空売りなどのヘッジ戦略に対する需要も高まりました。これに対応するための規制枠組みも、迅速に構築しなければなりませんでした。また投資詐欺や不正行為も深刻な課題となっています。メッセージアプリ、ソーシャルメディア、ディープフェイクAIなど、詐欺行為を助長する多様な技術や各種プラットフォームの存在により、これらの詐欺はますます横行し、発見や防止が難しくなっています。
コンプライアンスの面では、規制は絶えず進化しています。適用されるすべての規制を確実に把握し、関連する事業部門に周知するために、主要な規制の発行動向を常に追う必要があります。これを怠ればコンプライアンス上のリスクにさらされる危険が生じます。
もう一つの課題は、資金調達を促進するための適切な規制環境を確実に整備することです。規制当局として、私たちは規制の執行に努める一方、事業としてより多くの企業の上場を促進したいと考えています。これらの、しばしば相反する利益のバランスを取ることが不可欠です。
成果の面では、最大のものの一つが、国の債券取引所および証券保管機関の親会社であるPDS Holdings Corporationの支配権を最近、獲得したことでした。私たちは2013年から同社の買収を試みていましたが、規制当局の承認が得られず、取引を完了することができませんでした。
最終的に2023年末に承認を得て、スーパーマジョリティに相当する株式を取得しました。私はこの10年にわたるプロジェクトで規制当局の承認を得たチームの一員として、契約交渉および締結を監督しました。まだ100%の株式を取得したわけではありませんが、これは債券取引所と株式取引所の統合という重要な節目となりました。
ABLJ: 日常の業務であなたとチームは、どのような法務およびコンプライアンス関連の案件を、最も多く扱っていますか? また、それらにどのように対応していますか?
Del Rosario: 日常業務としては、契約書の審査や、社内外のステークホルダーからの法務照会への対応を行っています。コンプライアンス面では、すべての関連法令や規制を遵守し、必要な報告書の提出を徹底しています。コンプライアンス登録簿を管理しており、新しい規制が発行するたびに随時更新しています。
ABLJ: どのような方法・方向性で、法務およびコンプライアンス・チームを発展させていますか?
Del Rosario: チームの規模については、たとえば買収後の統合などで拡張する必要がない限り、現状を維持する予定です。また、効率性を高めるために、私たちは契約審査や文書管理などのプロセスをいっそうデジタル化することを目指しています。技術の進歩を最大限活用し、業務プロセスの隅々までデジタル化していく方針です。
ABLJ: 規制当局として、PSEはどのように不適格な企業の上場を確実に防ぎ、どのように規制の執行と事業成長とのバランスを取っていますか?
Del Rosario: 私たちが最優先で考慮するのは投資家保護であり、市場に上場する企業が上場にふさわしいものであることを確実にすることです。これについて妥協の余地はありません。
投資家に不利益を与えない要件であれば、後日にコンプライアンスを認めたり、代替的なの方法でのコンプライアンスを認めたりする場合もありますが、それはSECの承認を得た場合に限られます。SECの承認なしに規制の実施を停止したり変更したりすることはあり得ません。
ABLJ: 最長在任のゼネラル・カウンセルとしてまもなく10年ですが、続けてこられた理由は何ですか?
Del Rosario: 職場の環境、仕事への情熱、共に働く人々、すべてのおかげで、この役職を長く続けることができました。私の目標は自分自身のためではなく、PSEを現在の4〜5倍の規模に成長させ、シンガポールや香港のような主要な金融ハブにすることです。その目標を実現する一端を担い、貢献したいと願っています。
ABLJ: 仕事以外では、どのようなことを最も楽しまれていますか?
Del Rosario: 仕事以外では、テレビを見たり家族や友人と旅行したりしてリラックスすることを楽しんでいます。また、国内外の政治動向を追うことにも強い関心があります。これらの政治的動向は市場に影響を与える可能性があるため、広くマクロ経済の状況を把握する一環として注視しています。























