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Investment-in-Indonesia--Unlocking-opportunities

インドネシアへの投資:チャンスを解き放つ

By Denny RahmansyahとVelicia Khoswan、SSEK Law Firm
←索引に戻る 日本とインドネシアは、長年にわたって経済関係を維持してきました。2023年だけでも、日本からインドネシアへの投資総額は46億3000万米ドルに達し、日本は同国第4位の外国投資国となっています。過去10年間において、日本の投資家が特に関心を寄せてきたのは、自動車・運輸部門、公益事業(電気、水道、ガス)、不動産です。 インドネシアは、事業拡大を目指す日本の投資家にとって魅力的な投資先です。人口が多く、経済が拡大し続けているこの国の消費者市場は、さまざまな産業にとって多大な成長の可能性を秘めています。 鉱物、石炭、天然ガスなどの豊富な天然資源は、投資家に安定したサプライチェーンを提供します。地理的にも、インドネシアは戦略的に優れた位置にあり、日本にも比較的近いことから、東南アジアをはじめ世界的な市場拡大を目指す日本の投資家にとって理想的な国です。 政策イニシアティブ 近年、インドネシア政府は、さまざまな政策イニシアティブや規制改革を通して、外国投資の参入促進を重視してきました。 現在の投資政策は、革新的でテクノロジーをベースにした経済、特に持続可能なグリーンエコノミーやブルーエコノミーの発展の強化を主な目的にしています。グリーンエコノミーを促進するための潜在的な投資分野には、インフラストラクチャー、バッテリー式電気自動車産業、新エネルギー・再生可能エネルギー分野などがあります。ブルーエコノミーは、漁業、海洋・沿岸資源、サンゴ礁保全プロジェクトへの潜在的投資によって推進されます。 持続可能な経済の推進に加え、政府は経済構造を第一次産業ベースから、付加価値ベース(川下)へと転換することに注力しています。これは特定の投資部門を優先することで達成されつつあり、それには、輸出志向で労働集約的な産業、再生可能エネルギー、インフラストラクチャー、デジタル経済、鉱業における付加価値活動などがあります。 上記の政策イニシアティブを促進し、外国投資の参入を容易にするため、政府は「雇用創出に関する2020年法律 第11号」を発布しましたが、この法律は取り消されて、「雇用創出に関する2022年法律 第2号に代わる政府規則」によって置き換えられました。さらに「雇用創出に関する2022年法律 第2号に代わる政府規則」は、「雇用創出に関する2023年法律 第6号」で法律(雇用創出法)として規定されています。 雇用創出法は、経済転換を通して国の競争力と投資の魅力を高めるとともに、主にビジネスのしやすさの改善によって、国の開発プロセスを加速させることを目的としています。総じて、同法は投資関連規制の合理化や、事業許可手続の簡素化によって、投資規制を改革しています。 規制改革は事業許可システムのデジタル化に支えられており、これによって効率が大幅に改善されました。オンライン・シングル・サブミッション(OSS)システムの導入によって、事業許可に関する行政手続が簡素化され、投資家や事業関係者に大きな恩恵がもたらされたのです。 外国投資のしやすさを向上させるための政府の努力には、外国人投資家に対するさまざまな優遇措置の提供も含まれています。これにはタックスホリデー(免税措置)や税額控除、特定分野に対する輸入関税免除制度などがあります。 リスク軽減 投資先としてインドネシアは魅力的ではありますが、日本の投資家が市場に参入する際の潜在的リスクを軽減するためには、インドネシアの法律と規制の枠組を充分に理解しておく必要があります。 主な法的検討事項には、インドネシアでの拠点設立手続、最低資本金要件、外国投資の制限、必要な事業許可などがあります。 日本の投資家を含む外国人投資家は、通常、インドネシアで事業展開を行う法人として、外国資本株式会社(Perseroan Terbatas Penanaman Modal Asing、 略称PT PMA)を設立します。 インドネシアの事業活動は、直近では2020年に発行された「インドネシア標準産業分類」(Klasifikasi Baku Lapangan Usaha Indonesia、 略称KBLI)というカタログにある、一連の5桁の番号で分類されます。 PT PMAを設立する前に、まずそのPT PMAが意図する事業活動に適用されるKBLIを調べることが大切です。適用される外国投資制限、最低資本金、事業許可要件は、KBLIの分類を参照して規定されるので、想定する事業活動に適切なKBLI分類を見極めることは非常に重要です。 PT PMAに適用される外国人持株制限を含む外国投資の制限は、「2021年大統領規則第49号」(ポジティブリスト)による改正を経た、「投資事業分野に関する2021年大統領規則第10号」に規定されています。 ポジティブリストは、外国投資に開放されている事業活動と、制限されている事業活動のリストです。そのような制限には、該当する事業活動に対する外国人個人および外国法人による投資の完全禁止、持株比率の上限、または現地の協同組合(koperasi)や零細・中小企業との協力の義務などがあります。 外国人による所有権の制限に加えて、PT PMAのKBLI番号を確定しておくことも、PT PMAの必要かつ適切な資本金を決定する上で極めて重要です。 一般的なルールとしては、一部セクターの例外を除き、PT PMAの最低投資額は、土地と建物を除き、KBLI番号あたり100億インドネシア・ルピア(64万米ドル)です。実務上、この最低投資額は、会社の授権資本に相当するものとして反映され、広く認識されていますが、それは実態として会社に投入された資金ではなく、払込済み資本(実際に投資された資本)の上限額です。上記にかかわらず、PT PMAは最低100億インドネシア・ルピアの払込済み資本を持つ必要があります。 PT PMAを設立した後は、インドネシアで事業活動を行うためのライセンスを取得しなくてはなりません。すべてのライセンス取得はリスク・ベースで行われ、各事業活動はその活動のリスク度合いに基づいて分類されます。 低リスクの事業活動であれば、事業者識別番号(Nomor Induk Berusaha、略称NIB)を取得するだけで済みます。リスクの高い事業活動には、その活動の種類や関連するリスクに応じて、NIIBとは別に、追加の事業免許および/または認証が必要となります。 上記の一般的な要件や制限に加えて、一部の業種では、その業種特有の要件や制限があり、投資家はそれらを考慮しなくてはなりません。 例えば、インドネシアは外国人株主が株式を保有している鉱業・石炭採掘会社に対して株式売却義務を課しており、同社の外国人株主は、一定期間のうちに徐々に国内株主に株式を売却しなくてはなりません。 また別の例としては、建設サービス会社の株主に課される要件があります。それらの会社の株主は、(外国人株主の場合は)本国において建設サービス事業体でなくてはならず、または(国内株主の場合は)国内の建設鉱山サービス会社でなくてはなりません。 インドネシアに投資する際に、日本の投資家は法制面でさまざまなリスクに直面する可能性があり、その軽減策が必要となっています。重大なリスクは、投資や事業運営に影響を及ぼす可能性のある規制変更です。 そうした変更は予測不可能な場合があり、政治的・地政学的な不安定さといった別の要因と重なれば、なおさらのことです。規制変更は投資家の事業計画を混乱させる可能性があり、また、新たな規制を遵守するプロセスには時間もコストもかかることがあります。 暗黙のルール もう一つのリスクは、インドネシア当局によって実際に行使されることの多い不文律(暗黙のルール)に起因する、法的な不確実性です。法律が明確でなく、施行規則の発布によって解釈を深める必要が生じることは、しばしば起こります。 しかし、施行規則がまだ発布されていない場合、法律の解釈は関係当局の不文律により行われます。不文律はまた、既存の法律や規制に対する解釈の違いにつながり、結果として、地域や部門によってその適用に一貫性がなくなることがあります。 さらに、新しく制定された法律や規制の実際の施行状況が、その法律や規制に書かれた条文とは乖離していることがあり、それは多くの場合、制定にあたって適切な社会化が行われなかったことが原因です。 こうしたすべてのことが、インドネシアで事業を行おうとする投資家にとって、混乱と不確実性を招きかねません。法律や規制の実施に関する透明で標準化された手続の欠如も、外国投資の妨げになる可能性があります。潜在的な投資家が、将来遭遇するかもしれないリスクを正確に評価することができないからです。 要点 回避可能な損失をもたらす可能性のある将来的リスクに対抗するため、日本の投資家の皆様には、徹底的なデューデリジェンスと包括的なリスク評価を行うことをお勧めします。そのためには、投資プロセス全体を通して投資家を導き、進化する規制要件の遵守を確保し、潜在的な規制変更を予測することができる、現地の法律顧問の法的助言を求めることです。 SSEK Law Firm Mayapada Tower I, 14th Floor Jl. Jendral Sudirman...
IP-protection-and-dispute-management-in-Russia-L

ロシアにおける知的財産保護と紛争処理

By Vladimir BiriulinとSergey Medvedev、Gorodissky & Partners
←索引に戻る ロシアの知的財産法の歴史は1992年に始まります。当時、ロシアはドイツの法制度を参考にして知的財産保護法案を作成しました。つまり、この法律は制定当初から確固たるものでした。経済面と政治面のさまざまな関係が急速に進展していたため、知的財産法は経済環境の変化に応じて毎年のように改正されてきました。 中でも最大の改正が実施されたのは2008年のことです。すべての知的財産法がロシア連邦民法第4法典に統合され、複数の章として含まれるようになりました。これに伴い、知的財産法を構成する法令すべてが大幅に見直されました。連邦民法第4法典に統合される前には、知的財産法には328の条項がありましたが、その半数超、正確には169の条項が改正または補完されました。さらに7つの条項が追加されました。 2008年以来、知的財産法は常に立法府の関心の的でした。2008年から2024年までの期間に法令は37回改正され、重要なものも、そうでないものも含め、さまざまな変更が加えられました。最新の改正は今年2月10日に施行されたもので、民法第1248条の改正により、裁判所における原告と、特許庁(Rospatent)の特許紛争審判室(Chamber of Patent Disputes)における上訴人の、勝訴後の賠償請求権の均衡が図られるようになりました。 現在、連邦民法第4法典には、著作権および関連する権利、発明、意匠、植物品種、動物品種に関する特許、原産地呼称、地理的表示についての規定が含まれています。 出願に関する統計は2022年分までしか入手できませんが、2022年に最も出願件数が多かったのは米国で、発明特許出願が1556件、商標出願が2667件でした。中国は特許出願が1252件、商標出願が3998件、日本は特許出願が605件、商標出願が648件でした。 ロシアの特許庁は出願人に協力的で、特許や商標の登録は1年未満で許可されます。ロシアにおける特許出願件数が例年に比べて少ないため、他国で公開された特許出願書類に記載されている、ロシアでは保護されていない発明をロシア企業が使用するという事態が生じています。 不当な商標出願 外国の知的財産権所有者が、ロシアでどの程度、知的財産権を執行できるのかという点に懸念を持っていることは少なくありません。報道などで示唆されていることとは 反対に、執行状況は極めて安定しています。ロシア市場から撤退した企業の商標と同一または類似の商標を登録しようとするロシアの「商標トロール」の企ては、すべて失敗に終わっています。外国企業の懸念に対処するため、ロシア特許庁は声明を発表し、商標登録の要件に変更はなく、商標トロールの企てはすべて阻止されると明言しました。 ユーラシア特許 ロシアは、8カ国が加盟するユーラシア特許条約の加盟国の一つです。加盟国は、アルメニア、アゼルバイジャン、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、ロシア、タジキスタン、トルクメニスタンです。ユーラシア特許庁は、ロシア語による特許および意匠出願を受理し、翻訳を要することなく全加盟国で直ちに有効となる特許を付与します。これは、出願者にとって執行と収益性の点で有利に働きます。 並行輸入 ロシアでは国内の権利の消尽が認められています。ロシア当局が 「特別軍事作戦」と呼ぶ軍事行動の開始後、外国企業の一部が市場から撤退し、その結果、特定の製品が不足する事態になりました。これを受け、産業貿易省は並行輸入が許可される製品のリストを公表しました。このリストには市場に不足感がある製品が掲載され、製品の追加や除外のために定期的に見直しが実施されます。 時には、外国企業がまだロシアから撤退していなかったり、製品を市場に供給していたりする場合でも、誤って製品がリストに掲載されることがあります。その場合、知的財産権所有者の要請があれば、リストは速やかに修正されます。 リストに掲載されていない製品がロシアに持ち込まれた場合、知的財産権所有者に対して、代理人を通じてその製品がロシアで禁止されるかどうかが通知されます。大半の事例では、輸入者は製品を再輸出しなければなりません。製品が安全上の要件に適合しない場合は、廃棄を命じられます。 ライセンス 当事者間で合意された範囲において、知的財産についてライセンス契約を締結することができます。ライセンス契約は文書で作成し、両当事者が署名する必要があります。ライセンス契約については法的確認(Legal confirmation)は不要ですが、特許と商標に関しては特許庁への登録が義務付けられています。登録知的財産に関して登録されていないライセンスは、(民法第1232条第6項に従い)許諾されていないとみな されます。そのため、たとえば、ライセンスが未登録である場合は、それが排他的ライセンスであろうと非排他的ライセンスであろうと、未登録のライセンシーにサブライセンス権を付与することはできません。また、排他的ライセンスが未登録である場合、未登録の排他的ライセンシーには第三者(権利侵害者)に対する執行権は認められません。ただし、そのような場合の執行権は法律(民法1254条)に基づき行使することができます。 ライセンス契約に含めなければならない重要条項には、以下のようなものがあります。 ライセンス契約の主題(すなわち、該当する場合の、登録番号および/または許諾される知的財産権の説明) ライセンス対象の製品または役務の詳細(商標ライセンスの場合のみ) ライセンスの種類(すなわち、単独、排他的、非排他的のいずれか) 使用分野または許可された使用分野 ライセンスが認められる領域(特に指定がない場合はロシア全土) ライセンス期間(特に指定がない場合は5年間) その他、ライセンス契約に規定されている制限や条項 ロシアでは契約自由の原則が適用されます。したがって、当事者は一般的に、関連法規に反しない限り、ライセンス契約においていかなる条件についても合意することができます。 執行 裁判所:ロシアでは、知的財産権に関する出願人が取得した権利の行使を支援するため、さまざまな手段が提供されています。ロシアの全地域で裁判が可能になるよう、約100カ所の商事裁判所が設置されています。これに加えて、知的財産を専門に扱う裁判所も1カ所あります。一般的に、知的財産権侵害の場合、原告は地方裁判所に訴訟を提起します。判決に不服がある場合は知的財産裁判所に上訴することができ、さらに最高裁判所に上訴することができます。 例外的に、憲法裁判所が事案について意見を述べる場合もあります。商事裁判所は法律に基づいて自由に判決を下すことができます。裁判実務を合理化するため、最高裁判所は時折、商事裁判所の判決を調査し、裁判所の判決をまとめた報告書を発行しています。この報告書は1年に1度か2度発行され、他のすべての裁判所の指針になります。 特に述べておきたいのは、裁判所は政治的配慮に縛られることなく、厳格に法律に基づいて判決を下すということです。一例として、Yokumi Tradingというロシア企業が「Kioshi」というブランドについて商標を出願した事案があります(出願番号2020759150)。特許庁は、出願された商標がKashiという米国企業が所有する「KASHI」という商標およびその他の商標に類似しているとして、登録を認めませんでした。出願人は知的財産裁判所に上訴しようとしましたが、2023年3月24日付で判決が下され、登録は認められませんでした。 特許庁傘下の特許紛争審判室は準司法機関です。そこでは知的財産に関するさまざまな申し立てが調査されます。数多くの事例が調査されますが、以下に2つの事例を挙げます。1例目は、日本企業のキヤノンが「技術的カートリッジ」に関する特許第2754838号を取得し、ロシア企業のTopprintがこれに異議を申し立てた事例です。特許は、多少変更されたものの、有効性を認められました。 2例目は、ロシア企業のSojuz-Obuvがロゴについて商標登録第890294号を取得したことに、日本企業のアシックスが異議を申し立てた事例です。Sojuz-Obuvのロゴは、アシックスが先に登録した商標登録第71296号と類似していました。Sojuz-Obuvの商標登録は2022年12月6日付の決定において、すべて取り消されました。 税関:上述のとおり、ロシアでは国内の権利の消尽が認められています。ロシアの税関は知的財産所有者の権利の保護に努めており、商標所有者が商標を登録できる知的財産登録簿を備えています。このデータベースはロシア全土のすべての検問所で利用でき、不審な製品が発見された場合には、税関は直ちに権限のある代理人を通じて特許保有者に侵害の疑いを通知します。 知的財産所有者が侵害を確認した場合、模倣品は破棄され、侵害者は行政裁判手続きに従い罰金を科されます。知的財産所有者は、民事訴訟を提起することもできます。その場合、はるかに軽い立証責任を負担することで損害賠償や補償金を請求できる可能性があります。 他にも、独占禁止当局が知的財産権の執行を行っています。不正競争行為があった場合、知的財産所有者は管轄当局に申し立てを行うことができます。 GORODISSKY & PARTNERS B.Spasskaya Str., 25, Bldg. 3 Moscow 129090, Russia 電話番号: +7 495 937-6116 ファックス番号: +7 495 937-6104 Eメー: BiriulinV@gorodissky.com www.gorodissky.com ←索引に戻る
Anti-bribery-rules-in-Thailand--A-simple-guide-L

タイの贈収賄防止規則:簡潔ガイド

By Sakchai Limsiripothong、Pralakorn SiwawejとKorakod Jittimaporn、Weerawong、Chinnavat & Partners Ltd
←索引に戻る タイへの進出を視野に入れている日本企業にとって、同国の贈収賄防止法を明確に理解することは不可欠です。ビジネス上の振る舞いとして許されるものと、タイの法律で贈収賄に当たるものとの間には微妙な境界線があり、慎重な判断が求められます。そうした理解は、タイでの事業成功を目指す日本企業にとって極めて重要です。 現地の企業倫理に沿いつつ、これらの法律を遵守した事業運営を確保するには、単なる法令遵守にとどまらず、現地のパートナー、顧客、規制当局との信頼と尊敬を育むことが必要です。 本稿は、タイの贈収賄防止規制の主要な側面を日本企業に知っていただくことを目的として、賄賂に対する法的スタンス、民間部門と公的部門におけるその適用可能性、並びにビジネス上の接待として許容されるかどうかの区別について詳述し、リスク軽減とコンプライアンスに関するガイダンスを提供します。 何が賄賂に当たるのか? タイで一般的に賄賂と考えられるのは、政府当局者や立法府の職員、司法関係者を含むさまざまな役人に対して、その職務に反する行動を起こさせることを意図して、あらゆる形態の利益を申し出たり、約束したりすることです。タイ刑法はこのような広範な定義を定めており、多種多様な形態の汚職を対象とし、その形態よりもむしろ行為の背後にある意図を重要視しています。例えば、有利な判決を得るために裁判官に金銭を贈ることや、契約承認と引き換えに政府高官に豪華な旅行を約束することが贈賄に当たります。 日本企業にとって、この概念は、地域的な違いはあるにせよ、なじみのある原則として映るかもしれません。日本の法律には、タイの法的枠組みには明確に反映されていない、特定の贈収賄防止規定が含まれています。一例として、日本の会社法では、取締役や監査役に不適切な職務を遂行させるために贈賄することを禁じています。 同様に、日本の金融商品取引法は、金融部門における汚職を対象として、金融商品取引業者の役員や職員を賄賂で買収することを違法と定めています。このような分野別の法律は、贈収賄防止に関するタイの法的スタンスが広範であるのとは対照的であり、両国の汚職への取り組み方の違いを浮き彫りにしています。 民間企業における贈収賄 タイの贈収賄防止法は、公務員に対する贈賄を対象としていますが、そのような行為に民間部門の企業または個人が関与している場合も含まれます。これらの法律は、公務の遂行、放置、遅延など、公務員の行動に不適切な影響を与えるために有価物を提供、贈与、または約束する行為を犯罪としています。 これに加えて、民間部門の企業や個人が、政府機関との契約を獲得する際に不当な利益を得ることを目的として、入札プロセスの結果を変えるために贈収賄に関与したり、入札価格を適正価格より高くまたは低くするよう影響を与えたりすることも違法です。また、民間部門のいかなる企業や個人も、調達や供給管理の責任に関連した贈収賄を扇動、援助、またはそれらに参加することも違法です。これには、関係者に金銭的損害を与えることを目的とした違法な行為や不作為、調達や供給管理の職務の不正な履行または不履行が含まれます。 贈収賄防止法は、民間部門の企業または個人が約束や贈答を要求、受諾、申し出、または交換する状況には対応していませんが、そのような行為はタイ刑法の詐欺罪や横領罪など、他の刑事犯罪に該当する可能性があります。これらの行為が会社に損害を与えた場合でも、そのような行為に関与した個人が、法律の他の規定に基づいて法的責任を問われることがあります。 贈答とビジネス上の接待 タイは、2020年に発行された「国家公務員による資産その他の利益の受領に関する倫理規程、国家汚職防止委員会告示」に基づき、明確なガイドライン(最少閾値)を設定しています。これらのガイドラインは、政府高官に対する贈答品や接待について、どのようなものが許容されると考えられるかを述べています。 家族または慣習に由来する贈答品や利益、特に妥当な価格のものは、通常は許容されます。具体的には、親族以外からの贈与で3000バーツ(82米ドル)未満のものは、いずれの場合でも許容範囲内です。公衆または未指定のグループに対する贈答品や利益は賄賂と見なされませんが、この最少閾値を超える贈答品や利益である場合、受領者はそれを報告し、その妥当性の評価を受けなくてはなりません。 日本企業は、ビジネス上の贈答や接待の価値が、この指定された金銭的閾値を超えないようにすることで、潜在的な法的・倫理的落とし穴を回避する必要があります。 また、贈答品およびビジネス上の接待に関する方針を策定、導入し、そのようなやりとりを文書化しておき、疑問があれば指導を仰ぐようにして透明性を維持することが望ましいでしょう。これらの原則に従うことにより、タイの法律を遵守すると同時に、現地の贈答文化を大切にし、相手を尊重する効果的なビジネス関係を築くことができます。 ファシリテーション・ペイメントに対するスタンス タイの法的枠組みにおいて、「ファシリテーション・ペイメント(円滑化手数料)」、すなわち日常的なサービスを円滑にするために支払われる金額は、贈収賄に分類されることを明示的に免除されているわけではありません。これは公共部門と民間部門の両方の取引に適用されます。 前述のように、特定の基準に合っていれば、一定の贈答品や接待は賄賂とみなされない可能性があることを、上記の最少閾値が示しています。これらの例外的な贈答品や接待が、公務員に職務に反する行動をとらせるほどのものではないことを暗示しているのです。 特筆すべきは、円滑化手数料が公務員にその通常の職務を遂行するよう奨励する目的で支払われた場合、そうした支払を行った者が訴追を受けることは普通はないものの、個々のケースの事実関係によって判断されるということです。 タイの贈収賄防止法における企業と個人の説明責任:罰則および規定 タイの法的枠組みにおいては、企業が贈収賄防止法に違反した場合の罰則が一定の条件下で規定されています。企業は、その目的を達成して利益をもたらすために犯罪を行った場合、刑法、入札法、公共調達法に概説されているとおりに、責任を問われます。 汚職防止法は、企業が、自社のために行動する個人による犯罪を防ぐ適切な内部統制を欠いている場合、その企業が責任を負うと見なし、結果として生じた損害または利益の1倍から2倍の罰金を課すことを明らかにしています。 公共部門における贈収賄の場合、個人(提供者)には最高7年の禁固刑と罰金のリスクがあるのに対し、公務員(受領者)には死刑が科される可能性があります。それとは対照的に、民間部門における贈収賄の罰則は、提供者の場合、禁固刑と入札価格または契約額に応じた罰金などであり、民間取引での受領者については、特別な規定がありません。 貴社のビジネスを守るには:優れた手続きの重要性 贈収賄のリスクから貴社を守るには、社内手続きを導入することです。包括的な贈収賄防止の枠組みは、単なるコンプライアンスの問題にとどまらず、貴社の誠実さ、評判、財務の健全性を守る戦略的な防衛策です。日本企業には、以下の手順をとることをお勧めします。 明確な贈収賄防止方針の策定 タイの法的要件と貴社の価値観の両方を反映した、明確で包括的な贈収賄防止方針を作成することから始めます。この方針は、あらゆる形態の贈収賄の禁止を明白にし、容認される行動と違反した場合の結果について、従業員に明確な説明を提供すべきものです。また、従業員にその内容を理解した上で署名することも義務付けるべきです。 研修プログラムの実施 贈収賄の危険性と倫理的なビジネス慣行の重要性について、あらゆるレベルの従業員を教育します。従業員がタイで遭遇する可能性のあるシナリオを含む研修セッションを、その関連性と運用可能性を確保しつつ、カスタマイズして作成します。 透明性のある報告メカニズムと監督委員会の設置 従業員が贈収賄の疑いを報告できる安全かつ匿名のチャネルを設け、贈収賄関連の問題に対処するための専門委員会を設置します。これにより、オープンで説明責任を果たす文化が促進され、問題に積極的に対処できるようになります。 定期的なリスク評価の実施 貴社の事業の中で、贈収賄や汚職のリスクに対して脆弱な分野を特定します。これらのリスクを定期的に評価し、それに応じて戦略を調整して、リスクを軽減します。 監視と見直し 定期的に贈収賄防止策を監査し、その有効性を確認します。監査結果やタイの法律の変更に基づき、必要に応じて方針や研修プログラムを調整します。 これらの手順を作成し、実施することで、貴社は自信を持ってタイの複雑な法的領域をナビゲートし、最高水準の誠実さを維持しながらコンプライアンスを確保することができます。 結論 タイの贈収賄防止法は複雑ですが、倫理的なビジネス慣行と法令遵守を目指す日本企業にとって極めて重要です。当事務所は、主要メンバーに国家汚職防止委員会の元役員、元検察官、最高裁判所の裁判官退職者、タイ王立警察の警察官退職者などを擁しており、上記のような課題を認識し、お客様の会社が法的基準を満たすと共に、倫理的行動も維持できるよう、オーダーメイドのサービスを提供いたします。 方針の策定から従業員トレーニング、リスク評価まで、当事務所はこれらの法的複雑性を効果的に管理するための包括的な支援を提供しています。透明性のある贈収賄防止方針の策定、従業員への教育、信頼性の高い報告システムの構築、リスク評価の実施、そして方針の定期的な見直しは、贈収賄リスクから貴社の業務を守るための重要なステップです。最終的に、これらの措置は単なる法的保護にとどまらず、誠実さと尊敬の文化を培い、それによってタイ市場での永続的な成功の基礎を築くことにつながります。 WEERAWONG, CHINNAVAT & PARTNERS LTD. 22nd Floor, Mercury Tower, 540 Ploenchit Road Lumpini, Pathumwan, Bangkok 10330, Thailand 電話番号: +662 264 8000 www.weerawongcp.com ←索引に戻る
Vietnam--protecting-intellectual-property-rights-L

ベトナムにおける知的財産権保護

By Nguyen Anh TuanとNguyen Ngoc Ly、Bizconsult Law Firm
←索引に戻る ベトナムは、かつては知的財産の保護において地域の他国に後れを取っていましたが、近年、他国に比肩できる法的枠組みの確立に向けて大きく前進しています。特に、発明、工業デザイン、集積回路の回路配置、営業秘密、商標、商号、地理的表示をはじめとする知的財産権(IPR)の分野の進歩には著しいものがあります。 ベトナムで初となる知的財産法が制定されたのは、2005年のことです。その後、2009年から2019年にかけて改正され、国際協定や地域協定との整合性が図られました。直近では、2022年の改正が、ベトナムの知的財産権保護の取り組みにおける極めて重要な成果として挙げられます。この改正により、特許、実用新案、工業デザイン、商標、原産地呼称、地理的表示、営業秘密、著作権および関連する権利を含め、幅広い知的財産権が保護の対象になりました。 2022年現在、ベトナムは知的財産権の登録と保護に関して、以下に挙げる多国間または二国間協定を締結しています。 2020年:RCEP協定(地域的な包括的経済連携協定) 2019年:意匠の国際登録に関するハーグ協定 2019年:ベトナムとEU間の自由貿易協定 2018年:環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定 2008年:日本・ベトナム経済連携協定(知的財産に関する章) 2007年:知的財産権の貿易関連の側面に関する世界貿易機関(WTO)協定 2006年:植物の新品種の保護に関する国際条約 2005年:工業所有権の保護に関するパリ条約 衛星により送信される番組伝送信号の伝達に関するブリュッセル条約、標章の国際登録に関するマドリッド協定議定書 2004年:文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約 2003年:投資の自由化、促進及び保護に関する日本国とベトナム社会主義共和国との間の協定 2000年:米国とベトナムの貿易関係に関する協定 1993年:特許協力条約 1949年:標章の国際登録に関するマドリッド協定 ベトナムにおける知的財産権の保護 ベトナムの知的財産法の下では、ベトナム国家知的財産庁が発行するガイドラインに従って、発明、工業デザイン、回路配置、標章、地理的表示に対する知的財産権が付与されます。著名商標に対する知的財産権は、登録ではなく使用に基づいて付与されます。 知的財産法とその施行規則には、国内の知的財産権の審査と登録に関する条件と手続きが、明確かつ詳細に定められています。本稿では、紙面の都合上、発明、工業デザイン、回路配置、地理的表示、商標の登録権利者についてのみ概説します。 発明、工業デザイン、回路配置 自らの労力と費用によって発明、工業デザイン、回路配置を創作した著作者。 当事者間で別途合意のない限り、または知的財産法に規定のない限り、遺伝資源へのアクセスと利益配分に関する契約に基づき、(譲渡もしくは雇用により)著作者に資金提供もしくは物質的援助を与えた組織もしくは個人、または遺伝資源もしくは遺伝資源に関する伝統的知識の管理を命じられた組織もしくは個人。 発明、工業デザイン、回路配置を複数の当事者が共同で創作、またはその創作への投資を行った場合、その全員が登録権を有しており、全員の合意がなければ登録権を行使できません。 登録の権利を持つ組織または個人は、すでに登録出願が行われている場合であっても、法律に従い、書面による契約、遺贈または相続によって、その権利を他の組織または個人に譲渡することができます。 地理的表示 原産国の法律に基づき地理的表示の権利を有する外国の組織および個人には、ベトナムで地理的表示を登録する権利が認められます。 標章 組織や個人は、生産する製品や提供するサービスに使用する標章を登録することができます。 合法的な商業活動を行う組織や個人は、生産者が自らの製品に当該標章を使用せず、登録に異議を唱えない場合に限り、他者が生産した製品であっても、自らが販売する製品について標章を登録することができます。 標章に関連する他の事例や、植物品種、原産地呼称、著作権および関連する権利などの他の知的財産権に関連する事例も、知的財産法に詳しく規定されています。その詳細については、知財弁護士にご相談ください。 中央政府や地方政府機関が支える知的財産権執行制度 知的財産権者は侵害の種類、内容、程度に応じて、行政、民事、刑事の各手続きによりその権利を守り、行使することができます。 ベトナムでは、63の各省に税関と政府のさまざまなレベルの市場管理機関が設けられており、クロスボーダーの執行制度が確立されています。 行政手続き 知的財産権者が侵害に対処する際の第1の手段であり、最も迅速な方法でもあります。知的財産権者は、管轄の検査機関に対し、侵害者に対する行政処分の決定および侵害行為の停止命令の発出を請求できます。ベトナムの検査機関は、地方政府のさまざまなレベルの機関で構成されています。 また、中央省庁にも、中央省庁から地方の省の部局まで、さまざまなレベルの独自の検査制度があります。 行政手続きによる懲罰的制裁には、罰金、知的財産権を侵害する製品の没収、事業活動の一時停止などがあります。この手続きでは、知的財産権者は侵害者に対して損害賠償を請求することはできません。 民事手続き 権利者が知的財産権侵害者に対する損害賠償請求を望む場合には、この手段を検討することができます。権利者は、裁判所に対し、差止命令、侵害行為の停止命令、謝罪と是正の履行、損害賠償、侵害に該当する要素の製品からの除去を求める命令(除去できない場合は廃棄)、公共の目的に基づく侵害製品の没収、その他、法律で認められている法的救済措置の全部または一部の適用を申し立てることができます。 刑事手続き この救済措置を検討できるのは、知的財産権侵害が深刻で、人々の健康、社会への悪影響、大規模な損害を引き起こす、または引き起こす可能性がある場合です。刑事訴追は通常、警察、市場管理機関、その他の管轄当局への告発に基づき開始されます。この手続きには知的財産権侵害の証拠が必要になります。 これらの機関は調査を実施し、侵害の証拠をさらに収集し、証拠が十分であれば、刑事手続きに基づき侵害行為について違反者を起訴します。刑事上の救済には民事上の手続きも含まれますが、侵害者に懲役刑が科されることもあり得ます。 クロスボーダーの執行制度には、税関総局傘下の密輸対策捜査局(Anti-Smuggling Investigation Bureau)、国防省傘下の国境警備隊と沿岸警備隊も含まれ、正規の貿易ルートによる、または密輸による、侵害製品のベトナム国内への流入と国外への流出を防止する責任を負っています。 これらの手続きは複雑であるため、ベトナム内外の知的財産権保有者がベトナム国内で自身の権利を守るには、現地の資格のある知的財産法律事務所に相談する必要があります。 知的財産に関する代理業務 知的財産法第154条に基づき、ベトナムでは資格を有する知的財産法律事務所のみが知的財産権に関する代理サービスを提供することが認められています。資格を得るためには、法律事務所に少なくとも1人、知的財産業務のライセンスを所持し、ベトナムの管轄国家機関から組織的知的財産代理業務ライセンス(Organisational IP Representative Practice Licence)を付与されている弁護士が所属している必要があります。ベトナムで設立され、事業を行っている外資系の法律事務所やコンサルティング企業は、ベトナム内外の法人や個人にこの種のサービスを提供することは許可されていません。 BIZCONSULT LAW...
Investment-prospects-for-Japanese-enterprises-in-India--Part-2-L

日本企業によるインド投資の展望

By Gaurav Dani、Saurav KumarとSwathi Sreenath、IndusLaw
←索引に戻る インドと日本は長年にわたり友好を深めてきました。戦略、経済、政治面での連携のほかにも、文化的、精神的な結び付きに根ざした強固な協力関係を築いています。事業環境の向上、技術革新の促進、製造業と投資の活性化にインドが積極的に取り組んでいることもあり、両国の経済的な相互協力関係は、年々強まっています。インドはさまざまな課題を抱えつつも、過去最高水準の輸出、外国投資の増加、グローバルな協力関係の拡大を背景に、世界で最も急速な成長を遂げている国の一つになっています。 本連載の前回の記事では、日本の投資家にとっての投資機会、政府政策、今後の注目分野について取り上げました。本稿では、インドに進出する際に考慮が必要な投資構造、事業運営、税務についての要点と、目前に迫っている投資機会について概説します。 投資構造および事業運営に関する問題 インドでは、インド準備銀行(RBI)が各種規則、規制、プレスノート、マスターディレクションを通じて外国投資の枠組みの明確化を進めてきました。投資家がインド企業と取引を行う際には、特定のガイドラインや条件に注意を払う必要があります。これには、価格設定、繰延対価、補償の取り決め、ダウンストリーム・インベストメント、収益保証の制限に関する規則への準拠が含まれます。 新たな投資構造の出現に伴い、当事者にとっての運用上の柔軟性が増すとともに、法令遵守の徹底が図られています。以下では、準拠の必要がある規則について一部解説します。 繰延対価 居住者と非居住者間の資本性金融商品の譲渡について、インドの規則では、対価が全体の25%を超えず、譲渡契約日から18カ月以内に支払われる場合に限り、対価支払いの繰り延べが認められます。このような制約を回避する方法として、取引代行業者に株式を預託し、一定のスケジュールに従って当該株式を購入する義務を負担することが考えられます。アーンアウト方式を採る取引形態も広く普及しています。この種の取引では、対価の一部が業績指標に基づく管理報酬としてプロモーターに支払われます。 外資系企業(FOCC)による取引 既にインドに進出している外国投資家が買収により拡大を目指す場合、インド子会社を介する投資に求められるコンプライアンスが比較的緩やかであることを考慮すると、ダウンストリーム・インベストメント(インドに設立済みの事業体を介した投資)が有利な手法になる可能性があります。しかし、繰延対価と報告に関する取り決めの機微を考慮する必要があります。FOCCへの、またはFOCCによる譲渡の繰延対価について、RBIは価格設定に関して具体的なガイダンスを公表していません。したがって、このような取引を処理する承認取引銀行(AD)の見解に基づいて価格が設定されることになります。一般的な見解では、少なくとも有価証券の公正市場価値に相当する対価を前払いする必要があり、残額は(繰延対価に関する他の規則に準拠しつつ)繰り延べることが認められます。 レイヤリング インドでは複雑な企業構造の悪用を防ぐため、会社法により、企業が2層を超える子会社を持つことが制限されています。ただし、1社または複数の完全子会社で構成する1つの層は、層の数を算定する際に考慮の対象になりません。しかし、完全子会社に対するこの免除規定が、子会社の第1層のみに適用されるのか、それともどの層にも適用されるのかは明確ではありません。現時点の一般的な見解は、この免除は最終持株会社の完全子会社にのみ認められ、それを超える層には認められないというものです。 税務上の留意点 法人税やキャピタルゲイン税をはじめとして、インドにおける投資の構造に影響を及ぼす可能性のある税務上の考慮事項があります。そのような投資構造に影響を及ぼし得る税務上の主な留意点には、以下が含まれます。 二重課税回避協定(DTAA) インドへの投資は、種々の戦略上・税務上の理由から、さまざまな国・地域にある持株会社を通じて組成されることが多くあります。このような場合、企業にとって有利な課税制度を備えた国・地域にある中間持株会社を通じて投資することで、二重課税のリスクを回避できる場合があります。以前は、モーリシャス、キプロス、シンガポールの各国とインドとのDTAAに基づき、有利なキャピタルゲイン課税制度の適用が認められていたため、多くのインド企業やインド企業への投資家がこれらの国で中間持株会社を設立していました。しかしこれらのDTAAはその後、改正され、有利な制度の一部は廃止されました。 インドは二重課税を避けるために、日本を含め100を超える国々と二国間租税条約を締結しています。納税者は、インド法または日印DTAAのうち、より有利な方に基づいて課税を受けることができます。日本の投資家は、特に配当所得、ロイヤルティ、技術料に対する課税に関して、インド国内のより高額な税率ではなく、日印DTAAに基づく優遇税率を利用できる可能性があります。 繰越欠損金 1961年所得税法では、企業は事業損失を事業利益と相殺できる状況になるまで8年間、繰り越すことが認められています。ただし、同法では、(特定のスタートアップ企業を除き)損失が発生した年度と相殺が計画されている年度の両方の末日において、会社の議決権の51%以上を占める株式の実質的支配者が同一でなければならないと規定されています。したがって、投資家は、事業について過去に発生した納税債務と今後発生する可能性のある納税債務、および自らの投資によって生じた事業損失を繰り越せるかどうかに留意する必要があります。また、投資家は上述のような問題に対処するために、合併(最長8年間は相殺が可能)などの代替手段を検討することもできます。 新たな機会 グジャラート国際金融テック・シティ 日本の投資家が最大のチャンスを見出せる機会の一つは、グジャラート国際金融テック・シティ(GIFTシティ)にあるGIFT国際金融サービスセンター(GIFT IFSC)です。この最先端の金融ハブが目指しているのは、ドバイ、シンガポール、香港といった他の金融センターと同様に、幅広い金融機関を誘致することです。GIFTシティに設立された事業体は、統合された単一の規制当局の規制を受け、適用される規定の一部が国内法による規定よりも緩和された、「軽減された」規制制度の対象になります。規制の軽減に加えて、GIFTシティでは10年間の法人税免除、キャピタルゲイン税および物品・サービス税の免税といった優遇措置も提供されます。3年足らずの間に、HSBC、ドイツ銀行、バークレイズ銀行、MUFG銀行などのグローバルな金融機関をはじめとして、500社超の企業がGIFTシティに設立されました。 インセンティブ制度 過去数年にわたり、インドは、年間生産量や売上高などの指標に基づいて製造業者に補助金を直接支給し、輸入が大半を占める品目での国内生産を拡大する制度を導入してきました。この生産連動型インセンティブ(PLI)制度は、自動車・自動車部品、太陽電池、食品加工などの分野に導入されています。先端化学セル(ACC)蓄電池と化学分野向けのPLI制度の入札が現在進行中であるのに加え、公表された2024年の予算に従い、バイオ製造とバイオファウンドリーを対象とする制度の導入も予定されています。 不動産 このところ、2016年不動産(規制・開発)法などの大規模な法改正、物品・サービス税の統合、不動産投資信託(REIT)の普及推進を背景に、外国人投資家にとってインドの不動産セクターの魅力が一段と増しています。住友、三菱、丸紅などの日本企業は、商業用・住宅用不動産セクターに多額の投資を行っています。IT産業が目指すべき国(IT destination)としてインドが台頭する中、商業用不動産に対する需要が特に高まっており、良質なオフィススペースが求められています。不動産ビジネスブームは、日本の得意分野として知られる建材、電気製品、衛生陶器製品などの関連分野の企業にもチャンスをもたらします。 グリーンエネルギー インドは、グリーン水素やアンモニア、電気自動車(EV)、太陽エネルギー、風力エネルギーなどの技術の推進に精力的に取り組んでおり、グローバル・サウスにおけるクリーンエネルギーへの移行を先導しています。インドでは、これらの技術の普及のため、EVの販売、先端化学セル電池の製造、水素電解槽のインセンティブ施策や、資金面での優遇措置(グリーンクレジット、グリーンデポジット、税金還付など)などの制度を導入してきました。インドが設定している再生可能エネルギー開発目標では、2030年までに再生可能エネルギーの設備容量を現在の約175GWから500GWに拡大することを目指しています。日印クリーンエネルギー・パートナーシップの目的を踏まえ、インドはグリーンエネルギー分野の日本企業の投資先として推奨されています。 結論 日本企業のインド投資の今後の見通しはさまざまな点で有望です。このような良好な投資見通しの基盤をなしているのは、両国の歴史的な友好関係であり、これが両国の経済的な結び付きも強めています。 時を経て、投資家は経営効率を最大化し、将来の法廷闘争を回避するために、革新的な投資構造の選択肢を検討しています。こうした構造の微妙な特徴を理解するには、法務チームや承認銀行との協力が不可欠です。 しかしながら、インドではGIFTシティ、現地製造業、不動産、グリーンエネルギーなどに関して新たなビジネスチャンスが生まれており、日本の投資家にとって有望な投資先であることに変わりありません。両国の協力関係は今後も深まっていくことでしょう。そこには、双方の国にとって有益な成長がもたらされる大きな可能性があります。 INDUSLAW 101, 1st Floor, Embassy Classic 11 Vittal Mallya Road Bengaluru – 560 001, India 電話番号: +91 80 4072 6600 Eメール: bangalore@induslaw.com www.induslaw.com ←索引に戻る
BVI v Cayman offshore corporate structures

BVIとケイマン諸島のオフショア法人構造の比較 - どちらを選択すべきか

By Peter Vas、Spencer West
オフショア法人の設立は、クロスボーダービジネスを志向する企業にとって適切な選択肢になり得ます。主たる事業拠点以外の場所に設立された事業体は、他の企業と同様の企業活動を行うでしょうが、主たる事業拠点では得られないメリットを享受できることも多いのです。ほぼ間違いなく、オフショア金融センターとして最も評判が高いのは、英領ヴァージン諸島(BVI)とケイマン諸島ですが、特定の構造やプロジェクトにどちらが適しているかについては、個別に検討して判断する必要があります。どちらを選択するかは、ある程度、クライアントの目的と関連する市場慣行によって決まります。 利点の類似性 注目すべき点として、BVIで設立された法人とケイマン諸島で設立された法人が享受する種々のメリットの多くが共通していることが挙げられます。 評判:BVIとケイマン諸島は世界有数のオフショア法人設立地として定評があり、金融活動作業部会(FATF)や経済協力開発機構(OECD)が定めたものをはじめ、国際的なベストプラクティスや規範に準拠するよう常に努めています。投資家、金融機関、サービスプロバイダー、規制当局などの市場参加者はこれを認識しており、そのことも取引と投資を促す要因になっています。 税の中立性:BVIの法人とケイマン諸島の法人には、企業収益、キャピタルゲイン、資産に対して現地の税が課されないため、企業の税の中立性が確保されています。さらに、源泉徴収税も徴収されません。 銀行サービスと資金調達手段へのアクセス:BVIの法人やケイマン諸島の法人は、オフショアおよびオンショアの銀行サービスを容易に利用することができます。貸し手は一般的に、通常の信用調査やオンボーディング時の身元確認手続きの完了を条件に、これらの地域に設立された企業に対して快く資金を提供するでしょう。 信頼性と柔軟性:両地域とも、英国のコモンローの原則に基づく、信頼できる法的環境が確立されています。確固とした司法制度の下で、英国枢密院への最終的な上訴権を含め、事業を行うための強固な枠組みが維持されています。また、BVIとケイマン諸島の法人は、目的、能力、権限について制限を受けることなく、柔軟に企業構造を選択することができます。取締役会が大半の決定を行うことができ、株主の関与を最小限にとどめることができます。為替管理や資金支援に関する制限もありません。 サービスプロバイダーへのアクセス:BVIとケイマン諸島では、弁護士、登記事務所プロバイダー、会計士、管財人、管理人などが提供する質の高いサービスを利用することができます。国際的な金融センターであるBVIとケイマン諸島では、クロスボーダー取引とその構造に精通する専門家が提供するサービスを利用できます。 国籍変更:BVIとケイマン諸島の法律では、比較的容易に企業の転入・転出が認められています。大半の国・地域では国籍変更は全面的に禁止されるか、厳しい条件が課されるのが通例であることを考えると、これは他では得られないメリットです。 考慮すべき主な相違点 BVIとケイマン諸島の法人には上述のように種々の類似点もありますが、重要な相違点も存在します。 市場慣行とコスト:ケイマン諸島は、オフショア法人の設立においてより長い歴史を持つことから、名声のある投資ファンドや上場企業にとって、依然として世界有数のオフショア法人設立地です。一方、BVIは、政府に納付する設立手数料や年間維持費が低いため、新興企業や持ち株会社にとって好ましい選択肢になっています。また、BVIの法制度は柔軟性が高いため、暗号通貨取引業者や非代替性トークン発行業者をはじめとする、デジタル資産セクターの企業の設立地として人気があることも明らかになっています。両地域とも仮想資産サービスプロバイダーの規制について明文規定を設けていますが、そのアプローチは全く異なっています。そのため、十分な情報を得た上でどちらがより適切なのかを判断できるよう、法的助言を求めることが強く推奨されます。 守秘義務:どちらの地域でも機密性が保証されていますが、アプローチには若干の違いがあります。ケイマン諸島の法人の定款は非公開文書ですが、BVIの法人の定款は公開文書です。この点が重要性を持つか否かは、株主と企業の間で合意された商業上機微な条項が基本定款と定款に含まれているかどうかによって決まります。いずれの地域でも、企業の取締役と株主の詳細は非公開文書ですが、現職の取締役の氏名については、FATFのガイドラインに従って、該当する会社登記機関に手数料を支払えば、第三者が開示を受けることができます。 有担保融資:両地域ともに有担保債権者の支持を集めていますが、BVIには公的担保登録制度があるという利点があります。これにより、登録された担保権の優先順位が保護され、第三者に対して「見なし通知」を提示していることになります。これは貸し手にとって魅力的な制度です。 オフショアに設立される法人の構造に最も適切な地域を選択するには、法的助言を求める必要があります。主な考慮すべき事項は上述のとおりですが、判断の際に微妙な点を考慮しなければならないことも多く、関連する法律上の論点や市場慣行を分析する必要があります。 SPENCER WEST Unit 01-02, 33/F, Bank of America Tower, 12 Harcourt Road, Central, Hong Kong お問い合わせ先: 電話番号: +852 5225 4920 Eメール: Peter.Vas@spencer-west.com www.spencer-west.com  
Thailand tech law individual rights

データプライバシーの監視: タイ

By Kowit Somwaiya、Usa Ua-areethamそしてWarit Lertwuthisart、LawPlus
日本 フィリピン タイ タイで最も重要なデータプライバシー法は、個人情報保護法(PDPA)です。同法は2019年に制定され、2022年6月に全面的に施行されました。 同法では、個人データの処理に関する主要原則と、管轄監督機関である個人データ保護委員会(PDPC)の任命について規定されています。 PDPCは次のような権限を与えられています。PDPAの施行と執行、PDPA実施規則および規制の制定、個人データ保護に関する方針および指針の制定、異議申し立てに対する調査の実施、PDPAに違反するデータ管理者およびデータ処理者に対する執行命令の発令。 PDPCは2023年11月までに、PDPAに基づき21の実施規則、規制、ガイドラインを制定しています。 PDPAの主要原則 個人データの分類。個人情報保護法(PDPA)における個人データとは個人に関するあらゆる情報を意味し、直接的であるか間接的であるかを問わず、当該個人を識別することを可能にするものですが、 故人の情報は含まれません。PDPAは、(i)一般個人データ、(ii)センシティブ個人データ(SPD)の2種類の個人データの処理について規定しています。 SPDとは、人種、民族的出自、政治的見解、崇拝の対象、宗教上・思想上の信条、性行動、犯罪歴、医療データ、障害の有無、労働組合への加入情報、遺伝子データ、生体データ、またはデータ主体に同様の影響を与える可能性のある、その他の個人データを指します。 個人データの処理。PDPAにおける個人データの「処理」とは、個人データの収集、使用、開示を指します。個人データを収集することができるのは必要な場合に限られ、その目的のために必要な期間に限り保管することができます。 データ管理者は、一般個人データの収集前または収集時に、データ管理者のプライバシー通知をデータ主体に提供することにより、一般個人データの収集目的をデータ主体に通知しなければなりません。この通知には、少なくとも次の事項を含める必要があります。すなわち、個人データ処理の目的、データ管理者およびそのデータ保護責任者(DPO)の詳細、個人データが開示される可能性のある第三者、データ主体の権利、この権利をデータ主体が行使できる方法と時期です。 データ対象者の明示の同意なしにSPDを収集、使用または開示することは、わずかな例外を除いて禁止されています。その例外には、データ主体が何らかの理由で同意を与えることができないときに、データ主体の生命、身体または健康に対する危険の防止または抑制のために必要な場合などがあります。 個人データの処理を合法的に行うには、PDPAに基づく法的要件に従って実行しなければなりません。個人データがデータ主体の同意に基づいて処理されている場合、データ主体はデータ管理者またはデータ処理者に同意の撤回を通知することにより、いつでも同意を撤回することができます。 個人データを処理する場合、データ管理者およびデータ処理者は、個人データの完全性および機密性を維持しなければなりません。 データ管理者またはデータ処理者は、個人データ処理行為の完全な記録を、PDPCによる検査またはPDPCへの提出に備えて保持する必要があります。 国境を越えたデータ移転。適切にデータが保護されない国・地域または国際機関に個人データを移転することはできません。ただし、(i)データ主体が適切にデータが保護されないことを知らされた上で、明示の同意を与えた場合、(ii)国境を越えた個人データの移転が、移転者と移転先国または移転先の国際機関の受領者との間の 契約に基づき必要な場合を除きます。 PDPCは、同一グループ内の企業が同程度に高いデータ保護水準に準拠するよう徹底するために、グループ内データ移転について規定する対内的な拘束力のある企業規則を導入するよう奨励しています。 DPO。2023年12月13日より、データ管理者およびデータ処理者は、その主要業務に以下の行為が含まれる場合に、DPOを任命する義務が課されています。すなわち、(i)行動や態度の追跡、監視、分析、予測、個人データ、会員プログラム、信用スコアリング、詐欺防止の体系的処理、ネットワークサービスプロバイダーや通信事業者によるデータ処理、行動広告など、個人データやシステムの定期的な監視を必要とする大規模な個人データの処理、または(ii)あらゆる規模のSPDの処理です。 DPOの任命を怠った場合、100万バーツ(2万8300米ドル)以下の罰金が科される可能性があります。 未成年者の保護 10歳未満の未成年者から個人情報を収集する場合は、親権者の同意を得る必要があります。 未成年者が10歳以上であっても、婚姻により法的責任能力を取得していない場合、または法的責任能力を備えていない場合は、未成年者と親権者の双方から同意を得なければならなりません。 コンプライアンス上の要件 PDPAに基づいて、企業が導入する必要のある主なコンプライアンスプログラムを以下に挙げます。 PDPAに基づくデータ処理要件に完全に準拠したデータプライバシーポリシーの策定および維持 データ管理者およびデータ処理者間のデータ処理契約またはデータ移転契約の締結 データプライバシーに関するリスクや、そのリスクを軽減するための対策の特定を目的とするデータ保護影響評価の作成 例外が適用される場合を除き、個人データの収集、使用、開示の前、またはその際に、データ主体からの明示の同意を取得し、その同意についての記録を保持すること データ主体による権利の保護および行使促進を目的とする、次に挙げるものを含むメカニズムの確立。すなわち、個人データにアクセスする権利、いつでも同意を撤回する権利、 個人データを修正、削除、制限、または処理に反対する権利、データポータビリティの権利、PDPC 事務局に苦情を申し立てる権利 PDPA の遵守の徹底のため、データ主体とPDPCとの連絡担当者として、主要業務上必要な場合にDPOを任命すること データ漏洩 データ漏洩が、データ主体の権利と自由に対するリスクにつながる可能性が高い場合、漏洩の認識から72時間以内に、データ漏洩に関する通知をPDPCに提出する必要があります。通知には、漏洩の性質、データ管理者の連絡担当者またはDPOの詳細、起こり得る結果、潜在的な悪影響を軽減するために講じられた、または講じられる措置を含めなければなりません。 データ漏洩が、データ主体の権利と自由に対して高いリスクをもたらす可能性がある場合には、PDPCとデータ主体の双方に、是正措置を記載したデータ漏洩に関する通知を、遅滞なく送付する必要があります。 データ漏洩の対象が複数のデータ主体に及ぶ場合には、データ管理者は、公共メディア、ソーシャルメディア、電子的手段、またはデータ主体もしくは一般公衆がアクセス できるその他の手段を介して、各データ主体に個別に、または一般的に通知することができます。 PDPAによる罰則 データ管理者およびデータ処理者は、PDPAが規定するコンプライアンス要件を遵守しない場合、または制限や禁止事項に違反した場合、行政罰上の罰金を科されたり、刑事責任や民事責任を問われたりする可能性があります。 行政罰上の罰金は最高で500万バーツです。刑事責任として、違反1件につき最長1年の懲役および/または最高100万バーツの罰金が科される可能性があります。 民事責任については、裁判所の決定に従い、損害を被ったデータ主体に、実際の損害賠償額および懲罰的損害賠償額を支払わなければならない可能性があります。 PDPCまたは裁判所が課す罰則は、違反の性質、重大性および期間、影響を受けるデータ主体の数、ならびに違反の発生時および発生後に実施された軽減措置に応じて異なります。 本稿において提供される情報は法的助言ではありません。これは一般的なものであり、個別的状況には該当しない可能性があります。提供された情報に基づいて何らかの行動を取る前に、具体的な助言を求める必要があります。 LAWPLUS LTD. Unit 1401, 14th Fl., Abdulrahim Place 990 Rama IV Road, Bangkok 10500, Thailand 電話番号:+662 636 0662 (国際通話) 電話番号:02 636 0662(タイ国内) www.lawplusltd.com
Philippines tech law individual rights

データプライバシーの監視: フィリピン

By John Paul M Gaba、ACCRALAW
日本 フィリピン タイ フィリピンにおける個人情報保護に関する包括的な法律、2012年フィリピンデータプライバシー法(DPA、共和国法第10173号)は、2012年8月15日に制定されました。その管理および施行の監督を主要な職務とする政府機関、国家プライバシー委員会(NPC)は2016年8月に、最後の実施規則および規定を公布しました。 データプライバシー法は、国際的な個人データ移転の自由化の進展と、データ保護に関する国際基準の策定に対応しています。ビジネス・プロセス・アウトソーシングにおいて世界的に重要な地位を占めるフィリピンにとって、同法の制定は大きな意味を持ちます。 同法が制定されるまで、個人データの処理一元的な規制監督や、データ主体に対する包括的な保護措置は存在しませんに対するでした。そのため、当時、大量の個人データが、当初の想定を超えた目的での詳細な連絡先の無断使用や共有をはじめ、なりすましやセキュリティ侵害などの悪用や誤用の対象となり、憲法で保証されるデータ主体のプライバシーに対する権利が害されていました。 フィリピン貿易産業省(DTI)は2006年という早い時期に、個人情報保護ガイドラインに関するDTI行政命令第8号を発行しています。これは現在のEU一般データ保護規則(GDPR)の前身である1995年EUデータ保護指令を踏襲して策定されました。したがって、フィリピンDPAはEUが支持する基準と原則に深く根ざしているといえます。 フィリピンDPAは、あらゆる種類の個人情報の処理、および、官民双方の個人情報の処理に関与するあらゆる自然人または法人に適用されます。フィリピンに存在しないデータ管理者および処理者が、以下のいずれかに該当する場合は適用対象になります。 フィリピンに所在する設備を使用している フィリピンに事務所、支店または代理店を設置している 同法は、データ主体の所在地に関わりなく、またデータが処理される場所がどこであろうと、フィリピン国民またはフィリピンの居住者の個人データに適用されます。たとえば、同法は、米国に居住する海外出稼ぎフィリピン人労働者の個人データが、現地のフィリピン銀行によって処理される場合にも適用されます。また、この労働者の個人データがフィリピン国外の外国銀行によって処理される場合にも、フィリピンの個人情報保護法が適用されます。法律の執行可能性はまったくの別問題です。 同法では、データ処理は「データの収集、記録、整理、保存、更新、修正、検索、参照、使用、統合、遮断、消去、破壊を含むが、これらに限定されない、個人情報に対して実施される操作または一連の操作」と定義されています。 「個人情報管理者」とは、個人情報の収集、保有、処理、使用を管理する個人または組織(他の個人または組織から指示を受けてそのような役割を果たす者、個人の個人的・家族的・家庭的な問題に関連し てそのような役割を果たす個人を除く)を指します。一方、「個人情報処理者」とは、個人情報管理者が個人データの処理を委託することができる自然人または法人を指します。 以下はフィリピンDPAの適用対象ではありません。 現在または過去の公務員に関する情報で、その地位や職務に関連するもの 政府契約に基づいて行われた個人の業務に関する情報 政府から個人に与えられる裁量的経済的利益に関する情報 報道、芸術、文学、研究の目的で処理される個人情報 公的機関の機能に必要な情報 銀行および金融機関がマネーロンダリング防止法を遵守するために必要な情報 外国司法管轄区の法律に基づき、当該外国司法管轄区の居住者から収集された個人情報 フィリピンDPAでは個人情報と機微(センシティブ)個人情報が区別されており、合法的処理について異なる要件が規定されています。 個人情報とは、個人の身元を特定できる、もしくは合理的かつ直接的に個人の身元を確認できる情報、または他の情報と組み合わせることにより、直接的かつ確実に個人を特定できる情報を指します。 機微(センシティブ)個人情報とは、人種、配偶者の有無、年齢、肌の色、宗教的・哲学的・政治的所属、健康状態、教育、政府機関が発行する個人に固有の裁判手続き(社会保障番号、健康記録、免許証、納税申告書、政府発行の身分証明書および/またはその番号のコピーなど)、および法律や規則により特に指定された個人情報を指します。 フィリピンDPAの下では、通常、同法、その規則または規定に明示されている条件のいずれかに該当する場合を除き、個人情報を有効に処理するには、それに先立って情報主体から同意を取得する必要があります。留意する必要があるのは、同法では、明示的な同意のみが認められており、黙示的な同意は認められない可能性があることです(同法では、同意とは「自由な意思に基づき与えられた、具体的な、情報に基づいた意思表示であり......(中略)書面、電子的手段、または記録された手段によって証明されるものとする」と定義されています)。 フィリピンDPAには、EUのGDPRで認められている権利に類似した、データ主体の個人情報に関する権利が詳細に規定されています。これらの権利には、情報取得、アクセス、異議申し立て、消去および遮断、修正、苦情申し立て、損害賠償、データポータビリティが含まれます。 データ管理者およびデータ処理者は、個人情報が科学的・統計的調査のためであり、データ主体に関するいかなる活動も行われず、いかなる決定もなされない場合、またはデータ主体の刑事、行政、または納税に関する義務の調査のために収集される場合を除き、これらの権利を遵守し尊重しなければなりません。 同法では、個人情報のセキュリティに関する一般原則と、個人情報の移転に関する説明責任について規定されています。政府における機微個人情報のセキュリティに関する具体的な規定に加え、データ侵害に関する規定、データ侵害事案報告のための基本的ガイドラインが定められています。 GDPRと同様に、フィリピンの個人情報保護法および規制は、個人データが侵害された場合に、個人情報管理者に対して侵害に関して通知する義務を課しています。個人情報管理者は、侵害に関するこのような通知を影響を受けるデータ主体に送付し、NPCに報告しなければなりません。侵害に関する通知は、「個人情報管理者または個人情報処理者が通知を要する個人データの侵害が発生したことを知った時点、または合理的に信じることができた時点」から72時間以内に、NPCに提出されなければなりません。 フィリピンの個人情報保護規則では、データプライバシー責任者(DPO)の指名/任命が義務付けられています。ただし、すべてのDPOにNPCへの登録義務があるわけではありません。以下のすべてに該当する場合には、NPCに登録する義務があります。 事業者の従業員数が250人以上 少なくとも1000人の機微個人情報を含む記録を「処理」する 事業者による個人情報の処理が、「データ主体の権利および自由に対するリスクをもたらす可能性がある」、または「臨時に実施されるものではない」と判断される 最後の基準については、データ主体や処理される個人情報の数/量にかかわらず、登録義務の対象となるとNPCが考えるセクターがNPCのガイドラインに記載されています。重要と考えられるこれらのセクターは以下の通りです。 政府機関 銀行およびノンバンク金融機関 電気通信事業者およびインターネット・サービス・プロバイダー BPO企業 大学をはじめ、すべての学校および研修機関 病院、診療所、その他の医療施設 保険会社および保険仲立人 ダイレクトマーケティングおよびネットワーキングに関与する事業者、およびポイントカードやロイヤルティプログラムを提供するその他の企業 研究に従事する製薬会社 これらの重要セクターのいずれかに属する個人情報管理者のために、個人データを処理する個人情報処理者 特定の形態のデータ処理システムは、DPOとは別途に、NPCに登録する必要があります。NPCが新たな登録ポータルを開設したことを受け、NPCの登録要件を満たすためには、DPOとDPS双方の詳細情報の提出要件を遵守しなければならなくなりました。 最後に、フィリピンDPAに違反した場合、禁固刑と罰金が科されます。罰則として禁固刑を規定するデータ保護法は稀ですが、同法はその一つです。機微個人情報が関与している場合は、より厳しい罰則が科されます。 100人以上の個人情報が影響を受けた場合には、最高限度の罰則が課されます。NPCや関係者が、禁固刑の撤廃を含むフィリピンDPAの改正の提案に取り組み始めていましたが、新型コロナウイルス感染症のパンデミックのために中断されています。 ANGARA ABELLO CONCEPCION REGALA & CRUZ LAW OFFICES (ACCRALAW) 22nd to...
Japan tech law individual rights

データプライバシーの監視: 日本

By 新澤 純そして橿渕 陽、弁護士法人中央総合法律事務所
日本 フィリピン タイ 本稿では、日本国外の事業者が日本国内にある個人の個人情報を取り扱う場合に特に留意すべき日本の個人情報保護法(以下「APPI」)の規制について場面ごとに紹介する。 そもそもAPPIの適用があるのか 域外適用がなければ、そもそもAPPIの規制を考える必要がない。この点に関してAPPIは、事業者が、日本国内にある法人/個人に対する物品又は役務の提供に関連して、日本国内にある個人(以下「データ主体」)の個人情報等を、外国で取り扱う場合には、APPIが域外適用されると定める(APPI第171条)。 「事業者」は、国内事業者か外国事業者かを問わない。「日本国内にある個人」は、データ主体の国籍を問わず、滞在が一時的か否かも問わない。ポイントは、物品又は役務の提供に関連する場合に限定されている点である。 例えば、外国の事業者が、全世界における従業員情報の管理の一環として、日本国内の支社の従業員の個人データを取り扱ったとしても、物品又は役務の提供に関連しないので、APPIの域外適用を受けない。 個人データの越境移転規制 前述のとおり、国内向けのサービスを展開する際に国内の顧客情報を取得すればAPPIの適用を受ける。取得の方法は、データ主体から直接取得する、国内の事業者から提供を受ける、というものが考えられるが、特に、国内の事業者から提供を受ける場合に、複雑な規制が課される。この場面で複雑な規制が課されるのはあくまで国内の事業者であるが、この複雑な規制が国内の事業者にとってのハードルになるので、外国の事業者もこの規制を把握しておくことは重要である。 具体的には、国内の事業者がデータ主体の個人データを外国に所在する第三者に移転させる場合(以下「越境移転」)、国内事業者は、データ主体に外国に関する具体的な情報を提供した上で(以下「参考情報」)、外国の第三者に個人データを移転させることについて事前にデータ主体の同意を得ておく必要がある(APPI第28条)。 提供する情報: (当該外国の名称:同意を得る時点で提供先の外国が特定できていない場合は、その理由、提供先の外国の名称に代わる情報(例えば外国の範囲が具体的に決まっていればその範囲)を提供することになる。 当該外国における個人情報の保護に関する制度の情報:国内と国外の法制度の差をデータ主体に認識させるためのものである。日本の個人情報保護委員会(以下「PPC」)が主要な外国の制度の概要を調査の上公開しており、ここに掲載される情報を提供することで対応できる(https://www.ppc.go.jp/enforcement/infoprovision/laws/)。ここに掲載されていない外国が提供先の場合、国内の事業者は、まずは提供先の外国の事業者に自国の制度について照会をかけることになるだろう。 提供先が講ずる個人情報の保護のための措置に関する情報:提供先がOECDプライバシーガイドライン8原則に対応する措置を全て講じていれば、その旨を情報提供すれば足りる。提供先の措置が不明な場合は、その旨とその理由の情報提供をすれば足りるが、判明次第、説明を追加することが望ましい。 外国の範囲:EU及びイギリスは、APPI第28条における「外国」から除かれ、APPI上は国内という扱いになる。APPIでは提供先が国内の第三者であっても、原則としてデータ主体の同意を得た上で個人データを提供する必要があり(APPI第27条第1項)、いずれにしても規制の対象となるが、国内の第三者に提供する場合の規制はそこまで複雑ではない。 第三者の範囲:相当措置を講じている事業者はAPPI第28条における「第三者」から除かれる。具体的には、提供先の外国にある事業者が講ずる措置が、APPIで国内の事業者に求められる措置をクリアしていることが確認できる場合か、提供先の外国にある事業者が、APEC (Asia-Pacific Economic Cooperation)の CBPR (Cross Border Privacy Rules)システムの認証を取得している場合に、相当措置を講じている事業者に該当する。 また、相当措置を講じている事業者に当たるとして、APPI第28条に基づく同意を得ずに、外国の事業者に個人データを提供する場合であっても、提供元の国内の事業者は、提供後も提供先において相当措置が講じられていることを確認するため、相当措置の継続的な実施確保に必要な措置(年1回以上の確認等)を講じなければならず、提供元の負担が大きい。相当措置に関する定めはあまり使い勝手の良いものとはいえない。 違反に対する制裁:上記の規制に違反した事業者に対しては、PPCが、その違反行為の是正措置を勧告し、勧告に従わない場合は命令をする(APPI第148条)。違反した事業者がこの命令にも従わない場合には、その違反行為をした者は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処され、その違反行為をした者を雇う事業者は1億円以下の罰金に処される(APPI第178条、第184条第1項第1号)。 個人データの漏えい等の規制 ランサムウェア等の攻撃等により個人データの漏えい、滅失、毀損等(以下「漏えい等」)が発生した場合に、APPIが求める対応として、PPCへの報告及びデータ主体への通知がある(APPI第26条)。 対象となる事態:以下の事態の場合に、PPCへの報告及びデータ主体への通知が必要になる。 要配慮個人情報が含まれる個人データの漏えい等が発生し、又は発生したおそれがある事態:要配慮個人情報とは、データ主体の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪歴等のセンシティブな情報である(APPI第2条第3項参照)。 不正に利用されることにより財産的被害が生じるおそれがある個人データの漏えい等が発生し、又は発生したおそれがある事態:クレジットカード番号等も併せて漏えい等した場合である。 不正の目的をもって行われたおそれがある個人データの漏えい等が発生し、又は発生したおそれがある事態:第三者からの攻撃を受けて漏えい等した場合である。 個人データに係るデータ主体の数が1000人を超える漏えい等が発生し、又は発生したおそれがある事態 漏えい等が発生した事業者において報告・通知を行うことは当然として、問題は委託先で漏えい等が発生した場合である。原則は、委託元と委託先の両方が、報告・通知を行うことになるが、報告等の重複を避けるため、委託先が委託元に漏えい等が発生した旨を通知すれば、委託先は報告・通知の義務が免除される。 PPCへの報告の方法: 速報:(1)の事態の発生を知った時から、概ね 3~5 日以内にその時点において、次項(ii)①~⑨のうち把握している内容を報告する。 確報:(1)の事態の発生を知った時から、30 日以内〔(1)(iii)の事態においては 60 日以内〕に、①概要、②漏えい等が発生し、又は発生したおそれがある個人データの項目、③漏えい等が発生し、又は発生したおそれがある個人データに係るデータ主体の数、④原因、⑤二次被害又はそのおそれの有無及びその内容、⑥データ主体への対応の実施状況、⑦公表の実施状況、⑧再発防止のための措置、⑨その他参考となる事項を報告する。 原則として、PPCのホームページの報告フォーム(https://roueihoukoku.ppc.go.jp/incident/?top=r2.kojindata)に入力する方法により行う必要があるが、日本語での対応になるため、特に速報においては翻訳の時間も考慮しなくてはならない。 データ主体への通知の方法: 時間的制限:PPCへの報告と異なり、当該事態の状況に応じて速やかに通知をすることが求められる。タイミングは個別の事案毎に判断することになる。 通知の内容:PPCへの報告が求められる内容〔(3)(ii)〕のうち、①概要、②漏えい等が発生し、又は発生したおそれがある個人データの項目、④原因、⑤二次被害又はそのおそれの有無及びその内容、⑨その他参考となる事項である。 ...
New act brings telecoms up to speed

新法で電気通信がスピードアップ

By Ashima Obhan そしてManisha Khalkho、Obhan & Associates
2023年12月24日に制定された「電気通信法、2023年」は重要なマイルストーンです。「インド電信法、1885年」や「インド無線電信法、1933年」などの時代にそぐわなくなった法律に代わり、この法律は電気通信規制の状況に劇的な変化をもたらします。電気通信のサービスやネットワークの開発、拡大、運営、および周波数割り当てに関する法律の改正・統合を主な目的とするこの法律は、通信セクターの変革の舞台を設定するものです。 各種通信事業に従事する個人または事業体は、電気通信省 (DoT) の認可を必要としています。これは電気通信サービス提供者に義務付けられるもので、電気通信サービスとは、有線、無線、光、その他の電磁的システムを通じたメッセージの伝達や送受信を伴うあらゆるサービスを包含する用語です。電気通信サービスの提供に使用される地上、衛星、海底ネットワークなどの機器やインフラを含む、電気通信ネットワークの構築、運営、維持、拡大には許可が必要です。最終的には、無線設備の所持にも同意が必要です。 DoTは、特定の電気通信サービス、ネットワーク、または無線設備に対してそれぞれ異なる認可要件を指定するとともに、公共の利益のために免除を認めることができます。ただし、認可の対象となる事業体は、全面的な免除ではなく、さまざまな遵守条件が付されることを想定しておく必要があります。ある種の電気通信設備は免除対象となるかもしれませんが、日常的あるいは商業的な電気通信事業に対する、公共の利益のための免除の正当化は難しいでしょう。 さまざまな組織・団体が、この法律の影響を受ける可能性があります。例えば、電話や同様のサービスを提供したり、電気通信ネットワークを運営する通信サービス・プロバイダー(TSP)、無線設備を所有する個人など、既存の免許を保有する者が含まれます。これらの事業者は、以前からの免許、許可、登録のもとで、その免許等で指定された期間、あるいはDoTから通知された日から最長5年間、事業を継続することができます。免除を受けている事業者は、DoTから通達がない限り、既存の免除が有効となります。 オーバー・ザ・トップ(OTT)サービス・プロバイダーは、電気通信サービスの定義に含めるかどうかが起草時に争点となったものの、この法律の範囲内にあります。この法律には明示的にはOTTプロバイダーは含まれてはいませんが、電気通信の広義では、OTTプレーヤーがメッセージを送受信する方法が含まれています。そのため、業界内では懸念の声があがりました。電気通信機器の製造・輸入・流通・販売に関するDoTの基準や評価の対象となる、電気通信機器の製造業者や輸入業者も、この法律の影響を受けます。 同法は、国家安全保障、公共放送、その他の特定分野の例外を除き、主にオークションによって周波数を割り当てます。バイオメトリクスに基づくユーザー認証メカニズムを義務付けて、セキュリティ上の懸念に対処していますが、同時にプライバシーの問題も浮上しています。インド電気通信規制庁 (TRAI) の規制により、宣伝メッセージを送るにはユーザーから事前同意を得る必要があり、またユーザーはマルウェアやサイバー詐欺を報告することができます。公共および私有地に通信インフラを設置するには通行権が認められ、公平なアクセスと責任が保証されています。 同法は、ユニバーサル・サービス義務基金(バーラトネット)を維持することにより、サービスが普及していない地域に電気通信サービスを提供したり、研究開発を支援しています。この法律によって、政府は特定の公共の安全を理由にメッセージを傍受、監視、ブロックすることができます。公共の緊急事態が発生した場合、電気通信サービスが停止されることがあります。インド政府は、通信設備やインフラの規格を制定し、業界全体の品質と相互運用性を確保することができます。1997年のTRAI法改正により、委員長および委員の任命に厳格な基準が導入され、当局の専門性と実効性が強化されました。 この法律は、犯罪を審理する枠組を包括的に定めており、専門職員が裁定を下します。上訴は上訴委員会または電気通信紛争処理審判所によって審理されます。業界基準を維持し、コンプライアンスを確保するため、刑事罰の対象となる犯罪は審理可能なものとそうでないものに分類されます。 Ashima Obhanは Obhan & Associates のシニアパートナーであり、Manisha Khalkho は同事務所のアソシエイトです。 Obhan & Associates Advocates and Patent Agents N - 94, Second Floor Panchsheel Park New Delhi 110017, India 連絡先の詳細: アシマオバン 電話番号: +91-9811043532 電子メール: email@obhans.com ashima@obhans.com
RBI financial climate risk

インド準備銀行の住宅金融会社向け指令草案

By Sawant SinghそしてAditya Bhargava、Phoenix Legal
2020年、住宅金融会社 (HFC) の規制が全国住宅銀行 (NHB) からインド準備銀行 (RBI) に移管されることに伴い、RBIはHFCとノンバンク金融会社 (NBFC) に対する規制を「段階的」に調整するため、各種プロセスの導入を開始しました。このような統合指令が最初に出されたのは2020年10月でした。RBIは、NBFCに適用されている現行の規制枠組とHFCの特殊性を検討した結果を踏まえ、2024年1月、それぞれの事業体に適用される規制をさらに整合させる指令草案を公表しました。全体的には、この指令草案はNBFCとHFCの両規制の乖離を縮小しようとしていますが、HFCは住宅セクターへの融資元という特殊な立場にあるため、乖離をなくすことはできません。 現在、HFCは1年超10年以下の公的預金を受け入れることができます。指令草案では、この期間の上限を5年に短縮することを提案しています。NBFCに適用されている支店開設や預金回収代理店の選任に関する規制は、HFCにも適用されるとしています。NBFCとの足並みをさらに揃えるため、指令草案はHFCがリスクヘッジのためにデリバティブ市場にアクセスする条件を緩和しようとしています。所定の要件を満たすことを条件に、HFCは通貨先物、通貨オプション、金利先物、クレジット・デフォルト・スワップへの参入が許可されることになるでしょう。 指令草案では、HFCが毎年3月末から3カ月以内に貸借対照表を確定するよう求めています。HFCが、2013年会社法に規定されたスケジュールに従って貸借対照表の提出日を延長したい場合は、それを会社登記機関に申請する前にNHBの事前承認を得ることが必要になります。このような場合、HFCにはNHBに見積貸借対照表を提出する必要が生じます。指令草案は、HFCが別のHFCに対して所定の閾値を超えて投資した場合、投資する側のHFCが保有すべき規制資本に同等の減額が生じることになると指摘しています。同指令草案では、HFCが代替投資ファンド (AIF) を通じてグループ企業に行った投資で、AIFの資金の50%がHFC提供によるもの、またはAIFの実質的所有者がHFCである場合は、その投資額を必要規制資本から控除するとしています。加えて、HFCに対し、子会社でもグループ会社でもない会社の「非公開株式」すなわち非上場株式への投資については、取締役会が承認した限度額を設けるよう求めています。同草案はさらに、このような上限を算定する際には、非上場株式へのすべての投資を考慮に入れる必要があると規定しています。 規制の整合化の確保は当然の目的ですが、RBIの通達草案には、許容される範囲を逸脱した行為を抑制・防止するため、より詳細な規制を今後導入するという言外の意味も込められています。例えば、AIFによる投資規制案は、投資関連の規制が投資導管体を利用して回避される可能性があるとのRBIの考えを、暗黙のうちに認めているものです。鋭い視点で業界を観察すれば、これらの提案はまさに、銀行によるAIFへの投資に関する現行の規則に対して、RBIが今後さらに広範に調整を行うという前兆であると推論できるかもしれません。 RBIによる最近の規制動向のパターンは、業界慣行の調査からも理路整然としており、完全に問題がないとは言えない傾向に対しては厳しく対処する、監視を怠らない規制当局の姿を映していると言えるでしょう。インド財務省はRBIをはじめとする金融セクター規制当局のアプローチを概ね支持している、との報道が公になっています。また、RBIその他の金融セクター規制当局者は、業界が抱きかねない懸念を払拭するため、それらの業界団体と既に面会した模様です。ルール作りの観点からは、原則を忘れた杓子定規な規制は、規制する側にとってもされる側にとっても有益とは言えません。 RBIが業界レベルの自主規制組織のための枠組を提案してきたことは、金融セクターが、潜在的な不安を払拭するために、RBIその他の金融セクター規制当局と積極的に関わり合うべきだという兆候かもしれません。 Sawant SinghおよびAditya Bhargavaは、Phoenix Legal のパートナーです。 Phoenix Legal Second Floor 254, Okhla Industrial Estate Phase III, New Delhi – 110 020, India Vaswani Mansion, 3/F 120 Dinshaw Vachha Road, Churchgate Mumbai...
Heights of spin-off success

スピンオフ成功事例の著しい増加

By Stephen Luo、Stella Yeung、Jingtian & Gongcheng 香港
米国上場に向けて踏み出す数百の中国企業  スピンオフ成功事例の著しい増加 スピンオフとは通常、既存の上場会社から1つ以上の事業部門を分離し、その分離された部門を新規上場会社として、または既存の別の上場会社を通じて、独立した上場会社にすることをいいます。 スピンオフにより、以下のようないくつかの重要なビジネスや財務上の目的を達成することができます。 その分離された上場会社の評価が高まれば、株主価値が高まる。 それぞれの上場会社の明確に区分された事業およびリスク特性について、投資家が評価しやすくなり、目標とする投資の意思決定を促す。 それぞれの上場会社の経営陣がそれぞれの中核事業に集中できるようにすることで、それぞれの上場会社の業績を向上させる。 分離された会社に対し、それぞれの事業ニーズや優先事項に適した資本配分戦略を追求する柔軟性を提供する。 既存の上場企業(親会社)から見れば、スピンオフは業務を合理化するだけでなく、スピンオフされる事業体(新会社)の営業コストを全額負担する必要がなくなる可能性があります。 スピンオフの構造によっては、親会社は、新会社に対する支配力を維持しつつ、スピンオフによる追加資本を得ることで、新会社の成長による経済的利益を享受することができ、その結果、強力なバランスシートと財務実績を得ることができます。 香港の規則 新会社は、新規上場を申請する際、香港証券取引所株式会社の証券上場管理規則の全要件を満たさなければなりません。さらに、上場規則プラクティス・ノート第15号(以下「PN15」)には、香港の上場会社が既存のグループ内の資産、または事業の全部あるいは一部を、香港証券取引所(以下「HKEX」といいます)もしくは他の場所に単独上場させるために提出する提案について、HKEXの方針が定められています。 IPOとの相違 以下の表は、一般的な状況におけるスピンオフ上場と、IPOの場合の上場規則の主な違いを示しています。 スピンオフに関する懸念事項 以下の項目では、新会社によるスピンオフ申請や上場申請において、規制当局の主要な懸念事項について考察します。 単一の資産に2社の上場不可:親会社は、個別に上場した状態を保つために十分な資産と事業を保持していなければなりません。通常、上場委員会は、事業が1つ(新会社)の場合は、2社分の上場を維持する状態(親会社と新会社)を認めていません。すなわち、親会社は、新会社の持分に加えて、上場規則の第8章の要件を独立して満たすために、新会社の持分を除いた親会社自身の資産と事業を十分に保持する必要があります。 独立性:上場規則は、新会社が業務、経営、財務の面で親会社から独立して事業を遂行できることを求めています。HKEXは、新会社と親会社の取締役や上級管理職が著しく重複していることを認めていません。新会社は、新会社の事業を運営する上で利益相反がなく、支配株主の利益以外も考慮する、十分な人数の業務執行取締役を置かなければなりません。さらに、新会社の独立性の証明は、スピンオフ後に企図される重要な継続的関連取引、または親会社による新会社への資金援助(株主貸付、保証、資産の質権設定等)によって、影響を受ける可能性があります。 競争:親会社は、新会社の事業と競合する、または競合する可能性のある事業の保持を避けるよう、最善を尽くす必要があります。HKEXは、親会社と新会社の事業の明確な分離を求めており、事業区分が明確であるかどうかを判断するために、事業の地理的地域、対象顧客、ビジネスモデルのほか、利益相反を管理するための強力なコーポレート・ガバナンス上の対策等の保護、または親会社による競業避止誓約書の提供等、様々な要因を考慮する可能性があります。 確約権利:PN15は、親会社がスピンオフした新会社の株式を確実に取得する権利を既存株主に付与することにより、既存株主の利益を十分に配慮するよう定めています。これは、新会社の既存株式の現物分配、新会社の既存株式または新株式の募集時の優先的な応募、いずれかの方法によって行うことができます。 典型的な現物分配の場合、新会社は親会社の既存株主に対し、直接または親会社を通じて持分割合に応じて新株を発行します。優先購入権の付与により確約された権利が提供される場合、新会社は親会社の既存株主に、IPO時に新会社の株式を優先的に購入する権利を付与します。親会社が株主に確約権利を提供しないことを決定した場合、または実務上の問題により確約権利を株主に提供できない場合、株主の承認を得るか、または上場委員会に適用免除を求めなければなりません。 その他の懸念事項:HKEXは通常、上場後3年以内のスピンオフの提案については検討しません。 現物分配を伴うスピンオフでは、上場スケジュールとの関連での分配条件、分配を承認する取締役会のタイミング、基準日、株主名簿の閉鎖、株券の発送等、分配の仕組みを慎重に設計しなければなりません。 最後に、スピンオフとIPOのいずれにおいても、上場予定会社の親会社/株主を法的に拘束する契約、関連する重要な資産または事業の処分に関する同意、制限または拒否権などを評価し、これらに対応する必要があります。 !function(e,n,i,s){var d="InfogramEmbeds";var o=e.getElementsByTagName(n);if(window&&window.initialized)window.process&&window.process();else if(!e.getElementById(i)){var r=e.createElement(n);r.async=1,r.id=i,r.src=s,o.parentNode.insertBefore(r,o)}}(document,"script","infogram-async","https://e.infogram.com/js/dist/embed-loader-min.js"); 結論 香港株式市場では、スピンオフと上場は比較的成熟しており、スピンオフは上場企業が資本資源を管理し、自らの事業展開のために新たな資本を調達するための効果的な手段となっています。 近年、多くの香港上場企業が事業の一部をスピンオフさせ、個別の上場を成功させています。その中でも、不動産開発会社から不動産管理会社がスピンオフするケースがかなりの割合を占めています。 2023年、アリババとJD.comという2つの電子商取引(EC)の大手がスピンオフ計画を発表したことを受け、スピンオフはさらに多様な産業で関心を集めていると考えられます。2022年から2023年にかけて、テクノロジー、バイオ医薬品、金融、不動産、製造、消費財、エネルギー産業の40社超の香港上場企業がスピンオフし、香港または中国国内の証券市場に新規上場する意向を発表しています。 JINGTIAN & GONGCHENG Suites 3203-3207, 32/F, Edinburgh Tower, The Landmark, 15 Queen's Road, Central Hong Kong, China 電話番号:+852 2926 9300 電子メール:jingtianhk@jingtian.com www.jingtian.com
Chinese companies step towards US listing

米国上場に向けて踏み出す数百の中国企業

By Wang Xianzhong、W&H Law Firm
米国上場に向けて踏み出す数百の中国企業 スピンオフ成功事例の著しい増加 中国証券監督管理委員会の国内企業の海外での証券発行・上場に関する試行管理弁法が、2023年3月31日に施行され、同時に関連ガイドラインも発表されました。 2023年11月27日の民間経済の成長を後押しするための金融支援強化に関する通知によると、「対象となる民間企業が国内外の市場および資源を最大限に活用できるよう、海外の証券取引所への上場を支援する」としています。この通知は、中国人民銀行(以下「PBOC」)、国家金融監督管理局(以下「NAFR」)、中国証券監督管理委員会(以下「CSRC」)を含む中国の8つの規制機関が共同で発表したものです。 2023年12月6日までに、200社近くの中国企業がCSRCに申請届出を行い、52社が海外への上場登録を完了し、登録通知を受領しました。そのうち21社が米国の証券取引所への上場を選択し、4社がニューヨーク証券取引所(以下「NYSE」)、17社がナスダックに上場しました。 米国の資本市場は多層構造になっています。NYSEとナスダックは、継続的な重層化と進化によって、成熟度を増しつつあります。ナスダックは、グローバル・セレクト・マーケット、グローバル・マーケット、キャピタル・マーケットの3つの階層に分かれています。ナスダック・グローバル・セレクト・マーケットは最も上場基準が高く、基準が最も低いのはナスダック・キャピタル・マーケットです。CSRCへの届出が完了し、ナスダック市場への上場を予定している中国企業のうち、12社が選択した市場の階層を公表しています。1社がナスダック・グローバル・マーケットを、残りの11社がナスダック・キャピタル・マーケットを選択しています。下表にナスダック・キャピタル・マーケットの上場基準を示します。 上場基準:上場基準が低いことは、中国企業にとって最も魅力的です。ナスダックに上場している中国企業の中では、新規上場時には通常「純利益基準」が採用されています。この基準により課される純利益要件は、中国本土での上場を目指す企業に課される財務要件よりもはるかに低いものです。 上場企業:ナスダック・キャピタル・マーケットへの上場は、主に小規模のテクノロジー企業および高成長の新興企業を対象としています。ナスダック・キャピタル・マーケットは、高成長、ハイテクおよび革新的事業に関心を持ち、テクノロジー革新企業や高成長企業への投資に極めて積極的な投資家基盤を形成してきました。したがって、中国を拠点とするテクノロジー企業や高成長の新興企業がナスダック・キャピタル・マーケットに上場すれば、投資家の支持を得てより高い評価を得られる可能性が高くなります。 上場形態:ナスダック・キャピタル・マーケットで利用可能な上場形態には、IPO、ADR、逆さ合併、特別買収目的会社(以下「SPAC」)が含まれます。企業は、自社の状況に最適な上場形態を選択することができます。SPAC形態を採用した場合、上場の成否にかかわらず、割当完了後に直ちに株式の売買が可能となり、上場までに必要な期間が実質的に短縮されます。この形態は、米国での上場を目指す中国の中小企業にとって非常に魅力的です。 !function(e,n,i,s){var d="InfogramEmbeds";var o=e.getElementsByTagName(n);if(window&&window.initialized)window.process&&window.process();else if(!e.getElementById(i)){var r=e.createElement(n);r.async=1,r.id=i,r.src=s,o.parentNode.insertBefore(r,o)}}(document,"script","infogram-async","https://e.infogram.com/js/dist/embed-loader-min.js"); さらに、ナスダック・キャピタル・マーケットの流動性水準の高さは、企業がより大きな資金調達の機会を比較的容易に獲得できることを意味しています。頻繁な取引は、価格発見機能にも弾みをつけることとなります。 公開情報によると、変動持分事業体(以下「VIE」)構造の遵守は、海外での上場を登録申請中の企業のコンプライアンス審査に関連して、CSRCが定めた優先事項リストに挙げられています。フィードバックでは通常、VIE設立や逆さ合併に関わる為替管理、海外投資、その他の規制上の手続き、および法律に従った税金や手数料の支払いに関する追加情報の提供を発行体に求めています。VIE構造は複雑であるため、CSRCはVIE構造の発行体を審査する際、国家発展改革委員会、工業・情報化部、商務部等の当局に意見を求めることがあり、その結果、登録期間が延長されることになります。 2023年8月、CSRCは中国企業の海外上場ルートを、引き続き利用可能にすることを明らかにしました。現在までにVIE登録に成功した企業には、J&T Express(香港レッドチップ上場)、Cheche Technology(米国SPAC上場)が挙げられます。この成功は、VIEを通じて海外で上場を目指す企業に自信をもたらしています。 VIE構造に加えて、CSRSは、従業員持株報奨プランの遵守(各プランが意思決定手続きや外国為替に関する国内規制手続きを経ているか否かを含む)、個人情報保護やデータ・セキュリティ(第三者への情報提供の有無、必要な情報保護の実施の有無を含みます)にも特に注意を払っています。 米国では、米国証券取引委員会(以下「SEC」)の「中国における最近の動向に関連する投資家保護および中国を拠点とする発行体に対する開示上の留意事項に関する声明」において、米国上場を目指す中国企業に関する以下の情報の正確性について、SECが懸念を抱いていることが明らかにされています。 財務諸表の信憑性 情報の取得および監督 発行体の組織構造 規制環境 株主の権利 コーポレート・ガバナンス 仲介業者が提出する報告書の差異 関連する事実の説明は、より正確で詳細かつ包括的でなければならず、以下の対象に絞った方法で開示しなければなりません。 ペーパーカンパニーと実際の事業者を区別するための発行体の事業内容 中国の政策変更に起因する、発行体の財政状態や主要契約の履行の不確実性 詳細な財務情報 運営主体および、該当する場合、発行体がCSRCへの届出を完了しているか否か 外国企業説明責任法で義務付けられている、発行体が契約している会計事務所による調査 チャンスがあるところには大抵、課題も存在しています。米国のような優れた資本市場への上場は、発行体にとってプラスのシグナル効果をもたらします。また、国内外の資本市場の厳格な規制制度は、投資家の間で広く認知されることにつながります。 発行体は、自らを正確に位置づけ、適切な上場市場を選択することが推奨されます。コンプライアンスに関するガイダンスを提供し、持分またはVIEの構造、国内外の株主を十分に理解し、情報セキュリティのような注意が必要となる業界が関わる事業活動について慎重な評価を行い、国内外の法令遵守のために海外への上場に向けた上場前手続きを適時に完了するには、適格な仲介業者に可能な限り早期に業務を依頼すべきです。 W&H Law Firm 16/F, Block A, China Technology Exchange Center No 66 West North 4th Ring,...
Exploring capital market trends and regulations

上昇か、下落か、大変動か

アジアの資本市場の牙城で生じているトレンドとは? そして、それを後押しするのはどのような規制なのか? 米国上場に向けて踏み出す数百の中国企業 スピンオフ成功事例の著しい増加 中国証券監督管理委員会の国内企業の海外での証券発行・上場に関する試行管理弁法が、2023年3月31日に施行され、同時に関連ガイドラインも発表されました。 2023年11月27日の民間経済の成長を後押しするための金融支援強化に関する通知によると、「対象となる民間企業が国内外の市場および資源を最大限に活用できるよう、海外の証券取引所への上場を支援する」としています。この通知は、中国人民銀行(以下「PBOC」)、国家金融監督管理局(以下「NAFR」)、中国証券監督管理委員会(以下「CSRC」)を含む中国の8つの規制機関が共同で発表したものです。 2023年12月6日までに、200社近くの中国企業がCSRCに申請届出を行い、52社が海外への上場登録を完了し、登録通知を受領しました。そのうち21社が米国の証券取引所への上場を選択し、4社がニューヨーク証券取引所(以下「NYSE」)、17社がナスダックに上場しました。 米国の資本市場は多層構造になっています。NYSEとナスダックは、継続的な重層化と進化によって、成熟度を増しつつあります。ナスダックは、グローバル・セレクト・マーケット、グローバル・マーケット、キャピタル・マーケットの3つの階層に分かれています。ナスダック・グローバル・セレクト・マーケットは最も上場基準が高く、基準が最も低いのはナスダック・キャピタル・マーケットです。CSRCへの届出が完了し、ナスダック市場への上場を予定している中国企業のうち、12社が選択した市場の階層を公表しています。1社がナスダック・グローバル・マーケットを、残りの11社がナスダック・キャピタル・マーケットを選択しています。下表にナスダック・キャピタル・マーケットの上場基準を示します。 上場基準:上場基準が低いことは、中国企業にとって最も魅力的です。ナスダックに上場している中国企業の中では、新規上場時には通常「純利益基準」が採用されています。この基準により課される純利益要件は、中国本土での上場を目指す企業に課される財務要件よりもはるかに低いものです。 上場企業:ナスダック・キャピタル・マーケットへの上場は、主に小規模のテクノロジー企業および高成長の新興企業を対象としています。ナスダック・キャピタル・マーケットは、高成長、ハイテクおよび革新的事業に関心を持ち、テクノロジー革新企業や高成長企業への投資に極めて積極的な投資家基盤を形成してきました。したがって、中国を拠点とするテクノロジー企業や高成長の新興企業がナスダック・キャピタル・マーケットに上場すれば、投資家の支持を得てより高い評価を得られる可能性が高くなります。 上場形態:ナスダック・キャピタル・マーケットで利用可能な上場形態には、IPO、ADR、逆さ合併、特別買収目的会社(以下「SPAC」)が含まれます。企業は、自社の状況に最適な上場形態を選択することができます。SPAC形態を採用した場合、上場の成否にかかわらず、割当完了後に直ちに株式の売買が可能となり、上場までに必要な期間が実質的に短縮されます。この形態は、米国での上場を目指す中国の中小企業にとって非常に魅力的です。 !function(e,n,i,s){var d="InfogramEmbeds";var o=e.getElementsByTagName(n);if(window&&window.initialized)window.process&&window.process();else if(!e.getElementById(i)){var r=e.createElement(n);r.async=1,r.id=i,r.src=s,o.parentNode.insertBefore(r,o)}}(document,"script","infogram-async","https://e.infogram.com/js/dist/embed-loader-min.js"); さらに、ナスダック・キャピタル・マーケットの流動性水準の高さは、企業がより大きな資金調達の機会を比較的容易に獲得できることを意味しています。頻繁な取引は、価格発見機能にも弾みをつけることとなります。 公開情報によると、変動持分事業体(以下「VIE」)構造の遵守は、海外での上場を登録申請中の企業のコンプライアンス審査に関連して、CSRCが定めた優先事項リストに挙げられています。フィードバックでは通常、VIE設立や逆さ合併に関わる為替管理、海外投資、その他の規制上の手続き、および法律に従った税金や手数料の支払いに関する追加情報の提供を発行体に求めています。VIE構造は複雑であるため、CSRCはVIE構造の発行体を審査する際、国家発展改革委員会、工業・情報化部、商務部等の当局に意見を求めることがあり、その結果、登録期間が延長されることになります。 2023年8月、CSRCは中国企業の海外上場ルートを、引き続き利用可能にすることを明らかにしました。現在までにVIE登録に成功した企業には、J&T Express(香港レッドチップ上場)、Cheche Technology(米国SPAC上場)が挙げられます。この成功は、VIEを通じて海外で上場を目指す企業に自信をもたらしています。 VIE構造に加えて、CSRSは、従業員持株報奨プランの遵守(各プランが意思決定手続きや外国為替に関する国内規制手続きを経ているか否かを含む)、個人情報保護やデータ・セキュリティ(第三者への情報提供の有無、必要な情報保護の実施の有無を含みます)にも特に注意を払っています。 米国では、米国証券取引委員会(以下「SEC」)の「中国における最近の動向に関連する投資家保護および中国を拠点とする発行体に対する開示上の留意事項に関する声明」において、米国上場を目指す中国企業に関する以下の情報の正確性について、SECが懸念を抱いていることが明らかにされています。 財務諸表の信憑性 情報の取得および監督 発行体の組織構造 規制環境 株主の権利 コーポレート・ガバナンス 仲介業者が提出する報告書の差異 関連する事実の説明は、より正確で詳細かつ包括的でなければならず、以下の対象に絞った方法で開示しなければなりません。 ペーパーカンパニーと実際の事業者を区別するための発行体の事業内容 中国の政策変更に起因する、発行体の財政状態や主要契約の履行の不確実性 詳細な財務情報 運営主体および、該当する場合、発行体がCSRCへの届出を完了しているか否か 外国企業説明責任法で義務付けられている、発行体が契約している会計事務所による調査 チャンスがあるところには大抵、課題も存在しています。米国のような優れた資本市場への上場は、発行体にとってプラスのシグナル効果をもたらします。また、国内外の資本市場の厳格な規制制度は、投資家の間で広く認知されることにつながります。 発行体は、自らを正確に位置づけ、適切な上場市場を選択することが推奨されます。コンプライアンスに関するガイダンスを提供し、持分またはVIEの構造、国内外の株主を十分に理解し、情報セキュリティのような注意が必要となる業界が関わる事業活動について慎重な評価を行い、国内外の法令遵守のために海外への上場に向けた上場前手続きを適時に完了するには、適格な仲介業者に可能な限り早期に業務を依頼すべきです。 W&H Law Firm 16/F, Block A, China Technology Exchange Center No 66 West North 4th Ring,...
healthtech regulatory issues korea

北アジアでのヘルステック規制に関する問題の比較:韓国

By 金聖泰、金玹郁そして卞榮植、法務法人(有)世宗 ソウル
日本 韓国 韓国の医療保障制度は、加入が義務付けられている健康保険と医療給付によって構成されています。国民の97%超が国民健康保険(以下「NHI」といいます)制度に加入しており、残りの3%は低所得者向けの公的支援による医療給付を受けています。 韓国のNHI制度は、主に保健福祉部(以下「MOHW」といいます)、国民健康保険公団(以下「NHIS」といいます)、健康保険審査評価院(以下「HIRA」といいます)が管理しています。具体的には、MOHWがNHI制度を監督し、NHISが保険者として機能し、HIRAが審査・評価機関として機能しています。 2022年時点での韓国の健康保険費用総額は約100兆ウォン(約762億2,000万米ドル)に達し、そのうちの約23兆ウォンが医薬品費でした。韓国はポジティブリスト制度を採用しており、費用対効果が高いと判断された医薬品だけが償還の対象となります。MOHWは、NHIによる償還の対象となる医薬品の価格を規制し、最高薬価(以下「MRP」といいます)を設定・公表しています。韓国のNHIでは、薬価とは一般的にMRPを指します(本稿でも同様です)。 食品医薬品安全処が医薬品の安全性と有効性に基づき販売を承認した後、製薬会社または輸入業者は、NHIに薬価収載を申請することができます。その後、HIRAの医薬品償還評価委員会が、臨床的有用性と費用対効果を評価し、薬価収載の可否とその後の薬価交渉に向けた初回薬価を決定します。 医薬品が薬価収載に適格と判断された場合、NHISと製薬会社は、その財政上の影響に基づいて薬価交渉を行います。高額な抗がん剤や特定の基準を満たす希少疾患治療薬については、NHISと製薬会社が新薬の有効性、効果および財政上の影響に関する不確実性を共有するリスク分担契約を締結することができます。 薬価決定後、MOHWに属する健康保険政策審査委員会が薬価を審査・承認します。その後、薬価収載を有効にする通知をMOHWが発行します。 HIRAの評価やNHISの薬価交渉をはじめとするこれらの手続きは、新薬等の初収載医薬品に適用されます。一方、後発医薬品やコンビネーション製品は、すでに収載されている医薬品の価格に基づき、MOHWが設定した算定基準に従って収載され、価格設定されます。 収載された薬価を管理するため、または薬価収載を取り消すために、さまざまな収載後管理制度が設けられています。このような制度には以下が含まれます。 実際の取引価格が、MOHWが発表したMRPを下回った場合の薬価引き下げ 医薬品使用量が規定の基準値を超えた場合のNHISとの交渉による薬価引き下げ、 補償範囲の拡大後に請求が増加することを見越した薬価引き下げ 後発医薬品の参入に伴う先発医薬品の薬価引き下げ 再評価による薬価収載の取り消しや薬価引き下げ 既収載医薬品の再評価 2019年に最初の国民健康保険総合計画が発表された後、MOHWは再評価制度を導入しました。韓国には現在、既収載医薬品の再評価制度が4つあります。 (1)基準要件の再評価。この制度は、交渉ではなく算定基準に基づいていた従来の薬価制度から、独自の生物学的同等性試験の実施と、ドラッグマスターファイルの登録という2つの基準を満たすか否かで薬価に差をつける新たな方式に、2020年7月1日より移行しました。この制度では、旧基準で価格設定されたすべての既収載医薬品は、現行価格を維持するためには新たな要件に適合する必要があります。その結果、2023年9月に約7,000品目の薬価が引き下げられ、2024年初頭にはその他の医薬品の価格のさらなる調整(引き下げ)のために2回目の再評価が予定されています。 (2)承認事項が変更された医薬品の再評価。この制度は、NHIの薬価収載基準に関する規則の改正に伴い、2020年10月8日から実施されており、原薬の変更等、医薬品の販売承認事項の変更に対応するにあたり、必要に応じてNHIの薬価収載資格またはMRPを調整する権限をMOHWに付与するものです。しかし、この制度は大きな法的課題に直面しています。最初の申請は、適用価格の引き下げ決定に不服を申し立てる製薬会社が行政訴訟を提起するに至りました。法務法人(有)世宗が代理人となって大法院で勝訴し、それ以来、この制度の適用は発表されていません。 (3)償還の妥当性に関する再評価。2020年に開始されたこの制度では、MOHWが毎年医薬品を選定し、償還を継続すべきか否かを評価します。この評価プロセスでは、臨床的有用性、費用対効果および社会的必要性が考慮されます。この制度は製薬業界にかなりの負担を強いるものであると申し立てられています。2023年10月、ソウル行政法院は、法務法人(有)世宗を代理人とする製薬会社を支持する判決を下しました。これは、この制度に基づく価格引き下げに対する業界の異議申し立てが初めて成功した事例として注目されています。 (4) 外国の薬価との比較による再評価。MOHWは、2024年初頭に実施予定の計画を発表し、特許期限の失効した先発品や後発医薬品を含む既収載医薬品の価格を、米国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、スイス、日本およびカナダの8カ国の価格と比較することで引き下げる予定です。この近々に実施される再評価が引き金となり、特に薬価引き下げにつながる場合には、製薬業界から法的な異議申し立てがなされる可能性があると予想されています。 差止・償還法 薬価を引き下げたり、医薬品の薬価収載を取り消したりするMOHWの通達は行政処分とみなされ、行政訴訟を通じて争うことができます。製薬会社が差止命令を申し立て、認められた場合、MOHWの処分は無効となります。 製薬会社が差止命令を認められ、後に本案で敗訴した場合、製薬会社は差止命令期間中にNHISが支払った償還金の差額の全部または一部について、NHISの費用を弁済する必要があります。逆に、製薬会社が差止命令を申し立てずに訴訟を進め、最終的に勝訴した場合、NHISは償還費用の差額の全部または一部を返金する必要があります。 この法律は、国民健康保険法を改正するもので、2023年11月20日に施行されました。償還および払い戻しの規定が盛り込まれているため、この仕組みは、差止・償還・払戻し法と呼ばれています。 MOHWによる薬価引き下げ処分に対して差止命令を求める製薬業界の姿勢にこの法律が与える影響に関して、意見が分かれています。敗訴後に償還しなければならない可能性があるため、企業が差止命令の追求をためらうことも考えられるという意見がある一方、この法律が企業の意思決定に大きな影響を与えることはないという意見もあります。また、この法律が裁判を受ける権利を侵害するか否かについて懸念の声もあります。 支出の開示 支出報告制度は、薬事法および医療機器法によって義務付けられており、製薬会社および医療機器会社に、医療従事者(以下「HCP」といいます)に提供された経済的利益について詳細に記録し、関連する証拠資料を保管することを義務付けています。 米国のサンシャイン法から着想を得たこの制度は、韓国で2018年に導入されました。その主な目的は、医薬品および医療機器取引の透明性を高め、これらの業界における自発的な倫理的慣行を促進することです。 最近の改正により、これらの要求事項の範囲が拡大され、医薬品供給業者に加え、医薬品販売請負業者も適用の対象となり、支出報告書の作成、保管および提出が義務づけられることとなりました。また、これらの報告義務の不遵守に対する刑事罰が厳罰化されています。 この制度の実効性を高めるため、支出報告書の作成状況に関する実態調査の実施と報告書の開示に関する規定が設けられました。調査結果は2023年12月29日に公表され、支出報告書の最初の開示は2024年8月頃になる予定です。 しかし、支出報告書の開示について大きな懸念が浮上しています。特に、報告書にHCPの氏名等の個人情報が含まれている場合、プライバシー侵害のリスクがあります。さらに、臨床試験データなどの専有情報を明らかにすることは、営業秘密の不正使用のリスクを孕んでいます。また、支出報告書が一般に公開されることにより、HCPが製薬会社等から不当に経済的利益を得ているという誤解を招く可能性もあります。このような誤解は、HCPが適切な製品プレゼンテーションや学会等の正当な活動に参加する意欲を失わせかねません。 2024年の最初の支出報告書の開示に向け、いくつかの重要な課題について目下協議されています。これらの課題には、HCPに関する個人情報開示の適切な水準の決定、支出報告書の開示制度について効果的に公衆を啓蒙する戦略の策定、および支出報告書の開示に起因するHCPと企業との潜在的な対立の解決が含まれます。 SHIN & KIM 23F, D-Tower (D2), 17 Jongno 3-gil, Jongno-gu, Seoul 03155, Korea Tel: +82 2 316 4114 Email: shinkim@shinkim.com
A comparison of healthtech regulatory issues in North Asia

北アジアのヘルステック規制の注目点

韓国では薬価と還付が最優先課題になっています。一方、日本では、デジタルテクノロジーが医療情報にもたらし得るインパクトが模索されています。 日本 韓国 日本 医療技術は日本で大きな注目を集めており、日本の医療産業の市場規模は今後も拡大することが見込まれます。経済産業省の報告書によると、医療産業の産業価値は2025年までに33兆円(2300億米ドル)に達すると予測されています。また、医療技術に関する特許の出願件数は着実に増加しており、日本特許庁によれば、2013年から2019年にかけて世界全体で倍増しています。日本政府は、ヘルステックおよび医療デジタルトランスフォーメーション(以下「DX」といいます)を推進しており、DXの進捗状況を共有・検証するため、2022年に内閣府にいわゆる「医療DX推進本部」を設置しました。その任務は、個人健康記録 (PHR) の利用を促進することのようであり、推進本部は政府が発行するIDカードが個人健康記録のポータルとなることを期待しています。どのような方向に進むにせよ、医療DXをはじめとするヘルステックにおいて、個人情報保護は重要な法的課題となっています。 情報共有に関する問題 医療DXは、大量の医療情報の入手可能性の向上と、個人情報の適切な保護という相反する課題を同時に解決しなければなりません。 医療情報は当然のことながら「個人情報」に分類され、日本の個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」といいます)に基づき保護されています。さらに、医療情報は「要配慮個人情報」として、より厳重な保護の対象となっています。 個人情報保護法では、原則として、要配慮個人情報を第三者に提供するにはデータ主体の同意を得ることが求められています。しかし、個別のオプトインによる同意の取得は、研究等のために大量の医療情報を収集・分析したいと考える医療機関にとって、実務上困難な作業です。 個人情報保護法では、これに対する代替手段が規定されており、医療情報を含む要配慮個人情報は、個人を特定できないように匿名化されていれば、データ主体の同意なしに第三者に提供することができます。しかし、この代替手段を用いる場合、各医療機関はデータを匿名化するという負担を強いられます。もう一つの欠点は、匿名化された医療データには相互参照情報が欠如しているため、匿名化された医療データを受領した研究機関は、機関横断的な分析を行うことができないことです。 次世代の法律 このような課題を解決するために、2018年5月11日に、次世代医療基盤法(正式名称「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律」)が施行されました。 この法律は、健康診断結果や医療記録等の匿名化された個人医療情報の、医療分野の研究開発への活用の推進を目的として設計されています。また、同法では、申請事業者が一定の技術的基準(高度な情報セキュリティが確保されているか、十分な匿名化技術を有しているか等)を満たしているか否か、および申請事業者が医療情報の管理・利用を目的として、匿名化を適切かつ確実に実施できるか否かを、政府が審査する認証制度についても定められています。 医療機関は、データ主体が医療情報の提供を拒否(オプトアウト)しない限り、認証された事業者に医療情報を提供することができます。認証を受けた事業者は、情報を匿名化し、匿名化された医療データを医療研究開発のために研究機関に提供することができます。 つまり、次世代医療基盤法は、個人の権利と利益を保護しつつ、データ主体が医療情報の提供を拒否しない限り、認定された事業者にのみ医療情報が提供されるようにすることにより、医療情報の利用を促進する仕組みを策定することを目指したものです。 次世代医療基盤法の改正 しかし、認証された事業者が、匿名化された医療データの形でしか研究機関にデータを提供できないという諸問題が、未解決のまま取り残されています。これは以下のことを意味しています。 (1)研究機関が、少数の症例のデータや特異なデータを希望しても、そのようなデータは他のデータと組み合わせると個人が特定される可能性があるため、実際には使用することができません。 (2) 改正前の次世代医療基盤法では、経時的な病状の変化を追跡するために、個々の患者の医療データを提供し続けることはほぼ不可能です。 (3)研究機関が匿名化された医療データを分析した結果、さらに研究が必要であることがと判明したとしても、データ主体の医療記録から、匿名化された医療データの形式で他の医療情報の提供を受けることは、ほぼ不可能です。 (4)特定の匿名化された医療データの信頼性を、医療記録等の元の医療情報まで遡って検証することは、それが望ましい場合であっても不可能です。 このような問題に対処するため、次世代医療基盤法は2023年5月に改正され、後に「仮名化医療データ」と名付けられるデータカテゴリーが新たに追加されました。改正法は公布から1年以内、つまり2024年5月までに施行されます。 仮名化医療データとは、他の情報と照合しない限り個人を特定できないように処理されたデータをいいます。この新しいデータカテゴリーに分類されるために、個人医療情報から固有のデータを削除する必要はありません。ただし、氏名やその他の識別情報は削除する必要があります。 改正法では、以下のような仕組みが確立されています。 仮名化医療データを作成・提供する事業者を認定し、認定された事業者が、安全管理等の基準に基づき政府によって認定された利用者に対してのみ、仮名化医療データを提供できるようにします。 第1の仕組みは、仮名化医療データを作成・提供できる事業者を政府が認定するというもので、匿名化された医療データの仕組みと共通の構造を有しています。一方、第2の仕組みは、仮名化医療データ特有のものです。 仮名化医療データは、匿名化された医療データよりも個人を特定できるリスクが高いため、政府の認証により利用者も制限されています。また、医薬品の製造販売承認申請のために、認証された利用者は、医薬品医療機器総合機構(PMDA)および仮名化医療データの仕組みを採用する外国の規制当局を含む他の規制当局に、仮名化医療データを提供することができ、認証された事業者は当局に元のデータを提出することができます。 ヨーロッパの類似法令 改正次世代医療基盤法には、欧州委員会が提案している欧州医療データスペース(以下「EHDS」といいます)と共通点があると考えられます。EHDSは医療データの一次利用および二次利用を規制することを目的としています。注: 一次利用とは、データ主体による利用を指し、患者が医療記録、処方箋および検査結果をEU加盟国間で互換性のある電子データとして保持できるようにすることを目的としています。二次利用とは、研究開発や政策立案などでの利用を指します。 EHDS案では、加盟国は、二次利用のために電子医療データへのアクセスを許可する責任を負う1つ以上の医療データアクセス機関(以下「HDAB」といいます)を指定しなければなりません。データ利用者はHDABにデータへのアクセスを申請し、許可されれば医療データを利用することができます。 この枠組み案では、データ利用者はHDABによって処理された匿名化または仮名化された医療データのみを利用することができます。改正次世代医療基盤法は、特定の政府指定機関がデータ提供者・データ処理者となり、匿名化または仮名化医療情報を利用可能にすることにより、医療情報の利用範囲をさらに広げることを目指すという点で、EHDS案の二次利用の仕組みと共通点があると言えます。 日本の個人情報保護制度は、データ主体の同意に大きく依存しています。しかし、改正次世代医療基盤法やEHDS案のように、データ主体の同意なく個人情報を利用できる制度設計が次々と検討されていることは、日本においても個人情報保護への同意中心主義的アプローチそのものを見直すべきことを示唆していると考えられます。 展望 次世代医療基盤法とその改正法は、医療情報の利用促進を意図したものであり、現実的な問題を解決したことに間違いはありません。しかしながら、システム自体の認知度が低いこともあり、それほど活用されていません。 ただし、今後もあまり使われないということを必ずしも意味するものではありません。著者らは、医療DXの勢いは衰えないと考えています。データベースや他のプラットフォームが整備され、医療情報の活用がさらに活発になる頃には、医療分野にも精通した個人情報保護法の専門家の需要がさらに高まることとなるでしょう。 杉村萬国特許法律事務所 コモンゲート西館36階 千代田区霞が関三丁目2番1号 〒100-0013東京都 電話番号: +81 3 3581 2241 電子メール:legal@sugimura.partners 電子メール:jpatent@sugimura.partners 韓国 韓国の医療保障制度は、加入が義務付けられている健康保険と医療給付によって構成されています。国民の97%超が国民健康保険(以下「NHI」といいます)制度に加入しており、残りの3%は低所得者向けの公的支援による医療給付を受けています。 韓国のNHI制度は、主に保健福祉部(以下「MOHW」といいます)、国民健康保険公団(以下「NHIS」といいます)、健康保険審査評価院(以下「HIRA」といいます)が管理しています。具体的には、MOHWがNHI制度を監督し、NHISが保険者として機能し、HIRAが審査・評価機関として機能しています。 2022年時点での韓国の健康保険費用総額は約100兆ウォン(約762億2,000万米ドル)に達し、そのうちの約23兆ウォンが医薬品費でした。韓国はポジティブリスト制度を採用しており、費用対効果が高いと判断された医薬品だけが償還の対象となります。MOHWは、NHIによる償還の対象となる医薬品の価格を規制し、最高薬価(以下「MRP」といいます)を設定・公表しています。韓国のNHIでは、薬価とは一般的にMRPを指します(本稿でも同様です)。 食品医薬品安全処が医薬品の安全性と有効性に基づき販売を承認した後、製薬会社または輸入業者は、NHIに薬価収載を申請することができます。その後、HIRAの医薬品償還評価委員会が、臨床的有用性と費用対効果を評価し、薬価収載の可否とその後の薬価交渉に向けた初回薬価を決定します。 医薬品が薬価収載に適格と判断された場合、NHISと製薬会社は、その財政上の影響に基づいて薬価交渉を行います。高額な抗がん剤や特定の基準を満たす希少疾患治療薬については、NHISと製薬会社が新薬の有効性、効果および財政上の影響に関する不確実性を共有するリスク分担契約を締結することができます。 薬価決定後、MOHWに属する健康保険政策審査委員会が薬価を審査・承認します。その後、薬価収載を有効にする通知をMOHWが発行します。 HIRAの評価やNHISの薬価交渉をはじめとするこれらの手続きは、新薬等の初収載医薬品に適用されます。一方、後発医薬品やコンビネーション製品は、すでに収載されている医薬品の価格に基づき、MOHWが設定した算定基準に従って収載され、価格設定されます。 収載された薬価を管理するため、または薬価収載を取り消すために、さまざまな収載後管理制度が設けられています。このような制度には以下が含まれます。(1)実際の取引価格が、MOHWが発表したMRPを下回った場合の薬価引き下げ、(2)医薬品使用量が規定の基準値を超えた場合のNHISとの交渉による薬価引き下げ、(3)補償範囲の拡大後に請求が増加することを見越した薬価引き下げ、(4)後発医薬品の参入に伴う先発医薬品の薬価引き下げ、(5)再評価による薬価収載の取り消しや薬価引き下げ。 既収載医薬品の再評価 2019年に最初の国民健康保険総合計画が発表された後、MOHWは再評価制度を導入しました。韓国には現在、既収載医薬品の再評価制度が4つあります。 (1)基準要件の再評価。この制度は、交渉ではなく算定基準に基づいていた従来の薬価制度から、独自の生物学的同等性試験の実施と、ドラッグマスターファイルの登録という2つの基準を満たすか否かで薬価に差をつける新たな方式に、2020年7月1日より移行しました。この制度では、旧基準で価格設定されたすべての既収載医薬品は、現行価格を維持するためには新たな要件に適合する必要があります。その結果、2023年9月に約7,000品目の薬価が引き下げられ、2024年初頭にはその他の医薬品の価格のさらなる調整(引き下げ)のために2回目の再評価が予定されています。 (2)承認事項が変更された医薬品の再評価。この制度は、NHIの薬価収載基準に関する規則の改正に伴い、2020年10月8日から実施されており、原薬の変更等、医薬品の販売承認事項の変更に対応するにあたり、必要に応じてNHIの薬価収載資格またはMRPを調整する権限をMOHWに付与するものです。しかし、この制度は大きな法的課題に直面しています。最初の申請は、適用価格の引き下げ決定に不服を申し立てる製薬会社が行政訴訟を提起するに至りました。法務法人(有)世宗が代理人となって大法院で勝訴し、それ以来、この制度の適用は発表されていません。 (3)償還の妥当性に関する再評価。2020年に開始されたこの制度では、MOHWが毎年医薬品を選定し、償還を継続すべきか否かを評価します。この評価プロセスでは、臨床的有用性、費用対効果および社会的必要性が考慮されます。この制度は製薬業界にかなりの負担を強いるものであると申し立てられています。2023年10月、ソウル行政法院は、法務法人(有)世宗を代理人とする製薬会社を支持する判決を下しました。これは、この制度に基づく価格引き下げに対する業界の異議申し立てが初めて成功した事例として注目されています。 (4) 外国の薬価との比較による再評価。MOHWは、2024年初頭に実施予定の計画を発表し、特許期限の失効した先発品や後発医薬品を含む既収載医薬品の価格を、米国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、スイス、日本およびカナダの8カ国の価格と比較することで引き下げる予定です。この近々に実施される再評価が引き金となり、特に薬価引き下げにつながる場合には、製薬業界から法的な異議申し立てがなされる可能性があると予想されています。 差止・償還法 薬価を引き下げたり、医薬品の薬価収載を取り消したりするMOHWの通達は行政処分とみなされ、行政訴訟を通じて争うことができます。製薬会社が差止命令を申し立て、認められた場合、MOHWの処分は無効となります。 製薬会社が差止命令を認められ、後に本案で敗訴した場合、製薬会社は差止命令期間中にNHISが支払った償還金の差額の全部または一部について、NHISの費用を弁済する必要があります。逆に、製薬会社が差止命令を申し立てずに訴訟を進め、最終的に勝訴した場合、NHISは償還費用の差額の全部または一部を返金する必要があります。 この法律は、国民健康保険法を改正するもので、2023年11月20日に施行されました。償還および払い戻しの規定が盛り込まれているため、この仕組みは、差止・償還・払戻し法と呼ばれています。 MOHWによる薬価引き下げ処分に対して差止命令を求める製薬業界の姿勢にこの法律が与える影響に関して、意見が分かれています。敗訴後に償還しなければならない可能性があるため、企業が差止命令の追求をためらうことも考えられるという意見がある一方、この法律が企業の意思決定に大きな影響を与えることはないという意見もあります。また、この法律が裁判を受ける権利を侵害するか否かについて懸念の声もあります。 支出の開示 支出報告制度は、薬事法および医療機器法によって義務付けられており、製薬会社および医療機器会社に、医療従事者(以下「HCP」といいます)に提供された経済的利益について詳細に記録し、関連する証拠資料を保管することを義務付けています。 米国のサンシャイン法から着想を得たこの制度は、韓国で2018年に導入されました。その主な目的は、医薬品および医療機器取引の透明性を高め、これらの業界における自発的な倫理的慣行を促進することです。 最近の改正により、これらの要求事項の範囲が拡大され、医薬品供給業者に加え、医薬品販売請負業者も適用の対象となり、支出報告書の作成、保管および提出が義務づけられることとなりました。また、これらの報告義務の不遵守に対する刑事罰が厳罰化されています。 この制度の実効性を高めるため、支出報告書の作成状況に関する実態調査の実施と報告書の開示に関する規定が設けられました。調査結果は2023年12月29日に公表され、支出報告書の最初の開示は2024年8月頃になる予定です。 しかし、支出報告書の開示について大きな懸念が浮上しています。特に、報告書にHCPの氏名等の個人情報が含まれている場合、プライバシー侵害のリスクがあります。さらに、臨床試験データなどの専有情報を明らかにすることは、営業秘密の不正使用のリスクを孕んでいます。また、支出報告書が一般に公開されることにより、HCPが製薬会社等から不当に経済的利益を得ているという誤解を招く可能性もあります。このような誤解は、HCPが適切な製品プレゼンテーションや学会等の正当な活動に参加する意欲を失わせかねません。 2024年の最初の支出報告書の開示に向け、いくつかの重要な課題について目下協議されています。これらの課題には、HCPに関する個人情報開示の適切な水準の決定、支出報告書の開示制度について効果的に公衆を啓蒙する戦略の策定、および支出報告書の開示に起因するHCPと企業との潜在的な対立の解決が含まれます。 法務法人(有)世宗  23F, D-Tower (D2), 17 Jongno 3-gil, Jongno-gu, Seoul 03155, Korea 電話番号: +82 2 316 4114 電子メール: shinkim@shinkim.com
북아시아의 의료 기술 규제 문제 비교: 일본

北アジアでのヘルステック規制に関する問題の比較:日本

By 杉村 光嗣、寺田 光邦そして泉 卓也、杉村萬国特許法律事務所
日本 韓国 医療技術は日本で大きな注目を集めており、日本の医療産業の市場規模は今後も拡大することが見込まれます。経済産業省の報告書によると、医療産業の産業価値は2025年までに33兆円(2300億米ドル)に達すると予測されています。また、医療技術に関する特許の出願件数は着実に増加しており、日本特許庁によれば、2013年から2019年にかけて世界全体で倍増しています。日本政府は、ヘルステックおよび医療デジタルトランスフォーメーション(以下「DX」といいます)を推進しており、DXの進捗状況を共有・検証するため、2022年に内閣府にいわゆる「医療DX推進本部」を設置しました。その任務は、個人健康記録 (PHR) の利用を促進することのようであり、推進本部は政府が発行するIDカードが個人健康記録のポータルとなることを期待しています。どのような方向に進むにせよ、医療DXをはじめとするヘルステックにおいて、個人情報保護は重要な法的課題となっています。 情報共有に関する問題 医療DXは、大量の医療情報の入手可能性の向上と、個人情報の適切な保護という相反する課題を同時に解決しなければなりません。 医療情報は当然のことながら「個人情報」に分類され、日本の個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」といいます)に基づき保護されています。さらに、医療情報は「要配慮個人情報」として、より厳重な保護の対象となっています。 個人情報保護法では、原則として、要配慮個人情報を第三者に提供するにはデータ主体の同意を得ることが求められています。しかし、個別のオプトインによる同意の取得は、研究等のために大量の医療情報を収集・分析したいと考える医療機関にとって、実務上困難な作業です。 個人情報保護法では、これに対する代替手段が規定されており、医療情報を含む要配慮個人情報は、個人を特定できないように匿名化されていれば、データ主体の同意なしに第三者に提供することができます。しかし、この代替手段を用いる場合、各医療機関はデータを匿名化するという負担を強いられます。もう一つの欠点は、匿名化された医療データには相互参照情報が欠如しているため、匿名化された医療データを受領した研究機関は、機関横断的な分析を行うことができないことです。 次世代の法律 このような課題を解決するために、2018年5月11日に、次世代医療基盤法(正式名称「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律」)が施行されました。 この法律は、健康診断結果や医療記録等の匿名化された個人医療情報の、医療分野の研究開発への活用の推進を目的として設計されています。また、同法では、申請事業者が一定の技術的基準(高度な情報セキュリティが確保されているか、十分な匿名化技術を有しているか等)を満たしているか否か、および申請事業者が医療情報の管理・利用を目的として、匿名化を適切かつ確実に実施できるか否かを、政府が審査する認証制度についても定められています。 医療機関は、データ主体が医療情報の提供を拒否(オプトアウト)しない限り、認証された事業者に医療情報を提供することができます。認証を受けた事業者は、情報を匿名化し、匿名化された医療データを医療研究開発のために研究機関に提供することができます。 つまり、次世代医療基盤法は、個人の権利と利益を保護しつつ、データ主体が医療情報の提供を拒否しない限り、認定された事業者にのみ医療情報が提供されるようにすることにより、医療情報の利用を促進する仕組みを策定することを目指したものです。 次世代医療基盤法の改正 しかし、認証された事業者が、匿名化された医療データの形でしか研究機関にデータを提供できないという諸問題が、未解決のまま取り残されています。これは以下のことを意味しています。 (1)研究機関が、少数の症例のデータや特異なデータを希望しても、そのようなデータは他のデータと組み合わせると個人が特定される可能性があるため、実際には使用することができません。 (2) 改正前の次世代医療基盤法では、経時的な病状の変化を追跡するために、個々の患者の医療データを提供し続けることはほぼ不可能です。 (3)研究機関が匿名化された医療データを分析した結果、さらに研究が必要であることがと判明したとしても、データ主体の医療記録から、匿名化された医療データの形式で他の医療情報の提供を受けることは、ほぼ不可能です。 (4)特定の匿名化された医療データの信頼性を、医療記録等の元の医療情報まで遡って検証することは、それが望ましい場合であっても不可能です。 このような問題に対処するため、次世代医療基盤法は2023年5月に改正され、後に「仮名化医療データ」と名付けられるデータカテゴリーが新たに追加されました。改正法は公布から1年以内、つまり2024年5月までに施行されます。 仮名化医療データとは、他の情報と照合しない限り個人を特定できないように処理されたデータをいいます。この新しいデータカテゴリーに分類されるために、個人医療情報から固有のデータを削除する必要はありません。ただし、氏名やその他の識別情報は削除する必要があります。 改正法では、以下のような仕組みが確立されています。 仮名化医療データを作成・提供する事業者を認定し、認定された事業者が、安全管理等の基準に基づき政府によって認定された利用者に対してのみ、仮名化医療データを提供できるようにします。 第1の仕組みは、仮名化医療データを作成・提供できる事業者を政府が認定するというもので、匿名化された医療データの仕組みと共通の構造を有しています。一方、第2の仕組みは、仮名化医療データ特有のものです。 仮名化医療データは、匿名化された医療データよりも個人を特定できるリスクが高いため、政府の認証により利用者も制限されています。また、医薬品の製造販売承認申請のために、認証された利用者は、医薬品医療機器総合機構(PMDA)および仮名化医療データの仕組みを採用する外国の規制当局を含む他の規制当局に、仮名化医療データを提供することができ、認証された事業者は当局に元のデータを提出することができます。 ヨーロッパの類似法令 改正次世代医療基盤法には、欧州委員会が提案している欧州医療データスペース(以下「EHDS」といいます)と共通点があると考えられます。EHDSは医療データの一次利用および二次利用を規制することを目的としています。注: 一次利用とは、データ主体による利用を指し、患者が医療記録、処方箋および検査結果をEU加盟国間で互換性のある電子データとして保持できるようにすることを目的としています。二次利用とは、研究開発や政策立案などでの利用を指します。 EHDS案では、加盟国は、二次利用のために電子医療データへのアクセスを許可する責任を負う1つ以上の医療データアクセス機関(以下「HDAB」といいます)を指定しなければなりません。データ利用者はHDABにデータへのアクセスを申請し、許可されれば医療データを利用することができます。 この枠組み案では、データ利用者はHDABによって処理された匿名化または仮名化された医療データのみを利用することができます。改正次世代医療基盤法は、特定の政府指定機関がデータ提供者・データ処理者となり、匿名化または仮名化医療情報を利用可能にすることにより、医療情報の利用範囲をさらに広げることを目指すという点で、EHDS案の二次利用の仕組みと共通点があると言えます。 日本の個人情報保護制度は、データ主体の同意に大きく依存しています。しかし、改正次世代医療基盤法やEHDS案のように、データ主体の同意なく個人情報を利用できる制度設計が次々と検討されていることは、日本においても個人情報保護への同意中心主義的アプローチそのものを見直すべきことを示唆していると考えられます。 展望 次世代医療基盤法とその改正法は、医療情報の利用促進を意図したものであり、現実的な問題を解決したことに間違いはありません。しかしながら、システム自体の認知度が低いこともあり、それほど活用されていません。 ただし、今後もあまり使われないということを必ずしも意味するものではありません。著者らは、医療DXの勢いは衰えないと考えています。データベースや他のプラットフォームが整備され、医療情報の活用がさらに活発になる頃には、医療分野にも精通した個人情報保護法の専門家の需要がさらに高まることとなるでしょう。 杉村萬国特許法律事務所 コモンゲート西館36階 千代田区霞が関三丁目2番1号 〒100-0013東京都 電話番号: +81 3 3581 2241 電子メール:legal@sugimura.partners 電子メール:jpatent@sugimura.partners
Infringing scholastic material

綿密な研究がなされていない、権利を侵害する学習教材

By Manisha SinghそしてPuja Tiwari、LexOrbis
最近のOswaal Books and Learning Private LimitedとBokaro Students Friend Private Limited and Ors間の訴訟で、原告側のOswaal Books and Learning は、被告側のBokaro Students Friendが書籍及び学習教材の海賊版を販売できないように緊急禁止命令を申請し、認められました。 原告は、ICSE、CBSE、及びさまざまな州が実施するボード試験だけでなく、JEE、NEET、CAT、CLAT など、その他の選抜試験用の教育書籍及び学習教材を出版するビジネスを行っており、500地区にある16,000書店のネットワークを通じて書籍を販売しています。原告側は、Oswaal Booksの商標、ロゴ及び書籍の販売名を登録し、学習教材、サンプル問題用紙及び解答の著作権を主張して、各書籍に固有のQRコードを通じて学習教材内の質問に対する解答キーを提供したと主張しています。 権利を侵害する学習教材の購入者は原告に連絡し、QRコードが機能せず、解答キーにアクセスできないと訴えました。原告側は、調査の結果、未知の出版社が同じ表紙の同一の本を販売していることを発見しました。しかし、その教材には欠陥があり、表紙がぼやけていたり、QRコードが機能しなかったり欠落していたり、また印刷の品質が低いなどの問題がありました。偽造された書籍は、明らかに原告のオリジナルの高品質教材ではありませんでした。 原告側の名声と信用は、粗悪な書籍及び教材の流通によって毀損され、経済的損失を被り、学生たちは学習教材の質の低さに苦しみました。裁判所に提出されたサンプルは、権利を侵害した教材で、表面的な類似性を示しており、学生が騙されて偽造された教材を本物だと思い込んで購入してしまう可能性があることを示しました。 原告の調査により、Bokaro Students FriendやKashyap Book Depotなど、権利侵害書籍を供給していたデリーにある供給源が判明し、そこがさまざまな州の多くの書店で偽造書籍を販売していることが確認されました。しかし、供給者と販売者のいずれも原告の法的告知に応じませんでした。 原告は被告の行為に憤慨し、裁判所に被告に対する臨時禁止命令を申し立てました。原告は、海賊版製作行為と偽造行為が学生の経歴を危険にさらし、原告に信用喪失、風評被害、経済的損失をもたらし、被告に不当な利益をもたらしていると主張しました。 原告に対する審理を終え、海賊版とオリジナル本を調査した後、裁判所は、原告が訴訟を認め、被告を拘束するのに良い主張をしたと満足しました。裁判所は、損失が生じたため、比較衡量が原告に有利であると判示しました。裁判所は、被告が原告の商号、トレードドレス、カラースキームを利用して著作権で保護された学習教材やサンプル問題集の海賊版を販売していると認定し、被告に対する訴訟の最終審理が終わるまで差し止め命令を急ぐ必要がありました。 裁判所は被告に対して、原告の登録商標であるOswaal Books、または原告の製品と欺瞞的に類似、または誤って通った、学習教材の著作権を侵害しているその他の標章が付いた如何なる製品も、如何なる方法ででも出版、印刷、販売、宣伝することを禁止する命令を下しました。 裁判所は、必要に応じて警察とともに被告の敷地内に強制的に立ち入る地方委員を任命しました。地方委員は、原告のロゴ、商標、商品名が記載され、原告の出版済み及び未出版の著作権で保護された学習教材を保有するさまざまな施設で、全ての権利侵害教材を収集する権限と指示を受けました。彼らは目録を作成し、当事者の立会いの下で正式に封印され署名された後、裁判所が要請する限り、被告に開示されることになっています。地方委員はまた、元帳、現金登録簿、在庫記録簿、インボイスなどの会計帳簿のコピーを入手するように指示されています。これらは、裁判所が損害賠償を求める際に、原告が被った損失を評価するために使用されます。 Manisha SinghとPuja Tiwariは、LexOrbisのパートナーです。 LexOrbis 709/710 Tolstoy House 15-17 Tolstoy Marg New Delhi – 110...
Trademark cases

商標の訴訟はシルクのように滑らかではない

カルカッタ高等裁判所で行われた最近のBerger Paints India LimitedとJSW Paints Private Limited間の訴訟では、原告Bergerは、被告JSWに対して、原告の商標であるSilkを塗料として使用することを差し止めるように求めました。 原告は1923年から塗料生産事業に携わっており、インドを含む多くの国で大きな存在感を示しています。現在、インドの塗料業界で最も著名な企業の1つとして知られており、この分野ではインド第2位の企業です。原告は、1980年以降、登録商標「Silk」を単独で、または社名であるBerger Lewisと組み合わせて使用していると主張しました。その時から、原告は Luxol Silk、Lewis Berger Silk、Lewis Burger Silk Glamor及びExperience Silkなどのブランドを含む約250の商標を出願しています。 原告は2019年12月、被告による商標侵害の疑いを認識し、同月、停止通知書を発行して、原告の商標「Silk」を単独で、または他のブランドと組み合わせて使用することを直ちに中断するよう被告に求めました。原告は被告に対して、如何なる形態であっても自社の商標であるSilkを宣伝、広報、キャンペーンで使用しないように要請しました。被告はその答弁の中で、商標「Halo Silk」の使用を中止することを拒否したため、裁判所への権利侵害申請が行われました。 裁判所は、Silkは塗料業界で塗料の品質と仕上げを表すためによく使われる言葉であると判断しました。製品は、光沢、マット、サテンなどのさまざまな仕上げで顧客に提供されます。したがって、Silkという言葉の使用は説明的であり、塗装仕上げの特殊な性質を示しています。ですから、Silkという言葉に対する排他的権利を主張する人は誰もいません。 裁判所は、Berger訴訟をさらに棄却し、原告が商標出願で示された方法でのみSilkという言葉を表現すべきであると述べて、4件の商標に付与する条件を受け入れたと指摘しました。さらに登録時に、原告にはSilkという言葉に対する独占的権利が与えられていなかったと判断しました。 裁判所は、異なる商品または製品の商標の希薄化を扱う1999年商標法第29条第4項を分析しました。裁判所は、判決の中で、権利侵害者嫌疑者による商標希薄化訴訟を判定するために、商標権者が立証しなければならない以下の要素を定めました。第一に、商標は同一または類似している必要があります。第二に、商標権者はインドで既に使用されている商標(Senior Mark)の評判を立証する必要があります。第三に、権利侵害者は正当な理由なく、権利を侵害された商標を使用していなければなりません。最後に、権利侵害者は不当な利益を得なければならないか、または商標権者は登録商標の独特の性格や評判に損害を被らなければなりません。 さらに、裁判所は、当事者が使用した商標の外観を比較したところ、製品の形状、パッケージ、色の組み合わせ、被告の商標に使用されている文言などが、原告の商標のものと全く異なると判示しました。これにより、被告の商標が原告の商標と詐欺的に似ているわけではないことが証明されました。被告は、商標Silkを使用することにより自社製品を原告製品として偽装する意図はありませんでした。被告は自社製品をHaloという名前で販売しており、Silkという言葉は単に塗料の品質と仕上げを説明するために使用されていました。これは、原告の商標の希薄化の問題がないことをさらに証明しています。 原告は、被告による商標希薄化訴訟の判定に必要な係争中の主張をいずれも立証していません。Bergerは、被告が使用した商標Silkと既存の商標との間に欺瞞的な類似性があるという事実も立証できませんでした。それで、裁判所は原告が求めた禁止命令を拒否しました。 裁判所は、判決を下すにあたって、商標の保護には製造業者とその製品及びサービスとの間の取引過程でのつながりを確立することが含まれるという点を強調しました。そうしたつながりが製品の原点です。商標権侵害の疑いがある場合は、2 つの商標を並べて比較することによって評価する必要があります。このようにして、裁判所は混乱と欺瞞の可能性を判断することができます。 Manisha SinghはLexOrbisのパートナーであり、Shubhankar Sushil Sharmaはアソシエイツです。 LexOrbis 709/710 Tolstoy House 15-17 Tolstoy Marg New Delhi – 110 001 India www.#lexorbis#.com Mumbai | Bengaluru 連絡先の詳細: 電話: +91 11...
Cayman islands’ pro-arbitration reputation

ケイマン諸島での外国仲裁のための指針

By Jeremy Lightfoot、Kimberley Lengそして Yi Yang、Carey Olsen 香港
ケイマン諸島は仲裁に積極的であるという評判が、最近の動向により高まっています。 2023年8月、地方裁判所は初めて、外国の仲裁を支援するために仮処分を認める独立した権限を有するとの判決を下しました。この判決は中国の仲裁に関するもので、2012年仲裁法(以下「AA」といいます)第54条に基づき下されました。 さらに、地方裁判所は2024年初頭、ニューヨーク条約加盟国が発表した暫定的仲裁措置がケイマン諸島の法律の下で執行可能であることを確認する判決を下しました。これはこの種の判決としては初めて公表されたものです。 本稿では、アジアの仲裁参加者にとって重要な意味を持つ可能性のあるこれらの判決について検討します。 中国の仲裁に関連する差止命令 Leed Education Holding Ltd ら対Minsheng Vocational Education Company Ltd(2023年8月3日)において、原告は、地方裁判所法(以下「GCA」といいます、2015年改正)第11A条およびAA第54条に基づき、ケイマン諸島裁判所に対し、暫定的な差止命令による救済を求めました。 その目的は、香港と北京で行われた2つの仲裁(以下「中国仲裁」といいます)の決着がつくまで、一定数の株式に対して設定された担保(担保権)の被告による実行を阻止することでした。中心となる争点は、特定のローンが返済されたか否かであり、この争点は担保権の実行をめぐる争点と密接に結びついていました。もしローンが返済されれば、担保付き債務は存在せず、したがって担保物件に対する担保権も存在しないと考えられます。 まず、暫定救済を認める管轄権の根拠について、Segal判事は、AA第54条が導入された時点ではGCA第11A条は施行されていなかったため、後者を前者との相互参照として解釈することはできないと指摘しました。 その代わりに、第54条は、外国裁判所の訴訟手続のための暫定的救済を扱う別の法定規則を満たし考慮することを直接必要とせず、外国仲裁を支援する暫定的救済を認める裁判所の独立した権限を確認するものとして理解されるべきです。 両規定で考慮すべき事項に重複する部分はありますが、実質的には第54条は、国際仲裁における裁判所の介入を考慮し制限する規則を尊重し、これを実施するという追加的な要件を課すものです。 第54条は「仲裁手続に関する」暫定的救済措置に言及しています。暫定措置の発動には、求められる暫定措置と外国の仲裁との間に十分な関連性がある必要があり、その評価は以下の2つの要素から成ります。 第一に、紛争が仲裁の範囲に該当すると合理的に論証可能であり(または審理されるべき重大な事件があり)、そのため中国仲裁に適切に付託されたということを原告が証明したか否か。 第二に、第一の点について裁判所が納得した場合、中国仲裁で求められる権利と救済を保護するために、暫定的救済が必要であり適切に求められているか否か。 裁判所は、原告が上記の両方の要件を満たしていることを確認しました。 しかし、暫定的救済を認める決定を裁判所が下すべきか否かを判断するにあたり、判事は、国際仲裁における限定的な裁判所の介入の原則を遵守することの重要性を強調しました。国際仲裁での裁判所の役割は、仲裁の付託を促し、仲裁判断に効力を生じさせることに限定されるべきです。 Segal判事は、AA第54条は裁判管轄権や当事者が裁判所に請求する権利に対し特別な前提条件を課していないと指摘しました。 しかしながら、裁判所は、「仲裁第一」の方針に照らして「慎重」である必要性を強調し、裁判所の補助が得られることのみを理由として、当事者が仲裁廷への暫定措置の要請を回避することは許されるべきではないと強調しました。 その代わり、「仲裁廷による救済が不適切か、効果がないか、または要請された特定の救済を確保できない場合にのみ」裁判所の支援を求めるべきです。 実際には、仲裁廷がしかるべき時点で設置されていないため、原告らは中国仲裁において最初に暫定的救済を申請しておらず、原告らが暫定的救済を申請することができなかった(そして現在もできない)理由について、裁判所に適切な証拠を提出していません。 Segal判事は、この点だけを理由に原告の申請を却下すべきか否かを検討しました。しかし、被告側は原告の主張に異議を唱えませんでした。このような例外的な状況において、中国仲裁で暫定的救済を申請することが不可能である場合、裁判所は、原告が、認められた救済に引き続き依拠する許可を仲裁廷に速やかに申請することを約束しなければならず、そのような許可が得られない場合、差止命令は効力を失うという補足説明を行った上で、外国の訴訟手続を補助する暫定的救済を認める裁量権を行使すると判断しました。 外国の暫定的仲裁判断 Al - Haidar対Raoら事件(2023年2月3日)において、Kawaley判事は、外国の仲裁判断の執行を求める管轄権の根拠が、外国仲裁判断執行法(1997年改正)(以下「FAAEA」といいます)であるかAAであるかにかかわらず、外国の暫定仲裁判断はケイマン諸島法の下で強制執行可能であることを確認しました。 この結論に至るにあたり、判事は特に『国際商事仲裁』(第3版、2021年)の以下の解説に注目しました。 暫定的措置(暫定的仲裁判断とは異なる)は、仲裁の結論が出るまでの間、救済要求を処理するものであり、これにより暫定的措置を「仲裁判断」として扱うことが正当化されます。 そうしなければ、当事者がその遵守を拒否する傾向が強まり、結果として暫定措置により対処しようとしていた弊害そのものが生じるため、暫定的措置が執行可能であることが重要となります。 さらに判事は、FAAEA第5条とAA第52条の相互関係について検討しました。FAAEAでは、ニューヨーク条約に基づく外国の仲裁判断は、FAAEAの他の規定に従って、国内の仲裁判断と同じ方法で執行されることが明示的に規定されていますが、仮の仲裁判断や暫定的な仲裁判断については明確に扱われていません。 これに対してAAでは、仮の仲裁判断や暫定的な仲裁判断の執行について明確に規定されています。また、AA第72条(4)-(5)では、FAAEAの規定が優先されることが明示されています。 Kawaley判事は、AA第52条は「仲裁判断」とは別個の根拠に基づき、「仲裁判断が下された法域に関係なく」、暫定措置に適用される「独立した特別執行規定」を定めており、FAAEAは暫定措置や仲裁判断を明確に扱っていないため、同規定とFAAEAの間に矛盾はないと述べました。 AAの規定がFAAEAの規定とどのように関連するかについては、2つの解釈の可能性がありました。1つは、FAAEA第5条に基づく既存の外国判決執行制度を「暫定的措置」にも拡大することを意図したというものであり、もう1つは、FAAEA第5条は最終判決のみを扱うことにして、AAに基づく外国の暫定的「措置」については全く別の執行制度を創設したというものです。 Kawaley判事は「大まかに準備の整った」アプローチを採用し、AAが第52条を通じて外国の暫定的救済を執行する制度を導入した時点で、FAAEA第5条の範囲(「仲裁判断」という用語の意味を含む)が黙示的に拡大され、AAの最終的な仲裁判断執行規定だけでなく、暫定的措置の執行規定も組み込まれるようになったと指摘し、FAAEAを優先する考えを示しました。 このアプローチは、「FAAEAが外国の仲裁判断の執行を規定する包括的な法令であり、一般的な仲裁法に見られる実質的な執行規定を必要な範囲で組み込んだものであるという伝統的な見解」を維持するものでした。 そのため判事は、FAAEA第5条の管轄権の根拠に基づく申請を認めましたが、AAに基づく代替管轄権の根拠を命令に含めるべきであったか否かについては躊躇していることを表明しました。 判事は、自身の分析が間違っていたとしても、実務上の法的結論は変わらない、すなわち、外国の暫定的な仲裁判断や措置はケイマン諸島法の下で執行可能であるとの見解を示しました。 この判決は、ケイマン諸島の裁判所が採用している、仲裁に対する積極的なアプローチを示すものですが、一方的な根拠に基づくものです。同様の結果が、法廷での十分な弁論を経た当事者間審理でも得られるか否かは現時点で不明です。 結論 上記の2つの決定は、ケイマン諸島が仲裁を支持する姿勢および「仲裁第一」の方針へのコミットメントを強めるものです。 これらは、ケイマン諸島の裁判所が外国仲裁に対して提供する用意がある支援の現時点での範囲と規模を明確にするのに役立ちます。 これらの決定は、ここアジアでの仲裁参加者にとって、指針となる貴重な情報です。著者らは、同様の指針の導入を求める事例が今後も相当数出てくると予想しています。 CAREY OLSEN HONG KONG LLP Suites 3610-13, Jardine House 1 Connaught Place, Central, Hong Kong 電話番号:+852 3628 9000 電子メール:hongkong@careyolsen.com www.careyolsen.com
Direction corrections on Singapore tax

シンガポールの税金に関する方向修正

By Eugene Lim、Christine Schwarzl、Mei Yeo、シンガポールの WTS タクシー
シンガポールは、競争力を維持し、エネルギー転換の費用を賄い、新たな国際基準に適合するために税制改正を行おうとしています。 シンガポールの最近の税制改正の背景には、国際的なルールに適合する必要性、政府準備金を補充して将来の国家的ニーズを支える必要性、エネルギー転換への取り組みに資金を提供する必要性、世界的な不確実性の中でビジネス上の魅力を維持する必要性等、幅広い要因があります。以下に今後の改正の重要事項を要約します。 国際的なルール BEPS 2.0。シンガポールは、2025年1月1日までにOECDの税源浸食と利益移転(BEPS)プロジェクトの第2の柱に準拠する意向であることを発表しました。これは、所得合算ルール、適格国内ミニマムトップアップ税、軽課税所得ルールを導入することを意味します。 シンガポール内国歳入庁(以下「IRAS」といいます)は、シンガポールの既存および計画中の税制優遇措置や補助金について、多国籍企業(以下「MNE」といいます)の管轄地域の実効税率に影響を与えない「適格還付税額控除」(以下「QRTCs」といいます)とみなされるか否かの見直しを行っています。 MNEは、過去4年間のうち2年間の年間売上高が7億5,000万ユーロ(8億2,460万米ドル)で、以下のプロファイルに当てはまる場合、これらの動向を注意深く監視する必要があります。 本社がシンガポールに所在すること シンガポールの事業体がシンガポールの税制優遇措置や助成金を享受していること 第2の柱の規則を導入していない国に最終親会社が所在し、海外子会社を有する事業体がシンガポールに所在すること 外国での利益。2023年10月30日に公布された2023年所得税(改正)法では、新たに第10L条が導入されました。これは、MNEグループ事業体がシンガポールで受領したか、または受領したとみなされる外国資産(動産または不動資産)の処分益に対する課税に対応するものです。2024年1月1日以降、事業体がシンガポールで経済実体を有しない限り、この利益は17%の課税対象となる利益として扱われます。 IRASはセクター固有の状況を考慮し、事前照会制度の枠組みを導入します。第10L条は、所定の金融機関および特定の優遇措置により所得税が免除されている事業体を含む特定の事業体には適用されません。外国の管轄区域に資産を保有するシンガポールの事業体を有するMNEは、将来の処分に伴う税務上の影響を判断するために、これらの新規則を検討すべきです。 移転価格(以下「TP」といいます)。IRASは、OECD移転価格ガイドライン2022年版との整合性をより明確にしたTPガイドライン第7版を2024年初頭に発行する予定であると述べています。 MNEグループ事業体によるDEMPE(開発、改良、維持、保護および活用)機能の分析に関し、無形資産の開発・活用における貢献度を判断するため、さらなる明確化が期待されます。 OECDのTPガイドラインとの整合性が改善されることにより、透明性が向上し、TP紛争リスクが軽減され、シンガポールにおける税の安定性が高まるはずです。 TPの文書化。2019評価年度より、納税者の基準期間における貿易または事業からの年間総収益が10百万シンガポールドル(7.5百万米ドル)を超える場合、または前年度にTP文書(以下「TPD」といいます)の作成を要求されていた場合、TPDの作成が義務付けられます。TPDは同期ベースで作成しなければならないため(確定申告期限まで)、不遵守またはTPの調整について罰則や課徴金が適用される可能性があります。TPDは、相互協議および事前確認制度要請の要件となっています。 増収 税率引き上げ。以下の税金は、新型コロナウイルス感染症支援金支出後のシンガポールの準備金を補充し、老齢人口を支援し、住宅用不動産価格を鎮静化するために導入または増税されました。 物品サービス税(GST)は2024年1月1日より9%に引き上げられます。 個人所得税は2024評価年度より引き上げられ、所得階層が500,001シンガポールドルから1百万シンガポールドルの場合は23%、それを上回る場合は24%となります。 2023年2月15日より、高額物件の購入者の印紙税が引き上げられました。住宅用不動産の場合、1,500,001シンガポールドルから3百万シンガポールドルまでは5%、それを上回る場合は6%、非住宅用不動産価格の場合、1百万シンガポールドルから1.5百万シンガポールドルまでは4%、それを上回る場合は5%。 住宅用不動産の追加購入者の印紙税も2023年4月27日より引き上げられました。外国人の場合は60%、シンガポール人の第2、第3の住宅用不動産の場合はそれぞれ20%および30%、同様に永住権保持者の場合はそれぞれ30%および35%。 固定資産税は、非所有者の住宅用不動産(12%から36%)および所有者の住宅用不動産(年間評価額が30,000シンガポールドルを超える部分は6%から32%)について引き上げられました。 高性能車や高級車について、190%から320%という高い追加登録料率が導入されました。 税務監査 監査の状況。IRASは、2019評価年度から2021評価年度に提出された法人所得税申告書に誤りがあった企業から、2020年7月から2023年6月までに79百万シンガポールドルの税金および罰金を回収したと報告しました。よくある税務申告ミスとして、所得の過少申告や申告漏れ、誤った資本控除の請求、関連当事者サービスに対する独立企業間原則の不適用、不十分な記録管理、誤った請求が挙げられます。 その他の税務監査分野には、私的経費や課税所得控除されない経費の主張、外国源泉配当の免税の主張、税制優遇措置の恩恵を受けるために設けられた濫用的な税務上の取り決め、印紙税や所得税の課税回避防止が含まれます。 サステイナビリティ 炭素税。シンガポールの2050年までの温室効果ガス排出量ネット・ゼロ目標を支援するため、温室効果ガス年間排出量がCO2換算値で25,000トン以上の施設に対する炭素税は、1トン当たり5シンガポールドルが2024年と2025年には25シンガポールドルに、2026年と2027年には45シンガポールドルに引き上げられ、2030年までに50~80シンガポールドルに達すると見込まれます。この資金は、脱炭素化イニシアチブの強化、グリーン経済への移行ならびに企業および家庭の移行費用の負担に充てられます。 競争力の維持 グローバル税源浸食防止(以下「GloBE」といいます)ルールにより国際的な税競争の範囲が縮小しているにもかかわらず、特に比較的小規模のMNEグループにとって、税制優遇措置は依然としてシンガポールの税制の中心となっています。 大規模なMNEグループについては、シンガポールは既存の税制優遇措置を見直すかGloBEルールに沿ったQRTCを導入する可能性がありますが、依然として大企業には魅力的な提案を提示しています。 2023年度予算では、国際的な事業展開、技術進歩、インフラ整備を促進するための税制優遇措置が導入されました。 企業技術革新スキームは、企業の研究開発、技術革新、能力開発活動を奨励し、適格支出に対する400%の税控除、20,000シンガポールドルを上限とする非課税現金払いを提供し、知的財産保護、研究開発、知的財産権の実施・使用許諾の控除期限を2028評価年度まで延長します。 ファミリー・オフィスに対する慈善活動の税制優遇制度は、シンガポールが地域の慈善活動の中心としての地位を強化し、ファミリー・オフィスによるシンガポールでの寄付事業を定着させることを目的としています。この優遇措置は、海外への寄付に対して、寄付者の法定所得の40%を上限とする100%の税控除を提供するものです。資格を得るには、寄付者はシンガポール金融管理局の第13O条または第13U条の制度に基づいてファンドを管理し、適格条件を満たさなければなりません。 国際化における二重控除スキーム(2025年12月31日まで)は、事前の承認を条件として、適格な事業拡大および投資開発費用に対して200%の税控除を提供します。 2024評価年度に事業再編中の企業で、資本的支出が発生した場合、2評価年度の間に、工場および機械の取得費用の加速償却が行われます。加速減価償却では、発生した費用の75%が初年度(2024評価年度)に、25%が2年目(2025評価年度)に償却されます。 2024評価年度に適格支出が発生する企業に対して、改築・改装支出の控除を前倒しするオプションが設けられました。企業は、連続する3評価年度の関連する期間ごとに、300,000シンガポールドルを上限として、その評価年度の改築・改装支出の全額を控除することができます。現在、企業は、3評価年度間で300,000シンガポールドルを上限として、連続する3評価年度にわたって定額ベースで税額控除を申請することができます。 知的財産開発に関する優遇措置は、2028年12月31日まで、適格な知的財産所得の一定割合に対して5%または10%の優遇税率を提供するものです。 適格債務証券スキームは2028年12月31日まで延長・改良され、シンガポール国内の適格企業および団体には10%の優遇税率を適用し、適格非居住者および個人には免税措置を設けています。現在、適格所得の範囲には、適格債務証券の早期償還に対する支払金が全額含まれています。 資産証券化取引に従事する認定特別目的事業体(ASPV)スキームは2028年12月31日まで延長され、シンガポールで資産証券化取引に従事するASPVが得た所得は非課税となります。さらに、2023年2月15日から2028年12月31日の期間でASPV(カバード・ボンド)という新たなサブスキームが導入されています。 TAXISE ASIA LLC (WTS TAXISE) 61 Robinson Road #17-01A Singapore 068893 電話番号:+65 63047972 電子メール:info@taxiseasia.com www.taxiseasia.com
Culinary intellectual property in India

料理に関わる知的財産訴訟の行方

By Manisha Singh と Tushitta Murali、LexOrbis
2024年1月16日、Rupa Gujral and Ors対Daryaganj Hospitality Private Limited and Orsの訴訟審理では、料理の知的財産をめぐる長期戦になるか、マーケティング紛争の単なる小競り合いになるかの、最初の一斉射撃が行われました。 デリー高等裁判所は、広く親しまれている2つの料理、バターチキンマサラとダルマカニの起源について、対立する意見を突き付けられました。有名なレストラン・ビジネスのMoti Mahalは、国内外から多くの著名な客を迎え入れています。彼らは、Daryaganjに対して自分たちが最初の考案者であると主張して、訴訟を起こしました。名声と地位に対する主張は、Daryaganjが「バターチキンとダルマカニの考案者たちによる」というキャッチフレーズを使用したことがきっかけとなりました。「設立1920年のインドの有名レストラン」というブランディングを使用しているMoti Mahalは、Daryaganjの言葉は誤解を招き、欺瞞的であると主張しました。 審理は指示を求めるものでしたが、法廷は双方の主張を簡潔に述べたものとなりました。原告側は、前任者のKundal Lal Gujralが料理の考案者だと主張しましたが、被告側は、Kundal Lal Gujralと共同で活動した前任者のKundan Lal Jaggiが、インドが分割される前にオリジナルのMoti Mahalをペシャワールで設立したと反論し、原告側には自分たちが料理を考案したと主張する独占的権利はないと主張しました。 原告側は、前任者がタンドリーチキンを考案したものの、大量に残った肉を冷蔵できないことに気づき、調理した肉を保存して乾燥を防ぐために、トマトから作ったグレイビーソースやソースを考案したと主張しました。この料理はバターのような風味と食感があるため、「バター」と「マカニ」という言葉が名前に使われるようになりました。原告側は、ダルマカニもKundal Lal Gujralによって考案され、バターチキンマサラと概念的には同じ料理で、バターソースを黒い豆類で調理して作ったものだと主張しました。 原告側は、Moti Mahalの標章を所有しており、1920年以降、国内外で設立された全てのレストランでこの商標が使用されていると強く主張しています。原告側は、Daryaganjという名前の使用によって証明されるように、被告側が自分たちと原告との間に誤ったつながりを作り出そうとしていると主張しました。Daryaganjは、原告のレストランが設立された地域のことを指しています。原告はまた、被告のウェブサイトに表示された、欺瞞的と申し立てている特定のコンテンツにも注意を喚起しました。これは、Kundan Lal Jaggiと不実表示されているKundal Lal Gujralの写真と、ペシャワールにある原告のオリジナルレストランが改変された写真で構成されています。 前回の審理日と同様、被告側は、審理日のわずか1週間前に通知を受け取ったものの、書面による陳述を提出していないと述べました。しかし彼らは、この訴訟は誤認されており、信頼できる訴因を開示していないと主張しました。被告側は、両当事者が共同でレストランを設立したのであり、ウェブサイトで使用される画像に対する独占的権利はないと主張しました。この主張は、被告が混乱を避けるために、画像に表示されているMoti Mahalという名前を切り取ったのを見るに、特に妥当性があります。裁判所は、被告側が1週間以内にウェブサイトから写真を削除することに同意して和解することを認めましたが、不実表示と欺瞞を主張する原告側の主張は一切認めませんでした。 公判では、法廷が膨大な状況証拠を評価する必要があるのは間違いありません。またこの訴訟により、適切なレストランの名前にキャッチフレーズが付けられるように、バターチキンマサラとダルマカニの起源が特定されることでしょう。ここではまた、企業秘密の一部が含まれるレシピと、商標の一部で、料理を一般向けに販売する際のバナーとを、区別することが重要となります。裁判所は、Moti MahalとDaryaganjの設立と、彼らの前任者の関係に関する事実認定を行うことによって、料理の起源を決定する必要があります。 裁判所は、原告側にブランドの使用に対する単独の権利を与えるか、それとも当事者たちに共同所有権を与えるかを決定する必要があります。後者の判決が出れば、それぞれがキャッチフレーズを使用することができます。双方とも勝利に大きな商業的価値があることを明らかに認識しています。次回、3月18日に登記官、5月29日に裁判所でこの訴訟が提起されて、問題の詳細がより明確になる可能性があります。 Manisha SinghはLexOrbisのパートナー、Tushitta MuraliはLexOrbisのアソシエイツ。 LexOrbis 709/710 Tolstoy House 15-17 Tolstoy Marg New Delhi...
India Artificial Intelligence

AI普及に伴うイノベーションと規制のバランス

By Essenese ObhanそしてCharul Yadav、Obhan & Associates
人工知能(AI)がディスラプター(破壊者)と見なされようと、アクセラレーター(促進者)と見なされようと、AIはすでに世の中に定着しています。数十年もの間、実験室ベースでの調査でのみ使用されていたAIは今や主流となり、各国政府の関心を集め始めています。インドも例外ではありません。 2035年までに、AIがインド経済に1兆米ドルをもたらすという試算があります。当然のことながら、インド政府はAIの技術革新とその導入に向けた強固で効果的なエコシステムを積極的に開発する心積もりです。開発は、AIに資金を提供し、促進し、進展させ、規制することによって進めています。一例として、インドAIミッションは、10兆3,700億インドルピー(124億1千万米ドル)という巨額の支援を受け、官民パートナーシップ・モデルによってAIコンピューティング・インフラの構築を目指しています。他にも、健康、医療技術革新、農業、教育および統治にわたって、地域的に適用できる国内AI基盤モデルを構築する意向です。 こうした関与は最近始まったことではありません。政府のシンクタンクである Niti Aayog は、2018-19年度予算の一部で国家AIプログラム設立を委託されました。それ以降、ディスカッション・ペーパーの発表は着実に進み、AIに対する政府ビジョンの進捗状況を示しています。 2018年に発表された「人工知能に関する国家戦略」では、AIの技術革新と適用に向けたエコシステム開発について幅広く提言がなされ、AIの責任ある利用が鍵であることが強調されました。2021年2月には、責任あるAIのコンセプトをさらに進め、関連するリスクを検証し、安全性と信頼性、包括性と非差別、プライバシーとセキュリティなどの規制原則を明確にしました。2021年8月のフォローアップ文書では、リスクベースの規制メカニズムを推奨しています。それは利害関係者とその責任を特定したものです。例えば、政府が介入策を設計し、アクセシビリティを確保する一方で、民間セクターや研究機関は制度設計によって倫理的行動を奨励します。 他の政府機関は、AI規制に関する世論を積極的にガイドしています。電子情報技術省(MeitY) は、政策の枠組作りとAIエコシステム開発委員会を設置しました。商工省のタスクフォースは、インドの経済変革のためにAI利用を開始しようとしています。 AIに特化したものではありませんが、新たに制定された「デジタル個人データ保護法、2023年」は、個人のデジタルデータの不正な処理と利用を対象としています。MEITyは2024年3月、急遽改正によるものではありますが、AIツールに関連する、またはそのテストやトレーニングを行う仲介機関およびプラットフォームが従うべき、デューデリジェンスに関する勧告を発表しました。そうしたツールは、生成された出力内容の信頼性が低い場合があることを表示した上で、インド国内のユーザーに対してのみ提供することができると、同勧告は規定しています。違反には罰金が課されます。このような勧告の合法性はまだ不明ですが、その意図は明白です。AIの信用度、安全性、信頼性に、妥協は許されません。 AIに関する規制の枠組草案は、何カ月も前から用意されていますが、「モデル行動規範」が選挙後に導入されるため、この枠組草案の発表は早くても今年半ば以降となるでしょう。しかし、この枠組の重点は、AIを経済成長のために活用すること、AIの悪用から市民を守ること、そして人材プールを開発すること、と考えられています。 インドは外交を通じて、AIをどのように規制できるか、あるいは規制すべきかについて議論を重ねてきました。インドが議長国を務める G20 は、AIのグローバル・ガバナンスを求めています。「人工知能に関するグローバル・パートナーシップ」はインドも加盟しており、AIの責任ある開発と利用を推進しています。インドは、AI技術が安全、確実で信頼度が高く、平等なアクセス性があることを保証する国連決議案を支持しています。 これらの政策や立法に関する議論は、AIそのものの進化と並行して続いていくでしょう。インドにまだ正式な法律や規制の枠組がないのは、おそらくAIの急速な変容ぶりを認識しているためだと思われます。性急な決定には、重要な面を見落とす懸念があります。とはいえ、現在は基本原則を整えつつある段階です。その一つは、AIの規制で技術革新を阻害すべきではないが、技術を無制限に濫用することも防ぐ必要があるということです。インド政府は、国内外の主要な事業体や組織と協力しつつ、最善の道を確実かつ慎重に検討しています。その規制の決定は、世界の多くの国々にとっての試金石となるでしょう。 Essenese Obhan は Obhan & Associates のマネージング・パートナーであり、Charul Yadav は同事務所のパートナーです。 Obhan & Associates Advocates and Patent Agents N - 94, Second Floor Panchsheel Park New Delhi 110017, India 連絡先の詳細: アシマオバン 電話番号: +91 98 1104 3532 電子メール: email@obhans.com |...
RBI financial climate risk

金融リスク規制の新たな風潮

By Sawant SinghそしてAditya Bhargava、Phoenix Legal
インド準備銀行 (RBI) は、2024年2月の開発・規制政策に関する声明の中で、規制対象事業体 (RE) にとって「気候変動が気候関連の財務リスクにつながる可能性がある」ことを明示的に認めました。世界のベストプラクティスに歩調を合わせるため、RBIは2022年7月に、気候変動リスクと持続可能な金融に関するディスカッション・ペーパーをウェブサイトに掲載し、パブリックコメントを求めました。 フィードバックを元に、RBIは2024年2月の声明において、グリーン預金の枠組、気候関連財務リスクの開示の枠組、並びに気候シナリオ分析とストレステストに関するガイダンスの発行を提案しました。2024年2月28日、RBIは「気候関連財務リスクに関する開示の枠組に関するガイドライン」草案を公表し、一般からの意見を求めました。重要なリスクを明らかにすることは、既にバーゼルIIIの第3の柱である開示要件で求められていますが、今回提案された開示の枠組では、気候変動リスクについて、より体系的にREが情報を伝達する仕組を整備することを目指しています。 この情報開示の枠組が草案どおりの形で最終決定された場合、それはすべての指定商業銀行、すべての最上位層および上位層のノンバンク金融会社 (NBFC) 、並びにその他の特定金融機関に適用されます。これら以外のREは、自主的に開示の枠組を採用することができます。この枠組草案では、「気候関連の財務リスクに関する情報が不十分な場合には、資産の価格決定や資本配分の誤りにつながる可能性がある」として、「より良く、一貫性があり、比較可能な開示の枠組」の必要性を認めています。またこのガイドラインでは、気候変動リスクとそれに対して採用されている緩和策を(各REの)ステークホルダーが理解する上で、気候関連の開示が重要な情報源の一つとなると認めています。 この開示枠組草案では、REが気候関連リ スクを財務諸表に開示することを要求 しており、これによって気候関連リスクの早期評価の促進を目指しています。これらの開示は、個別に行う必要があります。気候関連財務リスクは、気候変動または気候変動を緩和するための取り組み、およびその経済的・財務的影響から生じる可能性のあるリ スクと定義されています。この開示枠組草案では、CO2換算値、金融機関の投融資先の温室効果ガス排出量、温室効果ガス、スコープ1の温室効果ガス排出量、スコープ2の温室効果ガス排出量など、非財務的な専門用語も定義しています。移行リスクとは、低炭素経済への調整過程、すなわち気候関連の政策や規制の変更、新技術の出現、消費者の嗜好や行動の変化など、に関連するリスクと定義されています。 REによる気候関連開示は、四本の「テーマ別の柱」を網羅することになるでしょう。このうちガバナンスについては、気候関連の財務上のリスクと機会を特定、評価、緩和するためのガバナンス・プロセス、並びに気候関連リスクと機会に対する取締役会の監督状況を開示することがREに要求されます。気候関連のリスクと機会の評価における上級管理職の役割も、こ の項目に含まれます。第二は戦略で、REは、短期・中期・長期それぞれの気候関連リスクと機会、それらのリスクと機会がその事業に与える影響、さらに、さまざまな気候変動シナリオに基づくREの戦略の回復力を開示しなければなりません。次はリスク管理で、気候関連の財務上のリスクと機会の特定、評価、優先順位付け、モニタリング、並びにそれらをREのリスク管理プロセス全体とどのように統合しているかを開示します。最後は測定基準と目標であり、REにおける気候関連の財務的リ スクと機会、それらに関連するRE独自の目標および現地の法律で要求されている目標に対する進捗状況について、その実績を説明することをREに求めています。 この枠組の構想には先見性があり、市場に先んじないまでも、少なくとも歩調を合わせた規制姿勢を反映しています。この情報開示枠組が現在の形で実施された場合、規制が市場の進展に単に反応するのではなく、その進展を導く事例の一つとなるでしょう。このガイドライン草案は、厳しい目標を課すのではなく、気候変動に関する情報開示を重視する枠組を作ろうとしている点が評価されます。この詳細なアプローチと、財務諸表におけるリスクベースの開示との連動は、気候規律を推進する上で、実際に強力なサポートとなるかもしれません。 Sawant SinghおよびAditya Bhargavaは、Phoenix Legal のパートナーです。 Phoenix Legal Second Floor 254, Okhla Industrial Estate Phase III, New Delhi – 110 020, India Vaswani Mansion, 3/F 120 Dinshaw Vachha Road,...
Charting course for indirect tax laws in India

インドの間接税法についての展望

By Shivam MehtaそしてTanya Garg、Lakshmikumaran & Sridharan
間接税制度の最新動向と予測についての考察 物品・サービス税(GST)制度には毎年のように改正が加えられ、納税者が困惑し進化する税制を理解しようと苦心するような、想定外の決定が発表されています。 納税者の事業運営は、こうした不意打ちのような決定だけでなく、次々と行われるGSTの改正からも深刻な影響を受けています。 最新の動向 企業保証 - 改正案は紛争解決を保証するか? 主に税務当局による調査が続いていることを背景として、あらゆる業界が企業保証評価の問題に取り組んできました。曖昧な点への対処として、政府はCGST規則第28条に新しい下位規則〔サブルール(2)〕を設けました。 上記の規則では、保証を受けた企業保証の価値は、みなし保証額の1%か、実際の保証額のいずれか高い方と定められています。これにより、納税者が必要としていた保証額が明確になり、GSTの支払いを目的とした企業保証の評価に関する種々の懸念が解消されたことは間違いありません。 しかし、この規則を注意深く読めば、新たに対処を必要とする問題が生じていることがわかります。 たとえば、「企業保証」という用語の意味が明確でないため、保有比率や継続企業、資金出資のための保証に関して、意思確認のために関連当事者が提供する基本合意書/念書のような取り決めも、上記の規定に該当するのかという疑問が生じています。 他にも、海外法人に対する保証金について、海外送金の授受がない場合、特にGST納付評価額が企業保証の1%とみなされている場合、サービス輸出の範囲に含まれるかどうかという疑問もあります。対処を要するもう一つの問題は、上記の規則が適用される税金を納付しなければならないのは一度限りなのか、それとも企業保証の有効期間を通して毎年納付する必要があるのかという問題です。 したがって、上記の規定の適用に先立って、個々の取引を詳細に検討し、正確に導入することが重要になります。 出向 - 一縷の望み Northern Operating Systems事件におけるインド最高裁判所の判決に従い、以前は従業員の出向(従業員と雇用者の関係に含まれる)とみなされていた取引について、ほぼすべての業界がGSTを納付しました(大部分について異議が申し立てられています)。しかし、ここ最近の司法の動向は、この問題に希望の光を投げかけています。 デリー高等裁判所はこの問題を本案と区別し、請求を差し止めることにより被査定者を救済しました。さらに、パンジャブ・ハリヤナ高等裁判所やカルナータカ高等裁判所をはじめ、さまざまな高等裁判所が、出向者の給与のインドでの支払部分に関する請求を差し止めています。このような進展を受け、被査定者は各事件の事実関係を再度詳細に調査しています。こうした中、業界では次のような疑問に頭を悩ませています。上記の最高裁判所の判決が下された後でも、何らかの希望はあるのでしょうか? 令状による救済:GST通知の中の守護者 GST制度において、申立人に他に手段がない場合、または他の当局に代替となる救済を求めることができない場合、令状という手段を持つ高等裁判所の役割は極めて重要になります。 例外として、自然正義の原則への違反がある場合、基本的権利の行使が求められる場合、または管轄権がないにもかかわらず通達や命令が出された場合に、令状を申請することができます。 近頃では、GST法の下で、税務当局が詳細な根拠を付さずに通知を出したり、意見聴取の機会を与えずに仕入税額控除(ITC)を否認したり、合理的な根拠を示すことなく最高税率で課税したりする傾向がみられます。このような状況を受け、企業は高等裁判所に救済を求めるようになったのです。 裁判所が取り消してはいるものの、曖昧な通達や命令は、事業環境の混乱につながるだけでなく、複雑な法的問題を迅速に処理するというさらなる負担が強いられることになるため、多数の企業が懸念を抱いています。 したがって、高等裁判所が頻繁に介入する必要性を減らし、企業の成長を促す環境を醸成するため、通達や命令の明確性と透明性を向上させる措置の導入が不可欠です。 GST評議会の進化 GSTの発足により、インドの税制は変革を遂げました。GST法の導入時、GST評議会は法制定にとって極めて重要な機関になると想定されていました。 GST評議会は中央政府と州政府の代表で構成され、連邦制協働の促進と、税率、免税、その他の関連事項に関する重要な決定の場となることを目的として設立されました。その決定は立法府からの委任に匹敵する重みを持ち、会議は実質的な法的判断が下される場であると考えられていました。 しかし、GST評議会の役割は主に勧告を行うことであるという決定がなされたことを受け、その役割は変化してきました〔マドラス高等裁判所、Parle Agro (11) TMI 601〕。また裁判所は、GST評議会の勧告は拘束力を持たないと判示しています〔Mohit Minerals 138 taxmann.com 331 (SC)〕。 このような変化は、GST制度における意思決定について重要な問題を提起しています。これを契機として、納税者や利害関係者は、GST評議会の会議が下した結果に期待することを改めることになりました。GST評議会で法改正や通知の発出が決定された後に、州がその法改正や通達を発出しないと決定した場合、最終的に結果はどうなるのか、これは興味深い問題です。 不当利得享受を禁止する判決に対する懸念 他にも注目に値する判決として、不当利得享受禁止規定の有効性を支持したデリー高等裁判所の判決(2024-VIL-84-DEL)が挙げられます。この事案では、不当利得享受禁止規定に対して特別許可を求める請求が申請されていました。 中でも、不当利得防止総局(Directorate General of Anti-Profiteering)が設定する報告書提出期限に、指導・規則の性質があると判断されたことは特に重要です。 上記の見解に対して納税者の間では懸念が生じており、政府の不当利得防止局(National Anti-Profiteering Authority:NAA)が追及しなかった問題に不安の影を落としています。この判決は、納税者の頭上に常にナイフがぶら下げられているような危惧が永続する状況を暗示しています。この判決は、当初NAAが調査しなかった問題であっても、企業は継続して評価される可能性があることを示唆しています。規定が指導・規則の性質を持つとみなされるのであれば、規定が適用される限度と範囲が明確にされなければなりません。 デリー高等裁判所は決定を総括し、規定の憲法上の正当性を支持する一方で、管轄を超える手続きの拡張や、コスト上昇やITCをめぐる状況の歪みなどの真の要因が考慮されないことで、不当利得享受防止規定の下で恣意的に権限が行使される可能性について認め、曖昧な点を明確にしました。 しかし、高等裁判所は同時に、このような命令に対する救済措置は本案で争うことであり、規定そのものを取り消すことはできないと判示しました。したがって、不当利得享受の申し立てから確実に救済を受けるためには、それぞれの事案の本案について再考し、どのように給付が提供されたかを証明する必要があります。 ISD制度に求められる明確化 先般公表された2024年財政法案では、第50回GST評議会の勧告に基づき、Input Service Distributor (ISD)の定義の修正が提案されました。これを受け、特に以前の任意制から強制的な枠組みへの移行が提案されていることに関して、規制をめぐる状況に波紋が広がっています。 当初、中央物品・サービス税法第20条に基づき、ISD条項を通じて規則が明確化されたにもかかわらず、同条項の改正案では配分プロセスに関する具体的な説明が省かれており、内容が一変しているため、再び明確さに欠ける状況となっています。 その結果、納税者は、ISDの仕組み全体が明確に理解できることを待ち望んでいます。改正後のISD条項の微妙な意味合いの違いに悩む企業が円滑に改正に対応するには、ITCの分配方法に関するタイムリーな情報提供と指針が不可欠だと考えられます。 GST施行後の1年間で、被査定者、専門家、税務当局、政府の重点が、単なるコンプライアンスやITCデータのマッチング・ミスマッチの問題から、法的解釈に関わる問題に移ったことは明らかです。これは、GST法制の成熟に向けた大きな一歩となるでしょう。 今後、数年間のうちに、税務裁判所の職務遂行の効率化が進み、租税紛争に対して詳細で有意義な救済措置が迅速に提供され、法的解釈に関わる問題の企業にとっての曖昧さが解消されることが期待されます。 Lakshmikumaran & Sridharan B-6/10, Safdarjung Enclave New Delhi – 110...
Indian companies' employee transfers

従業員の異動には双方の信頼が必要

By Anirudh Mukherjee 氏と Pankaj Anil Arora 氏、Kochhar & Co.、弁護士および法律コンサルタント
近年、多くのインド企業が、従業員に要求する異動の有効性に関して、問題に直面しています。従業員がそのような異動に抵抗した訴訟が、いくつか明るみに出ており、企業は、特に多くの従業員が関与する場合には、異動の決定に対して総合的なアプローチをとることが不可欠です。 異動の権利は雇用主の特権ですが、他の都市や他国への異動が必要な場合、経済的な理由や、家族、地域社会とのつながり、子供の教育、生活水準などの社会的要因が、従業員の決断に影響を与えます。 インドでは、雇用主が従業員を配置転換する権利は、雇用契約、議事規則、会社の方針、規則に定められた勤務条件によって生じます。通常、裁判所は、誠実な管理上の理由と仕事の緊急性から異動を決定する場合に限り、雇用主の異動の決定に干渉することはありません。異動の頻度、困難さ、最初の赴任地などの要因は通常、裁判所が介入する十分な理由とはみなされません。このアプローチは、医療上の問題があるにもかかわらず、従業員を異動させるという雇用主の決定を支持したカルナータカ高等裁判所の最近の判決からも明らかです。同裁判所は、異動は職務上、発生するものであり、組織のニーズを念頭に置いた従業員の異動については雇用主に十分な裁量権が与えられなければならず、従業員の頻繁な異動は公民権や基本的権利の侵害には当たらないと判示しました。 異動命令は、異動が雇用条件に違反する、または従業員に不利益な雇用条件の変更をもたらすとの理由で、異議が申し立てられることがよくあります。いくつかの判例では、従業員が雇用主側の悪意を認め、異動が恣意的・復讐的であり、搾取行為や懲罰として課せられたものであると主張しています。これらの理由の一つ以上が立証されれば、裁判所側は通常、異動命令を取り消します。 したがって、雇用主にとっては、異動の権利が明示的な勤務条件であること、そのような措置が適切なビジネス上のニーズに応じて講じられていると保証することが不可欠です。従業員を配置転換する雇用主の権限は、従業員を処罰したり犠牲にしたりするために悪用されるべきではありませんし、雇用主が従業員の異動を正しい方法で実施することも同様に重要です。たとえば従業員は、異動を受け入れるか、さもなくば解雇されるか、減給されるかという選択を迫られるべきではありません。このような場合には、規制当局が行動を起こす可能性が高いです。ある大手IT企業の判例では、従業員が異動を受け入れなかったとして、雇用主が給与を打ち切り、辞任を要求したことに対して従業員が苦情を申し立てたことで、マハラシュトラ州労働局が通知を発出しています。 雇用主は、会社の売却や譲渡などの商取引の一環として従業員の異動を要求する場合、法的義務を覚えておく必要があります。このような取引は通常、雇用主による戦略的な経営上の決定の結果ですが、結果として従業員を異動させる場合には、譲渡側だけでなく譲受側の雇用主も適用される法的義務を認識し、遵守する必要があります。法律では、1947年の労働紛争法 (ID法) に基づいた労働者としての資格を持たない場合、従業員に関するそのような義務は規定されていません。ID法第25FF条は、企業の譲渡を扱う際に、従業員の利益を確実に保護するため、従業員を譲渡する際の譲渡側雇用主の義務を規定しています。 第25FF条に基づき、異動直前に1年以上継続勤務したすべての従業員は、告知および補償を受ける権利を有します。このような規定は、従業員の雇用が異動によって中断されず、雇用が継続している場合には適用されません。異動後に従業員に適用される勤務条件は、異動直前の勤務条件と比べて劣らないものであり、新しい雇用主が異動条件またはその他の条件に基づいて、退職の際に従業員に補償を提供する法的義務を負います。 雇用主は、従業員を異動させる際にベストプラクティスを実施し、適用される法律を確実に遵守する必要があります。そうすれば、雇用主と従業員の双方にとって有益な状況になります。 Anirudh Mukherjee はKochhar & Co Advocates & Legal Consultantsのパートナー、 Pankaj Anil Aroraはプリンシパルアソシエイツです。 Kochhar & Co. NewDelhi(headoffice): Kochhar& Co. Suite # 1120 -21, 11th Floor, Tower - A, DLF Towers, JasolaDistrict Center, Jasola - 110 025, India India offices:...
India and Japan business partnershipsvideo

繫栄する日印ビジネス・パートナーシップ

By Pradeep RatnamそしてNishant Arora、Kochhar & Co.
  各国間の貿易関係上の忠誠度が移り変わる中で、インドと日本のビジネス連携には長期存続性、安定性、そして共通の大望があることが証明されています。アジアの有力勢である両国の結びつきは、持続可能な成長、テクノロジー主導の戦略的協力、資本集約型産業への投資という共通の目的に基づくものです。 両国のパートナーシップは、経済的なニーズと機会を相互補完することで成り立っています。超金融緩和政策と歴史的なデフレを背景に、利回りによる成長を求める日本企業にとって、インドは理想的な投資先です。最も急成長している経済圏の一つであるインドは、テクノロジーからインフラストラクチャーまで、さまざまな分野でビジネスチャンスを提供しており、日本の投資への関心に合致しています。インド政府は先進的な政策や取り組みを通じて、日本の海外投資を歓迎する環境を後押ししてきました。地政学的な緊張の高まりや、世界的な投資先再評価の動きは、日本企業にも投資ポートフォリオの多様化を促しており、インドはその有力な選択肢となっています。 2000年から2023年9月までの、日本の対インド直接投資(FDI)は、408億4000万米ドルでした。2023年の単年度の数字では17億9000万米ドルであり、日本はインドにとって5番目に大きな投資国となっています。投資分野は、自動車、電気機器、通信、化学、金融、医薬品など多岐にわたります。 再生可能エネルギー(RE)は、両国間協力の重要分野の一つです。インドは環境目標の達成のために、非化石燃料発電能力を500GWにすることを目指しており、これは現在の185GWからの大幅な増加です。 電力調達価格の下落に伴い、REプロジェクトの魅力は、手頃で融資期間の長い資金調達が可能かどうかに懸かっています。インドのNational Investment and Infrastructure Fund Limited(国家投資インフラ基金)と日本の国際協力銀行とのジョイントベンチャーである日印ファンド(India-Japan Fund)は、この取り組みを象徴するもので、クリーン・エネルギー・プロジェクトのみならず、環境保全や廃棄物、水管理に関わるプロジェクトも対象にして、490億インドルピー(6億米ドル)を投資する予定です。日本の投資家の目を引くのは、インド政府の構造改革です。これには、財政難状態にある配電会社への支援が含まれており、電力調達費を適時に支払う能力の強化、経理・報告・請求プロセスの合理化、電力購入契約(PPA)に基づく政府支払いに対する政府保証などの代替保護メカニズムの導入、土地取得の簡素化、規制リスクの迅速な解決などを通じて実施されます。公共のPPAには、規制や税制の変更による予期せぬコスト増加に対応する、強固で投資家に優しい契約条項が盛り込まれています。このような条項は、コスト増加を料金値上げによって最終消費者に転嫁することを可能にします。 投資家にとっての懸念事項は、インドの連邦制の性質上、中央政府と州政府から複数の承認を得る必要があることでした。これに対処するため、インド政府は2023年電力規則(第二次改正)や、プロセスを合理化して投資のハードルを下げる国家単一窓口システムなどの改革を導入してきました。 もう一つの協力分野は、スタートアップです。日本からインドのスタートアップ・エコシステムへの投資が行われるのは、この分野が財政的に成熟しつつある時期に重なります。インドのスタートアップ・エコシステムに対する政府支援は、世界中の投資家の注目を集めるようになりました。各省庁は、多くの分野でスタートアップ企業を資金面、インフラ面、規制面で支援する制度を導入しています。こうした要因が、インドのスタートアップ経済への新たなグローバル投資を引き寄せているのです。スズキ、トヨタ、デンソーといった企業による大規模な投資は、日本の投資戦略が、長期的ベンチャーから短期的ベンチャーにシフトしていることを示しています。 インドにおける近年の司法判断は、第一生命やタタとドコモの件のように日本の投資家を支持するものであり、FDI規制を投資家の期待、特に予測可能性と一致させようとするインド政府の決意を物語っています。日本企業には、包括的なデューデリジェンス、現地法に準拠した仕組み取引、戦略的なエグジット・オプション、定期的チェックやフォレンジック監査など、強固な投資メカニズムを採用することが推奨されます。インドの成長促進改革と日本の戦略的投資の多様化により、日印のビジネス・パートナーシップは飛躍的な成長を遂げようとしています。このことは、両国経済の将来にとって良い兆候といえます。 Pradeep Ratnamは Kochhar & Co. のシニア・パートナーであり、Nishant Aroraは同事務所のパートナーです。 Kochhar & Co. NewDelhi(headoffice): Kochhar& Co. Suite # 1120 -21, 11th Floor, Tower - A, DLF Towers, JasolaDistrict Center, Jasola - 110 025, India India offices: New...
distinctive pharma packaging

危険回避に必要な医薬品パッケージ

By Manisha Singh そして Puja Tiwari、LexOrbis
最近のDr Reddy's Laboratories Limited 対 SGS Pharmaceuticals (P) Limited 事件においては、原告のDr Reddy's Laboratories Limitedが、自社の販売する医薬品Practinの登録商標、トレードドレス、配色、および特徴的なパッケージを、被告が医薬品Cyproheptadineによって侵害しているとして救済を求めたことに対して、デリー高等裁判所がその訴えを認め、侵害行為を差し止めました。裁判所は、被告が原告と同一のパッケージ、配色およびトレードドレスを使用して自社製品を原告の製品であるかのように偽り、原告製品の信用と評判を利用していたと認定しました。 原告は、1984年に創業した世界的に有名な製薬会社であり、世界中で事業を展開しています。Practinの商標は、そのトレードドレスや配色とともに、1986年にWockhardt Limitedによって登録され、2020年9月付の譲渡証書によって原告に譲渡されたものです。 この製品の年間市場価値は、2020年までの過去5年間に、3億5000万インドルピー~6億インドルピー(420万米ドル~720万米ドル)でした。そのユニークな外観から、同製品は市場において、非常に高い想起価値を享受していました。医薬品によく使われる銀色のパッケージとは異なり、片面がオレンジ色で裏面が白でした。このユニークで特徴的なパッケージは著作権で保護されており、30年間、継続的に使用されてきたことから、確かなアイデンティティを獲得しています。 被告は、原告の訴えに抵抗し、原告の登録商標であるPractinの名称を使用してはいないと明言しました。同社はその製品をCyproheptadine – 4の商品名で販売していました。Cyproheptadine(シプロヘプタジン)は、この医薬品の基本成分である塩の学名です。被告は、同社が有効な医薬品ライセンスに基づいてCyproheptadine – 4の名称を2001年から使用しているのであるから、その販売を継続する権利があると主張しました。 しかし原告の訴えは、被告がトレードドレスや配色を真似し、人が見間違うほどそっくりなパッケージを使用していたことを巡って、展開されたものでした。原告は、被告の製品が原告の製品であると消費者に誤解される可能性があり、この訴えは消費者の利益のためであると反論しました。一方、被告は、被告の製品が医師の処方箋に従った薬剤師によってのみ販売される、スケジュールH薬であるため、購入者が被告の製品と原告の製品を混同する可能性があるというのは、不当な誇張だと主張しました。 裁判所は、被告がCyproheptadine – 4の医薬品ライセンスを有していたことと、2001年からその薬を販売していたことは認めました。 しかしながら、裁判所はCyproheptadine – 4を原告の製品と同一のパッケージ、同一の配色やトレードドレスやレイアウトで販売する理由はない、と判断しました。特に、原告が使用していた、業界でもユニークな2色使いは、自社製品を他から差別するために特別に創り出したものであることから、その判断は当然でした。同製品が1996年以来、市場に存在し続けてきたことにより、相当な信用とブランド想起度が形成されており、そのいずれもが有効な商標とトレードドレス、知的財産権登録によって保護されてきたのです。 裁判所は、同一のパッケージの使用差し止めを認めました。被告は、トレードドレス、配色、レイアウト、パッケージ、フォント、全体的な外観において、原告の製品を侵害しないような、明確な差異のあるパッケージの詳細を提出するよう指示されました。被告の製品がスケジュールH薬であったとしても、一般消費者が一見しただけでは両者を区別できないことが考えられるため、同一のパッケージによる誤認の可能性を排除できません。 この決定は2つの要素を強調しています。第一は、想定される消費者に識字能力のない人が多かったため、商品の外観が重要であったことです。第二は、一般の消費者や医薬品購入者の意識に、混乱が生ずる可能性があってはならない、ということです。 これらは医薬品であり、同一パッケージが存在する可能性を避けるため、より高度な注意を払わなくてはなりません。それぞれの薬に使用されている塩の学名が同じであっても、裁判所は独自のトレードドレス、配色、レイアウトにおける原告の知的財産権を保護したのです。 Manisha Singh および Puja Tiwari は、LexOrbis のパートナーです。 LexOrbis 709/710 Tolstoy House 15-17 Tolstoy Marg New Delhi –...
Court restores PepsiCo’s right

裁判所がペプシコの権利を回復

By Essenese Obhan そしてCharul Yadav、Obhan & Associates
インド植物品種保護法の稀な試験的事例として、デリー高等裁判所の上訴部門法廷(DB)は、Pepsico India Holdings Pvt Ltd対Kavitha Kurugantiの裁判において、ペプシコの有名なLay’sポテトチップスに使用されているポテトの品種「FL2027」に関する同社の権利を取り消した、単独判事法廷(SJ)の判決を破棄しました。DBは、当局による裁量権の行使、提出された情報の重要な関連性、登録手続に対する一般的なアプローチについての指示を出しました。 ペプシコは当初、FL2027を新品種として登録申請していましたが、後日その申請を修正し、2016年に現存品種として登録しました。その後、登録品種の権利を侵害したとしてポテト農家を訴えましたが、すぐに訴えを取り下げています。2021年、「植物品種および農家の権利保護局」(以下「当局」)は、いくつかの理由で FL2027の登録を取り消しました。 とりわけ、当初ペプシコがこの品種を新品種として申請した際に、最初の発売日を、世界標準ではなくインドにおける最初の発売日にしていたため、当局はこの登録がペプシコからの誤った情報に基づいているとしました。そしてペプシコは適切な書類を提出していないことから、「育種家」には該当しないと判断したのです。最終的に当局は、この登録はポテト農家を悩ませる侵害事例であって、公共の利益に反するとしました。 ペプシコはデリー高等裁判所に控訴しましたが、同裁判所のSJは、この取り消しを支持しました。SJは、最初に新品種として出願したことは、最終的に正しく登録されたため、致命的な誤りではないことなど、いくつかの点では当局の見方に同意しませんでした。公共の利益の認定は、証拠に基づくものではありませんでした。しかし、ペプシコは不正確な情報(特に最初の発売日)を提出していたため、取り消しは正しいということに、SJは同意したのです。インド固有でも、世界標準でも、その日付が登録に重大な影響を与えることはなく、会社にとって何のメリットもないということは、重要視されませんでした。また、権利者であるグループ会社からペプシコへの権利譲渡に関する証拠も、不充分だったのです。 ペプシコはDBに控訴しました。同法廷は、申請書に記載された品種のカテゴリーについてはSJに同意しましたが、申請にも交付にも根本的な虚偽申告はなく、法律で義務付けられている情報提供も怠っていなかったという、決定的な判断を下しました。これは二つの側面を解析しています。まず、法律そのものが不明確である特定の情報について拘泥することが不適切かどうかという点、そして第二に、問題の情報の重要な関連性を考慮すべきかどうかという点です。 第一の論点については、ある品種が最初に発売された日付が世界標準でなくてはならないのか、インド固有でなくてはならないのか、法律には明記されていないとしました。法令における「品種」の定義は、「インドにおける」利用可能性について言及しているため、ペプシコは、申請書がインドにおける最初の販売への言及を要求していると考える権利がありました。適切な法的指針がないまま、その書式が法令に反する情報を要求していると裁判所が推論するのは、「狭量でペダンティック」であると言えるでしょう。 第二の論点については、この申請が最初の発売から15年という規定期間内に行われているため、インドにせよ海外にせよ、発売日を意図的に宣言することによって、ペプシコは何らの利益を得ることもなかったと、DBは判断しました。保護は、最初に販売された日ではなく、登録された日から始まることを理解すべきなのです。 正式な譲渡証書がなかったことに関しては、これが申請にとって致命的ではなかったと、DBは判断しました。 最も重要なのは、DBが取消規定の文言に注目したことです。同法廷は、「取り消すことができる」という表現は、取り消す権限が裁量的なものであることを明確に示しているとしました。それは、登録が不適格な人や品種に付与された場合、あるいは他の方法では登録を受けるに値しない品種に保護が与えられた場合にのみ、行使されるべきです。情報提供や詳細の訂正を怠ったことが意図的でも故意でもない場合、裁量は特に慎重に行使されなくてはなりませんでした。 さらなる控訴が審理される可能性があるため、これがポテト戦争の終結ではないかもしれません。しかし、この判決そのものが、裁量的取消権の重要な判例を確立しています。これは、すべての人が従うべき法と自然正義の基本原則を定めているため、申請者、被譲与者、裁判所、法的機関のすべてに影響を与えるものです。 Essenese Obhanは Obhan & Associates のマネージング・パートナーであり、Charul Yadav は同事務所のパートナーです。 Obhan & Associates Advocates and Patent Agents N - 94, Second Floor Panchsheel Park New Delhi 110017, India 連絡先の詳細: アシマオバン 電話: +91 98 1104 3532 電子メール: email@obhans.com | ashima@obhans.com
TM rights in Shakti Bhog

破産手続中の Shakti Bhog の商標権議論

By Manisha Singh そしてLisha Chauhan、LexOrbis
Shakti Bhogの複数企業の役員と債権者である銀行の従業員に対する詐欺行為や、マネーロンダリングが疑われる刑事訴訟が進行する中、破産手続も進んでおり、この状態がしばらく継続しています。価値の高い商標の知的財産権の所有権に関するこの紛争は、破産処理手続きの一環なのです。 Shakti Bhog Foods Ltd and Anr 対 Kumar Food Industries Ltd and Ors の事件において、デリー高等裁判所は重要な中間判決を下しました。この紛争は、よく知られている商標Shakti Bhogの侵害疑惑に関わるものでした。SBFLは、小麦粉と米の分野における食品製造・流通の大手企業です。同社は、商標権侵害、詐称通用、損害賠償を主張して、終局的差止を求めました。KFILは、“SHAKTI BHOG”マークの所有権を主張して反訴しました。この判決は、破産手続きの進行中における、商標法と所有権紛争の複雑さを扱うものでした。 Kewal Krishan Kumar(被告人10)は、1975年にShakti Bhogというマークを使用して、個人事業を設立しています。1990年代初期に、同被告はSBFLとKFILを設立しました。2017年、彼はKFILを退職し、その後は彼の息子と他の取締役が同社の経営に当たりました。SBFLは、KFILとその委託製造業者(被告人2~9)が当該マーク、ラベル、パッケージの使用を継続していることに悩まされていました。 SBFLでは以前から、破産処理手続きが進行していました。2015年に SBFLは事業清算を申請し、2018年に裁判所の承認を得ました。2018年、別の債権者が国立会社法審判所(NCLT)で訴訟を起こし、2023年9月に命令が下されています。原告は、債権者委員会(CoC)がSBFLの事業について「2016年破産倒産法(IBC)」に基づく企業破産処理手続き(CIRP)の交渉を行っていると主張しました。SBFLは、Shakti Bhogの商標は会社の資産であり、CIRPに含まれるべきだと反論しました。 KFILは、2017年12月30日付の譲渡証書によって、Shakti Bhogの商標の所有権を取得したと主張しました。SBFLは、いくつかの根拠を示して、その文書が偽造であると反論しました。400万インドルピー(4万8200米ドル)を上回る印紙税が支払われておらず、文書に署名したとされる被告人10は当時SBFLの取締役を停職中で、KFILの財務記録は当該証書の内容と矛盾しており、さらにKFILの貸借対照表には無形資産が計上されていなかったのです。以前の裁判では、Kumar Food Industries LtdがSBFLのライセンスと商号を使用して、その商標の製品を製造・販売していたことが明らかになっています。SBFLは、これらの矛盾が、譲渡証書とKFILの商標権主張の信憑性に重大な疑義を生じさせると反論しました。 さらにSBFLは、KFILは特許意匠商標総局(CGPDTM)にこの商標を移転する申請をしておらず、その更新はSBFLが管理していたと主張しました。KFILの製品パッケージには、この商標使用はSBFLからのライセンスに基づいていると明記されていました。2023年1月におけるSBFLからの営業停止通告に対し、KFILは譲渡証書と称するものを抗弁の証として提出しませんでした。SBFLは、このマークはKFILのものではなく、KFILはSBFLの知的財産に対して不当な主張をしていると申し立てました。 裁判所は、多くの商標がSBFLのために登録されていると認めました。KFIL は、“SHAKTI BHOG”マークの譲渡を主張する際に、印紙の貼られた譲渡証書を提出しておらず、裁判所に提出された無印紙のコピー以外に何らの記録もなかったのです。予断による不利益を防ぐため、裁判所は、CoCがこのマークをSBFLの資産とみなして、査定に進むことができると命じました。しかし、CoCは最終決定を下すことはできず、裁判所の命令を待たなくてはなりません。裁判所はKFILに対して、今後の命令があるまで、当該マークに関するいかなる権利、権原または利益の移転を行うことを禁じました。被告は“Shakti Bhog”ブランド製品に新たなライセンスを付与することができず、またCGPDTMは裁判所の承認なしに、当該マークの譲渡やライセンスを登録することができません。被告以外の委託製造業者は、すでに当該マークのライセンスを取得していれば、申請を行うことができます。この裁判は、さらなる審理のために延期されました。 裁判所が、商標登録保有者の利益を疑わしい原告から守りつつも、IBC(破産倒産法)のプロセスを妨げないよう懸念していたことは明白です。 Manisha Singhは LexOrbis のパートナーであり、Lisha...
Keep watch on data privacy

データプライバシーの監視

テクノロジーと個人の権利に関する法律をめぐるタイ、日本、フィリピンの現状 日本 フィリピン タイ 日本 本稿では、日本国外の事業者が日本国内にある個人の個人情報を取り扱う場合に特に留意すべき日本の個人情報保護法(以下「APPI」)の規制について場面ごとに紹介する。 そもそもAPPIの適用があるのか 域外適用がなければ、そもそもAPPIの規制を考える必要がない。この点に関してAPPIは、事業者が、日本国内にある法人/個人に対する物品又は役務の提供に関連して、日本国内にある個人(以下「データ主体」)の個人情報等を、外国で取り扱う場合には、APPIが域外適用されると定める(APPI第171条)。 「事業者」は、国内事業者か外国事業者かを問わない。「日本国内にある個人」は、データ主体の国籍を問わず、滞在が一時的か否かも問わない。ポイントは、物品又は役務の提供に関連する場合に限定されている点である。 例えば、外国の事業者が、全世界における従業員情報の管理の一環として、日本国内の支社の従業員の個人データを取り扱ったとしても、物品又は役務の提供に関連しないので、APPIの域外適用を受けない。 個人データの越境移転規制 前述のとおり、国内向けのサービスを展開する際に国内の顧客情報を取得すればAPPIの適用を受ける。取得の方法は、データ主体から直接取得する、国内の事業者から提供を受ける、というものが考えられるが、特に、国内の事業者から提供を受ける場合に、複雑な規制が課される。この場面で複雑な規制が課されるのはあくまで国内の事業者であるが、この複雑な規制が国内の事業者にとってのハードルになるので、外国の事業者もこの規制を把握しておくことは重要である。 具体的には、国内の事業者がデータ主体の個人データを外国に所在する第三者に移転させる場合(以下「越境移転」)、国内事業者は、データ主体に外国に関する具体的な情報を提供した上で(以下「参考情報」)、外国の第三者に個人データを移転させることについて事前にデータ主体の同意を得ておく必要がある(APPI第28条)。 提供する情報: (当該外国の名称:同意を得る時点で提供先の外国が特定できていない場合は、その理由、提供先の外国の名称に代わる情報(例えば外国の範囲が具体的に決まっていればその範囲)を提供することになる。 当該外国における個人情報の保護に関する制度の情報:国内と国外の法制度の差をデータ主体に認識させるためのものである。日本の個人情報保護委員会(以下「PPC」)が主要な外国の制度の概要を調査の上公開しており、ここに掲載される情報を提供することで対応できる(https://www.ppc.go.jp/enforcement/infoprovision/laws/)。ここに掲載されていない外国が提供先の場合、国内の事業者は、まずは提供先の外国の事業者に自国の制度について照会をかけることになるだろう。 提供先が講ずる個人情報の保護のための措置に関する情報:提供先がOECDプライバシーガイドライン8原則に対応する措置を全て講じていれば、その旨を情報提供すれば足りる。提供先の措置が不明な場合は、その旨とその理由の情報提供をすれば足りるが、判明次第、説明を追加することが望ましい。 外国の範囲:EU及びイギリスは、APPI第28条における「外国」から除かれ、APPI上は国内という扱いになる。APPIでは提供先が国内の第三者であっても、原則としてデータ主体の同意を得た上で個人データを提供する必要があり(APPI第27条第1項)、いずれにしても規制の対象となるが、国内の第三者に提供する場合の規制はそこまで複雑ではない。 第三者の範囲:相当措置を講じている事業者はAPPI第28条における「第三者」から除かれる。具体的には、提供先の外国にある事業者が講ずる措置が、APPIで国内の事業者に求められる措置をクリアしていることが確認できる場合か、提供先の外国にある事業者が、APEC (Asia-Pacific Economic Cooperation)の CBPR (Cross Border Privacy Rules)システムの認証を取得している場合に、相当措置を講じている事業者に該当する。 また、相当措置を講じている事業者に当たるとして、APPI第28条に基づく同意を得ずに、外国の事業者に個人データを提供する場合であっても、提供元の国内の事業者は、提供後も提供先において相当措置が講じられていることを確認するため、相当措置の継続的な実施確保に必要な措置(年1回以上の確認等)を講じなければならず、提供元の負担が大きい。相当措置に関する定めはあまり使い勝手の良いものとはいえない。 違反に対する制裁:上記の規制に違反した事業者に対しては、PPCが、その違反行為の是正措置を勧告し、勧告に従わない場合は命令をする(APPI第148条)。違反した事業者がこの命令にも従わない場合には、その違反行為をした者は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処され、その違反行為をした者を雇う事業者は1億円以下の罰金に処される(APPI第178条、第184条第1項第1号)。 個人データの漏えい等の規制 ランサムウェア等の攻撃等により個人データの漏えい、滅失、毀損等(以下「漏えい等」)が発生した場合に、APPIが求める対応として、PPCへの報告及びデータ主体への通知がある(APPI第26条)。 対象となる事態:以下の事態の場合に、PPCへの報告及びデータ主体への通知が必要になる。 要配慮個人情報が含まれる個人データの漏えい等が発生し、又は発生したおそれがある事態:要配慮個人情報とは、データ主体の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪歴等のセンシティブな情報である(APPI第2条第3項参照)。 不正に利用されることにより財産的被害が生じるおそれがある個人データの漏えい等が発生し、又は発生したおそれがある事態:クレジットカード番号等も併せて漏えい等した場合である。 不正の目的をもって行われたおそれがある個人データの漏えい等が発生し、又は発生したおそれがある事態:第三者からの攻撃を受けて漏えい等した場合である。 個人データに係るデータ主体の数が1000人を超える漏えい等が発生し、又は発生したおそれがある事態 漏えい等が発生した事業者において報告・通知を行うことは当然として、問題は委託先で漏えい等が発生した場合である。原則は、委託元と委託先の両方が、報告・通知を行うことになるが、報告等の重複を避けるため、委託先が委託元に漏えい等が発生した旨を通知すれば、委託先は報告・通知の義務が免除される。 PPCへの報告の方法: 速報:(1)の事態の発生を知った時から、概ね 3~5 日以内にその時点において、次項(ii)①~⑨のうち把握している内容を報告する。 確報:(1)の事態の発生を知った時から、30 日以内〔(1)(iii)の事態においては 60 日以内〕に、①概要、②漏えい等が発生し、又は発生したおそれがある個人データの項目、③漏えい等が発生し、又は発生したおそれがある個人データに係るデータ主体の数、④原因、⑤二次被害又はそのおそれの有無及びその内容、⑥データ主体への対応の実施状況、⑦公表の実施状況、⑧再発防止のための措置、⑨その他参考となる事項を報告する。 原則として、PPCのホームページの報告フォーム(https://roueihoukoku.ppc.go.jp/incident/?top=r2.kojindata)に入力する方法により行う必要があるが、日本語での対応になるため、特に速報においては翻訳の時間も考慮しなくてはならない。 データ主体への通知の方法: 時間的制限:PPCへの報告と異なり、当該事態の状況に応じて速やかに通知をすることが求められる。タイミングは個別の事案毎に判断することになる。 通知の内容:PPCへの報告が求められる内容〔(3)(ii)〕のうち、①概要、②漏えい等が発生し、又は発生したおそれがある個人データの項目、④原因、⑤二次被害又はそのおそれの有無及びその内容、⑨その他参考となる事項である。 ...
RBI on SRO

RBIはSROを信頼することを学ぶ

By Sawant Singh そして Aditya Bhargava, Phoenix Legal
規制が市場を後追いすることが多いのは、自明の理です。その理由の一つは、規制当局が市場から離れているために、市場で起こっていることに無関心な場合があることです。規制当局には関係者と連携し、消費者の利益をしっかりと守りながら成長とイノベーションを促進することが期待されますが、これは言うは易く行うは難しです。規制当局と市場の間には常にギャップがあり、一方は他方の行動に不満を抱いています。この橋渡しをし、意見の一致を促進させる方法は、市場の利益を擁護すると同時に、市場の期待を和らげることが可能な信頼できる仲介者を雇うことです。規制当局はこの仲介者を、市場の期待を正確に伝える者とみなすことができます。 規制の推進と市場の期待のバランスを図るため、インド準備銀行(RBI)の開発および規制政策に関する2023年10月の声明では、自主規制機関(SRO)が「コンプライアンス文化」を強化し、「政策決定のための協議プラットフォーム」を提供することを認定しました。この声明はまた、RBIがさまざまな規制対象事業体(RE)に対するSROを認定するために「オムニバスフレームワーク」を発行することも約束しました。これはすべてのSROに共通の要素を規定しています。その要素には、広範な目的、機能、適格基準、ガバナンス基準が含まれます。申請を募る際には、セクター固有の条件が規定されます。草案はパブリックコメントを求めるために公開されます。 その後、REに対するSRO認定と一般の反応を募るためのディスカッションペーパーが、2023年12月21日にRBIによって発行されました。このペーパーの冒頭では、自主規制が法定規制を補完できることが認識されました。SROは「イノベーション、透明性、公正な競争、消費者保護」に貢献することができ、「また、技術的および実践的な側面、微妙な違い、関連するトレードオフに関する情報を提供することで、規制政策の枠組み作りや微調整を支援する」ことができます。これは、これまで過度に詳細にこだわるとみなされていた規制当局からの融和的な声明でした。 ディスカッションペーパーでは、SROの特徴が説明されています。メンバーから十分な権限を与えられ、メンバーの行動について協議するプロセスが設けられ、その規則を執行できなければなりません。SROは強力なガバナンス・メカニズムを備え、メンバーの活動を監督する手順を導入する必要があります。SROはまた、「セクターを効果的に監視するための適切な監視方法」を備えている必要があります。このディスカッションペーパーでは、規制当局に関するSROの義務、そのような組織を設立する申請者の適格性、およびそのガバナンスの枠組みについても規定されています。 ディスカッションペーパーでは、一般的なレベルで、SROは自身が代表するセクターの改善、また業界の重要な懸念事項に対処し、進歩を促進するための包括的な目標に従い、それを実現することが期待されていると宣言しています。またSROには、コンプライアンスの文化を促進し、RBIやその他の政府機関および規制機関との連携において、メンバーの集合的な意見として機能することが期待されています。SROは、すべての会員の公平かつ透明な扱いを保証し、業界のより広範な懸念に対処する必要があります。SROはまた、イノベーションを受け入れるための研究開発を奨励する必要があります。 SROを認定する動きは特に、これまでRBIに対して十分な発言力がないと不満を漏らしていたフィンテック業界に歓迎されているように思われます。RBIは、業界の良き代弁者と考えられているマイクロファイナンス・セクターのSROと、良好な関係を築いてきたと考えられています。また彼らは、より柔軟な規制につながる十分なセクター情報を、RBIに提供してきたとも考えられています。 このディスカッションペーパーは、広範な原則を扱っているように思われますが、RBIが過度に規範的になる傾向があるため、それを抑止するのに良いアプローチです。同ペーパーは、金融セクターにおける既存の代表機関の扱いについては言及していません。彼らは認定されるように申請する必要があるでしょうか、それとも自動的に認定されるのでしょうか? これは、SROがいずれにせよ、自律的かつ代表的なものであるべきだとすれば、規制当局によって承認される必要があるのかという別の疑問が提起されます。おそらく、これはライセンス取得を目的とした認定というより も、不当なロビー活動の防止を目的としていると思われます。もしそうであれば、これは規制草案の顕著な特徴と言えます。 Sawant SinghとAditya Bhargavaは、Phoenix Legalのパートナーです。 Phoenix Legal Second Floor 254, Okhla Industrial Estate Phase III, New Delhi – 110 020, India Vaswani Mansion, 3/F 120 Dinshaw Vachha Road, Churchgate Mumbai – 400 020, India 連絡先の詳細: 電話: +91 11 4983 0000 +91 22...
GST burden on Japanese corporate guaranteesvideo

親会社保証を行う日本企業が負う予期せぬGST納税義務

By Reena Asthana Khair と Vrinda Bagaria, Kochhar & Co.
物品・サービス税(GST)は金融セクターや民間企業にとってゲームチェンジャーでした。先般のGST改正により、インドの日系企業は、親会社保証に関する課税方法をはじめとして、重大な影響を受けています。 親会社保証は、プロジェクトファイナンスにおいて極めて重要な役割を担っており、大規模なベンチャー事業の資金調達、ストラクチャリング、実現可能性を左右する主な要因になります。これらの取り決めでは、親会社がグループ会社、子会社、合弁会社の銀行・金融機関からの債務や融資を保証します。保証は、親会社が子会社などのために金融機関に対して行う契約であり、子会社などの債務不履行時に履行義務が発生します。通常、このような保証の取り決めに対して、親会社が対価を求めることはありません。これは、企業グループ内の重要プロジェクトの資金調達を円滑に進める上で、親会社による保証が戦略的に重要であるためです。 企業金融の分野では、通常、親会社保証は資本調達の円滑化の手段だと考えられていますが、現行の制度では、GSTの課税対象になっています。GST審議会の第52回会合および中央間接税・関税委員会の通達を受け、このような保証は現在、2017年中央財サービス法(Central Goods and Services Act, 2017/以下、「CGS法」)のスケジュールIに従い、サービスの提供として処理されています。これには無償で提供される保証も含まれており、税務上の取り扱いが大幅に変更されることになりました。 サービス税に関する以前の制度では、Commissioner of CGST and Central Excise対M/s Edelweiss Financial Services Ltd.の裁判において最高裁判所が判示したとおり、無償の親会社保証は課税対象ではありませんでした。しかし、現行のGST制度では状況は異なります。CGS法スケジュールI第2項では、事業の過程で関連当事者間で提供されるサービスは、無償であっても課税対象となると規定されています。企業の定款に、親会社保証が付帯的または付随的な事業目的として記載されることも多いため、親会社保証は事業関連活動に分類されます。これらの改正は、以前は非課税の請求権とみなされていた親会社保証の課税性に関する、長年の論争を終結させるものです。 改正後のCGST規則第28条には、親会社保証の課税対象額の決定に関する規定が新たに設けられました。この規定では、保証額の1%と実際の対価のうち金額の大きい方が課税対象額になります。この改正により、インド子会社に保証を提供している日本の親会社に対する課税額が、著しく増加する可能性があります。 日本企業は、親会社保証の評価と課税に関して複雑なGST制度に対応する必要があります。インド企業が提供する保証と、日本企業などの外国企業が提供する保証の取り扱いは、大きく異なります。外国企業の場合、親会社保証はサービスの輸入とみなされるため、GSTはリバースチャージ方式で納税する必要があり、サービス受領者であるインド子会社が納税義務を負います。 日本企業にとっても、新しい税制度にはいくつかの懸念すべき点があります。評価の点に関しては、「提供された保証額」という記述からは、課税額の決定方法が確定できない可能性があります。課税額には、保証の対象である元本、利息、その他手数料が含まれる可能性があります。納税義務者は、サービス受領者は元本と同額の融資を確保することによってのみ利益を得ているため、課税額には利息やその他手数料を除く元本のみを含めるべきだ、と主張するかもしれません。 改正前に提供された保証については評価方法が明らかではないため、課税額の算定は容易ではありません。GST当局が、このような保証に課税するのは難しいかもしれません。親会社保証の期間は長期にわたることが多いのですが、課税の対象となるのが保証の提供時なのか、継続的なサービス提供なのかも不明瞭です。 GST審議会の決定により、親会社保証の取り扱いが大幅に変更され、その影響は日本企業にも及んでいます。この改正の結果、明確にされた点があるものの、同時に納税義務、納税額の評価、運用に関して新たに検討を要する事項も生じています。企業がこの改正の影響に効果的に対応するには、常に状況を把握し、専門家にサポートを求める必要があります。 このような課題に対処するため、特に再生可能エネルギー、従来型発電、アルコール飲料、石油などの、GSTをタックス・クレジットとして利用できない可能性があるセクターでは、さらなる規定の明確化と政策の調整が求められます。 Reena Asthana Khair (左)、Kochhar & Coシニア・パートナー、Vrinda Bagaria、シニアアソシエイト。 Kochhar & Co. New Delhi (head office): Kochhar & Co. Suite # 1120 -21, 11th Floor, Tower...
公有领域不可能有秘密

パブリックドメインに秘密なし

By Essenese Obhan, Sumathi Chandrashekaran と Ayesha Guhathakurta, Obhan & Associates
文学の世界では、秘密に関する話がふんだんに描かれています。誰が秘密を守っているか、そして何よりも、誰が不誠実にも秘密を漏らすのか。企業の世界もまた、秘密情報を託された者に依存しており、その裏切りによって企業全体がダメージを被る可能性があります。本の内容とは異なり、ビジネス上の秘密を特定することには、多くの論争を伴う場合があります。この点の扱いを誤ると、企業秘密を盗まれたとして誰かを訴えたとしても、それが企業にとって不利に働く可能性があります。 通常、組織の中で研究開発や技術分野の役職に就いている人は、機密情報にアクセスできることが多いものです。そのような従業員が競合他社に入社したり、自分で会社を設立したりする場合、元の雇用主が機密情報の悪用を懸念するのはよくあることです。しかし、事業を立ち上げたり、競合他社に入社したからといって、その元従業員が必ずしも機密情報を搾取しているとは限らず、そのような主張をする場合には注意が必要です。企業が特に自覚すべきは、たとえ新しい職務が以前の職務と直接競合するものであっても、パブリック・ドメインにある情報を利用する限り、従業員は自分のスキルや知識を自由に行使できるということです。 ボンベイ高等裁判所は最近、Rochem Separation Systems (India) Pvt Ltd 対 Nirtech Pvt Ltd and Ors の件において同様の事実を検討し、その中で、守秘義務と重要な事実の隠蔽に関する原則を説明しました。それにより、高裁は法的手続きにおける誠実性、透明性、倫理的行動の基本を確認しました。被告側は、機密であると主張された内容が、実際には、それまでに期限切れとなっていた米国特許で、公開されていたと示すことができたのです。 原告のRochem社は、同社の元従業員である被告らが、占有情報を第三者と共有し、守秘義務に違反したと主張していました。被告らは、Rochem社に在職中にその情報を受領しており、この違反によって、Rochem社は多大な財務上の損失を被りました。被告側弁論の中でNirtech社は、機密とされる情報がすでに公開されているという事実をRochem社が隠しており、原告として裁判所に機密記録を提出する際に、正当な手続きを踏んでいないと主張しました。本件は、被告が元従業員として、原告と直接競合する取引や事業に従事しているか、また以前に取得した機密情報を利用できるかどうかの点で争われました。 裁判所は、ボンベイ高裁が Narendra Mohan Singh and Ors 対 Ketan Mehta and Ors の判決において、守秘義務は法によって守り続けられるものではなく、それが公開された時に終了すると示したことを例に挙げ、守秘義務の原則は神聖なものであるとしました。Rochem社の件の裁判所は、機密情報が明確に特定されている場合、被告がその情報を機密として受領していた場合、その情報が機密として取り扱われるにふさわしく、かつパブリック・ドメインにはない場合、そして原告の許可または同意なしに使用されたか、使用されようとした場合に、守秘義務違反の訴因は認定されると判示しました。 守秘義務違反と認定されるには、原告がこれらすべての要素を証明しなければならないと、裁判所は示しており、その一部のみを立証しても、充分ではありません。 裁判所はさらに、具体的な内容を記した情報を封書で提出することが必須であり、それに従った場合にのみ、裁判所が訴えを評価するための比較を行うことができると判断しました。 Rochem社に関する判決は、クリーンハンドで法廷に臨むという原則を強調するものでした。当事者は、正直かつ誠実に、そして詐欺的意図を持たずに、訴訟を提起しなくてはなりません。裁判所は、Rochem社が機密としていた情報が、既に米国特許で公開されているという重大な事実を、故意に隠していたと判断しました。これにより、原告の信用性が損なわれ、その主張の真偽が疑われることになったのです。 振り返ってみると、原告はある事実を有利に利用することができたのに、そうしなかったのです。同社の図面は、公開された米国特許の図面と非常に類似していましたが、同一ではありませんでした。もし原告が、2組の図面の違いを明確に特定していたなら、結果は大きく違っていたかもしれません。元従業員が同社の図面を使用して同じ製品を作った、などという大雑把で一般的な記述では、裁判所を満足させられないのは明らかです。成功を収めるには、より詳細で強固な事例を提示しなくてはなりません。 Essenese Obhan は、Obhan & Associates のマネージング・パートナー、Sumathi Chandrashekaran は同所のコンサルタント、 Ayesha Guhathakurta は同所のアソシエイトです。 Obhan...
india workplace harassmentvideo

職場のハラスメントを見過ごしてはならない

By Anirudh Mukherjee と Pankaj Anil Arora, Kochhar & Co.
インドの大半の企業では従業員に出社を求める勤務形態に戻っており、職場での交流が増えています。こうしたなか、職場のハラスメントに効果的に対処するための確実な制度を整備することが、雇用者の喫緊の課題となっています。従業員の不正行為のために他の従業員に害が及ぶことは多く、一般的な職場ハラスメントやセクシャルハラスメントの被害が生じている場合もあります。したがって、雇用者がハラスメントの性質を正確に見極め、法律や社内規定に従って効果的に対処することが極めて重要です。 2013年職場における女性へのセクシュアルハラスメント(防止、禁止および救済)法〔Sexual Harassment of Women at Workplace(Prevention, Prohibition and Redressal)Act, 2013〕は、職場におけるセクシュアルハラスメントの防止に関する法規範を成文化したものです。同法の制定により、大半の雇用者が、必要な方針の策定、社内委員会(IC)の設置、従業員の意識向上を目的とする研修および評価を実施するに至りました。しかし、このような対策の真価が問われるのは、被害者がハラスメントに対する正当な対応を求めるときです。雇用者とICは、こうした状況で現実的な問題に直面することになります。 ハラスメントすべてがセクシュアルハラスメントに該当するわけではありません。個々の事例を批判的に分析し、同法に基づいてICが対応するべきか、社内方針や手続きに沿って雇用者が対応するべきかを判断する必要があります。同法への抵触を防ぐためにも、ICがこの分析を行うべきです。ICが、申し立てはセクシュアルハラスメントに関するものではないと判断した場合、その申し立てを雇用者に伝え、社内の方針や手続きに従って対処するよう求めることができます。 ヒューワート卿の「正義が行なわれるだけではなく、行なわれていることが明らかにされなければならない」という言葉には、その字義と趣旨の双方の点で従うべきです。職場でのハラスメント事案の裁定は、すべて、独立した公平な委員会によって行われるべきです。雇用者は、裁定者が公平でなければならないという要件を忠実に遵守し、いかなる偏見も、個人的なものか組織的なものか、また現実のものか見かけ上のものかを問わず、払拭するよう努めなければなりません。セクシュアルハラスメント以外の事案においては、独立した外部調査官を任命することや、ICに経験豊富な外部メンバーを任命することは、調査の独立性を確保する上で非常に有益です。 同法において、セクシュアルハラスメントの被害を申し立てることが認められるのは、「被害を受けた女性」または「被害を受けた女性」の代理人のみです。しかし、現在では社内規定の大半が、平等と差別禁止の原則に基づき、男性やトランスジェンダーに対するハラスメントも対象に含めています。これらの基本的権利は、インド憲法第14条、第15条、第21条に規定されています。このような場合に雇用者が留意するべきなのは、この種の事案についてはICに法的な調査権限はないため、自社の社内方針に基づいて、ICに明示的に委任しなければならないということです。また、このような事案には同法は適用されないため、対応手続きや実施可能な救済方法についても、文書で定めておく必要があります。企業は、従業員ハンドブックや雇用契約に社内方針を盛り込むことを検討するべきです。 雇用者は、ハラスメントに関する申し立てすべてに対して適用される法令と、社内方針に従って対応すると同時に、事実を確認するために公正に、かつ透明性をもって調査を実施しなければなりません。このようにすることで、事実と反する疑惑から自身を守ることができます。不満を抱えた従業員が、強引にハラスメント被害を訴える事例が増えています。2022年にカルナータカ高等裁判所は、大手日系エンジニアリング企業の女性従業員が告訴した刑事事件を審理しました。彼女は退職を強要され、上司から性的な意味合いをもつ言葉で罵倒されたと主張していました。裁判所は、このセクシュアルハラスメントの申し立ては、復讐を動機とする後からの思い付きだと判断しました。 2023年、最高裁判所は、ハラスメント被害を主張することは容易であり、それに対する反論は非常に難しいことを認めつつも、「裁判所は証拠をより綿密に調査し、申し立ての妥当性を判断する義務を負っており、籾殻と穀物を区別する(良いものと悪いものを選別する)ために、細心の注意を払うべきである」と判示しました。これらの判例が示唆しているのは、雇用者とICは画一的なアプローチを取るのではなく、提示された事実と証拠に適した手法を、調査の全段階を通して適用しなければならないということです。 雇用者が、職場におけるハラスメントやセクシュアルハラスメントを根絶することは難しいでしょう。しかし、上述のように対応することで、最大限に効果的に、かつ透明性をもって申し立てに対処することができます。 Anirudh Mukherjee、Kochhar & Co.パートナー、Pankaj Anil Arora、同事務所プリンシパルアソシエイト。 Kochhar & Co. New Delhi (head office): Kochhar & Co. Suite # 1120 -21, 11th Floor, Tower - A, DLF Towers, Jasola District...
RBIは消費者ローンの守護者か、それとも障害か

RBIは消費者ローンの守護者か、それとも障害か

By Sawant SinghとAditya Bhargava,Phoenix Legal
インド準備銀行(RBI)は数カ月にわたり、個人向けローンや無担保融資の急増に対する懸念を表明してきましたが、先般、今後の対応がより厳格になることを明確に示す文書を公表しました。RBIは2023年10月の総裁の声明において、銀行およびノンバンク金融会社(NBFC)に対し、「内部監視メカニズムを強化し、リスクの蓄積に対処」し、「適切な防止措置を導入」するよう勧告しました。また、RBIは同声明において「金融の安定を維持するために積極的に対処していく」と警告しました。 RBIが、これまで警告を強めてきたにもかかわらず望ましい結果が得られないばかりか、わずかな警戒心すら喚起できていない、と考えたのは間違いありません。総裁の声明に続き、11月16日付の通達では、銀行の個人向けローンを含む、すべての消費者融資の残高および新規融資額のリスクウェイトが、100%から125%に引き上げられました。 住宅ローン、教育ローン、自動車ローン、金・宝飾品担保ローンなど、特定の類型のローンはこの決定の対象から除外されています。またこの通達では、住宅ローン、教育ローン、車両ローン、金・金宝飾品担保ローン以外のNBFCが提供する消費者ローンのリスクウェイトが、100%から125%に引き上げられました。これらの措置は、おそらく、規制の裁定を最小限にするために実施されたとみられます。また、銀行の与信残高の伸びの主な要因は、NBFCに対する融資であることを考慮したものでしょう。 このRBIの通達では消費者信用に関する措置が引き続き強化されており、指定銀行(scheduled commercial bank/インド準備銀行法に基づく指定銀行)によるNBFCに対する融資について、認定された外部信用評価機関が割り当てたリスクウェイトが100%未満である場合、リスクウェイトを25%以上増加させるよう求めています。 住宅金融会社およびNBFCに対する融資のうち、優先セクター向けローンに分類されるものは、今回の変更の対象から除外されます。さらに、銀行およびNBFCのクレジットカード債権のリスクウェイトは、それぞれ150%と125%に引き上げられました。 消費者金融に対する一層の規制強化として、自動車ローン自体はリスクウェイト増加の対象ではないものの、車両などの減価償却の対象となる動産を担保とするトップアップローンを、無担保ローンに分類することが義務付けられました。また、RBIの規制下にある企業に対して、消費者金融のセクター別エクスポージャーの上限の見直しと、これらの上限の「厳格な遵守と継続的な監視」が指示されましたた。 RBIの通達によって消費者ローンの増加が抑制されており、消費者ローンに注力してきた金融機関やクレジットカード事業者は、戦略の見直しを迫られています。これは明らかにRBIが望んでいた結果です。RBIなどの金融セクターの規制当局は、利害関係者がコンプライアンスを徹底するための態勢を整備できるよう、ある程度の準備期間を設けるのが通例です。しかし、この命令は即刻実施されました。これはおそらく、RBIが個人向けローンの増加に対して懸念を深めていることの表れでしょう。 RBIが消費者ローンのリスクウェイトを引き上げたのは、今回が初めてではありません。2004年から2005年にかけて引き上げが実施され、2019年にようやく緩和されました。このような経緯を踏まえると、経済史の観点からは、これは新しいアプローチというよりも、将来生じ得る疾病に従来の治療法によって備えているようなものです。 金融業界では、この通達に対する不満の声も上がっていますが、全般的な印象としては、銀行業務を通常どおり行っている金融機関は、今後も順調に成長を続けると思われます。しかし後発の消費者向け融資に、より重点を置く金融機関は、事業モデルを見直す必要が生じるでしょう。RBIは、消費者融資は良いけれども、システミックな安定性の維持のため、経済全体の成長と同じペースで成長するべきだ、と考えているようです。 RBIが以前、不良債権を根拠に金融機関にバランスシートの改善を迫った経緯に照らすと、今回の措置は事態が問題化するのを未然に防ぐための警鐘である、と考えられます。今回の措置が示唆するのは、おそらく、RBIは個人消費の増加と成長を支える一方で、無制限な成長は認められず、慎重にペースを守らなければならないという、タカ派的な考え方を持っているということです。また、そのような個人消費や成長には健全な基準が適用されるべきです。 Sawant Singh(左)およびAditya Bhargava、Phoenix Legalパートナーです。 Phoenix Legal Second Floor 254, Okhla Industrial Estate Phase III New Delhi – 110 020 India Vaswani Mansion, 3/F 120 Dinshaw Vachha Road, Churchgate Mumbai – 400 020 India 連絡先詳細: 電話: +91 11 4983 0000 +91 22 4340 8500 Eメール: delhi@phoenixlegal.in mumbai@phoenixlegal.in
patent agents

弁理士とクライアントには秘匿特権はない

By Essenese Obhan, Obhan & Associates
クライアントは当然ながら、リーガルアドバイザーとのコミュニケーションが、弁護士・依頼者間の秘匿特権によって保護されると期待しています。インドでも、弁護士とクライアントには秘匿特権が認められています。その一方で、弁理士については、その役割は多くの点で弁護士と重なっているにもかかわらず、秘匿特権が適用されません。 特許法に関する業務を担うのは、弁護士と弁理士という2種類の専門家です。前者には1961年弁護士法が適用され、裁判所への出廷やインド特許庁への出頭が認められています。後者は科学、工学、技術の分野の知識を習得しており、1970年インド特許法の適用対象で、特許審査管理官(Controller of Patents)の下に出頭し、書類作成や特許手続きに関する業務などの職務を行うことが認められています。しかし、弁理士は、弁護士に伴われていなければ裁判所に出廷することはできません。 秘匿特権の根拠となるのは、1872年インド証拠法第126条から第129条です。これらの条項には、弁護士と依頼人間の職務上のコミュニケーションの保護が規定されています。弁護士の事務員や職員も対象に含まれます。第128条は依頼人による秘匿特権の放棄を認めており、第129条は、法律の専門家とのコミュニケーションの開示を強制されることのないよう、依頼人を保護する規定です。秘匿特権の例外には、違法な目的や犯罪に関連するコミュニケーション、社内弁護士が関与するコミュニケーションが含まれます。インドでは、フルタイムの従業員である弁護士は法廷弁護士として登録することができないため、裁判所に出廷して職務を行うことはできません。弁理士も同様に、クライアントとのコミュニケーションについて、秘匿特権を認められていません。弁理士は一般的な守秘義務原則に拘束される一方で、秘匿特権による保護を受けられないため、裁判手続きにおいて弁理士が受領した情報の開示を迫られる可能性があります。 弁理士に秘匿特権が認められていないことが、見過ごされているわけではありません。法律委員会は、1977年の第69回報告書と2003年の第185回勧告の2度にわたり、この問題を取り上げています。同委員会は証拠法の改正を提案しました。しかし、法律委員会の報告書は、議会での議論に影響を与えることはできるものの、拘束力はありません。 クライアントから、弁理士とのやり取りの際に秘密を守るにはどうするべきかについて、質問を受けるかもしれません。特許出願を検討している人は、法改正が行われるまでは、弁護士資格を併せ持つ弁理士に限って依頼するべきです。多数の弁理士が両方の資格を取得しています。また、インドの特許法律事務所の大半が弁護士によって経営されています。そうすることで、弁理士とのコミュニケーションが、弁護士と依頼人間の秘匿特権によって自動的に保護されることになります。このような両方の資格を持つ専門家は、弁理士を雇用して、通常は守秘義務契約を結んでいます。弁理士とのコミュニケーションは、その業務を担当する弁護士が窓口になるか、弁護士にコピーが送付されるの通例であるため、秘匿特権の対象になる可能性が高いと考えられます。これが、両方の資格を持つ専門家に有利になり、不公平な状況につながることは認めざるを得ませんが、現時点ではこれが最善の解決策です。 しかし、弁理士には特許ポートフォリオ、事業目標、戦略計画などの機密情報を目にする機会があります。弁理士に秘匿特権が認められていないために、発明者と特許に関するアドバイザーとの間の自由な情報のやり取りが妨げられ、ひいては特許の質や特許制度全体に悪影響が及びかねません。 弁理士に秘匿特権を拡大することは、イノベーションのエコシステム全体にとって、利益となるでしょう。秘匿特権の根拠は公共の利益であり、秘匿特権の対象に弁理士を含めることは公共の利益に適うという点について、法律委員会の見解は明白です。 仮に特権が拡大されたとしても、懸念すべき点が一つ残ります。特許出願人は、特許庁に公知の先行技術をすべて開示する義務はありません。当初の明細書が誠実に作成されておらず、特許出願公開後に明細書が補正された場合、裁判所は請求された損害賠償や利益を認めないはずです。しかし、明細書が誠実に作成されていなかったという抗弁を被告が主張できるのは、証拠開示手続きで、その証拠を見つけることができた場合に限られます。 このような問題は、公知の先行技術すべての開示を義務付ける法改正によって、おそらく解決することができるでしょう。先行技術とそれに関する専門家の助言が区別されていることは、秘匿特権が助言にのみ及び、技術自体には及ばないことを意味します。 しかし、現行の法律では、弁理士に秘匿特権が認められていないことは明らかです。クライアントは自身の権利の範囲または権利が及ばない範囲を認識し、その認識に従って手続きを進める必要があります。 Essenese Obhan、Obhan & Associates創業者兼パートナー Obhan & Associates Advocates and Patent Agents N - 94, Second Floor Panchsheel Park New Delhi 110017, India 連絡先詳細: Ashima Obhan 電話: +91-9811043532 Eメール: email@obhans.com ashima@obhans.com
著作権とウェブサイトの侵害は単にクリケットではない

著作権とウェブサイトの侵害は、単にクリケットの話にとどまらない

By Manisha SinghとMalyashree Sridharan,LexOrbis
最近の Sporta Technologies Pvt Ltd and Anr 対 Unfading OPC Private Limited の件において、デリー高等裁判所は、被告側企業があからさまな商標権侵害を行い、著名で評判の高い会社のウェブサイトを模倣したと判断しました。Sporta Technologies社は、Unfading社が www.sattadream11.comというドメイン名や、類似したロゴを使用して、スポーツ・ベッティング・サービスを提供し、同社の商標Dream 11を侵害していると主張しました。被告不在の状態で、Sporta Technologies社は裁判所から暫定的差止命令を付与されました。 第一原告であるSporta Technologies社は非公開の有限会社であり、第二原告である米国法人 Dream Sporta Incの完全子会社です。原告らは2012年に、著名なファンタジースポーツのプラットフォームを共同で設立していました。このプラットフォームは、ファンタジークリケットの分野で賭けの機会を提供しており、国際クリケット協会(ICC)、Campeonato Nacional de Liga de Premiera Division(通称 La Liga)、Vivo Indianなどの著名団体の公式ファンタジースポーツ・パートナーです。 第二原告は、インドにおける複数の商標区分でDream 11という商標の登録保有者になっており、また2008年にwww.dream11.comというドメイン名を登録しています。第一原告は、Dream 11を含む数々の商標について、各種区分における登録を保有しています。 2019年、原告らは広く知られているように、4年間のセントラル・スポンサーシップ契約を、インド・プレミアリーグ・クリケット管理委員会との間で締結しました。これにより、原告らはUAEで開催された2020年のインド・プレミアリーグ(IPL)シーズン中に、Dream 11の商標を使用した自社のプラットフォームを、大々的に宣伝できるようになりました。原告らはIPLのファンタジースポーツを促進し、3シーズンにわたってIPLの実際の試合中にも Dream...
暫定的差止命令における被告の権利の、より公正な扱い

暫定的差止命令における被告の権利の、より公正な扱い

By Manisha SinghとOmesh Puri,LexOrbis
最近、知的財産権訴訟における暫定的差止命令付与のあり方について、その主要なアプローチに対する異議が提起されています。Silvermaple Healthcare Services Private Limited 対 Dr Ajay Dubey and Ors の件では、知的財産権、守秘義務契約、商標侵害紛争の被告の権利との関係が検討されました。 被告は、Silvermaple Healthcare Services Private Limitedに勤務していた皮膚科医でした。この関係は、2011年9月に締結された競業避止義務契約(NCCA)の規定に準拠するものでした。これにより、被告は雇用終了後の一定期間、機密情報の開示、競合事業への従事、従業員や顧客に対する勧誘活動を制限されていました。 2022年9月、被告は原告の会社を退職しました。その後、彼は直接毛包挿入法(DFI)を用いた植毛サービスを提供するクリニック(社名 Evolved Hair Restoration India)を自身で設立したのです。原告は、被告が原告の会社の従業員や顧客を積極的に勧誘し、原告の登録商標を侵害するとともに、原告を中傷する発言をすることにより、NCCAの規定に違反したと主張しました。 この件では、被告が機密情報を開示して競合事業に従事したことで、守秘義務契約に違反したかどうか、そして被告によるDFIという商標の使用が、原告が所有する直接植毛法、すなわちDHIという商標の商標権侵害に当たるかどうかが争点となりました。 デリー高等裁判所は、暫定的差止請求に対する決定を待つ間に、何らかの指示を出すべきかどうかのみを検討しました。裁判所は、近年の Dabur India Ltd 対 Emami Ltd における2023年8月21日の控訴審判決を引用し、知的財産権訴訟において、暫定的差止命令が付与される前に被告が反論する権利を強調しました。同裁判所は、Wander Ltd 対 Antox (India) Pvt Ltd の件を分析した上で、すでに市場に参入している被告と、まだ参入していない被告を区別することの重要性を明示しました。また、暫定的差止命令は、損害賠償では充分に救済できないような権利侵害から、原告を保護するためのものであることを強調したのです。すでに確立された市場プレゼンスを被告が有している場合は、反論する機会が不可欠です。 裁判所は、Dabur事件を引用し、暫定的差止命令を付与するか否かを判断する際に、事件の時期と、被告がその係争商標を以前に使用していたかどうかが、極めて重要な役割を果たすことを明示しました。原告が訴訟を起こす前に、被告がその商標を使用していた場合、被告には請求に対する反論の機会が与えられなくてはなりません。 被告は一定期間、DFIの商標を使用していたため、裁判所は、被告に同商標の使用差止請求に反論する権利があると判断しました。 多くの争点がひとまず解決されたものの、裁判所は、原告が提起した数々の懸念事項にも対処しました。被告は、自身のソーシャルメディア・アカウントから問題のあるコンテンツを削除し、原告やその技術をネット上で批判しないことに同意しました。裁判所は、被告のウェブサイト上の記述の中には、必ずしも原告を害するとは限らないものもあると考えました。しかしながら、契約違反との主張やデリー首都圏内の皮膚科医の競争など、より複雑な問題については、さらなる検討と議論が必要となりました。裁判所は最終的な判決を下さず、暫定的命令を発する前に、証拠や法律をもっと精査する必要性を強調しました。 この判断は、知的財産権訴訟における暫定的差止命令の付与について、重要な影響を与えるものです。かつては、被告に係争商標の使用歴がある場合でも、裁判所が予告なしに暫定的差止命令を付与することがしばしばありました。本件は、このアプローチに対する再評価の可能性を示唆しています。今後、裁判所が予告なしに暫定的差止命令を付与する傾向が弱まり、それに代わって、かかる命令を付与する前に、被告に反論の機会を与えるようになるかどうか、それはまだ不明です。被告に係争商標の使用歴がある場合には、特にそうなる可能性があります。しかし、原告の商標が侵害されたことが明白であり、裁判所が疑いを持つ余地がない場合には、この判断が権威を発揮することはないでしょう。 Manisha...
india regulating e-pharmacies

インドのeファーマシー規制に最適な処方を早急に整備せよ

By Essenese Obhan, Charul YadavそしてSapna Sharma, Obhan and Associates
それは、書籍の大規模な供給から始まりました。現在、インターネットが深く浸透し、デジタルアクセスが普及したことで、ほとんどの商品をオンラインで購入することができます。医薬品とeファーマシー(オンライン薬局)は、最近Eコマースにおいて関心を集めている分野です。eファーマシーは、お客様がオンラインで医薬品を購入できるようにするもので、市販薬は直接購入できますが、薬局方医薬品には処方箋が必要です。しかし、eファーマシーの規制は、不透明な状態にあります。インドの医薬品監督官は、最近でも2023年2月に医薬品のオンライン販売をめぐって、20軒のeファーマシーに対して、原因究明通知を発行しました。 実店舗の薬局とeファーマシーの間には、まだ正式な規制がなく、eファーマシーという言葉も法令には記載されていません。しかし、eファーマシーは10年近く前から注視されていました。 2015年12月、医薬品諮問委員会(DCC)がeファーマシーの規制枠組みに関するロードマップを立案しました。DCCの小委員会は、オンライン医薬品販売と公衆衛生上の影響を検討した結果、このような販売の監督を勧告しました。2018年8月、eファーマシー規則案「2018年医薬品・化粧品(改正)規則」が発行されましたが、まだ施行されていません。 2018年12月、デリー高等裁判所は、免許のない薬のオンライン販売を禁じました。同裁判所は、インド全土におけるeファーマシーの禁止を命じ、政府に規制を導入するよう指示しました。マドラス高等裁判所も同様にオンライン販売を禁止しましたが、控訴審で中断され、事実上、eファーマシーの再開を認めました。 現行法では、オンライン薬局とオフライン薬局の間に明確な区分がないため、司法の両価性が存在するのかもしれません。例えば、1945年医薬品・化粧品規則や1948年薬事法では、登録薬剤師でない者が処方薬を配合、準備、混合、調剤することを禁止していますが、このような行為はeファーマシーに対して常に強制できるわけではありません。現在、アップロードが義務付けられている処方箋は、常に操作され、誤用される可能性があります。また、州ごとに法令が異なるため、州を超えた医薬品の販売には懸念があります。このような懸念は、データのプライバシー、薬の誤用、セルフメディケーションに関わるものです。 他の分野と同様に、医薬品に関する規制体制は、メーカー、企業、消費者の変化するニーズや要求に対応できていません。この法令では、偽の店舗や偽造医薬品などのリスクを伴うeファーマシーを認めていません。さらに、医療へのアクセスの向上など、eファーマシーがもたらす機会についても、法律が認識しているとはいえません。 2022年7月、政府は「2022年医薬品・医療機器・化粧品法案 (法案)」を公布し、政府にeファーマシーを規制する権限を与えたほか、「何人も、......と規定される場合を除き、オンラインモードで医薬品の販売、仕入れ、展示または販売の申し出、または提供を行なってはならない」と規定しています。2022年6月、Department Related Parliamentary Standing Committee on Commerce(DRPSC)の第172回報告書には、eファーマシー規則がまだ確定していないことに「愕然とする」と記載されていました。とりわけ、決定的な規制枠組みの採用が過度に遅れることは不確実性をもたらし、速いペースで進むデジタル市場にとって好ましくない状況であると指摘しています。 2023年3月、DRPSCは、主に関係者からの意見に基づいて、先の報告書に対する反応をまとめました。薬局・薬種商組合は、eファーマシーによって、80万軒の薬局が安売りを行い、廃業する懸念があるとして、反対しました。また、eファーマシーと異なり、実店舗の薬局は、家庭に薬を届けることができませんでした。複数の調剤を避けるために電子処方箋のみを許可することや、習慣性医薬品の販売の禁止を提案する関係者もいました。また、適切な処方箋のない規制対象薬品の販売は、価格操作につながり、命を救う医薬品の入手に悪影響を及ぼすという意見もありました。 報道によると、法案はデータのプライバシーや処方箋薬の誤用の懸念に対処するために修正され、省庁間の協議に回されたようです。eファーマシーはその数の急増、投資家の関心の高まり、顧客需要の急拡大を踏まえると、今後も普及すると思われます。しかし、その成長は医療へのアクセスや公衆衛生全般に大規模な影響を及ぼすため、こうしたeファーマシーを効果的に規制するための強固な枠組みを早急に構築する必要があります。 Essenese Obhan はObhan & Associatesのマネージングパートナーであり、Charul Yadavは同事務所のパートナー、Sapna Sharmaは同事務所のシニアアソシエイトです。 Obhan & Associates Advocates and Patent Agents N - 94, Second Floor Panchsheel Park New Delhi 110017, India 連絡先の詳細: Ashima Obhan T: +91-9811043532 E: email@obhans.com ashima@obhans.com www.obhanandassociates.com
OTT landscape in broadcasting bill

放送法案に見るOTTの環境

By Ashima ObhanとArnav Joshi,Obhan & Associates
情報放送省(MIB)は2023年11月10日、公共の意見を反映するために、2023年放送サービス法案草案を発表しました。同法案は、1995年に制定されてすでに数十年になるケーブルテレビネットワーク法に代わるもので、同法の制定後、放送産業に発生した重要な変化を反映しています。しかし、すでに多数の利害関係者が、同法案に対して広範囲にわたる批判を行い、過剰規制と検閲に対する懸念を提起しています。法案で最も重要な変化の一つは、OTT(over-the-top)ストリーミング・プラットフォームを「放送サービス事業者」の定義内に含めることです。すなわち、OTTプラットフォームと、コンテンツをオンラインで放送するその他のデジタル・メディア・プラットフォームが、従来の放送サービスプロバイダと同一の規制を遵守することになります。 専門家たちは、既存の放送サービスとオンライン・ストリーミング・プラットフォームに、共通の規制メカニズムを設けるという考え自体に問題があると主張しています。たとえば、OTTストリーミングの場合、個人は使用可能な様々なオプションの中から、消費したい考えるコンテンツの種類を自由に決定できます。これは、固定し、予定された編成だけを提供する既存の放送プラットフォームではあり得ないことです。したがって、すべての放送プラットフォームに対して同一の法律を当てはめる考え方は、消費者の選択権を維持する上で障害になる可能性があります。 同法案は、コンテンツ評価委員会(CEC)と放送諮問委員会(BAC)の設立が規定されており、政府が定めたプログラムおよび広告基準に従って、すべての放送コンテンツを調査する責任を負っています。BACはMIB、女性児童開発省、内務省、外務省、社会正義・権限付与省などを代表する政府官僚たちで構成されます。また、政府が任命した5人の著名で、独立した人物もBACに加わる予定です。これにより、番組や広告規定違反の有無を判断するのが独立した機関ではなく、政府が介入することへの憂慮の声が高まっています。OTTのコンテンツは、本質的に多様で型破りなストーリーテリングを提供するもので、これは放送規定に明示された、今後許容されるコンテンツの範疇に合わない可能性があるのです。 同法案によれば、中央政府や権限を委任された機関が、OTTとそのサービスを調査する権利を持つことになります。そけらの機関は、事前の通告なしに検査を行う権限を持っています。また、関連する政府命令を遵守していないOTTの設備を押収し、没収する権限も持っています。番組規定や広告規定を遵守しなければ、OTTのコンテンツが放送から除外される可能性があり、OTTの登録が取り消されることもあり得ます。同法案はまた、規定を遵守していない個人に金銭的、懲罰的損害賠償を支払うよう規定しています。深刻な違反の場合、個人は最大2年の懲役刑を受ける可能性もあります。 検閲をめぐる措置は、言論の自由に対する論争を引き起こすだけでなく、OTTの産業活動を阻害するかもしれないという憂慮が生じています。インドのOTTとデジタル・メディア業界は、すでに同法案について憂慮を表明していします。ニュース記事によると、インドの一部の主要OTTの代表らが、法案で最も懸念される条項の一部を再作成するように、MIBに要請することを決定したとのことです。 要約すると、伝統的な放送局と新興OTTプラットフォームの双方に対して、新たに同一の規制監督を提供しようとする同法案は、インド憲法で保障されている芸術的表現の自由と創意的自由を脅かすという点で、広範囲な反対・批判を引き起こしました。CECとBACの設立は、芸術的表現と規制の間には、複雑で繊細な均衡が必要だという事実を無視することです。困難な要件と違反に対する厳格な処罰は、インドで事業を拡張しようとするOTTプラットフォームに、相当な影響を及ぼす可能性が高いのです。利害関係者らが討論に参加し、修正案を模索することにより、法案の行方はインド・デジタル放送産業の未来の形を、大きく決定することになるでしょう。 Ashima ObhanはObhan & Associatesの上級パートナーであり、Arnav Joshiは所属弁護士です。 Obhan & Associates Advocates and Patent Agents N - 94, Second Floor Panchsheel Park New Delhi 110017, India 連絡先の詳細: アシマオバン 電話番号: +91-9811043532 電子メール: email@obhans.com ashima@obhans.com
Importance of Patent Rules compliance

特許規定を含む規定遵守の重要性

By Manisha SinghそしてShilpa Priyadarsini、LexOrbis
デリー高等法院(日本の裁判所に該当)は2003年特許規定に従うことが重要であり、最近、Akebia Therapeutics Inc対Controller General of Patents、Design、Trademark and Geographical Indications以外の事件で規定遵守の重要性を強調した。 本件は2017年に登録された特許に関する事件である。事件の被告は2018年9月に書類を提出した。出願人であり特許権者は2019年1月に答弁書を提出した。その後、被告は2019年2月に答弁書と専門家の陳述書を提出した。2019年4月、特許権者は相手方の陳述書に対して異議を申し立てるその他請願1を提出した。2020年2月に特許権者は追加証拠を提示するために、その他請願2を提出した。原告は、特許登録後に提出された異議が不十分な証拠に基づいていると主張した。特許登録後に提出された当該異議は、具体的な書類を含むものの、証拠が不足していた。 特許権者は、提出された書類が規則第57条の要求事項である陳述書形式で作成されていないと主張した。これにより規則第58条に基づき、被告が証拠として反駁する機会が剥奪されたものと主張した。手続き上の欠陥により異議申立てに対する公正な評価がなされなかったのだ。 被告は異議申立て文書が陳述書によって生成されておらず、規則第57条の要求事項を満たしていないという点を認めた。しかし、彼らは請願人が規則第60条に基づいて追加証拠を追加しようと努力したが、そうしないことを決めたという点を指摘した。被告は専門家の陳述書の支援を受けて請願人の答弁陳述に対する答弁書を提出した。被告は手続き的不規則性が請願人に被害を与えず、このような憂慮を解決するための救済策が利用可能だと主張した。 規則第58条は、特許権者が自身の主張を裏付ける証拠がある場合、答弁書を提出するように要求している。規則第59条は、異議申立て人が特許証拠に提示された問題に厳格に制限された追加証拠を提供することができるよう許可している。法院は、規則第59条が再合意書を提出するものと解釈できないと判決した。 法院は、被告が異議申立て書とともに証拠を提出すべきだったと判断した。以後、特許権者は答弁書と共にいかなる証拠も提出しておらず、被告が答弁はいうまでもなく、答弁に対する証拠として専門陳述書を提出することを許容してはならないと主張した。規則 第60条 に基づき、特許権者は追加の証拠の提示を申請した。 異議委員会(Opposition Board)は被告の書類と答弁陳述を考慮した。法院は、規定された証拠が提出されなかったという理由で、委員会の勧告を却下した。 法院は特許登録後の異議申立てにおいて規則、特に規則第57条を厳格に遵守することが重要だと強調した。しかし、法院は委員会勧告の妥当性と説得力のある価値を認めながら、Cipla Ltd対Union of Indiaの大法院事件に従った。大法院は、このような勧告事項が最終決定で中枢的な役割を果たすという点を確認した。大法院は、同法案が公正性と手続き的完全性を保障すると強調した。偏見を防止し、公正かつ公正なプロセスを保証するには、手順を厳格に遵守することが不可欠である。 法院は、専門家の陳述書、異議申立て書類、および請願人の答弁書を委員会で検討するよう命令した。また、当該特許権者が委員会に追加証拠を提出することも許容された。 今回の決定により、特許異議申立てに対する規則および手続きに関して切実に必要な明確性が確保された。同判決は、特許環境を単純化し、一貫して解釈することで、特許庁を含むすべての当事者が責任を果たし、透明性を保障するのに寄与した。 Manisha SinghはLexOrbisのパートナーであり、Shilpa Priyadarsiniは所属弁護士です。 LexOrbis 709/710 Tolstoy House 15-17 Tolstoy Marg New Delhi – 110 001 India www.lexorbis.com Mumbai | Bengaluru 連絡先の詳細: 電話: +91 11 2371 6565 電子メール: mail@lexorbis.com
Dynamic injunctions against digital piracy

スポーツ著作権侵害動的差止命令(Dynamic Injunction)の救済

By Ritika Agarwal、LexOrbis
デジタル技術の登場は、デジタルコンテンツへのアクセスと共有に革命をもたらした。また、コンテンツ制作者、著作権保有者およびエンターテインメント業界の主要な関心事であるデジタル海賊版の深刻な増加につながった。デジタル海賊行為に対する保護として、動的差止命令は非常に効果的であることが立証された。これは、コンテンツ制作者と著作権所有者の利益を保護することが示されている。 最近、Star India Private Limited大学Anorv JioLive.テレビ以外の事件における動的差止命令の拡張された役割は、大規模なスポーツイベント中に発生するすべての著作権侵害に迅速に対応するのに非常に効果的であった。 Star India Private LimitedとNovi Digital Entertainment Private Limitedは8ヶ国語で77のテレビチャンネルを放送し、サッカー、バドミントン、テニス、ホッケー、国内および国際クリケット競技のようなスポーツイベントに対する放映権を保有している。特に、インドのクリケット管理委員会と国際クリケット委員会(ICC)が主催した試合を放送する権利を保有している。Novi Digital EntertainmentはStar India系列会社であり、最高のストリーミングプラットフォームであるDisney+Hotstarを所有している。 原告は2023年ICC男子クリケットワールドカップ競技または、その一部の不法流布および放送を防止するための差止命令を申請した。原告は、国際クリケット委員会(ICC)が8年間のワールドカップを含むイベントに対して付与した独占的なグローバルメディア権利を主張した。原告は9つの被告を悪性ウェブサイトで識別し、彼らの無断通信および放送を差し止めようと努力した。原告はこのようなウェブサイトを制限しなければ、ワールドカップ競技を無断で配布し、原告の独占権に回復できない被害を与えると主張した。 原告は、過去にほぼすべての主要なスポーツの試合が違法にストリーミングされ、インターネット上で放送されることを確認したと主張した。原告は、ワールドカップ クリケットの試合中に違法活動が起こることを憂慮した。Star IndiaとNoviは、裁判所の差止命令が申請書に明示されたウェブサイトを防御するのに効果的だったと主張した。しかし、イベントが行われている間は、他の多くの悪性ウェブサイトで違法に試合をストリーミングし、放送した。 原告らは事前に動的差止命令を下すことの必要性を強調しながら、2021年以後の事件において被告と識別されるウェブサイトの数は少なかったが、以後に確認された悪性ウェブサイトは多いと主張した。これらのウェブサイトは、裁判所が承認した動的差止命令とサービスの中断に対抗した。同事件で裁判所はワールドカップ競技の重要性と原告らが独占的なメディア権利を獲得するために相当な投資をしたという点を認定した。知的財産権を保護するためには、仮想世界における効果的な救済策が必要であることを認めたものだ。裁判所は、9人の被告がICCワールドカップクリケット競技の一部を通信、上映、または流布することを差し止める臨時差止命令を承認しました。また、8つのドメイン名登録機関、9つのインターネットサービスプロバイダ、2つの政府当局に対し、悪性ウェブサイトの遮断、停止、遮断などの即時措置を取るよう指示した。 裁判所は、試合がわずか1日しか行われないため、今後侵害を解決するために動的差止命令が重要だという事実を認識した。動的差止命令を通して、原告はリアルタイム遮断のためにワールドカップ期間中に新しい悪性ウェブサイトの詳細情報を伝達することができた。通信部と電子情報技術部は、原告から情報を受け取り次第、遮断命令を下すよう指示を受けた。 裁判所は、W杯期間中、原告の権利保護が急がれると判断して仮処分申請を受け入れ、3ヶ月後に開かれた審理において、原告らは406のサイトが確認されたと裁判所に通知した。裁判所は、当該サイトの名称を記録に残すことを命じた。 今回の決定は、スポーツ競技の無断ストリーミングを防止するための積極的なアクセス方式を反映し、デジタル時代における動的差止命令の重要性をよく示している。 Ritika AgarwalはLexOrbis所属の弁護士です。 LexOrbis 709/710 Tolstoy House 15-17 Tolstoy Marg New Delhi – 110 001 India www.lexorbis.com Mumbai | Bengaluru 連絡先の詳細: 電話: +91 11 2371 6565 電子メール: mail@lexorbis.com
Privy Council clarifies proper purpose rule

英・枢密院、バミューダ信託受託者の権限の適正目的ルールを明確化

By Helen Wang そして Ryan Chong, Carey Olsen (シンガポール)
枢密院は、長らく待たれていた判決において、バミューダ信託の受託者の決定は無効であると判断し、受託者の権限行使の限界を明確にしました。 長らく待たれていた先般の英国枢密院の判決(Wen-Young Wong & Ors対Grand View Private Trust Company、2022年)では、バミューダにおける受託者の権限の限界が明確にされました。 英国国王の公的諮問機関である枢密院の判断が求められたこの問題の主な論点は、信託の受託者が、目的信託を対象として追加し、対象の全クラスを構成する親族を除外することにより、信託証書に含まれる、裁量対象を追加・除外する明示的な権限を「正当な目的のために行使」したのかどうかということでした。 経緯 信託設定者は、台湾最大の財閥の一つ、台湾プラスチックグループの創業者である2人の兄弟でした。 彼らは2001年に2つのバミューダ信託を設定しました。1つ目は、グローバル・リソース・トラスト1号(Global Resource Trust No 1、GRT)です。その主要な資産は、台湾プラスチックグループの株式を所有する投資持ち株会社であり、2019年時点の推定価値は約5億6000万米ドルでした。 受託者は、基金の資本金と収益の全部または一部を、創業者の子孫や親族のために、またはその利益のために用いる裁量権を有していました。この紛争で争点となった権限とは、GRT信託証書の第8条に基づいて受託者が有している「いかなる個人、またはいかなるクラス、もしくはいかなる記述の個人も」受益者として追加、または除外できるという権限でした。 同時に、創業者は慈善と慈善以外の目的を持つワン・ファミリー・トラスト(Wang Family Trust、WFT)を設定しました。しかし重要な点として、この信託はワン家の一族やその他のいかなる人物にも、利益を提供するものではありませんでした。 GRTとWFTの受託者は別個の事業体でしたが、ディレクターは共通しており、一方の創業者の2人の娘と、もう片方の創業者の2人の息子がディレクターに就任していました。 その後、2005年9月、GRTの受託者は、裁量対象の追加と除外の権限を行使し、基金全体をWFTの受託者に指定することを決議しました。その後、直ちに、受託者は裁量処分権を行使し、GRTの信託基金全体をWFTの受託者に指定し、これにより移転は完了しました。 GRTの受託者は、この決定の背景には、「創業者はその資産の大部分を、当時、十分な資産と特権を保有していた子供やその妻ではなく、社会に残すことを固く決意していた」ことがあると言及しました。 このGRT受託者による権限行使に対して、創業者の他の親族が、2018年にバミューダで開始された手続きにより異議を申し立てました。 当初バミューダ最高裁判所は、略式裁判の申請に対し、受託者の権限の行使は無効であると判示しました。バミューダ控訴裁判所はこの判決に対する上訴を認め、また、枢密院への上訴も許可しました。 枢密院の判断 枢密院の委員会は全会一致で、GRT受託者は不当な目的のために権限を行使した、と判断しました。この判断を下すにあたり、委員会は以下を含む種々の主要な法原則を検討しました。 1. 受託者の信託に基づく権限に課される義務と制約。第8条に規定される権限が信託に基づく権限であり、その行使には衡平法により課される義務や制約が伴うことは、論争の対象になりませんでした。そのため、まず権力の行使の方法が、権限の明示または黙示の条件の範囲に収まっていなかったか、または反していなかったかについて、つまり権限の範囲に関するルールについて、検討する必要がありました。第2の検討事項は、GRT受託者による権限の行使(その範囲内だったとしても)の目的が不当であったのか、つまり適正目的ルールに関するものでした。 第8条に規定された権限は非常に広義に記述されていたため、委員会は、異議が申し立てられたGRT受託者の決定はその権限の範囲内だった、と比較的容易に結論付けることができました。 適正目的ルールの適用については、より詳細な議論を要しました。委員会は、権限行使の目的が、権限が付与された目的から外れているか、または目的の範疇外であるかが、検討するべき問題であると判断しました。 2. 「本質」ルールは存在するか? 原告側の主な主張は、受益者を追加・除外する受託者の権限を、信託の性質や性格、またはその本質を毀損するために行使することは認められない、というものでした。これは本質ルールと呼ばれています。 委員会は、関連する先例を詳しく調査した結果、絶対的な本質ルールは存在しないと判断しました。GRTの目的は、第8条に規定される権限の目的を決定する上で最も重要であるものの、既定の優先要素にはなりません。 3. 第8条に規定される権限の適正目的とは何か? GRTの信託証書全体を自然に読めば、この信託は創業者の直系卑属の利益のための家族信託であることがわかります。 委員会の見解では、創業者がGRTと同時にWFTを設定したことは極めて重要な意味を持っています。彼らは、台湾プラスチックグループの株式を2つに分け、価値のある株式の大半をWFTに保有させ、GRTには、創業者の子孫や親族のために、株式の価値全体の6分の1だけを保有させました。証拠からは、創業者が別個の目的のために2つの異なる信託を設定することについて、十分理解していたことが見て取れます。 GRTの信託証書が、創業者の子孫や親族を対象としていること、およびGRTが設定された状況を踏まえ、委員会は、第8条の目的は受益者、すなわち創業者の子孫や親族の利益の増進であると結論付けました。 4. GRT受託者は、指定された受益者の利益を増進させるのではなく毀損するために、その権限を有効に行使することができるか? 通常、受益者が指定されている信託の受託者に付与される信託に基づく権限は、受益者の利益の増進のために行使されなければなりません。この点は、投資に関する権限などの本質的な管理権限では明らかです。 しかし、委員会は、受益者を追加または除外する権限は、信託を根本的に変更することができるため、性格が異なる可能性があると判断しました。特定の信託証書にそのような権限が含まれている場合、問題となるのは、その権限がそのような能力を持つよう意図されているのか、または実際に、指定された受益者の利益を単に増進する以上の目的を持つのかということです。この点については、信託証書とそれを取り巻く状況に照らして、権限を検討するというアプローチが必要です。 この事例の場合、GRTには明確な目的があり、それが第8条に規定される権限の目的の特定に決定的に作用します。 結論 本判決は、光を当てられることの少ない、受益者を追加および除外する受託者の権限の性質と範囲について検討した、重要な判決となりました。枢密院の判断によると、この権限は受託者の管理権限とは異なる性質を持つ可能性があります。 枢密院はまた、適正目的ルールを適用するための法原則を見極めるため、関連する先例を詳細に分析しました。委員会は、第8条に規定される権限の目的を決定するにあたり、厳格な本質ルールを適用するのではなく、また受託者のすべての権限は、一部またはすべての受益者の利益のために行使されなければならない、という最優先原則に依拠することなく、信託証書の条項と信託が設定された状況に照らして判断することを選択しました。 これは、信託に関するあらゆる取り決めが、個別化されたソリューションであることを思い出させるものです。受託者の権限の目的を決定するルールや原則には、一律のものは存在しないのです。 CAREY OLSEN 10 Collyer Quay #29-10 Ocean Financial Centre Singapore 049315 電話番号: +65 6911 8310 Eメール: singapore@careyolsen.com www.careyolsen.com
AI creativity and trust  document image music video production

驚嘆の的のAIも、信頼の醸成が必要

By Ban Jiun Ean、Maxwell Chambers
生成AIの台頭により、津波のように衝撃波が広がっています。 AI技術をいち早く導入した企業では、文書、画像、音楽、動画が驚くべきスピードで作成されています。その品質は著しく向上し、人が作成したものと区別できないことも少なくありません。その裏返しとして必然的に、市場での地位を奪われることを恐れるクリエイターの間では、懸念が高まっています。さらに追い打ちをかけるように、このようなクリエイターが制作した作品を使って、AIは訓練されているのです。 著作権や海賊版に関する懸念、生計への不安、従来の評価や試験の方法が急速に陳腐化するのに伴って、学生や研修生が勤勉さや労働倫理を軽視するようになるなど、規制や業界の慣行を通じて対処するべき深刻な問題があるのは確かです。 しかし、いつの時代であっても、新しい技術には新たな課題と機会が伴うものです。このような技術に適応し、それらを調整し、進化させるのは、常に社会の役割でした。新しい技術を受け入れ、適切に活用することについても同様です。 自動織機の発明が産業革命期の社会を大きく変動させた時代、繊維工場の労働者たちは失業の不安にさらされました。電話交換機の性能向上に伴い、電話交換手の姿はなくなりました。ワープロが発明された結果、タイプ室は消えました。とはいえ、このような変化はすべて長い時間をかけて起こったため、従来の職種が消えていく間に、人々はスキルを習得・向上する機会がありました。 しかし、AIのイノベーションの速度はあまりに速く、政府が規制することも、ましてや人々が従来の仕事を辞めるために新しいスキルを習得することさえも、容易ではありません。 しかしこれらは、AIがもたらす課題の中でも最大のものである「信頼」の問題に比べれば、些細なことだと言えるでしょう。 機械は人間より速く、より優れた仕事をすることができます。たとえば、重量の大きな荷物を運んだり、人間が行くには危険過ぎる場所に行ったり、100人分の仕事をしたりすることが機械には可能です。このような事例のすべてにおいて機械は、その背後に存在する意思決定者である人間の努力を増大させているにすぎません。 しかし、機械に何をすべきかを指示されて生活することは、上述の事例とはまったくの別物です。AIが関与する状況では、意思決定の過程から、人間が完全に排除される恐れがあります。 ある意味では、私たちはすでにそのような現実を生きています。すでにAIのアルゴリズムは、タクシー運転手がどの乗客を乗せるべきかを自律的に決定しています。人が関与することなく顔認証検査を行い、個人の身元を判断します。あなたの視聴・購入の習慣を調査し、何千、何百万という選択肢の中から、あなたが興味を持ちそうな番組や商品を推奨します。あなたのソーシャルメディアのフィードにどのツイートやスレッドを表示するか、どれを表示しないのかを決定します。 好むと好まざるとにかかわらず、私たちの生活はすでにある程度AIに左右されているのです。 食事、買い物、映画、あるいは移動手段のような、より日常的なことに関しては、それが可能な限り低コストで実行でき、効率と効果が高まるのであれば、私たちは誰が自分を誘導しているのかという点をほとんど気にかけません。このような状況では、どのように決定がなされ、誰がそれを行うのかなどのような、私たちがはるかに気にかけるべき分野にAIが密かに侵入しつつあるという事実に、無頓着で鈍感になってしまいます。 ChatGPTが教えてくれるレシピは信用できるのでしょうか? そのレシピに従って作られたものを食べるでしょうか? 情報源や背景が明らかにされていない場合に、AIがまとめた「事実」を信用できるのでしょうか? AIを搭載したアプリが提供する「医療アドバイス」に従って行動するでしょうか? そして、私たちが経験している光景や音がデジタルなものであったとしたら、目で見たり耳で聞いたりしているものを信じることができるでしょうか? ディープフェイクは、生成AIが普及するはるか前から問題になっていました。そして今や、著名人にとっても一般の人にとっても、悪夢としか言いようのない事態になりつつあります。 信頼は、以前にも増して新しい通貨になりつつあります。Googleが検索エンジンの頂点に立つことができたのは、信頼があったからです。人々はその検索結果を他の何よりも信頼しているのです。しかし、仕組みを理解しておらず、情報の出所が不明で、誰が設計したのかもわからないものを信頼するでしょうか? これが、AIを用いて重要な決定を下すことの根本的な問題なのです。 極端ではあるものの適切な例として、自律型殺傷兵器があります。世界中の軍隊がAI兵器の開発競争を繰り広げていることは周知の事実であり、国防の世界では、この競争に勝ったものが優位に立つと広く信じられています。そのため各国政府は、AIを搭載しAIに制御される兵器の製造や、サイバー戦争でのAIツールの活用のために、膨大な労力を注いでいます。 理論家や批評家が支持するレッドライン(越えてはならない一線)の一つは、人の命を奪う決定をAIに委ねてはならないというものです。これは常に、人の手に握られていなければなりません。その根底にあるのは、人は依然として倫理観、道徳性、義務感、名誉、忠誠心、連帯感、あるいは単なる利己心によって、ある程度は抑制されるはずだという論理です。恐ろしいのは、兵器となったAIにはそのような防護柵や配慮がなく、人の命を奪う決定が単純な数字と確率の問題に矮小化されかねないことです。 そのため、人の命を奪うことを最終的に決定するのは、常に人であるべきだと主張されています。 AIが生きるべき人と死ぬべき人を決めてはならないことには、誰もが同意します。しかし、AIによる戦争行為の支援をどの程度認めるかについては、意見が分かれます。どの時点を越えれば、最も重要な決断をAIに委ねたとみなされるのでしょうか? 現在、多くの軍隊では、潜在的な脅威や敵を特定する際の補助としてAIを使用し、戦場で利用するための大量の情報(多数のセンサーによって収集され、他の膨大なデータと統合された情報)を処理・分析しています。その後、理論的には、攻撃の決定が人間のオペレーターに委ねられます。しかし、戦場の情報分析に基づいてAIが提供するアドバイスにおいて、AIが標的の脅威の確度は「99%」と報告した場合に、「攻撃」を拒否するオペレーターはいるでしょうか? あるいは、AIが標的は高い確度で無害であると報告した場合に、自信を持って攻撃できるオペレーターがいるでしょうか? 事実上、これは攻撃するか否かの決定が、すでにAIとそのアルゴリズムに委ねられていることを意味しています。重要度の低い決定を除き、人間のオペレーターは基本、形式的な指令を出すだけなのです。 これが、法律とどのような関係があるのでしょうか? まさにこのような懸念が、司法や法執行におけるAIの利用に関してすでに生じていると言えます。 英国では、20年前からOASysと呼ばれるプログラムにより受刑者の釈放後の再犯リスクを評価し、仮釈放の決定に利用しています。米国では、COMPAS(Correctional Offender Management Profiling for Alternative Sanctions)という再犯予測プログラムが、同様の目的のために使用されています。 これらのプログラムは、多くのデータポイントに基づいて再犯の可能性を予測し、その結果が裁判官による仮釈放の可否の決定を左右します。これらのプログラムに対しては、支持も批判もあります。効率性とスピードを高く評価する声もあれば、その機密性のために非公開で調査できないデータによってプログラムが訓練される結果、偏りや差別的な判定が生じる疑いがあるという指摘もあります。 必ずしも生死に関わるわけではありませんが(今のところは)、このようなプログラムが個人の運命、つまり引き続き収監されるか自由を得るかを決定することに、変わりはありません。しかも、そのような決定がどのように、なぜ下されたのかが不明瞭です。それは、特に機械学習の登場によって、アルゴリズムが比類ないペースで自己学習するようになり、アルゴリズムが複雑になりすぎて理解不能になったからです。マイノリティや特定の社会経済的経歴を持つ人々のプロファイリングが公平性に欠ける、という非難には、アルゴリズムや訓練用データセットが外部に公開されない限り、対応や解消のための対策を講じることは容易ではありません。 このような懸念は、Maxwell Chambersにおける技術導入へのアプローチに、大きな影響を及ぼしています。紛争解決の際、積極的に複合現実やオンライン会議を活用する一方で、当事務所に適したAI製品を慎重に検討するとともに、望ましくない結果が生じないよう、十分なセーフティネットを整備しています。 今後AIツールの利便性や性能が向上していくのは、ほぼ間違いありません。多くの人が予想するよりも早く、AIツールは広く普及し、ビジネスの基盤となる日が来るでしょう。その時まで、私たちは徐々にAIツールの導入を進めつつ、状況を注意深く見守っていきます。 同様に、シンガポールではAIに対して多大な投資が行われていますが、消費者保護とイノベーションや成長を妨げないことのバランスが重視されています。 AIの威力と危険がついに明らかになった今、文書作成と法的調査の効率を高めるためだけのAI利用を越えて、アルゴリズムに何を委ね、何を委ねないかを再考するべき時でしょう。 MAXWELL CHAMBERS 32 Maxwell Road #03-01 Singapore 069115 電話: +65 6595 9010 Eメール: info@maxwellchambers.com www.maxwellchambers.com
裁判所、登録商標の職権調査を決定

裁判所、登録商標の職権調査を決定

By Manisha SinghとOmesh Puri,LexOrbis
2023年9月11日にデリー高等裁判所はNadeem Majid Oomerbhoy対Sh. Gautam Tank事件について判決を下しましたが、この事件の経緯は過去例のない独特なものでした。この事件は商標に関する紛争で、食用落花生油に対する「SUPER POSTMAN」という文字商標の使用に関連して起こりました。 原告は、被告らが「SUPER POSTMAN」という類似した商標を使用し、原告の「POSTMAN」という登録商標を侵害していると主張して訴えを提起しました。この事件を複雑にしたのは、被告が2004年に「SUPER POSTMAN」という商標の登録を出願をした後、2023年2月13日にようやく登録が認められるまで、この出願がきわめて長期にわたり係属中であったという事実です。 被告が「SUPER POSTMAN」の文字商標登録を取得していることを知った原告は、この登録の有効性を争うために出願しました。さらに原告は、被告の商標に対する是正手続きを開始するため、進行中の訴訟を中断するよう求めました。 しかし原告は、1999年商標法第124条(1)(b)に規定されている法的手続きを遵守しませんでした。商標法第124条(1)は、商標権侵害に関する訴訟が係属中の場合に適用されます。第124条(1)(b)には、この場合に従わなければならない手続きが以下のように規定されています。 被告は第30条(2)(e)に基づき抗弁を行い、登録商標の有効性を主張する。 原告が被告の商標の有効性を争う場合、裁判所はその異議申し立てを認めるべきか検討する。 裁判所が異議申し立てを認めるべきであると判断した場合、争点を整理し、原告が被告の商標に対して是正手続きを申請できるように、訴訟を3カ月間中断する。 この事件では、被告は陳述書において第30条(2)(e)の抗弁を行っていませんでした。そのため、裁判所は第124条に基づく原告の申し立を却下しました。訴訟では、原告は商標権侵害を主張して、被告による使用の差し止めを求めましたが、一方で被告は有効な商標登録を保有していました。 裁判所が是正手続きを認めるには、被告の登録の無効を宣告する必要がありますが、これは商標法第29条(1)および第30条(2)(e)に抵触すると考えられます。 第29条(1)および第30条(2)(e)では、侵害行為の主体となるのは登録商標権を保有していない者のみであり、登録商標の使用は、たとえ既存の商標と同一の商標であっても、侵害に該当しないと明確に規定されています。そのため、登録商標の保有者による侵害があったと認定することは、法律上認められません。 裁判所の判断:デリー高等裁判所は、被告の登録商標の検討を経ずに、侵害について審理を進めることができるという原告の主張を退けました。裁判所はまた、法に反する命令を意図的に下すことは制定法の条項に反することになるため、認められないと強調しました。 さらに、商標法第28条(3)には、登録商標の保有者は、同一または欺瞞的に類似する商標を保有する他の登録商標権者に対して、独占権を主張することはできないと規定されています。この規定は、侵害に関する原告の主張は、第28条(3)の例外に従うということを強調するものです。 裁判所は、両当事者の利益を比較衡量する必要があると考え、代替案を検討しました。商標法第57条(4)は、当事者の申請がない場合であっても、裁判所に商標登録の取り消しまたは変更、および登録簿の修正を行う権限を付与しています。 デリー高等裁判所はこの規定に基づき、第57条(4)に規定されるsuo motu(当事者による要請がない場合に、裁判所が職権で行う措置)の権限により、被告の商標登録の有効性を調査することを決定しました。 この裁判所の決定は、本件の侵害に関する主張では登録が極めて重要な役割を果たしている点を踏まえ、原告に登録の有効性を争う公正な機会を与えるために下されたものです。 デリー高等裁判所の決定は、商標に関する紛争の複雑さを浮き彫りにするものです。特に、この事例のように登録商標が関与しており、さらに商標登録の一つが長期間を経た後に取得され、その経緯が答弁書に記載されていない場合は、非常に複雑になる可能性があります。 Manisha SinghおよびOmesh Puri、 LexOrbisパートナーです。 LexOrbis 709/710 Tolstoy House 15-17 Tolstoy Marg New Delhi – 110 001 India www.lexorbis.com Mumbai | Bengaluru 連絡先詳細: 電話: +91 11 2371 6565 Eメール: mail@lexorbis.com
日本の贈収賄防止の規制動向

日本の贈収賄防止の規制動向

By 西垣健吾、松尾宣宏 そしてパトリック・フォーマン 、GIT法律事務所(東京)
日本の評判を守るため、手加減はしない 日本は世界で最も汚職の少ない国の一つだと、一般に考えられています。トランスペアレンシー・インターナショナルの腐敗認識指数2022年版では、180カ国中18位にランクされ、アジア太平洋地域の中で、ビジネス慣行が最もクリーンな国の一つになっています。 しかし、その日本でも、リスクが高いとみられている領域があります。それは、医療、建設、政治です。日本では贈収賄事件はまれであり、通常、メディアの大きな関心が集まります。そのため、検察と警察は贈収賄を取り締まるために多大なリソースを注ぐ傾向があります。 医療 2023年9月、日本の医療機器会社ゼオンメディカルの社長が、架空の市販後調査(PMS)プログラムを承認した疑いで逮捕されました。医療機器メーカーのトップが贈賄容疑で逮捕されたのは、知られている限り、日本ではこれが初めてです。 この事件では、同社が国立がん研究センター東病院の医師に、賄賂を支払っていたとされています。同社が製造した医療機器(心臓血管手術用のステント)1本につき1万円(66米ドル)を、PMSプログラムへの協力手数料という名目で医師に支払ったということです。2019年度と2020年度の「手数料」は合計約300万円でした。同病院はそれまで、ゼオンのステントの使用実績はありませんでしたが、PMSプログラムの開始後、使用するステントの50%超をゼオンから購入していました。 また、2022年から2023年にかけてのスター・ジャパンの事件(販売促進のため、手術動画の提供の見返りに医師に謝礼金を支払った容疑)、2021年の三重大学の事件(大学病院に寄付の名目で賄賂を支払った容疑)の刑事事件についても、捜査が続いています。2023年には、医療従事者が比較的少額の饗応を受けたり贈答品を受領したりしたことで、起訴された事案もありました。 建設と政治 日本政府は、建設会社や政治家が関与する汚職に対して、贈収賄防止関連の法令を積極的に適用しています。最近、再生可能エネルギー業界に注目が集まっていますが、この業界は通常、広い意味での建設業界や、政治と関係があります。 再生可能エネルギー産業は、環境関連の法令や政府の政策によって厳しく規制されており、どの再生可能エネルギー・プロジェクトを進めるかを決定する際には、政治家が重要な役割を果たします。 毎年、少なくとも数件の事案が起訴に至っており、地方の公務員ばかりか、衆議院議員(秋本真利議員)が関与した事件もあります。2023年9月、秋本議員は、洋上風力発電開発事業の入札に有利になるような質問を衆議院で行った見返りに、再生可能エネルギー企業から6100万円を受領した容疑で逮捕されました。 日本における贈収賄 日本の刑法第197条は、公務員がその職務に関して賄賂を収受、要求、または約束した場合、5年以下の懲役に処すると定めています。贈収賄と公務員の職務上の行為または不作為の間に請託があった場合は、7年以下の懲役に処すると定めています。 第198条は、公務員に賄賂を供与した者、申し込んだ者、または約束した者は、3年以下の懲役または250万円以下の罰金に処すると定めています。刑法が適用されるのは、法人ではなく自然人のみです。 実際には、被告が反省の態度を示せば、賄賂が多額でない限り、多くの場合、裁判所は懲役刑の執行を猶予します。その背後にあるのは、犯罪捜査と起訴のために社会的地位が損なわれたことにより、被告人はすでに実質的に処罰を受けているという論理です。起訴された個人、関連する企業や政府機関の評判の悪化による損害が、刑事罰よりも甚大であることも多いのです。 海外の贈収賄 米国の海外腐敗行為防止法(FCPA)や英国の贈収賄法と同様に、日本の法令においても、海外での贈収賄を禁止するために、特定の犯罪についての規定が設けられています。不正競争防止法第18条は、日本が2007年12月にOECDの贈賄防止条約に署名した後、2008年に導入されました。 しかし、これが適用された事案は10件程度に過ぎず、罰則も、FCPAやその他の外国贈収賄法が規定するものよりも、はるかに軽微でした。その結果、OECDの強い要請もあり、日本は取り締まりを強化するため2023年6月に同法を改正しました。この変更は2024年春から適用される見込みです。下図に改正点の概要を示しています。 現行法 改正後 罰金の最高額(自然人) 500万円 3000万円(日本の法令により自然人に科される罰金の最高額) 懲役刑の最長期間 5年 10年(日本の法令によりホワイトカラー犯罪に適用される懲役刑としては最長) 罰金の最高額(法人) 3億円 10億円(日本の法令により法人に科される罰金の最高額) 時効は5年から7年に延長され、法執行機関による外国贈収賄事件の起訴が容易になりました。 域外適用の点では、現行法の適用対象となるのは以下の場合です。 - 行為の全部または一部が日本で行われた。かつ、 - 日本人が海外での贈賄の全部または一部を行った。 つまり、検察官は、日本人駐在員や日本本社が関与していない限り、外国人公務員に賄賂を提供した日本企業の外国人社員を起訴することはできません。 そのため、皮肉なことに、日本人駐在員が見て見ぬふりをすることを助長しかねません。もし日本人駐在員が贈収賄の防止に努めていなければ、贈収賄に気付く可能性は低くなります。外国での贈収賄に日本人が関与しておらず、外国での行為のみが関係している場合、同法は適用されません。 これに対処するため、外国にある日本企業で働くすべての人が、国籍に関係なく適用対象となるように法律が改正されました。 人質司法 日本では刑事事件の99%で有罪判決が宣告されます。これは主に、検察官が無罪判決を避けるために、起訴する事案を慎重に選択しているためです。 しかし、裁判所や検察官は、被疑者の自白に過度に依存する傾向があるとも考えられています。 犯罪を自白しなければ、保釈を受けることは容易ではありません。その結果、被告人は長期間、時には1年以上も拘留されることになりかねません。これが悪名高い「人質司法制度」と呼ばれるもので、時には重大な冤罪につながることもあるような、自白強要の原因となっていることが実証されています。 また、日本では2018年6月に司法取引制度が導入されましたが、検察庁がこの制度を利用した事案は3件しかありません(その中には、有名なカルロス・ゴーンと日産の事件が含まれます)。その結果、検察官や警察は、確固たる証拠の収集や自白の取得によって、犯罪事実すべてを徹底的に立証しなければならず、これが当局自身の違法行為につながりかねません。 推奨事項 言うまでもなく、企業(特にリスクの高い業界の企業)は、贈収賄防止を目的とする効果的なコンプライアンス制度を設置するべきです。それには、贈収賄の防止を徹底するための方針の策定、研修、リスク評価、経営陣の姿勢を示すメッセージの発信を含める必要があります。 しかし、私たちの経験では、日本企業(日本で株式を発行している外資系企業を含む)は、刑事事件の捜査に対する備えができていないことが多いのです。 法執行機関と協力するべきか、協力するとすれば、どのように協力するべきなのかについて、理解できていません。事前通告なしの立ち入り捜査への方針を整備していない企業さえ少なくありません。 通常、当局が最初に実施するのは、捜査対象の企業やその他の情報源からの任意による証拠収集です。強制捜査の開始に十分な証拠が入手できたと判断したら、当該企業に踏み込んで幹部を逮捕します。 そのような事態になれば、当局は逮捕した人物を長期間保釈せずに拘留し、自白を得た後に起訴すると決定しているので、有罪率が99%であることを考えれば、起訴に対して反論することは現実的には難しいでしょう。 したがって、強制捜査が始まる前に弁護戦略を確立することが必須です。そのためには、ホワイトカラー犯罪事件に対処した経験のある弁護士に依頼し、可能な限り早い捜査段階で強固な弁護戦略を策定するべきです。 GI&T LAW OFFICE 23F Marunouchi-Kitaguchi Building 1-6-5, Marunouchi, Chiyoda-ku Tokyo 100-0005 Eメール:  info@giandt-law.com 電話: +81 3 6206 3283 www.giandt-law.com  
アジアの投資家を引き付けるケイマン法

アジアの投資家を引き付けるケイマン法

By Ann Ng、Sharon Yap、そして Nick Harrold、Maples(香港)
日本の海外ファンド投資の3分の2が、ケイマン諸島に集中しているのはなぜなのか? Q:オフショア・ビークルを利用するアジアの投資ファンドの最新動向と、その主な法的メリットはどのようなものでしょうか? ケイマン籍の投資ファンドが他の法域よりもよく選ばれる主な理由には、その柔軟性、投資家にとっての馴染みやすさ、そしてこの法域が高く評価されていることなどがあります。これは健全な法制度の確実性と相俟ったものです。さらに、ケイマン諸島はタックス・ニュートラルな法域であるため、ケイマン諸島のストラクチャーには適用される関連税制が存在しないという安心感を、利用者に与えているのです。 日本は、ケイマン諸島のファンドの大規模な利用者であり続けています。地域別ポートフォリオ投資に関する日本の財務省のデータ(2022年末)によると、海外投資ファンドに対する日本からの投資の3分の2以上(67.3%)が、ケイマン諸島に集中しています。国際通貨基金(IMF)に報告されたデータによると、ケイマン諸島に投資された資産が2022年6月時点で2兆5900米万ドルであった米国に次いで、日本は7790億米ドルの資産を有し、ケイマン諸島にとって2番目に重要なポートフォリオ投資の源泉となっています。 日本市場の主な動向としては、日本の投資家によるプライベートエクイティ、ベンチャーキャピタル、プライベートクレジット、その他のオルタナティブ投資への投資が増加していることがわかります。 この動向の主な原動力の一つは、より良い利回りの追求です。 歴史的に、日本の年金基金、生命保険会社、メガバンク、地方銀行は、主として日本円(JPY)の国債に投資する傾向にありました。しかし、「アベノミクス」(安倍晋三元首相の2期目の経済政策)や日本政府の継続的なイールドカーブ・コントロール・プログラムの結果、これらはもはや必要なリターンを提供していません。 このことは、ポートフォリオのリバランスをもたらしました。日本の年金積立金管理運用独立行政法人とゆうちょ銀行は、この傾向に追随した最も著名な機関投資家であり、市場全体の変化を象徴しています。 このようなオルタナティブ投資へのシフトは、プライベートエクイティ・ユニット・トラストという新しいタイプの投資ビークルの開発につながりました。 また、伝統的なプライベートエクイティ・ハウスではない証券会社やメガバンクが、オルタナティブ・ファンドの分野に進出するきっかけにもなったのです。国内外での資金調達に注力するため、オルタナティブ投資部門を設立しているところもあります。 筆者はまた、日本国内のPEやVCのファンドマネジャーたちが、日本円の資金調達で大成功を収めたのち、海外の投資家からの資金調達に意欲を示すようになっていると見ています。そのような資金調達のためにも、ケイマン諸島とケイマン免税リミテッド・パートナーシップが、選ばれる法域とストラクチャーであることに変わりはありません。 最後に、急速な高齢化が進む中、日本のコングロマリットや企業の多くが後継者問題に直面しています。このため、多くの企業が、事業の買手を日本国外に求めざるを得なくなっているのです。大手コングロマリットが非中核事業の売却に乗り出しているのが見てとれます。近年の円安は、日本をバイアウトの魅力的なターゲットにしました。このような投資機会を利用しようとして調達される投資資金が増加し、その投資の資金集約のためにケイマン諸島のファンドが利用されるのを、筆者は目の当たりにしてきました。 韓国でも、プライベートエクイティ・ファンドの活動が活発化しています。 日本と同じく、韓国ウォン(KRW)建ての国内資金調達で大成功を収めるファンドマネジャーが増えているのです。成功実績を武器に、これら韓国のファンドマネジャーの多くは、現在、海外投資家からの資金調達に意欲的であり、ケイマン免税リミテッド・パートナーシップは、こうした米ドル建てファンドに選ばれるゴールドスタンダードの法域とストラクチャーとして定着しています。 Q:アジアの投資ファンドがオフショア・ビークルを利用する場合、租税や反マネーロンダリングの面で必要な法的留意点は、どのようなものでしょうか? ケイマン諸島は、包括的で厳格な反マネーロンダリング法、およびOECD加盟国と同等のKYC(本人確認)ルールと規制をいち早く導入した国です。金融活動作業部会(FATF)は、マネーロンダリングやテロ資金調達と闘うための世界基準を設定しています。ケイマンはFATFの勧告の40項目すべてを満たしており、「高度に遵守している」と評価されています。OECD加盟国よりも、コンプライアンスが高いのです。 また、外国口座税務コンプライアンス法とOECD共通報告基準(CRS)もいち早く導入したので、現在100カ国以上の国々と投資家の税務情報を交換しています。 2023年6月23日、FATFはまた、ケイマン諸島がマネーロンダリングおよびテロ資金調達対策として、強固で効果的な体制を整えていると確認しました。そのため、2023年10月のFATF総会において、ケイマン諸島はFATFの監視リストから外されるでしょう。さらに、このリスト解除が、EUのAML/CFTリストからもこの法域が解除される引き金になると予想されています。 Q:オフショア法人とアジアの投資ファンドとの間の紛争解決には、どのような法的枠組みが存在していますか? ケイマン諸島の裁判所には、投資ファンド関連の訴訟に対応する体制が充分に整っています。これには、清算申請(およびその後の裁判所監督下でのファンドの縮小と再編)、元取締役や取引先が関与する請求、クローバック訴訟、不満を持つ投資家による訴訟など、様々な形態があります。 ケイマン諸島で設立された投資ファンドの数は突出して多いので、ケイマン諸島大法院の金融サービス部門では、ファンド関連の紛争が大きな割合を占めています。このことは、ケイマン諸島の裁判官が、ファンドの構造やそれに関連して生ずる問題に高度に精通していることを意味します。 上場企業の合併反対訴訟もまた、ケイマン諸島の訴訟状況の大きな特徴となっています。その一因は、ケイマン諸島法の下で反対権を行使する目的で、株式非公開化前の上場企業に投資する合併裁定戦略に乗り出した投資ファンドです。それらの上場企業の多くは、アジアを拠点とする事業や投資家を有しています。 筆者の経験では、ケイマン諸島法準拠のファンド関連文書では、仲裁よりも裁判手続のほうが頻繁に見られます。投資ファンド・ストラクチャーの当事者が仲裁に同意する場合でさえも、その仲裁地としてケイマン諸島が選ばれることは、あまりないのです。しかし、ケイマン諸島の裁判所は、仲裁手続を促進するための支援的役割を果たしており、一般的には、ニューヨーク条約の条項の下で、同条約の締結国のいずれかで行われた外国の仲裁判断を承認し、執行します。 MAPLES GROUP Hong Kong 26th Floor, Central Plaza 18 Harbour Road Wanchai 電話番号: +852 2522 9333 Eメール: info@maples.com www.maples.com
Philippine e-commerce protections

フィリピンにおける電子商取引保護

By Editha R Hechanova、Timothy J David そしてAllan V. Badillo、Hechanova& Co Inc(マカティ市) 
各種の調査によると、フィリピンではパンデミックを契機にオンラインショッピングが著しい成長を遂げています。通商産業省によると、電子商取引は2020年のフィリピンのGDPを3.4%増加させました。2022年には、約100万件の新規事業が創出されています。このような成長トレンドの継続を支えているのは、購買力のある中間層の増加です。フィリピンの電子商取引市場は2023年に22.9%拡大し、6157億フィリピンペソ(110億米ドル)に達すると予測されています。 オンラインショッピングで最も利用されている決済手段は、カードによる支払いであり、2022年には全取引の過半数がクレジットカードおよびデビットカードで決済されました。これを可能にしたのは、強力な電子商取引のエコシステムです。本稿では、フィリピンにおける電子商取引の現状について概説しており、フィリピンのデジタル・インフラ、ビジネスチャンス、そして法的な潜在的危険性について、理解の一助となることを目的としています。 さまざまな取り組みの中心にあるのが、共和国法第8792号(電子商取引法)です。これはフィリピンにおける電子商取引について規定する法律で、2000年6月19日に施行されました。同法の目的は、「国内および国際的な売買、取引、取り決め、協定、契約、情報の交換および保存を、電子、光学および類似の媒体、様式、手段および技術の利用を通じて円滑にすることにより、そのような活動に関連する電子文書の真正性および信頼性を評価し、政府および一般市民による電子取引の普遍的な利用を促進すること」です。 この法律は、国連国際商取引法委員会(Uncitral)の電子商取引モデル法、シンガポール電子商取引法(Singapore Electronic Transaction Act)を起源としています。フィリピンの電子商取引法およびその施行規則は、取引の形態のみを対象としており、実体法に代替したり、取って代わったりすることは意図されていません。この法律は営利、非営利双方の活動に適用されます。 事業運営 フィリピンの行政機関は、市場のデジタル化の進展に対応するという課題に、適切な規制の導入によって対処しています。インターネットとモバイルアプリの活用を伴う電子商取引事業には、数多くの規制分野が含まれます。その最も重要なものは、所有権と資本投資に関連する分野です。 事業者登録。電子商取引に従事することができる組織の類型に制限はなく、必要な事業許可を取得していれば、個人、法人、パートナーシップのいずれでも可能です。事業許可は、法人とパートナーシップについては証券取引委員会が、個人事業主については通商産業省が発行します。事業の性質によっては、他の政府機関から、追加の許可を取得しなければならない場合もあります。たとえば、食品、医薬品、化粧品、医療機器に関連する事業については、食品医薬品局(Food and Drug Authority)の許可を取得する必要があります。 外国人持分。一般的に、1991年外国投資法に基づき、外国人持分は40%までに制限されています。しかし、マスメディアのように、フィリピン人のみが事業主体になれる業種もあります。他方、外国人が、国内市場での事業者として100%所有することが認められている業種もあります。ただし、小売販売を除き、払込資本金が20万米ドルであることが条件となります。小売販売の場合、払込資本金が250万米ドルであれば、外国資本による完全支配が可能になります。 税務 オンラインでの事業展開の魅力の一つは、従来のコミュニケーションや取引のルールに縛られることなく、物理的な境界を越えられることです。その結果、歳入庁はデジタル時代の起業家の熱意に、歯止めをかけざるを得なくなっています。 2020年、内国歳入庁は、決済ゲートウェイ、デリバリー・チャネル、インターネット・サービス・プロバイダー、その他のファシリテーターを含む、デジタル取引を通じて事業を行う者に対し、下記の点について注意を喚起するための通知を公表しました。 納税者番号の確保 内国歳入庁への登録 商品またはサービスの個々の販売についての、登録済みの売上請求書または正式な領収書の発行 業務取引の帳簿やその他の会計記録の保管 該当する場合には源泉徴収の実施 必要な納税申告書の提出 期限内の適正な納税 消費者保護 消費者保護法は、以下の点について消費者を広く保護しています。 消費者向け製品の品質と安全性 - 食品、医薬品、化粧品、機器 - 欺瞞的、不公正、非良心的な販売行為・慣行 - 度量衡 - 製品・サービス保証 - 表示と公正な包装 - 製品・サービスに対する責任 - 広告と販売促進 - 修理・サービス企業の規制 - 消費者信用取引 これらの規則はオンライン取引にも適用されます。2022年3月4日、オンライン事業者と消費者に適用される法規制を再度徹底するため、共同行政命令(JAO)が発令されました。それによると、電子商取引プラットフォームや電子商取引市場は、オンラインの販売者、加盟店、電子小売業者と同様に責任を負うとされています。電子商取引プラットフォームには、そのサイトで販売されている商品を確認する義務があります。 データ保護 2012年データプライバシー法は、個人情報の処理について規定しています。同法の適用対象となるデータ処理とは、一般的に、同意に基づくものです。同意は、書面、電子的手段、または記録された手段によって証明される必要があります。また、データ主体が具体的に権限を委任した代理人が、同意することもできます。 JAOは、オンラインの販売者、加盟店、または電子小売業者に対し、消費者の個人情報を、最大限の注意と配慮をもって取り扱うことを義務付けています。収集した個人情報は、JAOに規定されている条件に従い、必要な期間に限り保管しなければなりません。 個人データの収集および処理に際して、オンライン販売者は消費者に対し、同法に基づくデータ・プライバシーの権利を通知しなければなりません。このような権利には、情報に対する権利、異議申し立ての権利、アクセスの権利、訂正の権利、削除の権利、損害賠償の権利、データ・ポータビリティの権利、苦情を申し立てる権利が含まれます。 知的財産 フィリピン憲法には、次の宣言の趣旨が組み込まれています。「国家は、科学者、発明家、芸術家、その他の才能ある国民の知的財産および創作物に対する排他的権利を保護し、保証するものとする……」 フィリピンの知的財産法は1998年1月1日に施行されました。これは特許、商標、著作権に関する個別の法律を統合したもので、同法に基づきフィリピン知的財産庁(IPOPHL)が設立されました。 オンライン上の模倣品や海賊版に対処するため、IPOPHLは行政執行機能を有する知的財産権執行部(IEO)を設置しました。IEOの役割には以下のようなものがあります。 -...
NCLTコルカタ審判所、商標の譲渡を取り消し

NCLTコルカタ審判所、商標の譲渡を取り消し

By Manisha SinghとAnvita Sharma,LexOrbis
1999年商標法は商標を保護し、評判を築くために時間と資金を投入する商標権者の権利を守るものです。同法の目的は、第三者による商標の不正な使用や登録を防止することです。商標は企業にとって貴重な無形資産であり、長期的な成功を左右する要因となります。 同法では商標の譲渡が認められています。商標の所有権を、企業の営業権とともに、または営業権に伴わない形で、ある当事者から別の当事者に譲渡することが可能です。登録商標または未登録商標の所有者は、資産および当該資産上の権利の売却、譲渡、ライセンス供与、移転を行うことができます。同法第5章第2条(b)および第37条から第45条は、譲渡と移転について規定しています。 先般、会社法審判所(National Company Law Tribunal/以下、「NCLT」)が審理したBell Finvest (India) Limited対Duckbill Drugs Private Limited 事件では、知的財産権の完全性の維持を目的とする機関が、商標の不正譲渡についてどのような見解を持っているのかが示されました。 債務者である企業、Duckbill Drugsの経営陣は、自社の商標の競売が実施される前に不正にこの商標を譲渡し、第1上訴人である企業、Paul Brotherに売却しました。この上訴人は、債務者である企業が継続企業として売却されたことを保証する売却証明書を受領しました。債務者の資産には、主要な資産である14の商標が含まれていました。 その後、上訴人は、債務者である企業が2017年に譲渡証書を締結し、14の商標のうち7つを第3被上訴人に移転し、引き渡し、譲渡していたと自称していることを知りました。この被上訴人は、債務者である企業(第1被上訴人)の元取締役の義理の娘でした。さらに、譲渡が商標登録局に申請されたのは、証書が締結されたとされる時点から5年後の2022年だったことが明らかになりました。 譲渡証書には、商標が譲渡された理由が記載されておらず、しかも家族への譲渡でした。対価は7000インドルピー(84米ドル)であり、債務者である企業が競売により売却された場合の最低競売価格と比較して、微々たる額でした。最低競売価格は5000万インドルピーで、これは主に商標の価値に基づくものでした。 上訴人は、本事案の被上訴人でもある登録局は、2021年にNCLTが下した清算命令を通知された後に、商標譲渡の申請を認めるべきではなかったと主張しました。いずれにせよ、譲渡は同法第42条に従い9カ月以内に登録されるべきでした。上訴人は、被上訴人達の行為と行動は2016年破産・倒産法およびその規則の規定に反している、と主張しました。さらに被上訴人達に対して、破産・倒産法に従い職務を遂行した清算人である第4被上訴人の指示を無視した、という主張がなされました。NCLTは、当事者間の手続きに関するカルカッタ高等裁判所の従前の事実認定と命令に基づき、2017年の譲渡証書は誠実に締結されたものではない、と判断しました。この譲渡は、適正価格に満たない価格で行われた不正な特恵取引でした。NCLTは、この譲渡が無効である、と判断しました。問題の7つの商標は、売却されるまでは一貫して、清算手続き中の債務者企業の唯一の所有者である清算人に帰属していました。上訴人には、2017年の譲渡に含まれていた商標を含め、14の商標すべてを事業のために利用する権利がありました。 本事案では、知的財産権に関する手続きの完全性と合法性が確保されなければならないことが示されました。商標の不正譲渡は、不正使用や悪用につながる可能性があることに留意する必要があります。NCLTは、譲渡の体裁をとった取引の目的は、債務者の買主から取引の価値を奪うことだった、と簡単に認めました。譲渡されたとされる7つの商標を使用して、債務者の元取締役が類似の事業を始めたという証拠がありました。NCLTは、登録局に対しても調査を行う必要がある、と指摘しました。 本事案は明白な詐欺行為の未遂事件でした。しかし、より巧妙な形で侵害が行われるかもしれません。商標権者は、知的財産の保護に細心の注意を払うべきです。管轄当局には、包括的な監視体制の導入が求められます。また、この訴訟手続きは、商標は債務者企業の資産であり、商標法および破産・倒産法に厳格に準拠して管理される必要があることを、再認識させるものとなりました。 Manisha Singh(左)、LexOrbisパートナー、Anvita Sharma同事務所アソシエイト LexOrbis 709/710 Tolstoy House 15-17 Tolstoy Marg New Delhi – 110 001 India www.lexorbis.com Mumbai | Bengaluru Contact details: 電話: +91 11 2371 6565 Eメール: mail@lexorbis.com
India's indirect taxes

インドの間接税制度の流動的な状況

By Rajat Bose, Ankita BhasinそしてAnkit Sachdeva、Shardul Amarchand Mangaldas & Co(ニューデリー) 
インドの税制にとって物品・サービス税(GST)の導入は大きな改革でした。GST法の目的は、すべての商品とサービスを共通の税制度の対象にし、税の構造を合理化・簡素化することです。しかし、この制度は比較的新しいため、企業は従来からの税務問題に加えて、新たな問題にも直面しています。 タイムフレーム 時効法は法制度に不可欠な要素です。時効法とは、特定の法令に基づく措置を取ることができる最長期間を定める法令です。 GST法では、納税者が納税していない、または納付額が不足している場合に税務当局が理由の説明を求める通知(show-cause notice)や命令を出さなければならない時期について、非常に明確な制限を規定しています。 同法は、毎財務年度について、12月31日までに法定年次申告書の提出を納税者に義務付けています。以前、間接税中央委員会(Central Board of Indirect Taxes)は、特定の年度を対象とする期限延長の通達を発令したことがあります。これは、2017年7月から2018年3月、2018年から2019年、2019年から2020年の期間について実施されました。その結果、これらの通達により、show-cause noticeおよびそれに伴う命令の発令が制限されることになりました。 先般、同委員会はGST関連事項に関する命令の発令期限を延長しました。この延長の適用対象は、詐欺、故意の虚偽記載、事実の隠蔽を除く理由で納税していない、または納付額が不足している場合に限定されています。このような場合、show-cause noticeの発行から命令の発令までの期間は3カ月に定められているため、命令発令期日の延長に合わせてshow-cause noticeの発行期日も延長されました。 GST局は、2023年9月30日が発行の最終期限となるshow-cause notice、特に2017年から2018年の期間のものについて、強く対応が求められています。その結果、納税者へのshow-cause noticeの通知が急増し、それに伴い調査も増加しています。 現在、同じ問題についての類似した申し立てによるshow-cause noticeが多数発行されており、業界には混乱が生じています。2023年12月31日が、2017年から2018年の期間の命令の発令期限なので、納税者には注意が必要です。納税者は、GST局で実施される個人聴聞会すべてに出席し、詳細な申告書を書類と併せて提出しなければなりません。 GSTと出向 出向の取り決めの課税可能性は、現在もっとも関心が寄せられている分野の1つです。この問題が多国籍企業に及ぼす影響は徐々に大きくなっています。 社内の特定の事業上で必要とされるために海外の親会社からインド企業に従業員が出向することは、インドでは一般的な市場慣行です。一般的に、出向者の経費精算に関する税務上の問題はおおむね解決済みだと企業は考えていました。しかし、最高裁判所はこの問題を再び取り上げました。 CC、CE & ST - バンガロール(裁決)など対Northern Operating Systems(NOS判決)において、裁判所は、インド子会社は海外グループ企業による人材募集・供給サービスの受領者であると判断しました。これは特に出向社員に関連するものです。裁判所は、インドの子会社には、インド企業と海外企業の間で行われたリバースチャージについてサービス税を支払う義務があると判示しました。この判決はサービス税に関する事案において下されたものですが、GST税務当局はこの判決を広範囲に援用し、インド企業が2017年7月以降に外国人駐在員に支払った金銭についてGSTを支払うよう求めています。 NOSの判決では、裁判所は課税を支持する一方で、企業が課税の対象になるかどうかを確認する上で参考となる所見を示しました。 NOSの事案では、インド企業は海外企業にバックオフィス・サービスを提供していました。そのために派遣が必要になりました。 出向駐在員がインドで勤務中は、駐在員の給与は母国の海外企業から支払われていました。 給与額にマージンと管理費を上乗せした額が、インド企業から海外企業に払い戻されていました。裁判所は、この取り決めは、出向社員の給与は海外企業のみから支払われることを意味すると指摘しました。 ビジネスのグローバル化に伴い、顧客へのサービスを外国人に委任するインド企業が増加しています。最高裁判所のNOS判決の結果、インド企業の納税義務が拡大し、財務上の問題が生じています。したがって、インド企業が外国人を雇用する際には、適切に出向形態を取り決め、税務構造を最適化することが不可欠となります。NOS判決は極めて特殊な事実関係に基づいて下されたものです。その事実関係には、派遣中の業務範囲、出向者への給与支払い義務、海外の親会社への払い戻し、払い戻しにおいて海外企業に支払われたマージンなどの手数料、雇用契約に定められた雇用条件などが含まれます。しかし、紛争が起こる可能性は排除できません。 GST局に加えて税務当局も、技術サービス料金や払い戻しの課税可能性に関する問題について、NOS判決を援用しています。歳入局は出向に関して徴税を強化していますが、これは氷山の一角に過ぎないとみられます。インド企業には長い道のりが待っています。 オンラインゲーム GST審議会は、オンラインゲームのゲーム総収益ではなく賭け金の総額に対して28%のGST税を課しました。この決定は2023年10月1日から実施され、6カ月後に見直しが行われます。 以前は、そして世界的に、インドのオンラインゲーム事業者は、付加価値税を、またGSTでさえも、ゲーム総収益、つまり賭け金から賞金を差し引いた額について支払っていました。また、オンラインゲームを、スキルが必要なゲームとして分類するか、賭博性のあるゲームとして分類するかについても大きな議論がありました。 GST審議会の決定の結果、この改正が確定であり、したがい遡及的に適用されるのか、それとも2023年10月1日以降にのみ有効となるのかを明らかにする必要が生じています。過去の課税債務がある場合、それを見積もる際にこの点が重要になります。 オンラインゲームに関する法理論はこの改正案の公表前から展開されており、企業は今回の変化への対応に苦慮しています。実際、一部の企業はすでに2017年から2018年の期間のshow-cause noticeを受領しています。このような税負担が現実となった場合、企業は税金と利息を支払う必要があり、さらに追徴金が加算されます。その上、仕入税額控除(input tax credit)の制限のため、支払ったGSTは企業にとって費用になります。 賭け金の総額がGSTの対象になったため、事業者は、プレーヤーが賭け金全額を控除できる維持戦略を取っています。その結果、現在、企業は打撃を受け、これがキャッシュフローの問題となっています。このような戦略を長期にわたり維持することはできません。また、このような維持戦略は大企業には可能であっても、中小企業にとっては現実的ではなく、事業を停止せざるを得なくなる可能性もあります。 また、改正により、海外のeゲーム企業がインドのユーザーにサービスを提供する場合、インドで登録する義務が課されました。登録を促すため、簡易な登録方法をGST法に規定しました。 法順守に向け、GST法は、登録しない海外企業には、その企業が提供するサービスやプラットフォームにインド国内のユーザーがアクセスを試みても遮断するという規定を設けています。さらに、順守しないサプライヤーのオンラインマネーゲームで使用するコンピュータリソース上で、情報を生成、送信、受信、またはホストしても、それらはすべて遮断されます。 SHARDUL AMARCHAND MANGALDAS & CO 216, Okhla Industrial Estate Phase III New Delhi...
ジャージーの法制度のフロンティア

ジャージーの法制度のフロンティア

By Rachel Yao, Carey Olsen(シンガポール)
多くのアジアの富裕層が、長期的に資産を守る上で最善の方法を模索する中、2009年財団(ジャージー)法の施行を受けて、信託と財団のどちらを選ぶべきなのかについての関心が高まっています。 2009年財団(ジャージー)法(Foundations (Jersey) Law 2009)の制定以来、この法律が現実問題としてクライアントに及ぼす影響を、法律家は綿密に検討してきました。その主な目的は、財団と信託の違いを明らかにし、各クライアントに特有の要件に対処する上での最適の手段を見極めることです。 最近、筆者は、特に慈善活動が主要な目的である場合に、ジャージーの信託と財団のどちらを選ぶべきかという、アジアの富裕層からの質問の急増を目の当たりにしています。 信託は歴史が古く、相続、資産管理、慈善活動の分野における極めて重要な手段として利用されてきました。一方、財団はジャージーのようなコモン・ローの法域では比較的新しく、事業承継計画と慈善活動の双方において活用が進んでいます。 しかし、大陸法の法域では、財団も中世以来、同じ目的で利用されてきました。相続計画に関する協議では、信託と財団に明確な優劣はあるのか、各自がどちらを選ぶべきか、といった妥当な疑問が生じることが頻繁にあります。本稿では、信託と財団の違いに光を当て、信託と財団のどちらかが有利になり得る状況について考察します。 信託:概要 信託という概念は、12世紀以来、コモン・ローの不可欠な要素となっています。信託は、資産の法的所有者(委託者)が、信託財産を構成するこれらの資産の法的所有権を、指定された個人または法人(受託者)に移転することにより実施されます。この移転は通常、特定の人(受益者)の利益となることを目的としています。 信託が設定されると、信託財産の法的所有権は受託者に帰属し、受益所有権は受益者に帰属します。つまり、信託とは明確な法的実体ではなく、関係です。 信託には多様な形態がありますが、最も一般的なのは、受益者の利益のために設定されるものです。しかし、信託は慈善目的にもそれ以外の目的にも利用することが可能で、受益者が存在しない場合もあります。 財団:概要 財団は、信託に比べると一般に知られていない概念で、信託と企業の融合と表現されることもあります。端的にいうと、財団は独立した法人格を有し、株主は存在しないものの、企業のように独立して財産を保有するという、企業が持つ特徴を備えています。 財団は、定款と規則(以下、定款)を指針とする評議会の監督に従って運営されます。これは、企業が定款に準拠する取締役会の監督に従うのと同じです。 一部の点では、財団と信託には類似性があります。信託と同様に、財団では、設立者が財団が保有する財産を拠出します。これは信託条項に従って管理される財産を提供する、信託の委託者に類似しています。また、信託と同様に、財団は1つ以上の目標を定める必要があります。その目標には、慈善目的またはそれ以外の目的のいずれであっても、1人以上の受益者の利益を含めることができます。 重要な留意点として、財団には受益所有権者が存在しないため、たとえ財団の財産が受益者の利益となることが企図されている場合であっても、財団は「所有者のいない」組織として構成されていることが挙げられます。 共通の特徴 柔軟性 信託と財団の双方とも、柔軟性に富んでいます。受託者/協議会に管理を一任することができ、その場合、どの受益者が、いつ、どのような条件で給付を受けるかなどを、受託者/協議会が決定できます。さらに、受託者/協議会による信託/財団資産の管理を、監督・監視する第三者を任命することも可能です。多くの場合、信託を監督するプロテクターや財団を監督するガーディアンも同時に任命されます。 委託者が、特に巨額の資産を保有している場合、家族信託の受託者として機能する私的信託会社(PTC)の設立を選択することもあります。この方法では、委託者が自身または家族をPTCの理事に任命することができ、家族が信託管理に参加するに当たって、プロテクターや権限の留保に代替する手段になります。また、同様の方法で、家族信託の受託者(私的信託財団)として財団を利用する事例も増えています。 期間の制限がない ジャージーの信託と財団の双方ともに、存続期間を限定せずに設立できるため、家族の資産を数世代にわたって守ることを目的とする、富裕層の資産保有構造として理想的です。 プライバシー 信託の場合、信託に関する文書や情報の登録や公開は求められず、秘密は完全に守られます。財団については、限定的に情報が公開されている場合もありますが、通常、設立者や受益者の身元、または財団の目標を開示する義務はありません。その結果、信託においても財団においても、高水準のプライバシーを維持することができます。 信託のメリット 特定の状況では、信託が財団より有利になります。 設定の容易さ 信託は比較的容易に設定することができます。信託が有効に成立するのは、委託者の信託設定意思と受託者の受託意思、指定された信託財産、信託目的(受益者または目的)が十分に確定されたときです。信託は、最初の信託財産が、委託者から受託者に移転した時点で設定することが可能です。信託には書面による文書は義務付けられていませんが、通常、文書化することが望ましいでしょう。 判例 大半のコモン・ローの法域では、信託は広く認知されており、長年にわたり活用されてきた歴史があります。そのような広範囲に及ぶ事例の数々が、確かな信託法体系と判例法の確立につながり、予測可能性と確実性の水準の維持を可能にしています。ジャージーなどの法域では、外国の司法管轄権からの異議申し立てから、信託を保護する「ファイアウォール」法が導入されているため、信託の信頼性がさらに高まっています。 税務処理 大部分の法域において信託の税務上の取り扱いは十分に定まっており、明確で予測可能です。対照的に、財団は新しい概念であるため、法域によっては曖昧な点がより多く伴う可能性があります。そのため、信託がより魅力的な選択肢となる家族もあるでしょう。 財団のメリット 財団にも独自のメリットがあり、状況によっては信託よりも望ましい場合もあります。 大陸法の法域 特に、信託の概念(つまり、法的所有権と受益的所有権の分離)が普及していない、または法律で認められていない大陸法の法域の出身者にとって、財団は信託に替わる魅力的な選択肢となり得ます。 別個の法人格 財団は独立した法人格を有し、財団の財産の法的所有権と受益的所有権の双方を保有することができます。この自律性により、財団は第三者と直接契約を締結することが可能です。この点が、信託自体ではなく受託者が、契約を締結する信託とは異なります。さらに、特に信託が認められていない法域では、慈善活動のために財団を利用する事例が増加しています。 プライバシーの強化 財団の規則により、財団に関する情報の、受益者への提供に関する要件を除外することも可能です。そのため、受益者が信託に関する特定の基本情報を入手できるのが通常である信託と比較して、財団ではより高度な機密性が得られます。 信認義務 ジャージーの財団の受益者は、財団の資産に利害関係を持たず、財団の評議会やガーディアンから信認義務を課されることはありません。この点は、受託者から信認義務を課される信託受益者とは異なります。その結果、減価償却が必要な資産やリスクの高い資産など、特定の類型の資産を保有に当たって、財団が選好される場合があります。 信託と財団のどちらが最適か? 最終的には、信託と財団のどちらを選択するかは、委託者/設立者とそのアドバイザーの個々の希望、企図される目的に沿った構成、保有される資産の性質など、さまざまな要因によって決まります。信託も財団も、資産管理、事業承継計画、慈善活動のために活用できる、極めて価値のあるツールです。信託と財団のどちらを選択するかを決定するには、関与する個人や家族の具体的なニーズと目的を考慮する必要があります。 CAREY OLSEN SINGAPORE 10 Collyer Quay #29-10 Ocean Financial Centre Singapore 049315 電話: +65 6911 8310 Eメール: singapore@careyolsen.com www.careyolsen.com
Comparison of M&A laws Hong Kong

各国の M&A 関連法規の比較: 香港

By Virginia TamとBeatrice Wun, K&L Gates
インド 日本 フィリピン 台湾 タイ ベトナム 香港 香港は中国の特別行政区であり、独自の法制度を持っています。国際的な取引の中心地であり、高度な金融・専門サービスを提供できる金融センターでもあります。大中華圏との強い経済的結びつきを維持し、国際的な企業や投資家が中国やその他の地域市場にアクセスするための、貴重な足がかりとなっています。香港での取引は、香港という場所の性質上、複数の司法管轄区域にまたがって実施されることが多くあります。したがって、コストと時間の点で効率よく、円滑に取引のプロセスを進めるには、現地で適用され得る法規制や異なる商慣習・市場慣行に、適切に対応することが重要になります。また、当事者の懸念を解消し、リスクを軽減できる形で、適切に取引が構成されるよう図る必要もあります。 会社条例 香港における株式の取得は主に、香港の制定法の一部である会社条例(Companies Ordinance)によって規定されています。会社条例は、香港で設立された企業および香港に事業所を置く海外企業の登録、記録管理、申請に関する要件について定めています。また、香港で設立された企業の所有権や経営権や、それらの企業と第三者との取引についても規定しています。 香港で設立された企業が、買収の際に下記の行動を取る必要がある場合、同条例が定める一定の制限に従わなければなりません。 減資。この場合、減資後に企業に支払能力があり、利害関係のない株主が特別決議で減資を承認する必要があります。 自社株購入のための資金支援。この場合、支援実施後に企業が支払能力を有し、さらに次のいずれかの要件を満たす必要があります。支援額が法定限度額である5%以内であること、または、支援が定められた期間内に株主によって承認されること。 配当宣告および配当実施。この場合、企業が十分な配当可能利益を有しており、配当額は所定の計算式を用いて単体ベースで計算される必要があります。 法定の少数株主排除(スクイーズアウト)権の行使。この場合、買い手の株主は定められた期限内に権利を行使し、他の株主に対して買収提案を行い、90%以上の株式を取得しなければなりません。 スキーム・オブ・アレンジメント。この場合、裁判所が提案を承認し、スキームの影響を受ける利害関係者による投票が実施され、投票結果が法定要件を満たしている必要があります。 他の企業との合併。この場合、双方の企業が同一グループに属しており、吸収される企業を含め、合併に関与するすべての企業が支払能力を有し、合併する企業それぞれの株主が特別決議により合併を承認しなければなりません。 テイクオーバー・コード 香港の上場株式の買収は、主にテイクオーバー・コードによって統制されますが、これは制定法ではなく、法的執行力を持たない一連の規範です。この規範に違反した市場参加者は、「cold shoulder(冷遇措置)」命令によって不利益を被る可能性があり、そうなると事実上、現地市場で事業を行うことができなくなります。 テイクオーバー・コードは、株式公開買付け、支配権変更取引(どのように支配権が取得される場合であっても)、自社株買い、株式の非公開化の実施を対象としています。この規範は、「公開会社」が買収される際には、すべての株主が平等かつ公平に扱われるべきだ、という原則に基づいています。 以下の状況では、香港内外の買収者にこの規範が適用されます。 買収者が株主に対して株式売却を勧誘する任意公開買付けを行う場合、規範に定められた価格条件、時期、仕組みに従って募集を実施しなければなりません。 (1)買収者が最初に30%の株式保有の上限を超えた場合、または(2)買収者の株式保有率が30%から50%である場合に、任意の12カ月間に、株式保有率が2%以上増加した場合(規制当局から免除を得た場合を除く)、買収者は、強制公開買付けを実施し、所定の計算式を用いて計算された金額と同じ対価で株式を売却する選択肢を、他の株主に対し提供しなければなりません。 買収者が企業を非公開化する場合、その取引は、規範の基準に基づき、存続株主の支持を得る必要があります。 上場規則 上場規則(Listing Rules)は、香港唯一の証券取引所を運営する香港証券取引所によって制定されています。香港証券取引所は、香港政府が単独の最大株主として支配権を持つ上場会社です。同証券取引所に上場している会社には継続的な義務があり、その取締役には上場規則に準拠する契約上の義務がありますが、規則には法的執行力はありません。 買収者には上場規則が適用されないとしても、上場規則が定める上場会社に対する要件のために、取引の進行が遅滞し、手続きに関する不確実性が増し、買収コストが増加する可能性があります。 証券先物条例 証券先物条例(Securities and Futures Ordinance)は、金融仲介業者などの資本市場・金融市場参加者の行為について規定しています。同条例は香港の制定法の一部であり、違反した場合、民事上および刑事上の責任を問われる可能性があります。買収に最も関連性のある条項には、以下のものがあります。 香港の上場企業の取締役、最高経営責任者、大株主は、当該企業に対する議決権持分を開示しなければなりません。 香港の上場企業は、重要な非公開情報を取り扱う際には所定の基準に従う義務があります。 インサイダー取引やその他の類型の市場不正行為は刑事犯罪に該当します。 印紙税条例 印紙税条例(Stamp Duty Ordinance)は、香港で設立された企業の株式、香港の上場株式、および香港に所在する不動産のあらゆる譲渡について、印紙税の支払いを義務付けています。株式譲渡には従価印紙税を支払う必要があり、その額は時価または支払対価のいずれか高い方の0.26%です。不動産譲渡の場合はより複雑で、印紙税は4種類あり、売主と買主の地位、および不動産の性質と用途に応じて支払います。 取引構造 香港には、会社条例に基づく同一グループ内の企業の合併を除き、裁判所が関与しない合併の制度はありません。香港企業の買収は、株式売却または資産売却を通じて行われます。 香港の上場株式の取得は、株式発行会社の設立地に関係なく、市場買付け、市場外取引および公開買付けの申し出に加えて、企業の本拠地の法律で認められているその他の手段により、実施することができます。 外国投資 香港の「積極的不干渉主義」の原則は広く知られていますが、それにもかかわらず、香港政府は近年、経済の方向性により積極的に関与するようになっています。香港政府は、対内投資促進のための財務的インセンティブについては、重要性の高いものを提供していませんが、ここ数年、海外の人材を積極的に誘致しようとしています。 一般原則として、香港では、外国人投資家は香港の投資家と同等に扱われます。以下にその例を挙げます。外国人投資家は香港で設立された企業を完全に所有・管理することができます。外国投資には政府の承認は必要ありません。住宅用不動産購入において非居住者に課される追加印紙税を除き、外国人投資家は香港の投資家と同様に土地を伴う不動産を所有することができます。 M&Aの主要な動向 特別目的買収会社(SPAC)。2022年、香港証券取引所はSPACを対象とする新たな上場プロセスを導入しました。SPACとは、過去の事業実績や収益を生み出す事業を持たない「空箱」企業です。SPACは、後日、実際に事業を行う他の企業と合併することを前提に、現時点で上場することができます。 香港のSPAC制度は、逆合併の対象である最小限の事業しか行っていない企業に対する警戒心と、香港の競争力を維持するために市場の資金調達の新たなトレンドを認める必要性との、均衡を図ろうとする同証券取引所の努力を反映しています。しかし、香港のSPAC制度は、投資家の適格性、SPACのプロモーター/ディレクターの資格要件、de-SPAC(非上場企業との合併)ターゲット企業の適格性などの点で、ナスダックの制度に比較してはるかに厳格です。 セカンダリー上場制度。2018年以降、香港証券取引所は、上場規則に合致しない加重議決権構造や変動持分事業体のスキームを持ち、米国に上場している「中国概念(China concept)」企業に対応するため、セカンダリー上場制度を大幅に変更してきました。変更後の制度では、加重議決権構造を持たず、プライマリー上場している大中華圏の非イノベーション関連企業は、時価総額や規制遵守の実績に関する要件に準拠の上、同証券取引所にセカンダリー上場を求めることができます。また、2017年12月15日以前に適格取引所に上場していた大中華圏に「重心(center of gravity)」を置く企業や、適格取引所に上場している非中国系企業は、同証券取引所への重複プライマリー上場を選択できるようになりました。 K&L Gates 44/F Edinburgh Tower, The Landmark 15 Queen's Road Central, Hong Kong お問い合わせ: 電話番号:...
comparison of patent provisions India China

特許規定の比較: インドと中国

特許エコシステムが進化しているインドと中国の主要な動向を詳説します。 中国 インド 中国 中国は成文法の国であり、構造の完全性や論理の厳格性など、成文法に固有の利点を享受しています。しかし、これらの成文法にはそれぞれに限界があり、それは法の普遍的な執行力と個々の事案の多様性とのギャップに部分的に表れています。また、法律とは社会の変化の結果を反映するものであり、履歴効果を持つことは避けられません。 この点に関し、判例指導制度は、広範な法規則と個々の多岐にわたる事案との間隙を埋めるにあたって、ある程度の役割を果たすことができます。最高人民法院だけが指導性判例を選定し、公表することができるため、いかなる種類のものであれ、新たな社会的紛争に適時に、効果的に対応することができます。 特に、複雑な紛争を伴う、社会の新たな発展への対応において、法律の適用を全国的に統一する上で、判例指導が重要な役割を担えることは明らかです。 本稿では、執筆者が担当した実際の事案を例として、知的財産権(IP)訴訟における判例指導制度の活用について検討します。 法的根拠 最高人民法院は2005年に初めて、先例制度導入の可能性を検討し始めたと考えられています。その後10年間、最高人民法院はこの取り組みを続け、指導性判例に関し複数の規制を策定しました。 現在では、利害関係者によって引用される判例は、全国のあらゆるレベルの裁判所において考慮されるようになりました。これらの判例の一部については、最高人民法院が公表した指導性判例であるかどうかを検討する必要があります。裁判において指導性判例となる判例には、以下の4つの類型があります。 最高人民法院が公表した指導性判例 最高人民法院が公表した代表的な判例と、最高人民法院が下した有効な判決 管轄区域内の高級人民法院が公表した参考判例と、高級人民法院が下した有効な判決 当該裁判所または控訴審が下した有効な判決 最高人民法院が公表した指導性判例の優先度が最も高く、裁判ではこれらを考慮に入れる必要があります。裁判において利害関係者が第1類型の判例を引用した場合、裁判所は判決で指導性判例に同意するか否かについて理由を説明しなければなりません。他の類型の指導性判例については、裁判所は自身の判断で参照するか否かを決定でき、それに関する説明には何の制限もありません。 IP訴訟 中国では、比較的十分なIP制度が確立されているものの、大規模なIP訴訟が提起されるようになったのは、この10年のことに過ぎません。従来の民事・商事紛争と比べ、IP訴訟は出現してから間もない新しいタイプの訴訟です。そのため、IP訴訟では、新たな形態の紛争や物議を醸す問題を伴うことが多く、その結果、法律の適用に相違が生じる傾向があります。 さらに、テクノロジーが常に進歩していることもあり、IP訴訟には技術的案件が相当数含まれます。このような新しいテクノロジーが社会制度や法制度にもたらす課題は、ますます明瞭になりつつあります。 判例指導制度の利点は、先例を活用することで、広範な法規則と個々の事案において、常に変化する細部の間に橋を架けることが可能になる点にあります。指導性判例は、法律の全国的な適用の統一を進める一助となります。 IP事案では、明白かつ煩雑な事実を法的論点に抽出し、各論点について事実面・法律面で準備をするというプロセスが常に必要です。しかし、すべての事実的・法的側面について、判例を探す必要があるのでしょうか。本稿では、その答えは明らかに「必要はない」と考えています。 中国は制定法の国です。従って、既存の法規の中に正確かつ適切な法規則が存在する場合には、判例を探す必要はなく、該当する法規則に基づいて裁判を進めることができます。判例は、複雑で論争の的となるような事案において活用するべきです。 判例を探す必要性は明らかになりましたが、判例の検索は、依然として慎重に検討する価値のある問題です。実社会の紛争は複雑であり、言葉で表現することは難しく、さまざまな解釈が可能となることさえあります。一つや二つのキーワードでは、最善の結果は得られないかもしれません。 このため、特に法律や規制の数が膨大で、判例検索に慣れていない弁護士が多い国では、訴訟チームに高い理解力が求められます。 判例検索の核心は、常に変化する明白な事実に照らして、妥当な法的論点を正確に把握することにあります。たとえば、執筆者が担当したある事案では、クレームの数値的特徴に適用される場合の均等論を目的として、検索を実施しました。 執筆者のチームが最終的に特定した判例は、最高人民法院の判例でした。最高人民法院が公式に要約した指導的要点は、独立クレームの保護範囲と、従属クレームの保護範囲の部分的な重複を、裁判においてどのように解決するかに関するものであり、均等論とは何の関係もありませんでした。 この判例には、独立クレームにおける数値範囲の均等性についての言及と説明が含まれていたため、チームはこの判例を関連判例として引用しました。判例検索には、事実の本質に対する弁護士の高い理解力が求められることが、上記の事例から見て取れます。そして当然のことながら、最高人民法院が公表した指導性判例に精通していることも重要です。 判例の活用 適切な先例を検索することができたら、今度はそれを正確に利用する必要があります。いくつかの調査では、実際のIP訴訟において、出所不明の判例、判決が無効の判例、妥当性のない判例など、多数の判例提出に不備があるとされています。 この点について、本稿では、弁護士は詳細な説明に入る前に、まず判例の出所と有効性を示すべきであると考えています。 詳細な分析は、さまざまな手法を用いて実施することができます。たとえば、中国の弁護士はコモン・ロー制度を参照し、判例を通じて、事実の比較、適用法令の指摘、および段階的な結果の主張をすることができます。 弁護士はまた、事案の核心を把握し、判例の判断の要点と照らし合わせることで、目下の事案が望ましい結果に向かうようにすることも可能です。 他にも、類推論を用いることもできます。執筆者が担当した別の事案では、特許出願において、数値パラメータとして選択された範囲が予期せぬ技術的効果をもたらし得ることが、重要な事実とされていました。これに対し、ある引用文献には、予期せぬ効果を示すことなく、異なる数値範囲が開示されていました。 しかし、審査官は、先例の熟練者が同様の範囲を認識していた場合、数値範囲は慣例であり、発明的な努力を払うことなく変更することができると判断したため、特許出願は引用文献に関して進歩性を欠くとして拒絶されました。 執筆者のチームが検索した判例によれば、特許出願において選択されたパラメータ範囲が、先行文献によって開示された範囲内であっても、選択された数値範囲が予期せぬ技術的効果をもたらし得る場合には、その特許出願は特許性を有するとされていました。 上記の判例に基づき、チームは、その判例において特許出願のパラメータ範囲が先行技術文献のパラメータ範囲に含まれていても、予期せぬ技術的効果をもたらすことができる場合は、特許性を有すると判断されているのであれば、今回の特許出願も当然に特許性を有すると主張しました。 なぜならば、このような効果をもたらすパラメータ範囲はこれまで公開されていませんでしたが、それでも予期せぬ結果をもたらすことができるからです。これは、argumentum a maiore ad minus(大きな論点に該当することは小さな論点にも該当する)という論法です。チームが発見した判例を通じて、事実と結果が非常に明確になりました。その後、特許出願に対する不利な判断は取り消されました。 結論 判例指導制度が、一般的な法規則の精緻化、判断基準の統一、司法判断の蓄積、紛争解決の促進、不適切な判決の抑制に、重要な役割を果たしていることは実証されています。この制度はまた、実務において自らの権利や利益をより効果的に保護することを望む当事者や代理人にとって、大きな意義を持っています。 CCPIT PATENT AND TRADEMARK LAW OFFICE 10/F Ocean Plaza 158 Fuxingmennei Street Beijing, 100031, China 電話: +86 10 6641 2345 Eメール: mail@ccpit-patent.com.cn www.ccpit-patent.com.cn トップに戻る インド インドにおいて進化しているIP(知的財産)エコシステムは、世界的に大きな注目を集めています。本稿では、重要な特許規定を取り上げ、国内における特許関連の最新動向を提供します。 外国出願許可 インドの特許法には外国出願許可(FFL)の規定があり、事前の承認を必要とし、違反した場合には刑事罰が科されます。このような犯罪規定は外す必要があると、特許制度のさまざまな利害関係者の間で議論が続いているにもかかわらず、FFL要件は依然として有効なままです。 発明者がインドに居住している場合、国外に最初の出願をする前に、インド特許庁(IPO)に、その発明に関する簡単な開示書類を提出しなければなりません。IPOは、開示内容が防衛や原子力に関連するものでないかを精査し、3週間以内に発明者にFFLを発行して出願を進めることを許可します。あるいは、IPOからFFLを取得する代わりに、インドで最初の申請を行うこともできます。6週間以内にIPOからの異議がなければ、出願者はインド国外での出願を行うことができます。外国出願に懸念がある場合、IPOは出願者に秘密保持命令を出すことがありますが、これはまれなケースです。 特許出願と補正 IPOは英語での出願を受理するため、現地語への翻訳が不要であり、翻訳を必要とする他の法域と比較して、全体的な特許出願コストの大幅な削減につながります。インドにおける特許出願の公式手数料は、世界の特許庁の中でも際立って低いものです。 インド特許法は、国内での出願に入る際に、出願者が特定の請求項を取り下げることも認めています。このような柔軟性により、インドでは特許対象とはならない事項に関する請求項を削除し、余分な特許請求料を節約するとともに、手続を迅速化することができます。ただし申請がなされた後は、いかなる補正も、権利の部分放棄、説明、または訂正によってのみ可能になるため、注意することが重要です。すべての補正は特許明細書で裏付けられていなくてはならず、一度出願した後は、請求項を当初の範囲より拡大することはできません。 審査手続 インドにおける特許審査手続は、審査請求から始まります。係属中の出願の滞留解消に大きな進展があった結果、審査が迅速化され、通常は申請から一年未満で完了するようになりました。 第1次審査報告書を受領した後、出願者には、提起された異議に回答するため6カ月の猶予が認められます。出願者がすべての異議への対応に成功すれば、特許はすぐに認められます。未解決の問題が残る場合、口頭審理が予定され、出願者に弁明の機会が与えられます。審問の後、決定が下されます。口頭審理後の決定が否定的であった場合、出願者には2つの救済手段があります。一つは、特許庁に審査請願を提出して、再考を求めることです。もう一つは、高等裁判所に控訴し、上位の司法当局に事案を提示して、さらなる審理を求める方法です。 分割出願 インドにおける分割出願は、親出願の特許付与または拒否の前であれば、いつでも提出できます。特許出願の処分に関する事前通知はないため、分割出願は、できるだけ早い時期に行うことを推奨します。有効とみなされるためには、その分割出願が複数の発明を開示した親出願から生じており、親出願の請求項と重複しない明確な請求項を有していなくてはなりません。 分割出願の独立した請求項は、親出願で請求されていない新規かつ進歩的な特徴を少なくとも一つは持っていることが望ましいです。さらに、これらの請求項は、親出願の記述の中で適切に裏付けられている必要があります。分割出願提出の決断は、任意である場合もあれば、IPOからの統一された異議がないことを受けて、行われる場合もあります。インドにおける任意分割出願の維持可能性に関する現況は、他の法域と比較して複雑に見えるかもしれません。最近の判例であるBoehringer対デリー高等裁判所特許審査管理官(2022年)は、分割出願を統制する法律の制限的解釈を確立し、分割出願の請求項は親出願の請求項から派生したものでなくてはならないことを示しました。 2023年7月、知的財産部の別の判事は、前述の法的見解が法規定によって支持されていないようだと判断し、自発的分割出願の提出に関する問題、および、必ずしも請求項からではなく、開示から切り出された分割請求の維持可能性に関する問題を検討するため、2名の判事から成る法廷を構成するよう、この問題を高裁の長官に委ねました。上述の問題はまだ検討中であり、願わくは、より大きな法廷が、インドにおける分割出願にまつわる霧を晴らしてくれることが期待されます。 出願者には、分割出願用の請求項を親出願に導入しておく、という選択肢もあるでしょう。最近のデリー高裁の判決である、Nippon A&L対特許審査管理官(2022年)、およびAllergan対特許審査管理官(2022年)によれば、発明が特許明細書で開示され、請求項がすでに開示された内容に限定されている限り、そのような場合の補正は、特に付与前の審査段階において、拒絶されるべきではないとされています。 そのような請求項が親出願で認められれば、出願者にとってはそれで十分なはずです。さもなければ、親出願は統一性の欠如または新たに追加された主題に対して異議を提起されることになります。このような異議は、出願者が分割出願を通じて、異議を提起された請求項を追求する際の正当な根拠となります。 外国出願の開示 インド特許法では、この法的要件は2つの異なる部分に分けられます。最初の部分は第8条(1)の要件として知られており、インド国外で出願されたすべての対応出願(インド特許庁への出願と同一、または実質的に同一の外国出願)の包括的なリストを自発的に、かつ要求があればいつでも開示することを義務付けるものです。 これらの対応出願は、共通優先権出願または特許協力条約(PCT)出願に由来する出願に加え、同一特許ファミリー内のすべてのPCT国内段階出願、継続出願、一部継続出願、分割出願を包含します。インド特許出願時または出願後6カ月以内に、様式3を用いて必要事項詳細を提出しなくてはなりません。インド国外で新たに対応出願がなされた場合も、6カ月以内にその詳細を様式3によって速やかにIPOに提出する義務があります。 第2の部分は、第8条(2)に準拠しており、調査報告書または審査報告書の写し、および対応出願で特許が付与された請求項の写しを、要求があった場合にのみIPOに提供することを求めています。 IPOは、世界知的所有権機関(WIPO)の調査・審査システムへの一元化されたアクセス提供機関となっているため、特許審査管理官はこのシステムを介して対応出願の報告書を閲覧することができます。 実施報告書 インド特許法のユニークな規定の一つとして、特許を取得した発明が、どのように使用されるのかの内容を概説する実施報告書の提出が要求されています。政府は、このプロセスの様式と手続を簡素化しました。新しい様式27では、特許を取得した製品について、インドで製造および/またはインドに輸入された「数量」を記入する必要がなくなりました。ある会計年度内に発行されたライセンスの詳細を実施報告書に記載したり、その特許製品によって、公衆の合理的要求が満たされたかどうかを確認したりすることも不要になりました。 年次実施報告書の提出期限は3月31日から9月30日に変更され、対象期間も暦年(1月~12月)から会計年度(4月~3月)へと変わりました。特許が付与された会計年度については、実施報告書を提出する必要はありません。 もう一つの注目すべき変更は、複数の関連特許について一つの実施報告書を提出できるようになったことです。これは、特定の特許発明から得られるおよその収益や価値を、関連する特許から個別に導き出すことが不可能で、かつそのような特許がすべて同じ特許権者に付与されている場合に適用されます。 特許の共同所有者には、一つまたは関連する複数の特許について、一つの実施報告書を共同で提出する選択肢があります。ただし、各ライセンス所有者(特許実施権者)は、特許発明をどのように利用しているかを示す実施報告書を、個別に提出する必要があります。最近、実施報告書の様式に、SEP(標準必須特許)の関連情報を組み込む必要性があるかどうかについて、利害関係者らが検討するための議論を行っています。特許権者は、これらの議論の進展を注視すべきです。 IP部門 インド政府は、かつてIPOの決定に起因する不服申立てを審理する上訴機関として機能していた「知的財産審判委員会(IPAB)」を廃止しました。これを受けて、デリー高等裁判所は、IPABから移管された事件を含む、すべての知的財産関連事件を独占的に取り扱うIP部門を初めて設置し、「IP部門規則」と「特許訴訟に関する規則」を導入しました。 マドラス高等裁判所もまた、IP部門を設置し、「IP部門規則」と「特許訴訟に関する規則」によって、それらの訴訟を管理することを通達しました。インド全国の他の高等裁判所も、同様のアプローチを採用すると予想されています。知的財産専門の部門を設立し、対応する規則を導入することで、より効率的で専門的なプラットフォームが提供され、知的財産問題の解決を大幅に強化することができます。 LEXORBIS 709/710 Tolstoy House 15-17 Tolstoy Marg New Delhi – 110 001,...
Jin Xiao

特許規定の比較: 中国

By Jin Xiao, CCPIT Patent and Trademark Law Office
中国 インド 中国は成文法の国であり、構造の完全性や論理の厳格性など、成文法に固有の利点を享受しています。しかし、これらの成文法にはそれぞれに限界があり、それは法の普遍的な執行力と個々の事案の多様性とのギャップに部分的に表れています。また、法律とは社会の変化の結果を反映するものであり、履歴効果を持つことは避けられません。 この点に関し、判例指導制度は、広範な法規則と個々の多岐にわたる事案との間隙を埋めるにあたって、ある程度の役割を果たすことができます。最高人民法院だけが指導性判例を選定し、公表することができるため、いかなる種類のものであれ、新たな社会的紛争に適時に、効果的に対応することができます。 特に、複雑な紛争を伴う、社会の新たな発展への対応において、法律の適用を全国的に統一する上で、判例指導が重要な役割を担えることは明らかです。 本稿では、執筆者が担当した実際の事案を例として、知的財産権(IP)訴訟における判例指導制度の活用について検討します。 法的根拠 最高人民法院は2005年に初めて、先例制度導入の可能性を検討し始めたと考えられています。その後10年間、最高人民法院はこの取り組みを続け、指導性判例に関し複数の規制を策定しました。 現在では、利害関係者によって引用される判例は、全国のあらゆるレベルの裁判所において考慮されるようになりました。これらの判例の一部については、最高人民法院が公表した指導性判例であるかどうかを検討する必要があります。裁判において指導性判例となる判例には、以下の4つの類型があります。 最高人民法院が公表した指導性判例 最高人民法院が公表した代表的な判例と、最高人民法院が下した有効な判決 管轄区域内の高級人民法院が公表した参考判例と、高級人民法院が下した有効な判決 当該裁判所または控訴審が下した有効な判決 最高人民法院が公表した指導性判例の優先度がも最も高く、裁判ではこれらを考慮に入れる必要があります。裁判において利害関係者が第1類型の判例を引用した場合、裁判所は判決で指導性判例に同意するか否かについて理由を説明しなければなりません。他の類型の指導性判例については、裁判所は自身の判断で参照するか否かを決定でき、それに関する説明には何の制限もありません。 IP訴訟 中国では、比較的十分なIP制度が確立されているものの、大規模なIP訴訟が提起されるようになったのは、この10年のことに過ぎません。従来の民事・商事紛争と比べ、IP訴訟は出現してから間もない新しいタイプの訴訟です。そのため、IP訴訟では、新たな形態の紛争や物議を醸す問題を伴うことが多く、その結果、法律の適用に相違が生じる傾向があります。 さらに、テクノロジーが常に進歩していることもあり、IP訴訟には技術的案件が相当数含まれます。このような新しいテクノロジーが社会制度や法制度にもたらす課題は、ますます明瞭になりつつあります。 判例指導制度の利点は、先例を活用することで、広範な法規則と個々の事案において、常に変化する細部の間に橋を架けることが可能になる点にあります。指導性判例は、法律の全国的な適用の統一を進める一助となります。 IP事案では、明白かつ煩雑な事実を法的論点に抽出し、各論点について事実面・法律面で準備をするというプロセスが常に必要です。しかし、すべての事実的・法的側面について、判例を探す必要があるのでしょうか。本稿では、その答えは明らかに「必要はない」と考えています。 中国は制定法の国です。従って、既存の法規の中に正確かつ適切な法規則が存在する場合には、判例を探す必要はなく、該当する法規則に基づいて裁判を進めることができます。判例は、複雑で論争の的となるような事案において活用するべきです。 判例を探す必要性は明らかになりましたが、判例の検索は、依然として慎重に検討する価値のある問題です。実社会の紛争は複雑であり、言葉で表現することは難しく、さまざまな解釈が可能となることさえあります。一つや二つのキーワードでは、最善の結果は得られないかもしれません。 このため、特に法律や規制の数が膨大で、判例検索に慣れていない弁護士が多い国では、訴訟チームに高い理解力が求められます。 判例検索の核心は、常に変化する明白な事実に照らして、妥当な法的論点を正確に把握することにあります。たとえば、執筆者が担当したある事案では、クレームの数値的特徴に適用される場合の均等論を目的として、検索を実施しました。 執筆者のチームが最終的に特定した判例は、最高人民法院の判例でした。最高人民法院が公式に要約した指導的要点は、独立クレームの保護範囲と、従属クレームの保護範囲の部分的な重複を、裁判においてどのように解決するかに関するものであり、均等論とは何の関係もありませんでした。 この判例には、独立クレームにおける数値範囲の均等性についての言及と説明が含まれていたため、チームはこの判例を関連判例として引用しました。判例検索には、事実の本質に対する弁護士の高い理解力が求められることが、上記の事例から見て取れます。そして当然のことながら、最高人民法院が公表した指導性判例に精通していることも重要です。 判例の活用 適切な先例を検索することができたら、今度はそれを正確に利用する必要があります。いくつかの調査では、実際のIP訴訟において、出所不明の判例、判決が無効の判例、妥当性のない判例など、多数の判例提出に不備があるとされています。 この点について、本稿では、弁護士は詳細な説明に入る前に、まず判例の出所と有効性を示すべきであると考えています。 詳細な分析は、さまざまな手法を用いて実施することができます。たとえば、中国の弁護士はコモン・ロー制度を参照し、判例を通じて、事実の比較、適用法令の指摘、および段階的な結果の主張をすることができます。 弁護士はまた、事案の核心を把握し、判例の判断の要点と照らし合わせることで、目下の事案が望ましい結果に向かうようにすることも可能です。 他にも、類推論を用いることもできます。執筆者が担当した別の事案では、特許出願において、数値パラメータとして選択された範囲が予期せぬ技術的効果をもたらし得ることが、重要な事実とされていました。これに対し、ある引用文献には、予期せぬ効果を示すことなく、異なる数値範囲が開示されていました。 しかし、審査官は、先例の熟練者が同様の範囲を認識していた場合、数値範囲は慣例であり、発明的な努力を払うことなく変更することができると判断したため、特許出願は引用文献に関して進歩性を欠くとして拒絶されました。 執筆者のチームが検索した判例によれば、特許出願において選択されたパラメータ範囲が、先行文献によって開示された範囲内であっても、選択された数値範囲が予期せぬ技術的効果をもたらし得る場合には、その特許出願は特許性を有するとされていました。 上記の判例に基づき、チームは、その判例において特許出願のパラメータ範囲が先行技術文献のパラメータ範囲に含まれていても、予期せぬ技術的効果をもたらすことができる場合は、特許性を有すると判断されているのであれば、今回の特許出願も当然に特許性を有すると主張しました。 なぜならば、このような効果をもたらすパラメータ範囲はこれまで公開されていませんでしたが、それでも予期せぬ結果をもたらすことができるからです。これは、argumentum a maiore ad minus(大きな論点に該当することは小さな論点にも該当する)という論法です。チームが発見した判例を通じて、事実と結果が非常に明確になりました。その後、特許出願に対する不利な判断は取り消されました。 結論 判例指導制度が、一般的な法規則の精緻化、判断基準の統一、司法判断の蓄積、紛争解決の促進、不適切な判決の抑制に、重要な役割を果たしていることは実証されています。この制度はまた、実務において自らの権利や利益をより効果的に保護することを望む当事者や代理人にとって、大きな意義を持っています。 CCPIT PATENT AND TRADEMARK LAW OFFICE 10/F Ocean Plaza 158 Fuxingmennei Street Beijing, 100031, China 電話: +86 10 6641 2345 Eメール: mail@ccpit-patent.com.cn www.ccpit-patent.com.cn
A-comparison-of-patent-provisions--India-Manisha-Singh-Joginder-Singh

特許規定の比較: インド

By Manisha SinghとJoginder Singh, LexOrbis
中国 インド インドにおいて進化しているIP(知的財産)エコシステムは、世界的に大きな注目を集めています。本稿では、重要な特許規定を取り上げ、国内における特許関連の最新動向を提供します。 外国出願許可 インドの特許法には外国出願許可(FFL)の規定があり、事前の承認を必要とし、違反した場合には刑事罰が科されます。このような犯罪規定は外す必要があると、特許制度のさまざまな利害関係者の間で議論が続いているにもかかわらず、FFL要件は依然として有効なままです。 発明者がインドに居住している場合、国外に最初の出願をする前に、インド特許庁(IPO)に、その発明に関する簡単な開示書類を提出しなければなりません。IPOは、開示内容が防衛や原子力に関連するものでないかを精査し、3週間以内に発明者にFFLを発行して出願を進めることを許可します。あるいは、IPOからFFLを取得する代わりに、インドで最初の申請を行うこともできます。6週間以内にIPOからの異議がなければ、出願者はインド国外での出願を行うことができます。外国出願に懸念がある場合、IPOは出願者に秘密保持命令を出すことがありますが、これはまれなケースです。 特許出願と補正 IPOは英語での出願を受理するため、現地語への翻訳が不要であり、翻訳を必要とする他の法域と比較して、全体的な特許出願コストの大幅な削減につながります。インドにおける特許出願の公式手数料は、世界の特許庁の中でも際立って低いものです。 インド特許法は、国内での出願に入る際に、出願者が特定の請求項を取り下げることも認めています。このような柔軟性により、インドでは特許対象とはならない事項に関する請求項を削除し、余分な特許請求料を節約するとともに、手続を迅速化することができます。ただし申請がなされた後は、いかなる補正も、権利の部分放棄、説明、または訂正によってのみ可能になるため、注意することが重要です。すべての補正は特許明細書で裏付けられていなくてはならず、一度出願した後は、請求項を当初の範囲より拡大することはできません。 審査手続 インドにおける特許審査手続は、審査請求から始まります。係属中の出願の滞留解消に大きな進展があった結果、審査が迅速化され、通常は申請から一年未満で完了するようになりました。 第1次審査報告書を受領した後、出願者には、提起された異議に回答するため6カ月の猶予が認められます。出願者がすべての異議への対応に成功すれば、特許はすぐに認められます。未解決の問題が残る場合、口頭審理が予定され、出願者に弁明の機会が与えられます。審問の後、決定が下されます。口頭審理後の決定が否定的であった場合、出願者には2つの救済手段があります。一つは、特許庁に審査請願を提出して、再考を求めることです。もう一つは、高等裁判所に控訴し、上位の司法当局に事案を提示して、さらなる審理を求める方法です。 分割出願 インドにおける分割出願は、親出願の特許付与または拒否の前であれば、いつでも提出できます。特許出願の処分に関する事前通知はないため、分割出願は、できるだけ早い時期に行うことを推奨します。有効とみなされるためには、その分割出願が複数の発明を開示した親出願から生じており、親出願の請求項と重複しない明確な請求項を有していなくてはなりません。 分割出願の独立した請求項は、親出願で請求されていない新規かつ進歩的な特徴を少なくとも一つは持っていることが望ましいです。さらに、これらの請求項は、親出願の記述の中で適切に裏付けられている必要があります。分割出願提出の決断は、任意である場合もあれば、IPOからの統一された異議がないことを受けて、行われる場合もあります。インドにおける任意分割出願の維持可能性に関する現況は、他の法域と比較して複雑に見えるかもしれません。最近の判例であるBoehringer対デリー高等裁判所特許審査管理官(2022年)は、分割出願を統制する法律の制限的解釈を確立し、分割出願の請求項は親出願の請求項から派生したものでなくてはならないことを示しました。 2023年7月、知的財産部の別の判事は、前述の法的見解が法規定によって支持されていないようだと判断し、自発的分割出願の提出に関する問題、および、必ずしも請求項からではなく、開示から切り出された分割請求の維持可能性に関する問題を検討するため、2名の判事から成る法廷を構成するよう、この問題を高裁の長官に委ねました。上述の問題はまだ検討中であり、願わくは、より大きな法廷が、インドにおける分割出願にまつわる霧を晴らしてくれることが期待されます。 出願者には、分割出願用の請求項を親出願に導入しておく、という選択肢もあるでしょう。最近のデリー高裁の判決である、Nippon A&L対特許審査管理官(2022年)、およびAllergan対特許審査管理官(2022年)によれば、発明が特許明細書で開示され、請求項がすでに開示された内容に限定されている限り、そのような場合の補正は、特に付与前の審査段階において、拒絶されるべきではないとされています。 そのような請求項が親出願で認められれば、出願者にとってはそれで十分なはずです。さもなければ、親出願は統一性の欠如または新たに追加された主題に対して異議を提起されることになります。このような異議は、出願者が分割出願を通じて、異議を提起された請求項を追求する際の正当な根拠となります。 外国出願の開示 インド特許法では、この法的要件は2つの異なる部分に分けられます。最初の部分は第8条(1)の要件として知られており、インド国外で出願されたすべての対応出願(インド特許庁への出願と同一、または実質的に同一の外国出願)の包括的なリストを自発的に、かつ要求があればいつでも開示することを義務付けるものです。 これらの対応出願は、共通優先権出願または特許協力条約(PCT)出願に由来する出願に加え、同一特許ファミリー内のすべてのPCT国内段階出願、継続出願、一部継続出願、分割出願を包含します。インド特許出願時または出願後6カ月以内に、様式3を用いて必要事項詳細を提出しなくてはなりません。インド国外で新たに対応出願がなされた場合も、6カ月以内にその詳細を様式3によって速やかにIPOに提出する義務があります。 第2の部分は、第8条(2)に準拠しており、調査報告書または審査報告書の写し、および対応出願で特許が付与された請求項の写しを、要求があった場合にのみIPOに提供することを求めています。 IPOは、世界知的所有権機関(WIPO)の調査・審査システムへの一元化されたアクセス提供機関となっているため、特許審査管理官はこのシステムを介して対応出願の報告書を閲覧することができます。 実施報告書 インド特許法のユニークな規定の一つとして、特許を取得した発明が、どのように使用されるのかの内容を概説する実施報告書の提出が要求されています。政府は、このプロセスの様式と手続を簡素化しました。新しい様式27では、特許を取得した製品について、インドで製造および/またはインドに輸入された「数量」を記入する必要がなくなりました。ある会計年度内に発行されたライセンスの詳細を実施報告書に記載したり、その特許製品によって、公衆の合理的要求が満たされたかどうかを確認したりすることも不要になりました。 年次実施報告書の提出期限は3月31日から9月30日に変更され、対象期間も暦年(1月~12月)から会計年度(4月~3月)へと変わりました。特許が付与された会計年度については、実施報告書を提出する必要はありません。 もう一つの注目すべき変更は、複数の関連特許について一つの実施報告書を提出できるようになったことです。これは、特定の特許発明から得られるおよその収益や価値を、関連する特許から個別に導き出すことが不可能で、かつそのような特許がすべて同じ特許権者に付与されている場合に適用されます。 特許の共同所有者には、一つまたは関連する複数の特許について、一つの実施報告書を共同で提出する選択肢があります。ただし、各ライセンス所有者(特許実施権者)は、特許発明をどのように利用しているかを示す実施報告書を、個別に提出する必要があります。最近、実施報告書の様式に、SEP(標準必須特許)の関連情報を組み込む必要性があるかどうかについて、利害関係者らが検討するための議論を行っています。特許権者は、これらの議論の進展を注視すべきです。 IP部門 インド政府は、かつてIPOの決定に起因する不服申立てを審理する上訴機関として機能していた「知的財産審判委員会(IPAB)」を廃止しました。これを受けて、デリー高等裁判所は、IPABから移管された事件を含む、すべての知的財産関連事件を独占的に取り扱うIP部門を初めて設置し、「IP部門規則」と「特許訴訟に関する規則」を導入しました。 マドラス高等裁判所もまた、IP部門を設置し、「IP部門規則」と「特許訴訟に関する規則」によって、それらの訴訟を管理することを通達しました。インド全国の他の高等裁判所も、同様のアプローチを採用すると予想されています。知的財産専門の部門を設立し、対応する規則を導入することで、より効率的で専門的なプラットフォームが提供され、知的財産問題の解決を大幅に強化することができます。 LEXORBIS 709/710 Tolstoy House 15-17 Tolstoy Marg New Delhi – 110 001, India 電話: +91 11 2371 6565 Eメール: mail@lexorbis.com www.lexorbis.com
Japan investment regulations

日本の投資拡大に向けた政策支援

By Pradeep Ratnam, Anshuman SinghそしてSamad Ali, Kochhar & Co.
日本のインドへの投資額は世界第5位で、2021年から22年にかけての貿易額は205億米ドルに拡大しました。インド政府が半導体製造の現地化とグローバル・バリュー・チェーンに関する政策を発表したことを受け、日印間の貿易関係は飛躍的に成長すると見込まれます。両国は、政府間および産業界の協力促進を目的とする組織の設立を含め、半導体製造と能力増強に関する協力覚書に署名しました。このような動きは、高価値製造に関する日本の卓越した技術力と、インドのエンジニアリング、ソフトウェア、設計の各分野の人材を結び付けるものであり、建設的な協力関係の強化が期待されます。 インドは2023年5月、国内外の企業による、シリコン相補型金属酸化膜半導体の製造工場への投資を奨励するため、半導体工場設立に関するガイドラインを導入しました。このガイドラインは、ロジック部品、メモリー部品、デジタル集積回路、アナログ集積回路、ミックスドシグナル集積回路、システムオンチップを対象としています。これらは、ディスプレイ工場、化合物半導体・シリコンフォトニクス・センサー工場、およびATMP(半導体組み立て・試験・マーキング・パッケージング)・OSAT(組み立て・テストのアウトソーシング)施設の設立を対象とする、同様の計画ならびに設計連動型インセンティブ・スキーム(以下、「スキーム」)とを並行して実施されます。政府はこれらの政策を集中的に実施することで、半導体製造に伴う難題を克服しようとしています。ガイドラインとスキームの目的は、半導体の製造、インフラ、設計、製造のための技術のエコシステムの構築です。そして、有利な輸入関税制度がこのエコシステムを支えます。 このガイドラインは、300mmウェハ製品を生産する半導体工場の中で、月間ウェハ投入量が4万枚以上の製造能力を備えた工場を対象としています。申請者は、生産が可能な水準のライセンス技術を保有し、ライセンス供与または技術開発により取得した、先進ノード技術による製造を計画している必要があります。資本支出額2000億インドルピー(6億米ドル)、収益額750億インドルピーという基準を申請者が満たせば、プロジェクト費用の約50%の補助金が給付されます。政府はまた、研究開発費、共通施設センター、電子製品の優先調達に対する資金援助も行います。 認められる支出には、土地や建物、工場、機械、クリーンルーム、設備に要する費用、光熱費、研究開発費、技術移転契約、建設期間中の利息、保険料などが含まれます。承認から6年以内に支払われる費用が対象となります。ガイドラインでは輸出目標は設定されていません。これは以前のスキームからの歓迎すべき変更です。特定の機関が、プロジェクト実施能力、運営能力、技術、雇用創出、付加価値、財務の各項目について、申請者を評価します。プロジェクトが承認された後、プロセス技術や資金支援について交渉が行われます。 半導体工場に関するガイドラインは包括的なものであり、国内技術の将来の発展に向けて、インドが力を注いでいることを示しています。いくつかの州は追加の資金的インセンティブを提供する政策を取っており、政府の制度を補足するものとして、投資家に対して州有地、インフラ、超純水、物流、確実な電力供給などの点で、種々の選択肢を提供しています。 ガイドラインの申請書では、申請者の技術仕様、原材料の調達、技術のアップグレード、運営上の要件、雇用について弾力的な記載や対応が認められています。販売目標や輸出に関するコミットメントの省略が認められていることからも、この制度が罰則を通じて、目標や成果を厳格に遵守することを求めているのではなく、寛容な制度により、技術移転を促進することに重点を置いていることは明らかです。 日本の投資家にとっても、この新しい規制体制にはメリットがありますが、申請者はすべて、以下の点に留意する必要があります。申請の際に詳細な技術開示を実施しなければならないため、申請者は事前にNDA(秘密保持契約)の締結を主張するべきです。通常、政府機関はこれに同意するでしょう。得られるメリットには、輸入関税や物品・サービス税の免除、ビザの取得支援などがあります。現地での雇用関係には、各州が規定する労働法が適用されます。申請者は、資金支援がどのように行われるのか、また関連するマイルストーンはあるのかといった点に留意するべきです。サードパーティーの同意を得る必要があります。長期的に成功するか否かは、提供される支援の内容、スケジュール、紛争解決メカニズムについて規定する、特定の政府機関との詳細な支援契約にかかっています。 このような進展を受け、ラピダス社などの企業がバリューチェーン全体に進出していることにも示されているように、半導体製造に関して日印間の戦略的協力関係を強化する機会が訪れています。 Pradeep Ratnam、 Kochhar & Co.シニアパートナー、Anshuman Singh、パートナー、Samad Ali、アソシエイトです Kochhar & Co. New Delhi (head office): Kochhar & Co. Suite # 1120 -21, 11th Floor, Tower - A, DLF Towers, Jasola District Center, Jasola - 110 025, India India offices: New Delhi, Bengaluru, Mumbai,...
Affidavits not evidence trade mark applications

宣誓供述書は著名商標出願に必須ではない

By Manisha Singhおよび Omesh Puri, LexOrbis
先般のKamdhenu Ltd対The Registrar of Trade Marksの裁判では、デリー高等裁判所において、Kamdhenu Ltdが「Kamdhenu」という商標の、著名商標としての認定を求めた申請の却下に対する控訴審が行われました。裁判所は、証拠として宣誓供述書を提出する必要性について明確に説明し、控訴人に宣誓供述書および主張を裏付けるその他の書類を提出する機会を与えました。 被控訴人であるKamdhenu Ltdは、同社の「Kamdhenu」という商標の周知性の立証を申請していました。商標登録官は、控訴人が商標の周知性を証明する宣誓供述書を提出しなかったことを理由に、この申請を却下しました。 控訴人は、2017年商標規則(以下、「規則」)第124条は、宣誓供述書のみによる証拠の提出を、明示的に要求してはいないと主張しました。控訴人は、司法命令書、契約書、請求書、報道資料などの証拠書類を提出していました。控訴人は、1872年インド証拠法の該当する条項と、宣誓供述書による証拠に加えて、またはそれに代えて文書による証明資料の提出を認める1999年商標法第129条を引用しました。 被控訴人である商標登録官は、特許意匠商標総局が発行した公示を引用し、著名商標を証明する証拠は、宣誓供述書によって提出されるべきであると説明しました。そして、宣誓供述書が提出されない場合、他の証明資料は証拠として認められないと主張しました。 裁判所は、同法第11条と規則第124条の関係を分析しました。規則第124条の目的は、手続きの合理化と著名商標の認定における統一性の確保です。裁判所は、規則第124条では、著名商標を裁判所が認定する場合と、登録官が認定する場合を区別しておらず、両者の手続きは同一だと判断しました。 裁判所は、宣誓供述書は証拠となり得るが、商標の周知性の立証時に提出を義務付けられていない、と判示しました。商標について、以前から継続して現在も使用していること、広く認識されていること、名声を得ていることを示す証明資料を提出すれば十分です。裁判所は、このような証明資料の例として、広い地域で商標が使用されていることを示す請求書、販売促進・広告のための資材、展示会や見本市への参加、商標に関連する判決、顧客情報、電子商取引プラットフォームへの出品状況、賞や表彰、会計書類を挙げました。 裁判所は、登録官による周知商標の判定について規定する規則第124条が、証拠および書類の要件に言及しており、それには宣誓供述書が含まれ得ると認定しました。しかし、この規則では、十分な証拠が提示される限り、宣誓供述書は必要とされません。 商標に関する証拠の定義について、裁判所は商標法第129条に言及しました。同条では証拠は宣誓供述書によって提出されると定められていますが、これは、証拠法第3条の規定のように、証拠が口頭証言か宣誓供述書のいずれかに限定されることを意味しているのではありません。証拠法第3条は、法廷での陳述や電子記録を含む文書を含め、口頭証拠と文書証拠の双方について規定しています。 証拠法第3条は、口頭証拠と文書証拠の双方を対象としています。裁判所は同条について、登録官による周知性の有無の判定には、本質的に証明資料の提出を伴うと解釈しました。宣誓供述書は必須ではないものの、商標を採用した理由、商標の作成過程、使用履歴などの詳細情報を追加的に提供することで、主張を裏付ける役割を果たすことができます。裁判所は、宣誓供述書によってのみ示すことができる事実もあれば、一般に認識されており、検証可能な資料もあると判定しました。宣誓供述書の提出を求める厳格な規則はありませんでした。公示では、そのような要件について特に言及されていませんでした。 裁判所は、登記官が必要と判断した場合、申請者は特定の資料の裏付けとして、宣誓供述書を提出することができると判示しました。宣誓供述書がないからといって、申請が即座に却下されるべきではありません。 本判決では、商標の周知性を判断するための証拠として、宣誓供述書が必要かという点が明らかにされました。また、宣誓供述書の代わりに証明資料の提出が認められることが、強調されています。 Manisha SinghおよびOmesh Puriは、 LexOrbisのパートナーです。 LexOrbis 709/710 Tolstoy House 15-17 Tolstoy Marg New Delhi – 110 001 India Mumbai | Bengaluru 連絡先詳細 電話: +91 11 2371 6565 Eメール: mail@lexorbis.com www.lexorbis.com
bad faith trademark cancellation

不誠実な商標登録は保護されない

By Manisha SinghおよびOmesh Puri, LexOrbis
BPI Sports LLC対Saurabh Gulati and Anrの事案では、デリー高等裁判所への是正申立において、栄養補助食品を扱う有名企業である申立人が、不誠実を理由とする登録商標の取り消しに成功しました。申立人は、被申立人がインドで「BPI Sports」という商標を不正に登録したとして、商標登録の是正を求めました。同社は、被申立人は申立人がインドで権利を取得するのを妨害する目的で、商標の不正登録を行ったと主張しました。 申立人は、「BPI Sports」という標章が米国で先行して採用され、使用されているという事実を根拠として、この標章に対するコモンロー上の権利を有すると主張しました。彼らは、この商標は自社製品の出所識別標識として広く認識されており、被申立人が同一の商標を採用することで、市場に混乱が生じると主張しました。申立人は、被申立人は申立人の商品の輸入業者として取引関係にあったため、申立人の標章と評判について認識があった、と主張しました。申立人は、標章の使用という行為のみでも、コモンロー上の権利を取得する十分な根拠になると主張しました。申立人はその主張を裏付けるために、電子メールのやり取り、請求書、種々の方法を介してインド市場で認知されていた標章の国際的な評判を、証明資料として提出しました。 申立人は1999年商標法第11条3項に基づいて、この請求を行いました。この条項では、商標間の欺瞞的類似を伴うパッシングオフによって商標の使用が妨げられる可能性がある場合、その商標の登録は認められません。この規定の目的は、消費者が誤解に陥るのを防ぐことです。パッシングオフの構成要件には、被告の商品が原告の商品であると消費者に誤解させる表示の存在が含まれるため、商標が主に海外で使用されている場合、商標の海外での評判がインドに及んでいることを証明する必要があります。そして、原告はその主張の裏付けとなる名声や評判を取得していなければなりません。 しかし裁判所は、最高裁判所がトヨタ事件で示した原則を適用し、国境を越えた評判についての証拠は説得力がないと判断しました。その証拠は、申立人の標章が付された商品の輸入を証明する1枚の請求書でした。他の請求書は米国内で販売された商品に関するもので、インド国内での商品の販売またはインドへの商品の輸入を示すものではありませんでした。その結果、裁判所は、申立人は国境を越えた評判がインドで形成されていることについて、十分な証拠を提出しておらず、被申立人の商標に対するパッシングオフを証明することはできない、と判断しました。したがって、申立人は、第11条3項に基づいて登録商標を取り消すことはできませんでした。 裁判所は次に、同法第11条第10項(ii)に規定されている、商標の不誠実な採用に関する問題を検討しました。同法は、出願人が不誠実な意図を持って登録することを明示的に禁じていませんが、裁判所は同条項を立法目的に沿って解釈し、商標法における不誠実の概念を分析しました。不誠実とは一般的に、不実、詐欺、または他者を誤解させたり欺いたりする意図や、第三者の権利を侵害する不当な行為が含まれます。不誠実な行為の一形態である商標の不正登録とは、第三者の商標を、正当な権利者が権利を確保する前に登録することです。 また、裁判所はドメイン名登録に関連する不誠実な行為にも言及し、ドメイン名の商標権者への売却や競合他社の事業の妨害などの行為も、不誠実な行為に含まれるとしました。 この事案では、被申立人は、申立人が米国で「BPI Sports」という商標を先に登録していたにもかかわらず、この商標を登録したため、不正登録を行ったとして非難されました。被申立人は、申立人の商品の輸入業者の地位を利用して申立人の評判を悪用し、商標登録を妨害することを意図していました。裁判所は、これらの行為は商標の不正登録に該当し、第11条第10項(ii)の対象となる不誠実な行為であると判断しました。 裁判所は、被控訴人の商標が不正に登録されていることを明確に示し、商標登録簿からの削除を命じました。この判決は、不正な登録を防止し、正当な商標権者の権利を保護することの重要性を浮き彫りにしています。 この判決は、商標登録における不誠実性の重要性を際立たせ、今後の基準を設定しました。また、商標登録の完全性を維持し、知的財産の保護を通じて公正な慣行を促進する必要性に対する認識を高めるものとなりました。 Manisha SinghおよびOmesh Puriは、LexOrbisのパートナーです。 LexOrbis 709/710 Tolstoy House 15-17 Tolstoy Marg New Delhi – 110 001 India Mumbai | Bengaluru 連絡先の詳細 電話: +91 11 2371 6565 Eメール: mail@lexorbis.com www.lexorbis.com
AI Act ethical implications regulation

早急に求められるAI監視

By Ashima ObhanそしてAparna Amnerkar, Obhan and Associates
人工知能(AI)は私たちの世界を根本から変えようとしています。しかし、その倫理的な意味やリスクに関する懸念が増しています。欧州連合(EU)では、AI技術の開発と利用に関する包括的な規制枠組みであるAI規制法が採択され、AI規制が大きく前進しました。 同法はAIを提供したり利用したりする企業に対して、そのシステムのリスクと潜在的な損害に応じて、種々の義務を課しています。個人の安全に対して、容認できない脅威をもたらすシステムは認められません。その脅威には、個人の弱みや社会的スコアリングを利用して、潜在意識に働きかける、または意図的に操るような手法が含まれます。後者には、社会的行為、社会経済的地位、個人的属性によって個人を分類することも含まれます。 この法律では、公共の場でのリアルタイムの生体認証システム、重大犯罪の捜査目的で司法機関の許可がある法執行を除く、事件発生後の遠隔生体認証システム、性別、人種、民族、宗教などの配慮を要する特性の生体認証分類などの、人権侵害につながる差別的なAIの使用が禁じられています。 プロフィール、居住地、過去の犯罪行動を分析する予測取り締まりシステム、法執行機関、国境管理、職場、教育機関における感情認識システム、顔認識データベースの作成を目的とする、ソーシャルメディアや監視カメラ・防犯カメラからの生体データの無制限な収集も、禁止されています。これらは人権、特にプライバシーの権利を侵害するものです。 この法律では、ハイリスク領域に含まれるものの例として、個人のウェルビーイング、安全、基本的権利、環境に対する潜在的な危害を挙げています。政治運動で有権者の心に働きかけるAIシステムもハイリスク領域に含まれ、また、ソーシャルメディアプラットフォームのシステムも、リスクの高い使用例のリストに加えられています。 規制の対象には、急速に発展しているAIの分野である基盤モデルのプロバイダーも含まれます。これらのプロバイダーには、基本的権利、健康、安全、環境、民主主義、法の支配を守ることが義務付けられています。リスクを評価・軽減し、設計・情報・環境基準を遵守し、EUのデータベースへの登録を維持する必要があります。透明性の要件は、ChatGPTのような生成基盤モデルに適用されます。この要件には、コンテンツがAIによって生成されたことの開示、違法コンテンツ生成の防止、トレーニングに使用された著作権で保護されたデータの概要の公表などが含まれます。 イノベーションを促進するため、同法では、研究活動と、オープンソースライセンスで許可されているAI要素は除外されています。また、規制上のサンドボックス(管理された環境)を利用して、リリース前にAIをテストすることが推奨されています。 インドにはAIを規制する個別の法律はありませんが、現在検討されているデジタル・インディア法(DIA)では、ユーザーへの危害防止の観点から、AIと新興技術に対する規制が定められるとみられます。リスクの高いAIを使用する仲介業者に対する統制が、導入される可能性が高いと考えられます。アルゴリズムの説明責任、脅威の特定、脆弱性の評価に基づき、リスクの高いAIが定義され、規制されるでしょう。AIを利用する広告ターゲティングとコンテンツモデレーションは、詳細な調査の対象になります。DIAでは、憲法に基づく市民の権利を守るための説明責任を規定するべきです。AIを利用するツールは、ユーザーを保護するために、倫理的に使用されなければなりません。したがって、違反に対する罰則は、違反を防止・抑制する効果があり、違反の重大性に比例している必要があります。 DIAは、倫理基準に沿った技術の進歩と個人の保護を促し、責任ある実装を確保するものです。透明性が確保されれば、顧客はAIが自身に影響を及ぼしていることを認識でき、消費者保護の強化につながります。強固な規制枠組みの導入により、AI技術に対する社会の信頼が高まるでしょう。DIAに高い基準が規定されることで、インドが責任あるAIの世界的リーダーとしての地位を築くことが可能になり、海外投資と国際的な協力関係が強化され、国際競争力が高まり、経済成長が促されるでしょう。 規制の導入には、困難が伴うことが予想されます。研究や技術の進歩を阻害しないためには、イノベーションと規制の均衡を図ることが極めて重要です。AIの急速な進化と歩調を合わせた、柔軟で適応性のあるガバナンスが求められますが、一方でコンプライアンスを徹底するには、効果的な実施と政府、産業界、学界の協力が必要です。 明確なガイドラインを定め、透明性を促進し、AIの責任ある利用を奨励することで、インドはこの分野における世界の先駆者になり得ます。入念な規制と関係者間の継続的協力関係が障害の克服を可能にし、AIを活用した豊かな未来をインドにもたらすことでしょう。 Ashima ObhanはObhan & Associatesのシニアパートナーであり、Aparna Amnerkarはアソシエイトです。 Obhan & Associates Advocates and Patent Agents N - 94, Second Floor Panchsheel Park New Delhi 110017, India  連絡先の詳細: Ashima Obhan T: +91-9811043532 E: email@obhans.com ashima@obhans.com www.obhanandassociates.com
write-offs framework

不良資産規制には整備が必要

By Sawant SinghそしてAditya Bhargava, Phoenix Legal
インド準備銀行(RBI)は2023年6月の開発に関する声明(development  statement)において、2019年6月の「不良資産解決のための健全性規制の枠組み」が「広範な原則に基づく枠組み」を提供している一方で、不良資産問題の解決をさらに促すために、譲歩による和解と間接償却に関する「包括的な規制枠組み」が必要である、と指摘しました。この点へのRBIの取り組みとして、声明と同日に公表されたのが、「譲歩による和解と間接償却に関する枠組み」です。この変更は即刻実施されました。早急に実施された理由は明かされていません。 この枠組みは、RBIの規制対象の全事業体(RE)に適用されます。この適用により、故意の債務不履行者、または詐害的債務者に分類される債務者との間で、REが譲歩による和解または間接償却(以下、「和解」)を行うことが認められます。この枠組みでは、譲歩による和解とは、債務者に対するREの債権を完全に決済するための、債務者との交渉による取り決めと定義されています。これは現金で実施される必要があります。和解の取り決めに債務者に対する債権の放棄が含まれる場合、債権額の一部について返済を受けることができなくなる可能性があります。間接償却とは、債務者に対する債権を放棄することなく、不良資産を帳簿上のみで全部または一部償却することです。 このような和解は、債務者に対して実行されている刑事手続きには影響しません。和解は、適用されるその他の法令にも準拠していなければなりません。回収手続きが係属中の場合、裁判所または裁決機関が和解に同意する必要があります。 REがこの枠組みの適用を受けるには、和解の方針を取締役会が承認していなければなりません。その目的は、支払い不能に陥った債務者からの回収額を最小の費用で最大化することです。これらの方針では、実行するプロセスが十分に規定されている必要があります。最低年齢設定、担保の評価切り下げ、職員の説明責任、和解承認権限の委譲などの事項に関して、具体的な規定を盛り込むべきです。方針では、和解額の算定のため、与信の種々のカテゴリーについて受忍できる償却額を定めておくべきです。その際、担保からの回収可能額を考慮に入れる必要があります。 当初の融資を承認した役員が、和解案を検討する委員会に加わってはなりません。詐害的債務者または故意の債務不履行者との和解案には、取締役会の承認が必要です。 そのような債権が現金回収されるまでの間にREの貸借対照表上で認識されている限り、和解は将来の現金回収または返済に関するREと債務者との間の契約上の取り決めに影響しません。このような債権が上記のように認識された場合には、債務再編として扱われます。 和解の対象である債務者に対する新たな与信には、クーリング・オフ期間の規定が適用されます。農業関連融資以外の与信には、最低12カ月間のクーリング・オフ期間が適用されます。REの取締役会は、これより長いクーリング・オフ期間を設定することができます。間接償却の期間は、REの取締役会が承認した方針に準拠します。 REの取締役会は、和解の対象になっている口座の数や金額の傾向など、四半期ごと・年度ごとの報告の内容や方法を規定する必要があります。報告に含めるべき事項には、不正行為が行われた口座の内訳、要注意口座、故意の債務不履行および「回収不能」口座、金額・承認権限、業種、資産クラスに基づく和解対象口座の分類、ならびに間接償却された口座の回収見込みなどが含まれます。また、REは、和解の状況を少なくとも四半期ごとに、次のレベルの権限者に報告されるシステムを整備する必要があります。REのマネージングダイレクターおよびCEO、または取締役会レベルの委員会が承認した和解については、取締役会に報告しなければなりません。 この包括的な枠組みは、REが和解や間接償却を行う方法の明確化という、待ち望まれていた進展をもたらします。これは、公共セクターの銀行が特に必要としているものであり、規制当局の経常的な調査や捜査を懸念することなく、不良債権を解決する仕組みとなります。 この枠組みでは報告制度が規定されていますが、過度の間接償却によるモラルハザード(会計上適切に償却された債権が回収されることにより、不適切な時期に利益が計上される)については沈黙しています。この枠組みは手始めとしては優れていますが、時間をかけて改善していく必要があると考えられます。 Sawant SinghおよびAditya Bhargavaは、Phoenix Legalのパートナーです。 Phoenix Legal Second Floor 254, Okhla Industrial Estate Phase III New Delhi – 110 020 India Vaswani Mansion, 3/F 120 Dinshaw Vachha Road, Churchgate Mumbai – 400 020 India 連絡先の詳細 T: +91 11 4983 0000 +91 22 4340 8500 E: delhi@phoenixlegal.in mumbai@phoenixlegal.in
Japan arbitration landscapes

日本における仲裁の現状

By 湯浅 紀佳そして伊藤 大智, 三浦法律事務所
香港 インド 日本 フィリピン シンガポール 「日本が仲裁地として選ばれることが少ないのは、仲裁手続で使用される言語は日本語が前提となっており、外国人弁護士や当事者にとって不利であることが主な理由だ」、また、「英語に堪能な仲裁人はほとんどおらず、日本人弁護士のみが依頼人の代理人を務めることができる」と、広く信じられています。 しかし、日本全体に起こっているグローバル化により、こうした誤解は解消されてきました。 使用言語については、2018年から22年にかけて、主要な国際仲裁機関である日本商事仲裁協会(JCAA)における国際仲裁事件の41%が英語を使用しており、英語が主な使用言語の一つであることがわかります。 英語で仕事ができる日本人仲裁人も増加しており、また、2018年から22年に JCAA の国際仲裁事件に選任された仲裁人の38%は日本以外の国籍で、その出身国は12ヵ国に及びます。法改正により、外国人弁護士も国際仲裁事件の代理人として認められるようになりました。 明らかに、仲裁の場としての日本に影響していると思われていたデメリットは解消されたのです。 仲裁法改正 日本の仲裁法(以下、「AAJ」)は、国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)の国際商事仲裁モデル法の規定に従い、2003年に制定されました。 しかしながら、2006年のモデル法改正を反映するAAJの改正は行われませんでした。本年4月、ついにそれが実現し、AAJはモデル法の最新版に沿って改正されました。 具体的には、2023年改正で、仲裁裁判所が権利や証拠を保全するために出す命令である、暫定措置の種類と執行要件が定められたのです。 この執行は、係争中の財産や権利に対する著しい損害や急迫の危険を回避するために必要な措置、および/またはそれを回復するための措置と、財産の処分、審理妨害、証拠隠滅、その他の行為を禁止する措置とに大別できます。 暫定措置の執行を得ようとする当事者は、裁判所に対して、その強制執行等を許可する決定を求める申立てをすることができ、執行拒否事由があると裁判所が認める場合を除き、当該申立ては承認されることになります。 また、2023年改正以前は、申立人が裁判所に対して執行命令を求める申立てをする場合において、仲裁判断書が日本語以外の言語で作成されているときは、日本語訳文を裁判所に提出する必要がありました。仲裁判断書はかなり長文になることが多いため、この翻訳要件は当事者らにとって実務的な負担を強いるものでした。 しかし2023年の改正により、一定の場合には日本語訳を提出しなくても、執行命令を求める申し立てができるようになります。 さらに、仲裁地が日本国内にあるときは、東京地方裁判所および大阪地方裁判所にも競合管轄権が認められることとなりました。両裁判所には、仲裁事件に精通した裁判官がいます。 2023年の改正は、2023年4月28日の公布日から1年以内に発効することになっています。遅くとも、2024年5月以降の運用は、このAAJ改正に基づいて行われます。 日本の仲裁のメリット 2023年改正に加えて、仲裁地として日本を選ぶことには他にもユニークな利点があります。まず、日本は大陸法に基づく国家です。したがって、日本で大陸法仲裁人を任命することは容易です。 2010年以来、JCAAの仲裁判断が日本以外の裁判所で否定されたケースはなく、最高裁で仲裁廷の判断が覆ったケースもないことを考えると、日本の裁判所のみならず、日本以外の裁判所も仲裁廷の判断を尊重しており、その判断が安定していることは明白です。 アメリカ、ヨーロッパ、アジアの中間点に位置する日本は、地理的な観点からも、仲裁人、弁護士、当事者、証人にとってアクセスが便利です。そのため、第三者裁判管轄地として選ぶには好都合な場所です。日本で仲裁が行われる可能性が高い東京と大阪は、世界で最も治安環境が良い場所でもあります。 加えて、日本の弁護士数は、国民一人当たりで見るとかなり少ないのです。これは、研修制度と司法試験制度の難易度の高さを裏付けています。弁護士になることの難しさは、法廷弁護士と事務弁護士の間の違いがなく、すべての弁護士は法廷弁護士を目指して訓練されることに由来しています。それゆえ、仲裁手続に携わる弁護士の質は高いレベルに保たれているのです。 仲裁費用 JCAA 仲裁人に支払う報酬一覧 請求額/経済価値 仲裁人の数 事務手数料 仲裁人報酬 商事仲裁(タイムチャージ、上限) 対話型仲裁(固定報酬) 2000万円(13万6000米ドル) 1名 50万円 200万円 100万円 1億円 1名 130万円 400万円 300万円 1億円 1名 3名 100万円 400万円 1,200万円 3,360万円 300万円 900万円 出典:JCAA公式サイト(https:jcaa.or.jp/arbitration/costs.html) 仲裁費用 仲裁手続の期間と費用についても、見てみましょう。上に示したJCAAの仲裁人に支払う報酬の一覧表を見ると、その金額は他国の仲裁人に比べて明らかに低いことがわかります。 日本での仲裁手続に要する期間も、短い傾向にあります。2013年から22年までに、JCAAにおいて手続開始から完了までに要した期間の平均は、12.9ヵ月でした。 仲裁地として日本を選ぶことに大きなメリットがあるのは明らかです。原則として、簡易手続は書類のみによるものであり、3ヵ月から6ヵ月以内に仲裁判断を下すよう合理的な努力が払われます。 さらに、日本国籍の仲裁人または大陸法の仲裁人が選任された場合、早い段階で争点を特定するための手続が行われ、証拠開示や文書開示の手続は行わないため、手続全体を可能な限り簡潔にできます。 文書作成は、当事者双方が特定の文書または特定カテゴリーの文書の相互開示を要求するため、非常にコストが高く、時間もかかります。文書作成を限定するというアイデアは、仲裁の費用と時間を節約する場合に、よく提案されます。 結論 仲裁地として日本を選ぶことに大きなメリットがあるのは明らかです。 上記のように、日本は仲裁地としての魅力を益々高めています。しかしながら、この国が選ばれることはまだ限定的です。そのため国際仲裁に関する議論が加速しており、新たな国際ハブの開発についても検討が進められています。 将来的には、日本人が関与する仲裁手続の場所としてのみならず、日本が国際仲裁事件の第三者裁判管轄地となる日が来ると、執筆者は考えております。本稿がその一助となれば幸いです。 MIURA & PARTNERS 3F East Tower Otemachi First Square 1-5-1, Otemachi, Chiyoda-ku Tokyo 100-0004, Japan 電話: +81 3 6270 3500 Eメール: info@miura-partners.com www.miura-partners.com
regional comparison of real estate markets

不動産市場の地域比較

変動の激しい地域市場において、不動産セクターはどのような進展や動向があるのでしょうか。 中国 インド 日本 マレーシア 中国 中国の不動産市場は、2022年以降、継続的な下落傾向にあり、投資額も販売額も大幅に減少しています。土地のプレミアム率は過去10年間で最低ですが、競売や売却に出されている土地区画の競売不成立と撤退の合計率は、依然として高い水準にあります。 国家統計局が発表したデータによると、昨年、不動産開発会社が購入した土地の面積は、2021年比で53.4%減少しました。土地取引額は48.4%下落、住宅の新規着工面積は39.4%減少、商品住宅の販売面積は24.3%縮小、そして開発投資は10%収縮しました。 このように悲観的な業界背景に対するシステミックなリスクを防ごうと、中央政府は、「住宅は住むためのものであり、投機の対象ではない」という原則を守りつつ、不動産市場を安定させるための一連の法律、規制、政策をさまざまなレベルで導入してきました。 これらの措置は各都市に合わせて異なり、開発、建設、投資、融資、販売など多様な側面を網羅し、堅実な住宅需要とグレードアップした住宅需要の双方をサポートして不動産業界の安定を促進することを目標にしています。 主な取り組み 土地の供給と開発の最前線で次々に実施されている政策は、「住宅の供給、人々の生活、社会の安定を保証する」市場志向を標榜しています。これらの政策は、不動産開発会社が直面するリスクに対処するため、市場経済化と法の支配を優先し、プロジェクトの円滑な完成と引き渡しを保証するものです。 最高人民法院、住宅都市農村建設部、中国人民銀行が2022年1月に共同で公布した「プロジェクト建設のための商品住宅販売前資金の使用を確保するための人民法院の保全・執行措置の規制に関する通達」は、販売前資金の預託口座に関する保全・執行措置を実施する際には、比例原則を堅持し、誠実かつ理性的な執行を強化するよう求めています。 その目的は、建設会社に対する中間建設費の支払い遅延を防止することです。そうした遅延は、商品住宅プロジェクトの進行を妨げ、完成と引き渡しに悪影響を及ぼし、住宅購入者の権利と利益を損なう可能性があります。 その後、中国銀行保険監督管理委員会は、「商業銀行が発行する保証状による販売前預託資金の代替に関連する業務についての通達」を出しました。この通達は、預託された販売前資金の代替として、保証状を使用することを認めており、定評のある不動産開発会社がこれらの資金を効果的に活用することを可能にします。 さらに、上海、広東、四川、武漢、南京など、中国のいくつかの地域でも支援政策が導入されています。それらには、土地競売に参加するための履行保証の有効な形態として要求保証を認めること、開発会社の信用実績に基づいて売却前資金の預託枠を調整すること、流動性を向上させるために開発会社が所定の預託額以上の資金を引き出しての使用を認めること、などがあります。 一方、低迷する住宅販売を押し上げるための各種政策では、規制緩和が大きく取り上げられています。これらは、住宅購入のコストとリスクを軽減しつつ、合理的な住宅需要を満たすことに重点を置いています。 2022年、人民銀行と中国銀行保険監督管理委員会は共同で「初めての住宅購入に対する新規個人住宅ローンの金利政策の動的調整に関する、長期的メカニズムの確立に関する通達」を発表しました。これは適格都市における、初めての住宅購入者向けの商業用個人住宅ローンの金利フロアの段階的引き下げを概説しています。 また同年、財政部と国家税務総局は「既存住宅売却後の新規住宅購入支援に関する個人所得税政策に関する公告」を発表し、既存住宅を売却してから1年以内に市場で新築住宅を購入した納税者は、既存住宅に支払った個人所得税の全部、または一部の還付を受けることができるようになりました。還付金額は、新居の購入価格と既存住宅の売却価格の差額に基づいて決定されます。 2023年、自然資源部と中国銀行保険監督管理委員会は共同で、人民と企業の便宜のために、不動産の「抵当権付譲渡」サービスを提供する協調努力を行う、という通達を発表しました。この通達は、抵当権付き不動産譲渡にプレミアムサービスを提供するための、部門間協力の必要性を強調しています。 最高人民法院の最新のガイダンスである「商品住宅購入者の権利保護に関する回答」は、住宅購入者の権利をさらに強化しています。これは、購入者が居住目的で商品住宅を購入し、住宅価格を全額支払った場合、購入者の物件引渡請求権が、建築費、抵当権その他の請求権のいずれにも優先することを定めたものです。 さらに、地方自治体は、住宅ローンによる中古住宅の取引の許可、住宅購入の制限の緩和または解除、不動産業者の手数料の上限引き下げ、取り壊しや再定住の対象となる既存住宅に対する金銭補償の補完である「住宅クーポン」政策の試験的実施など、さまざまな措置を実施してきました。 新開発モデル 投資と資金調達に関しては、不動産セクターの債務リスクを解決し、新たな開発モデルへの円滑な移行の促進に重点が置かれています。2022年、中国人民銀行と中国銀行保険監督管理委員会は共同で、「不動産市場の安定的かつ健全な発展のための金融支援の確保に関する通達」を発表しました。 これは、住宅供給を保証するための積極的な金融サービスを提供し、苦境にある開発会社が直面するリスクへの対処や、段階的な財務管理政策の調整、住宅リースに対する金融支援の強化などにおいて協力する必要性を強調したものです。 発展改革委員会、中国証券監督管理委員会、中国証券投資基金業協会などいくつかの部門も、都市開発、建設、運営への民間資本の参加を促す文書を発表しました。 彼らはインフラ分野での不動産投資信託(REIT)の試験的プログラムを推進し、REITの原資産の範囲を、手頃な価格の賃貸住宅や商業施設に拡大しています。こうした施策の目的は、投資の出口となる機会を創出することです。 河南省や安徽省などでは、定評のある開発会社が、資金調達のために債券を発行するのを支援したり、不良プロジェクトのM&Aを促進したりする地方政策も実施されています。これらの政策はまた、商業銀行が不動産市場への融資支援を強化し、不動産救済資金を効果的に活用するよう促すことの重要性を強調しています。 2023年7月に国務院が採択した「メガシティおよびスーパーシティにおける、都市内村落の再開発の積極的かつ着実な推進に関する指導意見」によると、メガシティやスーパーシティにおける、都市内村落再開発の積極的かつ着実な推進は、人々の生活向上、内需拡大、質の高い都市発展のために極めて重要です。これは、潜在的消費とともに、内需を刺激するという明確なシグナルです。 さらに、その後の中国共産党中央委員会政治局(政治局)の会議では、需給が大きく変化した中国不動産市場の新たな状況に対応するため、各都市の特性に応じて不動産政策を最適化し、政策ツールキットを十分に活用すべきであることが初めて示されました。その目的は、住民の堅実な住宅需要と、より良い住宅への欲求に対して、より良く対応し、不動産市場の着実かつ健全な成長を後押しすることです。 政治局会議はまた、もっと手頃な価格の住宅を建設・提供する努力をすること、都市内村落の再開発や通常および緊急用の公共インフラの建設を強力に推進すること、各種の遊休不動産の再生・改修を行うことを求めました。 さまざまなレベルにおいて、中央政府と地方自治体が、より高い水準の市場支援と、より多様な支援手段を備えた不動産施策を展開することが期待されます。 政策の進展 国家統計局が発表した2023年1月から6月までのデータによると、不動産市場の安定を図るこれらの多様な政策の実施により、全体的な下落傾向は緩やかになっています。 とは言え、不動産市場全般はまだ低水準にあり、市場の信頼感も完全には回復していません。 短期的には、不動産部門における債務リスクの防止と解決が、中心的な課題であることに変わりはありません。これにより、債務再編、破産更生、紛争解決、そしてこの機会を捉えての不動産会社への投資など、リーガルサービス市場にホットスポットやビジネスチャンスが生まれました。 一方、不動産業界の特性が「在庫に基づいた開発、産業化、金融化」へと進化し続ける中、不動産市場は、困難な問題にもかかわらず、変革とグレードアップのプロセスをたどることでしょう。こうした移行には、成長痛が伴うかもしれませんが、業界の長期的発展にはそれが不可欠です。 ZHONG LUN LAW FIRM 22-31/F, South Tower of CP Center 20 Jin He East Avenue, Chaoyang District Beijing100020, China 電話: +86 10 5957 2288 Eメール: beijing@zhonglun.com www.zhonglun.com Back to top インド インドの不動産投資へのナビゲーション インドでは、タウンシップ、住宅・商業施設、病院などのプロジェクトを含む建設開発部門で、最大100%までの外国直接投資(FDI)に対する(政府承認を必要としない)自動承認が認められており、2023年第2四半期には、それが最近のFDI総額の9%という大きな割合を占めています。 本稿では、FDI、不動産投資信託(REIT)、破産、ストラクチャードファイナンスなど、この活気あるセクターに対する現在の規制の枠組みを分析します。 建設におけるFDI 100%の FDI が認められているため、投資家はプロジェクトの完了時、あるいは道路、水道、街路灯、排水、下水道といった基幹インフラの開発後にイグジットすることができます。 各段階は、個別のプロジェクトとみなされます。FDI の各トランシェに関して計算される3年間の譲渡禁止期間の満了を条件として、投資家はプロジェクト全体が完了する前でも、その外国投資からイグジットして資金を本国に送金することができるのです。しかしホテル、観光リゾート、病院および教育機関への投資には、このイグジット規制は適用されません。 また、非居住のインド人から同じく非居住のインド人への譲渡で、投資の送還を伴わないものも、譲渡禁止期間や政府の承認なしに認められています。 ただし、農場建設、譲渡可能な開発権の取引、または土地や不動産の売買で利益を得る不動産事業に従事するインド企業に対しては、FDIが認められていないことに留意する必要があります。 タウンシップ、住宅・商業施設、道路または橋梁、REIT、教育施設、レクリエーション施設、都市・地域レベルのインフラなどの開発、および賃貸料やリース料など不動産譲渡に該当しない収入は、いわゆる不動産事業とはみなされません。 インド国内に支店または事業所を有する外国企業が、事業遂行のために不動産を取得しようとする場合は、「2019年 外国為替管理(非債務証券)規則」が適用されます。 これには、インド準備銀行(RBI)に対して所定の申告を行う必要があります。これをインド国内で受領した資金で支払うには、通常の銀行チャネルを通じて、インド国外からの対内送金、または NRE/FCNR (B)/NRO 口座からの引き落としによって行うことができます。 投資信託 不動産セクターにおけるもう一つの最近の動きは、個人投資家と機関投資家の双方がREITモデルを採用していることです。現在、5件のREITが登録されており、このうち3件が合計でグレードAのオフィス・スペースの11%を保有しており、今後このセクターは最大68%急上昇すると予測されています。 REITは、一般に指定スポンサー、運用会社、受託者、投資単位保持者で構成され、「1982年インド信託法」に基づく信託であるため、主としてインド証券取引委員会(SEBI)のREIT規則によって管理されています。 この REIT規則は、REIT資産の価値の80%以上が、完成済みで賃料および/または収益を生む不動産に投資されていなくてはならないと定めています。残りの20%は、建設中、または完成済みであるが賃料を生み出さない物件に投資されている必要があります。 投資家の利益を保護し、投資家が充分な情報を得て RIET投資の意思決定ができるよう、同規則では、登録評価人により、すべてのREIT資産の完全な評価を毎年行うなど、一定の定期的評価について定めています。このような評価報告書を受領した場合、それを15日以内に指定証券取引所、および投資単位保持者に提出することが義務付けられています。 破産および倒産 「2016年 破産倒産法」(IBC)は、破産や倒産の法律の既存の枠組みを整備し、破産と清算のプロセスを合理化したものです。 IBCは、企業債務者の債務不履行が発生した場合に、金融債権者、営業債権者、または企業債権者が破産処理手続を開始することを可能にしています。これは、破産処理手続開始申請書の提出から180日以内に解決されなくてはなりません。 IBCは、ステークホルダーである住宅購入者と不動産開発業者、双方の利害関係を伴うインドの不動産破産に対し、決定的な影響を与えてきました。住宅購入者にも、最近の法改正や最高裁判決によって、より大きな権利がもたらされました。 以前は、彼らの役割が「その他の債権者」としての認識に限定されていました。しかし2018年の法改正以降、住宅購入者は金融債権者として認められ、債務不履行に陥った不動産会社に対して、破産手続を開始する権利を有しています。この権利には、プロセス開始に必要な住宅購入者数の最低基準値が適用されます。 不動産開発業者にも、不動産会社の破産処理計画を模索・決定する際の、より大きな柔軟性が、インド破産倒産委員会によってもたらされました。2022年に更新された「法人に関する破産処理手続規則」では、債権者委員会は、法人債務全体に関する処理計画が受理されなかった場合でも、法人債務者の1件または複数の資産に関して、新たな処理計画を模索することができるようになりました。 処理専門会社は、企業債務者の資産の評価を最大化するためのマーケティング戦略に、予算を配分することもできます。この改正は、企業債務者の個々の不動産プロジェクトに特化した処理を可能にするもので、それらはプロジェクトの規模、開発タイプ、完成段階、立地などの要因によって変わります。 利益保護 IBCとは別に、貸手が債権を回収するためのもう一つの主な手段が、「2002年 金融資産の証券化および再建ならびに担保権の実行法」(SARFAESI法)によって規定されています。 債務者が有担保債務の返済を怠った場合、有担保債権者は当該債務者の口座を不良資産に分類し、担保権を行使して被担保資産を占有する手続を開始することができ、それは民事裁判に比べて、より早く債権回収するプロセスです。 借手に対しては、定められた期間内に債務を全額弁済するよう事前通知を送付する必要があり、弁済されなかった場合、SARFAESI法の規定に基づいて強制執行手続が開始されることがあります。 SARFAESI法が不動産開発業者、住宅購入者、銀行の間の金融契約を管理し、執行を促進する一方で、「2016年...
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不動産市場の地域比較: 中国

By Hao HanとShi Yi, Zhong Lun Law Firm
中国 インド 日本 マレーシア 中国の不動産市場は、2022年以降、継続的な下落傾向にあり、投資額も販売額も大幅に減少しています。土地のプレミアム率は過去10年間で最低ですが、競売や売却に出されている土地区画の競売不成立と撤退の合計率は、依然として高い水準にあります。 国家統計局が発表したデータによると、昨年、不動産開発会社が購入した土地の面積は、2021年比で53.4%減少しました。土地取引額は48.4%下落、住宅の新規着工面積は39.4%減少、商品住宅の販売面積は24.3%縮小、そして開発投資は10%収縮しました。 このように悲観的な業界背景に対するシステミックなリスクを防ごうと、中央政府は、「住宅は住むためのものであり、投機の対象ではない」という原則を守りつつ、不動産市場を安定させるための一連の法律、規制、政策をさまざまなレベルで導入してきました。 これらの措置は各都市に合わせて異なり、開発、建設、投資、融資、販売など多様な側面を網羅し、堅実な住宅需要とグレードアップした住宅需要の双方をサポートして不動産業界の安定を促進することを目標にしています。 主な取り組み 土地の供給と開発の最前線で次々に実施されている政策は、「住宅の供給、人々の生活、社会の安定を保証する」市場志向を標榜しています。これらの政策は、不動産開発会社が直面するリスクに対処するため、市場経済化と法の支配を優先し、プロジェクトの円滑な完成と引き渡しを保証するものです。 最高人民法院、住宅都市農村建設部、中国人民銀行が2022年1月に共同で公布した「プロジェクト建設のための商品住宅販売前資金の使用を確保するための人民法院の保全・執行措置の規制に関する通達」は、販売前資金の預託口座に関する保全・執行措置を実施する際には、比例原則を堅持し、誠実かつ理性的な執行を強化するよう求めています。 その目的は、建設会社に対する中間建設費の支払い遅延を防止することです。そうした遅延は、商品住宅プロジェクトの進行を妨げ、完成と引き渡しに悪影響を及ぼし、住宅購入者の権利と利益を損なう可能性があります。 その後、中国銀行保険監督管理委員会は、「商業銀行が発行する保証状による販売前預託資金の代替に関連する業務についての通達」を出しました。この通達は、預託された販売前資金の代替として、保証状を使用することを認めており、定評のある不動産開発会社がこれらの資金を効果的に活用することを可能にします。 さらに、上海、広東、四川、武漢、南京など、中国のいくつかの地域でも支援政策が導入されています。それらには、土地競売に参加するための履行保証の有効な形態として要求保証を認めること、開発会社の信用実績に基づいて売却前資金の預託枠を調整すること、流動性を向上させるために開発会社が所定の預託額以上の資金を引き出しての使用を認めること、などがあります。 一方、低迷する住宅販売を押し上げるための各種政策では、規制緩和が大きく取り上げられています。これらは、住宅購入のコストとリスクを軽減しつつ、合理的な住宅需要を満たすことに重点を置いています。 2022年、人民銀行と中国銀行保険監督管理委員会は共同で、「初めての住宅購入に対する新規個人住宅ローンの金利政策の動的調整に関する、長期的メカニズムの確立に関する通達」を発表しました。これは適格都市における、初めての住宅購入者向けの商業用個人住宅ローンの金利フロアの段階的引き下げを概説しています。 また同年、財政部と国家税務総局は「既存住宅売却後の新規住宅購入支援に関する個人所得税政策に関する公告」を発表し、既存住宅を売却してから1年以内に市場で新築住宅を購入した納税者は、既存住宅に支払った個人所得税の全部、または一部の還付を受けることができるようになりました。還付金額は、新居の購入価格と既存住宅の売却価格の差額に基づいて決定されます。 2023年、自然資源部と中国銀行保険監督管理委員会は共同で、人民と企業の便宜のために、不動産の「抵当権付譲渡」サービスを提供する協調努力を行う、という通達を発表しました。この通達は、抵当権付き不動産譲渡にプレミアムサービスを提供するための、部門間協力の必要性を強調しています。 最高人民法院の最新のガイダンスである「商品住宅購入者の権利保護に関する回答」は、住宅購入者の権利をさらに強化しています。これは、購入者が居住目的で商品住宅を購入し、住宅価格を全額支払った場合、購入者の物件引渡請求権が、建築費、抵当権その他の請求権のいずれにも優先することを定めたものです。 さらに、地方自治体は、住宅ローンによる中古住宅の取引の許可、住宅購入の制限の緩和または解除、不動産業者の手数料の上限引き下げ、取り壊しや再定住の対象となる既存住宅に対する金銭補償の補完である「住宅クーポン」政策の試験的実施など、さまざまな措置を実施してきました。 新開発モデル 投資と資金調達に関しては、不動産セクターの債務リスクを解決し、新たな開発モデルへの円滑な移行の促進に重点が置かれています。2022年、中国人民銀行と中国銀行保険監督管理委員会は共同で、「不動産市場の安定的かつ健全な発展のための金融支援の確保に関する通達」を発表しました。 これは、住宅供給を保証するための積極的な金融サービスを提供し、苦境にある開発会社が直面するリスクへの対処や、段階的な財務管理政策の調整、住宅リースに対する金融支援の強化などにおいて協力する必要性を強調したものです。 発展改革委員会、中国証券監督管理委員会、中国証券投資基金業協会などいくつかの部門も、都市開発、建設、運営への民間資本の参加を促す文書を発表しました。 彼らはインフラ分野での不動産投資信託(REIT)の試験的プログラムを推進し、REITの原資産の範囲を、手頃な価格の賃貸住宅や商業施設に拡大しています。こうした施策の目的は、投資の出口となる機会を創出することです。 河南省や安徽省などでは、定評のある開発会社が、資金調達のために債券を発行するのを支援したり、不良プロジェクトのM&Aを促進したりする地方政策も実施されています。これらの政策はまた、商業銀行が不動産市場への融資支援を強化し、不動産救済資金を効果的に活用するよう促すことの重要性を強調しています。 2023年7月に国務院が採択した「メガシティおよびスーパーシティにおける、都市内村落の再開発の積極的かつ着実な推進に関する指導意見」によると、メガシティやスーパーシティにおける、都市内村落再開発の積極的かつ着実な推進は、人々の生活向上、内需拡大、質の高い都市発展のために極めて重要です。これは、潜在的消費とともに、内需を刺激するという明確なシグナルです。 さらに、その後の中国共産党中央委員会政治局(政治局)の会議では、需給が大きく変化した中国不動産市場の新たな状況に対応するため、各都市の特性に応じて不動産政策を最適化し、政策ツールキットを十分に活用すべきであることが初めて示されました。その目的は、住民の堅実な住宅需要と、より良い住宅への欲求に対して、より良く対応し、不動産市場の着実かつ健全な成長を後押しすることです。 政治局会議はまた、もっと手頃な価格の住宅を建設・提供する努力をすること、都市内村落の再開発や通常および緊急用の公共インフラの建設を強力に推進すること、各種の遊休不動産の再生・改修を行うことを求めました。 さまざまなレベルにおいて、中央政府と地方自治体が、より高い水準の市場支援と、より多様な支援手段を備えた不動産施策を展開することが期待されます。 政策の進展 国家統計局が発表した2023年1月から6月までのデータによると、不動産市場の安定を図るこれらの多様な政策の実施により、全体的な下落傾向は緩やかになっています。 とは言え、不動産市場全般はまだ低水準にあり、市場の信頼感も完全には回復していません。 短期的には、不動産部門における債務リスクの防止と解決が、中心的な課題であることに変わりはありません。これにより、債務再編、破産更生、紛争解決、そしてこの機会を捉えての不動産会社への投資など、リーガルサービス市場にホットスポットやビジネスチャンスが生まれました。 一方、不動産業界の特性が「在庫に基づいた開発、産業化、金融化」へと進化し続ける中、不動産市場は、困難な問題にもかかわらず、変革とグレードアップのプロセスをたどることでしょう。こうした移行には、成長痛が伴うかもしれませんが、業界の長期的発展にはそれが不可欠です。 ZHONG LUN LAW FIRM 22-31/F, South Tower of CP Center 20 Jin He East Avenue, Chaoyang District Beijing100020, China 電話: +86 10 5957 2288 Eメール: beijing@zhonglun.com www.zhonglun.com
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不動産市場の地域比較: インド

By Hardeep Sachdeva、Ravi BhasinとAbhishek Awasthi,AZB & Partners
中国 インド 日本 マレーシア   インドの不動産投資へのナビゲーション インドでは、タウンシップ、住宅・商業施設、病院などのプロジェクトを含む建設開発部門で、最大100%までの外国直接投資(FDI)に対する(政府承認を必要としない)自動承認が認められており、2023年第2四半期には、それが最近のFDI総額の9%という大きな割合を占めています。 本稿では、FDI、不動産投資信託(REIT)、破産、ストラクチャードファイナンスなど、この活気あるセクターに対する現在の規制の枠組みを分析します。 建設におけるFDI 100%の FDI が認められているため、投資家はプロジェクトの完了時、あるいは道路、水道、街路灯、排水、下水道といった基幹インフラの開発後にイグジットすることができます。 各段階は、個別のプロジェクトとみなされます。FDI の各トランシェに関して計算される3年間の譲渡禁止期間の満了を条件として、投資家はプロジェクト全体が完了する前でも、その外国投資からイグジットして資金を本国に送金することができるのです。しかしホテル、観光リゾート、病院および教育機関への投資には、このイグジット規制は適用されません。 また、非居住のインド人から同じく非居住のインド人への譲渡で、投資の送還を伴わないものも、譲渡禁止期間や政府の承認なしに認められています。 ただし、農場建設、譲渡可能な開発権の取引、または土地や不動産の売買で利益を得る不動産事業に従事するインド企業に対しては、FDIが認められていないことに留意する必要があります。 タウンシップ、住宅・商業施設、道路または橋梁、REIT、教育施設、レクリエーション施設、都市・地域レベルのインフラなどの開発、および賃貸料やリース料など不動産譲渡に該当しない収入は、いわゆる不動産事業とはみなされません。 インド国内に支店または事業所を有する外国企業が、事業遂行のために不動産を取得しようとする場合は、「2019年 外国為替管理(非債務証券)規則」が適用されます。 これには、インド準備銀行(RBI)に対して所定の申告を行う必要があります。これをインド国内で受領した資金で支払うには、通常の銀行チャネルを通じて、インド国外からの対内送金、または NRE/FCNR (B)/NRO 口座からの引き落としによって行うことができます。 投資信託 不動産セクターにおけるもう一つの最近の動きは、個人投資家と機関投資家の双方がREITモデルを採用していることです。現在、5件のREITが登録されており、このうち3件が合計でグレードAのオフィス・スペースの11%を保有しており、今後このセクターは最大68%急上昇すると予測されています。 REITは、一般に指定スポンサー、運用会社、受託者、投資単位保持者で構成され、「1982年インド信託法」に基づく信託であるため、主としてインド証券取引委員会(SEBI)のREIT規則によって管理されています。 この REIT規則は、REIT資産の価値の80%以上が、完成済みで賃料および/または収益を生む不動産に投資されていなくてはならないと定めています。残りの20%は、建設中、または完成済みであるが賃料を生み出さない物件に投資されている必要があります。 投資家の利益を保護し、投資家が充分な情報を得てRIET投資の意思決定ができるよう、同規則では、登録評価人により、すべてのREIT資産の完全な評価を毎年行うなど、一定の定期的評価について定めています。このような評価報告書を受領した場合、それを15日以内に指定証券取引所、および投資単位保持者に提出することが義務付けられています。 破産および倒産 「2016年 破産倒産法」(IBC)は、破産や倒産の法律の既存の枠組みを整備し、破産と清算のプロセスを合理化したものです。 IBCは、企業債務者の債務不履行が発生した場合に、金融債権者、営業債権者、または企業債権者が破産処理手続を開始することを可能にしています。これは、破産処理手続開始申請書の提出から180日以内に解決されなくてはなりません。 IBCは、ステークホルダーである住宅購入者と不動産開発業者、双方の利害関係を伴うインドの不動産破産に対し、決定的な影響を与えてきました。住宅購入者にも、最近の法改正や最高裁判決によって、より大きな権利がもたらされました。 以前は、彼らの役割が「その他の債権者」としての認識に限定されていました。しかし2018年の法改正以降、住宅購入者は金融債権者として認められ、債務不履行に陥った不動産会社に対して、破産手続を開始する権利を有しています。この権利には、プロセス開始に必要な住宅購入者数の最低基準値が適用されます。 不動産開発業者にも、不動産会社の破産処理計画を模索・決定する際の、より大きな柔軟性が、インド破産倒産委員会によってもたらされました。2022年に更新された「法人に関する破産処理手続規則」では、債権者委員会は、法人債務全体に関する処理計画が受理されなかった場合でも、法人債務者の1件または複数の資産に関して、新たな処理計画を模索することができるようになりました。 処理専門会社は、企業債務者の資産の評価を最大化するためのマーケティング戦略に、予算を配分することもできます。この改正は、企業債務者の個々の不動産プロジェクトに特化した処理を可能にするもので、それらはプロジェクトの規模、開発タイプ、完成段階、立地などの要因によって変わります。 利益保護 IBCとは別に、貸手が債権を回収するためのもう一つの主な手段が、「2002年 金融資産の証券化および再建ならびに担保権の実行法」(SARFAESI法)によって規定されています。 債務者が有担保債務の返済を怠った場合、有担保債権者は当該債務者の口座を不良資産に分類し、担保権を行使して被担保資産を占有する手続を開始することができ、それは民事裁判に比べて、より早く債権回収するプロセスです。 借手に対しては、定められた期間内に債務を全額弁済するよう事前通知を送付する必要があり、弁済されなかった場合、SARFAESI法の規定に基づいて強制執行手続が開始されることがあります。 SARFAESI法が不動産開発業者、住宅購入者、銀行の間の金融契約を管理し、執行を促進する一方で、「2016年 不動産の開発・販売規制に関する法律」(RERA)は、不動産プロジェクトの建設、開発、マーケティングにおける割当先(購入者)とプロモーターの利益のバランスをとる主要な法律です。 RERAのもとでは、不動産プロジェクトのプロモーターと割当先とに、一定の責任が課されます。プロモーターには、認可された計画や不動産プロジェクトの完成スケジュールなどの関連情報を、割当先に開示する義務があります。 一方、割当先は、プロジェクト・プロモーターとの売買契約、および有担保債権者との融資契約に従って支払いを行い、債務不履行の場合は利息を支払う義務を負います。 「Union Bank of India 対 Rajasthan Real Estate Regulatory Authority 他」の件において、最高裁はラジャスタン高等裁判所の判決を支持し、RERAは特別な法律であり、紛争が発生した場合にはSARFAESI法の規定に優先するという原則を再強調しました。 ここで重要なのは、最高裁がさらに踏み込んで、有担保債権者である銀行がSARFAESI法の第13条4項の規定に頼る場合、RERA当局者は、銀行に対する住宅購入者からの苦情を受理する管轄権を有するとしたことです。 借入による資金調達 外国の法域からの貸手も、RBIが随時更新する「対外商業借入、貿易債権及び仕組債に関するマスター・ディレクション」(ECB枠組み)の対象となります。この枠組みは、融資が自動ルートまたは承認ルートに該当する場合に、借手と貸手が充足しなくてはならない一定の条件を定めています。 それに替えて、外国の貸手や投資家が利用するもう一つのルートは、「2008年 SEBI(債務証券の発行および上場)規則」に従って、上場か非上場かを問わず、インド企業の有担保非転換社債を引き受けることです。 担保権は、非居住インド人(NRI)に代わって担保を保有し、借手のコンプライアンスを監督する責任を負う債権受託者に、有利に設定されます。NRIである引受者は、外国ポートフォリオ投資家としてSEBIに登録されていなくてはなりません。 2021年の法改正に基づき、RBIは「2019年 外国為替管理(債務証券)規則」を改正し、外国人ポートフォリオ投資家(FPI)が、中期枠組みまたは任意留保ルートのもとでREITやインフラ投資信託が発行する負債証券に投資できるようにしました。ただしFPIが1件のREITで保有できる投資口の上限は10%とされています。 AZB & PARTNERS lot No A-8, Sector 4, Noida 201301 (NCR) National Capital Region,...
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不動産市場の地域比較: 日本

By 新家寛と原光毅, 山本直人
中国 インド 日本 マレーシア 民法は日本の不動産に適用される基本的な法律であり、土地と建物の所有権の分離を定めています。所有者は不動産を使用し、そこから利益を得、処分する権利を持っています。アパートやコンドミニアムなど、構造上区分され、複数の所有者により所有される建物の区分所有については、建物の区分所有等に関する法律が規定しています。 不動産の保有については、信託という仕組みも一般的に使用されています。信託では、信託受託者が法的所有者となり、実質的所有者が受益権を保有しますが、これは主に税制上の優遇措置を得ることを目的としています。外資系企業が日本の土地や建物を直接所有したり、信託受益権を保有したりすることは可能です。しかし、外資系企業は、法人税や源泉徴収税などの税務上の問題を考慮し、自己勘定で不動産を購入せず、不動産保有のための手段を確立する傾向があります。 賃借権は一般的なものであり、民法などの法律によって規定されています。賃借権者は一定の法的保護を受けることができます。不動産登記法は、不動産の所有権などの登記手続きを定めており、これには、所有権、不動産の利用に関する権利、担保権などを記録する不動産登記制度が含まれます。 所有権の種類 民法では、複数の団体や人が共同で不動産を所有することを認めており、この場合の所有権を共有持分権と呼んでいます。共有持分権者は、一定の制限に従い、共有契約に基づいて不動産の利用、管理、変更の方法について合意することができます。 建物の区分所有等に関する法律は、不動産の一部を構造上区分して、一つの不動産として利用することや、区分所有権その他の所有権の対象とすることを認めています。一般に、建物の管理および共用部分に関する規則は、同法に従って定められています。共有持分権や区分所有権を取得する際には、共有契約書やその他の規制を必ず確認する必要があります。 また、主に税務上の理由(取得税や登録免許税など)から、信託受託者と不動産所有者との間で締結される信託契約に基づく受益権という、ある種の所有権を保有することも一般的に行われています。受託者は、他方の個人または団体の利益のために不動産の所有権を保有します。 また、民法は、不動産の利用に関して、賃借権と地上権についても規定しています。借地権は最も一般的なタイプの土地利用権であり、借地借家法が適用されます。同法は、借地人に対する法的保護についても規定しています。たとえば、標準的な賃借契約は、賃貸人に正当な理由があり、賃借人に少なくとも6カ月前に解除の通知をしない限り、解除することはできません。 一方、定期賃借契約は、同法に基づく一定の手続きを満たすことを条件に、正当事由なしに解除することができます。たとえば、賃貸人は、契約の締結に先立ち、賃貸借が更新されない場合の具体的な条件について、書面を交付して説明しなければなりません。 同法は、建物賃貸借の場合は賃借人が建物の占有を取得した時点で、土地賃貸借の場合は建物の所有権が登記された時点で、賃借権が発生すると認めています。登記料が必要となるため一般的ではありませんが、賃借権を登記することもできます。 不動産の所有権や地上権に「根抵当権」を含む抵当権を設定することは可能であり、通常行われています。抵当権が設定されても、必ずしも所有権が移転するわけではありません。当事者は、単純な合意と登記によって抵当権を設定することができます。特に留意すべき点として、抵当権を設定する当事者は、自身が処分権限を有することを確認すべきであることが挙げられます。 抵当権者は、他の債権者よりも先に自身の債権の弁済を受ける権利を持ちます。同一不動産に複数の抵当権が設定されている場合、優先順位はその登記が行われた順序に従います。抵当権は、抵当地上の建物を除き、基本的に対象不動産の不可分の部分を対象としています。 抵当権の実行には、競売によって担保権を行使する担保不動産競売と、不動産からの収益を被担保債権の弁済に充当して担保権を行使する担保不動産収益執行があります。 民事執行法に基づく不動産担保権の行使は、所定の書類がすべて提出されなければ開始されません。 所有権の構造 外資系企業が日本の土地や建物を直接所有することは可能ですが、会社法に基づいて設立された株式会社(KK)や合同会社(GK)などの日本で設立された法人を通じて所有する方法が一般的です。KKは「stock company(株式会社)」と翻訳されることが多く、一方、GKは通常、「Japanese limited liability company(日本の有限責任会社)」と翻訳されます。 不動産金融市場では、二重課税を避けるため、商法に基づく匿名組合(TK)契約や、資産の流動化に関する法律に基づく特定目的会社(TMK)契約を締結した上で、GKを利用するのが一般的です。 どの構造が適切かを判断するには、規制(特別目的会社の種類や会社の資産の種類に応じて、異なる規制がスキームに適用される)、明確な税務意見書の必要性、管理コスト(TMK構造を使用した場合、コストが高くなる)などの複数の要素を検討する必要があります。TK契約は二重課税の回避を認めていますが、日本の法律には明確に規定されておらず、この点に関する法的見解を示すことは容易ではありません。 GKは、1つの主体を社員とし、1人の個人を職務執行者に任命するだけで設立できるため、ガバナンスの面でより柔軟性と簡易性に優れています。一般社団法人(ISH)では、定款に基づき一旦選任された役員について、株主が変更や選任をすることが認められていません。そのため、株主の介入を受けない会社として、ガバナンスの中立性確保や倒産防止を目的として多く利用されます。 TMKについては、GK-TK構造とは異なり、特別な税務上の取り扱いの要件が税法で明確に規定されています。したがって、これらの要件を充足すれば、投資家は二重課税を回避することができます。TMKは、KKの普通株式と同様の特定株式と優先株式の2種類の株式を発行することができます。 優先株主の議決権には制限があります。資産の流動化に関する法律では、ガバナンスの観点から、取締役1名と監査役1名を置くこと、具体的な資産流動化計画を作成し、当局に提出すること、計画に変更があった場合は報告することが義務付けられています。 法務デューデリジェンス 不動産所有権の移転または取得は、不動産登記法に従って登記されない限り、第三者に対して主張することはできません。新規取引に関する登記申請書が提出されると、申請手続きが完了するまで登記済証は発行されません。したがって、取引前に対象不動産の登記を確認するのが一般的な慣行です。 登記内容に不備がないことを確認した上で申請しなければなりません。登記簿に記載されていない第三者が真の法的所有者である、あるいは所有権を有していると裁判所が判断するかもしれないというリスクは、わずかであるものの、あり得ます。登記の要件は厳格であるため、このようなリスクが現実になる可能性は低いとはいえ、基本的に法務デューデリジェンスは、リスクを軽減するための十分な方法だと考えられています。したがって、日本では権原保険は一般的ではありません。 法律顧問は通常、現地でのデューデリジェンスを行わないので、地域の規制、建築や建設、環境、都市計画や用途地域、実際の境界に関する事項など、実地のデューデリジェンスが必要な問題は、デューデリジェンスの対象に含まれないことになります。上記の事項を対象とする鑑定書、技術報告書、物件報告書の作成を依頼することもできます。 実務上、顧問弁護士は一般的に、対象不動産に関する重要な契約書、報告書、書類、証明書などを検討し、購入者が当該不動産を取得することを妨げるような重大な問題がないかどうかを確認します。 デューデリジェンスの範囲には、対象不動産の権利関係(売主が所有者であるか、竣工しているか、担保権が存在するか)、テナントと賃貸借契約、不動産に関するその他の契約(不動産管理契約など)、不動産に適用される規制、環境問題、境界、訴訟などが含まれます。 対象物件のコストや特性に応じて範囲は異なりますが、登記事項証明書の確認は不可欠です。報告書などに何らかの問題が見つかった場合には、法律顧問が法的観点から詳細に調査します。 デューデリジェンスは一般的に以下の手順で進められ、最終報告書が提出されるまでに1カ月~2カ月を要します。まず、法務デューデリジェンスの範囲を決定する必要があります。対象物件に関する情報パッケージが、秘密保持契約または意向表明書に従って購入候補者に提供されます。場合によっては、売り手と購入候補者の間で質疑応答の時間が設けられることもあります。購入候補者は、法務デューデリジェンスの結果に基づいて、取引を進めるかどうかを決定します。 NISHIMURA & ASAHI (GAIKOKUHO KYODO JIGYO) Otemon Tower, 1-1-2 Otemachi, Chiyoda-ku Tokyo 100-8124, Japan 電話: +81 3 6250 6200 Eメール: info@nishimura.com  www.nishimura.com
real estate markets regional comparison Malaysia

不動産市場の地域比較: マレーシア

By Lim Yoke WahそしてZach Shaw Ke-Wei,Halim Hong & Quek
中国 インド 日本 マレーシア 工業団地への投資 マレーシアは新産業マスタープラン(NIMP 2030)を発表したばかりで、産業開発のリーダーとして国の軌道を推し進め、富の創出への国内連携を拡大し、グローバル・バリューチェーンを強化することを目指しています。 2023年9月1日に発表された NIMP 2030 は、ミッション指向のアプローチを採用し、政府が推進しようとする21の分野を特定しています。 その中には、航空宇宙、電気・電子、デジタル・ICT、食品加工、医療機器、製薬、自動車、製造業、グローバル・プロフェッショナル・サービス、ゴム及びパーム油製品などがあります。 なぜマレーシアなのか? 多くの利点がある中でも、マレーシアは東南アジアの戦略的位置にあり、世界につながる経済域で、広範な地域的なパートナーシップとグローバルな貿易上のつながりによって補完されています。 ASEANの玄関口であるマレーシアでは、現在、地域間・二国間あわせて14以上の自由貿易協定(FTA)を締結しています。マレーシアはまた、ASEAN加盟10カ国と地域FTAパートナー5カ国が参加する、世界最新で最大の貿易圏である「地域的な包括的経済連携協定」(RCEP)にも署名しています。 マレーシアはビジネスに適した国際的なデスティネーションとしての評判も確立しており、現在、50カ国超から5000社を超える外資企業が進出しています。それらの企業を後押ししているのは、経済および規制上の枠組みと、競争力のあるビジネスの迅速な確立を保証する積極的な支援政策です。 この強固な金融インフラ、円滑なビジネス・エコシステム、有利なビジネス促進政策を活かして、マレーシアは著名な多国籍企業の地域的・世界的ハブになっています。その中には、ファーウェイ、ネスレ、インテル、シャープ、ブラウン、フォルクスワーゲン、BMWといった世界的な製造大手も名を連ねています。 マレーシアには、自由貿易を促進し、主要なビジネス・インセンティブを提供する、有利なインフラと投資規定を備えた5つの経済回廊があります。すなわち、イスカンダル・マレーシア、東海岸経済地域、北部経済回廊地域、サバ開発回廊、およびサラワク再エネ回廊です。 インフラとコネクティビティ マレーシアはまた、特定工業団地、専門工業団地、自由工業区など500を超える工業団地を有しており、インフラストラクチャーの継続的な開発とアップグレードに取り組んでいます。これらを補完しているのは、通信技術の拡大、高速道路網の成長、効率的な港湾、そして定評ある国際空港です。 クラン港とタンジュン・ペレパス港(PTP)は、世界海運評議会による世界のコンテナ港トップ20にランクされており、クラン港は12位であり、また PTP は地域の積み替えのハブになっています。 6カ所の国際空港のほかに、16の国内空港、18の飛行場があり、増大する旅客需要に対応し、主要な貿易と航空のルートを支えています。 教育と訓練 マレーシアは教育に多大な投資を行っており、教育への公的支出総額のGDP比は、アセアン諸国中でトップです。産業界で即戦力になる人材の育成に向けた政府の努力は、INSEAD大学、グーグル、アデコがまとめた「グローバル人材競争力指数 2022」において、同国が133ヵ国中45位に順位を上げたことにも反映されています。 民間分野向けの産業訓練も、人材育成基金(HRDF)によって促進されています。この基金に拠出している製造業やサービス業の会社は、自社の労働者の訓練費用を負担する助成を受けることができます。 さらに、人的資源省の下にある国家職業訓練評議会は、すべての訓練提供者のために、職業訓練および産業訓練プログラムの包括的システムの計画と開発のコーディネーションにあたっています。 同評議会はまた、国家職業技能基準(NOSS)の開発も継続しており、これまでに800を超える修了証書、卒業証書、高度卒業証書の資格を取り扱っています。 法規 工業用や製造業用不動産の所有権と取引の記録には、トーレンス制度が採用されています。所有権の登録は、その文書に名前が登録されている所有者に対して保証されます。外国人所有地が国内法によって「工業」のカテゴリーに該当する場合、その土地は工業目的にのみ使用されなくてはなりません。 具体的には、工場、作業場、鋳物工場、倉庫、埠頭、桟橋、鉄道、その他の建物、設備の建設・維持管理であり、それらが製造、製錬、発電または配電、物品または商品の組立・加工・保管・輸送または流通、その他、国家当局が定める目的の一つ以上に使用または関連するもの、と指定されています。 土地の開発を計画している所有者は、その使用が、国家当局によって課されたカテゴリー、明示的条件、黙示的条件、利益制限に違反しないことを確認する必要があります。 一方、「1976年 都市および国土計画法」は、都市および国土計画を管理・規制しています。計画の許可を得ていない開発は、許されません。 「1974年 環境品質法」は、公害を防止、軽減、管理し、産業および非産業活動から生ずる潜在的な廃棄物や汚染物質から、環境を保護します。 「1975年 産業調整法」は、製造業の秩序ある発展のための調整を行い、製造活動に許可を与えるものです。 外国人による土地取得 不動産を取得しようとする場合、外国人投資家は以下を考慮することが推奨されます。 その土地の所在する州によって、最低基準価格が定められています。他の要件を満たす前に、該当する州の最低基準価格を必ず確認してください。 その閾値(threshold)は、不動産購入の最低価格が各州によって定められていることも意味します。外国人に対する閾値は州によって異なり、州当局者が適切と考える状況に応じて、随時改定されます。 一例として、外国人がクアラルンプールで土地を取得する際の最低基準額は、現在、100万マレーシア・リンギ(21万3000米ドル)です。 国の同意も必要で、それは国内法第433B条に規定されています。外国人購入者は、指定弁護士を介して申請書と手数料を提出する必要があります。 州当局はすべての書類を審査した上で承認を付与しますが、非マレーシア人の購入者に対しては、承認の条件として一回限りの税を課すこともあります。このような課税は現在、ペナン州、マラッカ州、パハン州、ジョホール州で課せられており、税率は各州で異なり、また随時改定されます。 価値が2000万リンギ以上の不動産を直接取得し、その結果ブミプトラ(先住民)利害関係者、および/または政府機関が保有する不動産の所有権が希釈化する場合、それらすべての不動産取得については、経済計画ユニットの承認が必要となります。この要件は、非ブミプトラ利害関係者が株式取得を通じて間接的な不動産取得を行い、その結果として、ブミプトラ利害関係者、および/または政府機関の所有する会社の資産総額の50%超を所有することで支配権の異動が生じ、かつその不動産価値が2,000万リンギを超えるようになった場合にも、適用されます。 リースおよび借地権 国内法では、「登記が免除される借地権」を3年を超えない期間の借地権と定義し、リースの場合は3年を超えるが、土地の全部については最長99年、土地の一部については最長30年に制限するとしています。 占有の自動的な保証はありませんが、当事者は、期限満了前にリースまたは借地権を更新するための行使可能なオプションについて交渉し、合意することができます。 登録リースは、所定の書式によって登記しなくてはなりません。不動産や土地のリースを希望する外国人は、国の同意を得る申請を行う必要があります。 要点 マレーシアは、東南アジアにおける戦略的立地にあってグローバル経済とつながり、多数の貿易協定を締結しており、ビジネス環境も友好的であることから、工業団地への投資に数多くのメリットがあります。 強固な金融システム、協力的な政策、そして多国籍大企業の存在は、産業投資の一大デスティネーションとしての同国の地位を裏付けています。 マレーシアは先進的なインフラや卓越したコネクティビティ、そして教育と産業訓練へのコミットメントを大切にしており、投資家は熟練した労働力と一流の物流機能を確保することができます。 このようなダイナミックな状況にあって、マレーシアはチャンスが集まる所へと導く灯台であり、投資家がその野心的な工業用不動産の新規開拓に参加するよう招いているのです。 投資家には、法と規制を遵守することにより、この国の産業変革において自らの地位を確保し、この国の成長と繁栄に貢献するとともに、本当に「本当のアジア(Truly Asia)」の体験を享受していただくことができます。 HALIM HONG & QUEK (HHQ) Office Suite 19-21-1, Level 21, Wisma UOA Centre 19 Jalan Pinang, 50450 Kuala Lumpur 電話: +603 2710 3818 Eメール: hhqkl@hhq.com.my www.hhq.com.my
H2H-Arbitration-Hong-Kong-India-Japan-Philippines-Singapore

各国・地域の仲裁の現状の比較

数多くの国や地域の発展に伴って、仲裁ビジネスをめぐる競争は激化しています。 香港 インド 日本 フィリピン シンガポール 香港 2023年、香港はパンデミックがもたらした困難を乗り越え、世界有数の仲裁ハブとしての地位を保ちました。国際貿易の再開とグレーターベイエリア(粤港澳大湾区)内外へのアクセスの改善に加え、アジア太平洋地域における地域的・国際的紛争の解決サービスの中心として香港が発展していくために、地方・中央政府が提供している支援を背景に、香港では国内・地域的・国際的な紛争を仲裁によって解決するための環境の向上が続いています。 香港が仲裁の誘致に力を入れているという評判は、仲裁に親和的な司法、UNCITRALモデル法が適用される地域としての地位、ならびに法令や制度に関するさまざまな発展によって支えられています。 本稿では、結果と結び付いた手数料体系、多段階紛争解決条項の解釈に対するアプローチについての終審法院の説示、中国の裁判所の暫定措置の広範な利用可能性という3つの特徴と、これらが香港の仲裁実務に与える影響について考察します。 結果と結び付いた手数料 仲裁に関する結果と結び付いた手数料体系(Outcome Related Fee Structures)についての規則(ORFS規則)が、2022年12月に発効しました。これにより、弁護士とクライアントは、仲裁の結果を条件とする手数料の取り決ができるようになりました。 これは、第三者による訴訟資金の提供(champerty)や訴訟維持が依然として違法行為だとされていることが示すとおり、香港の伝統的で保守的な訴訟資金調達とはかけ離れています。 ORFS規則には、条件付き手数料契約、損害賠償額に基づく契約、ハイブリッド型の損害賠償額に基づく契約の3種類の手数料体系が規定されています。その役割と長所については、Asia Business Law Journalの2022年5・6月号に掲載された専門家による論説記事ですでに検討されているため、本稿で再び論じる必要はありません。 しかし、特に興味深いのは、ハイブリッド型の損害賠償額に基づく契約において、手数料の一部をクライアントの勝訴に依存するとの追加条件です。 ORFS規則では、ハイブリッド型契約において、顧客が金銭的利益を得る場合、または金銭的利益が得られない場合のそれぞれについて、支払い額を定めるよう求められています。クライアントが敗訴した場合には、クライアントが支払う必要があるのは、上限額と呼ばれる回収不能費用の最大50%に限られます。これは、ORFSについての合意がなされたか否かにかかわらず、請求されたであろう標準的な弁護士費用に相当します。 一方、クライアントが勝訴したものの、契約のうち損害賠償額に基づく部分から生じる手数料が回収不能費用を下回る場合には、弁護士は、代わりに上限額、すなわちクライアントが敗訴した場合に支払われるはずだった回収不能費用の額を取得することを選択できます。 OFRS規則、特にハイブリッド型の損害賠償額に基づく契約に関する規則は、待ち望まれていた追加条項です。これにより多様な規模の国内外の企業が仲裁を利用しやすくなるばかりか、柔軟でありながら体系的な手数料の取り決めが可能になります。クライアントが勝訴した場合、弁護士は上限額と損害賠償額に基づく契約による支払額のどちらかを選択できるため、発生した手数料の回収が容易になります。特に、複雑な請求が複数含まれる仲裁の場合、一方当事者が一部にのみ勝訴し、裁定額が当初の請求額を大幅に下回る可能性は十分にあります。 OFRS制度では、弁護士が上限額と損害賠償額に基づく契約による支払額のいずれかを選択して請求することができます。これにより、クライアントのニーズや要望と、業務に対する十分な報酬を確保する必要性との間での均衡を取りやすくなります。複数の請求事項が関わる複雑な仲裁では、上記の点が特に重要であることは明白です。 多段階条項 香港の仲裁への協力的なアプローチには、裁判所も寄与しています。2023年のC対Dの裁判において待ち望まれていた終審法院の判決は、コモンローの最高裁判所が初めてこの種の事案で判断を示したものです。判決では、仲裁契約における多段階または連鎖的紛争解決条項の解釈と理解について、妥当なアプローチが示されました。 C対Dの事案では、仲裁条項に、紛争が「当事者による書面でのかかる交渉の要請から、60営業日以内に友好的に解決できない場合は」、紛争は仲裁に付されると規定されていました。仲裁裁判所は、当事者は交渉要件を満たしたとみなし、被申立人に有利な裁定を下しました。控訴人は、仲裁裁判所は管轄権を欠いているという理由により、裁定の取り消しを求めました。 終審法院における争点は、仲裁契約に多段階紛争解決条項が含まれる場合、その前提条件の充足に関する仲裁裁判所の判断が、UNCITRALモデル法第34条(2)(a)(iii)に基づく裁判所の管轄の対象なのか、という問題でした。 裁判所は、全員一致で控訴を棄却しました。その理由は、契約の適切な解釈として、両当事者は仲裁の前提条件の充足に関する紛争を、仲裁裁判所に付託して審議することを意図していたと判断できるというものでした。そのため、控訴人は34条(2)(a)(iii)を根拠として、裁定の取り消しを求めることはできませんでした。 Roberto Ribeiro裁判官は、裁判所が仲裁の前提条件を見直す管轄権を有するためには、裁判所がそのように結論付ける前に、仲裁契約において明確な文言で定められていなければならないと判示しました(Andrew Cheung裁判長、Joseph Fok裁判官、Johnson Lam裁判官も同意見)。仲裁の前提条件は、契約の目的と当事者の意図の解釈に従い、裁判所の管轄ではないと推定されます。 また、裁判官の過半数は、管轄権と受理可能性を区別することが、多段階紛争解決条項の解釈に役立つと判示しました。端的に言えば、この区別とは、裁判所に対する異議(管轄権の問題)と、請求に対する異議(受理可能性の問題)の違いに基づくものです。 問題となった異議は、単に、請求が仲裁に付託された時期が尚早だったという点についての異議であり、この問題について決定し裁定を下す権限が裁判所にあることに同意しないという異議ではありませんでした。とはいえ、このような条項は判所の管轄の対象ではないと推定されるとされている以上、当事者が明示的な同意によって、裁判所が管轄権を有しない事項(多段階条項など)を、裁判所が管轄権を有する事項に変更することは可能です。これは仲裁条例の第3条(2)により具体化されています。この規定では、当事者は紛争がどのように解決されるべきかについて自由に合意することができ、裁判所は明示的に規定された紛争の仲裁にのみ、関与するべきであるとされています。しかし、このような裁判所の審査範囲の拡大は「通常の商業的期待に反する」とされました。 この判決は、管轄権についての紛争と受理可能性についての紛争の区別を明確に維持しました。この見解は、仲裁当事者の意図の確認についての確立されたアプローチを根拠としています。裁判所が仲裁に関する紛争への関与を検討する前に、商業的確実性の重要性と意思表示の明示の必要性を強調しているのは正当なことです。さらに重要なのは、この判決が、商業関係の当事者が香港の裁判所に通常期待し得ることを明らかにしていることです。裁判所は仲裁手続きに協力する用意はありますが、仲裁に関する紛争には限定的にしか関与しません。 結果としてこの判決は、香港が、商業関係の当事者が最初に締結した契約に基づき、信頼できる確実性をもってビジネスや紛争解決を行える、世界有数の仲裁ハブであるという評価の形成に貢献し、その評価を確固たるものにしました。 暫定措置 今年はまた、中国の裁判所が出す暫定措置の利用拡大について、進展がありました。この端緒となったのは2019年、中国本土および香港特別行政区の裁判所による仲裁手続きの援助のための、裁判所命令による暫定措置の相互支援に関する取り決め(暫定措置についての取り決め)の締結です。香港で仲裁を行う当事者に対する資産保全命令、行為保全命令、証拠保全命令の利用が、2023年には増加しています。 2023年5月、アジア・アフリカ法律諮問委員会(AALCO)の香港地域仲裁センターは、香港仲裁人協会を含む15の異なる組織と覚書を交わしました。これは、香港と世界の仲裁制度との協調と統合がさらに進むことを意味しています。 AALCOは香港司法省が暫定措置の取り決めに基づく適格機関として承認した機関であるため、AALCOの仲裁を利用する当事者は、中国の裁判所に直接、暫定措置を求める申し立てを行うことができます。 アジア太平洋地域とアフリカ諸国との経済関係の強化が進んでいることを踏まえると、AALCOが、一帯一路構想に起因するビジネスや投資に関する紛争を含め、アジアとアフリカの企業間に生じる商事紛争の解決に利用できる、利便性の高いプラットフォームとなることが期待されます。 結論 このような法令面・制度面の発展を受け、今後も香港の仲裁環境は向上していくと期待されます。 仲裁の利用増加に向けた政府の継続的な支援と、世界各地の新興経済国との商業関係の発展を背景に、香港特別行政区は、内外の多様な業界の商業関係の当事者にとって先進的で信頼性が高く、利便性の高い紛争解決センターとしての役割を十分に果たすことができる態勢にあります。 18LC Rooms 1808–09, Tower One, Lippo Centre 89 Queensway, Admiralty, Hong Kong 電話: +852 3795 5636 Eメール: info@18LC.com www.18lc.com トップに戻る インド インドは、紛争解決の代替的メカニズムとして仲裁を推奨する措置を講じてきており、1996年に仲裁調停法(以下「仲裁法」)を制定してからは、より効率的で安全な仲裁プロセスを促進しています。同法には、2015年と2019年に大幅な改正が行われました。 裁判所もまた、判決を通じてこの目標を推進する上で、重要な役割を果たしてきました。しかし、裁判所はほとんどの場合において、こうした主義を推進してきましたが、時折、相反する判決が下されて、仲裁法の改正を引き起こすという後退もありました。 本稿では、仲裁合意の印紙貼付に関する最高裁判決、仲裁人選任段階における裁判所の調査範囲の限定に関する最高裁判決、そして仲裁における第三者資金提供に関する高裁判決という、最近のインドにおける3件の司法判決に焦点を当てます。 印紙税契約 NN Global Mercantile対lndo Unique Flame & Anrの件では、仲裁合意を含む契約書に、インド印紙税法(1899年)に基づく印紙税が支払われていなかったため、最高裁判所が最近下した判決は、かかる契約書によって裁判所が仲裁人の選任について決定を行うことはできないとしました。 これにより裁判所には、仲裁合意について決定を行う前に、該当する書類に適切な印紙税が支払われていることを確認する必要が生じました。最高裁は、実体法(この場合はインド印紙税法)の運用によって強制力を持たない契約は、インド契約法(1872年)のもとでは有効な契約にはならないとしました。 この決定は、裁判所による審判機関の選任を遅らせるために利用されるのではないか、という不安感が広がるなど、その誤用の可能性と影響に関して、仲裁界に懸念を生じさせています。もう一つの懸念は、原契約に印紙が貼付されていなかった、あるいは印紙添付が不十分であったという理由で、裁定に対する当事者の異議申立てが助長されることです。 外国人投資家は通常、インドの実体法を知らず、契約の執行可能性をインド側の取引相手に委ねることが多いため、ここに危険信号がついたことになります。この不法性が是正されるまで、契約書に印紙が貼付されていないという事は、仲裁手続を開始する際のアキレス腱と言うべき弱点になります。これに関しては、印紙の事後貼付が罰金の対象となるばかりか、長く煩雑な手続を要する可能性があるのです。 この判決は、現在進行中の仲裁への影響について何ら見解を示していませんが、インド司法当局は、同判決が導く可能性のある幾つかの法的障害をいち早く認識し、それに対処しています。 直近では、7月4日にデリー高裁で開かれたArg Outlier Media Private対HT Mediaの裁判で、裁定債務者は、NN...
Philippines arbitration landscapes

フィリピンにおける仲裁の現状

By Jose Martin R Tensuan, Antonio Eduardo S Nachura Jr と Maria Celia H Poblador, ACCRALAW法律事務所(マニラ首都圏)
香港 インド 日本 フィリピン シンガポール   最近の法学の発展を受け、フィリピンの仲裁実務はさらに充実してきました。このような発展は、仲裁手続きの完全性、有効性、合理性を確保するために不可欠な法的・政策的原則に基づいています。 フィリピンでは、立法府と裁判所が仲裁に対して、継続して明確に親和的な姿勢を取っており、仲裁は、成長の続く活発な法務分野になっています。このことは、フィリピンの現行の仲裁法および仲裁手続き規則からも明白です。これらはすべて、世界で策定され、実践されている主要原則に合致しています。 概括すると、フィリピンには、回復・成長を続ける経済によって支えられ、法理論により補完される法的・政策的枠組みが備わっており、これによりフィリピンは、当地域において、仲裁と裁判外紛争解決における競争力のあるハブとしての地位を確立しています。 当事者自治は依然として最も重要 Colmenares対Duterteの裁判(2022年)において、フィリピン最高裁判所は、フィリピン政府が中国輸出入銀行と締結した、特定の融資契約を対象とする仲裁契約に規定された法および裁判地の選択条項の有効性を認めました。 この条項には、融資契約、ならびに当事者それぞれの契約上の権利および義務は中国法に準拠し、それに従って解釈されること、また、融資契約に起因するいかなる紛争も、中国国際経済貿易仲裁委員会または香港国際仲裁センターが所管する仲裁において、それぞれの規則に基づいて解決されると規定されていました。 一部の特別利益団体が、この条項はフィリピンにとって著しく不利な内容になっており、国家は独立した外交政策を追求しなければならないという憲法上の指針に反していると、激しく非難しました。この指針では、フィリピンは他国との関係において、特に国家主権と国益を重点的に考慮するよう求められています。 この問題の解決に当たり、最高裁判所は当事者自治という仲裁の基本原則に関する条項を支持しました。最高裁判所は、商事契約に関する紛争の仲裁は「私人によって進められる、純粋に私的な裁定システムであり、有効で拘束力があり、執行可能であると常に認識されてきた」ものであり、仲裁契約は自由に解釈されるべきであり、それらの効力を認める解釈を採用すべきである、と判示しました。 また、外国の要素を含む契約については、lex loci intentionis(当事者が意図した法)の原則に従い、契約当事者の法の選択が尊重されると付言しました。最終的に裁判所は、当該条項はフィリピンの法律、道徳、公序良俗に反するものではなく、特別利益団体が主張する憲法違反の発生は、融資契約に規定された準拠法と紛争解決メカニズムが、フィリピンに実際の不利益をもたらしたことを証明できない以上、推測の域を出ないと判断しました。 手続きへの参加の不適用 Lone Congressional District of Benguet Province対Lepanto Consolidated Mining Company and Far Southeast Gold Resourcesの裁判(2022年)において、最高裁判所は、仲裁契約の当事者ではない者が仲裁手続きに参加できるか、あるいは仲裁手続きの結果である裁定の承認や取り消しに関する司法手続きに参加できるかという問題について判断を示しました。 1990年にフィリピン政府と、ある鉱山会社数社の間で、ベンゲット州で採掘事業を行うための鉱産物分配契約が締結されました。契約の満期到来に先立ち、鉱山会社は25年を契約期間とする契約更新に関心を示しました。 しかしフィリピン政府は、更新するためには、まず暫定的に制定された先住民族権利法(IPRA)に基づく手続きを実施する必要があると主張しました。鉱山会社は、この新たなプロセスの適用を非難し、仲裁手続きを開始しました。仲裁廷は鉱山会社を支持する裁定を下しました。しかし、フィリピン政府の申し立てにより、現地の裁判所によってこの裁定は最終的に取り消されました。 この事案がフィリピン控訴裁判所で審理されている間に、地方政府の構成単位の一つであるベンゲット州は、IPRAによって保護されている住民の代表であり、鉱産物分配契約の更新によって影響を受ける立場にあるとして、手続きに参加する許可を求めて申し立てを行いました。控訴裁判所は第一審裁判所の判決を破棄しましたが、ベンゲット州の手続きへの参加を認めませんでした。 手続きへの参加に関する問題の解決に当たり、最高裁判所は、フィリピンの仲裁法および手続規則、特に裁判外紛争解決に関するフィリピン裁判所特別規則(ADR特別規則)には、仲裁契約の当事者以外の者が参加する方法は規定されていないと判示しました。 ADR特別規則の特定の規定は、通常の裁判手続きに適用される参加に関する規則の仲裁への補充的適用、あるいは仲裁に関連する裁判手続きへの適用でさえも認めていません。 仲裁手続きに参加する方法が設けられていないことは、フィリピンの仲裁法および規則の目的、すなわち、紛争解決における当事者自治、または当事者が任意に取り決めを行う自由を尊重し、紛争を迅速かつ効率的に解決し、訴訟の濫用を抑制するという目的に合致しています。 相互に対等な機関 ASEC Development and Construction Corp対Toyota Alabangの裁判(2022年)では、1件の建設契約と仲裁契約に関する紛争が2カ所の仲裁裁判所で審理され、それぞれ別の建設仲裁手続きを経て、2つの相反する仲裁裁定が下されたという事案が審理されました。 この事案の当事者は、自動車販売店のショールームの建設契約を締結していました。所有者が請負業者の作業範囲から、特定の建築工事を除くよう求めましたが、これに伴い契約価格の減額が生じるため、請負業者がこれに異議を唱え、当事者間で紛争が生じるに至りました。 請負業者は、フィリピン建設業仲裁委員会(CIAC)において仲裁手続きを開始しました。CIACは、フィリピン法において、建設に関する仲裁・紛争に対して原管轄権および専属管轄権付与されています。 仲裁は第1仲裁裁判所で行われ、請負業者に有利な最終裁定が下されました。所有者はこの結果を受け入れず、控訴裁判所に司法審査を求めました。 この控訴の係属中に、所有者は遅延を理由として建設契約を解除しました。このため、請負業者は再びCIACで仲裁手続きを開始しました。今回は、未払いとなっている工事進行基準に基づく請求の支払いを受ける権利が主な争点になりました。 その結果、第2仲裁裁判所は所有者を支持する判決を下しました。そして、第2仲裁裁判所は、所有者が除いた作業の評価についての、第1仲裁裁判所の事実認定を実質的に覆しました。その結果、請負業者はこの事案を控訴裁判所に上訴しました。 これらの控訴は控訴裁判所で統合され、最終的に、除かれた作業の問題について、所有者に有利な判決が下されました。 請負業者はさらに上訴し、最高裁判所は、第2仲裁裁判所が下した最終裁定を、第1仲裁裁判所がすでに解決していた、除かれた作業の問題に対して第2仲裁裁判所が判断した部分について、取り消しました。 最高裁判所は、2つの仲裁裁判所は相互に対等な機関であり、どちらの仲裁裁判所も、他方の仲裁裁判所が以前に解決した問題について、覆したり、取り消したり、別の裁定を下したりすることはできないと判示しました。 したがって、第1仲裁裁判所の事実認定に関する上訴が係属中であったとしても、第2仲裁裁判所はその事実認定に拘束されることになります。そうでなければ、当事者は自身に有利な裁定を得られるまで、仲裁の申し立てを重ねるようになりかねません。 規定期間 Maynilad Water Services対National Water and Resources Boardの裁判(2023年)では、国内の仲裁裁定の確認を求める申し立てを実施する時期に関する規則についての問題点が解明されました。 この事案は、事業許可契約に起因する国内の別個の仲裁に関するもので、主な争点は、許可水道事業者は利益が規制価格上限の対象となる公益事業者であるか、また、法人所得税を事業支出として処理することを禁止されているかどうか、という点でした。仲裁手続きのうち1件では、許可水道事業者が勝訴しました。 許可水道事業者は、自らに有利な裁定の確認を求めるに当たり、ADR特別規則第11.2に基づく規定期間(すなわち、裁定の当事者の受領から30日経過後であればいつでも)の適用を主張しました。相手側はこれに異議を唱え、フィリピン国内の仲裁に適用される仲裁法第23条の期間(すなわち、裁定が下された後1カ月以内であればいつでも)を代わりに適用すべきであると主張しました。 最高裁判所は、ADR特別規則の第11.2は、仲裁に関するフィリピンの主要法である裁判外紛争解決法の明示規定によって、仲裁法第23条に優越する効果を持つと判示しました。しかし最終的に、許可水道事業者に有利な裁定は公序良俗を理由に取り消されました。 上述のような進展からも明らかなとおり、フィリピンの仲裁実務は基本原則にしっかりと根ざし、賢明な司法機関に巧みに導かれています。フィリピンは仲裁実務に関して独自性のある立場を占めており、今後の飛躍的な発展に向けて機が熟しています。 ACCRALAW 22/F, ACCRALAW Tower, 2nd Ave cor 30th...
India arbitration landscapes

インドにおける仲裁の現状

By Ila Kapoor, Shruti Sabharwal と Surabhi Lal, Shardul Amarchand Mangaldas & Co(ニューデリー)
香港 インド 日本 フィリピン シンガポール   インドは、紛争解決の代替的メカニズムとして仲裁を推奨する措置を講じてきており、1996年に仲裁調停法(以下「仲裁法」)を制定してからは、より効率的で安全な仲裁プロセスを促進しています。同法には、2015年と2019年に大幅な改正が行われました。 裁判所もまた、判決を通じてこの目標を推進する上で、重要な役割を果たしてきました。しかし、裁判所はほとんどの場合において、こうした主義を推進してきましたが、時折、相反する判決が下されて、仲裁法の改正を引き起こすという後退もありました。 本稿では、仲裁合意の印紙貼付に関する最高裁判決、仲裁人選任段階における裁判所の調査範囲の限定に関する最高裁判決、そして仲裁における第三者資金提供に関する高裁判決という、最近のインドにおける3件の司法判決に焦点を当てます。 印紙税契約 NN Global Mercantile対lndo Unique Flame & Anrの件では、仲裁合意を含む契約書に、インド印紙税法(1899年)に基づく印紙税が支払われていなかったため、最高裁判所が最近下した判決は、かかる契約書によって裁判所が仲裁人の選任について決定を行うことはできないとしました。 これにより裁判所には、仲裁合意について決定を行う前に、該当する書類に適切な印紙税が支払われていることを確認する必要が生じました。最高裁は、実体法(この場合はインド印紙税法)の運用によって強制力を持たない契約は、インド契約法(1872年)のもとでは有効な契約にはならないとしました。 この決定は、裁判所による審判機関の選任を遅らせるために利用されるのではないか、という不安感が広がるなど、その誤用の可能性と影響に関して、仲裁界に懸念を生じさせています。もう一つの懸念は、原契約に印紙が貼付されていなかった、あるいは印紙添付が不十分であったという理由で、裁定に対する当事者の異議申立てが助長されることです。 外国人投資家は通常、インドの実体法を知らず、契約の執行可能性をインド側の取引相手に委ねることが多いため、ここに危険信号がついたことになります。この不法性が是正されるまで、契約書に印紙が貼付されていないという事は、仲裁手続を開始する際のアキレス腱と言うべき弱点になります。これに関しては、印紙の事後貼付が罰金の対象となるばかりか、長く煩雑な手続を要する可能性があるのです。 この判決は、現在進行中の仲裁への影響について何ら見解を示していませんが、インド司法当局は、同判決が導く可能性のある幾つかの法的障害をいち早く認識し、それに対処しています。 直近では、7月4日にデリー高裁で開かれたArg Outlier Media Private対HT Mediaの裁判で、裁定債務者は、NN Globalの判決において、印紙添付が不十分または不適切であった契約が仲裁人による仲裁を受けるに至らなかったことを理由として、裁定の無効を求めました。 高裁は、この理由で裁定を無効とするという訴えを退けました。この判決では、仲裁合意を含む当該契約は、適切な印紙貼付がされていなかったため、証拠として認められるべきではなかったとしています。しかし、ひとたびそれが認められた以上、その結果である裁定を、かかる理由で非難することはできません。 この判決により、NN Global判決の実質的な影響によって、異議申立てが増加するという懸念が緩和されました。これは確かに正しい方向への一歩ではあるものの、高裁の判決は、この判決によって生ずる仲裁人選任の遅延の可能性には触れていないため、まだ先に道のりがあります。 また、最高裁が、印紙貼付不十分な仲裁合意の執行可能性に関わる別の判決において、救済申立ての審理に同意したことから、トンネルの終わりに光を見ることもできます。 これが明確になるまで、当事者らは契約書にインド印紙法に基づく印紙が貼付されていて執行可能であることを確認し、紛争が発生した場合の潜在的遅延を回避するよう、努力すべきです。 二段階調査 今年4月、最高裁判所はNTPC Limited対SPML Infraの裁判において、仲裁法に基づく裁判所の事前照会管轄権の問題を取り扱い、仲裁人を選任する際の裁判所の調査範囲が限定的であることを強調しました。 この事件で争点となったのは、当事者間に紛争が存在しないという理由で、仲裁審判所の選定に対して相手方当事者が提起した異議でした。相手方当事者は、相手方当事者のすべての義務が充分に免除されたと述べた和解契約を、その根拠としていました。 最高裁では、この文脈における紛争の存在は、仲裁人を選任する付託裁判所が決定すべきか、それとも審判所の検討に委ねるべきか、という点が争われました。 過去においては、裁判所は当事者を仲裁に付託する前に、主張の信憑性を一応検討しなくてはならないという立場でした。それらの判例は、インドで行われる仲裁への司法の介入を最小限に抑えるという考え方と合致しなかったため、立法府は2015年の法改正によってこれに介入しました。これにより、仲裁人を選任する裁判所の権限は、仲裁合意が当事者間に存在するかどうかを検討することであり「それ以上でも、それ以下でもない」と限定されたのです(2017年、Duro Felguera対Gangavaram Portの件)。 NTPCの判決は、司法の介入を最小限に抑えるという立法の趣旨を反映したものです。それはさらに、裁判所は2つの限定的な調査を行う必要があることを明らかにしています。 第一に調査するのは、仲裁合意の存在と有効性です。それには、契約の当事者たちが誰であるのか、そしてそれらの当事者がこの裁判の当事者たちであるのかを審査する必要があります。 第二の調査は、紛争が仲裁可能であるかを審査することに限定されます。裁判所はまた、第二の調査とは「この請求が仲裁不可能であることには一抹の疑いもない」という結論に至る事実を、一応精査することであると明らかにしました。 最高裁が定めたこのルールは明確です。仲裁不可能との異議に対する一応の審査で、結論が出ないと判断された場合、紛争は仲裁に付託されます。第二の調査は、仲裁不可能であることが明白な場合に、仲裁を強制されることから、当事者を保護することに限定されているのが明らかであり、枯れ枝を切り払うのを目的にしているのです。 この決定は、仲裁不可能性に関するすべての問題については、仲裁審判所が優先的に決定するという原則を補強しています。これにより、仲裁を遅らせる目的で、選任段階で異議を申し立てようとする当事者らは、その前によくよく考えるようになるため、裁判所による仲裁審判所選任がより効率的、かつ迅速に行われるようになります。 第三者資金提供 デリー高等裁判所が今年5月に下した、Tomorrow Sales Agency対SBS Holdingsの判決は、これまで法的に認められた原則ではなかった、仲裁への第三者資金提供の法的有効性を明確にしました。しかし、この慣行は裁判所の判決の中では暗黙のうちに認められてきました。 高裁は、裁定権者が申立人とその第三者資金提供者に対して、仲裁裁定を執行できるかどうかという問題を取り扱っていました。申立人は、裁定を充足させることができませんでした。その後、裁定権者は申立人の仲裁に資金を提供している第三者に対して、裁定額の支払いを要求しましたが、拒否されたのです。 裁定権者は、裁定額の担保命令、資産および保有資産の開示、裁定債務者および第三者資金提供者からの資産移転を規制する命令という形での、暫定的な救済を求めました。 この救済措置は、高裁の単一の判事によって認められました。しかし控訴審では、複数判事による法廷(division bench)においてこの命令が覆され、資金提供者は裁定執行の対象となる裁定債務者としては扱えないという理由で、資金提供者を相手取った暫定救済の要求が却下されました。 高裁は、第三者による資金提供の目的、すなわち司法へのアクセスを確保するためということを強調し、仲裁における資金提供に関して、透明性と情報開示のための規制を整備することは必要であるが、「第三者資金提供者に、その者が負担に同意していない債務を課すこと」を法律が認めるとすれば、それは逆効果であるとの見解を示しました。 この判決は、とりわけ強制執行の当事者となることから第三者資金提供者を保護することにより、第三者資金提供をさらに合法化する一歩です。 願わくは、立法府が裁判所の見解に耳を傾け、インドにおいてこれまで、不安と心配を抱えて行われていた第三者資金提供に関して、正式な規制を整備してほしいものです。 結論 インドにおける仲裁の状況は、速いペースで進展しています。概して、裁判所は一貫して商業的に健全で、仲裁に適した判決を下していると言ってよいでしょう。立法府もまた、既存の法的枠組みにおける、予期せぬ落とし穴を修正する措置を講じているところです。 6月14日、政府は仲裁法の改革を提言するための、15名から成る専門家委員会を設置しました。この委員会は、数ヵ月以内に報告書を提出する予定です。 仲裁界の著名人を含むこの協議プロセスによって、現行制度の明らかな痛点が改善され、インドが国内外のユーザーにとってより仲裁に適した法域となることを期待しています。 SHARDUL AMARCHAND MANGALDAS & CO Amarchand Towers 216 Okhla Industrial Estate, Phase III, New Delhi - 110...
Hongkong arbitration landscapes

香港における仲裁の現状

By Samuel Wong, Edward NgとThomas Yeon, 18LC法律事務所(香港)
香港 インド 日本 フィリピン シンガポール   2023年、香港はパンデミックがもたらした困難を乗り越え、世界有数の仲裁ハブとしての地位を保ちました。国際貿易の再開とグレーターベイエリア(粤港澳大湾区)内外へのアクセスの改善に加え、アジア太平洋地域における地域的・国際的紛争の解決サービスの中心として香港が発展していくために、地方・中央政府が提供している支援を背景に、香港では国内・地域的・国際的な紛争を仲裁によって解決するための環境の向上が続いています。 香港が仲裁の誘致に力を入れているという評判は、仲裁に親和的な司法、UNCITRALモデル法が適用される地域としての地位、ならびに法令や制度に関するさまざまな発展によって支えられています。 本稿では、結果と結び付いた手数料体系、多段階紛争解決条項の解釈に対するアプローチについての終審法院の説示、中国の裁判所の暫定措置の広範な利用可能性という3つの特徴と、これらが香港の仲裁実務に与える影響について考察します。 結果と結び付いた手数料 仲裁に関する結果と結び付いた手数料体系(Outcome Related Fee Structures)についての規則(ORFS規則)が、2022年12月に発効しました。これにより、弁護士とクライアントは、仲裁の結果を条件とする手数料の取り決めができるようになりました。 これは、第三者による訴訟資金の提供(champerty)や訴訟維持が依然として違法行為だとされていることが示すとおり、香港の伝統的で保守的な訴訟資金調達とはかけ離れています。 ORFS規則には、条件付き手数料契約、損害賠償額に基づく契約、ハイブリッド型の損害賠償額に基づく契約の3種類の手数料体系が規定されています。その役割と長所については、Asia Business Law Journalの2022年5・6月号に掲載された専門家による論説記事ですでに検討されているため、本稿で再び論じる必要はありません。 しかし、特に興味深いのは、ハイブリッド型の損害賠償額に基づく契約において、手数料の一部をクライアントの勝訴に依存するとの追加条件です。 ORFS規則では、ハイブリッド型契約において、顧客が金銭的利益を得る場合、または金銭的利益が得られない場合のそれぞれについて、支払い額を定めるよう求められています。クライアントが敗訴した場合には、クライアントが支払う必要があるのは、上限額と呼ばれる回収不能費用の最大50%に限られます。これは、ORFSについての合意がなされたか否かにかかわらず、請求されたであろう標準的な弁護士費用に相当します。 一方、クライアントが勝訴したものの、契約のうち損害賠償額に基づく部分から生じる手数料が回収不能費用を下回る場合には、弁護士は、代わりに上限額、すなわちクライアントが敗訴した場合に支払われるはずだった回収不能費用の額を取得することを選択できます。 OFRS規則、特にハイブリッド型の損害賠償額に基づく契約に関する規則は、待ち望まれていた追加条項です。これにより多様な規模の国内外の企業が仲裁を利用しやすくなるばかりか、柔軟でありながら体系的な手数料の取り決めが可能になります。クライアントが勝訴した場合、弁護士は上限額と損害賠償額に基づく契約による支払額のどちらかを選択できるため、発生した手数料の回収が容易になります。特に、複雑な請求が複数含まれる仲裁の場合、一方当事者が一部にのみ勝訴し、裁定額が当初の請求額を大幅に下回る可能性は十分にあります。 OFRS制度では、弁護士が上限額と損害賠償額に基づく契約による支払額のいずれかを選択して請求することができます。これにより、クライアントのニーズや要望と、業務に対する十分な報酬を確保する必要性との間での均衡を取りやすくなります。複数の請求事項が関わる複雑な仲裁では、上記の点が特に重要であることは明白です。 多段階条項 香港の仲裁への協力的なアプローチには、裁判所も寄与しています。2023年のC対Dの裁判において待ち望まれていた終審法院の判決は、コモンローの最高裁判所が初めてこの種の事案で判断を示したものです。判決では、仲裁契約における多段階または連鎖的紛争解決条項の解釈と理解について、妥当なアプローチが示されました。 C対Dの事案では、仲裁条項に、紛争が「当事者による書面でのかかる交渉の要請から、60営業日以内に友好的に解決できない場合は」、紛争は仲裁に付されると規定されていました。仲裁裁判所は、当事者は交渉要件を満たしたとみなし、被申立人に有利な裁定を下しました。控訴人は、仲裁裁判所は管轄権を欠いているという理由により、裁定の取り消しを求めました。 終審法院における争点は、仲裁契約に多段階紛争解決条項が含まれる場合、その前提条件の充足に関する仲裁裁判所の判断が、UNCITRALモデル法第34条(2)(a)(iii)に基づく裁判所の管轄の対象なのか、という問題でした。 裁判所は、全員一致で控訴を棄却しました。その理由は、契約の適切な解釈として、両当事者は仲裁の前提条件の充足に関する紛争を、仲裁裁判所に付託して審議することを意図していたと判断できるというものでした。そのため、控訴人は34条(2)(a)(iii)を根拠として、裁定の取り消しを求めることはできませんでした。 Roberto Ribeiro裁判官は、裁判所が仲裁の前提条件を見直す管轄権を有するためには、裁判所がそのように結論付ける前に、仲裁契約において明確な文言で定められていなければならないと判示しました(Andrew Cheung裁判長、Joseph Fok裁判官、Johnson Lam裁判官も同意見)。仲裁の前提条件は、契約の目的と当事者の意図の解釈に従い、裁判所の管轄ではないと推定されます。 また、裁判官の過半数は、管轄権と受理可能性を区別することが、多段階紛争解決条項の解釈に役立つと判示しました。端的に言えば、この区別とは、裁判所に対する異議(管轄権の問題)と、請求に対する異議(受理可能性の問題)の違いに基づくものです。 問題となった異議は、単に、請求が仲裁に付託された時期が尚早だったという点についての異議であり、この問題について決定し裁定を下す権限が裁判所にあることに同意しないという異議ではありませんでした。とはいえ、このような条項は判所の管轄の対象ではないと推定されるとされている以上、当事者が明示的な同意によって、裁判所が管轄権を有しない事項(多段階条項など)を、裁判所が管轄権を有する事項に変更することは可能です。これは仲裁条例の第3条(2)により具体化されています。この規定では、当事者は紛争がどのように解決されるべきかについて自由に合意することができ、裁判所は明示的に規定された紛争の仲裁にのみ、関与するべきであるとされています。しかし、このような裁判所の審査範囲の拡大は「通常の商業的期待に反する」とされました。 この判決は、管轄権についての紛争と受理可能性についての紛争の区別を明確に維持しました。この見解は、仲裁当事者の意図の確認についての確立されたアプローチを根拠としています。裁判所が仲裁に関する紛争への関与を検討する前に、商業的確実性の重要性と意思表示の明示の必要性を強調しているのは正当なことです。さらに重要なのは、この判決が、商業関係の当事者が香港の裁判所に通常期待し得ることを明らかにしていることです。裁判所は仲裁手続きに協力する用意はありますが、仲裁に関する紛争には限定的にしか関与しません。 結果としてこの判決は、香港が、商業関係の当事者が最初に締結した契約に基づき、信頼できる確実性をもってビジネスや紛争解決を行える、世界有数の仲裁ハブであるという評価の形成に貢献し、その評価を確固たるものにしました。 暫定措置 今年はまた、中国の裁判所が出す暫定措置の利用拡大について、進展がありました。この端緒となったのは2019年、中国本土および香港特別行政区の裁判所による仲裁手続きの援助のための、裁判所命令による暫定措置の相互支援に関する取り決め(暫定措置についての取り決め)の締結です。香港で仲裁を行う当事者に対する資産保全命令、行為保全命令、証拠保全命令の利用が、2023年には増加しています。 2023年5月、アジア・アフリカ法律諮問委員会(AALCO)の香港地域仲裁センターは、香港仲裁人協会を含む15の異なる組織と覚書を交わしました。これは、香港と世界の仲裁制度との協調と統合がさらに進むことを意味しています。 AALCOは香港司法省が暫定措置の取り決めに基づく適格機関として承認した機関であるため、AALCOの仲裁を利用する当事者は、中国の裁判所に直接、暫定措置を求める申し立てを行うことができます。 アジア太平洋地域とアフリカ諸国との経済関係の強化が進んでいることを踏まえると、AALCOが、一帯一路構想に起因するビジネスや投資に関する紛争を含め、アジアとアフリカの企業間に生じる商事紛争の解決に利用できる、利便性の高いプラットフォームとなることが期待されます。 結論 このような法令面・制度面の発展を受け、今後も香港の仲裁環境は向上していくと期待されます。 仲裁の利用増加に向けた政府の継続的な支援と、世界各地の新興経済国との商業関係の発展を背景に、香港特別行政区は、内外の多様な業界の商業関係の当事者にとって先進的で信頼性が高く、利便性の高い紛争解決センターとしての役割を十分に果たすことができる態勢にあります。 18LC Rooms 1808–09, Tower One, Lippo Centre 89 Queensway, Admiralty, Hong Kong 電話: +852 3795 5636 Eメール: info@18LC.com www.18lc.com
courts on international arbitration

裁判所が国際仲裁の法的実効性確保に動く

By Deepesh,Kochhar & Co.
1996年インド仲裁調停法が2015年改正法により改正されたことに伴い、仲裁制度が全面的に変更されました。これは2014年の法律委員会の報告書246号を受けたもので、同報告書は、1996年に制定された法律がその目的に照らして不十分であると結論付けました。 このような変更は、インドが他の法域の人々や法律家に向けて、インドで仲裁を実施するよう勧奨していることを示しています。その目的は、世界におけるインドの地位を向上させることです。以下では、国際仲裁を促進するために、改正法によって導入された重要な変更点の一部について説明します。 最高裁判所(国際仲裁の場合)または高等裁判所は、仲裁人選任の申請を検討するにあたり、専ら仲裁合意の有無についてのみ検討します。 改正法第34条は、国際仲裁判断が無効にされる場合の司法介入の範囲を狭めました。特許の違法性を無効の理由とすることはできなくなりましたが、国際仲裁判断がインドの公序良俗に反する場合には、それを無効にすることができます。 改正法第36条は、第34条に基づいて仲裁判断に異議を申し立てただけでは、裁判所が適切と考える条件に従って仲裁判断の執行停止を認めない限り、仲裁判断が執行不能になることはないと規定しています。 確かに、改正法のこれらの条項やその他の条項の規定を受けて、裁判所の取るアプローチが変化しました。Pammvi Exports Pvt Limited対FUJIFILM Wako Chemicals U.S.A. Corporationの裁判において、最高裁判所は仲裁人を選任しませんでした。この事案では、仲裁は供給契約に基づき米国仲裁協会において行われました。インド側の当事者は、この手続きで反訴を申し立てませんでした。裁定は米国側の当事者を支持するもので、裁判所は決定の再検討を求める申請を却下しました。最高裁判所で争われたのは、前述の国際仲裁の対象となった商務契約の注文書に、仲裁を適用しようとした事案です。裁判所は、注文書に起因する紛争は生じていないと判断しました。そして、供給契約に基づく米国の仲裁裁定を支持しました。最高裁判所は他の法域の国際仲裁裁定を優先し、仲裁人選任申請の却下という結果をFUJIFILM Wako Chemicalsは得ることができました。 東洋エンジニアリング株式会社およびAnr対Indian Oil Corporationは、インドの大手公共企業(PSU)が日本企業に有利な国際仲裁裁定に異議を申し立てた事案です。最高裁判所は、改正法第36条に基づく裁定の執行停止を認めましたが、PSUに対し、仲裁裁判所が裁定した金額の全額を供託するよう命じました。最高裁判所がこのように命じたのは、改正法により導入された変更に完全な効力を付与し、仲裁に勝訴した当事者が裁定を利用できるようにするためです。裁判所は、被申立人がPSUが預託した金額の引き出しを高等裁判所に申請することを認めました。最高裁判所は、この事案のように、係争金額が多額で政府機関が関与している場合、仲裁裁判所が、控訴審で本来申し立てるべき金額よりも少ない金額を申し立てるよう命じていたと認定しました。そして裁判所は、このような慣行をやめるよう命じました。 インドと日本の仲裁法は同様の原則に準拠しています。日本の仲裁法は2003年に制定されました。同法第44条1項は、仲裁判断が日本の公序良俗に反する場合、仲裁判断の取消しを申し立てることができると規定しています。日本の裁判所は、明らかに仲裁判断への介入に消極的です。また、インドでも、仲裁判断がインドの公序良俗に反する場合の取消しについて、改正法は明確に規定しています。日本で仲裁法が制定されたのは、インドの改正法の制定よりも後ですが、双方の法律の根底にある理念は同じ信条と倫理観に基づいています。 日本の裁判所の、仲裁に親和的な姿勢はよく知られています。改正法や本稿で取り上げた判決を受けて、インドの裁判所もこのような姿勢について世界的に評価されるようになりました。インドの仲裁法と日本の仲裁法は同様の原則に基づいています。両国ともに、ダイナミックで進歩的な仲裁法を有しています。このような共通点と仲裁に親和的な環境の醸成を通じて、両国の関係はさらに深まっていくことでしょう。 DeepeshはKochhar & Co(ニューデリーオフィス)のパートナーです。 Kochhar & Co. New Delhi (head office): Kochhar & Co. Suite # 1120 -21, 11th Floor, Tower - A, DLF Towers, Jasola District Center, Jasola -...
comparison of ESG regulations

各国・地域のESG規制の比較

ビジネス慣行が環境・社会・ガバナンス(ESG)に与える影響に、より大きな関心が向けられるようになっています。これを受け、世界中で企業が負う説明責任の基準が厳格化しています。そしてアジアも徐々に、しかし着実に世界との差を縮めています。 インド インドネシア 日本 シンガポール 韓国 台湾 タイ インド 環境・社会・ガバナンス(ESG)は、責任ある行動と同義です。インドでは、かねてからESGのエッセンスと認識は存在したものの、規制は断片的で、さまざまな法律にまたがっていました。 ESG関連の報告義務ができ、ESGは現在、集中的で統一された規制の枠組みのもとにあります。ESGは、企業の成長、収益力、価値を測る上で、そのサステイナビリティ、倫理、責任指数との直接的な関係を正式に確立しました。 ESG のパフォーマンスを規制することによるすべての影響はまだ見えていませんが、そのインパクトは企業の価値と信頼性の評価において明白です。 規制の更新 インド証券取引委員会 (SEBI) は2021年、従来の「事業責任報告」(BRR) に代わる新たな報告様式として、「事業責任とサステイナビリティ報告」(BRSR) を制定しました。 2015年SEBI規則第34(2)(f)(上場義務と開示要件)により、インドの上場企業上位1000社(時価総額ベース)には、BRSR の枠組みへの準拠が義務付けられています。それらの企業は、SEBIが随時発行するガイドラインに従って、要求された情報を所定の書式で提出しなくてはなりません。 またSEBIは最近、「事業責任とサステイナビリティ報告のコア」(BRSRコア)と題する斬新なESG報告の枠組みを導入し、BRSRの重要な要素を明らかにするとともに、ESG報告の具体的なパラメータを設定しました。情報開示は、時間の経過とともに透明性と説明責任を生み出し、規制当局、投資家、資金の貸手、利害関係者らに、企業に関するより深い洞察をもたらします。 その他の上場企業、すなわち中小企業(SME)向け取引所に特定の有価証券を上場している企業やSME取引所などは、場合によって自主的にBRSRを提出、または自主的に自社もしくは自社のバリューチェーンについてBRSRコアの枠組みに準拠しているという保証を得ることができます。 BRSRは現在、一般的な開示(必須)、マネジメントとプロセスの開示(必須)、原則ごとの実績開示の三つに分かれており、さらに必須(必須)の指標とリーダーシップ(任意)の指標に分別されています。 必須指標は、BRSRの提出を義務付けられているすべての企業が開示することになっていますが、リーダーシップ指標は、環境、社会、倫理に責任ある企業となることを目指し、より高いレベルへの進歩を目指す企業が自主的に開示することができます。 さらに、BRSRで求められる主な情報開示には、以下のようなものがあります。 企業のESGに関する重要なリスクと機会、そのようなリスクを軽減またはそれらに適応するためのアプローチ、および財務的影響の概要 サステイナビリティに関するゴール、ターゲット、実績 資源消費の使用量(エネルギーと水)、大気汚染物質排出量、温室効果ガス排出量、廃棄物発生量とその管理方法、循環型経済への移行、生物多様性など、さまざまな側面を含む環境関連開示 障害のある従業員への対応を含む性別および社会的な多様性、離職率、出産および育児手当、正社員および契約社員または契約労働者に対する福利厚生、安全衛生研修など、従業員、地域社会および消費者を対象とする社会的開示。社会的影響の評価、社会復帰と再定住、企業の社会的責任に関する開示、製品表示、製品回収、データプライバシーとサイバーセキュリティに関する消費者からの苦情に関する開示 国際的に認められている報告の枠組み(the Global Reporting Initiative, the Sustainability Accounting Standards Board, the Task Force on Climate-related Financial Disclosures または the International Integrated Reporting Council...
regional comparison of ESG regulations India

ESG規制の地域比較:インド

By Radhika M Dudhat, Shardul Amarchand Mangaldas & Co
インド インドネシア 日本 シンガポール 韓国 台湾 タイ 環境・社会・ガバナンス(ESG)は、責任ある行動と同義です。インドでは、かねてからESGのエッセンスと認識は存在したものの、規制は断片的で、さまざまな法律にまたがっていました。 ESG関連の報告義務ができ、ESGは現在、集中的で統一された規制の枠組みのもとにあります。ESGは、企業の成長、収益力、価値を測る上で、そのサステイナビリティ、倫理、責任指数との直接的な関係を正式に確立しました。 ESGのパフォーマンスを規制することによるすべての影響はまだ見えていませんが、そのインパクトは企業の価値と信頼性の評価において明白です。 規制の更新 インド証券取引委員会 (SEBI) は2021年、従来の「事業責任報告」 (BRR) に代わる新たな報告様式として、「事業責任とサステイナビリティ報告」(BRSR) を制定しました。 2015年SEBI規則第34(2)(f)(上場義務と開示要件)により、インドの上場企業上位1000社(時価総額ベース)には、BRSR の枠組みへの準拠が義務付けられています。それらの企業は、SEBIが随時発行するガイドラインに従って、要求された情報を所定の書式で提出しなくてはなりません。 またSEBIは最近、「事業責任とサステイナビリティ報告のコア」(BRSRコア)と題する斬新なESG報告の枠組みを導入し、BRSRの重要な要素を明らかにするとともに、ESG報告の具体的なパラメータを設定しました。情報開示は、時間の経過とともに透明性と説明責任を生み出し、規制当局、投資家、資金の貸手、利害関係者らに、企業に関するより深い洞察をもたらします。 その他の上場企業、すなわち中小企業(SME)向け取引所に特定の有価証券を上場している企業やSME取引所などは、場合によって自主的にBRSRを提出、または自主的に自社もしくは自社のバリューチェーンについてBRSRコアの枠組みに準拠しているという保証を得ることができます。 BRSRは現在、一般的な開示(必須)、マネジメントとプロセスの開示(必須)、原則ごとの実績開示の三つに分かれており、さらに必須(必須)の指標とリーダーシップ(任意)の指標に分別されています。 必須指標は、BRSRの提出を義務付けられているすべての企業が開示することになっていますが、リーダーシップ指標は、環境、社会、倫理に責任ある企業となることを目指し、より高いレベルへの進歩を目指す企業が自主的に開示することができます。 さらに、BRSRで求められる主な情報開示には、以下のようなものがあります。 企業のESGに関する重要なリスクと機会、そのようなリスクを軽減またはそれらに適応するためのアプローチ、および財務的影響の概要 サステイナビリティに関するゴール、ターゲット、実績 資源消費の使用量(エネルギーと水)、大気汚染物質排出量、温室効果ガス排出量、廃棄物発生量とその管理方法、循環型経済への移行、生物多様性など、さまざまな側面を含む環境関連開示 障害のある従業員への対応を含む性別および社会的な多様性、離職率、出産および育児手当、正社員および契約社員または契約労働者に対する福利厚生、安全衛生研修など、従業員、地域社会および消費者を対象とする社会的開示。社会的影響の評価、社会復帰と再定住、企業の社会的責任に関する開示、製品表示、製品回収、データプライバシーとサイバーセキュリティに関する消費者からの苦情に関する開示 国際的に認められている報告の枠組み(the Global Reporting Initiative, the Sustainability Accounting Standards Board, the Task Force on Climate-related Financial Disclosures または the International Integrated Reporting Council など)に基づいてサステイナビリティ報告を作成・開示している上場企業は、それらの枠組みのもとで行う開示と、BRSR...
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ESG規制の地域比較:インドネシア

By Denny Rahmansyah, Aldilla Stephanie Suwana そして Albertus Jonathan Sukardi, SSEK Law Firm
インド インドネシア 日本 シンガポール 韓国 台湾 タイ インドネシアにおける環境・社会・ガバナンス (ESG) の開示要件は、主として上場企業や金融機関に適用され、インドネシア金融庁(Otoritas Jasa KeuanganまたはOJK)の監督下にあります。 天然資源セクターの非上場企業のみが、企業の社会・環境計画の作成を義務付けられています。その他の非上場企業はすべて、企業の社会的・環境的責任プログラム実施に関する情報を、年次報告書に記載することのみ義務付けられています。 上場企業および金融サービス機関 上場企業と金融機関については、OJK規則第51号(2017年)およびOJK通達第16号(2021年)により、ESG開示義務が課されています。 「金融サービス機関、株式発行体(インドネシア語でEmiten)および上場企業のためのサステイナブル・ファイナンスの実施」に関する OJK規則第51号(2017年)は、一般的に金融機関や上場企業にサステイナブルな金融を実施する義務を課しています。 これは、企業の年次報告書の一部または独立した報告書として、OJKにサステイナビリティ報告書を毎年提出することを義務付けたものです。 「株式発行体 (Emiten) および上場企業の年次報告書の様式と内容」に関する OJK通達第16号(2021年)は、上場企業の年次報告書におけるESG開示の形式と内容を、指令によって規定しています。 年次報告書は、会社概要の章に、サステイナブル・ファイナンスに関連する業界団体(国内または国際的)の一覧が記載されていなくてはなりません。年次報告書にはまた、社会的・環境的責任の一環として会社がとった行動も開示する義務があります。 この開示は、 OJK規則第51号(2017年)が規定するサステイナビリティ報告であり、少なくとも以下の情報を記載しなくてはなりません。 サステイナブルな戦略 サステイナビリティの努力(経済、社会および環境)の概要 簡潔な会社概要 取締役会によるメッセージ サステイナブルな企業統治 サステイナブルな活動実績 独立した第三者による当該報告書とその情報に関する書面による検証(もし有れば) 読者からのフィードバック(もし有れば) 前年度の報告書にあるフィードバックに対する会社の対応 これらのサステイナビリティ報告要件を遵守しなかった場合、上場企業または金融機関はOJKからの叱責または書面による警告という行政処分を受けます。 上記のOJK規則および通達に基づく要件は、国際基準に基づいたものではありません。しかし、実際には一部の企業がそのESG報告において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)のような国際基準を参照し、義務ではないにもかかわらず、インドネシア法の要求を超える報告を行っています。 OJK通達第16号(2021年)は、当該通達で義務付けられている最低限の開示とは別に、企業は必要かつ望ましい場合には国際基準を参照することもできる、とのみ言及しています。しかしながら、今のところ特定の国際基準を導入する具体的計画はありません。 非上場企業 天然資源を利用する非上場企業は、「企業の社会的・環境的責任」に関する政府規則第47号(2012年)に基づいて、企業の社会的・環境的責任計画を作成しなくてはなりません。 それ以外の非上場企業は、有限責任会社法第40号(2007年)〔法律第6号(2023年)により改正(会社法)〕に基づいて規制されています。それは、年次報告書の一部として、環境および社会的責任実施報告書を作成する一般的な義務を指示するものです。 会社法および政府規則第47号(2012年)に基づく指令は非常に一般的なものであり、実施報告書の基準や書式、どのような情報を記載しなくてはならないかについて、詳しく説明されていません。 インドネシアはサステイナブルな開発と責任あるビジネス慣行を促進させる措置を講じてはきましたが、ESGコンプライアンスに関する規制の枠組みはまだ発展途上です。具体的なガイドラインや基準が存在しないため、企業がESG報告書や実績に対する期待度や要件を判断することを、難しくしている可能性があります。 規制の体制が発展途上であること以外に、企業には次のような課題があります。データの利用可能性とその質、人材の専門知識と能力(特に明確なESG実践基準がない場合)、そして金融へのアクセス、すなわちグリーン・プロジェクトには十分なバンカビリティの前例がないため、従来の金融機関からの支援を得ることが難しく、グリーン・プロジェクトの立ち上げと運営を全体的に難しくしています。 最後に、ESG情報開示に関する明確な義務規定がないことも、非上場企業がESGコンプライアンスに関して直面する課題です。 気候目標 上場企業も非上場企業も、排出量削減やエネルギー転換といった気候変動に関する目標を独自に設定し、達成する義務はありません。それにも関わらず、全企業がサステイナビリティ志向の戦略を、サステイナビリティ報告書で開示しなくてはならないのです。 しかし独自に設定する目標とは別に、特定の業種の企業は、結局のところ政府が定めた排出量の上限を課せられることになります。これは、インドネシアが導入を計画している炭素排出量取引制度のキャップ・アンド・トレードおよび/またはキャップ・アンド・タックスという方式に関連しています。例えば、エネルギー・鉱物資源省は、石炭火力発電所に対して排出量上限技術承認を発行する計画です。この排出量上限の対象となる企業は、自社の温室効果ガス排出量が政府決定の上限を超えないことを確保しなくてはなりません。 これを遵守しない企業は、炭素税(まだ導入されていない)に直面するか、過剰排出量を相殺するために他社から排出量削減クレジットを購入する必要に迫られます。 排出量上限以外には、気候関連の目標の設定、達成、開示を企業に義務付けるものはありません。 脱炭素 インドネシアは、「通常通り」のCO2排出量に比べて、無条件で31.89%、条件付きで43.2%の削減を目標にしています。 この目標は、同国が強化した「国家的決定貢献」(NDC) の一環です。それは、「低炭素・気候レジリエンスに向けた長期戦略2050」に沿った第2期NDCへの移行であり、2060年またはそれ以前にネットゼロ排出を達成するというビジョンです。 温室効果ガス排出量目標を達成するため、政府は、炭素取引市場の設立を目指して規制とインフラ整備に取り組んでおり、コンプライアンス炭素市場と自主的炭素市場の双方を意図しています。コンプライアンス炭素市場は、当初は石炭火力発電所に限定され、2025年以降は他の種類の発電所にも拡大される予定です。 予想される炭素取引所は、炭素取引を実施する上で必要な規則を作成する義務のあるOJKによって認可されます。要約すると、現在考えられている炭素取引所は、以下のようなシステムになります。 炭素取引を規制 カーボンユニットの所有権を記録 炭素取引のインフラを開発 炭素取引から得られる国の歳入を規制 炭素取引の管理と監督 OJKが炭素取引所の実施のために、ロジスティクスとインフラを整備する中、石炭火力発電所に対する炭素税の賦課は、当初2022年4月1日までに発効する予定でしたが、現在は2025年に導入される予定となりました。他の排出セクターも炭素税の対象となりますが、政府はまだ具体的な対象業種を決定していません。 インドネシア環境・林業省と、非国内の炭素クレジット認証機関との間の相互承認協定やそのメカニズムは、現在も最終調整中であり、非国内の認証機関が発行した炭素クレジットを使った国際炭素取引は、あらゆる意図と目的において、禁止されています。 グリーンウォッシング グリーンウォッシングは、法的概念としてまだ認識されておらず、インドネシアにはこれに対処する法律はありません。せいぜいは、民事または刑事責任のもとで、グリーンウォッシングに相当する可能性のある行為を行っている当事者に、損害賠償を請求したり、調査を開始したりするための根拠となる程度でしょう。 そうした根拠として考えられるのは、取締役の受託者責任違反、虚偽表示に対する不法行為による請求、および(資本市場法に基づく資本市場関連詐欺であれ、刑法に基づく一般的な詐欺規定であれ)詐欺に関する刑事規定などです。 これまで、グリーンウォッシングに関する法的手続や措置の例はなく、重要なグリーンウォッシングのクレームもありません。いずれにせよ、報告要件がより厳格になり、サステイナビリティに対する危機感が高まるにつれ、社会的監視の目が厳しくなって、企業(特に上場企業や金融機関)に対する賠償請求のリスクは高まると予想されます。 SSEK Law Firm 14/F Mayapada Tower I Jl. Jend. Sudirman Kav....
regional comparison of ESG regulations Japan

各国・地域の ESG 規制の比較: 日本

By 北島隆次、戸田謙太郎 と 久保田修平、TMI総合法律事務所
インド インドネシア 日本 シンガポール 韓国 台湾 タイ 近年、金融・投資の世界では、環境・社会・ガバナンス(ESG)に対する規制の重要性が高まっています。日本においても、政府や金融業界が持続可能性と社会的責任の推進に取り組むなか、このような規制の整備に向けて機運が高まっています。 日本では、環境問題への対応、社会福祉の向上、コーポレート・ガバナンスの強化を目的として、種々の規制や取り組みが導入されてきました。本稿では日本のESG規制を概説します。 気候変動 「地球温暖化対策の推進に関する法律」は、一定量以上の温室効果ガスを排出する事業者(特定排出者)に対し、事業年度ごとに温室効果ガスの排出量を算定し、主務大臣に報告する義務を課しています(同法第26条)。 特定排出者には、温室効果ガスプロトコルのスコープ1およびスコープ2の報告要件と同様の、直接・間接排出に関する報告が求められます。同法第29条には、報告された情報は環境省と経済産業省を通じて集計・公表され、企業とそのすべての事業所からの排出が対象になると規定されています。報告を怠った企業や虚偽の報告をした企業は罰金や過料を科されます(同法第75条、同法第73条)。 特定排出者は、その事業所の排出量情報を公表することにより、自己の権利、競争上の地位またはその他の正当な利益が害されるおそれがあると考える場合には、公表を差し控えるよう要請することができます(同法第27条)。 さらに、エネルギーの使用の合理化に関する法律第25条では、工場を有し、一定量のエネルギーを使用する事業者(特定事業者)に対し、エネルギー使用の合理化および非化石エネルギーへの転換の目標達成に向けて中長期計画の作成を義務付けています。また、同法第16条は、特定事業者に対して、当該事業の主務大臣にエネルギーの使用状況に関して定期的に報告するよう義務付けています。主務大臣は、特定事業者の取り組みが著しく不十分であると認めるときは、特定事業者に対し、助言または指示を行うことができます。特定事業者が指示に従わない場合、主務大臣はその事実を公表することができます(第17条、第18条)。 政府は、自動車、家電製品、建材などの製造業者に対し、その製品のエネルギー消費効率目標を達成するよう求めることができ、効率改善が不十分な場合には勧告を行うことができます(第149条、第150条)。 再生可能エネルギーの環境価値は証書の形で取引されており、日本には、J-クレジット(再生可能エネルギーに由来する場合)、グリーン電力証書、非化石証書の3種類の証書があります。これらの証書は、企業の電力購入契約において、また、再生可能エネルギー100%、カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト、前述の法定報告制度などのさまざまな報告制度で使用されています。また、2023年4月には、政府が主導するGX(グリーントランスフォーメーション)リーグにおいて、新たな排出量取引制度が始まりました。 廃棄物管理 廃棄物処理法第14条では、廃棄物の収集、運搬、処分を事業として行う企業に対し、都道府県知事の許可の取得を義務付けています。企業がこのような業務を許可なく行った場合、刑事責任を問われる可能性があります(第25条)。企業が自社の産業廃棄物を処分する場合、自社で処分するか、許可を受けた業者に委託しなければなりません(同法第12条)。 企業が許可を取得していない業者に廃棄物管理業務を委託した場合、罰則が適用されます(同法第26条)。同法第12条には、廃棄物の処分に関する詳細な処理基準や委託基準、管理票制度による廃棄物の最終処分までのプロセス管理の方法なども規定されています。 資源有効利用促進法では、特にリデュース・リユース・リサイクル(3R)に取り組む必要がある10業種・69品目が指定されており、製品の製造・設計・表示の各段階で事業者が自主的に取り組むべき3R対策の具体的内容が示されています。 さらに、他にも、容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律、特定家庭用機器再商品化法、使用済小型電子機器等の再資源化の促進に関する法律、使用済自動車の再資源化等に関する法律、建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律、食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律などのリサイクル法が、個々の物品の性質に応じて適用されます。 社会的側面 ビジネスと人権の問題に関して、日本政府は2020年10月、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、ビジネスと人権に関する行動計画を策定しました。日本ではこれまでに、ビジネスと人権、あるいは人権デューデリジェンスに関する法律が制定されたことはありません。しかし、日本がG7サミットの議長国となることを受け、今年4月、政府が人権デューデリジェンスに関する法令の制定に向けて政府内で検討を始めると報じられました。議論が開始されてから間がないため、法案の内容の詳細はまだ明らかになっていません。 日本政府は、2021年11月に公表した「日本企業のサプライチェーンにおける人権に関する取組状況のアンケート調査」の結果を踏まえ、2022年9月に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定しました。本ガイドラインは、日本企業がサプライチェーンにおいて人権デューデリジェンスを実施する際に活用できる参考資料として策定されました。 さらに、政府は今年4月、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」を公表しました。これには、ガイドラインに沿った取組みを行う企業が人権方針の策定する際や人権への負の影響の特定・評価を行うにあたって必要となる事項について、詳細な解説や事例が記載されています。 企業が事業活動を行う際には、従業員、サプライヤー、顧客、地域社会の人々を含むステークホルダーの種々の権利に配慮する必要があります。伝統的に、日本企業は従業員の権利の保護に重点を置いてきました。しかし今日の企業は、自社の従業員にとどまらず、サプライチェーンに含まれる企業の従業員の権利についても考慮しなければなりません。 日本では、労働基準法が雇用と労働関係について規制しています。また、労働基準法が労働者の労働条件について規制しており、なかでも児童労働や強制労働による問題の予防のための規定がおかれています。 日本ではマイノリティの権利に関しても進展がみられます。性的少数者に対する差別を解消することを目的とする新法案が、直近の国会で可決されました。同法案は、LGBTへの理解を深め、LGBTコミュニティについての理解を社会に広めることを通じて差別を解消することを目的としています。 ガバナンスと情報開示 東京証券取引所が策定したコーポレートガバナンス・コード(CG コード)では、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則が示されています。CGコードでは、上場企業に、同コードの原則に関連した取組みや活動について説明するよう求めています。それには、持続可能性を巡る課題への適切な対応、持続可能性についての取組みの開示(特にプライム市場上場会社の場合は、「気候関連財務情報開示タスクフォース」またはそれと同等の枠組みに基づく開示)などが含まれます。 また、「企業内容等の開示に関する内閣府令」が1月31日に施行され、2023年3月31日以後に終了する事業年度より、有価証券届出書または有価証券報告書の提出義務のある企業に対し、サステナビリティに関する考え方及び取組のうち、「ガバナンス」「リスク管理」及び多様性の確保を含む人材育成方針・社内環境整備方針、方針に関する指標内容等について有価証券報告書等の開示が義務付けられています。また、男女間賃金格差、女性管理職比率、男性の育児休業取得率に関する情報を含む人的資本や多様性についての情報を他の法令に基づき公表する場合には、これらの情報の開示も義務付けられています。 TMI Associates 23/F Roppongi Hills Mori Tower 6-10-1 Roppongi, Minato-ku Tokyo 106 6123, Japan 電話: +81 3 6438 5511 Eメール: info@tmi.gr.jp www.tmi.gr.jp
regional comparison of ESG regulations Singapore

ESG規制の地域比較:シンガポール

By Tan Weiyi, Clyde & Co
インド インドネシア 日本 シンガポール 韓国 台湾 タイ 環境・社会・ガバナンス(ESG)基準は、各国の規制当局がその目標達成と、グリーンウォッシングのような望ましくない慣行の増加を防ぐことを目指して、適切なガイドラインを自国に備えるにつれて、地域的にも国際的にも急速に重要視されてきています。 シンガポールでは、世界的なトレンドやベストプラクティスを踏まえて、近年さまざまな進展があり、今後もさらなる動きが予期されています。 開示要件とグリーン・ファイナンス シンガポール証券取引所(SGX)は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言を受けて、すべての発行体に対して2022会計年度からサステイナビリティ報告に気候関連の報告を記載することを義務付けました。 初めは、気候関連報告は「遵守するか、説明するか」を基準としており、社会的・環境的影響や実績の開示を拒否する企業には説明を求めます。しかし、特定の業種の発行体に対しては、2023年度および2024年度から気候関連報告を義務付けることになります。 SGXは、TCFDの勧告に基づき、気候関連報告の義務化について、業種別の段階的アプローチを導入しました。気候関連リスクが最も高い特定のセクターの発行体には、気候関連報告を義務化する緊急性が高いことから、それを考慮して業種に優先順位が付けられています。 2023年度には、金融業界、農業・食品・林産物業界、およびエネルギー業界の発行体に気候関連報告が義務付けられます。2024年度には、報告義務が素材、建築、運輸業界に拡大されます。 昨年7月、シンガポール金融管理局(MAS)が「リテールESGファンドの開示・報告ガイドライン」に関する通達を発表しました。これにより、2023年1月1日以降、ESG 表示付きで販売されるリテールファンドについて、投資のESGフォーカス、関連する基準、方法または指標、およびサステイナブル投資戦略を明らかにすることが、ファンドマネージャーに義務付けられました。これは、企業が環境に適合していると顧客に納得させようとする欺瞞的行為、グリーンウォッシングに対処するものです。 このガイドラインは、ESGファンドの名称が誤解を招くようであってはならず、投資ポートフォリオや投資戦略がサステイナビリティへのフォーカスを反映していなくてはならないと定めています。ファンドは、純資産額の少なくとも3分の2がESG投資戦略に従って投資されることを確保しなければなりません。 これとは別に、MASが設立した「グリーン・ファイナンス業界タスクフォース」(GFIT)は、シンガポールを拠点とする金融機関に対して、グリーンまたはグリーンへの移行と考えられる活動を特定するための分類システム、または分類法を提案しています。移行活動も対象とすることによって、より高いサステイナビリティへと段階的に進むことができ、出発点を考慮して包括的な経済・社会の発展を支援することができます。 GFITは、2023年2月に第3回の諮問書を発表し、農林業または土地利用、資本財、廃棄物と水、情報・通信技術、および炭素の分離回収の5分野における、グリーン活動、並びにその移行活動の分類に関して、その具体的な基準値や要件について意見を募りました。 とりわけ、この諮問書は「Do No Significant Harm〔(環境目的のいずれにも)著しい害を与えない〕」という基準についてのフィードバックを求めました。その意味は、気候変動の緩和に大きく貢献する活動を行う場合でも、それが他の四つの環境目的、すなわち気候変動への適応、健全な生態系と生物多様性の保護、資源の回復力と循環型経済、そして汚染の防止・制御に対して、悪影響を与えるような方法で行うべきではないということです。 2023年6月28日、GFIT は第4回かつ最終の諮問書を発表しました。それは「シンガポール-アジア・タクソノミー」の分類による、石炭火力発電所の早期段階的廃止の基準値と基準に関するものです。この基準は、2023年7月28日の最終協議終了後に最終決定され、使用開始されます。 2022年5月に発表されたMASの「環境リスク管理インフォメーション・ペーパー」は、保険会社、銀行、資産運用会社が環境リスクを管理するために行っているベストプラクティスを紹介し、さらなる取組みが必要な分野を強調して示しています。この文書はまた、リスク評価手法の開発、サステイナブル・ファイナンスの人材発掘、金融機関がグループレベルでの方針や手続きの策定を親会社に依存している場合、特に金融機関の本社がシンガポール国外にある場合のリスク管理手法の確立など、金融機関が課題に直面している様々な分野を指摘しています。 グリーンウォッシング シンガポールでは、消費者保護(公正取引)法(CPFTA)が、グリーンウォッシングに関連するものを含む欺瞞的な主張から消費者を保護しています。さらに、シンガポール広告基準局(ASAS)は、広告主がその主張に正確かつ十分な裏付けを取るよう、「シンガポール広告規範」(SCAP)に基づくガイドラインを発行しました。CPFTAに基づく保護の範囲は、MASが規制する金融商品や金融サービスにも及び、ESG関連の目的を満たすと称する様々な商品に同法の適用範囲が広がっています。 不実表示法は、消費者が不実表示の結果として商取引を行ったと考える場合、商業者に対して損害賠償を求めることができると定めています。しかし、同法が対象とするのは契約上の合意に起因する損害のみであり、グリーンウォッシングの事例は契約関係の中で発生したものに限定されません。 誤解を招くような、あるいはグリーンウォッシュとみなされるような主張をするサプライヤーに遭遇した消費者は、シンガポール消費者協会に支援を求めることができます。深刻な場合、サプライヤーはシンガポール競争・消費者委員会 (CCCS) に報告され、さらなる調査の対象となることもあります。 SCAP(シンガポール広告規範)に関しては、ASAS はSCAP に違反した広告に制裁を科すことができます。 基本的に、シンガポールの国家環境庁(NEA)が、クリーンでサステイナブルな環境を維持する第一の責任を有し、サステイナビリティと資源効率性を促進する責任を負っています。NEA は2019年1月に公布された、シンガポールの炭素税規制「カーボンプライシング法」の監督も行っています。同法に付随する規則は現在改正中であり、詳細は追って発表され、すべての改正は2024年1月から発効します。 他国における進展状況 英国では、金融行動監視機構(FCA)が2022年10月に、投資商品の持続可能性表示や、「ESG」「グリーン」「サステイナブル」といった用語の使用制限を含む、グリーンウォッシングを取り締まる新たな措置を提案しました。これらの措置は、消費者を保護し、サステイナブルな投資商品に対する信頼を確立し、誠実さを促進し、ESG表示付き商品とそれを支えるエコシステムに対する信頼を確立することを意図しています。 FCAは、企業がその主張を実証するための適格基準を設けました。それにより、企業が消費者に十分な情報を提供し、消費者が十分な情報に基づいた選択ができるようにするためです。FCAはまた、すべての規制対象企業に適用される一般的な「反グリーンウォッシング」規則の導入も計画しており、サステイナビリティに関連する主張が「明確、公正かつ誤解を招かない」ものであることを、求めることにしています。 カナダでは、グリーンウォッシングは違法であり、競争局はグリーンウォッシングの主張を調査し、競争法、消費者包装表示法、繊維表示法などの適用法の遵守を確保する責任を負っています。 グリーンウォッシングに対する罰則は厳しいものです。一例としては、2022年1月、飲料会社のキューリグ・カナダは、同社のコーヒーポッド、Kカップのリサイクルの可能性について、誤解を招くような主張をしたとして、競争委員会から300万カナダドル(220万米ドル)の罰金を科されました。グリーンウォッシングなどの欺瞞的行為に関与していると疑われる企業の従業員は、それを競争局に報告することができます。内部告発者の守秘義務と雇用は、競争法とカナダ刑法によって守られます。 EUでは2023年3月に、環境に優しいとする企業の主張を正当化する方法を規制し、グリーンウォッシングに対処するための「グリーン・クレーム指令」を、欧州委員会が提出しました。この指令は、欧州議会と欧州理事会の承認を必要としていますが、グリーンウォッシングに関与する企業に対する罰則を設定することになります。指令草案では、違反が広範囲に及んだ場合、罰金の上限を事業者の年間総売上高の少なくとも4%と定めています。 「世界自然保護基金シンガポール」のパイロット調査によると、ESG統合の取組みを改善するために、この島国(シンガポール)の民間銀行はリスク管理戦略を改善し、組織文化、ガバナンス、インセンティブを強化する必要があります。銀行はサステイナビリティに関する誓約を掲げてはいるが、プライベート・バンキングのシナリオでは、これらをカスタマイズし、効果的に統合する必要があると、この報告書は指摘しています。 2023年6月、オランダの資産運用会社ヴァン・ランスコット・ケンペンは、環境リスクを審査する最新のESGテストに、この島国(シンガポール)が不合格であったとして、シンガポールの国が運用を支援する資産をブラックリストに掲載しました。この件を受けてシンガポール政府は、2050年までに排出量ゼロを達成するという公約に示したとおり、気候変動と闘うという同国のコミットメントを改めて表明しました。 この分野ではさらに多くのことがなされる必要があり、近い将来、規制、サステイナブルな慣行、そして執行努力において、一層大きな進展があるものと期待しています。 Clyde & Co 12 Marina Boulevard, #30-03 Marina Bay Financial Centre Tower 3 Singapore 018982 電話: +65 6544 6500 Eメール: singapore@clydeco.com www.clydeco.com
regional comparison of ESG regulations South Korea

ESG規制の地域比較:韓国

By Kim Hongkyun, Kim Sangmin と Kim Yun Sung, Lee & Ko
インド インドネシア 日本 シンガポール 韓国 台湾 タイ 韓国では、環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する懸念に対処するための、包括的な規制枠組みが策定されています。気候危機の深刻な影響を軽減し、カーボンニュートラル社会への移行を促進するための法的基盤となるのが、気候変動危機に対処するためのカーボンニュートラルとグリーン成長に関する枠組み法です。社会法の主要な対象は労働者の権利、公正取引、消費者保護である一方、ガバナンスに関する法では透明性、説明責任、責任ある投資慣行に重点が置かれています。 ESG問題に対する関心が世界的に高まっていることを受け、韓国ではフレームワークやガイドラインの策定を通じて、ESGに関する企業責任が拡大されています。企業は、これらのフレームワークを通じて、ESGに関して考慮すべき事項を、事業運営や意思決定プロセスに組み込んでいくことができます。透明性を高め、ステークホルダーが必要な情報を入手できるようにするため、情報開示を義務付ける規制も導入されています。また、国内で事業を展開する企業がデューデリジェンスを徹底し、サプライチェーンにおける人権侵害や環境リスクへの対処を図るために、立法措置も検討されています。 環境法 韓国の環境規制の枠組みは、憲法的性格を持つ基本法として機能する環境政策に関する枠組み法と、種々の汚染源を対象とする70超の個別環境法により構成されています。この広範な枠組みには、ESG原則と密接に連携する重要な個別法がいくつか含まれており、それらについては詳細に論じる価値があります。 大気、水、土壌。大気と水質は、大気汚染防止法、水管理に関する枠組み法、水環境保全法によって規制されています。土壌汚染防止法では土壌汚染に関する事項が規制されており、汚染物質の廃棄の禁止や土壌汚染についての責任の賦課が規定されています。 廃棄物と資源循環。固形廃棄物および有害廃棄物の収集、運搬、保管、リサイクル、処分は、廃棄物管理法、資源の保全およびリサイクルの促進に関する法律、資源循環に関する枠組み法に基づき管理されています。 化学物質。化学物質の上市は、化学物質の登録及び評価等に関する法律(K-REACH)により規制されています。化学物質管理法の規制対象は、国内市場で販売される化学物質の使用です。また、生活化学製品及び殺生物剤の安全管理に関する法律(K-BPR)により、特定の消費者向け化学製品に安全性基準と表示基準が課され、また、殺生物剤の製造業者と輸入業者に対し、その使用についての事前承認の取得が義務付けられています。 気候変動とエネルギー利用。韓国では、温室効果ガス排出許容量の割当及び取引に関する法律に基づき、排出量取引制度(K-ETS)が設けられており、温室効果ガス排出量の価格設定と排出許容量の取引を可能にする、市場ベースのアプローチが導入されています。エネルギー利用合理化法は、エネルギー効率の向上とエネルギー消費が環境に与える影響の軽減を目的としています。 その他。上記以外にも、生物多様性の保全及び利用に関する法律やグリーン製品購入促進に関する法律などの環境関連の法律が制定されています。 社会法 競争保護。違法なカルテル行為や不公正な取引慣行を規制する主要な法律は、独占規制及び公正取引に関する法律です。これに加えて、公正な競争と健全な事業慣行の促進を目的として、表示及び広告の公正化に関する法律、下請取引公正化法、代理店取引の公正化に関する法律、大規模流通業における取引の公正化に関する法律が制定されています。 製品の安全性と消費者保護。製品の安全性に関する枠組み法、消費者に関する枠組み法、電気用品及び生活用品安全管理法、製造物責任法、食品衛生法が、製品の安全性と消費者保護の確保のための枠組みとなる主要な法律です。 労働。労働関係の規制の基盤となるのは労働基準法です。他方、労働安全衛生法と重大災害処罰法には、職場における従業員の福利と安全を確保するための規制が定められています。 人権。韓国刑法、国家人権委員会法、児童福祉法が、人権の擁護と保護に寄与する重要な法律です。国家人権基本計画の法的基盤を強化し、国際基準を国内の政策に取り入れるため、政府は2021年、「人権政策に関する枠組法」の草案を公表し、現在立法手続きが進行中です。 データ保護。個人情報保護法は、個人情報の収集、利用、開示の規制を通じて個人のプライバシーと個人情報を保護することを目的とする法律です。「情報通信網利用促進及び情報保護に関する法律」では、情報通信ネットワークを通じて送信されるデータの保護に、焦点が当てられています。信用情報利用及び保護に関する法律は、信用情報の体系的な管理と不正利用の防止を通じてプライバシーを保護することを目的としています。 ガバナンスに関する法 代理人の義務。商法は、企業における取締役と監査役の職務について規定しています。また、刑法では、職務の遂行中になされた業務上横領や背任などの違法行為が規制されています。 情報開示。財務報告その他の開示における透明性、説明責任、公正性について規定する主要な法規制は、金融投資サービス及び資本市場法、証券市場における開示に関する規則、株式会社の外部監査に関する法律などです。 企業集団。一般に財閥と呼ばれるコングロマリットや大規模企業グループの活動は、独占規制及び公正取引に関する法律と金融会社のコーポレート・ガバナンスに関する法律によって規制されています。 汚職防止。汚職防止ならびに汚職防止及び公民権委員会の設置及び運営に関する法律、不適切な勧誘及び接待に関する法律、国際商取引における外国公務員に対する贈収賄の防止に関する法律が、汚職を規制する主要な法律です。 ESGに関する責任の拡大 Kタクソノミーは、サステナブル投資の促進に向けて、環境技術及び環境産業支援法に基づいて策定された枠組みです。2021年12月の当初の草案公表に続き、2022年12月には原子力発電に関する追加事項を盛り込んだ改正案が公表されました。新たなグリーンボンド・ガイドラインは、グリーンウォッシュ債券の発行防止を通じて、グリーンボンド投資の信頼性を高め、グリーンボンド市場の活発な成長を促進することを目的として、2023年1月に導入されました。 企業のESGに関する実績を過大表示するグリーンウォッシュ行為は、表示及び広告の公正化に関する法律や、環境技術及び環境産業支援法によって規制されていますが、実務において具体的な基準を判断することが難しいため、実際に罰金や罰則が科される事例は限られています。この問題を認識した公正取引委員会と環境部は、グリーンウォッシュ行為特定のための明確な基準の確立に向けて、規制改正とガイドライン策定に取り組んでいます。 開示に関する規制。 2021年、金融委員会は持続可能性報告に関する規則を導入しました。この規制は段階的に実施される予定です。2025年末までに、韓国総合株価指数(KOSPI)の対象企業のうち、資産が2兆ウォン(7,600億米ドル)を超える企業に適用され、2030年末までにはKOSPI企業すべてに適用が拡大される予定です。本年中にESG情報開示制度のロードマップが公表され、報告義務の対象となる企業の概要や開示基準の詳細が示される予定です。 環境技術及び環境産業支援法では、企業は2022年以降、資源・エネルギーの保全と環境汚染物質の削減に関する環境管理システム、目標、実績の開示を義務付けられています。また韓国取引所は、上場企業を対象とするコーポレート・ガバナンス報告書に関するガイドラインを公表しました。2022年以降、総資産1兆ウォン以上のKOSPI上場企業に対して、コーポレート・ガバナンス報告書の作成および開示が義務付けられています。 自主的開示 韓国コーポレート・ガバナンスサービスは2021年、ESGベストプラクティスガイドラインの改訂版を公表しました。このガイドラインはESG評価に活用されてきました。また、国内の上場企業のESG管理基準や政府の各種政策が策定される際に参考にされています。 EUの企業持続可能性デューデリジェンス指令などの、サプライチェーンの人権と環境のデューデリジェンスに関する法制定の進展を受け、韓国では2022年12月、サプライチェーン管理のためのK-ESGガイドラインが導入されました。サプライチェーンの持続可能性向上には、包括的システムの確立が重要であるという認識が広まっており、現在、これに関する立法案がさまざまなステークホルダーによって議論されています。 Lee & Ko Hanjin Building, 63 Namdaemun-ro Jung-gu, Seoul 04532 South Korea 電話: +82 2 772 4000 Eメール: mail@leeko.com www.leeko.com
regional comparison of ESG regulations Taiwan

ESG規制の地域比較:台湾

By Tseng Ken-Ying と Helen Huang Hai-Ning, 理律法律事務所
インド インドネシア 日本 シンガポール 韓国 台湾 タイ このところ、台湾の気候アジェンダへの注目が高まっています。台湾における温室効果ガス排出規制の主要な枠組みである、温室効果ガス削減及び管理法は包括的に改正され、2023年1月10日、正式に気候変動対応法(CCRA)と改称されました。この改称は、台湾のアプローチが温室効果ガスの排出にとどまらず、気候変動対策のための総合的戦略も含むものへと、極めて重要な転換を遂げたことを象徴しています。 現在、特定の産業には、温室効果ガス排出量の詳細な計算、報告、検証が求められています。台湾の環境保護総局は、主要な温室効果ガス排出源(温室効果ガス排出源会計登録対象事業者)に分類される事業者の業種別リストを作成し、これらの事業者に温室効果ガス排出量の報告を義務付けています。温室効果ガス排出量が年間2万5000トンを超える企業は、前年度の排出量について詳細に記載した年次報告書も提出しなければなりません。 2050年に向けてのロードマップ 台湾では、環境・社会・ガバナンス(ESG)要因とそれがもたらす重大な影響についての認識が高まっています。再生可能エネルギー、脱炭素化、グリーン・ファイナンスの推進と、2050年ネットゼロ排出ロードマップにおいて示されたネットゼロ目標の達成に向けて、台湾政府の取組みは勢いを増しています。これを明らかに示しているのがグリーン・ファイナンス行動計画です。この計画は2017年以降四半期ごとに見直され、定期的に更新されています。先般、同計画の第3版(グリーン・ファイナンス行動計画3.0)が開始され、2022年最終四半期の見直しが完了しました。 このような経緯を踏まえると、CCRAの刷新は、2050年までに温室効果ガス排出量ネットゼロを達成するという最終目標に向けて、脱炭素化を進める台湾の揺るぎないコミットメントを示すものであるといえます。 環境保護総局は、2023年下半期から2024年にかけて、CCRAに関連する12の下位規制を公布および公表する予定です。これらの規制は、炭素インベントリ、炭素料金の徴収、登録管理、認証・検査機関、温室効果ガス対策資金の管理などの重要な点に対処するものになるとみられます。政府の主要目標は、グリーンエネルギー、脱炭素化、グリーン・ファイナンスの推進と、2050年に向けたロードマップで示された目標の実現が中心となっています。 政策ガイダンス ネットゼロへの取組みの一環として、台湾金融監督管理委員会は、持続可能な経済活動に関するガイドラインの策定に力を注いでいます。これらのガイドラインの目的は、投資家やステークホルダーが持続可能な慣行を見極め、環境に大きな影響を与える活動を判断する際の指針となるとともに、グリーンウォッシュを防止することです。 台湾が輸出を重視しており、またグローバルなサプライチェーンに不可欠なプレーヤーとして、重要な役割を担っていることを踏まえると、ESG原則をビジネス慣行に組み込み、グローバルブランド企業が求める厳格な要件を満たすことが、さらに重要になっています。 その結果、この転換期において企業を導き、ESGを巡る期待の高まりに効果的に対応することを可能にする、強固な枠組みが求められるのは必然だといえます。ESGに関する問題への関心は今後も高まる一方であり、最終的にはあらゆる業界に関心が注がれることになるでしょう。 ESG関連情報の開示については、金融監督管理委員会が、上場会社による持続可能性報告の作成及び提出に関する台北取引所(TPEx)規則を策定しています。 この規制枠組みでは、上場企業は年次ESG報告の提出を義務付けられています。2022年9月には重要な進展がありました。TPExがESGパフォーマンス指標を導入し、ESG情報の開示を強化したのです。この措置により、ステークホルダーは、企業の事業、実績、持続可能性に関する進展について、包括的に理解できるようになったのです。 さらに、現在では、TPExに上場している企業には、グローバル・レポーティング・イニシアチブが定めたガイドラインに基づく、ESG報告の公表が義務付けられています。また、米国サステナビリティ会計基準審議会と気候関連財務情報開示タスクフォースが公表している基準を参照するよう求められています。 コーポレート・ガバナンス3.0-持続可能な発展のロードマップでは、機関投資家によるスチュワードシップに関する情報開示の促進が強調されており、上場企業におけるガバナンスの強化を促しています。 また、グリーン・ファイナンス行動計画3.0は、金融機関や企業に対し、持続可能な経済活動への認識を深めるためのガイドラインを、戦略的計画や投融資評価に組み込むことを奨励しています。 全般的にみて、金融監督管理委員会は持続可能な経済活動に関するガイドラインを積極的に策定しており、これが投資家やステークホルダーによる持続可能な慣行の特定を後押ししています。このガイドラインの目的は、グリーンウォッシュの防止、および環境にインパクトを与える活動を定義することです。 日々の事業運営におけるESG原則の重要性は高まる一方であり、こうした状況を受け、ESGと持続可能性の価値の正確な反映を徹底するため、協調した取組みが行われています。 ESGの透明性を高めるため、政府は2024年に上場企業向けの統合ESGプラットフォームを構築する計画です。台湾の企業や金融機関にとって、グローバル・レポーティング・イニシアティブのガイドラインに基づくESG情報の報告・開示義務の枠組みは、引き続き重要な焦点となっています。 持続可能性金融評価スキームの導入に伴い、より多くの金融機関が自主的に評価に参加し、ESG関連の情報開示制度が整備された、成熟した投資市場が形成されることが期待されています。 将来待ち受けているもの 台湾はすでに、ESG、サステナブル・ファイナンス、インパクト投資の各取組みを積極的に進めていますが、より包括的なガイドライン、特に報告や情報開示に関するガイドラインの策定が、金融当局にとって急務となっています。 持続可能性と社会的インパクトに資金を効果的に振り向けるためには、公的機関が金融セクターの民間プレーヤーを支援することが極めて重要です。環境や社会に関する目標についての報告に伴う責任とコストを、個々の企業だけに負担させるべきでありません。 公的機関は、社会・環境活動に関する適切なデータの収集に利用できる低価格のツールと併せて、明確な報告・開示ガイドラインを提供する必要があります。このようなツールが利用できれば、ESGパフォーマンス評価の標準化が進み、計算ツールや財務ツールの交換を円滑にする、利用しやすいプラットフォームを通じたアクセスが実現する可能性もあります。このようなアプローチにより、持続可能投資のインパクトや実現可能性に懸念を持つ人々に信頼感が根付くでしょう。 また、地域の社会的・環境的状況に沿った具体的なベンチマークの開発も重要です。これにより、金融商品のパフォーマンスや非財務的影響に対する評価の精度を高めるとともに、リスク・マージンの要因を減少させることができます。台湾市場では、ソーシャル・インパクト債や、困難な状況にあるコミュニティへの投資に対する財政的優遇措置などの革新的なプログラムについて、実行可能性や成功の見込みが依然として検証の途上にあります。 事業組織法により事業形態の柔軟性が高まり、創造性の発揮と、民間のインパクト投資への資金流入につながるでしょう。創業者や企業所有者は柔軟に事業運営やガバナンスの形を決定し、企業形態をとっていない組織の受託者義務を、創業者や投資家の選好に基づいて修正することができます。この柔軟性は今後も、持続可能性投資やインパクト投資の追い風になるでしょう。 現在、ソーシャル・ファイナンスやパーパス・ドリブン企業を対象とする個別規制は存在しないため、法的モデルに関して私たちが主に推奨するのは、創業者や投資家の意図に合致し、ステークホルダーとの持続可能な関係構築に寄与する、個々の状況に適した構造を採用することです。 会計監査の際や税務当局との間で問題が生じるのを避けるためには、この点が極めて重要です。また、現行の税法では、目的が収益創出だけではない寄付や投資に対する優遇措置は設けられていません。 結論として、台湾のグリーン経済への移行とESG原則の金融エコシステムへの統合において示されているのは、気候変動が突き付ける課題への対処に先進的アプローチが取られているということです。改称された法律により、台湾の脱炭素化と持続可能性へのコミットメントはさらに強化されました。 種々の規制措置、報告要件、情報開示の枠組みを通じて、台湾は国際基準に沿った透明で責任あるビジネス環境の醸成を目指しています。しかし、公的機関、民間セクター、金融機関の持続的な協働が不可欠です。 Lee and Li 8/F, No. 555, Sec. 4, Zhongxiao E. Rd Taipei – 11072, Taiwan 電話: +886 2 2763 8000 Eメール: attorneys@leeandli.com www.leeandli.com
regional comparison of ESG regulations Thailand

ESG規制の地域比較:タイ

By Peerapan Tungsuwan, Varutt Kittichungchit, Muanjit Chamsilpa そして Dhiranantha Rithmanee, Baker McKenzie
インド インドネシア 日本 シンガポール 韓国 台湾 タイ 過去数年にわたり、ESG(環境・社会・ガバナンス)は世界中の企業の役員会議室における最重要テーマになっており、タイもその例外ではありません。気候変動への関心が高まる中、気候関連規制の状況に大きな変化が生じ、特にESG規制の動向にそれが顕著です。本稿では、タイにおける最近の環境関連規制の動向に焦点を当てます。 気候へのコミットメント タイの気候へのコミットメントには、いくつかの重要な進展が見られ、中でも2022年11月に国連気候変動枠組条約(UNFCC)事務局に提出された国別決定拠出金(NDC)の第二次更新が、目を惹きます。NDCの更新により、タイは温室効果ガス排出量を削減する意欲をさらに高め、20-25%としていた目標を、2030年の通常業務ベースでの予測に基づいて30%に引き上げました。十分な技術的および財政的な支援があれば、この貢献度は40%まで引き上げることも可能でしょう。NDCセクター別行動計画は、エネルギー、運輸、工業、廃棄物、農業の五つの主要セクターにおける温室効果ガス排出削減について、その目標、対策、および関連機関の責任を明らかにしています。 主要プレーヤー NDCの各目標を達成するには、温室効果ガス排出削減に向けたコラボレーションによる努力と、包括的な対策が必要です。またこれらの目標は、天然資源環境省(MONRE)、工業省(MOI)、エネルギー省(MOE)、運輸省(MOT)など、さまざまな政府機関の関与を必要としています。その他の多くの公的機関や民間セクターも大きな役割を担っており、国を低炭素社会へと導く重要な歩みを進めてきました。タイにおける現在の気候変動関連活動を担当する、主な機関は次のとおりです。 政策レベル。MONREの傘下にある天然資源・環境政策計画局(ONEP)は、気候変動政策の国家的な中心であり、国の気候変動問題に取り組むための政策や戦略を提案・策定し、気候変動に関する調査・研究・開発を実施する権限を有しています。さらに、MONREは環境品質促進局とONEPの一部の部門を統合し、「気候変動および環境局」という名称で、気候変動に特化した新しい部局を設立しようとしています。 工業セクター。MOIは、工業活動を監督する主要機関です。具体的には、MOIの工業事業局が、排出ガス監視や廃棄物管理など、工場の活動を規制する主要機関となります。PM2.5などの公害の制御は、MONREの公害制御局の管轄下にあります。 エネルギーセクター。 MOEは、石油関連産業や発電所などのエネルギー関連事業を監督する主要機関です。MOEはまた、再生可能エネルギー生産を認証する権限を有するタイ発電公社など、主要な国営企業の活動を規制しています。 運輸セクター。MOTは、運輸・交通政策企画室を通じて運輸セクターの排出削減計画策定に重要な役割を果たしていますが、財務省もまた、自動車の税制改正において決定的な役割を果たしています。内燃機関自動車の物品税は現在、CO2排出量に基づいていますが、将来はゼロ・エミッション車(ZEV)よりも高くなります。 林業および農業セクター。現在、森林関連の活動はMONREの3つの機関、すなわち王立森林局、国立公園局、海洋沿岸資源局によって監督されています。土地の登記と、特定の農地区画の割り当ておよび管理は、それぞれ内務省と農地改革事務所が監督しています。 タイにおける国内炭素クレジット制度。タイ自主的排出削減プログラム(T-VER)は、公的機関であるタイ温室効果ガス管理機構(TGO)によって開発されたもので、その目的は、あらゆるセクターが自主的に温室効果ガス削減に参加し、炭素クレジットを自主的に国内市場で取引することの促進と支援です。TGOは、CDM(クリーン開発メカニズム)の経験に基づき、ISO14064-2およびISO14064-3に準拠してT-VERを開発しました。この点に関して、TGOはプロジェクト開発、温室効果ガス排出削減の方法、プロジェクト登録、炭素クレジット認証に関する規則と手続を定めています。 最近の動向 タイ政府は、総合的なアプローチを採用し、排出削減に効果的に貢献できる分野に注力しています。気候変動目標を達成するための主な方法と規制の枠組に関する最近の動向には、次のようなものがあります。 気候変動法案。ONEPは、より本格的で包括的な気候管理のために、気候変動法案の第二草案を強力に推進しています。この法案には、大規模な政府プロジェクトの気候変動への影響またはリスクの評価、温室効果ガス排出量と地域ベースの気候変動リスクに関する中央データベース、民間セクターに温室効果ガス削減の経済的インセンティブを与える適切なメカニズム、などに関する条項が盛り込まれています。さらに同法案は、政府機関、指定工場およびビル、工場法に定める工場経営者など、特定の事業体に対して、排出量を毎年報告する義務を課しています。 植林。植林への土地利用を促すために、いくつかの法律が制定および改正されました。これには、官民の共同植林プロジェクトにおける炭素クレジット分配を促す林業当局による規制や、単位面積当たりの木本数の基準を緩和することで、2019年土地・建物税法に基づく土地利用が農業利用に分類されて最低税率を享受できるようにすること、などが含まれています。 廃棄物管理。1992年工場法の廃棄物管理体制に、汚染者負担原則が間もなく導入されます。これにより、廃棄物を発生させる工場に対して、廃棄物管理のコントロールと報告義務について、より高い責任基準が課されることになります。 電気自動車。電気自動車(EV)の国内での使用と生産を促進するため、2030年までにゼロ・エミッション車の割合を国内自動車生産台数の30%まで引き上げることを目指す、国のEVロードマップの主要政策「30@30」のもとで、数々の政府施策が承認されています。タイ政府はすでに、EVの輸入関税と物品税の免除・減税、および2024年または2025年に国内生産を開始できるEVメーカーに対する条件付き補助金などの、インセンティブ・パッケージを承認しました。 タイのタクソノミー。よりグリーンで環境に優しい経済活動を促進・支援して、気候変動を緩和するため、タイ銀行は、企業が自主的に環境影響を評価する際の標準的分類法として、国のタクソノミーの開発を進めています。その第1段階は、温室効果ガスの最大排出源であるエネルギーセクターと運輸セクターの活動に焦点を当てています。 炭素取引の品質基準強化。TGOは、T-VERの基準を従来の「スタンダードT-VER」から、高品質な炭素クレジットのための「コア・カーボン原則」に基づいた「プレミアムT-VER」へとアップグレードしています。プレミアムT-VERは、パリ協定の第6条メカニズムや、非営利団体Verraが管理する検証済み炭素基準を適用したものです。プロジェクト開発者にとってプレミアムT-VERは、国際基準を満たし、国際的なオフセット・スキーム(国際航空業のカーボン・オフセットおよび削減スキーム等)の適格性を備えたプロジェクトを開発するための、もう一つの選択肢となります。 FTI-X取引所。タイ工業連盟(FTI)はTGOと共同で、再生可能エネルギーと炭素クレジットの取引所としてFTI-Xを今年の初めに開所しました。この取引所では、T-VER、Verra、ゴールドスタンダードの炭素クレジット、再生可能エネルギーで発電された電力ユニット、国際再生可能エネルギー証書(I-REC)など、三種の資産の取引ができます。 ビジネスへの圧力 現在、タイには直接的な炭素税制度が無いにもかかわらず、投資家、(現地法人の本国の)本社、顧客、消費者、特に、EUのようにESG法がより成熟しており、具体的なESG法を備えている国々に所在する企業等から、ビジネス上の圧力が高まっているため、多くの事業者は、もしまだESGを自主的に採用して企業競争力を高めようとしていない場合、ESGの要求事項への準拠を迫られることになります。タイのサプライヤーたちは、しっかりと今後の展開に備えることでしょう。 民間セクターの役割 現在、T-VERプロジェクトの炭素クレジットの需要は、国内オフセット・プログラムであるタイ・炭素オフセット・プログラム(T-COP)からのものがほとんどです。炭素クレジットは、組織、製品、イベント、および個人の温室効果ガス排出量を相殺するために使用されます。しかし、T-VERクレジットは、その目的や適格基準に応じて、組織や企業に対して国際的に販売することができます。 民間セクターは、温室効果ガス削減プロジェクトを実施して市場で販売する炭素クレジットを創出するプロジェクト開発者として、あるいは自らの排出量を相殺するためのクレジット購入者として、大切な役割を果たしています。 結論 タイは、気候変動対策に全力で取り組んでおり、法的枠組の動きも従来になくダイナミックになってきています。これまで述べてきた展開とは別に、炭素の回収・利用・貯蔵プロジェクトの開発など、炭素管理のより効果的で持続可能なソリューションや、それらを促進する法的基盤などにおいて、官民の活発な協力が行われています。執筆者は、この分野が今後何年にも渡って進化し続けると予想しております。 Baker McKenzie 25th/F, Abdulrahim Place, 990 Rama IV Road Bangkok 10500 Thailand 電話: +66 2666 2824 Eメール: bangkok.info@bakermckenzie.com www.bakermckenzie.com
Evolving jurisprudence of arbitrability of fraud

詐欺の仲裁可能性に関する法理論の進化

By Faranaaz Karbhari,Mahafrin MehtaとSharan Shetty,HSA Advocates,ムンバイ
当事者自治の原則に基づき運用される仲裁条項は、大部分の商務契約の定型的規定になっています。1996年仲裁調停法は、特定の紛争を仲裁の対象にならないとして除外していません。しかし、第34条(2)(b)および第48条(2)では、紛争の主題を仲裁によって解決することが不可能な場合、裁定は無効であると規定されています。 1940年インド仲裁法は、紛争解決のメカニズムとして仲裁が規定された最初の法律です。1961年のAbdul Kadir Shamsuddin Bubere対Madhav Prabhakar Oakの裁判において、最高裁判所は、一方当事者が重大な詐欺行為の申立てを受け、その告訴された当事者が公開法廷での審理を希望した場合、これは、裁判所が仲裁合意の提出を命じない理由として十分であると判示しました。また、不正/不祥事を暗示するような、ある種の不誠実さを示唆する申立てのすべてが、重大な不正の申立てに該当するとは限らないという判断も示されました。 N Radhakrishnan対Maestro Engineersの裁判では、詐欺に関する問題は詳細な証拠調べが必要であり、紛争に重大な詐欺の容疑が含まれる場合は、公序良俗に基づき仲裁の対象にならないと判示されました。しかし、Swiss Timing対Commonwealth Games 2010組織委員会の裁判では、N Radhakrishn事件における判断が批判され、"per incuriam(不注意)"によるものだと宣告されました。Booz Allen and Hamilton Inc対SBI Home Finance Ltd.の裁判における最高裁判所の判決では、紛争に仲裁が適用されるか否かについての判断の根拠が確立されました。この判決では、紛争が物的権利に関するものであれば仲裁の対象にはできず、人的権利に関するものであれば仲裁の対象になると判示されました。 さらに、次のような類型の紛争は仲裁の対象とすることはできないとされました。(1)刑事犯罪に起因する紛争、(2)夫婦間の紛争、(3)後見に関する問題、(4)破産に関する問題、(5)遺言に関する問題、(6)特別法により規定される立ち退き・借家に関連する問題。詐欺行為の重大性を判断するためのテストは、A Ayyasamy対A Paramasivam & Orsの裁判において形成されました。この裁判において最高裁判所は、単純な詐欺と重大な詐欺について詳しく説明し、一方当事者が他方当事者に対して詐欺の主張をしただけでは、ある問題が仲裁の対象にならないと判断する根拠にすることはできないと判示しました。仲裁の対象にならないと判断するためには、詐欺の申立てが重大であるだけでなく、契約や仲裁条項の重要な有効性を損なうようなものでなければならないとされました。Avitel Post Studioz Ltd対HSBC PI Holdings (Mauritius) Ltdの裁判において、最高裁判所は、上記のN Radhakrishnanの判例はもはや適切ではなく、ある紛争に民事手続きや刑事手続きが関連しているというだけでは、必ずしも、その紛争が仲裁の対象にならないという結論が導かれないと判示しました。 さらに、1872年契約法の第17条は、契約そのものが詐欺や欺罔行為によって締結された場合に適用されると説示し、詐欺によって締結された契約と契約締結後の詐欺を区別しました。 2016年、最高裁判所は、信託証書および1882年信託法に起因する紛争を、仲裁の対象にならない紛争の7番目の類型に分類しました。2018年、裁判所は、1986年消費者保護法に起因する紛争は仲裁の対象にはならないと判示しました。 また、Vidya Drolia対Durga Trading...
Affordable homes strengthen communities

アフォーダブル・ハウジング(手が届く価格の住宅の供給)が、地域社会と経済を強くする

By Juhi Dave,Juhi DaveとShrusti Shah,HSA Advocates
アフォーダブル・ハウジングを通じて、低所得者層(LIG)や経済的弱者層(EWS)に属する人々への住宅や金融の提供を進めることができます。スラムが急増しているため、このような住宅の必要性が高まっています。政府は数多くのプログラムや政策、制度を通じて取り組みを進めていますが、手頃な価格の住宅の供給には難しい問題が伴うことが明らかになっています。 プロジェクトの遅延や中断が大きな障害になっています。皮肉なことに、許認可を取得に要する時間や土地区画の変更、情報不足がこうした遅れにつながっています。他にも、適切な土地が少ないという問題もあります。 さらに、コストの上昇も障害となっています。LIGに属する人々は住宅を購入できないだけでなく、高額の維持費も支払えません。ただし、2013年のアフォーダブル・ハウジング政策では、入居許可証の発行から5年間は、維持費を請求してはならないと規定されています。政府は手頃な価格の住宅に対する印紙税を引き下げましたが、開発に関して課される費用、土地登記税、政府の諸税や保険料など、その他の費用がプロジェクト費用のかなりの割合を占めており、全体的なコストを引き上げる要因になっています。住宅ローンの申請には、収入源の詳細、定住住所、安定した職業などに関する書類を提出する必要があります。恵まれない境遇にある人の大半は、そのような住所や職を持っておらず、ましてや書類を準備して提出することなどできません。しかも、高い利息の支払いを求められ、その支払いに苦労しています。担保にできる資産も、ほとんど、あるいは、まったく所有していません。 2016年不動産(規制および開発)法には、手頃な価格の住宅購入者の保護に役立つ規定が設けられました。同法は住宅購入者の利益の保護を目的としており、プロジェクトの適時完成に重点が置かれ、説明責任と透明性の向上を促しています。厳格な期限と規制が定められており、違反した場合には罰則の適用やプロジェクトの登録抹消につながります。 人口の増加と都市への集中に伴い、手頃な価格の住宅の必要性が高まっています。現行の制度やプログラムも、この問題の解決に役立っていますが、さらに多くのことを行う必要があります。とは言え、政府および各州は、あらゆる所得層の住宅購入を支援するために、数々の効果的な制度を導入してきました。2015年に開始されたPradhan Mantri Awas Yojana(Urban)〔略称:PMAY-U〕は、政府の最重点スキームです。このスキームは、住宅ローンの利息に対する補助金や、持続可能で環境に配慮した建築技術の利用などを通じて、EWS、LIG、および中所得層(MIG)を支援するものです。これには、水道、ガス、電気などの生活に不可欠なサービスの提供も含まれ、高齢者や障害者には1階の住戸が優先的に割り当てられます。 デリー開発庁の2018年住宅計画には、オンライン抽選によって割引価格のアパートを割り当てるなど、LIGを対象とする住宅供給スキームがいくつか設けられています。また、2023年6月には、LIG、MIG、EWSを対象にオンラインで先着順にアパートを販売するプログラムを開始し、5600戸が提供されました。需要の状況によっては、さらに多くの住戸が提供される可能性があります。 ハリヤナ州住宅局(HHB)は、EWSに上下水道、交通などの生活に欠かせないサービスを提供しています。HHBは新たな制度を通じて貧困層に住宅を供給しており、また、PMAY-Uの所管当局と協力して、裕福でない人々に中程度の住宅を提供しています。 マハラシュトラ州住宅・地域開発公社は、EWSに抽選で手頃な価格の住宅を提供する制度を実施しています。この制度を通じて、プネーやマハラシュトラで人気の高い地域の不動産を、手頃な価格で購入することができます。 タミル・ナドゥ州住宅局は、広告によってEWSに住宅を割り当てる制度を設けています。この制度では、競争入札と公開オークションのプロセスを通じて市販されている住戸をEWSに割り当てます。2023年4月、タミル・ナドゥ州都市住宅開発局は、EWSとLIGを対象に240戸の住宅を2億1000万インドルピー(250万米ドル)で提供しました。 アフォーダブル・ハウジングは、生活水準、安定性、経済的柔軟性の向上につながります。都市化の進展とそれに伴う手頃な価格の住宅の必要性は、政府が総合的なアプローチにより、この問題に取り組むべきであることを示しています。先般、EWSの課税額が30万インドルピーから60万インドルピーに引き上げられたため、この層の可処分所得が増加しています。マハラシュトラ州政府は、手頃な価格のサステナブルな住宅の供給に重点を置く新政策を導入し、割引や優遇措置を提供しています。さらに、官民の協働による賃貸住宅の提供やグリーンビルディング技術に注力することにより再開発を促進しています。 Himani Singh SoodはHSA Advocatesのパートナー、Juhi Dave=は同事務所のシニア・アソシエイト、Shrusti Shahは同事務所のアソシエイトです。 HSA Advocates 81/1, Adchini Sri Aurobindo Marg New Delhi – 110 017 India Construction House 5/F Walchand Hirachand Marg Ballard Estate Mumbai – 400 001 India www.hsalegal.com 連絡先詳細: 電話: +91 11 6638 7000 +91 22 4340 0400 Eメール: mail@hsalegal.com
India digital lending default loss guarantee

デジタル融資における債務不履行損失保証の再考

By Sawant SinghとAditya Bhargava,Phoenix Legal
2022年8月、インド準備銀行(RBI)は、デジタル融資に関する作業部会の勧告の一部実施について、プレスリリースで発表しました。作業部会が提出した勧告のうち、第一債務不履行損失保証(FLDG)に関するものについて、RBIはさらに検討を重ねました。この勧告への関心の高さを考えると、FLDGの提供がフィンテック・エコシステムの基盤の一つであることは明らかです。FLDGに対して最終的にどの程度厳格な規制が適用されるのかについて、業界内には大きな懸念が生じていました。 FLDGとは、テクノロジー・プラットフォーム・プロバイダーが、RBIの規制下にある事業体(RE)に紹介したローンについて、部分的に保証するものです。FLDGの取決めを2社のREの間で締結することも可能であり、REと非REの間の取決めに限定されません。RBIが2022年9月に発表したデジタル融資に関する当初のガイドラインでは、FLDGの提供が合成証券化と同一視されていたため、フィンテックや金融業界では困惑の声が上がっていました。FLDGとは、債権または債権プールの信用リスクの全部または一部を、信用保証または信用デリバティブによって移転する仕組みです。RBIは2023年6月8日、デジタル融資における債務不履行損失保証(DLG)に関して、さらなるガイダンスを発表しました。 2023年6月の通達では、その規定に準拠するDLGは、合成証券化あるいはローンパーティシペーションとして扱われないことが明確にされました。後者は、実際のローンは譲渡されず、ローンの経済的利益のみが譲渡される仕組みです。この通達は、すべての商業銀行と非銀行金融会社(NBFC)に適用されます。DLGは現在、通達において、REと、通達で規定された基準に合致するRE以外の企業との間で締結される、RE以外の企業がローン・ポートフォリオに生じた損失を、事前に合意した限度額まで補償するという、契約上の取決めと定義されています。REは、他のREまたは2013年会社法に基づいて設立された融資サービス・プロバイダー(LSP)とのみ、DLGを締結することができます(LSPの場合は、融資サービス・アウトソーシング契約を事前に締結したとき)。 DLGは、REとDLGプロバイダーとの間の、明確で法的強制力のある契約に基づいて締結する必要があります。DLG契約には、DLGの形式、REのDLG補償の維持方法、DLGの対象範囲、DLG発生のタイムライン、および2023年6月の通達により指定された追加開示要件を明記しなければなりません。DLGは、REに預託された現金、REを担保権者とする先取特権が付された商業銀行の定期預金、またはREを担保権者とする銀行保証の形でのみ、提供することが可能です。 DLGの期間は、DLGが提供されたローン・ポートフォリオの満期より短期であってはなりません。DLGによる補償を、DLGが設定されたローン・ポートフォリオの5%を超えて提供することはできません。REは、期日が到来した返済を債務者が履行した場合を除き、ローンの延滞が発生した日から最長120日以内にDLGを開始しなければなりません。 REは、不良資産や貸倒引当金などのDLGに適用されるプルデンシャル要件に従って、DLGの原債権である個々のローンを認識する責任を引き続き負います。DLGが実行されたローンからの回収金は、REとLSP間の契約上の取決めに従い、LSPとの間で分配することができます。興味深いことに、2023年6月の通達には、DLGの実行額は「原債権である個々のローンと相殺されてはならない」と明記されています。ローンに関して実行されたDLGの金額相当分だけ、当該ローンの残高が減少することを考えると、この規定の背後にある理由は定かではありません。 RBIがDLGの取決めについてガイダンスを発表したことは、歓迎すべきことです。これは、待ち望まれていた、そのような取決めの有効性の明確化につながりました。このガイダンスが公表されるまで、REは不確実な推測に基づいて、DLGの取決めを締結しなければなりませんでした。興味深いのは、RBIが公表したガイダンスのトーンが、RBIが想定している規制の当初の水準を示唆していることです。規制当局は当面、この業界を煩雑な規制で抑制するのではなく、奨励し、助成する方針をとるとみられます。 Sawant SinghおよびAditya Bhargavaは、Phoenix Legalのパートナーです。 Phoenix Legal Second Floor 254, Okhla Industrial Estate Phase III New Delhi – 110 020 India Vaswani Mansion, 3/F 120 Dinshaw Vachha Road, Churchgate Mumbai – 400 020 India 連絡先詳細: 電話: +91 11 4983 0000 +91 22 4340 8500 Eメール: delhi@phoenixlegal.in mumbai@phoenixlegal.in
comparison of M&A laws Asia

各国の M&A 関連法規の比較

世界中の投資家の関心の高まりと政府の優遇措置を背景として、アジアではM&Aの勢いに拍車がかかっています。ディールメーカーが厳しい競争市場で生き残るためには、直近のトレンドや最新の規制状況を常に把握しておくことが不可欠といえます。 インド 日本 フィリピン 台湾 タイ ベトナム 香港 インド M&A活動は、魅力的なバリュエーションとリターンの長期投資を求める企業の動向によって、2022年にはパンデミック前の水準に戻りました。その結果、企業の効率性を高めて先進的な改革を実施しようとする政府の努力に後押しされ、またインド企業が投資や買収による成長可能なレベルに達したことから、インドは望ましいM&A投資先国となりました。 インドの魅力は2022年、M&A取引件数と取引額がこれまでのすべての記録を上回る結果を導きましたが、これは拡大、統合、そしてインド市場への新規参入に牽引されたためです。記録的な水準のキャッシュが市場に投入され、優良資産も利用可能になったことから、取引組成が活発化し、取引額は139%増加しました。 同国の規制の枠組は、利用する投資手段のタイプによって、さまざまな分類を伴う多様な投資経路を提供しています。これにより、国内外の投資家は、仕組取引を通してインドの急速に拡大するセクターを活用することができます。 インドにおけるM&Aは、主として2013年会社法、1999年外国為替法とそれに付随した外国直接投資政策方針並びにインド準備銀行が発行した通達・通知・マスターディレクション、1992年インド証券取引委員会法とそれに伴ってインド証券取引委員会(SEBI)が発行した通達・通知・ガイドライン・ディレクション、2022年競争法、並びに上記法律に基づくさまざまな規則によって管理されています。 重点分野 ネット・ゼロ・エミッションを達成するために不可欠な手段として、インド経済ではグリーン・ファイナンスが注目を集めています。より環境に優しい経済への移行は、サステイナブルな投資手法、再生可能エネルギー資産、炭素税回避などの取り組みによって進められています。 グリーン・ファイナンスの機会への関心の高まりは、銀行、ノンバンク金融機関、ベンチャーキャピタル、プライベートエクイティファンドなどに見られます。 銀行、金融サービス、保険、ヘルスケア、エネルギー、製造業などの伝統的セクター(への投資)は、50%増の280億米ドルとなりました。 環境・社会・ガバナンス(ESG)投資は、2022年にブレイクアウト・テーマとして浮上し、クリーン・エネルギーと電気自動車への投資が先導役となって、約79億米ドルに達しました。 ESG 投資 2022年の省エネルギー(改正)法の告示と共に、規制当局はESGへのフォーカスを強めています。その対策には、再生可能エネルギーの発電・配電プロジェクトに対する100%外国直接投資の認可、投資信託のESGカテゴリー導入、グリーン・エネルギーへの転換を促進するための3500億インドルピー(43億米ドル)の支出、「国家グリーン水素ミッション」の承認、SEBI並びに2013年会社法に定める事業責任とサステイナビリティに関する報告の枠組みに基づいた、ESG関連開示の義務化などがあります。 インドにはまた、多くのESG注力型のファンドが参入しており、明らかな牽引力があることを示しています。一例として、Aavishkaar Group のインパクト投資部門で、ムンバイに本社を構える Aavishkaar Capital は、ドイツの投資・開発銀行KfWと共同で、2億5000万米ドルのESG優先ファンドを立ち上げると発表しました。同ファンドは、アジアとアフリカへの投資に重点を置いて中堅企業のESG活動を強化し、成長資金を提供します。 企業側もまた、ESGへの取り組みを進めています。例えば、JSWセメントは、MUFGバンク・インディアと40億インドルピー(5000万米ドル)の初のサステイナビリティ連動ローンの契約を締結しました。同社はサステイナビリティへのフォーカスを一層強めつつ、この資金を投入して年間2500万トンの生産能力目標を達成する計画です。 保険 プライベートエクイティ投資の増加とともに、カスタマイズされたリスク商品の出現や、経験豊富なアンダーライターのエコシステムの発展、そしてソリューション志向のカウンセリングを提供するアドバイザーなどが、保証・賠償保険への道を開く重要な指標の一部を成しています。 保証・賠償保険市場とコンフォート保険事業者の発展に伴い、「免責金額」(タイトルリスクの免責額ゼロを含む)の削減、保険料の引き下げ、および被保険者側に有利な条件が、保険商品の価値提案の説得力を増しています。 バリュエーション 安定と低金利と右肩上がりのバリュエーションが10年間続いた後、M&A業界の主な懸念は、膨張したバリュエーションと、投資家の期待と投資企業または売手からの希望価額との大きなギャップでした。流動性が世界中で逼迫する中、バリュエーションは健全な数値に戻りつつあります。投資家は、フィンテック・セクターのみならず、エドテック(教育xテクノロジー)や、動きの速い消費財セクターにおいても、デューデリジェンスを適時に実行し、バリュエーション指標を見直すようになっています。 取引組成における課題 インドはESGセクターへの資金流入を徐々に増加させていますが、依然として課題に直面しています。多くのセクターは、単に製品の特性や使用している技法が原因で、ESGに貢献することができないのです。企業は、意識的にESGに向かって移行し、より環境に優しいエネルギー源や、再生可能エネルギーを利用したビジネスモデルに資本を投資する必要があります。2023年競争法(改正)も、クロスボーダー市場に影響を与える重要な規制の先駆けとなりました。 AmazonやGoogleに代表されるような、コンプライアンスに違反したコングロマリットに対して、その取引を精査したり多額の罰金を課したりすることになるため、ディールメーカー達の間には、厳格な規制の遵守や進行中の取引への影響に関して、不確実感やさらなる懸念が広がっています。 データ保護に関しては、現在インドには独立した法律がなく、個人データの使用は2000年情報技術法によって規制されています。2022年のデジタル個人データ保護法案の導入に伴い、規制当局は、国内外における限定的な目的でのデジタル個人データの処理に対して監視を強化しています。 データ保護への注目度が高まることにより、買収者は対象企業のビジネスモデルを調査し、保有・移転するデータ量を確認するようになるでしょう。 成長の傾向 受託製造、再生可能エネルギー、製薬、ヘルスケアなどの業界におけるM&Aには、プライベートエクイティ投資会社、コングロマリット、ユニコーンが資産を買収し、それらを組み合わせてプラットフォームを構築するというシフトが起きており、それが追い風となっています。例を挙げると、インドのコングロマリットITCは、健康食品ブランドのYogabar への戦略的投資によってその地位を強化し、栄養志向のヘルシーフード市場のシェアを急速に拡大しました。Zomato は、デリバリーサービスの Blinkit を買収したことによってライバル Swiggy との競争を有利にし、即時デリバリー市場に浸透しました。 企業買収が急増する中、HDFC銀行と Housing Development Finance Corp の株式交換による、待望かつ前例のない合併が完了間近となり、純資産約1,680億米ドルのインドで5番目の企業価値となる銀行が誕生するなど、大型案件も見られます。また、Reliance Venture がドイツの小売会社 Metro AG のキャッシュ・アンド・キャリー事業であるMetro Cash & Carry India を買収し、Reliance Industries の小売帝国を拡大したことも、注目に値します。 企業の経営陣や投資家もまた、資本コストの上昇に対応して、資本配分のハードルを上げており、グループ組織の一員として利益拡大の可能性に確信が持てないような不採算会社や非中核事業を売却しています。債務削減は、事業売却の重要な理由の一つです。例えば Citibank はクレジットカード事業で勢いを失い、その支出率は2018年の11% から 2021年の6%へと低下しました。2021年、Citibank...
comparison of M&A laws India

各国の M&A 関連法規の比較: インド

By Raghubir Menon、Jeel PanchalとKetayun Mistry、Shardul Amarchand Mangaldas & Co
インド 日本 フィリピン 台湾 タイ ベトナム   M&A活動は、魅力的なバリュエーションとリターンがの長期投資を求める企業の動向によって、2022年にはパンデミック前の水準に戻りました。その結果、企業の効率性を高めて先進的な改革を実施しようとする政府の努力に後押しされ、またインド企業が投資や買収による成長可能なレベルに達したことから、インドは望ましいM&A投資先国となりました。 インドの魅力は2022年、M&A取引件数と取引額がこれまでのすべての記録を上回る結果を導きましたが、これは拡大、統合、そしてインド市場への新規参入に牽引されたためです。記録的な水準のキャッシュが市場に投入され、優良資産も利用可能になったことから、取引組成が活発化し、取引額は139%増加しました。 同国の規制の枠組は、利用する投資手段のタイプによって、さまざまな分類を伴う多様な投資経路を提供しています。これにより、国内外の投資家は、仕組取引を通してインドの急速に拡大するセクターを活用することができます。 インドにおけるM&Aは、主として2013年会社法、1999年外国為替法とそれに付随した外国直接投資政策方針並びにインド準備銀行が発行した通達・通知・マスターディレクション、1992年インド証券取引委員会法とそれに伴ってインド証券取引委員会(SEBI)が発行した通達・通知・ガイドライン・ディレクション、2022年競争法、並びに上記法律に基づくさまざまな規則によって管理されています。 重点分野 ネット・ゼロ・エミッションを達成するために不可欠な手段として、インド経済ではグリーン・ファイナンスが注目を集めています。より環境に優しい経済への移行は、サステイナブルな投資手法、再生可能エネルギー資産、炭素税回避などの取り組みによって進められています。 グリーン・ファイナンスの機会への関心の高まりは、銀行、ノンバンク金融機関、ベンチャーキャピタル、プライベートエクイティファンドなどに見られます。 銀行、金融サービス、保険、ヘルスケア、エネルギー、製造業などの伝統的セクター(への投資)は、50%増の280億米ドルとなりました。 環境・社会・ガバナンス(ESG)投資は、2022年にブレイクアウト・テーマとして浮上し、クリーン・エネルギーと電気自動車への投資が先導役となって、約79億米ドルに達しました。 ESG 投資 2022年の省エネルギー(改正)法の告示と共に、規制当局はESGへのフォーカスを強めています。その対策には、再生可能エネルギーの発電・配電プロジェクトに対する100%外国直接投資の認可、投資信託のESGカテゴリー導入、グリーン・エネルギーへの転換を促進するための3500億インドルピー(43億米ドル)の支出、「国家グリーン水素ミッション」の承認、SEBI並びに2013年会社法に定める事業責任とサステイナビリティに関する報告の枠組みに基づいた、ESG関連開示の義務化などがあります。 インドにはまた、多くのESG注力型のファンドが参入しており、明らかな牽引力があることを示しています。一例として、Aavishkaar Group のインパクト投資部門で、ムンバイに本社を構える Aavishkaar Capital は、ドイツの投資・開発銀行KfWと共同で、2億5000万米ドルのESG優先ファンドを立ち上げると発表しました。同ファンドは、アジアとアフリカへの投資に重点を置いて中堅企業のESG活動を強化し、成長資金を提供します。 企業側もまた、ESGへの取り組みを進めています。例えば、JSWセメントは、MUFGバンク・インディアと40億インドルピー(5000万米ドル)の初のサステイナビリティ連動ローンの契約を締結しました。同社はサステイナビリティへのフォーカスを一層強めつつ、この資金を投入して年間2500万トンの生産能力目標を達成する計画です。 保険 プライベートエクイティ投資の増加とともに、カスタマイズされたリスク商品の出現や、経験豊富なアンダーライターのエコシステムの発展、そしてソリューション志向のカウンセリングを提供するアドバイザーなどが、保証・賠償保険への道を開く重要な指標の一部を成しています。 保証・賠償保険市場とコンフォート保険事業者の発展に伴い、「免責金額」(タイトルリスクの免責額ゼロを含む)の削減、保険料の引き下げ、および被保険者側に有利な条件が、保険商品の価値提案の説得力を増しています。 バリュエーション 安定と低金利と右肩上がりのバリュエーションが10年間続いた後、M&A業界の主な懸念は、膨張したバリュエーションと、投資家の期待と投資企業または売手からの希望価額との大きなギャップでした。流動性が世界中で逼迫する中、バリュエーションは健全な数値に戻りつつあります。投資家は、フィンテック・セクターのみならず、エドテック(教育xテクノロジー)や、動きの速い消費財セクターにおいても、デューデリジェンスを適時に実行し、バリュエーション指標を見直すようになっています。 取引組成における課題 インドはESGセクターへの資金流入を徐々に増加させていますが、依然として課題に直面しています。多くのセクターは、単に製品の特性や使用している技法が原因で、ESGに貢献することができないのです。企業は、意識的にESGに向かって移行し、より環境に優しいエネルギー源や再生可能エネルギーを利用したビジネスモデルに資本を投資する必要があります。2023年競争法(改正)も、クロスボーダー市場に影響を与える重要な規制の先駆けとなりました。 AmazonやGoogleに代表されるような、コンプライアンスに違反したコングロマリットに対して、その取引を精査したり多額の罰金を課したりすることになるため、ディールメーカー達の間には、厳格な規制の遵守や進行中の取引への影響に関して、不確実感やさらなる懸念が広がっています。 データ保護に関しては、現在インドには独立した法律がなく、個人データの使用は2000年情報技術法によって規制されています。2022年のデジタル個人データ保護法案の導入に伴い、規制当局は、国内外における限定的な目的でのデジタル個人データの処理に対して監視を強化しています。 データ保護への注目度が高まることにより、買収者は対象企業のビジネスモデルを調査し、保有・移転するデータ量を確認するようになるでしょう。 成長の傾向 受託製造、再生可能エネルギー、製薬、ヘルスケアなどの業界におけるM&Aには、プライベートエクイティ投資会社、コングロマリット、ユニコーンが資産を買収し、それらを組み合わせてプラットフォームを構築するというシフトが起きており、それが追い風となっています。例を挙げると、インドのコングロマリットITCは、健康食品ブランドのYogabar への戦略的投資によってその地位を強化し、栄養志向のヘルシーフード市場のシェアを急速に拡大しました。Zomato は、デリバリーサービスの Blinkit を買収したことによってライバル Swiggy との競争を有利にし、即時デリバリー市場に浸透しました。 企業買収が急増する中、HDFC銀行と Housing Development Finance Corp の株式交換による、待望かつ前例のない合併が完了間近となり、純資産約1,680億米ドルのインドで5番目の企業価値となる銀行が誕生するなど、大型案件も見られます。また、Reliance Venture がドイツの小売会社 Metro AG のキャッシュ・アンド・キャリー事業であるMetro Cash & Carry India を買収し、Reliance Industries の小売帝国を拡大したことも、注目に値します。 企業の経営陣や投資家もまた、資本コストの上昇に対応して、資本配分のハードルを上げており、グループ組織の一員として利益拡大の可能性に確信が持てないような不採算会社や非中核事業を売却しています。債務削減は、事業売却の重要な理由の一つです。例えば Citibank はクレジットカード事業で勢いを失い、その支出率は2018年の11% から 2021年の6%へと低下しました。2021年、Citibank...
comparison of M&A laws Japan

各国の M&A 関連法規の比較: 日本

By 飛岡 和明、佐橋 雄介と金子 涼一、アンダーソン・毛利・友常法律事務所
インド 日本 フィリピン 台湾 タイ ベトナム   パンデミックと地政学的緊張の高まりを契機として、世界各国のM&Aに関する法規制は大きく進展しており、日本も例外ではありません。日本への投資を検討している投資家にとって特に最近の規制動向に注意を払う必要がある主要な領域としては、対内直接投資規制(FDI)と買収防衛策が挙げられます。 対内直接投資規制 日本における対内直接投資を規制する重要な法律である外国為替及び外国貿易法(外為法)は、国際的な規制動向に対応するために改正がされています。外為法が規制する対内直接投資には、以下の具体例のほか(「投資」と明確に表現されていないものも含め)幅広い行為がカバーされています。 日本の上場会社の株式の1%以上を取得すること 外国投資家以外の者から日本の非上場会社の株式を取得すること 日本企業の特定の意思決定事項(事業の大幅な変更、取締役や監査役の選任など)について、所定の条件を充足する場合に、賛成票を投じること 法定の基準を超えて日本企業に融資すること 日本国内に支店、工場、その他の事業所を設立すること 外為法は、日本に投資する外国投資家に対し、原則として、日本銀行を通じて関係省庁に事後報告書を提出するよう義務付けています。ただし、対象企業(またはその子会社)が外為法および関連政令で定める一定の業種(指定業種)を営んでいる場合は事前届出が必要です。 なお、指定業種には、国家安全保障に関連する伝統的な業種(電気通信、原子力など)だけでなく、ソフトウェアの開発受託や情報処理などのテクノロジー関連業種も含まれます。また、指定業種のリストは、国家・経済安全保障を巡るグローバルな動向を踏まえて、継続的に更新されていることにも留意する必要があります。 指定業種のリストに最近追加された項目としては、2020年に医薬品・医療機器関連事業(世界的なパンデミックの影響を受けて追加)、2021年にレアアース関連事業(レアアースの安定供給確保のために追加)、2023年に半導体、産業用ロボットなどの重要物資・製品のサプライチェーンに関する事業(サプライチェーンを巡る懸念の拡大と民間技術の軍事目的への無許可転用等に対処するために追加)が挙げられます。 日本では、経済安全保障を強化することを目的として新たに経済安全保障推進法(経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律)が制定されました。経済安全保障推進法は、日本における対内直接投資を直接規制するものではないものの、直近の指定業種の追加は同法と対内直接投資規制を整合させるためのものであると一般に理解されています。 外為法は事前届出の免除制度についても規定していますが、免除制度が適用されるか否かを判断するには、相当に複雑で技術的な分析とプロセスが求められます。たとえば、特に重要かつ国の安全を損なうおそれが大きいコア業種への対内直接投資については、原則として事前届出は免除されません。また、コア業種については、関係省庁も通常よりも強い関心を持ち、より厳しく審査をする傾向にあるため、コア業種への投資に関しての見通しは不透明にならざるを得ません。 また、日本の規制当局は、仮に事前届出が免除されたとしても、国家の安全保障に影響し得る投資に対する監視を継続する可能性もあります。たとえば、テンセント・ホールディングスが携帯電話事業等を営む楽天グループに出資した際、外為法上の事前届出が免除される形で出資が実施されましたが、日本政府は当該出資を継続的に監視する意向を表明しています。 事前届出が必要な場合、該当する指定業種の所管大臣による法定の審査機関は、届出が正式に受理されてから30日間とされています。この法定期間の間は事前届出の対象となった取引を実行することはできません。国家安全保障、公序良俗や治安等の観点から問題があると判断された事案については、取引の中止や変更が勧告されることがあります。 直近数年間において、指定業種の拡大が続いていることも踏まえると、外国投資家が検討中の対内直接投資が事前届出の要件に該当するか否かを判断する際には、十分な助言を受ける必要があります。たとえば、テクノロジー関連のスタートアップへの投資の相当数が、外為法に基づく事前届出及び審査の対象になっています。また、事前届出の対象となる対内直接投資には、対象企業の外国人株主による同意の議決権行使が該当する可能性がある点も、見過ごされがちなため注意が必要です。 外国投資家が日本への対内直接投資に関する規制に対応し、不注意による事前届出義務の違反を防止し、また投資プロセスを合理化するためには、日本の経験豊富な弁護士と協力して事前に慎重な確認を行うとともに、体系的なアプローチを検討することが肝要と言えるでしょう。 買収防衛策 日本における買収防衛策は近年大きな変化を遂げています。2000年代半ば以降、数百もの上場会社がいわゆる「事前警告型」の買収防衛策を導入してきました。この買収防衛策では、多くの場合、敵対的買収を行おうとする買収者のみを差別的に扱う行使条件で、すべての株主に新株予約権を無償で割り当てる権限が対象企業の取締役会に事前に付与されます。 この買収防衛策は、将来起こり得る敵対的買収に備え、前もって株主の承認を取得するものです。しかし、機関投資家や、その議決権行使に求められるスチュワードシップ責任の厳格化も一因となって、このような買収防衛策を採用する上場企業は減少しつつあります。2023年4月現在、日本の全上場企業のうち、起こり得る買収に備えて事前警告型の買収防衛策を導入しているのはわずか269社、つまり6.8%にすぎません。 このような状況を背景として、新しい形態の買収防衛策が登場しました。これは「有事導入型」と呼ばれるもので、企業が予期せぬ敵対的買収に直面した場合にのみ実施されます。一部の敵対的買収では、このような買収防衛策に対して差止仮処分が申し立てられ、その結果、2021年と2022年には重要な司法判断が蓄積されました。現在までの裁判例によると、裁判所が認めた有事導入型買収防衛策はすべて株主の承認を得て実施されており、司法は一般的に株主の意思を尊重しているように見受けられます。しかし、有事導入型買収防衛策に対する裁判所の態度に関して、明確ではない点もいくつか残っています。これは最近の対照的な2件の事案から見て取れます。 1つ目は、2021年の東京機械製作所(TKS)の買収防衛策に関するものです。この事案では、市場取引を通じてTKSの株式の約40%を取得した買収側が、買収防衛策の差止仮処分を裁判所に申し立てました。東京高等裁判所は買収側の申立てを却下し、最高裁判所もその判断を支持しました。東京高裁は、かかる買収防衛策が「マジョリティー・オブ・マイノリティー」による決議(株主総会において、買収側と企業側経営陣を除く、買収に利害関係をもたない出席株主の過半数の賛成により決議すること)の方法がとられたにもかかわらず、TKSの株主によって承認されたことを重視しました。 2つ目は、2022年の三ッ星の買収防衛策に関するものです。この事案では、市場取引を通じて、同調者と合わせて同社の株式の約22%を取得した買収側が、買収防衛策の差止仮処分を裁判所に申し立てました。大阪高等裁判所は買収側の申立てを認め、最高裁判所もその判断を支持しました。三ッ星は、買収側と同調者だけでなく、以前の株主総会で三ッ星の取締役解任に賛成した株主に対しても対抗措置を行使するための議案を株主総会に提出し、承認を得ていました。 この2件の類似した事案について、裁判所は異なる判断を下したようにみえますが、三ッ星とTKSの事案には異なる点があることに留意するべきです。 具体的には、三ッ星事件に関して裁判所は以下の点を指摘しています。 すなわち、三ッ星は、以前の株主総会において取締役解任に賛成票を投じた株主にも対抗措置が適用されると宣言していたため、株主は今回の対抗措置に賛成するよう強要されたと感じた可能性があることから、対抗措置に対する株主の承認の有効性について疑義が生じたこと、買収側とその同調者が対抗措置の適用から免れるための三ッ星の提案は現実的なものではなく、また、株主の権利を過剰に制限するものであること、対抗措置は、三ッ星の現在の取締役の留任を可能にするものであり、経営支配権維持のためのものであることを指摘しています。 一般的な司法判断と同様に、各事案の具体的な事実関係と状況が、その結果に直接影響することになります。そのため、上述の2件の事案を含め、公表されている裁判例を踏まえても、敵対的買収に対する司法の態度には依然として不明確さが残ります。 日本の経済産業省は、2023年6月に「企業買収における行動指針(案)」を公表しました。2023年8月に終了するパブリックコメント手続を経て、最終化される予定です。本指針は、ベストプラクティスの提示と予見可能性の向上とともに、社会にとって経済的に望ましい買収の促進と公正で適切に機能するM&A市場の発展を目的としています。このような目的に向けた取組みの一環として、本指針には買収に対する対抗措置に関する章も含まれています。 Anderson Mori & Tomotsune Otemachi Park Building 1-1-1 Otemachi, Chiyoda-ku Tokyo 100 8136, Japan お問い合わせ: 電話: +81 3 6775 1000 Eメール: info@amt-law.com www.amt-law.com
comparison of M&A laws Philippines

各国の M&A 関連法規の比較: フィリピン

By Maria Elizabeth Peralta Loriega、Bryan San JuanとRecolito Ferdinand N Cantre Jr、Sarmiento Loriega Law Office
インド 日本 フィリピン 台湾 タイ ベトナム   フィリピンは、国民からの強い負託に後押しされ、M&Aに影響する重要な改革を実施しています。 再生可能エネルギー フィリピンの太陽光、風力、水力発電プロジェクトは現在、外国(法)人による100%所有が認められています。2022年9月、司法省(DOJ)は、太陽光、風力、水力、海洋または潮汐エネルギーは1987年憲法に定める「天然資源」ではない、との意見書第21号を発表しました。 この意見書に従い、エネルギー省(DOE)は2022年11月に、再生可能エネルギー業界における外国人所有規制を解除するDOE通達DC 2022-11-0034号を発行しました。司法省の意見書以前は、1987年憲法第12条第2項に基づく外国資本規制が、再生可能エネルギー分野に適用されていました。 天然資源に関する厳しい憲法上の規制は、フィリピンで切望されている外国からの投資を妨げると見なされがちでした。当初、司法省の意見書は、1987年憲法下の「天然資源」という用語を無許可に再解釈したものであるとの見方もあり、懐疑的に受け止められたこともありました。それでも、DOJとDOEの発表に異議を唱える人はありませんでした。実際の訴訟や論争において最高裁が最終決定を下すまで、投資家は、これらの発表が有効で合憲と推定されるという法的原則に依拠することができます。 公益事業 フィリピンの通信事業は、以前は公益事業と見なされていたいくつかの事業を含めて、現在、外国人による100%所有が認められています。2022年3月、フィリピン議会は共和国法第11659号を制定し、公益事業を定義する旧態依然とした連邦法第146号を改正しました。この改正により、公益事業の定義は、以下のいずれかを公共用に運営、管理または統制する公共サービスに限定されました。 配電 送電 パイプラインと送油システムを含む、石油および石油製品 排水管システムを含む、上下水道システム 港湾 公益交通車両 共和国法第11659号は、公益事業の定義を上記の排他的リストに限定することで、空港事業、鉄道事業、通信事業など、従来は公益事業に分類されていた多くの事業を、外国人持ち株比率の上限を40%に制限する1987年憲法第12条第11項から除外しています。 証券取引委員会やその他の政府機関からは、公益事業の定義を空港でのハンドリング業務にまで拡大するよう求める意見が多数出されていましたが、改正法によって限定された定義は、これらの意見を事実上覆すものでした。 上記の進展を踏まえ、第12次外国投資ネガティブリスト (FINL) には、一例として、通信産業は公益事業ではないため、外国資本の上限を40%とする規制の対象外であることが反映されています。そのため通信事業会社は100%外国人所有が可能になりましたが、重要なインフラが関係する場合には、その外国人投資家の自国に互恵主義を要求するなどの特別な条件が前提となっています。 ただし、共和国法第11659号は、外国政府または外国の国有企業が支配権を有しているか、もしくは外国政府の代理として行動する事業体に対して、公益事業または重要インフラに分類される公共サービスの資本所有を禁止しているので、これに留意することが重要です。この法律において重要インフラとは、物理的か仮想的かを問わず、フィリピンにとって極めて重要なシステムや資産を所有、使用、運用する公共サービスのことであり、そのようなシステムや資産が機能不全に陥ったり、破壊されたりすると、大統領により示される通信及びその他の重要サービスを含む、国家安全保障に有害な影響を及ぼすようなものを意味します。 公共サービスが重要インフラである場合、同法は、その外国人の自国が外国法、条約または国際協定に基づいてフィリピン国民に対する互恵主義を認めない限り、外国人が当該重要インフラの運営と管理に従事する事業体の資本の50%超を所有することを禁止しています。互恵主義は、外国投資家の自国が別の経済セクターにおいて同様の価値の権利を認める場合でも、充足される可能性があります。 天然資源の利用に対する憲法上の制限が緩和された場合と同様に、公益事業の定義の改正も、当初は、公益事業の定義を単なる法令上ではなく、より重要な憲法上のものとみなす保守的な憲法学者らの批判にさらされました。憲法上の概念である以上、これを単なる法令で変更することはできないと主張されてきたのです。それでも、然るべき裁判所によって破棄されない限り、この法律は有効とみなされます。 小売業、防衛資材 FINL はまた、小売業自由化法の改正を反映し、小売業会社の払込資本金を250万米ドルから2500万フィリピンペソ(45万8000米ドル)に引き下げました。従って、小売業に従事する外国企業は、より容に事業を設立することができます。 国防省の許可を必要とする製品の製造や流通は、第12次FINLから削除され、事実上、外国資本規制は撤廃されました。これより以前、戦争用の銃や弾薬、兵器、誘導ミサイル、戦術機、宇宙船、軍事通信機器の製造については、外国資本が40%までに制限されていました。 新合併規制 M&Aの当事者は、フィリピン競争委員会 (PCC) が定めた新しい合併届出基準値(当事者規模テスト、取引規模テスト)も考慮しなくてはなりません。 2023年3月1日以降、M&A当事者は、当事者規模が70億フィリピンペソを超え、取引規模が29億フィリピンペソを超える場合、PCCに届け出ることが義務づけられています。 合併届出を遵守しなかった場合、当事者には取引額の1% から 5% という多額の罰金が課されます。フィリピン競争法では、M&Aが関連市場における競争状況の大幅な低下につながる場合、当該M&Aは禁止であるというPCCの認定を損なうことなく、M&A契約も無効となります。M&Aが合併規制要件に準拠していないとして無効であると宣言された場合、当事者の将来の取引は、より厳しい規制当局の監視を受けることになります。 税制改革 TRAIN法(「税制改革法」)とCREATE法(「企業復興税制優遇措置法」)という二つの税制改革パッケージにより、フィリピンの税法に大きな変更が導入されました。2020年7月1日以降の法人税率は25%になります(従前は30%)。純利益が500万フィリピンペソ以下で、資産(事業所の所在地の土地を除く)が1億フィリピンペソ以下の法人については、法人税率はさらに引き下げられて20%になりました。 特筆すべき変更点は、不当留保金課税(IAET)に関する税法規定の廃止です。不当留保金とは、株主への配当や正当な事業目的に充当されていない、企業の内部留保を指します。この廃止により、投資家はIAET評価のリスクを負うことなく、資金を他の事業目的の国内子会社レベルで、無期限に預け置くことができるようになりました。 印紙税(DST)については、TRAIN法によってほとんどの税率が100%引き上げられましたが、債券の印紙税引き上げは50%にとどまり、現行のとおり債券発行価額の0.75% となりました。財産(損害)保険契約、信用保険その他の保険、補償債券、売却証書、および不動産の譲渡・寄付に関する印紙税は、変更されませんでした。 TRAIN法では、内国歳入庁(BIR)による非課税交換の確認裁定が不要となり、非課税交換に関するBIR の裁定にのみ見られた従来の解釈を、税法の条文に盛り込むこともなくなりました。これらの改正により、これまでフィリピンにおいて、非課税交換として組成されるM&Aの妨げとなっていた問題の大半が取り除かれました。 もう一つの注目すべき改正点は、適切かつ充分な対価に満たない財産の譲渡にも贈与税を課すという、税法上の「みなし贈与」規定を明確に除外したことです。TRAIN法では、通常のビジネスプロセスで、互いに独立した立場で行われた、善意による財産の売買・交換、その他の形態による譲渡は、「みなし贈与」の規定から除外され、その結果、贈与者に対する課税の対象ではなくなりました。このような取引は、寄付行為の意図がなく、したがって金銭または金銭に相当する十分で完全な対価で行われる場合、善意かつ対等な取引とみなされます。 CREATE法は、所得税免除、法人税の特別税率、控除の拡大、関税の免除、および付加価値税の免除などの税制優遇措置を導入しました。これらの税制優遇措置は、戦略的投資優先計画 (SIPP) に規定されている、農業、漁業、林業、代替エネルギー、大衆住宅、グリーン・エコシステムなどにおける、特定の活動や登録事業および企業に適用されます。SIPP のもとでは、産業は三つの階層に分類され、それぞれの階層によって、その活動や企業が利用できる税制優遇措置の期間や種類が決められています。 Sarmiento Loriega Law Office 29/F, Joy Nostalg Center, 17 ADB Ave. Ortigas Pasig City, Metro Manila...
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各国の M&A 関連法規の比較: 台湾

By James HsiaoとLori Hung、デントンズ
インド 日本 フィリピン 台湾 タイ ベトナム   台湾の対外取引は、パンデミック、渡航制限、サプライチェーンの混乱に関連して世界の情勢が不確実になるなか、過去2年間にわたり減少していました。地域開発への注目の高まりを受け、風力発電所や太陽光発電所などのグリーンエネルギー開発に振り向けられる資金が増加しています。 経済部投資審議委員会(MoEA)が発表した統計からも明らかなように、また執筆者も同じ認識を持っていますが、海運、倉庫業、卸売業、小売業などの業種で企業活動が増加しています。これは、台湾の企業が渡航制限の解除に向けて準備を整えており、対外取引が再び活発化すると予想していることを示しています。 また、企業が新たな機会を模索し始める一方で、メーカー、サプライヤー、ビジネスパートナーがアジア太平洋地域への影響力と存在感を増していることから、現地のM&A市場が新たな盛り上がりを見せることが期待されます。 重要法令 M&Aに関連する主な法令には、以下のようなものがあります。 会社法(所管:MoEA) 企業合併及び買収法(所管:MoEA) 証券取引法(所管:金融監督委員会) 外国人投資条例(所管:MoEA) 各M&Aの対象企業の業種や取引の構造によっては、他の法令や規制が適用される可能性があることに留意するべきです。 たとえば、海外投資家が風力発電所や太陽光発電所などの再生可能エネルギー業界でM&Aを実施しようとする場合、再生可能エネルギー開発法が適用されます。M&A取引が現従業員の雇用関係の大きな変更を伴う場合には、労働基準法(所管:労働省)が適用される可能性があります。 規制についての最新情報 台湾のM&A市場への関心の高まりを受けて、2023年4月21日に証券取引法の改正が公布されました。改正前は、公開会社の発行済み株式総数の10%を超える株式を取得する個人または法人は、その取得を主管官庁に報告するとともに、公告する必要がありました。また、証券取引所や店頭市場を介さずに公開会社の有価証券の購入を行う公開買付は、主管官庁に報告した後でなければ実施できませんでした。 改正後、報告基準は公開会社の発行済み株式総数の5%に引き下げられました。 行政院が公表した企業合併及び買収法の改正案は、2022年5月24日に可決されました。この改正により、現取締役に対して、合併に関する重大な利害関係や合併への賛否の理由の公表が義務付けられました。その結果、会社と株主の間の情報の透明性が向上し、株主は合併に関してより詳細な情報に基づいて判断できるようになりました。 また、株主総会の承認を必要とする事項についての制限も緩和されました。合併の対価が企業の純資産価値の20%を越えない場合、取締役会の決議のみで合併を決定することができるようになり、合併プロセスが簡素化し、要する時間の短縮につながりました。さらに、合併により取得した無形資産の費用を一定期間内に償却できるようになり、また、スタートアップ企業の起業家は、スタートアップ企業を売却する際に受け取る対価に課される所得税を、売却後3年の期間内に納付することができるようになりました。 上記の改正は、企業のM&Aにとって望ましい環境の形成を目的としており、渡航制限が解除され、対外商取引が再び活発化するなかで、M&Aの件数は増加するとみられます。 この改正に先立つ2020年1月、司法院は商事事件審理法を公布しました。従来、商事訴訟事件は通常複雑で、他の事件が生じる傾向があり、多くの場合、短期間で解決することはできませんでした。その結果、関連企業の操業が制限され、市場の投資意欲に水を差し、さらには台湾の経済的競争力に影響したり損害を与えたりする可能性もあります。 商事事件審理法は、訴訟開始前の調停の義務化により、訴訟手続きを簡素化しています。また、経験豊富な金融の専門家や、関連する経歴のある者を調停人へ任命することについて規定しています。 さらに、調停で解決できなかった事件については、商事裁判所は当事者自身による弁護を禁止し、資格のある弁護士の選任を義務付けています。これにより、プロセスがさらに簡素化・迅速化され、潜在的な商事紛争に企業が対処しやすい環境の形成につながっています。 投資に対する障壁 体内投資誘致を目的とする複数の立法措置にもかかわらず、外国人投資家は状況に応じて、いくつかの障壁を乗り越えなければなりません。 まず、外国人投資家が業界を理解し、規制を遵守するよう図るため、投資委員会が対内投資と対外投資の双方について基準を設定し、審査を行います。外国人投資家は事前に投資委員会に申請し、承認を受ける必要があります。外国人投資条例および関連施行規則に従い、申請の認否は委員会の裁量に委ねられています。 申請が承認された場合でも、投資委員会がさらに書類の提出を求めることもあります。審査プロセスは厳格で詳細にわたるため、最終的に承認されるまでに数カ月を要することも珍しくありません。 次に、大陸資本の企業・個人による台湾への投資は、台湾の大陸委員会が所管する両岸法およびその施行規則により規制されています。状況によっては、多額の資本を持つ中国本土の企業が特定の規制産業に投資することは難しいかもしれません。 さらに、最近の米中間の貿易摩擦に関連して世界的に不確実性が高まっているため、国際企業は、この2つの大国の企業と取引する際には全体的な構成と取引態様を再考する必要があるかもしれません。 したがって投資家は、現在の貿易摩擦だけではなく、地域的なビジネスへの影響についても慎重に考え、戦略を練る必要があります。 最後に、米連邦準備制度理事会(FRB)は、2022年だけでも7回の利上げを発表しました。利上げは2023年も継続されています。これを受けて、台湾中央銀行も利上げを発表し、地元銀行もこれに追随しました。金融機関からの融資を必要とする企業にとって、これがさらさなる障壁になるかもしれません。M&Aのオファーを判断する際には、将来の金利上昇の可能性を考慮に入れる必要があります。 M&Aの展望 上述したような課題はあるものの、私たちは台湾のM&A市場の2023年の見通しについて引き続き楽観的な見方を維持しています。パンデミックは数々の産業に影響を及ぼし、損害を与えましたが、これは、影響を受けた産業において企業統合が進む契機になり得るとも考えられます。 M&Aの促進につながる法令の施行と商事紛争を専門に担当する裁判所の設置を背景として、2023年以降もM&A市場の継続的な成長が期待されます。 DENTONS 3F, No. 77, Section 2 Dunhua South Road Taipei, Taiwan お問い合わせ: 電話: +886 2 2702 0208 Eメール: james.hsiao@dentons.com.tw www.dentons.com.tw
comparison of M&A laws Thailand

各国の M&A 関連法規の比較: タイ

By Charunun SathitsuksomboonとWanwanuch Pornlert、Tilleke & Gibbins
インド 日本 フィリピン 台湾 タイ ベトナム   タイにおける非公開有限会社および公開有限会社のM&Aの実施方法にはさまざまなものがあり、それには、有限会社の既存株主からの株式取得、有限会社が発行する新株の引き受け、有限会社同士の新設合併、有限会社の資産または事業の全部または一部の取得、非公開有限会社同士の吸収合併などが含まれます。 非公開有限会社を規制する主な法令は民商法典です。一方、公開有限会社に対しては、タイ証券取引所(SET)に上場している場合を除き、主に1992年改正公開有限会社法が適用され、加えて、1992年証券取引法、証券取引委員会(SEC)規則、資本市場監督委員会(CMSB)規則、SET規則も適用されます。タイの有限会社が関与するM&A取引の大部分の法的枠組みは、民商法典と公開有限会社法の双方により規定されています。 新しい類型の組み合わせ 2023年2月7日、民商法典改正法が施行され、非公開有限会社の企業結合に対する別のアプローチとして、新たな合併スキームが導入されました。改正民商法典における合併とは、2社以上の会社が合併し、合併後の法人がすべて消滅して新会社が設立されるか、1社が存続し、他のすべての会社が法人としての存在を消滅させるかのどちらかです。 改正前の法典の規定における「新設合併(amalgamation)」という言葉は合併(amalgamation)という言葉に変更されました。改正前には、法的枠組みや合併の意味は規定されていましたが、資産や事業の取得に関する具体的な法的枠組みは明らかではありませんでした。 上述の2類型のうち前者は、改正前の法典で規定されていた合併と同一であることはほぼ間違いないと考えられます。一方、後者の合併の最終的な形は、合併後も一方の会社が存続する事業全体の譲渡に類似しています。改正前との違いは、改正により、双方の類型の合併が同じ法的手続きで実施されるようになったことです。手続きには以下が含まれます。 株主総会の承認決議 公的登録機関への決議の登記 反対株主からの株式購入の取り決め 異議申し立てに関する債権者への通知 すべての合併会社の株主による合同株主総会の開催 公的登録機関への合併の登記 合併後(いずれの類型においても)、新会社または存続会社は、改正民商法典に基づき、消滅する会社のすべての資産、負債、権利、義務、および責任を引き受けます。 上場会社については、公開会社法、証券取引法、SEC規則、CMSB規則、SET規則に基づく要件や手続きについても考慮する必要があります。 一般的なM&Aの構造 タイではM&A取引をさまざまな態様で組成できますが、もっとも一般的なのは、既存の有限会社の株式の取得です。この方法は資産買収や事業買収に比べて複雑ではなく、必要な法的手続きが少なく、株式の全部または大部分を取得する場合には、事業所有権の移転が円滑です。既存の有限会社(多くの場合ターゲットと呼ばれます)の株式の取得は、ターゲットの既存株主からの株式取得、またはターゲットが発行する新株の引き受け(またはこれらの組み合わせ)によって行われます。以下では、これらの2つの方法について説明します。 既存株主からの株式取得では、売り手の株主との間で、売却される株式の数量、取引完了日、売却価格、取引完了前の条件、保証、補償などの商業的条件を定めた株式売買契約を締結することにより、非公開会社または非上場公開会社の株式を取得することができます。非公開会社の株式取得は、売り手の株主が、民商法典に定められた事項を明記した単純な株式譲渡証書を交付し、ターゲット会社の株主名簿に取引を記録することによって実行できます。非上場公開会社の株式譲渡は、公開有限会社法に基づき、株券の裏書と買主への交付をもって当事者間で有効となります。 上場会社の既存株主からの株式取得は、売買契約が伴う場合と伴わない場合があり、また、義務的公開買付または任意公開買付により実施することができます。買収において売り手株主が1人以上いる場合は、発動基準であるターゲットの総議決権の25%、50%、75%に達する株式取得など、一定の条件に該当する場合、残りの株式に対して義務的公開買付の実施が求められる可能性があります。上場企業の株式取得する他の手段としては、ターゲットの全株式、または25%以上、50%未満の株式を対象とする任意公開買付も考えられます。 買収側は、未公開会社や非上場公開会社の新規発行株式を引き受けることもできます。この場合、割当・引受株式数、引受価格、取引完了前の条件、保証、補償などの商業的条件についての規定が含まれた株式引受契約に基づき、手続きを進めることができます。この取引構造では、ターゲット企業は、民商法典または公開会社法に定められた法的手続きに従って、登録資本金を増加させる必要があります。この法的手続きには、株主総会で株主が所有する総株式の4分の3以上による承認決議を得ることや、公的登録機関への増資の登録が含まれます。 外国人の所有権の制限 タイで外国人投資家がクロスボーダーM&A取引を検討する際に、外国人の所有権に関する法的制限が注意を要する問題となる場合があります。これらの制限は、M&Aの構造の選択や、ターゲット企業に対する外国人投資家の支配力に影響を及ぼす可能性があります。 1999年外国人事業法が、タイにおける外国人の事業所有権を規定する主要な法律です。外国人事業法では、海外で登記された会社、または国内で登記されタイ人以外が50%以上の株式を保有する会社は、外国籍であるとみなされます。外国企業は、外国人事業法の3つのリストで指定されている事業の実施に関して、制限を課されます。つまり、制限の対象である事業を営む企業に対する外国投資は、外国事業免許が付与されない場合、または外国人事業法、省令、投資促進法、工業団地法、タイと特定の国との間の条約の規定により事業に条件付き免除が認められない場合、株式の50%未満に制限されます。 さらに、特定の法律により外国人の参入が厳しく禁じられている業種については、外国人が過半数を所有する会社が事業を行うことはできません。そのような業種の一例が、改正1979年陸上運送法に基づく陸上運送事業です。これに従事できるのは、タイ人が株式の51%以上を保有する有限会社のみです。他にも、1954年土地法では、投資促進法や工業団地法により認められる場合を除き、外国人がタイで土地を所有することが一般的に禁止されています。 タイにおける外国人の所有権に対する制限の影響などの法的な検討を要する事項は、法務デューデリジェンスを確実に実施することによって明らかになる問題の一つに過ぎません。法務デューデリジェンスは、タイの法律に詳しくない外国人当事者などにとって特に重要です。法務デューデリジェンスでは、ターゲット企業の企業構造、事業運営、規制遵守、必要なライセンス、雇用、資産、その他の関連する事項を綿密に調査し、ターゲット企業や投資提案に関する外国人の所有権が制限されるかどうかを明確にします。税務や財務のデューデリジェンスなどの他の包括的なデューデリジェンスも並行して実施することができます。このようなデューデリジェンスは、投資家がタイでターゲット企業を通じて事業を行う際に合法性を確保し、もっとも効率的なM&Aの構造と手法を決定する一助となります。 Tilleke & Gibbins 25/F, Supalai Grand Tower 1011 Rama 3 Road, Chongnonsi, Yannawa Bangkok – 10120, Thailand お問い合わせ: 電話: +66 2056 5555 Eメール: bangkok@tilleke.com www.tilleke.com
comparison of M&A laws Vietnam

各国の M&A 関連法規の比較: ベトナム

By Tram Ngoc Bich Nguyen、Duong Duy NguyenとNguyen Khoi Le、Tilleke & Gibbins
インド 日本 フィリピン 台湾 タイ ベトナム   ベトナムへの外国投資は引き続き有望です。外国投資庁による2023年の直近の報告では、1月1日から3月20日の期間に外国人投資家が新たに登録した資本金、株式購入のための調整後拠出資本金および資本拠出の総計は54億5000万米ドル近くとなり、外国投資プロジェクトからの実現資本金は43億米ドルを超えると推定されています。 これらの統計は、投資先としてのベトナムの魅力が高まっていることを浮き彫りにし、また、その経済が力強く成長していることを反映しています。テクノロジー、メディア、通信などのセクターでは、急速なデジタル化を受けてM&A件数が増加すると予想されます。自動車産業と工業製造業では、持続可能性に関連して事業売却が実施されるとみられます。 2015年以降、ベトナムでは法的枠組みの強化と市場統制の効率化に向けてさまざまな施策が実施されてきました。その結果、税制、投資、競争、電子商取引の各分野において政府による監督が改善されました。間接移転に関する課税の抜け穴がふさがれ、投資と競争に関する規則の強化により競争条件が平準化され、電子商取引のための明確な枠組みが確立されました。 重要な法律問題 事業活動はベトナム標準産業分類に従って分類されます。この分類に基づき事業運営に必要な認可、許可、規制が決定されるとともに、特定分野への投資を検討する外国人投資家に向けたガイドラインが定められています。 外資規制は、事業活動に基づいて実施され、外国人の所有権の制限や、株式保有や事業要件などの外国人投資家に課される条件が含まれます。これらの制限は、ベトナムが締結した国際条約と国内法によって規定されます。 外資規制の例には、以下のようなものがあります。 外国人投資家は広告事業の資本金の99.99%までしか所有できません。 外国投資を受けた企業の建物購入は自社で使用する目的に限られ、他者に転貸することはできません。 外国人が100%所有する銀行の所有者は、少なくとも100億米ドルの資産を保有していなければなりません。 病院プロジェクトに投資する外国人投資家は、少なくとも2000万米ドルをプロジェクトに出資しなければなりません。 このため、外国人投資家がM&Aを実施するにあたっては、現地投資家と同じように対象企業や資産を取得できないため、より多くの労力が必要になります。これにより、規模や大きさがグローバルなプレーヤーと競争できる水準に達していない地元企業が守られ、成長・発展するための時間を与えられることになります。 計画投資局、計画投資省、国家競争委員会などのベトナムの規制機関は門番の役割を果たし、M&Aの実施許可に先立って、外国人投資家の財務能力やM&A取引の市場への影響を評価します。また、銀行資金の移動や法的所有権の移転に関する承認も行います。 外国人投資家の中には、外資規制を回避して投資を実行するために、斬新な構造の取引の組成に多大な時間と資金を投入する者もいます。そのため、ベトナムの規制当局は学習し、適応しています。 2020年、ベトナムでは投資法が制定され、2021年に施行され、これにより重大な変化がもたらされました。同法には、投資家の「見せかけ」の取引に対してベトナムの投資登録当局が法廷で異議を申し立て、対象企業の事業の一部または全部を終了させることができるプロセスが規定されています。このリスクは外資規制の回避を意図する取引構造すべてに及びます。 また、ベトナムの規制当局に直接相談し、パイロット・プログラムや特別免除という形で外資規制の例外を求める外国人投資家もいます。これは、取引構造に創造性を発揮するよりもはるかに安全な選択肢です。しかし、このような外国人投資家は、多くの場合、規模が非常に大きく、政府高官との交流が可能で強い影響力を持っています。したがって、投資家によっては、この選択肢は現実的ではないかもしれません。 2020年投資法によって導入されたM&A承認制度において留意すべき変更点の一つに、外国人投資家が特定の地域(島、国境および沿岸部の村、ならびに国防および安全保障に影響する地域を含みます)で土地使用権を持つベトナム企業の株式を取得する場合、投資当局の承認が必要となることが挙げられます。この要件により、現実的な問題が2つ生じます。まず、対象企業は土地使用権を申告し、投資当局が評価を実施するための裏付け書類を提出しなければなりません。次に、M&A承認プロセスには、投資当局が承認に先立って、安全保障と国防に関する条件について国防省と公安省と協議するという不透明なプロセスが含まれているため、承認が否認されたり遅滞したりする可能性があります。 2015年以前には、ベトナムには、間接移転、すなわち、ベトナムに所在する直接の対象企業ではなく、海外の持株会社で実施される移転を伴う取引について、法人所得税に関する個別の法律はありませんでした。この問題に対処するため、ベトナムでは2015年に政令12/2015/ND-CPが施行され、ベトナム企業が関与する資本移転および投資プロジェクトのすべてに対する課税の法的枠組みが確立されました。 2018年、ベトナムは新たな競争法を公布し、2019年7月に施行されました。同法により、合併、統合、買収、合弁、その他、法律で規定される活動による経済的集中が一定の基準値に達した場合に、届出が義務付けられました。この基準には、経済的集中に関与する当事者の総資産額、総収益、市場シェアの合計、および総取引額が含まれます。信用機関と保険・証券会社のM&A取引には異なる基準値が適用されます。この制度の重要な点として、オンショアとオフショアの取引が対象に含まれることが挙げられます。 2022年以降、ベトナムの電子商取引規制では、電子商取引の総訪問数、販売者数、総取引数、総取引額における上位5社のうち1社以上を支配することになる外国投資について、公安省の承認が必要とされています。しかし、このリストはまだ産業貿易省から公表されていません。 プロジェクトを含むM&A取引では、プロジェクトや土地に、所有者が慎重に検討する必要のある重要な価値がある場合、プロジェクト企業、土地、プロジェクト開発権の所有権移転が制限されることがあります。一旦プロジェクトの投資家が基本的な承認を受けると、他の投資家が同じ審査プロセスを経ずにプロジェクトに参加するのは難しいかもしれません。このような規制があるため、外国人投資家には、より厳しい審査と多くの承認や要件が適用されます。この条件を満たすことができるのは、ベトナムで魅力的なビジネスチャンスを追い求める真剣な投資家だけであり、その結果、投資家の質が向上するとともに、ターゲット企業の洗練度も上がります。 2019年、ベトナムは世界経済フォーラムの世界競争力指標が10ランク上昇し、67位になりました。また、ベトナムはASEANで唯一、「グローバル・ソフトパワー・インデックス2021」で順位を上げ(3ランク上昇)、60カ国中47位となりました。 M&Aに関する紛争 M&A取引に関する紛争では、コストと解決に要する時間の観点から、当事者双方が仲裁を選択する傾向があります。なぜなら、ベトナムの訴訟手続きは依然として煩雑であり、投資家が利用するのは容易ではなく、特に現地の当事者に有利なバイアスが懸念される場合には、仲裁が選択される傾向が高くなります。 M&A取引の多くでは、紛争解決の場としてシンガポール国際仲裁センターが選択されています。しかし、ベトナムの民法典では、外国の要素が含まれる民事事件がベトナムの不動産に対する権利に関するものである場合、ベトナムの裁判所の排他的管轄権に服すると規定されています。 一例を挙げると、ホーチミン市高級人民法院の決定28/2020/QDKDTM-PTでは、対象企業が不動産に対する財産権を有するM&A案件について、裁判所が排他的管轄権を適用しました。この事案において、裁判所は違法なプロジェクトの譲渡を目的とする出資契約を無効にしました。したがって、当事者が外国の仲裁所で紛争を解決したものの、それがベトナムの裁判所の排他的管轄権に服する場合、ベトナムで判決を執行できないリスクがあります。 動向と課題 中国と同様、ベトナムも債券や海外融資に対する規制を強化しており、その結果、多数のベトナム企業が流動性の問題に直面しています。そして、金利上昇により、この問題は一層悪化しています。経営が悪化し、資金難に陥る企業の増加を受け、資産や不動産、さらには事業全体の売却でさえ近年は一般的になっています。 全般的な傾向として、M&Aの取引額が減少しています(東南アジアのエグジット額は46%減と大きく落ち込んでいます)。また、不動産セクターや銀行の債権売却など、売り手側が流動性を必要としている状況が推進要因となる傾向があります。 中国からベトナムに移転する企業が増加しています。外国人投資家が、通常の会社設立の手続きを経るよりも早くベトナム市場に参入する方法として、とりわけ、事業のために新規に許認可を取得するための煩雑な手続きを回避する目的で、M&Aを選択する場合もあります。 また、ベトナムでは、環境・社会・ガバナンスに関する報告やコンプライアンスの重要性が一層高まっています。 投資法には、環境に有害な時代遅れの技術を使用するプロジェクトの延長を認めない規定が含まれています。2022年に公布された政令では、今後、温室効果ガス排出削減の要件が規定され、数年間で国内炭素クレジット市場が試験的に創設されることになっています。こうしたなか、持続可能性に取り組む企業が、収益と価値を創出する機会を手にすることになるでしょう。 Tilleke & Gibbins 25/F, Viettel Tower A, Suite 2506 285 Cach Mang Thang Tam, District 10 Ho Chi Minh City, Vietnam お問い合わせ: 電話: +84 28 628 45678 Eメール: vietnam@tilleke.com www.tilleke.com
ESG compliance Philippines

フィリピンにおける ESG コンプライアンスの推進

By Charity AurellanoとRaphael Pangalangan、Ocampo & Suralvo
環境・社会・ガバナンスに焦点を当て、より明確に理解することが、グローバルな枠組みに沿った事業運営につながる。 アメリカの著名な経済学者、ミルトン・フリードマン氏はかつてこう言いました。「ビジネスの本分はビジネスだ」。 企業の唯一の社会的責任は利益を最大化することだと、この自由市場の提唱者は主張しました。 しかし、半世紀を経た今、規制措置の新たな波においては、株主価値とステークホルダーの利益の双方が、ビジネス上、検討するべき対象として適切なものだと考えられています。このようなビジネス哲学は、その進化の過程において、企業の社会的責任、ビジネスと人権、コーポレート・シチズンシップなど、さまざまな名称で呼ばれてきました。しかし、今日、株主とステークホルダーが共に関与する領域としてもっとも広く知られているのは、おそらく環境・社会・ガバナンス(ESG)の枠組みでしょう。 ESGとは、3つの特定分野での、企業のパフォーマンスを測定するために用いられる一連の基準です。環境(Environmental)の分野では、二酸化炭素排出量、責任ある廃棄物処理、汚染防止などの事項を考慮し、企業のエコロジカル・フットプリントについて検討します。社会(Social)の分野では、従業員、顧客、地域社会など、会社と人々との関係が焦点になります。最後に、ガバナンス(Governance)の分野では、取締役の独立性、贈収賄・汚職防止対策、倫理に対する総合的な姿勢など、企業内部の仕組みを評価します。 本稿では、ESGの要素がフィリピンの法秩序にどのように組み込まれているのかについて考察します。しかし、単に該当する法規制について論じるのではなく、フィリピンのESGの進展をより広いグローバルな枠組みの中に置いて考え、フランス、オランダ、米国、英国、EUなど、世界各地の国・地域で見られるサプライチェーン・デューデリジェンス義務や、こうした海外の規制が現地企業に及ぼす、サプライチェーンの川上に対する影響についても取り上げます。 ESG基準 ESGに関する義務は、単一の法律により規定されているわけではなく、さまざまな法令や規制からなるメカニズムを通じて課されます。 たとえば、「E」に関する基準について規定する法律には、公害防止を目的とする1999年フィリピン大気汚染防止法や2004年フィリピン水質汚染防止法、固形廃棄物の適正処理の促進を目的とする2000年生態学的固形廃棄物管理法、危険・有害廃棄物の適正処理の促進を目的とする1990年危険物質及び有害・放射性廃棄物管理法などがあります。 2019年、フィリピンはエネルギー効率保全法を制定しました。同法に基づき、エネルギー効率化プロジェクトへの財政的・非財政的インセンティブが提供され、事業所に対して、再生可能エネルギー技術の導入などのエネルギー効率・保全・充足対策の開発・設計が義務付けられました。 炭素排出量を相殺するため、政府は民間部門に対し、環境天然資源省の国家緑化計画に基づく森林再生プログラムへの参加と投資を奨励しています。さらに、2022年拡大生産者責任法は、大企業に対し、プラスチック包装廃棄物の適切な管理に関する方針の策定と実施を求めています。 他方、「S」に関する基準は、労働基準、プライバシーおよびデータ保護措置、人権に関する基準などにより形作られています。たとえば、2022年拡大人身売買防止法には、強制労働、児童虐待、非自発的隷属に関与する企業に対する処罰が規定されています。 最後に、「G」に関する基準は改正会社法により裏付けられています。同法は、証券取引委員会(SEC)に対し、コーポレート・ガバナンスを促進し、接待や汚職に関与した企業を解散させたり制裁を科したりする権限を与えています。 また、フィリピンでは、企業の報告義務を通じてESG基準が徐々に普及しています。SECはMC19-16とMC24-19の2件の通達(Memorandum Circular)発行し、それぞれにより「上場会社向けコーポレート・ガバナンス・コード」と「公開会社・登録発行会社向けコーポレート・ガバナンス・コード」が策定されました。これらのコードは、企業に対し、コーポレート・ガバナンスに関する年次報告書において、ESGのパフォーマンスと実践状況を開示するよう求めています。 同様に、SECの通達MC 04-19では、上場企業のための持続可能性報告ガイドラインが規定されています。これは、グローバル・レポーティング・イニシアティブや、国連の持続可能な開発目標などの国際的に認知された基準を用いて、企業が自社のESGに関するインパクトや取組みを自主的に報告するための枠組みです。 今年初めに発行されたSECの通達MC 11-22では、持続可能で責任ある投資(SRI)ファンドに関する規則が制定され、SRI準拠ファンドに適用される最低限の資格条件と報告要件が定められました。 海外サプライチェーン 世界のさまざまな国・地域において、ESGコンプライアンスが義務付けられています。たとえばドイツでは、「サプライチェーンにおける企業のデューデリジェンス義務に関する法律」〔Lieferkettengesetz(LkSG)〕が2023年1月1日に施行されました。 LkSGは、ドイツに本社を置く、あるいはドイツで事業を行う企業(ドイツで事業を行う外国企業を含みます)に対して、人権と生態系に関する多くの義務を課しています。これには、児童労働、強制労働、奴隷制の禁止、労働者の権利と環境基準の遵守が含まれます。注目すべきなのは、これらの権利と義務がフィリピンの法律でも認められていることです。 しかし、LkSGの規制では、企業は単に社内システムにおいてESG基準を遵守するだけでは不十分です。また、直接的・間接的サプライヤーについても、その拠点がどこであろうと、人権や環境に関する権利の侵害や、侵害への加担に関与しないよう図る必要があります。したがってドイツでは、企業は、自社の事業領域にとどまらず、原材料の調達から最終製品の納品に至るまで、サプライチェーン全体を通じてサプライヤーのESGコンプライアンスについて考慮する義務を負います。 違反が発覚した場合、企業はその立場に基づいて違反を止めるか、最小限に食い止める必要があります。また、人権侵害が深刻な場合は、最後の手段として、違反したサプライヤーとの取引関係を完全に終了させなければなりません。 同様の義務は、オランダの児童労働デューデリジェンス法、フランスのLoi de Vigilance (フランス注意義務法)、米国の1930年関税法、英国の2015年現代奴隷法、EUの企業持続可能性デューデリジェンス指令など、他の国・地域でも規定されています。 これらの規則では、持続可能性基準において、民間企業がサプライチェーン全体のESGパフォーマンスを調査する法的義務を負うことが期待されています。したがって、たとえ川上のサプライヤーがこれらの法律の直接的な適用対象ではなかったとしても、サプライチェーンに属する海外企業と取引を継続することを望むのであれば、ESG基準を遵守する義務を間接的に負うことになります。 上流への影響 サプライチェーンについて海外で課されるデューデリジェンス義務に基づき、海外企業はサプライヤーのESGパフォーマンスを調査することになります。海外企業に適用されるサプライチェーンのデューデリジェンスに関する法令は、適用範囲が限定されているとはいえ、フィリピンのサプライヤーなど、他の国・地域の上流のサプライヤーにも必然的に影響を及ぼします。 2022年の時点で、フィリピンの対外輸出は総額で790億米ドルに達しました。そのうち対米輸出が125億米ドル、対オランダが28億米ドル、対ドイツが27億米ドル、対フランスが7億6500万米ドルを占めました。英国政府系開発金融機関、ブリティッシュ・インターナショナル・インベストメントは、フィリピンを東南アジアにおける気候変動金融の優先市場の一つと位置付け、6億2300万米ドルの資金枠を提供しています。 また、地域的な包括的経済連携(RCEP)が6月に発効することを受け、欧州からフィリピンに向けられる投資の増加が期待されています。 フィリピンはASEANで唯一、EUの一般特恵関税制度(GSP)の一つであるGSP+の受益国です。したがって、人権、労働、良好なガバナンス、環境に関する27の国際慣行、つまりESG要素の少なくとも一つに該当する慣行の実施に取り組むことで、GSP+の恩恵を受けられる可能性があります。つまり、企業は法的・経済的要因だけではなく、サプライチェーンのデューデリジェンスに関する海外の法令が、サプライチェーンの上流に及ぼす影響によっても制約を受けることになります。 たとえば、欧米にとってフィリピンは、ココナッツオイル、電子機器、点火配線セット、ニッケル鉱石の主要輸出国です。欧米企業のサプライヤーとして堅調に収益を計上し続けるためには、ESGコンプライアンスについて説明する準備を整えておく必要があります。 ESGを巡る状況に対処する ESGを受け入れることは、企業が国内でもグローバルにも成功するために避けては通れません。今日、ESGはビジネスの本分であるだけではありません。それは良いビジネスでもあります。企業がグローバル市場で成功するためには、フィリピンと外国の双方の複雑な規制に対処していかなくてはなりません。各企業が同じ方向に向かっているようにみえますが、ESGコンプライアンスの道のりはそれぞれに異なります。 筆者のESGプラクティスグループでは、多様な問題に関する法律専門家の深い知識と、数多くの国際法律事務所との強固な協力関係を通じて、クライアントがこのような複雑な状況を乗り越えていけるようサポートしています。 OCAMPO AND SURALVO Unit 602, Liberty Center Building 104 HV Dela Costa St, Salcedo Village, Makati City Metro Manila 1227, The Philippines 電話: +63 02 88006157 Eメール: info@ocamposuralvo.com www.ocamposuralvo.com
stimulating Japan investment in India

日本からの対インド投資を促進するより強固な関係

By Samiron BorkatakyとAatman Shukla、Kochhar & Co.
2020年~21年、インドは新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる混乱にもかかわらず、過去最高である819億7000万米ドルの海外直接投資(FDI)を受け入れました。国連貿易開発会議(United Nations Conference on Trade and Development:UNCDAT)が発表した報告書によると、2021年~22年、インドは世界第7位のFDI受入国となっています。 インドのFDI法制度は、外国人投資家の誘致にとって非常に重要です。商工省産業国内取引促進局(Department of Promotion of Industry and Internal Trade:DPIIT)は、1999年外為管理法(Foreign Exchange and Management Act:FEMA)に基づく、FDI政策を策定するための統括機関です。DPIITは長年にわたってプレスノートを発行しており、2020年の統合FDI政策と合わせて、FDI政策を構成しています。 この政策の下では、宝くじ事業、賭博事業、葉巻・たばこ・たばこ代用品製造、原子力発電、鉄道事業などのセクターに対するFDIが禁止されています。前述のセクター以外では、自動ルートまたは政府承認ルートによるFDIが認められており、特定のセクターに対するFDIには、政府の承認が必要です。さらに、セクター別の上限規制により、特定のセクターに許可されるFDI額を規制しています。最近、政府はFDIを自由化し、保険会社に対しては自動ルートで74%まで、通信サービスに対しては自動ルートで100%まで、防衛産業に対しては自動ルートで74%までに、投資上限を緩和しました。 2019年10月、財務省は2019年外国為替管理(非債務証券)規則〔Foreign Exchange Management (Non-debt Instruments) Rules〕を導入し、特に株式、有限責任事業組合への資本参加、代替投資ファンド、不動産投資信託、インフラ投資信託への投資、不動産の取得などを通したインドに対する外国投資を規制しています。この規則では、インド国外に居住する者は、参入ルート、セクターごとの上限、その他の規則や政策に定められた条件に従って、インド企業の株式の引き受け、購入または売却を行うことができます。この規則は、合計外国投資を有するインド法人が行う下流投資にも適用されます。外国企業が所有または支配する企業による投資は、適用される価格設定ガイドラインおよび規則で定められたその他の条件に従う必要があります。インドは世界的に外国投資の優先投資先とされているだけでなく、製造業の拠点としても台頭してきています。世界銀行が発表した「ビジネス環境改善指数」(Ease of Doing Business Index)では、インドは第63位にランクインしています。日本はインドで5番目に大きな投資国であり、主なセクターは自動車、食品加工、化学薬品会社、再生可能エネルギー、繊維、電子システム設計・製造などとなっています。このような日本企業による投資を促進するため、政府はいくつかの制度や優遇措置を導入しています。日本からの投資案件を迅速に処理する「ジャパンプラスデスク」、日本企業の製造拠点として12の産業タウンシップを割り当てた「日本産業タウンシップ」、スタートアップ企業や投資家、インキュベーターなど、インドと日本の関係者のコラボレーションを支援するオンラインプラットフォーム「日印スタートアップ・ハブ」など、さまざまなサービスを提供しています。また、政府は規制遵守の負担を軽減するため、国家単一窓口制度や規制遵守ポータルを導入し、さまざまなセクターでの事業立ち上げに必要な情報へのアクセスを容易にしました。 新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、労働者の国家間移動、新たな労働法の改正案、大規模公共事業や企業による債務の支払い、産業施設の再開を支援する企業による利用などの分野で日本の投資家に懸念が生じ、政府は緊急対応に追われることになりました。しかし、2019年に、日本の経済産業省とDPIITの間で立ち上げられた「日印産業競争力パートナーシップ」(India-Japan Industrial Competitiveness Partnership)により、強力な日印の経済関係が確認されました。この枠組みは、特にコロナ禍の下で、特定の産業セクターにおける日本の投資障壁を特定および低減することを目的としたものです。 今後両国は、日本の強固な財務力およびグローバル市場へのアクセスと、インドの強力なIT技術を結びつけることで、互いの強みを融合させることを目指します。この関係強化は、両国に大きな利益をもたらす可能性を秘めています。 Samiron BorkatakyはKochhar & Co.のパートナーであり、Aatman Shuklaは同事務所のアソシエイトです。 Kochhar...
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New Balance、裁判所の判断により商標の保護を達成

By Manisha SinghとOmesh Puri,LexOrbis
2023年6月、デリー高等裁判所は、New Balance Athletics Inc対New Balance Immigration Private Limitedの裁判において、商標権侵害に関する事案を審理しました。裁判所は、被告が"New Balance"および"NB"の商標をいかなる形であれ使用することを禁じる内容の、以前認められた差止命令に違反したと判断しました。 原告のNew Balance Athleticsは、フットウェアとアパレルのデザイン、製造、販売を専門とする世界的企業です。原告は、New Balance Immigrationが商標権を侵害し、原告の商品とサービスを詐称して欺罔行為を行ったと主張し、終局的差止命令を求めて訴えを提起しました。 その主張の裏付けとして、原告は"New Balance"および"NB"という商標の使用と登録に関する、同社の長い履歴を証明する証拠資料を提出しました。原告は、1986年にインドで"New Balance"という商標の使用を開始し、1995年に登録されたドメイン名newbalance.comとともに、第25類およびその他の類において、これらの商標について有効かつ存続する登録を保有していると主張しました。 被告であるNew Balance Immigrationは、インドで入国支援およびビザ取得サービスを提供していました。2022年5月、原告は法的通知と督促状を送付しましたが、被告は回答しませんでした。その後、原告は調査員に調査・報告を依頼し、その結果、被告が"New Balance"の商標を社名の一部として、"NB"の図形商標を企業ロゴの一部として使用していることが明らかになりました。また、問題となっている商標が被告のドメイン名であるnewbalanceimmigration.comの一部となっていることも明らかにされました。 被告は召喚状を送達されたにもかかわらず出廷せず、その結果、2022年10月に原告の申立てを認める仮処分命令が下されました。この命令により、被告は、広告を含むあらゆる形態で、および、企業名やドメイン名として、この商標を使用することを禁じられました。 その後、被告は訴訟への参加を求める申請を提出しました。裁判所は不出頭と代理人不在に関して申し立てられた理由を検討し、2023年1月の出廷日から、被告が訴訟手続きに参加することを認めました。 被告は、問題の商標は異なる取引流通で使用されているため、混同の可能性はないと主張しました。しかし、裁判所は、証拠として追加資料を提出したいという原告の申請を検討しました。この追加資料は、以前発令されていた差止命令にもかかわらず、侵害の対象である商標の使用を被告が継続していることを証明するものでした。裁判所は原告の申請を認め、この追加資料を証拠として採用しました。 裁判所は、"New Balance"の商標の所有権、これらの商標に関する営業権および評判、原告の商標と被告の商標の欺瞞的類似性についての主張などを含め、原告の申立てを分析しました。裁判所は類似性についての主張を詳細に検討し、被告の商標は実際に原告の商標と欺瞞的に類似していると判断しました。また、被告は原告の"NB"の商標を完全に取り入れた"NB"の図形商標を使用しており、原告との関連性が形成されていると判示しました。 裁判所は、被告のドメイン名が原告のドメイン名と欺瞞的に類似しており、公衆を欺いて原告と結び付いていると思わせる可能性が高いと判断しました。そして、被告が自社の商号とドメイン名にこれらの商標を使用したことは、公衆を欺く可能性が高く、商標権侵害とパッシングオフに該当すると結論付けました。裁判所は、被告が所定の期間内に出頭せず、原告の申立てに対する認否を明らかにする書面を提出しなかったことが、被告側の防御の障害となったと指摘しました。 裁判所は、被告がこの訴訟で提起された請求に、適切に抗弁できる見込みはないと判断しました。公判において、被告は終局的差止命令の発令に異議を申し立てませんでした。被告は2023年4月に解散し、新会社を設立することを決議していました。しかし、費用の支払いを命じられるべきではないという申立てを提出しました。 裁判所は、仮処分命令と同様の内容の終局的差止命令を認めました。また、問題の商標の使用は善意によるものではないし誠実さにも欠けるとして、被告に40万インドルピー(4,900米ドル)の費用の支払いを命じました。 Manisha SinghおよびOmesh Puriは、 LexOrbisのパートナーです。 LexOrbis 709/710 Tolstoy House 15-17 Tolstoy Marg New Delhi – 110 001 India www.lexorbis.com Mumbai | Bengaluru 連絡先詳細: 電話: +91 11...
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オンラインゲーム規制が進まないという予想に賭けるべきではない

By Ashima Obhan とAkanksha Dua 、Obhan & Associates
オンラインゲーム産業、特にリアルマネーゲームは著しい成長を遂げています。これに伴い、業界では先行きの不透明感と混乱が生じており、規制とガイドラインの必要性が高まっています。こうしたなか、電子情報技術省(MeitY)は、2023年改正情報技術規則(媒介者ガイドラインおよびデジタルメディアの倫理規範/以下「2023年規則」)を2023年4月6日に施行しました。 2023年規則では、MeitYと登録自主規制機関(RSRB)による共同規制が導入されました。RSRBは、オンラインリアルマネーゲームが許容されるもの〔PORMG(permissible online real money games)〕であることを認証します。MeitYは、この目的のために必要だと考えられる数のRSRBを選任することができます。 2023年規則では、許容されるオンラインゲームのみが、公開とユーザーへの提供を認められます。オンラインリアルマネーゲームとは、ユーザーが賞金獲得を期待して、現金または現物をデポジットするオンラインゲームのことです。 許容されるオンラインゲームとは、PORMG、またはオンラインリアルマネーゲームではないオンラインゲームです。RSRB は、申請者に意見陳述の機会を与え、書面で理由を通知した後、2023年規則に準拠していないことを理由として、オンラインリアルマネーゲームの認証を保留することができます。 オンラインゲーム仲介業者(OGI)が申請を行うと、RSRBは、当該ゲームが、結果についての賭博行為が含まれないこと、契約能力年齢に関する規定を遵守していること、インドの主権、完全性、治安および公序良俗に反しないこと、危害、中毒および金銭的損失からユーザーが保護されていること、および児童が保護されていること、という条件をはじめとする諸条件を満たしていることを確認した後、オンラインリアルマネーゲームをPORMGと認証します。 RSRBは、申請者が提供した初期情報に基づき、より詳細な調査が実施される3カ月間、オンラインリアルマネーゲームの配信を裁量により許可することができます。調査が終了すると、オンラインリアルマネーゲームがPORMGであるかについて認否が決定され、申請者に書面で通知されます。 2023年規則は、オンラインゲームに関してOGIを規制しています。OGIはすべて、登録RSRBに加盟し、デューデリジェンスを実施しなければなりません。これには、利用規約、プライバシーポリシー、その他のユーザー規約をプラットフォーム上で公開することが含まれます。これらの規約を変更する際には、24時間以内にユーザーに通知する必要があります。OGIは、許容されないオンラインゲーム、許容されないオンラインゲームを宣伝する広告(代替広告を含む)、または法律に違反する情報をアップロードするためにプラットフォームを使用しないよう、ユーザーが確実に警告を受けるようにしなければなりません。OGIは、サイバーセキュリティ事件に関する情報を24時間以内に提供しなければならず、インド国内に居住する苦情処理責任者を任命し、その詳細を公表することが義務付けられています。 OGIは、主要ソーシャルメディア仲介業者に求められるデューデリジェンス要件に準拠する必要があります。これには、インドにおけるプラットフォームの物理的住所の公表、ユーザーからの苦情と取られた措置に関する定期的なコンプライアンスレポートの公表、RSRBから受領した認証マークの表示、デポジット受領に先立ちインド準備銀行が規定するKYCガイドラインに沿って、アカウントごとの関係の開始時にユーザーを確認すること、インドに居住するチーフコンプライアンスオフィサーと担当者の任命などが含まれます。 各OGIとRSRBは苦情処理担当者を任命し、その詳細を、苦情処理制度の詳細とともに公表しなければなりません。OGIから不当な扱いを受けた人は、OGIの苦情処理担当者に苦情を申し立てることができます。また、申請後の認証および取り消しに関する RSRBの決定に不服のあるOGIは、RSRBの苦情処理担当者に苦情を申し立てることができます。苦情を申し立てた場合、担当者による解決方法に不服がある場合、または苦情が所定の期限内に解決されない場合、IT規則に基づいて設置された苦情処理上訴委員会に上訴することができます。 2023年規則は、オンラインゲームの規制を前進させるものであり、プレイヤーとゲーム会社双方の利益の保護につながります。オンラインゲームの人気は高まる一方であり、すべての関係者が協力して、ゲームを取り巻く環境を安全で透明性の高いものにすることが重要です。 Ashima ObhanはObhan & Associatesのシニアパートナーであり、Akanksha Duaは同事務所のプリンシパル・アソシエイト です。 Obhan & Associates Advocates and Patent Agents N - 94, Second Floor Panchsheel Park New Delhi 110017, India 連絡先の詳細: Ashima Obhan 電話: +91-9811043532 Eメール: email@obhans.com ashima@obhans.com www.obhanandassociates.com
india electrifying future in transport

インドには輸送電動化の未来がある

By Pradyuman Sewar、Kochhar & Co.
世界最多の人口を擁する国であるインドでは、電気自動車(EV)業界で劇的な転換が起こっています。政府が業界のために実施する優遇措置によって生まれた機会に、多くの国の自動車メーカーが投資しています。電動の自動車、スクーター、リキシャ、バスの販売は、今後10年間で飛躍的に伸びると予想されています。 インドでは輸送の電動化が進行しており、無限といっていいほどの機会が生まれています。多くの州政府が気前よく、EV産業に対する投資奨励策を実施しています。このような奨励策には、EVの自動車登録料の免除、自動車税の軽減、公共の場でのEVの駐車料金の無料化などが挙げられます。数多くの州政府が化石燃料を使用するバスを電動バスに替えるなどして、公共輸送の近代化に取り組んでいます。 インドの目標は、世界のEV製造のハブになることです。最先端の化学電池と、EVやハイブリッド車の製造に従事する自動車業界を対象とする生産連動型奨励金(PLI)制度を通じて、従来の化石燃料に依存する自動車輸送システムから、環境に対してクリーンで持続可能かつ効率的なEVを基盤とする枠組みへの転換の実現が期待されています。 政府が承認した自動車および自動車部品産業を対象とするPLI制度では、2590億インドルピー(31億米ドル)の予算により先進自動車技術(AAT)製品の製造能力を高めること目指しています。この制度により、AAT製品の国内製造の促進と自動車製造バリューチェーンへの投資誘致に向けて、資金面での優遇措置が提供されます。その目的は、コストを削減し、規模の経済を生み出し、AAT製品の強靭なサプライチェーンを構築することです。 この制度は、「チャンピオンOEMインセンティブ」と「部品チャンピオン・インセンティブ」の2つの制度により構成されます。チャンピオンOEMインセンティブは販売額に連動しており、全セグメントのバッテリーEVと水素燃料電池車に適用されます。部品チャンピオン・インセンティブは販売額に連動しており、AAT車両部品、完全ノックダウン生産および半ノックダウン生産用部品セット、2輪および3輪の車両、乗用車、商用車、トラクターの車両部品セットにのみ適用されます。 インドには約400社の電気自動車スタートアップ企業があります。政府は2022年12月までに、74万台超のEVを対象に支援を提供しました。EVとEV充電器に対する物品サービス税(GST)は、それぞれ12%と18%から5%に引き下げられました。EVに対する補助金は、二酸化炭素排出量を削減し、再生可能エネルギー源への転換を進め、2070年までに排出量ネットゼロを達成するというインドの目標に合致しています。 しかし一部の企業が、補助金を請求するために不適切な車両価格を設定した、あるいは現地化基準を遵守しなかったという疑念が生じています。中には、輸入した部品を国内で調達したと主張する企業さえあったといわれています。この制度で補助金を受けるには、EVの部品の50%以上をインドで製造・調達する必要があります。この現地化基準の遵守については、インド自動車研究協会が、EVに対する販売認定の付与の前に検証します。 PLI申請者の企業資源計画システムからPLI自動ポータルに、インドの付加価値に関する主要データを取り込むシステムが導入された結果、このような不正行為を抑制できるようになりました。 EVの発火事故を受け、重工業省は安全性向上のため、2023年4月から試験制度を導入しました。これらの試験はバッテリーパック、バッテリー管理システム、個々の電池の安全性と品質を検査するためのもので、種々の優遇措置の請求の必要条件になっています。 テスラの市場参入が迫るなか、新たな優遇措置の導入や、期限の到来が近い既存の優遇措置が、EV業界全体を対象として延長されることが期待されます。 鉄道・道路網、豊富な原材料、多数の熟練・非熟練労働者、利用可能な電力、州固有の政策などのメリットがある州もあります。このような政策は、なかでも、特定の工業団地内での大規模な製造を奨励しています。大規模な製造設備を立ち上げる際には、現地の法規制を遵守する必要があります。 優遇措置の有無に関わりなく、EV業界にとってエキサイティングな時代が訪れており、インドはEV革命をリードする上で比類ない位置を占めています。 Pradyuman SewarはKochhar & Co.のパートナー です。 Kochhar & Co New Delhi (head office): Suite # 1120 -21, 11th Floor, Tower – A DLF Towers, Jasola District Center Jasola – 110 025, India インドのオフィス: New Delhi, Mumbai, Bengaluru, Chennai, Gurugram and Hyderabad 海外拠点: Dubai,...
RBI reform proposals

RBI改革案を推進するのは利益ではなく規律

By Sawant SinghとAditya Bhargava、Phoenix Legal
インド準備銀行(RBI)が2023年2月に発表した開発・規制政策に関する声明によると、RBIの監督当局による検査の結果、規制対象事業体(RE)の間で業務慣行に差があること、違約利息の過大徴求、そしてそれらが顧客の不満につながっていることが明らかになりました。また、この声明は、違約利息は「負のインセンティブ」を通じて借り入れにおける規律を根付かせるためのものであり、「収益向上手段」として利用するべきではないと指摘しています。同声明では、借り入れの元利払いの遅延や不履行、または重要な契約条件の不履行に対しては、透明かつ合理的な方法で違約金を請求できるが、合意された利率に違約利息を加算すべきではないと明記されています。このような違約金は個別に徴収するべきもので、元本に加算することはできず、資産に計上するべきではありません。REは、借り手のリスクプロファイルに基づいて、信用リスクプレミアムを自由に変更するべきです。 この声明を受け、RBIは2023年4月、融資の違約金に関する通達草案を公表し、パブリックコメントを求めました。この草案は、すべての商業銀行と非銀行金融会社(NBFC)に向けて公表されたものです。銀行とNBFCの双方に共通する指示を示すことは、規制の裁定を最小限に抑制できるという点で賢明な対応だといえます。 REは違約金に関して、取締役会が承認した方針を策定する必要があります。このような違約金について、また、それがいつ、どのように適用されるのかについては、契約条件に基づき融資契約書の重要事項説明書において、借り手に明確に開示されなければなりません。また、REのウェブサイト上でも、金利や手数料について説明している所定の箇所に、記載する必要があります。借り手への督促状でも、適用される違約金について明記しなければなりません。 通達草案には、違約金は重要な条件の不履行や不遵守の程度に比例したものでなければならない、という原則が規定されています。これらの基準はREが決定しなければならず、融資や商品のカテゴリー内で差別してはなりません。事業目的の貸付け以外の個人向け貸付けについて、個人向け貸付け以外の借り手に課される違約金を上回る違約金を課してはなりません。 通達草案では、融資金利および金利の見直し条件はRBIの指示に準拠することとされており、REは金利決定にあたり、他の要因を追加することはできないと規定されています。この通達は、融資の不履行や重要な条件の不遵守に対して違約金を課すことはできるが、合意された利率以上の違約利息を課すことはできないという、2023年2月のRBIの声明の趣旨を改めて記載したものです。同様に、違約金を資産に計上することははできません。興味深いのは、この通達草案では、資産計上に関する規定は複利計算に影響を及ぼさないとされていることです。利息の資産計上と複利計算の間にある境界線は微妙であるため、この点を明確にする必要があります。複利計算を、単純に元本に上乗せして実施する場合もあります。 通達草案では、融資金利には「借り手の信用リスクプロファイルを反映した適切な信用リスクプレミアム」を含める必要があるとされています。REは、借り手のリスクプロファイルが変化した場合には、信用リスクプレミアムを自由に変更できるようになります。今回の指示には、違約利息を収益増強手段としてではなく、借り入れにおける規律を根付かせるために用いるべきだという、RBIが公にしている意図が反映されています。REがこの規定に準拠するには、融資口座の監視を強化する必要があります。そうすることで、借り手のリスクプロファイルの変化に応じて金利を変更することが可能になり、借り手が債務不履行に陥ってから遅延損害金を請求するという事態を回避することができます。これは、貸し手と借り手の関係をより能動的なものにし、借り手のパフォーマンスへの適合性を高めることにつながるでしょう。 通達草案の公表は賢明な施策であり、その内容は金融セクターの成熟度が高まっており、規制と成長が顧客保護という点で足並みを揃えているという一般的な認識を反映しています。REが通達草案に準拠するには、借り手とより能動的に、積極的に関わることが求められます。そのためには、モニタリングシステムへの投資を拡大する必要があるでしょう。REはこのコストを単に借り手に転嫁するのではなく、自身の金融技術と規制当局の顧客保護要件を結び付け、すべての人に利益をもたらす費用効果の高いモデルを生み出す機会にできる可能性があります。 Sawant Singh及びAditya Bhargavaは、Phoenix Legalのパートナーです。 Phoenix Legal Second Floor 254 Okhla Industrial Estate Phase III New Delhi - 110 020 India Vaswani Mansion, 3/F 120 Dinshaw Vachha Road, Churchgate Mumbai – 400 020, India 電話: +91 11 4983 0000 +91 22 4340 8500 Eメール: delhi@phoenixlegal.in mumbai@phoenixlegal.in Webサイト www.phoenixlegal.in
Delhi High Court ruling

辛辣な言葉が評判を落とすわけではない

By Manisha Singh とOmesh Puri 、LexOrbis
先般のMarico Limited対Dabur India Limited事件において、原告はデリー高等裁判所に対し、被告による印刷物やWhatsApp広告の流布や共有の差し止めを求める仮処分を申し立てました。Marico社は、このような広告は、同社の製品であるNihar Natural Shanti Badam Amla Hair Oilとその登録商標を中傷するものであると主張しました。原告は、印刷広告に記載された「Yaad Rakhna, Sasta Aawla, balo ko mehenga padega」、つまり「安いグーズベリーを使うと髪が傷むことをお忘れなく」という文言は、一般的な中傷および事実の虚偽表示に該当するという弁論を行いました。 Marico社は、自社製品に類似した容器に大きな赤い十字のマークを付けた広告は、自社製品の不買を示唆するものだと主張しました。同時に流布されたWhatsAppのメッセージには、Marico社の製品の容器を打ち倒すボクシンググローブが描かれており、原告とその製品を対象としていることが示唆されていました。 しかし、被告は、印刷広告にある「sasta」という文言は、原告の製品を中傷するものでも、誤解を招くものでもないと主張しました。その広告は原告の製品に言及していませんでした。「Sasta」という文言は、品質が劣る安価なヘアオイルを指しており、粗悪で安価な他の製品よりも、自社のAmlaヘアオイルが優れていることを明確に示すためのものでした。 裁判所は、この印刷広告が中傷になりうるかどうかを評価するにあたり、一般の平均的な消費者とそのような消費者に与える影響についてのテストを適用しました。裁判所は、Pepsi Co Inc and Ors対Hindustan Coca-Cola Limitedの判決に依拠しました。この判決では、中傷に該当するかどうかを判断する際には、伝えようとしたメッセージとともに、広告の意図、手法、ストーリー展開を考慮しなければならないと判示されました。 裁判所は、これらの要素のうち、広告の目的が重要であるとしました。広告が競合他社の製品を揶揄したり、侮辱したりする内容である場合、それは中傷に該当します。しかし、広告が他の製品を愚弄するのではなく、自社の製品の品質が優れていると主張しているだけであれば、訴訟を提起することはできません。単なる誇大広告は訴訟の対象にはならないのです。裁判所は、製造者は自社の商品がより良いもの、最高のものであると主張することはできるが、他社の商品と比較する場合、競合他社の商品を中傷・誹謗したり、粗悪、あるいは劣悪なものであると言ったりすることは、認められないと判示しました。 裁判所は、Marico社が関与したボンベイ高等裁判所の過去の判決を引用しました。その判決では、同様の広告が、より安価なAmlaヘアオイルすべてが劣悪であることを暗示するものではない、と判示されました。この広告は、単に、このような製品を使用することの潜在的なリスクについて消費者に注意を促すことを目的としており、品質の重要性を強調しているに過ぎません。印刷された広告を読んだ消費者は、「sasta amla」という文言から原告の製品を連想することはないでしょう。なぜなら、広告内の容器は、原告の製品の劣悪さについて言及しているわけでも、直接または間接的に暗示しているわけでもないからです。この広告は、より安価なAmlaヘアオイルすべてを一般的に中傷する内容ではありません。裁判所は、その広告を中傷ではなく誇大広告に分類しました。 デリー高等法院は、印刷広告の「Asli Amla, Dabur Amla」という文言は被告の登録商標であり、被告にはこれを使用する権利があると認めました。この文言は被告の製品だけが真正であることを暗示しているのではなく、品質に注意を払う必要性を強調するものでした。裁判所はまた、被告のヘアオイルの使用によって2倍の強さが得られるという主張に関する原告の異議申立てについても、この主張は以前に裁判所や規制機関によって検討されたとして棄却しました。 原告は、WhatsAppの広告は被告の同意を得て拡散されたと主張しましたが、被告は関与を否定しました。証拠によると、被告の従業員がWhatsAppメッセージの発信と拡散に関与していました。しかし、裁判所は、被告と広告代理店との間で交わされた、製品の強度と品質に焦点を当てた電子メールでのやり取りを判断の根拠にしました。裁判所は、従業員の意図は原告製品を中傷することではなく、自社製品の優秀さを伝えることだったと判断しました。 裁判所は、印刷広告には原告の製品に関する明白な言及はないと結論付けました。広告の「sasta amla」という文言は、原告の製品について直接的または間接的な暗示を与えるものではありませんでした。Marico社の申立は棄却されました。被告はWhatsApp広告の差し止めには異議がなかったため、差し止めは認められました。 Manisha SinghはLexOrbisのパートナーであり、Omesh Puriは同事務所のパートナーです。 LexOrbis 709/710 Tolstoy House 15-17 Tolstoy Marg New...
modified SIPP scheme for startups

SIPP制度改正がスタートアップ企業を後押し

By Manisha Singh とCR Jacob,LexOrbis
この数十年、知的財産(IP)制度の進展は政府の数多くの資金面の奨励策や支援策、特にスタートアップ企業のIPに関わる施策によって支えられてきました。そのような取り組みの一つが、スタートアップ企業やイノベーターの知的財産権の振興と保護を目的として始まった「スタートアップ企業知的財産保護(SIPP)制度」です。この制度の主な目的は、事業資産としての知的財産の重要性に対するスタートアップ企業の認識を高めることです。新設企業や起業家に対し、この制度を通じてインド内外で特許、商標、意匠の保護に関する支援が提供されてきました。 2023年3月末を期限として試験的に実施されたSIPP制度の効果はすぐに表れ、知的財産権の出願件数が大幅に増加しました。最近、この制度は改正され、2026年3月31日までさらに3年間延長されることになりました。 改正後の制度の目的は、「スタートアップ企業の知的財産権の保護・振興、スタートアップ企業のイノベーションと創造性の助長、およびインドに設立された技術・イノベーション支援センター〔Technology and Innovation Support Centres(TISC)〕のサービスの活用」です。今回の改正では、このビジョンの実現に向けて、出願者とファシリテーターの資格、ファシリテーターの役割、およびファシリテーション料の設定についての規定が見直されました。 SIPP制度では出願者の資格が拡大され、商工省産業国内取引促進局(DPIIT)が認定したスタートアップ企業、TISCを通じて特許、意匠、商標を円滑出願(filing facilitated)するインドのイノベーターやクリエイター、TISCを通じて知的財産権の出願を行う、2003年特許規則24C(1)(h)に基づく資格を有するインドの教育機関、インドを国際調査機関(ISA)として選択し、インド内外で国際特許出願を行う資格を有するインドの出願人が、出願できるようになりました。 ファシリテーターになれるのは、特許意匠商標総局(Controller General of Patents, Designs and Trade Marks)に登録した特許代理人または商標代理人、1961年弁護士法(Advocates Act, 1961)の規定に合致し、インド法曹評議会(Bar Council of India)に登録し、商標出願および処理に従事する弁護士、または政府の知的財産分野の省庁、組織、機関、中央公共部門事業です。 ファシリテーターについては、特許意匠商標総局が任命・規制の権限をもち、また、スタートアップ企業から苦情を受けたり、ファシリテーターがサービス提供を拒否したりした場合に、名簿からファシリテーターを除外する権限も有しています。無報酬の場合のファシリテーターの主な業務には、知的財産権(IPR)に関する助言、海外でのIPRの保護と振興に関する情報の提供、マドリッドプロトコルに基づくインド内外のさまざまなIP出願段階における支援、国際特許出願の支援、仮特許明細書および完全特許明細書、ISAの特許出願書類の作成、口頭審理の際の出願人の代理、異議申立への対応、IPR出願の最終処分が確実に実施されるようにすること、などが含まれます。 報酬は、特許意匠商標総局を通じて政府から直接ファシリテーターに支払われます。特許出願、商標出願、意匠出願、特許協力条約に基づくISA出願、マドリッドシステムによる国際商標出願については、出願人が料金を支払う必要があります。 ファシリテーターへの報酬はDPIITにより定期的に改定されます。改正SIPP制度では、出願時のファシリテーション手数料は特許では1万5000インドルピー(181米ドル)、商標と意匠では3000インドルピーです。特許出願の最終処分の際の手数料は、異議申立を伴わない場合は2万5000インドルピー、異議申立を伴う場合は3万5000インドルピーです。商標と意匠の最終処分については、異議申立を伴わない場合は5000インドルピー、異議申立を伴う場合は1万インドルピーです。 新たなSIPP制度では、IPの所有権を主張する申請者の支援、および、そのような知的財産権が、ファシリテーターや政府に移転されることの防止に重点が置かれています。改正SIPP制度は、スタートアップ企業やイノベーターがその潜在能力を最大限に発揮し、インドの経済成長と発展に貢献できるようにすることを目指す政府の取り組みを、大きく前進させるものです。新たなSIPP制度は間違いなくインドのIP出願件数を増加させ、IP資産の価値全体を実現できるよう手を差し伸べることで、より多くのイノベーターやクリエイターを後押しするでしょう。 Manisha SinghはLexOrbisのパートナーであり、CR Jacobは同事務所のシニアストラテジストです。 LexOrbis 709/710 Tolstoy House 15-17 Tolstoy Marg New Delhi – 110 001 India www.lexorbis.com Mumbai | Bengaluru 連絡先詳細 電話: +91 11 2371 6565 Eメール:...
Kozo Yabe

矢部耕三 – 御堂筋法律事務所 – Aリスト: 日本 2023

Aリスト: 日本 2023 矢部耕三 御堂筋法律事務所 コンタクト 電話:  +81 3 3539 6070 Eメール:  kyabe@midosujilaw.gr.jp 練習場 企業法務/商事法務、データ保護、知的財産、ライセンシング/フランチャイジング、M&A 序章 矢部耕三弁護士は、御堂筋法律事務所の知的財産権および国際法務グループのパートナーを務めています。東京の中央大学法学部および米国イリノイ大学アーバナ・シャンペーン・ロースクール法学修士課程を卒業しました。知的財産権に関する紛争解決、取引、企業コンプライアンスのほか、M&Aを含む国際企業取引に主に取り組んでいます。また、幅広い業界のデータ規制にも対応しています。 この弁護士について他の人に知らせる Aリストに戻る:JAPAN 2023
Katsumasa Suzuki

鈴木克昌 – 森・濱田松本法律事務所 – Aリスト: 日本 2023

Aリスト: 日本 2023 鈴木克昌 森・濱田松本法律事務所 コンタクト 電話: +81 3 6212 8327 Eメール:  katsumasa.suzuki@mhm-global.com 練習場 キャピタルマーケッツ、インバウンド投資、訴訟、M&A、テクノロジー、メディア/テレコミュニケーション 序章 鈴木弁護士は、キャピタルマーケッツ、M&A、企業の危機/政府調査などの分野のトップクラスの弁護士として知られています。最近では、特に「物言う株主」に関連した訴訟や紛争などにも積極的に取り組んでいます。 日本とニューヨーク州で弁護士資格を取得し、日本証券アナリスト協会の認定アナリストでもあります。さまざまな種類の取引や法律問題に関する豊富な経験と、ビジネス、会計、企業財務にわたる深い知見を通じて、他では得られない価値ある法律・ビジネス上のアドバイスをクライアントに提供しています。 実務経験が豊富な、自信に裏打ちされたクライアント第一主義のスタイルは、さまざまなクライアントや海外の法律事務所から、その戦略的イノベーションを高く評価されています。また、多くの「その年を代表する大型案件」や、初となる案件についてアドバイスしてきました。また、難しい訴訟においてもクライアントのために常に勝訴を勝ち取っています。こうした信用と経験に基づき、WWL、Chambers、Legal 500、IFLR、asialaw、Best Lawyersなどの主要なランキングで日本を代表する弁護士として評価を得ており、2016年にはフィナンシャル・タイムズ誌において、Asia-Pacific Innovative Lawyersのトップ10にランクされました。これは、日本の法律事務所としては初となる快挙です。ALBより、2021年には「Deal Maker of the Year」を受賞し、2022年には「Asia’s Top 15 Capital Markets Lawyers」に選出されました。また、2022年には、IPO案件における画期的なアドバイスが評価され、在籍する森・濱田松本法律事務所がAsia-Pacific Innovative Lawyer Awardにおいて「INNOVATION IN CREATING NEW STANDARDS」を受賞しました。 キャピタルマーケッツやM&Aに関するさまざまな論説を発表し、それが規則の作成や新たな基準策定につながっています。最近では、東京証券取引所が設置した「SPAC制度の在り方に関する研究会」のメンバーに選任されています。 2018年から国際法曹協会(IBA)の証券法委員会委員となり(2022年からはM&A部会の議長を務めています)、2023年にはIBA主催の国際会議「4th Asia-based International...
Junko Suetomi

末冨純子 – ベーカー&マッケンジー法律事務所 – Aリスト: 日本 2023

Aリスト: 日本 2023 末冨純子 ベーカー&マッケンジー法律事務所 コンタクト 電話: +81 3 6271 9900 Eメール: junko.suetomi@bakermckenzie.com 練習場 国際通商/関税、紛争解決、倒産/事業再編、反トラスト、国際コンプライアンス(マネーロンダリング防止、人権、環境、SDGs、ESGなど) 序章 末冨弁護士はベーカー&マッケンジー法律事務所東京オフィスのパートナーとして、国際貿易および紛争解決を担当しています。主な取扱分野は、国際貿易に関する法規制、WTO紛争解決、民事および刑事訴訟、独占禁止法、破産法、および一般的な会社法です。特に、反ダンピングや相殺関税、輸入規制、関税問題、輸出管理や制裁、関税待遇およびFTA / EPA申請、公的調達などの貿易救済に関連する問題についてクライアントに助言してきた豊富な経験があります。 ベーカー&マッケンジーに在籍する前は、外務省経済局のWTO紛争処理室に勤務していました。これまでに、国選弁護人として多くの刑事事件を担当しました。業務分野に関して、多数の著書や共著書があります。以前は東京弁護士会人権擁護委員会の委員長を務めていましたが、現在は副委員長を務めています。早稲田大学と税務大学校で講義を行っています。日本国際経済法学会の会員です。2019年3月13日以降、財務省の関税・外国為替等審議会の専門委員を務めています。2020年11月に法務大臣より司法試験考査委員に任命されました。また、2021年10月より金融庁金融審議会の専門委員にも任命されています。 末冨弁護士は日本とニューヨーク州の両方で弁護士として登録されています。東京大学と九州大学でLLBを、ニューヨーク大学ロースクールとコーネル大学ロースクールでLLMを取得しました。日本の最高裁判所司法研修所にて司法研修を修了しました。また、ハーバード大学のビジネス・アナリティクス認定プログラムの認定書を取得しました。(2021年3月)。 この弁護士について他の人に知らせる Aリストに戻る:JAPAN 2023
Nobuharu Onishi

大西信治 – 森・濱田松本法律事務所 – Aリスト: 日本 2023

Aリスト: 日本 2023 大西信治 森・濱田松本法律事務所 コンタクト 電話:  +81 3 5220 1860 Eメール:  nobuharu.onishi@mhm-global.com 練習場 キャピタルマーケッツ、インバウンド投資、アウトバウンド投資、プライベート・エクイティ、ベンチャー・キャピタル/ファンド、投資信託 序章 大西信治弁護士は、パートナー4名、弁護士3名、アソシエイト15名、パラリーガル35名から成る森・濱田松本法律事務所におけるアセット・マネジメント/投資信託プラクティス・グループの主要パートナーです。2022年には、日本における外国投資ファンドの新規設定ユニット・持分の公募案件を7件(合計12件)担当しました。 また、投資信託および金融規制のあらゆる分野の専門知識を有し、米国、EU、香港、ケイマン諸島を中心に、国際的な顧客基盤にアドバイスを行っています。 日本の投資家の承認に関する日本当局との協議や届出の提出など、契約書作成および法規制の遵守に関して、オルタナティブ投資ファンド運用会社(AIFM)や同様の事業者へのアドバイスについて豊富な経験があります。プライベート・エクイティや不動産などの流動性の低い商品を運用する投資信託など、さまざまな革新的なファンドにもアドバイスを行ってきました。また、国内外のプライベート・エクイティやベンチャー・キャピタルファンドの組成・資金調達に関しても助言してきました。さらに、デリバティブ取引や分散要件に関し、新たにファンドによる海外投資規制が導入された際には、金融庁(FSA)および日本証券業協会(JSDA)にアドバイスを行い、日本政府が署名したアジア地域ファンド・パスポートの協力覚書に沿ってJSDAが新たな規則を制定した際に支援を提供しました。 また、会議やセミナーにおいて、投信信託について数多くの講演を行っています。「Legal 500」や「Best Lawyers」などに頻繁に選出されており、日本の投資信託業界の第一線で活躍する弁護士として知られています。また、Chambers Asia Pacificでは、「大西信治氏は、錚々たる資産運用会社、多国籍企業、一流金融機関の代理人を務めており、『オフショアファンドに関する豊富な知識を持ち、優れたコミュニケーション能力を活かして、受益者の協力を獲得する』」と評され、投資信託分野でトップランク(band 1)の弁護士にランクされました。 この弁護士について他の人に知らせる Aリストに戻る:JAPAN 2023
Interim Injunctions

今(Now)は差止命令を求める時ではない

By Manisha Singh とAkanksha Kar,LexOrbis
先般のBennet, Coleman & Company対E! Entertainment Television LLCの裁判において、デリー高等裁判所は、エンターテインメント業界の巨人であるE! Entertainment Televisionに対する、"Now"という言葉の使用に関する仮処分命令を取り消しました。Bennet, Colemanは、被告がインドでこの言葉またはこの言葉に欺瞞的に類似した標章を使用する、チャンネルや番組を開始することを禁じる命令を求めて申立てを行い、2019年にこの申立てが認められていました。 原告は、Times Groupという名称で、印刷メディア、テレビ放送、チャンネル配信など多くの事業を展開しています。原告は、"Time""Times""Now"およびその派生的な言葉を、"Times Now""ET Now""Mirror Now""Movies Now""Romedy Now"というチャンネルのために、商標登録していました。2008年10月以降、原告は娯楽番組や映画批評番組で"E Now"というロゴを使用しています。"E"はエンターテインメントを表し、"Now"はTimes Groupと結び付いています。原告は第38類と第41類において"E Now"の標章とロゴの商標出願を行い、被告はこれに対し、既存の権利を根拠として異議を申し立てました。 原告は、被告が第41類のテレビ娯楽サービスについて、"E! Now"および"E! News Now"の所有権を主張していましたが、インドでは商標出願をしていなかったと主張しました。原告は"Now"という商標で250件超の登録をしており、そのうち第38類の登録が78件、第41類の登録が76件です。原告は"Now"というファミリーマーク商標の独占権を主張しました。そして、被告の標章は侵害とパッシングオフに該当すると陳述しました。 被告は、自社が"E! News Now"を国際的に使用し始めたのは2007年であり、原告が最初に登録したのは2008年7月だったと主張しました。同社は、"Now"のラベルと商標は、原告に有利になるように誤って登録されたと主張しました。差止命令は第38類に対するもので、原告はこの標章について登録により得られる権利を有していませんでした。被告は、原告が"Romedy Now"という語句の審査報告に対する回答を隠ぺいしたと主張しました。その回答において原告は、"Now"という商標には独占性がなく、取引上一般的であり、複数の第三者も使用していることを認めていました。 原告は"Now"を単独の商標として使用していないことを認め、デリーでは訴因が生じていないと主張しました。被告の"E!"というファミリー商標は、インドで国境を越えた評判を実際に確立していました。しかし原告は、商標が取引に一般的なものであることを証明するには、相応の証拠が必要だと主張しました。裁判所は、原告はデリーに子会社を設置しており、そこに通知書が送達されていたことから、この事案を審理する管轄権があると判断しました。 裁判所は、差止命令はさまざまなクラスにおける"Now"という商標の登録に関する申立てに基づいて、発令されたと判断しましたが、この事案に関連しているのは第38類と第41類のみです。原告は第38類の商標について単独の所有権を有しておらず、第41類の登録は2014年に使用意思に基づいて出願されましたが、使用されることなく公判を迎えました。被告が"E-News Now"という語句を最初に使用したのは2007年であるため、第41類の登録に基づいて差止めを請求することはできませんでした。 裁判所は有力な判例を踏襲し、侵害訴訟は法定救済措置であり、登録商標の所有者は排他的権利を享受できると判断しました。原告は"Now"についてさまざまな形態の登録を保持していましたが、裁判所は、"Now"という言葉自体は他の事業体も使用する一般的な言葉であると判示しました。 原告は、この言葉が取引に一般的に用いられる用語であることを認め、第38類の登録を含む3件の登録商標で使用されている唯一の言葉である"Now"を使用することを断念しました。原告はその後、この用語が特徴的であると反論することはできませんでした。被告は原告より前に、"E"および"E!"という語句を、"Now"および"E News Now"とともに使用していました。 裁判所は、デリーに主たる事務所があるという誤った記載をした原告は、重要事実を隠蔽したと判断しました。原告は、被告の国境を越えた評判について、差止めの請求から、被告が先行して取得していた権利に対する異議申立てへと、主張を変更しました。裁判所は被告に対する仮処分命令を取り消しました。 この判例は、国際的な権利を不誠実な意図なく、先に取得した当事者に対する仮処分命令を、継続すべきか否かを判断する際の指針になります。自己の都合に合わせ、さまざまな段階で相反する立場を取ることは正当化できません。虚偽の事実に基づく仮処分命令を、特に、相当期間にわたる誠実な使用が先行し、標章の一般使用に基づく権利が存在しない場合、継続することはできません。 Manisha SinghはLexOrbisのパートナー、Akanksha Karは同事務所のアソシエイトパートナーです。 LexOrbis 709/710 Tolstoy House 15-17 Tolstoy Marg New...
Yoshikazu Noma

野間敬和 – TMI総合法律事務所 – Aリスト: 日本 2023

Aリスト: 日本 2023 野間敬和 TMI総合法律事務所 コンタクト 電話: +81 3 6438 5511 Eメール:ynoma@tmi.gr.jp Practice areas バンキング、不動産、アセット/アセット・マネジメント、エネルギー/プロジェクト Introduction 主な取扱分野:バンキング/ファイナンス、不動産、プライベート・エクイティ、再生可能エネルギー、ウェブ-3ビジネス、航空金融TMI総合法律事務所のパートナー、野間敬和弁護士は航空金融業務グループの主要メンバーです。1995年に同志社大学大学院法学研究科(LLM)、2003年にヴァージニア大学ロースクール(LLM)を修了しました。日本(1997年)とニューヨーク州(2004年)で弁護士資格を取得しています。2004年から2005年にかけて、大手投資銀行に出向しました。 2014年より証券・金融商品あっせん相談センターのあっせん委員を務めています。また、最高裁判所司法研修所講師として、裁判手続に関する講義を担当しました(2011年~2014年)。 最近では、不動産取引、航空機や貨物コンテナのJOLCO(購入選択権付日本型オペレーティング・リース)案件などの法人税法上のリース取引、太陽光、風力、地熱、バイオマス発電プロジェクトなどの再生可能エネルギー・プロジェクト、ウェブ3事業、プライベート・エクイティ・ファンドの組成などを中心に取り組んでいます。 不動産に関しては、昨年1年間で60件超の不動産案件を手がけました。 この弁護士について他の人に知らせる Aリストに戻る:JAPAN 2023
Minoru Kobayashi

小林 穣 – アンダーソン・毛利・友常法律事務所 – 日本の弁護士トップ100 2023

日本のトップ100弁護士  小林 穣 アンダーソン・毛利・友常法律事務所 コンタクト 電話:   +81 3 6775 1052 Eメール:  minoru.kobayashi@amt-law.com 練習場 不動産ファイナンス、REIT、キャピタル・マーケッツ、ストラクチャード・ファイナンス、 M&A 序章 アンダーソン・毛利・友常のパートナーであり、不動産の売買、商業用リース、不動産開発など、幅広い不動産取引に携わってきました。また、複雑な不動産ファイナンスや不動産ファンドに特に力を入れており、貸し手、スポンサー、資産運用会社、開発業者、投資家、各種の金融機関や世界的な不動産ファンドを含む、主要企業の代理人を何度も務め、オフィスビル、住宅ビル、商業施設、物流施設、ホテル、ヘルスケア資産を含む、さまざまな種類の資産を扱っています。 業務では、キャピタルマーケッツ取引にも重点を置き、日本国内外の債券および株式の公募や私募において外国の発行者および管理者の代理人を務めてきました。不動産およびキャピタルマーケッツでの経験を積んだことで、日本の不動産投資信託(REIT)のユニットの公募および私募の取り扱い経験も豊富です。また、証券化、投資ファンドの設立、および多くの資産クラスを含むその他のストラクチャード・ファイナンス取引の業務にも注力しています。 不動産、キャピタルマーケッツ、ストラクチャード・ファイナンス業務に加えて、M&Aや、企業再編、ライセンス供与、国際貿易などの一般企業法務の経験もあります。東京大学(LLB、1995年)とバージニア大学(LLM、2002年)を卒業し、日本(1997年)とニューヨーク州(2003年)で弁護士資格を取得しています。 この弁護士について他の人に知らせる Aリストに戻る:JAPAN 2023
Seishi Ikeda

池田成史 – ベーカー&マッケンジー法律事務所 – 日本の弁護士トップ100 2023

日本のトップ100弁護士  池田成史 ベーカー&マッケンジー法律事務所 コンタクト 電話:  +81 3 6271 9444 Eメール:  seishi.ikeda@bakermckenzie.com 練習場 不動産、バンキング/ファイナンス、プライベート・エクイティ、ベンチャー・キャピタル/ファンド、キャピタルマーケッツ、証券化/ストラクチャード・ファイナンス 序章 ベーカー&マッケンジー法律事務所のパートナーで、東京オフィスの不動産グループ代表を務めています。東京大学(LLB、1991年)とエモリー大学ロースクール(LLM、2000年)を卒業しました。日本(1994年)とニューヨーク州(2001年)で弁護士資格を取得しています。欧州の大手投資銀行で社内弁護士を務めました(2002~2004年)。 長年、日本証券業協会(JSDA)の「投資勧誘の在り方に関するワーキンググループ」のメンバーを務めています。また、宅地建物取引士(2018年)、マンション管理士(2019年)、および管理業務主任者(2019年)の資格を取得し登録しています。 最近力を入れているのは、原資産を商業用または住宅用の建物、ホテル、物流、およびデータセンターとする場合の、節税の仕組みとしてTK-GKおよびTMKスキームに関わる不動産取引です。オフィスの移転、建物の建設、改修、リースも取り扱っています。また、上場関連事項、新規公開株、サムライ債、投資ファンド、クロスボーダーM&A取引も担当しています。 この弁護士について他の人に知らせる Aリストに戻る:JAPAN 2023
https://law.asia/asia/lawyers/japan-top-lawyers/nobuharu-onishi/

日本のトップ100弁護士 2023

以下は、Asia Business Law Journal誌が実施した調査に基づいて作成された、日本の上位100名の弁護士リストです。こちらをクリックして、Aリストに添付された編集レポートをご一読ください。 経歴や連絡先の詳細が記載されている場合は、弁護士自身が書いたものであり、その内容については別途確認されておりません。 相澤光江 TMI総合法律事務所  主な取扱分野:民事再生/会社更生、破産/特別清算、私的整理/事業再生ADR、商事関連訴訟、不正競争 赤羽 貴 アンダーソン・毛利・友常法律事務所 主な取扱分野:PPP/PFI/コンセッション、プロジェクト・ファイナンス、アセット・マネジメント/投資ファンド、ストラクチャード・ファイナンス、不動産ファイナンス 青山大樹 森・濱田松本法律事務所 主な取扱分野:バンキング/ファイナンス、不動産、証券化/ストラクチャード・ファイナンス 新木伸一 長島・大野・常松法律事務所 主な取扱分野:キャピタルマーケッツ、コーポレート・ガバナンス、金融規制、M&A、企業法務 有吉尚哉 西村あさひ法律事務所 主な取扱分野:バンキング/ファイナンス、キャピタルマーケッツ、コンプライアンス、電子商取引、フィンテック、ブロックチェーン/仮想通貨、証券化/ストラクチャード・ファイナンス 渥美博夫  渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 主な取扱分野:バンキング/ファイナンス、キャピタルマーケッツ/ストラクチャード・ファイナンス、一般企業法務、プロジェクト・ファイナンス、不動産 ルパート・バロウズ Mayer Brown 主な取扱分野:バンキング/ファイナンス、M&A、合弁事業/戦略的提携、訴訟/紛争解決、サプライチェーン/ディストリビューション デール・E・コールドウェル モリソン・フォスター外国法事務弁護士事務所 主な取扱分野:プロジェクト・ファイナンス、電力/エネルギー、M&A、バンキング/ファイナンス、インフラ アラン・G・キャノン  Simpson...
Managing-and-resolving-disputes-in-Taiwan-L

台湾の知的財産・無形資産保護

By 謝祥揚と 王孟如 と汪家倩,萬國法律事務所(台北)
台湾の知財分野の主な法律には、台湾専利法、台湾商標法、台湾著作権法、台湾営業秘密法などがある。保護を受けるためには、特許・商標の登録を出願し承認を受ける必要があるが、著作権と営業秘密は登録なしに保護される。特許と商標に関して、台湾は先願主義を採用している。関連するすべての法的要件を満たす場合、基本的に特定の特許および/または商標を最初に出願した者に権利が与えられる。 台湾では、発明特許、登録実用新案、登録意匠の3種類の特許を利用できる。発明特許は、新規性、進歩性、実用性がある技術的思想の創作に対して付与される。発明特許は、出願日から20年間、保護される。医薬品、農薬、またはその製造方法に関する特許権は、必要とされる規制当局の認可の取得に時間を要することを考慮して、存続期間の延長が認められている。 実用新案とは、物品の形状、構造または組み合わせに係る創作を指し、出願日から10年間、保護される。登録意匠は、物品の全部または一部の形状、模様、色彩またはこれらの結合であって、視覚に訴える創作を指し、出願日から15年間、保護される。 台湾で利用できる4種類の商標は、商標、証明標章、団体標章、団体商標である。商標とは、指示する商品または役務の供給元を認識させるために、商品および/または役務とともに使用される識別性を備えた標識であり、文字や図形、記号、色彩、立体形状、動態、ホログラム、音またはその結合によって構成される。 地理的表示は証明標章として登録することができ、商品または役務を、該当する産地の品質または他の特性に関する名声と関連づけることができる。団体標章と団体商標は、同業組合、協会または団体がその会員資格を表彰し、商品または役務を提供する会員を識別する標識である。 著作権保護は、音声・文字著作物、音楽著作物、演劇・舞踊著作物、美術著作物、写真著作物、絵画・図形著作物、映画著作物、録音著作物、建築著作物、コンピュータープログラム著作物に適用される。著作財産権は、その著作物が創作された時点から保護の対象となり、著作者の死後50年が経過するまで存続する。法人が著作者である場合の著作財産権は、その著作物の公表後50年存続する。または、著作物が一度も公表されなかった場合、創作後50年が経過するまで存続する。 営業秘密は、方法、技術、製造過程、調合、プログラム、設計、またはその他の生産、販売もしくは経営に用いられる情報であり、かつ一般的に当該情報に関わる人が知るところではなく、その秘密性のため、実際にまたは潜在的に経済的な価値を有し、所有者が既に合理的な秘密保護措置をとっている場合に保護される。 相互主義に基づく適用 台湾の知的財産制度は、相互主義に基づき外国人にも開放されている。特許と商標--台湾経済部智慧財産局(TIPO)による承認と登録を必要とする2種類の知的財産権--に関しては、外国人の母国が台湾市民に特許権保護・商標保護を適用している限りにおいて、外国人も特許権および商標権の保護を申請する資格を持つ。 台湾特許法と台湾商標法の下では、外国法人が台湾で特許登録または商標登録を正式に行っていることを適切に証明できる限り、台湾政府の認可--外国法人が、台湾の商業登記簿に登録された拠点を持つ場合、政府の認可を受ける--を得ることなく、台湾市民に認められた救済措置を求めることができる。 さらに、台湾商標法に基づき、商標権侵害には刑事罰が科される--他方で台湾特許法は、特許権侵害に対し民事責任のみを規定している--ため、台湾の商標権を持つ外国法人は、その商標を不正に使用した者に対して刑事訴訟を提起できる。 著作権と営業秘密は、政府の認可や登録の必要なく権利保有者が法的保護を享受できる知的財産権であり、外国人も、台湾市民と同じ形で著作物や営業秘密に対する保護を受けられる。 加えて、外国法人は現在、著作権または営業秘密の侵害に対して民事または刑事訴訟を提起し、台湾市民の著作権または営業秘密の保有者と同じ救済措置を求めることができる。 知的財産案件の専属管轄裁判所である、台湾知的財産裁判所の慣例に対する著者らの考察に基づくと、同裁判所は民事訴訟において、外国法人を台湾の当事者に対する場合と同様に扱っている。 唯一の例外として、外国人が民事訴訟を提起する場合、同じく民事訴訟手続きに基づく被告からの正式な申立があれば、外国人の原告が台湾域内に居住地や事業所を持たない場合、第二審および第三審の訴訟費用以上の供託金の提供を要求される可能性がある。 被告がこの申立を行い、外国人の原告による供託金の提供を裁判所に求める際、被告は、裁判所が申立に関し判断を下すか、または原告が当該申立に関する裁判所の判断に従うまで、訴訟手続きの進行を拒否できる。 台湾の民事訴訟手続法によると、外国人の原告は、訴訟費用を上回る額の資産を台湾に保有することを立証できれば、供託金提供の義務を免除される。裁判所は、外国人の原告が台湾に持つ資産の価値が、必要となる供託金の額を上回るかどうか決定する裁量を有する。 台湾営業秘密法 台湾営業秘密法が1996年に制定された当時、秘密の不正使用があった場合に秘密の保有者には、民事救済(損害賠償および/または差し止めによる救済)しか認められていなかった。その時点では、秘密を漏洩した者の刑事責任を追及したい場合、台湾刑法に頼らねばならなかった。 2013年に営業秘密法が改正され、営業秘密の不正使用の刑事責任を問えることになった。加えて、外国での使用を意図して営業秘密を不正使用した場合、罰金が併科されることになった。 重要な点として、2013年の改正に基づき、被雇用者が業務執行の過程で営業秘密を不正使用した場合、雇用主にも刑罰を科すことができる。雇用主は、被雇用者による秘密の不正使用を防ぐため、あらゆる可能な措置を講じたことを立証できる場合に限り、この刑事責任を免れることができる。 2022年に台湾営業秘密法はさらに改正され、違反した場合は最長12年の懲役に処され、500万台湾ドル(16万3000米ドル)~1億台湾ドルの罰金を科されることになった。 この改正は、競合他社による「重要コア技術」の不正使用または漏洩を防ぎ、台湾のハイテク産業とその経済的利益を守る目的で実施された。重要コア技術という用語は、台湾の重要産業の競争力を大幅に高めることができるか、または安全保障上の懸念から保護が必要と関連政府機関に認定された技術を指す。 Formosa Transnational 13/F, 136 Jen Ai Road, Sec. 3, Taipei 電話: +886 2 2755 7366 Eメール: ftlaw@taiwanlaw.com www.taiwanlaw.com

アジアの商標法の比較

アジアにおける国際貿易の驚異的な増大を受けて、知的財産権の保護がこれまで以上に重要になっている。企業の競争力を維持するために、商標法が急速に発展しつつある。 インド インドネシア 台湾 ベトナム インド インドでは、外国直接投資の誘致、富の形成における無形資産の評価の推進、中小企業の成長にもつながるデジタル経済の促進への取り組みを進めるなか、知的財産の管理、運用、理解に大きな変化が起きている。 疑いなくインドは、知的財産制度の強化に向けて大きく前進している。知識主導型経済においてイノベーションを推進するために、新たなマイルストーンが設定された。重要な進展として、インドの知的財産所割官庁の管理改善とインフラ強化が挙げられる。 揺るぎない司法制度が、知的財産の飛躍的な発展に大きく貢献した。商標、著作権、特許をめぐる訴訟が過去最高の件数に達し、インドの裁判所は、知的財産権を確実に保護し侵害を防ぐために、国際的な原則と先例を採用している。これまでの進展は重要なものだが、今後も知的財産に関する新たなマイルストーンの達成を期待できる。 確実に進歩してはいるが、企業は長年、自社の知的財産権の保護と執行に主たる重点を置いてきた。それも当然のことではあるが、現代の世界や先進的な企業のニーズはそれをはるかにしのぐ。知的財産権の保護と執行以外にも、知的財産の創出と無形資産の活用に欠かせない領域が存在する。 現代のビジネス界では、ブランド創出、リスク軽減、ライセンス供与とフランチャイジング、ブランド希釈化の防止、商用化、収益化などの課題が検討されている。法曹界は今、問題が起きてから対応するのではなく、一歩先を見据えて行動することを求められている。 様々な要素が企業の検討対象となることから、多面的な解決策を追求する必要があると思われる。こうした状況を踏まえつつも、解決策は法律と慣行に基づき、法的に認められるものでなければならない。そのために法曹界は、企業を理解し楽観的な姿勢で臨むとともに、既存の法的手段の範囲内で戦略的視点からリスクを予測する必要がある。 現在、知的財産権は侵害された場合の保険だけでなく、違反を完全に防ぎ、企業とブランドを守る盾の役割も果たしている。従って世界の経営者は、知的財産が会社とその評価額、ブランド、投資収益にどれほど大きな影響を及ぼすかに関して、認識と理解を深める必要があるだろう。 そのためには、各業界の理解にも重点を移さねばならない。製薬業界のクライアントと変化の激しい消費者業界のクライアントでは、対応する際に求められる知識が大きく異なり、後者ではマーケティングと顧客体験が最優先される。ビジネスモデルを保護したいが資金繰りが苦しいスタートアップ企業に対する場合、経験は全く違ったものになる。 知的財産の商用化、保険、担保をめぐる新たな課題、クリエイティブ経済におけるその意義、およびこれらがGDP、ブランド価値、ブランド評価、コーポレートガバナンスの課題、担保、保険、エコシステム横断的な連携に与える影響などは、いずれも今まさに対処が求められる現代的な概念である。 新時代の発明により経済活動が飛躍的に活発化するなか、投資家の権利と利益の保護が極めて重要になっている。インド政府は、独自の知財取引所(IP Exchange)の発足など、政策や制度を通じて正しい方向に進む数々の措置をとっている。ちなみに知財取引所は、10年ほど前に筆者の頭にも浮かんだアイデアであり、正しい方向への一歩である。 知的財産分野を扱う業界団体の議論の焦点となる分野も、イノベーションが知的財産に与える影響、メタバースにおけるライセンス供与、営業機密の問題、イノベーションを事業の焦点とした経営計画の策定方法、金融市場が知的財産に与える影響、知的財産を最も効果的に商用化する方法などに移っている。 企業自体が新たな世界秩序を積極的に吸収しようとするなか、こうした課題が論点になっており、国際的な競争に駆り立てられた企業はこれらの課題を認識し受け入れている。景気停滞に直面する多くの企業が、こうした課題から得られる強みを活用する必要性を理解し、多くの場合、ベストプラクティスとして実践している。その課題の一部を、以下で論じる。 ソーシャルメディアとデジタルメディアの登場で、世界は小さくなり、新たな地域や新たな顧客にブランドを広めることが、これまで以上に容易になった。インドには既に周知商標という概念があるが、周知商標の宣言に関する制度を強化している。 インドの裁判所は、保有者が周知商標を宣言する権利を認め、この宣言を申請する権利を行使するよう命じ、商標局に申請を認定するよう指示を発出した。多くの商用保有者が既にこの制度を利用しており、今後、認定を受ける者がさらに増えるだろう。 インド証券取引委員会(SEBI)は、プロモーターに対し、新規株式公開(IPO)や追加株式公開時に知的財産の状況を開示し、商標一覧、商標の保護(または保護の欠如)が与える影響、ブランド価値や企業価値に影響し得る紛争や課題の影響を示すことを義務づけている。 アームズレングスルールに沿った支配関係、関連当事者取引、移転価格、コーポレートガバナンスの問題、ロイヤリティ、子会社や関連会社一覧、それらが無形資産に与える実質的な影響とともに、ライセンスや技術移転の状態も宣言しなければならない。 現在進行中の特許や商標権の取得手続き、訴訟、ロイヤリティの変更に関する開示とともに、これらの購入、売却または担保設定の決議も、公表する必要がある。コーポレートガバナンスや監査報告書は現在、知的財産権の付与や侵害が収益に与える影響の評価を含めて、知的財産に関わるリスクと機会に注目している。 実際、コーポレートガバナンスと知的財産は発展途上の刺激的な分野である。知的財産とロイヤリティに影響する決定を含めて、企業が下すあらゆる決定は株主に影響を及ぼす。 SEBIによる上述の義務化に伴い、生み出された知的財産を確実に保護するために、知的財産の定期的な監査が不可欠である。それどころか多くの場合、監査は、社内に存在するが保護を受けていない可能性がある知的財産の特定に役立つ。 ブランド価値の評価も、契約違反に対する裁判での損害賠償から、取引に関わる性質のものに進化している。当事者間の取引において、適切なタイミングで知的財産評価に関する条項を設けることは、企業が検討すべき重要なポイントである。ブランド評価は、キャッシュフローの算出のみならず資金調達にも関係してくる。事実、多くの業界報告書によると、企業の価値評価の90%以上が社内の知的財産を対象としており、評価基準の設定が欠かせなくなっている。例えば知財保険は、価値評価基準なしには困難である。 SEBIは、知的財産と課税の重複を生み出す関係者間取引にも、厳しい目を光らせている。知的財産エコシステムを社内で教え込み確立することも、重要な領域である。 経営幹部が知的財産重視の姿勢を、社員に普段から説いて聞かせることも大切になる。そうすれば関係者全員が、知的財産の漏洩や隠れた知的財産の活用に対して敏感になるからだ。 社内のイノベーション推進に向けたもうひとつの手段は、研究開発の枠組みと方針を確実に定めることだ。すなわち、創造に関わる社内全部門が、作成中の著作物を記録し、保護を受けるために法務部門に報告しなければならない。効果的な資金配置に対する株主の利益を踏まえると、イノベーションと実用新案・特許出願の相関関係について、さらに包括的な議論を行う必要がある。 インドは、人工知能(AI)を活用したブランド保護環境の大幅な改善も目指している。AIは、知的財産法に必ず大きな影響を及ぼす革新的な技術だからである。 インド広告基準評議会は、昨年数多くの苦情が寄せられたのを受け、広告による不正表示、誇張表示、中傷からブランドを保護する独自の措置を開始した。法的助言を求めれば風評管理も改善するため、こうした動きが加速している。 広告は企業の資産であり、法律を遵守するだけでなく、マーケター、広告主、弁護士間に調和のとれた対話を生み出し、価値主導のキャンペーンを実現することが重要である。セレブやインフルエンサー、暗号通貨業界、ゲーム業界を対象に、より厳格な指針が策定された。例えばソーシャルメディア広告は、ルーチンフィードバックではなく、有料プロモーションとみなされて規制の対象となっている。 イノベーションの進展やビジネスと法律の融合に伴い、企業は最もリスクが低く、ガバナンスに優れ、最善または最適な解決策にたどり着けるよう、多くの解決法を用意しておくことが、かつてなく必要とされている。 法務専門職には、ビジネスに関するこれまで以上の知識と高い独創性が求められる。そのために、最新技術、リスクリワードレシオ、リスク軽減措置、および成功の可能性を高めるか、少なくとも損失やリスクの可能性を減らす他の戦略的な対策について学んでおかねばならない。 Anand and Anand First Channel Building Plot No. 17 A Sector 16 A, Film City Noida 201301, India 電話: +91 120 4059 300 Eメール:email@anandandanand.com www.anandandanand.com トップに戻る インドネシア インドネシアでは、商標および地理的表示に関するインドネシア共和国法律2016年第20号(通称「商標法」)が、商標に関する基本法であるが、個別事項を規制する以下を含む細則がいくつか存在する。 法務・人権省で適用される、非課税国家収入の種類と率に関する政府規則2019年28号〔法務・人権省知的財産総局(DGIP)に提起できる各種訴訟の正式な手数料が定められている〕 マドリッド協定議定書に基づく商標の国際登録に関する政府規則2018年22号(インドネシアにおける、または同国から行う国際登録のあらゆる事項を扱う) 1995年8月29日に設立された商標審判委員会の審理請求、審理および解決の手続きに関する政府規則2019年90号 商標分野の知的財産総局商標登録令に関する法務・人権省規則2016年67号(登録の条件、物品とサービスの分類、登録された商標証と記録の補正について定める) 商標の範囲 商標法の第1条によると、商標とは、個人または法人によって生産された商品/サービスを取引において識別させるためのマークで、グラフィックイメージ、ロゴタイプ、名称、単語、文字、数字、色の組み合わせといった平面や立体、音声、ホログラム、またはそれらの要素が二つ以上組み合わさった形で表示されるものである。 この定義に基づき、同法は伝統的商標と非伝統的商標という2種類の商標を認めている。 登録出願 商標法は基本的に先願主義を採用しているため、いかなる個人、団体または法人も商標登録の出願を行うことができる。だが同法は、悪意をもって提出された商標出願を規制しており、商標法第21条は、出願人が悪意をもって提出した商標出願は拒絶されると規定している。 すでに定着した周知商標と類似した出願に対しては、実体審査でこの条項を適用できるが、現実的には出願に悪意があるかどうかの判断は極めて困難である。 悪意ある出願がのちに登録された場合も、商標法第77条に基づき商事裁判所がいつでも登録を取り消すことができる。同条は「悪意ある要素が感じられる商標、国家のイデオロギー、法律の規定、モラル、宗教、公序良俗に反する商標についての取消訴訟の提訴期間は無期限である」と定めている。 出願書 インドネシアで商標登録を出願する場合、商標検索を強くお勧めする。検索レポートにより、円滑な登録手続きを阻む潜在的なリスクや障害を明らかにできる。 検索レポートで出願手続きを阻む障害がないと判明した場合、出願人は次の情報を提出しなければならない。 出願人の氏名 住所 商品とサービスのリスト 出願する商標の見本(文字標章、ロゴ、非伝統的商標の形をとることができる) 必要な情報が提出されたら、特許弁護士が委任状と所有宣言書を作成し、出願人がこれに署名する。 2019年以降、インドネシアでは電子出願のみが出願方法として認められている。 期間 出願に対し異議申し立てが提起されず、暫定的拒絶もされない場合、出願後10~13カ月で登録番号を取得できる。以前と比べ大幅に迅速化されており、過去には単純な登録でさえ2~3年かかっていた。 異議申し立てと取消 登録出願は2カ月間のみ公告される。この公告期間中に、あらゆる利害関係者が異議を申し立てることができ、申し立ては実体審査の中で検討される。 公告期間満了後は、延長の要求を含め、異議申し立ての手段は他に存在しない。 異議申し立ての手続きを首尾よく進めるためには、申立人が正当な法的地位を有すること、すなわち過去にインドネシア国内で商標出願または登録を行っていることが望ましい。そうでない場合、審査官が先願主義に基づき申し立てを却下する可能性が高い。 第三者が商標登録の取消または抹消を求める場合、商事裁判所に提訴する必要があり、対象となる商標がいったん登録されて初めて、取消または抹消を求めることができる。 外国の周知商標 有名かどうかにかかわらず、インドネシアで登録された商標に限って保護を受けることができる。だが商標法は、外国の周知商標を第三者による悪意ある登録から一定程度、保護する仕組みを設けている。 第三者が、外国の周知商標と同一または類似した商標を、悪意をもって登録出願しようとした場合、商標法第21条に基づき拒絶される。同条は、次のように定めている。 「同類の商品/サービスに関して、他者の所有する周知商標、または特定の条件を満たす、同じ種類ではない商品/サービスに関して他者の所有する周知商標と、実質的に類似する場合、出願は拒絶される」 次に、何が周知商標に当たるかという問題に目を向ける。商標分野の知的財産総局、商標登録令に関する法務・人権省規則2016年67号の第18条は、周知商標の基準を以下のように定めている。 周知商標としての、当該の事業分野におけるその商標に対する市民の知識あるいは認識 ...
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アジアの商標法の比較:インド

By サフィール・アナンドとトゥインキー・ランパル,Anand and Anand(ノイダ)
インド インドネシア 台湾 ベトナム インドでは、外国直接投資の誘致、富の形成における無形資産の評価の推進、中小企業の成長にもつながるデジタル経済の促進への取り組みを進めるなか、知的財産の管理、運用、理解に大きな変化が起きている。 疑いなくインドは、知的財産制度の強化に向けて大きく前進している。知識主導型経済においてイノベーションを推進するために、新たなマイルストーンが設定された。重要な進展として、インドの知的財産所割官庁の管理改善とインフラ強化が挙げられる。 揺るぎない司法制度が、知的財産の飛躍的な発展に大きく貢献した。商標、著作権、特許をめぐる訴訟が過去最高の件数に達し、インドの裁判所は、知的財産権を確実に保護し侵害を防ぐために、国際的な原則と先例を採用している。これまでの進展は重要なものだが、今後も知的財産に関する新たなマイルストーンの達成を期待できる。 確実に進歩してはいるが、企業は長年、自社の知的財産権の保護と執行に主たる重点を置いてきた。それも当然のことではあるが、現代の世界や先進的な企業のニーズはそれをはるかにしのぐ。知的財産権の保護と執行以外にも、知的財産の創出と無形資産の活用に欠かせない領域が存在する。 現代のビジネス界では、ブランド創出、リスク軽減、ライセンス供与とフランチャイジング、ブランド希釈化の防止、商用化、収益化などの課題が検討されている。法曹界は今、問題が起きてから対応するのではなく、一歩先を見据えて行動することを求められている。 様々な要素が企業の検討対象となることから、多面的な解決策を追求する必要があると思われる。こうした状況を踏まえつつも、解決策は法律と慣行に基づき、法的に認められるものでなければならない。そのために法曹界は、企業を理解し楽観的な姿勢で臨むとともに、既存の法的手段の範囲内で戦略的視点からリスクを予測する必要がある。 現在、知的財産権は侵害された場合の保険だけでなく、違反を完全に防ぎ、企業とブランドを守る盾の役割も果たしている。従って世界の経営者は、知的財産が会社とその評価額、ブランド、投資収益にどれほど大きな影響を及ぼすかに関して、認識と理解を深める必要があるだろう。 そのためには、各業界の理解にも重点を移さねばならない。製薬業界のクライアントと変化の激しい消費者業界のクライアントでは、対応する際に求められる知識が大きく異なり、後者ではマーケティングと顧客体験が最優先される。ビジネスモデルを保護したいが資金繰りが苦しいスタートアップ企業に対する場合、経験は全く違ったものになる。 知的財産の商用化、保険、担保をめぐる新たな課題、クリエイティブ経済におけるその意義、およびこれらがGDP、ブランド価値、ブランド評価、コーポレートガバナンスの課題、担保、保険、エコシステム横断的な連携に与える影響などは、いずれも今まさに対処が求められる現代的な概念である。 新時代の発明により経済活動が飛躍的に活発化するなか、投資家の権利と利益の保護が極めて重要になっている。インド政府は、独自の知財取引所(IP Exchange)の発足など、政策や制度を通じて正しい方向に進む数々の措置をとっている。ちなみに知財取引所は、10年ほど前に筆者の頭にも浮かんだアイデアであり、正しい方向への一歩である。 知的財産分野を扱う業界団体の議論の焦点となる分野も、イノベーションが知的財産に与える影響、メタバースにおけるライセンス供与、営業機密の問題、イノベーションを事業の焦点とした経営計画の策定方法、金融市場が知的財産に与える影響、知的財産を最も効果的に商用化する方法などに移っている。 企業自体が新たな世界秩序を積極的に吸収しようとするなか、こうした課題が論点になっており、国際的な競争に駆り立てられた企業はこれらの課題を認識し受け入れている。景気停滞に直面する多くの企業が、こうした課題から得られる強みを活用する必要性を理解し、多くの場合、ベストプラクティスとして実践している。その課題の一部を、以下で論じる。 ソーシャルメディアとデジタルメディアの登場で、世界は小さくなり、新たな地域や新たな顧客にブランドを広めることが、これまで以上に容易になった。インドには既に周知商標という概念があるが、周知商標の宣言に関する制度を強化している。 インドの裁判所は、保有者が周知商標を宣言する権利を認め、この宣言を申請する権利を行使するよう命じ、商標局に申請を認定するよう指示を発出した。多くの商用保有者が既にこの制度を利用しており、今後、認定を受ける者がさらに増えるだろう。 インド証券取引委員会(SEBI)は、プロモーターに対し、新規株式公開(IPO)や追加株式公開時に知的財産の状況を開示し、商標一覧、商標の保護(または保護の欠如)が与える影響、ブランド価値や企業価値に影響し得る紛争や課題の影響を示すことを義務づけている。 アームズレングスルールに沿った支配関係、関連当事者取引、移転価格、コーポレートガバナンスの問題、ロイヤリティ、子会社や関連会社一覧、それらが無形資産に与える実質的な影響とともに、ライセンスや技術移転の状態も宣言しなければならない。 現在進行中の特許や商標権の取得手続き、訴訟、ロイヤリティの変更に関する開示とともに、これらの購入、売却または担保設定の決議も、公表する必要がある。コーポレートガバナンスや監査報告書は現在、知的財産権の付与や侵害が収益に与える影響の評価を含めて、知的財産に関わるリスクと機会に注目している。 実際、コーポレートガバナンスと知的財産は発展途上の刺激的な分野である。知的財産とロイヤリティに影響する決定を含めて、企業が下すあらゆる決定は株主に影響を及ぼす。 SEBIによる上述の義務化に伴い、生み出された知的財産を確実に保護するために、知的財産の定期的な監査が不可欠である。それどころか多くの場合、監査は、社内に存在するが保護を受けていない可能性がある知的財産の特定に役立つ。 ブランド価値の評価も、契約違反に対する裁判での損害賠償から、取引に関わる性質のものに進化している。当事者間の取引において、適切なタイミングで知的財産評価に関する条項を設けることは、企業が検討すべき重要なポイントである。ブランド評価は、キャッシュフローの算出のみならず資金調達にも関係してくる。事実、多くの業界報告書によると、企業の価値評価の90%以上が社内の知的財産を対象としており、評価基準の設定が欠かせなくなっている。例えば知財保険は、価値評価基準なしには困難である。 SEBIは、知的財産と課税の重複を生み出す関係者間取引にも、厳しい目を光らせている。知的財産エコシステムを社内で教え込み確立することも、重要な領域である。 経営幹部が知的財産重視の姿勢を、社員に普段から説いて聞かせることも大切になる。そうすれば関係者全員が、知的財産の漏洩や隠れた知的財産の活用に対して敏感になるからだ。 社内のイノベーション推進に向けたもうひとつの手段は、研究開発の枠組みと方針を確実に定めることだ。すなわち、創造に関わる社内全部門が、作成中の著作物を記録し、保護を受けるために法務部門に報告しなければならない。効果的な資金配置に対する株主の利益を踏まえると、イノベーションと実用新案・特許出願の相関関係について、さらに包括的な議論を行う必要がある。 インドは、人工知能(AI)を活用したブランド保護環境の大幅な改善も目指している。AIは、知的財産法に必ず大きな影響を及ぼす革新的な技術だからである。 インド広告基準評議会は、昨年数多くの苦情が寄せられたのを受け、広告による不正表示、誇張表示、中傷からブランドを保護する独自の措置を開始した。法的助言を求めれば風評管理も改善するため、こうした動きが加速している。 広告は企業の資産であり、法律を遵守するだけでなく、マーケター、広告主、弁護士間に調和のとれた対話を生み出し、価値主導のキャンペーンを実現することが重要である。セレブやインフルエンサー、暗号通貨業界、ゲーム業界を対象に、より厳格な指針が策定された。例えばソーシャルメディア広告は、ルーチンフィードバックではなく、有料プロモーションとみなされて規制の対象となっている。 イノベーションの進展やビジネスと法律の融合に伴い、企業は最もリスクが低く、ガバナンスに優れ、最善または最適な解決策にたどり着けるよう、多くの解決法を用意しておくことが、かつてなく必要とされている。 法務専門職には、ビジネスに関するこれまで以上の知識と高い独創性が求められる。そのために、最新技術、リスクリワードレシオ、リスク軽減措置、および成功の可能性を高めるか、少なくとも損失やリスクの可能性を減らす他の戦略的な対策について学んでおかねばならない。 Anand and Anand First Channel Building Plot No. 17 A Sector 16 A, Film City Noida 201301, India 電話: +91 120 4059 300 Eメール:email@anandandanand.com www.anandandanand.com

アジアの商標法の比較:インドネシア

By エミルシャ・ディナール,AFFA Intellectual Property Rights
インド インドネシア 台湾 ベトナム インドネシアでは、商標および地理的表示に関するインドネシア共和国法律2016年第20号(通称「商標法」)が、商標に関する基本法であるが、個別事項を規制する以下を含む細則がいくつか存在する。 法務・人権省で適用される、非課税国家収入の種類と率に関する政府規則2019年28号〔法務・人権省知的財産総局(DGIP)に提起できる各種訴訟の正式な手数料が定められている〕 マドリッド協定議定書に基づく商標の国際登録に関する政府規則2018年22号(インドネシアにおける、または同国から行う国際登録のあらゆる事項を扱う) 1995年8月29日に設立された商標審判委員会の審理請求、審理および解決の手続きに関する政府規則2019年90号 商標分野の知的財産総局商標登録令に関する法務・人権省規則2016年67号(登録の条件、物品とサービスの分類、登録された商標証と記録の補正について定める) 商標の範囲 商標法の第1条によると、商標とは、個人または法人によって生産された商品/サービスを取引において識別させるためのマークで、グラフィックイメージ、ロゴタイプ、名称、単語、文字、数字、色の組み合わせといった平面や立体、音声、ホログラム、またはそれらの要素が二つ以上組み合わさった形で表示されるものである。 この定義に基づき、同法は伝統的商標と非伝統的商標という2種類の商標を認めている。 登録出願 商標法は基本的に先願主義を採用しているため、いかなる個人、団体または法人も商標登録の出願を行うことができる。だが同法は、悪意をもって提出された商標出願を規制しており、商標法第21条は、出願人が悪意をもって提出した商標出願は拒絶されると規定している。 すでに定着した周知商標と類似した出願に対しては、実体審査でこの条項を適用できるが、現実的には出願に悪意があるかどうかの判断は極めて困難である。 悪意ある出願がのちに登録された場合も、商標法第77条に基づき商事裁判所がいつでも登録を取り消すことができる。同条は「悪意ある要素が感じられる商標、国家のイデオロギー、法律の規定、モラル、宗教、公序良俗に反する商標についての取消訴訟の提訴期間は無期限である」と定めている。 出願書 インドネシアで商標登録を出願する場合、商標検索を強くお勧めする。検索レポートにより、円滑な登録手続きを阻む潜在的なリスクや障害を明らかにできる。 検索レポートで出願手続きを阻む障害がないと判明した場合、出願人は次の情報を提出しなければならない。 出願人の氏名 住所 商品とサービスのリスト 出願する商標の見本(文字標章、ロゴ、非伝統的商標の形をとることができる) 必要な情報が提出されたら、特許弁護士が委任状と所有宣言書を作成し、出願人がこれに署名する。 2019年以降、インドネシアでは電子出願のみが出願方法として認められている。 期間 出願に対し異議申し立てが提起されず、暫定的拒絶もされない場合、出願後10~13カ月で登録番号を取得できる。以前と比べ大幅に迅速化されており、過去には単純な登録でさえ2~3年かかっていた。 異議申し立てと取消 登録出願は2カ月間のみ公告される。この公告期間中に、あらゆる利害関係者が異議を申し立てることができ、申し立ては実体審査の中で検討される。 公告期間満了後は、延長の要求を含め、異議申し立ての手段は他に存在しない。 異議申し立ての手続きを首尾よく進めるためには、申立人が正当な法的地位を有すること、すなわち過去にインドネシア国内で商標出願または登録を行っていることが望ましい。そうでない場合、審査官が先願主義に基づき申し立てを却下する可能性が高い。 第三者が商標登録の取消または抹消を求める場合、商事裁判所に提訴する必要があり、対象となる商標がいったん登録されて初めて、取消または抹消を求めることができる。 外国の周知商標 有名かどうかにかかわらず、インドネシアで登録された商標に限って保護を受けることができる。だが商標法は、外国の周知商標を第三者による悪意ある登録から一定程度、保護する仕組みを設けている。 第三者が、外国の周知商標と同一または類似した商標を、悪意をもって登録出願しようとした場合、商標法第21条に基づき拒絶される。同条は、次のように定めている。 「同類の商品/サービスに関して、他者の所有する周知商標、または特定の条件を満たす、同じ種類ではない商品/サービスに関して他者の所有する周知商標と、実質的に類似する場合、出願は拒絶される」 次に、何が周知商標に当たるかという問題に目を向ける。商標分野の知的財産総局、商標登録令に関する法務・人権省規則2016年67号の第18条は、周知商標の基準を以下のように定めている。 周知商標としての、当該の事業分野におけるその商標に対する市民の知識あるいは認識 所有者がその商標を用いることによって得る物品および/またはサービスの売上と利益の量 社会における物品および/またはサービスの流通に関連して、その商標が占める市場シェア 商標の使用地域 商標の使用期間 宣伝に使用された投資額を含む、商標の宣伝規模 他国での商標登録および商標出願の件数 特に、権限を持つ機関によるその商標の周知商標としての認識に関する、法令遵守の達成度合い その商標により保護された物品および/またはサービスの評判、および品質保証により得られる、商標に付随する価値 とはいえ、外国で有名な商標がインドネシアでも同程度に有名とは限らない。これが、商標の保有者は第三者を提訴するに先立ち、インドネシアにおける周知性を立証する必要があるかという課題を生み出している。 使用の要件 インドネシアは先願主義を採用しているため、登録前に先使用権を主張する必要はなく、使用の証拠を提出する必要もない。 出願人が他の国で先に出願している場合、最初の出願日から起算して6カ月間はインドネシアで優先権を主張できる。 不使用に関しては、法律に基づき、登録商標が登録日または最新の使用日から起算して継続して3年間使用されていない場合、商事裁判所はその商標を抹消することができる。だが最低限の使用期間に関しては、法に定めがないため、不使用を事由とする登録抹消は基本的に非常に困難である。 ライセンス供与 インドネシアでは、登録された商標のライセンスを他者に供与することができる。ライセンス契約が法的拘束力を持つためには、知的財産総局に登録する義務がある。 ライセンス契約には基本的に、実施許諾者と実施権者の詳細、ライセンス契約の性格(独占的か非独占的か)、サブライセンスの可否、契約期間、両当事者の権利と責任、ライセンス供与の対象物または商標を記載しなければならない。 ライセンス契約は、インドネシア経済に直接または間接に損害を与える規定、またはインドネシアによる技術を習得し開発する能力を妨げる制限を含んではならない。 AFFA Intellectual Property Rights 15/F Graha Pratama Building Jl. MT. Haryono Kav. 15 Jakarta – 12810, Indonesia 電話:...

アジアの商標法の比較:台湾

By CF Tsai と Tsai Lu-Fa, Deep & Far Attorneys-at-Law(台北)
インド インドネシア 台湾 ベトナム 台湾では商標権は登録によって保護され、先願主義が適用されます。登録することができるのは、次に挙げるタイプの識別性を備えた標章です。商標(商品と役務を対象とする)、団体商標(collective mark)、証明商標(certification mark)、団体商標(collective trademark、商品と役務を対象とする)。 また、台湾知的財産局が発行した「非伝統的商標に関する審査ガイドライン」によれば、匂い、模様、位置も商標として登録することができますが、触覚と味覚は例外的に登録できる場合があるだけです。 登録 出願は台湾知的財産権局に対して行います。多区分出願が可能です。台湾に住所や事業所を持たない外国出願人は、出願にあたり現地代理人が必要です。ただし、法定および/または公証人が署名した委任状は不要です。また、外国出願人が台湾で会社または本籍地を登録する必要はありません。 出願手続きには、方式審査、絶対的理由(識別力など)の審査、相対的理由(混同の可能性など)の審査が含まれます。当初は識別力がなかった標章でも、使用を通じて識別力が生じた場合は登録することができます。 商標に対する異議申立 異議申立期間は、商標登録公告日から3カ月間です。 期間 商標登録は、登録公告日から10年間有効で、さらに10年間の更新が可能です。 更新の猶予期間 商標権は、存続期間満了の6カ月前から満了日までの期間に更新することができます。商標権更新の猶予期間は、登録の有効期限から6カ月間です。猶予期間が過ぎると、商標権は自動的に失効します。 失効した商標権を回復することはできません。ただし、不可抗力または所有者の責に帰さない事由により更新の猶予期間を遵守しなかった場合は、その事由が消滅した日の翌日から30日以内に回復申請を行うことができます。 しかし、更新の猶予期間を遵守しなかった後1年が経過すると、回復申請を行うことはできません。猶予期間内に更新申請が行われなかった場合、失効した商標権は、いつでも第三者の名義で再登録することができます。 使用要件 登録公告日から3年間使用されなかった場合、またはその後、正当な理由なく継続して3年間使用されなかった場合、知的財産局は職権により、または第三者からの請求により、その登録を取り消すことができます。 商標が使用されていないことを主張する側は、商標登録の取消を申請する際に疎明資料を提出する必要があります。一方、取消手続が開始された後は、商標権者が商標の使用を証明する責任を負います。また、商標が使用されていないことを主張する側は、商標の取消について正当な利益を有することを証明する必要はありません。 台湾国内で使用されていれば、使用要件を満たします。商標法において定義される商標の使用とは、以下のいずれかの状況において、関連する消費者がそれを出所識別情報として認識できるように、マーケティング目的で商標を使用することをいいます。 商品またはその包装上に商標を表示する 上記の商品を所持、展示、販売、輸出、または輸入する 提供する役務に関連する物品上に商標を表示する 商品または役務に関する商業文書や広告に商標を表示する デジタルビデオ・音声、電子メディア、インターネット、その他のメディアで商標を使用することも、商標の使用に該当します。必ずしも継続的な使用である必要はなく、散発的、断続的、単発的な使用でも支障ありません。 しかし、類似または関連する商標の使用では、必ずしも十分ではありません。登録された形態とは異なる形態で標章が使用された場合は、小さな変更を加えたに過ぎず、その商標の特徴的な部分が変更されていない時に限り、商標の使用に該当します。 異なる形態での標章の使用は、以下の場合には使用に該当しません。 彩色した商標を白黒に変更する 彩色した商標の色を変更する 商標の一部のみを使用する ライセンス契約 台湾では、ライセンス契約を書面または口頭で締結することができます。指定された商品または役務の全部または一部について、未登録商標の使用を許諾することが認められます。ライセンスは、独占的である場合も非独占的である場合もあります。 ライセンスが登録された後に登録商標が譲渡された場合、譲受人は引き続きライセンス契約に拘束されます。登録商標のライセンスが登録簿に記載されている場合、登録商標の売却により自動的にライセンスが終了するわけではありません。 商標法では、以下のように定められています。 商標ライセンスの登録後に商標が譲渡された場合、譲受人はライセンス契約に拘束されるものとする 独占的ライセンシーは、ライセンスされた商標の使用から商標所有者および第三者を排除する権利を有する 独占的ライセンシーは、商標をサブライセンスする権利を有する 商標所有者は、その権利を放棄することができる。ただし、ライセンスまたは担保権が登録された場合、商標保有者は、ライセンシーまたは担保権者の承諾を得なければならない 商標法には、商標ライセンスの登録に関する規定があります。商標ライセンスの登録は任意ですが、知的財産局に登録された後でなければ、第三者に対して効力を持ちません。登録は、商標登録の有効期間満了前に申請する必要があります。 登録期間を超えるライセンス期間を設定することも可能です。この場合、更新期限内に商標登録が更新されれば、ライセンスを再度登録する必要はありません。商標登録が更新期限内に更新されない場合、ライセンス登録は商標登録の失効に伴い失効します。ただし、ライセンサーとライセンシーの間で、未登録商標のライセンス契約が引き続き有効です。 ライセンス契約の形式および/または内容を定める法令上の規定はありません。商標ライセンスの登録簿への登録依頼は、商標所有者またはライセンシーが以下の事項を明記した依頼書を提出して行います。 商標所有者およびライセンシーの氏名、住所または事業所の所在地、国籍または地域、ならびに代表者がいる場合はその氏名 該当する場合は、代理人の氏名および住所または事業所の所在地 商標の登録番号 ライセンスが独占的であるか非独占的であるか ライセンスの発効日、および該当する場合はその終了日 ライセンスの対象が指定された商品または役務の一部かどうか、該当する商品または役務のリストおよびその区分 ライセンスが特定の地域に対するものであるかどうか、該当する地域名 ライセンスが有効になる時期は、ライセンス契約により決まります。ライセンスは、ライセンス登録が官報に掲載された日に、第三者に対して強制力を持つようになります。未登録のライセンスを公告する必要はありません。 登録されたライセンシーの商標使用は、合法的な使用であるという証拠上の推定が適用されます。商標所有者が第三者参加を裁判所に申し立てない限り、非独占的ライセンシーは商標所有者の侵害訴訟に参加することはできません。 商標法は、ライセンス契約に別段の定めがない限り、独占的ライセンシーは自己の名において侵害訴訟を開始する権利を有すると規定しています。ライセンシーは、この手続きにおいて、商標所有者を共同被告として参加させる必要はありません。 Deep & Far Attorneys-at-Law 13/F, 27 Sec. 3, Chung San N....

アジアの商標法の比較: ベトナム

By ヌエン・アン・チュアンとトリ・ヌエン, Bizconsult
インド インドネシア 台湾 ベトナム グーグル、テマセク、ベイン・アンド・カンパニーが毎年発表している共同調査報告書「e-Conomy SEA」の最新版によると、ベトナムのデジタル経済は東南アジアでも群を抜いたペースで成長していて、2025年には490米億ドルに達すると見込まれる。こうしたインターネット経済と貿易の急成長に伴う変革に伴い、知的財産法を含む政府の政策と法環境の見直しと刷新が求められている。 過去16年を振り返ると、知的財産法は、ベトナムの社会経済的な発展を促し、同国における知的財産の創出と保護のための幅広い強力な法的手段を作り出す上で、大きな役割を果たしてきた。 2023年1月1日に発効した知的財産法は、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)と、EU・ベトナム自由貿易協定(EVFTA)に準じた知的財産権の保護を目指して、知的財産権保護に関する従来規定を援用するとともに、「インダストリー4.0」時代に備えるために改定され補完された。 指針の明確化 ベトナムの知的財産法を、CPTPPおよびEVFTAが定める国際的な保護基準に沿った内容にするための取り組みの一環として、ベトナムは、2023年1月14日以降、音商標の登録出願を受理し始めた。ベトナムがこの種の非伝統的商標の登録を認めるのは、これが初めてとなる。音商標を登録出願するには、伝統的商標の登録出願に必要となる文書に加えて、音声ファイルと音商標のグラフィック表示を添付しなければならない。 改正知的財産法の下で周知商標は、ベトナムの領土全域にわたって、関係する市民に広く知られている商標として再定義された。この定義は、知的財産法第75条、および他の国際的な規則が定める周知商標の基準体系と一致する。この再定義により、周知商標は全消費者に広く知られている必要があるとする、旧知的財産法の定義が修正された。加えて、第75条に定める基準の一部または全部を満たす場合、周知商標と認められる。 悪意を理由に商標の登録出願が却下されるか、または登録抹消となる可能性が明確に認められた。ただし、改正知的財産法第96条および第117条に記された悪意の定義を、明確にする必要がある。 さらに改正法では、登録出願を却下できる2つの事由が新たに追加された。商標は、商品固有の形状であるか、その商品の技術的特徴によって定義される商標である場合、または著作者の承諾を得ずに著作物の複製を含む場合、商標として保護する対象とみなされない場合がある。 実用的で具体的な指示 改正法では、「著作者」「共同著作者」という言葉の法律的な定義が改められた。その結果、著作者とは、著作物を直接に創造した者をいい、共同著作者とは、二人以上の者が、その者の寄与を組み合わせて完成した著作物を作り出す趣旨で、著作物を直接に創作した場合における著作者の一人を指す。 他人の著作物の創作中において、その者を支援し、意見を交換し、または資料を提供した者は、著作者または共同著作者ではない。 改正法は、ロイヤリティ、権利管理情報、公衆へのコミュニケーションを含む新たな定義を定めるとともに、知的財産法の従来条項との整合性を確保するための他の定義の改定(すなわち、二次的著作物、公表著作物、録音、録画、複製など)も行っている。 改正法は著作者に、著作物に関連する財産権を譲り受けた組織または個人に、著作物を命名する権利を譲渡することを認めている。 また知的財産法は、旧条項に記載された複製物の作成と使用に沿って、著作権および関連する権利の侵害に対して、一定の例外も定めている。第25(a)条はそれ以外にも、障がい者、障がい者の養護者、および法が定める障がい者の利益のために設立され運営される権限ある組織に対して適用される、著作権侵害に対する一定の例外を認めている。 これらの例外は、障がい者に配慮した法律の策定、および著作権保有者と著作物を入手し活用する組織や個人の利益の調和を目指すものである。 知的財産の侵害を特定して、知財分野の紛争解決において著作権侵害に対処する仕組みを強化するために、著作権および隣接権の侵害に関する条項がさらに改正され、明確化されている。 改正法によると、通信事業者は、インターネットおよび電気通信ネットワーク上での著作権と隣接権の保護に関連して、法的責任を負う。 例えば通信事業者は、著作権と隣接権の侵害行為を防止するために、確認、監視、情報処理および連携の体制を整備しなければならない。加えて通信事業者は、一定の場合において責任を免除される。 改正知的財産法の細則となる関連政令は、旧知財法の一定の条項の施行細則を定めた、2018年の政令22号に取って代るものである。現在、この新たな政令の第3案が公表されており、2023年に正式に発表される予定だ。 特許に関する規定の強化 秘密の発明と安全保障に関する特許管理に関連する規則は、以前は、知財法実施の細則である2010年の政令122号およびこれを補足する2006年の政令103号で定められていたが、今回初めて改正知的財産法に正式に盛り込まれた。 この展開を受けて、特にベトナムで発明を利用する意向がない企業の場合、海外での早期出願が促されるだろう。 改正知的財産法には、発明の公表に関する条項があり、これに該当する発明は新規性を持たないとみなされる。具体的には、発明登録出願の出願日前または優先日前に別の特許出願が提出されているが、当該出願日またはその優先日以降に公表された場合、その発明は新規性があるとみなされない可能性がある。 改正法では、登録特許の全部または一部の取消を行える一定の例を示すことにより、特許権による保護の取消を明確に定めている。この改正により、関係当事者は、特許権による保護の取消を求める権利を行使しやすくなった。 工業意匠 改正知的財産法は、EVFTAに準じて、複合製品の組立部品の外観、およびその製品または複合製品を使用する際に見える外観を追加することで、工業意匠の定義を改正している。 新たな知財法で見落としてはならない工業意匠登録の重要な改正点は、今回初めて、出願人が出願時に延長の申立てを正式に提出した場合、登録出願の公開を出願日から最大7カ月まで延長できるようになったことである。 展望 改正知的財産法は、いくつかの点に関しいまだ曖昧で不明確であり、4つの政令と2つの通達を含む知財関連の細則の改正、修正または差替えを行う必要がある。とはいえ、改正知的財産法に基づく修正と補足によって、ベトナムは国際条約や一般的な慣行をおおむね遵守した状態になっており、これは歓迎すべきことである。 Bizconsult VNA Building 20 Tran Hung Dao Street Hoan Kiem District Hanoi, Vietnam 電話: +84 24 3933 2129 Eメール:info-hn@bizconsult.vn www.bizconsult.vn

日本企業のタイ投資に対する法規制の概要

By Mallika Esposito Seu Margherita と Mallika Esposito Seu Margherita Palawi Bunnag, ILCT(バンコク)
タイは、安定した経済、魅力的な投資環境、東南アジアにおける戦略的な位置により、人気の投資先としての地位を維持している。2022年の外国投資は56%増の1290億バーツ(37億5000万ドル)となった。 外国投資家のタイへの投資は日本が首位であり、151の投資家(外国投資家全体の26%)が合計395億バーツ(11億5000万ドル)を投資している。タイは、製造・電子機器・観光・再生可能エネルギーなど多様な業種で、日本の投資家に幅広い投資機会を提供している。 本稿は、日本の対外投資家にタイ投資の詳細な指針を示し、外国投資に適用される法規制の枠組み、最も有望な投資機会となる業界・部門、タイ市場で最も効果的な投資戦略と投資構造を論じるものである。 ベテラン投資家とタイ市場に初めて参入する投資家どちらにも、本稿は、情報に基づく判断を下し、成功のチャンスを高める上で必要な知識と洞察を提供する。 法律・規制の枠組み 外国投資家は、投資を行う前にタイの法律・規制の枠組みに関し助言を求める必要がある。海外親会社の支店、子会社、非法人合弁会社(建設事業や有期事業でよく使用される)など、多様な投資構造を利用できるからである。 どの構造にも独自の長所短所があり、構造を決定する前に投資の具体的なニーズと目標を慎重に検討することが重要になる。 タイには、外国人事業法(Foreign Business Act)や投資促進法(Investment Promotion Act)など、外国によるグリーンフィールド投資に適用される様々な法律や規則が存在する。その意味では、こうした法規制の枠組みの理解が欠かせない。法律や規制を入念に見極めて初めて、外国投資家はタイ経済の完全な可能性を引き出し、成功の可能性を高めることができる。 外国人事業法は、外国投資を規制する主たる法律であり、外国企業向けの規則と手続きを定め、外国資本の所有が制限または禁止されている業種を定義している。 同法に基づき、銀行・通信・メディアなどの特定の業種は外国資本による所有が制限または禁止されている。だが外国投資家は、タイ人投資家との非法人合弁会社を設立するか、関連省庁から特別な許可を取得すれば、これらの業種に投資を認められる場合もある。 外国人事業法は、外国会社の代表本部と地域統括本部の設置についても規定している。これらの手続きは任意だが、市場調査、品質管理業務、輸出するタイ製品の調査などの、取引以外の一定の業務を行う際にメリットがある場合もある。 だが、外国会社がこうした業務に従事する場合、商務省事業開発局から外国人事業ライセンスを取得しなければならない。この手続きは一般に約3カ月かかり、承認された会社は、代表本部用に2件、地域統括本部の駐在員管理者用に5件のビザおよびワークパーミット(労働許可書)の発行を受ける資格を得る。外国の銀行・証券会社・金融会社は、個別規則に基づき代表事務所を設置することができる。 外国人事業ライセンスを付与された外国人は、タイの法律に基づき設立された会社の資本を100%所有することができ、外国人事業法または投資促進法に基づく例外を除き、タイで事業を行う外国資本の企業はすべて外国人事業ライセンスの取得を求められる。ライセンス申請手続きには、事業活動案や株主構成に関する詳細な情報が必要となる。ライセンスを首尾よく取得する鍵は、現地採用を含めタイ人に知識・技術が移転されることを示すことである。 外国人事業ライセンスを取得したら、事業開発局に登録して会社登録番号を取得する。外国資本の企業は、納税者番号、付加価値税登録証、外国人従業員のワークパーミットなど様々なライセンスや許可証も取得しなければならない。 投資促進法は、外国投資の奨励と規制を行うもうひとつの重要な法律である。同法は外国投資家に、免税期間、輸入関税免除、土地保有許可など各種の優遇措置を認めている。この税制優遇措置は、特定の業種や地域への外国投資の誘致を目的とするものだ。 主な考慮点 タイに会社を設立するに当たり、税務・非税務上の考慮点を含めて、検討すべきいくつかの要因が存在する。 非税務上の観点に立つと、外国会社の支店より、タイに有限責任会社を設立する方が好都合かもしれない。有限責任会社は所有権を柔軟に変更でき、登記やライセンスも取得しやすいからだ。タイ政府とやりとりする際も、一般的に国内設立法人の方が有利である。内国法人は、一定の特権や許可を受けられる場合があるからだ。 税務面では、タイ法に基づき設立されたか、または外国法に基づき設立され、タイで事業を行うすべての会社には、その純利益に対して法人所得税が課される。一方、海外で事業を行う支店の純利益は、本社がタイ法に基づき設立された場合に、法人所得税の対象となる。代表本部と地域統括本部の活動は、その活動が特定の内容に限定される場合、法人所得税が課されない場合もある。 外国親会社や外国人株主に支払われる配当には、源泉税が課されるが、投資促進法に基づき免除される場合もある。支店が本社に利益を送金する場合も源泉税の対象となる。 外国人株主に送金する利子・手数料等には源泉税が課されるが、支店から本社への利子・手数料等の送金には利益送金税が課される場合がある。 場合によっては、外国税額控除を利用できる。また、タイと関連諸国間の二重課税回避のための租税条約が定める方法、すなわち国外所得免除とみなし外国税額控除によって、二重課税を回避できることもある。租税条約の利用可否や適用される条約の影響を判断するために、税理士に相談するとよいだろう。 ビジネス機会 日タイ経済連携協定(JTEPA)は、日本とタイの経済関係を強化するために2007年に調印された二国間自由貿易協定であり、日本人投資家に様々な恩恵をもたらしている。これには、物品・サービスにかかる関税引き下げ、関税手続の簡素化、知的財産権保護などが含まれる。 ほとんどの製造業は制限リストの対象ではなく、日本資本による100%保有が可能であることから、製造業部門は、日本人投資家に魅力的な投資機会を提供している。 タイは、熟練した労働力、東南アジアにおける戦略的な位置、魅力的な投資環境を備えており、食品加工、電子機器、自動車を中心に製造業が発展している。 日本企業は歴史的に、特に自動車の生産・組立を中心に、タイの製造業にとって最大の投資国のひとつである。 加えて、タイ工業団地公社法(Industrial Estate Authority Act)は、一定の条件を満たす場合に外国投資家による土地の保有も認めている。 日本人投資家に大きな可能性を提供するもうひとつの分野は、再生可能エネルギーである。タイは野心的な再生可能エネルギー開発目標を定め、エネルギーミックス全体に占める再生エネルギー比率を、2037年までに30%に引き上げることを目指している。 タイは再生可能エネルギー開発のために、税制優遇措置、固定価格買取制度、低金利融資など様々な優遇措置を設けている。日本企業は、太陽光・風力・バイオマス発電事業を通じて、この部門に既に多額の投資を行っている。 観光関連事業も、日本人投資家にとって可能性を秘めた投資機会である。観光産業はGDPの大きな割合を占め、毎年数百万人が日本からタイを訪れるなど、海外からの外国人観光客数の国別順位で日本は上位に位置する。 日本企業数社が、外国人事業法に従ってホテル・リゾート開発、エンターテイメント、レジャーなどの観光部門に投資している。パンデミックからの回復に向けて、タイ政府は、外国人訪問者数を増やすために「アメイジング・タイランド」キャンペーンなど、全世界を対象とする様々な観光振興策を立ち上げている。 結論 戦略的な位置、熟練した労働力、ビジネスがしやすい環境から、タイは、日本の対外投資家に有望な投資先を提供している。しかし、タイに投資するには、法規制の枠組みやビジネスの文化的な違いを十分に理解する必要がある。 タイで成功する可能性をできる限り高めるために、日本人投資家は、経験豊富な弁護士と協力し専門的な助言を求める必要がある。潜在的な投資機会の慎重な評価、効果的な契約交渉、文化の違いの理解、適切な投資構造の選択を通じて、日本人投資家はタイ市場に巧みに対応し、大きな利益を上げることができる。 ILCT 18th Floor, Sathorn City Tower 175 South Sathorn Road, Tungmahamek, Sathorn, Bangkok 10120, Thailand 電話: +66 (0) 2679 6005 Eメール: law@ilct.co.th www.ilct.co.th
台湾に投資する日本企業

台湾における紛争対処

By 高志明 と 陳文智 と 洪邦桓, 萬國法律事務所(台北)
台湾でビジネスを行う際、紛争が発生した後の対処より、未然に防ぐ対策を講じることが重要になる。特に、事業展開に関わる契約を締結するに当たって以下の要点に注意していただきたい。 紛争になり得る事項、法的リスクの予想:予防法務の観点から、契約を締結する前に、相手方の契約履行の能力、かつて類似の取引で起きたトラブルなどの調査により、将来発生し得る紛争を事前に予測し、その対応方法を契約に盛り込んでおけば、たとえ紛争が発生することは考えにくくても、紛争の発生や、将来起こり得る混乱による損害の影響を回避することができる。 例えば、2020年以前に世界規模のパンデミック、米中貿易戦争およびそれらのグローバルサプライチェーンに対するインパクトを予想した人は少ないだろう。従来は契約書のテンプレートとしてのみ存在していた不可抗力条項も、今の世界情勢ではそれを適用する可能性が高くなっているため、もっと現実に合った、緻密な内容が要求される。 また、紛争が生じる場合、裁判所または仲裁人がどういう実体法(準拠法)の基準で紛争を判断するか、その基準を満たすためにどういう契約条項が必要か、事実の認定に必要な証拠は何かなど、紛争を解決する時の視点から、予め契約内容の完全性、妥当性、現実性を検証する必要がある。よって、紛争解決の経験のある専門家に助言を求めることは、リスクや紛争管理にとって重要なポイントである。 紛争が発生した際の対処方法を予め検討し、契約書に盛り込む:例えば、契約不履行が発生し、契約両当事者の権利義務の調整が契約に明記されていない場合、その紛争が強行規定に抵触するか、それとも適用すべき法律(例えば台湾民法)のデフォルトルールに沿って解決すべきかを確認する必要がある。そのため、予め契約内容を詳細に把握しておかねばならない。 契約不履行ではなくても(例えば合弁会社の株主間のデッドロックなど)、どのように調整して紛争を解決できるか?  紛争解決に関わる条項の注意点を、いくつか次に挙げる。 契約の準拠法を設定する:契約が台湾以外の当事者、履行地等に関わるなら、渉外的な要素があり、契約条項を解釈する際、または契約の履行につき紛争が生じる際、どの管轄の法律を適用すべきかという準拠法の問題が出てくる。台湾法で許容される範囲内で、当事者間の合意で準拠法を約束することができる。 一方、準拠法を選択する際、当事者間の権利義務関係が契約で緻密に約束されず、準拠法のデフォルトルールに委ねるところが多いなら、異なる法律の適用により当事者間の権利義務関係に生じる影響に、注意する必要がある。例えば、日本の法律と比べると、台湾の法律は代理店の地位またはその権利に対する保護が比較的乏しい。 一般的に言うと、契約条項にある用語、特に法律用語は、準拠法の法制度に使われる用語を採用した方が、解釈上の相違が生じる可能性も低くなる。同じ理由で、契約の言語は準拠法の言語と一致させる方が望ましい。 紛争解決の手段と管轄地を設定する:台湾での訴訟、仲裁、調停等手続きのそれぞれの特色とメリット・デメリットを事前に把握し、適切に選択する必要がある。この場合、起こり得る紛争を想定し(どちらが紛争解決手段を利用する可能性が高いかの想定を含む)、自社に有利な紛争解決方法(必ずしも便利な方がよいとは言い切れない)を約束するのが望ましい。 例えば、一般的に言うと、台湾裁判所での訴訟より、仲裁の方が原告に有利である。その理由はいくつか挙げられる。仲裁は原告の仲裁申立てにより初めて成立できるので、仲裁の利用を促すため、仲裁人が原告に有利な判断を下す傾向がある。例えば、原告の主張、証拠が民事裁判の観点からはそれほど強くなくても、仲裁人が原告の主張を一部認めることがある。 第二に、原告は、原則としてその主張する事実に対し立証責任を負うが、証拠の証拠能力と証明力を判断する際、仲裁人より裁判官の方が要求が厳しいので、原告が裁判所でその主張を通すことは比較的難しい。 また、紛争解決地(フォーラム)の選択について、準拠法が外国法である場合、台湾の裁判所が外国の法律を適用して判断することはあり得るが、その判断は裁判官の外国法に対する理解に左右され、また、外国法の証明にも手間がかかるので、一般的に言うと避けた方がよいだろう。 強制執行の実効性を考慮する:台湾の裁判所の確定判決または台湾の仲裁機関の仲裁判断を以て外国で強制執行を申立てる場合(または逆に、外国の判決を以て台湾で強制執行を申立てる場合)、判決・仲裁判断の承認の可能性と承認手続きを必ず考慮すべきである。 例えば、外交関係がないため、台湾裁判所による海外当事者への訴訟文書の送達は、合法的な送達だと外国裁判所に認められず、台湾裁判所の確定判決(特に欠席判決)も承認されない可能性がある。一方、台湾はニューヨーク条約(外国仲裁判断の承認と執行に関する条約)に加盟していないが、原則として台湾と外国の仲裁判断は互いの裁判所に承認される。 上記の事前対策を検討する際、台湾法と当該ビジネスを熟知している弁護士等の専門家(トランザクションだけではなく、紛争解決の経験のある専門家)に相談するのが望ましい。 契約履行の管理 契約書には、「契約条項の修正は書面に限る」、「契約上の権利の不行使は権利の放棄と解釈されない」というような条項がよく見られるが、長期にわたって契約に従って履行していない事実は黙示の合意である、と解釈されてしまうリスクがないとは言い切れないので、紛争を防ぐため、契約履行の管理が重要である。 また、時間の経過や担当者の変更により、契約条項の趣旨と解釈があいまいになることもよく見られるので、契約締結後に紛争が発生した際の解釈の材料として、締結前の重要な交渉過程も文書として保存する方がよい。 紛争発生時の対応 社内に法務部門、または法務担当者がいない場合でも、内部調査の実施、経営陣への報告、外部弁護士との連絡など多岐にわたる事項を一本化して対応するため、当該紛争事件につき専任の社内担当者を指定する必要がある。また、法務部門と営業部門の意見の相違もよく見られるので、経営陣の信頼を得られ、社内の違う立場を統合できるポジションも必要である。 事実を確認し裁判に使える証拠を収集するため、弁護士等の専門家からの助言に沿って、関係者へのインタビュー実施やフォレンジック調査を合法的かつ効率的に実施することが重要である。 紛争自体への対処の他、風評被害対策やメディア戦略(PR代理店を起用するか)も行い、再発防止策を実施する必要がある。特に、上場企業の場合、公表義務などコンプライアンスの遵守にも注意しなければならない。 紛争相手の事情、立場をよく理解した上で、契約の紛争解決条項に限らず紛争解決に一番有効な方法を検討するのが重要である。 例えば、利害関係より人情味を重視する相手もいれば、譲歩の責任を恐れて和解による解決に消極的な組織もある。弁護士や企業顧問の意見を聞くか、または両企業を当初繋いだ紹介者による調停も考えられる。 結論 時間と労力を費やし、多額の費用をかけて紛争が解決したら、油断して再発防止の検討を怠ってしまうこともよく見られる。それでは高い学費が無駄になる。紛争発生の原因とそこに至った背景を真摯に探り出して、再発防止の具体策を経営陣に提出し、採用される必要がある。 また、コンプライアンス強化と再発防止のため、自社に実際に起こった紛争の経緯と防止策を整理し、関連の業務担当者に対し社内教育を実施することも、再発防止に有効であろう。 Formosa Transnational 13/F, 136 Jen Ai Road, Sec. 3, Taipei 電話: +886 2 2755 7366 Eメール: ftlaw@taiwanlaw.com www.taiwanlaw.com
台湾に投資する日本企業

台湾に投資する日本企業へのアドバイス

By 高志明 と 陳文智 と 洪邦桓, 萬國法律事務所(台北)
日本では、従来より台湾への投資が盛んであり、2022年末の時点で投資件数は1万1654件、投資総額は約259億米ドルに上る。投資総額はアメリカとほぼ同額であるが、投資件数はアメリカの7694件をはるかに超えている。 日本の投資件数は香港とほぼ同じだが、投資総額は香港を大きく上回っている(香港の投資総額は約103億7000万米ドル)。件数で見ると、外国からの総投資件数の約17.5%(2位)、投資総額から見ると、外国からの投資総額の約12.4%(4位)を占めている。 歴史的背景があるため、1952年の外国投資解禁以来、日本は積極的に台湾に投資し、それ以来、安定的に投資を続けてきた。バブル期の1980年代末期には桁違いの投資件数を実現し、毎年、総投資件数の40%を占めた。2000年代に入ると、毎年平均200~300件の投資が日本からあった。 2010年代には平均投資件数は400件に増え、ピークに達したのは2012年と2013年で、それぞれ619件と618件の投資を実行した。この勢いはコロナ禍で止まり、2020年以来、投資件数は200件台に戻り、投資件数・金額ともにかなりの衰退が窺える。 近年は衰退しているものの、質のよい労働力を提供できる台湾は、早い時期から日本の製造業にとって魅力的な進出先となってきた。工業用の電気料金と水道料金が比較的安価なため、半導体等の先端科学技術の生産基地として最適とみなされてもいる。 また歴史的・風土的な要因もあり、和食・日本文化が台湾では比較的受け入れられやすいため、飲食、小売、ホテル等のサービス業も台湾への進出を成功させやすい。もっとも、対中関係の緊張や米中貿易摩擦等の外部要因が、台湾への投資を躊躇させるかもしれないが、今後は日本による対台湾投資のV字回復を期待できるはずである。 わかりやすい会社法制 日本企業にとって、台湾の会社法制は理解しやすい。会社類型は従来の日本商法とほぼ一致しており、会社の機関も日本法と類似し、非公開の株式会社の場合、株主総会、取締役会(取締役1名または2名)、監査役(条件により設置しなくてもよい)により構成される。日本人は台湾の会社法制を理解しやすいとよく言われる。 実際、台湾では会社法改正後、会社機関の設計に、より柔軟性を与えており、より日本の会社法に近くなったと言われる。特に、日本企業が台湾でよく採用してきた法人株主一人の株式会社については、取締役会と監査役を設置せず、取締役1名を置くだけでよく、日本の取締役会非設置会社に相当する。これによって会社の維持コストを削減できる。 また、株主総会および取締役会の開催方法については、過去に、日本のクライアントを中心とする多くの外国企業からよく、書面決議の制度がなく手間がかかると指摘された。 確かに、過去の台湾では取締役会はテレビ会議の形で開催することしか認められなかった。しかしこの要件は次第に緩和されており、現在は、非公開会社の場合、定款の定めのある前提で、実際の取締役会を開催せず、書面決議の方式で議案を採択することができる。 他方、株主総会についても、従来テレビ会議による開催は認められなかったが、現在は、非公開会社の場合、定款の定めのある前提で、テレビ会議の開催が可能となっている。 天災、事変もしくはその他の不可抗力による事情のある場合、上場会社でもテレビ会議またはその他の主務官庁が許可する方式による開催が可能となっている。 台湾における取締役の役割は日本法に類似するが、選任方式については特徴がある。一般に累積投票制という制度で選任されるが、法人株主は複数の代表者(自然人)を指名し、取締役選挙に参加させることができる。 当該代表者が当選した場合、会社の取締役である一方、法人株主が指名する代表者という一面もあるので、法人株主はその任期中に理由なく、別の選任手続なしで、当該代表者の取締役を更迭させることができる。台湾投資先に対するコントロールという観点から、この制度は非常に便利だと評価されることが多い。 多元的な組織再編等の方式 また、組織再編で台湾への投資を実施する場合、日本のような株式移転制度はないが、その他の再編手法は日本と一致する。再編に関する法規制について、会社法とは別に企業M&A法という特別法が2002年に制定されている。同法は特別法としてM&A事務を包括的に定めており、優先的に適用される。 組織再編の対価についてもかなり緩和されており、現金でも株式でも対価とすることが可能である。2022年に同法の改正があり、情報開示の強化、株式買取請求権の適用範囲拡大等により、少数株主に対する保護が強化された。 その他にも同改正においては、非対称式買収(一定条件の下で、株主総会の決議が不要、取締役会で議決可能)の適用範囲の拡大、税金の優遇措置等の、組織再編を促進できる措置も講じられている。 他方、上場会社への公開買付制度も台湾では成熟している。以前、公開買付成立後の買付中止があり、市場への影響が大きかったため、そうした事態を防ぐために買付資金に関する証明の提出が義務化されている点以外には、他国の制度と大きな相違はない。外国企業による公開買付の事例も多い。 新規企業にやさしい 台湾の会社法では、譲渡制限のかかった特別株の制度はあるものの、このような特別株を発行しない場合、会社は定款で株式の譲渡を制限することができないため、日本のような「株式譲渡制限会社」はもともと台湾法においては存在しなかった。 株式会社においても、株主人数が少なく、資本的な結びつきより人的な結びつきが強調されるものがあるという点に鑑み、2015年の改正で、閉鎖的会社という組織形態が創設された。このような会社においては、その多くが企業自治に委ねられている。新規起業・合弁企業は、従来の規制に束縛されない。 また、特別株に関する規定もはるかに充実しており、全部取得条項や取得条項(日本会社法108条)等の規定はないが、新規起業・合弁企業は、会社の内部経営、リスク分散と利益分配をより柔軟に取り決めることができる。 なお、台湾の会社法では、非公開会社における議決権拘束契約の効力が認められている。実務では、議決権拘束契約をはじめとする株主間契約に対して、その効力を認容する判例もしくは判断基準を提示する判例がいくつかある。これにより、従来効力が問題視された株主間契約について、その効力が一層予測可能となり、合弁企業において事前の取り決めがさらに容易となる。 外国人投資申請が必要 上述の説明の通り、完全子会社による新規起業、台湾現地他社との合弁会社の設立、組織再編方式による台湾会社の買収等、台湾上場会社に対する公開買付のいずれも、台湾の法制度において対応でき、日本企業の様々なニーズを満足できるはずである。自社のニーズを法律専門家に伝え、確実にリーガルオピニオンを得た上で実行に移すことを推奨する。 台湾の外国投資規則によると、上場会社でない会社への新規投資には、事前申請が必要である。その後の投資計画に関する修正(株数・投資金額の増減、定款改正等)は場合により、事前申請もしくは事後報告が必要となる。投資を検討する際には、上述の手続きを念頭に法律専門家に問い合わせていただきたい。 なお、投資対象の業種と市場状況によって、外国人の投資が禁止・制限され、もしくは公平取引法による結合届出が必要となる場合もある。これも事前に対応しておくべきである。 Formosa Transnational 13/F, 136 Jen Ai Road, Sec. 3, Taipei 電話: +886 2 2755 7366 Eメール: ftlaw@taiwanlaw.com www.taiwanlaw.com
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日本企業の南アフリカへの投資戦略

By Alan Keep, Bowmans(ヨハネスブルク)
特に、アフリカ大陸における商機が急激に拡大している今、南アフリカは外国直接投資の大きなチャンスを提供している。大陸の南端に位置することからアフリカ内外の市場への玄関口となり、金、プラチナ、ダイアモンド、石炭などの豊富な天然資源が、南アフリカを重要な投資先にしている。 人口5900万人以上を擁するアフリカ第2位の経済大国は、製品やサービスを販売する企業に巨大な消費者市場も提供している。 発達したインフラ、金融サービス、通信、法律制度と、新興市場の困難な環境で事業経営を行った経験を持つ活力ある民間部門が相まって、南アフリカは投資家にとって魅力的な地域になっている。 いくつか課題はあるものの、民主的に選出された政府による安定した政治環境、独立した司法制度、憲法への人権の明記、良識ある財政・通貨政策、報道の自由を通じて、企業が事業を営みやすい環境が生まれている。 ガバナンス向上、腐敗撲滅、経済成長を妨げる障害の解消に向けた政府の取り組みに期待が持てることから、投資家の信頼が高まっている。とはいえ、大きな可能性を解き放つためには、投資家は南アフリカ特有のビジネス環境を慎重に見極めて進む必要があるだろう。 外国直接投資 南アフリカには外国資本の投資に対する制限がほとんどなく、零細企業や戦略的産業案件、輸出企業には税額控除や優遇措置が設けられている。貿易産業競争省(Department of Trade and Industry and Competition)は、競争力ある新たな企業の成長と持続可能な産業の創出を促すために、幅広い優遇制度を用意している。 南アフリカは、外国投資を援助する多くの国際機関や協力協定・条約の加盟国でもある。大陸内の貿易振興とアフリカ全土の投資の保護・促進・自由化を目指すアフリカ自由貿易圏設立議定書()の発効は、すでに投資家の関心を集めており、現在残る議定書の取りまとめが進められている。 投資促進・保護法は、外国投資家に国内投資家と同一の権利を認めている。外国投資家は、憲法が認める財産権に基づく法的保護も受けられる。 外国資本の所有を制限する包括的な法律はないが、エネルギー・鉱業・金融・通信・防衛などの特定の戦略的分野には外国資本の保有に影響を与える規制が存在する。先日の競争法(Competition Act)改正により、国際的な動向を受けて国家安全保障条項も導入され、国家安全保障上の利益リストの対象として届出義務がある合併については、政府の許可が必要とされる。だが、この規定はまだ施行されていない。 企業の形態 主な法人の種類は、公開会社、非公開会社、個人責任会社、閉鎖会社(である。海外法人は外国会社として登録して事業を運営することも可能だが、外国企業が最もよく使用する企業形態は非公開有限責任会社である。非公開有限責任会社は安い費用で簡単に設立でき、新規法人の設立と既存企業の買収いずれの形でもよい。 合併・買収 非公開会社が買収や合併を行う主な手法は、株式売却、事業売却、合併、株式の併合または発行である。上場公開会社の場合、取り決め(、株式公開買付、資産売却、合併という制度があるが、承認の限度額、課税、タイミングなどに関連してそれぞれ長所短所がある。敵対的買収は従来一般的でなかったが、それも変わりつつある。 買付前に持株比率を増やすことは通常行われず、株主開示義務が法制化されている。強制的公開買付の上限は35%、スクイーズ・アウトの上限は90%である。基本的に交渉の初期段階は内密に行われ、株式の価格に重大な影響を及ぼす可能性がある情報を極秘に保てない場合は開示される。 スタンドスティル条項、独占交渉契約、勧誘禁止条項は、当事者のレバレッジに大きく左右されることはなく、規制上の制限によるが、ブレークアップ・フィーや追加提案権と併用されることが多い。対価は、現金、株式またはその両方の形をとることができる。 譲渡制限の期間を極力短くするために、一般的に公開買付の直前に取消不能の約束が交わされる。南アフリカの法律は、取締役に対し会社の最善の利益のために行動することを義務づけており、取締役会が正式な買収オファーを受理した後に取引を阻止することも制限されている。 株主アクティビズムは、従来大きな影響力を持たなかった、主にESG(環境・社会・ガバナンス)や報酬に関連して活動が増えてきている。デューディリジェンスの重要性が次第に高まりつつあり、その範囲は上記を含む他の要素にも広がっている。 規制 規定当局は、基本的にビジネス志向のプロフェッショナルである。公開会社の主な規制当局は、企業・知的財産委員会(Companies and Intellectual Property Commission)と企業裁判所(Companies Tribunal)である。公開会社や一定の基準を満たす会社は、買収や対象取引を規制する買収規制パネル(Takeover Regulation Panel)の監督も受ける。 上場企業の株式の取引は主にヨハネスブルク証券取引所(JSE)で行われ、JSEが証券サービス登録機関(Registrar of Securities Services)、金融サービス委員会(Financial Services Board)とともに、証券取引、証券集中保管機関、上場企業を規制する。 基本的には、会社法(Companies Act)およびコーポレートガバナンスに関するキング・コード(King Code on Corporate Governance)が適用される。合併に関する一定の基準を満たす場合、競争委員会(Competition Commission)および/または競争裁判所(Competition Tribunal)から、競争と独占禁止の観点に基づき承認を受ける必要がある。南アフリカ準備銀行金融監督局(Financial Surveillance Department of the South African Reserve...
日本の外国投

日本の外国投資の傾向と特徴

By 高畑正子,日本組織内弁護士協会
国国連貿易開発会議(UNCTAD)が作成した最新の「世界投資報告書」(2022年)によると、世界の外国直接投資(FDI)額は2021年以降にパンデミック前の水準へと回復し、異例の低水準にとどまった2020年から64%増となる1兆5800億ドルに達した。 パンデミックは、公衆衛生のみならず世界経済にも突如として多大な影響を及ぼした。ゆるやかながら着実な回復のなか、世界の多くの国が、ロシアとウクライナの紛争によって深刻化した食料危機・エネルギー危機に直面している。政治不安を受けた経済的混乱によって甚大な影響を受けた投資家は、投資戦略と投資先となる国の検討と見直しを迫られている。 他方で、世界に冠たる投資家のひとつである日本の多国籍企業は、今も、パンデミックがもたらした経済危機に喘ぎ、「世界投資報告書」によると、FDI流出額は2019年の2270億ドルから2020年には1160億ドルとほぼ半減し(49%減)、2021年のFDI残高は1兆9800億ドルとなった。 日本へのFDI流入額も、他の大半の先進国と比べ低い水準にとどまっている。同報告書は、日本へのFDI流入額は2020年には30%減の107億ドルとなった一方、2021年には246億5000万ドルに達したと指摘している。日本国内のFDI残高は、2020年は2320億ドル、2021年は2570億ドルと推計された。 責任ある持続可能なビジネス 人権に影響を及ぼすおそれがある国境を越えたビジネスの増大に伴う、世界的なFDIの増加に対応して、国連は2011年に「ビジネスと人権に関する指導原則:国産連合「保護、尊重および救済」枠組実施のために」を提出した。日本政府は2020年、企業と組織に国際的な人権保護制度の尊重を求める「ビジネスと人権に関する行動計画」を発表した。また政府は2022年、「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン」も発表した。 日本の多国籍企業は、多様な法域で投資に力を入れる一方、企業の投資が人権に及ぼす多大な影響を次第に認識するようになっている。適切な人権デューディリジェンスを確保するために、国際的な法律事務所と協力している企業もある。   加えて、ほとんどの国が、国連持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて、明確で効果的な投資方針の実施を義務づけている。日本の企業は、今後10年の投資戦略や新たなビジネスモデルを論じる好機となり得るSDGsに、関心を向けつつある。 エネルギー問題 ウクライナ情勢を受けて日本は、G7加盟国として、対ロシア経済制裁への参加を求められている。制裁の一部は、エネルギー安全保障問題に対処するものである。 ロシアは、世界のエネルギー市場の重要なプレイヤーであり、世界最大の原油生産国にして輸出国のひとつとして、石油・天然ガスから得られる収入に大きく頼っている。ロシア産原油の最大の輸入国は中国だが、ロシアは欧州と日本にも大量の輸出を行っていた。 資源エネルギー庁の最近のデータによると、天然資源に乏しい日本は、最大の一次エネルギー輸入国のひとつとして、原油の99.7%(一次エネルギー供給量の38%に相当)、石炭の99.6%(同25%)、液化天然ガスの97.7%(同24%)を輸入に頼っている。 制裁を実施する義務があることを踏まえると、こうした海外輸入への依存によって、エネルギー供給源を見直し多角化する必要も生じている。現在、原油の90%はサウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタール、他の中東諸国から輸入されており、ロシアは4%を占めるにすぎない。 石炭の90%はオーストラリア、インドネシア、ロシアから輸入され、輸入される液化天然ガスの73%は、オーストラリア、マレーシア、カタール、ロシア産となっている。 地政学的に不安定な現在の国際情勢下において、大部分の先進国――特にエネルギー安全保障に懸念を抱える先進国――と同様に、日本はエネルギー戦略と投資先を見直さねばならない。 組織内弁護士の役割 世界の法曹界を探求し、支援し、改革するためには、組織内弁護士が外部弁護士と良好な関係を保つことが欠かせない。SDGsを達成し、人権侵害を防ぎ減らすために、企業弁護士には、単に案件資料を評価するだけでなく、法務と人道の専門家の視点からビジネスの方式に価値を付加する役割も期待される。 SDGsの目標8「みんなの生活を良くする安定した経済成長を進め、誰もが人間らしく生産的な仕事ができる社会を作ろう」に関しても、関連する法規制に関する知識や法曹倫理を、企業戦略の策定に役立てられるだろう。 特に、主任顧問弁護士は、様々な情報・選択肢・助言の提供を通じて、CEOや取締役が正しい投資判断を下せるよう支援できる。 さらに、ビジネス課題や人権問題に国際的に本格的に関与するために、企業は、投資戦略と投資方針を明確かつ効果的に実施する必要がある。 法律・規制・手続き・制度に関する知識と経験に基づく包括的なアプローチの活用は、投資案件のライフサイクルの全段階に影響を及ぼすが、企業が、持続可能なFDIの拡大につながる競争力ある投資を実現するには、組織内弁護士と外部弁護士の十分な連携と協議が不可欠である。 Japan In-house Lawyers Association Koishikawa Urban 4F 5-3-13 Otsuka Bunkyo-ku, 1120012 Tokyo 電話: +81 3 5981 6080 www.jila.jp
Investment liberalisation and tax reform Philippines

フィリピンの投資自由化と税制改革

By Benedicta Du-Baladad、Du-Baladad & Associates(マニラ首都圏)
世界の他の国と同様、フィリピンも、世界的なパンデミックによる想定外の衝撃と混乱により深刻な打撃を受けた。政府はひとつには、国内外の投資家を対象とした財政・構造・行政改革の追求と再調整を通じて対応した。フィリピンに投資しやすくし、起業や事業展開を促進する新たな法律が、いくつか制定された。 まず、事業の展開に欠かせない手続きや要件の、政府による迅速な処理と解決を強化し促進するために、反レッドテープ法(Anti-Red Tape Act)と事業円滑化法(Ease of Doing Business and Efficient Government Service Act)が制定された。旧会社法も約40年ぶりに、アジアの最新事情に対応した競争力ある改正会社法に取って代わられた。この改正は、特にガバナンスと社会的責任に関して、企業の規則や手続きを国際的なベストプラクティスや基準と遜色ないものに改善するとともに、フィリピンをビジネスのしやすい国にすることを目指すものだ。 なかでも改正会社法では、発起人と取締役の最低人数に関する規定が削除された。現在、15名以内であれば、いかなる人(自然人または法人)でも単独または共同で国内に企業を設立できる。発起人がフィリピン居住者である必要はない。 フィリピンでは現在、発起人にフィリピン居住者を含む必要なく、外国人や外国企業が会社を設立することができる。同じく改正会社法により、取締役の最低人数とフィリピン居住者に関する要件も撤廃された。そのため、取締役は15名以下であれば何人でもよく、全員が国外居住者でも構わない。 最低払込資本金は基本的に不要だが、特定の場合は法律により最低払込資本金が義務づけられる。また、外国資本の国内市場向け零細・中小企業は、20万ドル以上(または外貨での同等額)の最低払込資本金を要求される。従って、特別法で義務づけられる場合や国内市場向け企業を除き、外国投資家による資本注入額は法律ではなく、事業上の必要性によって決定される。 さらにフィリピンはつい先日、特定の分野または活動への外国資本の参入制限の緩和と、ビジネスをしやすい国内環境の整備を目的とする財政改革のために、一連の法律を制定した。 自由化三法 国内の経済活動への外国資本の参加を進める政策に沿って、フィリピンは先日、この目標の実現のために3つの重要な法律を制定した。 ひとつ目は、フィリピンの小売業をさらに自由化するものだ。投資家の母国がフィリピンの小売業者の参入を禁じていないことを条件として、払込資本金2500万フィリピンペソ(45万2000ドル)以上の外国資本の小売業への参入が認められた。 同様に、憲法によりフィリピン国民のみに制限されていた公益事業の運営を規制する法律でも、「公益事業」の定義が改正され、限られた分野のみが対象とされることになった。その結果、以前は公益事業とみなされていた活動が、今では外国資本に開放されている。例えば通信、航空輸送、海運業、鉄道、物流、灌漑などは外国投資家が100%保有することができる。 外国人、外国組合、外国企業および外国政府の生産的な投資を奨励し推奨するために、外国投資法がさらに改正された。改正法は、外国人の参加が禁止または制限されている場合を除き、国内企業に外国資本が100%出資できることを認めている。また輸出企業への外国資本の出資も、ネガティブリストに含まれる業種を除いて100%まで認められる。 税制改革 フィリピン政府は、二大税法の制定を通じて総合的な税制改革の前半をやり遂げた。ひとつ目の法律は、個人所得税と物品税を対象とする税制改革法〔Tax Reform for Acceleration and Inclusion(TRAIN 法)〕である。 ふたつ目の法律は、法人所得税と税制優遇措置の改革に関わるものだ。この法律は当初は法人所得税・税制優遇措置合理化法(Corporate Income Tax and Incentives Rationalisation Act)と呼ばれたが、パンデミックの発生を受けて後に、企業復興税制優遇法〔Corporate Recovery and Tax Incentives for Enterprises (CREATE) 〕として広く知られる財政刺激・経済復興パッケージに変更された。CREATE法には、法人所得税と税制優遇措置という2つの重要な要素が含まれる。 法人所得税率は、従来の一律30%から標準税率25%、軽減税率20%に引き下げられた。25%の税率は、すべての法人納税者――内国法人、居住外国法人、非居住外国法人――に適用され、課税所得500万フィリピンペソ(9万ドル)以下かつ総資産(納税者の事務所、工場および機器が置かれた土地は除く)1億ペソ以下の法人は、特定の課税年度について20%の税率を適用できる。 零細・中小企業を救済するために、法人所得税率を20%に引き下げる案が導入された。だが、この税率が適用されるのは国内法人のみで、居住外国法人(外国企業のフィリピン支店)と非居住外国法人は対象外である。従って所得税の視点に立つと、フィリピンでの事業によって高い収入が得られる見込みがない場合、支店より内国法人を設立する方がよいだろう。 以前は、フィリピンの税制優遇措置は数多くの法律によって規定され、投資促進機関(IPA)という名称の様々な政府機関が、各投資家に適用する優遇措置を決定する権限を持っていた。だがIPAによって方針が異なる結果として、優遇措置の内容にばらつきが生じていたため、この制度は混乱が生じていた。投資家は、自分の事業に適切な優遇措置を付与してくれるIPOを探し回る必要があったのだ。 CREATE法は、税法(Tax Code)に税制優遇規則を盛り込み、税制優遇措置を決定・付与する主な権限を財政優遇措置審査委員会に与えることで、フィリピンの税制優遇制度を変更した。つまり、IPAの違いによって優遇措置に差が出ることがなくなった。新制度では、登録企業が税制優遇措置を受けられる年数も制限されている。 輸出企業と国内市場向け企業は、立地と業種の優先度に応じて、4~7年の所得税免除を含む様々な税制優遇措置を利用できる。免除期間終了後は10年間にわたり、5%の特別優遇法人所得税率または追加控除のいずれかを選択できる。 資本設備、原材料、予備部品、付属品にかかる関税も、輸出企業は最長17年、国内市場向け企業は最長12年間免除される。輸出企業は、輸入にかかる付加価値税免除、国内調達にかかる付加価値税0%の優遇措置も17年間受けられる。 投資への影響 フィリピンに設立した事業体への課税とは別に、フィリピンへの投資から得た収益への課税も考慮しなければならない。 債券への投資収益に対する税金に関しては、非居住外国法人がフィリピンへの投資で得た利子所得には20%の所得税がかかり、最終源泉税制度を通じて徴収される。 フィリピンで取引や事業に従事しない外国人が、内国法人株式への投資によって得た配当には25%の税金がかかり、これも最終源泉税制度を通じて徴収される。非居住外国法人の場合、配当の最終源泉税率は以前は30%であったが、CREATE法で法人所得税が25%に引き下げられたことを受けて、配当の最終源泉税率も同じく25%に引き下げられた。これは、フィリピンに支店を設立した場合に適用される支店利益送金税15%より高い税率である。株式処分には15%のキャピタルゲイン税が適用され、これは株式売却による正味キャピタルゲインに対して課される。 政府が続ける税制改革プログラムのひとつは、金融部門への課税をより簡潔で公平、効率的な課税制度に変更することによる、資本所得・金融サービスの課税改革である。これには、キャピタルゲイン、配当所得、利子所得の課税改革が含まれる。 この法案の目的のひとつは税率の調和であるため、投資家が誰であっても、投資商品の性格を問わず同じ税率が適用されることになるだろう。利子と配当の税率は、法案では15%に設定されており、外国人や外国企業だけでなく、フィリピン国内で得られた利子や配当にもこの税率が適用されるだろう。 この法律が可決されれば、税制優遇措置のみを投資決定の根拠にする慣行が減るだろう。また同法の制定により、フィリピンの投資に対する課税制度は、近隣諸国に劣らぬものになるだろう。 Du-Baladad & Associates 20/F,...
foreign companies investing in Philippines

フィリピンに投資する外国企業の戦略

By Sylvette Tankiang、Franchette AcostaとMaria Carla Mapalo、Villaraza & Angangco(マニラ)
フィリピンは今年、パンデミックの影響からゆっくりと着実な回復を続けるなか、停滞した経済の活性化を正面から目指す重要な法制・規制改革に支えられつつ、経済活動を拡大してきた。これらの措置は、海外投資家の資本と技術の誘致を目的としたもので、緩和された規制環境のなかでフィリピンへの外国直接投資(FDI)を拡大する準備が整えられている。 再生可能エネルギー 2022年12月8日に発効したエネルギー省(DOE)の回状第 2022-11-0034 号により、フィリピンにおける再生可能エネルギーの探査・開発・利用事業への外資の参入に関する一定の制限が撤廃された。この回状が発効する前は、フィリピン国籍を有する者またはフィリピン国籍保持者が60%以上を所有する企業しか、再生可能エネルギーのサービス契約や事業運営契約を締結できなかった。DOEの回状は、太陽光や風力などの一部の再生可能エネルギー部門で100%外国資本による出資を認めている。 だが水力発電は今も国籍による制限があり、土地所有権など事業の一部の面では、外国人による所有が今も制限されている。とはいえ、事業に影響するそれ以外の国籍制限は、適切な事業構成をとることで解決できる。 この法改正は、電源ミックスに占める再生可能エネルギーの比率を2030年までに35%、2040年までに50%にするという、フィリピンの意欲的な目標の達成を促す歓迎すべき展開である。こうした資本集約的な事業の着工前から運転開始に必要となる膨大な時間を考慮して、フィリピンは再生可能エネルギーへの多額の投資流入に期待しており、同国が持続可能なクリーンエネルギーを基盤とした未来を築くには、こうした投資が不可欠だと判明するだろう。 注目すべき点として、先日実施された税制改革である企業復興税制優遇法〔Corporate Recovery and Tax Incentives for Enterprise Act (CREATE Act)〕は、適格企業に期間限定で一律的な優遇措置を付与するものだが、同法に基づく既存の優遇措置の合理化(廃止)は、再生可能エネルギー部門の税務上・非税務上の優遇措置には適用されない。そのため、再生可能エネルギー開発企業には、再生可能エネルギー法の下で、法人所得税を7年間免除し、免除期間終了後は法人所得税率を10%とするなど、従来通りの優遇措置が保証される。 公共サービスの自由化 フィリピン政府は共和国法第11659号(Republic Act No. 11659)の可決により、86年続いた公共サービス法〔Public Service Act (PSA)〕に基づく外国資本に対する厳しい制限を2022年4月9日から緩和した。PSA改正は、従来、憲法が定める公共事業への制限の対象とされてきた特定の業種または活動に対する国籍要件を緩和するものである。 フィリピン憲法は特に、公共事業の所有と運営を、フィリピン国民および資本の60%以上をフィリピン国民が所有する企業に制限している。しかし、改正PSAの発効に伴い、現在は以下の事業のみが公共事業とされる。 電力流通 送電 石油・石油製品パイプライン輸送システム 上水道パイプライン配水システム、下水道パイプラインシステムを含む廃水パイプラインシステム 海港 公共事業用車両 従って、他のすべての公共事業は、憲法に基づきこれまで適用された外国資本40%の制限が廃止された。公共事業への出資制限が自由化された業種には、以下が含まれる。 空港 鉄道・地下鉄 通信 物流・貨物輸送 海運業 航空輸送 高速道路・有料道路 輸送ネットワーク企業 ただし、重要インフラとみなされる企業には今も外国資本の制限が適用される。重要インフラとは、政府にとって極めて重要なシステムと資産を所有または運用し、その機能不全や破壊が国家の安全保障に有害な影響を及ぼす公共サービスを指す。 通信は明確に重要インフラと分類され、改正PSAは、対象国が外国法、条約または国際協定の規定による相互主義をフィリピンに認めていない限り、外国人が重要インフラの運用・管理に関わる事業体の資本の50%以上を所有できないと定めている。従って、相互主義が確立されていない場合、重要インフラとされる企業には、国籍による制限が引き続き適用される。 障壁の軽減 議会は先日、共和国法第11595号(RA No. 11595)を可決した。この法律は、小売自由化法〔Retail...

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